TS転生幼女、精霊の大地にて躍進す 作:まほさん
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『精霊の贈り物』
フリーシナリオを採用しているアクションRPGだ。剣と魔法の中世ファンタジー的世界観だが、かつて存在していた機械文明により、飛空挺やロボットなどの科学技術も出てくる。
このゲームはプレイヤーの分身となる主人公のキャラメイクから始まる。
性別、種族、体格、容姿、
性別と容姿をのぞき、他の項目は初期値とレベルアップのステータス上昇数値に関わってくる。
ゲームでのグラフィックと性能を決める要素において、雷は回復と支援系の魔法職の少女を作った。身長の数値を最小にしたから、幼いといっていい外観だった。
画面の中にいる子をずっと見ているのならば、どうせなら可愛い女の子がいいなど浮ついたことを思ってキャラメイクしたわけではない。苦手なアクション部分を少しでも楽にするために、結果的にそうなったのだ。
まずは性別。初期から入手できる強い装備品の中に、女性限定で装備できるものがあったため、女性を選択。
次に種族だ。
人間をはじめとするファンタジーではよくある獣人、竜人、
種族は見た目の土台を決めるだけでなく、主人公の能力値の成長値に関わってくる。
例えば
このゲームは人間は外れ種族で、能力値の合計初期値と成長値が一番低いという情報がネットに上がっていた。よって雷は人間を真っ先に除外した。
考えた結果、ティタン神族を選択する。
体格に関して、雷は悩んだ。体高が低いほど当たり判定が小さくなり攻撃をくらいにくいという。しかし、いいことばかりではない。体格が小さいほど物理攻撃および防御の能力値の成長値は低くなる。少し考えたのち、攻撃が当たらなければ防御が低くても問題ない、魔力が高いのだから物理攻撃もさしていらないだろうと判断した。
それにティタン神族の成長値ならば、体格による成長値が影響したところで、目が当てられないほど低くなるわけでない。付け加えて、後ほどに決めるジョブ構成や、ゲーム内の様々な行動で獲得できる
設定できる最小値にまで減らした。数値にして身長120センチメートル。小学一年生ほどの大きさだった。
容姿にこだわりはないので、デフォルトのまま飛ばした。
ティタン神族の特徴だという艶の部分が緑がかった黒い髪に、蒼い瞳。性別が女性なので、髪は長い。エルフのように耳が長く尖っているとか、獣人のように獣耳や尾があるとか、そういう特徴はなく、人間と変わらない見た目だ。
次にジョブだ。
ゲーム開始時から、二つの職業を選択できる。これによってキャラクターのおおまかな方向性が決まると言っていいだろう。
選んだ職業に対応するスキルを習得できる。
技能にはレベルがあるものと、そうでないものの二種類がある。
ジョブを選ぶと、対応スキルがレベル5まで上がった状態で取得できる。
雷は考えた結果、
取得したスキルは〈神聖魔法Lv5〉〈棒術Lv5〉〈刻印魔法Lv5〉〈守りの心得〉の四つだ。
趣味は食べ歩き。
ストーリーではフレーバーテキスト程度の要素だが、初期値とレベルアップ時に体力が加算される。
最後は特技。特技に選んだスキルのスキルアップが早くなり、かつ技能の効果もあがる。レベルアップ時にも、物理攻撃系の特技であれば力が、魔法系の特技であれば魔力が、生産系であれば器用さが上がりやすくなる。
雷は特技を〈神聖魔法〉にした。回復魔法の効果の上昇は、ゲーム下手にとって序盤から終盤までありがたい要素だと思ったからだ。
そういった理由で作り上げた、少女のキャラクター。
特に愛着はない。それどころか、ゲームに誘ってきた友人や、同じゲームをで遊んでいた会社の友人と協力プレイしたときに「なんでロリなんだ。ロリコンなの?」と語尾に括弧付きの笑いという文字でもついていそうな震えた声で言われて、いろいろと後悔していた。
高い確率で、雷はこの姿になっている。
その結論にいたった雷は咄嗟に股間を手を伸ばし確認する。あるべきものがそこにはなかった。
「うぇええええ!?」
雷が見知らぬ場所で目覚めてから、この瞬間最も気が動転した。
6
緊張感と恐怖を打ち破るほどの喪失感に、雷は項垂れていた。
糸を引っ張るようにきつく張り詰めていた体の力は抜けたが、抜けすぎて酷い脱力感に苛まれている。
「夢、夢、夢、これは夢……」
思い詰めた眼差しは、暗く淀んでいる。
熱病のように独り言を繰り返し、尋常ではないほど落ち込んだ。
この喪失感を乗り越えるには、先ほどとは別の種類の気力を要した。
雷はこめかみを抑え、深く息を吐く。
幾度も深呼吸を繰り返し、少しだけうつろな瞳でようやく顔をあげた。
袋の中にあった最後の物の確認だ。
ポケットサイズの手帳のような黒い本を手に取る。表紙は革の装丁で立派だが、中身はぺらぺらしていて、とても薄い。
表紙をめくると、例の如く初めて見る文字なのに理解ができる文字があった。
書かれていたのは既視感のある項目と、数値だ。
(ゲームのステータスだ)
雷は瞬時に理解した。
雷礼央 種族Lv0【
記憶の中にあるゲームキャラと違うのは、レベルが全てリセットされていることだ。
『精霊の贈り物』はレベルに関して癖のあるシステムになっていて、レベル1から始まるのではなく、0から開始する。
そして複数就くことが可能なジョブレベルの合計値がそのキャラクターのレベルとなる。
正しくは種族レベルといい、種族レベルが上がると種族固有の
ゲーム開始直後は職業の複数所持の要素を全て解放していないが、ゲームをすすめるごとに増えていき、最終的に5個までの職業を取得可能だ。
雷は職業5個、全てに就くまでキャラを育てていたが、明らかに初期状態に戻っていた。
(ジョブが初期の2個だけになってやがる。最大まで解放してたんだけどな。ま、それを言ったら、装備だってもっと強くなって、所持金ももっと持ってる状態だったんだけどさ)
他の項目を眺める。
魔力と魔法防御が高く、敏捷と精神と器用さが普通、攻撃力と防御力と体力がすこし低め。
詳しく覚えていないが、初期はこの程度の数値だった気がする。
ひとつ、気になった。生命力を示すHPや魔法などの技を使用するためのMPと、体力を示すSPの項目がないのだ。
怪我をしたとしても、肉体の損傷具合は、ゲームとは違って数値では表せないということなのだろうか。ゲームの表現で、死ぬ寸前の残りHP1で動きまわれるのは、一体何故だと議論に取り沙汰されることがある。得てして「作り物だから」の一言で解決できる事態だが、もしも「作り物ではなくなったとしたら」、仮にHP1のような状態になったとき、はたして雷は動き回れるのだろうか。
(考えたところで、無駄なのだよな。……なにせ、ここは夢の世界なんだから。そうだよな?)
『ゲームの世界に似た血肉の通った世界』にいるわけでもないのだ。考える必要なんて、ない。
雷はこれは益体もない推測だと、自らが陥るかもしれない事態の可能性の提示を頭の中からぬぐい捨てた。
ともかく、この手帳の中には、そういった疑問点に答えをくれるような具体化した数は存在しない。
HPがゼロのとき果たして本当に動けるのか? という謎は、身をもって解決することはできないらしい。
仮に、それが可能であっても答えがわかってしまうような――それこそ腹部に貫通する大きな孔が開くような――目にあいたくはない。
魔力の使用量も明文化できるものではなく、体力もそれに同じ。数字なんかに頼らず、個人の感覚に頼れということか。
この不親切さ、実に夢らしいではないか。
雷は強がりで鼻をならしてみせた。
不明瞭でうやむやで、無茶苦茶で理路整然としない事象が起こっている。まさしく、これこそが、疑いもなく、夢だ。
やけに強調しながら、雷は自分の考えを補強する。
不安と願望と気づきたくない真実への恐怖心とのあやうい均衡を保ちながら、雷はゆっくりと自分と周囲を把握していく。
本当は頭の片隅で、気づいていたのだ。認めたくなくて、目を逸らしているだけ。
ここは、夢の中じゃない。
雷礼央は死んだ。
7
雷はページをめくる。
そこには所有スキルと、種族、ジョブ、スキルなどのレベルをあげることで習得する
〈神聖魔法〉は《
〈
雷が選んだ〈守りの心得〉は、スキルレベルがない技能なため、そこから派生する戦技や魔法はない。
そのスキルを所持しているだけで、個人と仲間の防御力をあげるだけだ。ただ、その防御力を上昇させる効果は種族レベルが高いほど、性能がよくなっていたはずだ。
初期設定直後のキャラクターの性能など、このようなものだろう。他に目を通すべきところは見当たらない。
ざっと目を通した内容に、不満と不安をないまぜにした顔になる。
頼りない、それが正直な感想だった。
(どうせ、夢なんだから残念がる必要なんてない)
雷の中にある頑迷で冷静ぶった部分が、落ち込むなんて馬鹿らしいと強がっている。
強い言葉で笑い捨てているその裏側で、心許ないと震えている自分がいる。
こんな小さな体で、ゲームの中に現れるような魔物と出会ってしまったらどうすればいいのだろうか。
こころの底からわき上がる畏れに、安堵をもたらしくてくれるものを、雷はもっていない。
ため息をつき、手帳のような本を閉じて、袋にしまう。
雷は改めて森の中を見渡した。
このままじっとしても、埒が明かない。
妙に湿気った空気は、息苦しいまでの不穏さを孕んでいるように感じた。
自分以外の命の息吹を感じられはするが、それらはけっして雷を歓迎していない。
枝木から飛び立つ鳥の羽ばたきに、ぎりぎりと硬いものをすり合わせるような獣の鳴き声が、否応がなしに雷の不安をかきたてる。
夢の外側に、出なければならない。
(この森に、ずっといるべきじゃない)
ここはずっと居たいようなところではなかった。
さいわいにも、履いている靴は山歩きができそうなくらいに頑丈に見えた。
どこに向かえば森の終わりに行き着くのはわからないが、歩きださなければ出口にはたどりつかない。
迎えなんて、きっとこない。
だから、雷はひとりで歩きださなければならないのだ。