すわのたわむれ   作:翔々

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 予想外の反響に驚きと喜びがたまりません。やっぱりみんな、こういうのを求めてたんやなって……! 私も読みたいんでみんなもっとFGOと東方のクロスを書くべきそうすべき。そしてごめんなさい、さすがにこれだけ感想返すのはしんどいので、全てに目を通すのでどうか返信はお許しください。続きを書いたから許して諏訪子様。

 ※質問等が多かったので、前回の人物設定にて藤丸立香の南極行きのくだりと八雲紫の状況について触れました。ゆかりんはともかく、ぐだ男がもっとアカンことになっている……!



神の祝福/呪いが実るとき

 瘴気と煙に包まれた町を駆ける。かつては栄えていただろう都市に人の気配はなく、建ち並ぶコンクリートの建物はいたるところが破壊され、骨だけで形成された怪物が―――スケルトンとでもいうのか―――抜け道を塞ぐように群れを成している。それらの手には武骨な剣や槍が握られ、中には弓まで構えた個体までいた。

 

(マシュ達と合流するまで、逃げ続けるしかない!)

 

 藤丸立香は最悪の状況に追い込まれつつあった。彼には戦うための手段がない。つい先日まで平穏な日常を送っていた現代日本の高校生である少年には、命をかけて殺し合う覚悟もなければ技術もなかった。そんな彼を守るために大盾を手にした少女マシュ・キリエライトとは戦闘中に分断され、ろくに土地勘もない町を必死の思いで駆けている。

 

 スケルトン達のいない道を探しては逃げ込むこと、七回。

 

(罠だ)

 

 荒事の経験のない立香にも理解できた。あの怪物達は計算づくで配置されている。戦うすべを持たない自分に対して、ここまで周到に罠を張る必要はない。マシュや所長から完全に切り離すためのトラップなのだ。自分を町のいたるところに置かれた人型のオブジェ、苦悶を浮かべて石化した人々の一員に作り替えるために。

 

 敵の狙いがわかっていても、他に取れる選択肢がない。引き返そうにも、背後からは道を塞いでいたスケルトン達が密集して迫ってくる。やはり偶然ではないのだ。連中は、明確な意図でもって動いている。おそらくは、あの鎌を持った女のもとに。

 

 終わりはあっけなく訪れた。ぐるぐると走らされた終点は、ビル群の中心に作られた広場。何の遮蔽物もない、隠れるスペースを潰された空間に、とうとう獲物が追い込まれたのだ。酸素を求めて息を吐きながら、それでもと周囲を見回す少年の頭上から、ゾッとするほどに冷たい女の声が響く。

 

「自分がまだ死なないとでも思っているのですか」

 

 地面から幾条もの鎖が生える。足元に意識が向いたと同時に、二階の窓からも鎖が飛来した。逃げる時間も与えられずに四肢を拘束され、宙に拘束される。万力に締め付けられたような激痛が全身に襲いかかり、たまらず声を洩らした。

 

「うあっ……!」

「助けを求めても無駄ですよ。あなたの盾には、圧倒的に経験が足りない。そばにいた銀髪の少女も、人間にしては上出来ですが、現状を打破するには到底及びません。故に、あなたは私の糧になる他ない」

 

 斬りつけた傷が治らない呪いの付与された鎌、ハルペーの切っ先を首筋に当てられる。生身の人間がそんな代物に皮膚一枚でも斬られればどうなってしまうのか、立香にも想像できた。思わず硬直した少年の顔を、蛇の這うような音とともに女の手が掴み上げる。

 

 縦に裂けた両瞳が妖しい光を放った。

 

 太陽を直視したような眩しさが全身に襲いかかる。強烈なショックで一瞬、全身がピクリと硬直した。

 

 だが、それだけだった。

 

「……レジストされた? なぜ? ただの人間が、石化の魔眼から逃れるすべはないのに」

 

 驚きよりも困惑に近い表情を浮かべた女が、立香の顔から手を離した。宙吊りにされた全身の頭から爪先までくまなく凝視する。やがてその目が懐に留まり、面白いものを見つけたとばかりに細められた。

 

 女の腕が真一文字に奔る。上着の布地とともに、立香の所持品が奪われ、眼前に突き付けられた。

 

「それはっ……!」

「アミュレットですか。あなたのような子供が持つにしては、似つかわしくないほどの力が込もっている。なるほど、これだけの霊力なら二、三度は無効化できるでしょう」

 

 もう二度と会えない幼馴染からの贈り物が、自分を石化から守ってくれたという。喜びよりも先に、怒りが上回った。

 

「返せ! それを、返してくれ!!」

 

 激昂する獲物の変化に嗜虐心をそそられた女が、口元をひきつらせてせせら笑う。

 

「そんなに大切なものを、どうして簡単に奪われるのです? 大事にしまっておけばよかったのに。だからこうなるのです」

「やめろ―――――!」

 

 宙に投げられた守り袋めがけて、鎌剣ハルペーが一閃される。ぱちん、と何かが弾け飛ぶ音とともに袋が四散し、中に納まっていた和紙がひらひらと風にそよいで地面に墜ちた。少年の絶望をより深く、大きなものにしてやるとばかりに踏みにじられる。

 

「次はもう、防げませんね?」

 

 恐るべき鎌の切っ先を再び突きつけながら、女が笑った。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 めわらべのさえずるうたがきこえる。

 

 

 

   ◇◇◇

 

 

 

 ――――かみのこをはらむには ちよのたからのほしさよ

 

 

 

 風が止んだ。台風の目が訪れたように、どの方角からも風が吹くことはない。周囲の建物から立ち上っていた黒煙は、広場を避けるように姿を消した。

 

 わずかに警戒をみせた女の眉がひくりと寄せられる。

 

 

 

 ――――かみのこをはらむには かみのたからのほしさよ

 

 

 

 ハルペーを握る女の腕が、肩口から吹き飛んだ。外側から斬られたのではない。内側から切り離されたような無造作で、柄を握ったままの腕が音を立てて落下した。

 

 鎌の転がっていく様を、女は無表情に見つめていた。自分に何が起こったのか理解できない。いつ、どこから攻撃されたのかもわからない。何の前兆も無かった。このエリア一帯に侵入した新手もない。なら、この破損の原因は何か?

 

 

 

 ――――かみのこ  を はらむ に は 

 

 

 

 聞こえる。

 声が聞こえる。

 神代より連綿と続けられてきた、神にささげる詞の断片が聞こえる。

 

 それが己の胎から響く呪いだと、歪み切った霊核に浸食された瞬間に女は理解した。

 

「ありえない! この戦場に、私の魂を喰らえるものなんて、いるはずが――――!」

 

 

 

 サーヴァント・ランサーとして召喚されたギリシャ神話のメドゥーサには、致命的な誤算と不運があった。

 

 己が獲物とした少年には、戦うための手段がない。マシュ・キリエライトと分断した上で非力なマスターを捕食する作戦自体は正しかった。より深い絶望を味わわせることで加虐を愉しむなどという遊びに走りさえしなければ、拘束した時点で首を落としてさえいれば、彼女は間違いなく勝利していた。

 

 誤算はふたつ。これまでの人生で少年が結んだ縁は、レイシフトで移った先においてなお、少年を見守っていたこと。もう一つは、メドゥーサとの相性であり、最大の不運をもたらすきっかけであった。

 

 ギリシャ神話におけるメドゥーサは、女神アテナの加護を受ける勇者ペルセウスに退治された()()『ゴルゴーン』の側面を持っている。英雄や勇者といった英霊ではなく、彼らに退治される側の()()()に近い存在である。また、己の肉体からペガサスを始めとする多くの怪物を産み落としたことから、()()()としての面も有していた。

 

 それらすべての要素が重なることで、神秘の“同期”を可能にする。

 

 

 

(誰だ!? 誰が私を喰らっている!? 神秘などとうに薄れ切った現代で、私を取り込めるような存在などいるはずがない!! ましてや極東の島国に―――!!)

『これは驚いた。まさか、異国の同輩と会えるなんてね』

 

 霊核を半ばまで奪われたところで、メドゥーサの脳内に少女の声が届いた。存在を知覚すると同時に、声の持ち主の情報が怒涛のように襲いかかる。もはや一体化する寸前まで同化したという証明だった。

 

 現実のものではない、心象に映し出された原風景。獣の皮をまとった狩人達が三十の鹿の首をささげ、麻布に袖を通した村人達が感謝の念をもって祈り、あるいは踊り狂う中を、大陸伝来の絹装束に穢れひとつまとわせずに清めた神官達が荘厳なる祝詞をうたいあげる。

 

 純粋無垢な信仰を一身に受ける存在は、彼らの誰よりも小さな身でありながら、あらゆる者をひれ伏させる覇気に満ちていた。

 

『ええと、希臘(ギリシャ)の人? 私より古いとは思うけど、召喚されてからは短いよね? つまりは現役の私の方が先輩にあたるわけだ』

(神霊……! 馬鹿な、文明にまみれた中で、何故とどまっていられる!?)

『間に合ったのさ、紙一重だったけどね。おかげでせっかくの神使候補を守ることができる』

 

 変わっていく。分子構成が最適化され、その過程ではじき出された不純な要素が血煙とともに排出される。骨が、内臓が、肉が、あらゆるパーツが内側に巣食った存在の求めに引きずられていく。全身が癌細胞に侵されたような激痛。

 

 だが、不思議と澄んでいく感覚もあった。

 

(――――祟り神の加護、か)

 

 冬木の地に召喚され、いつしか自身の肉体を蝕んでいた毒。魔素のすべてを犯し尽くしていたはずの成分が、血とともに浄化されていく。常人なら発狂しかねない痛みと引き換えではあったが、意識が鮮明になっていくのをメドゥーサは実感した。

 

 その痛みも消えた頃、かわりにやってきたのは、久しく感じていなかったまどろみの誘惑だった。

 

『せめて安らかに眠るといい、異国の輩よ。次に会った時は、この子をよろしくね』

(……勝手なことをいいますね、あなた)

 

 肉体どころか魂レベルまで奪っておきながらの申し出に、メドゥーサは呆れ果ててしまう。だが、悪い話ではなかった。自分に追われながらも最後まであきらめずに活路を探す少年は、経験不足であることを差し引いても、マスターとして申し分ない。プライドの高い未熟者だの、悪の権化のような存在だのに使いつぶされるよりかは上等だろう。

 

 もはや指一本も動かない。光の失せた瞳を閉じる前、メドゥーサの脳裏に浮かんだのは、いたずらな笑顔を浮かべるふたりの姉の姿だった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 鎖が消失した。

 

 宙吊りになっていた肉体が、重力によって落下する。驚きと疲労に包まれた身体は、反応する間もなく尻餅をついてしまう。いまの自分はおそらく、ぽかんと口を開けてるんだろうな、と立香は思った。

 

 鎌剣の女はどこにもいない。目の前にいるのは、似ても似つかない少女。どことなく蛙を想起させる帽子から金色の髪をなびかせた、女童のように小柄な肢体の持ち主が、精一杯に胸を張って立香のそばにやって来る。

 

「ね、ご利益があったでしょ?」

「君は……もしかして、東風谷さんの」

「大正解!」

 

 嬉しそうに笑いながら、少女が立香へと手を差し伸べる。少年がその手を取ったとき、腹にぺたり、と何かが触れる気がした。

 

「洩矢諏訪子、アーチャーのサーヴァントだよ。あの子の願いをかなえるために、君の力になってあげる。

 ――――祟られないように、注意してね?」

 

 神の祝福(のろい)は、ここに成された。

 




「相手がメドゥーサさんだからできた。相性ゲーって怖いね」(談:諏訪子様)

セイバー・オルタ:龍核がチート過ぎて浸食できずに燃え尽きる
アーチャー・エミヤ:警戒心が強すぎて浸食の隙がない
ランサー・弁慶:宝具で消滅する可能性あり
ライダー・ダレイオス三世:話が通じない。物量で潰される
キャスター・兄貴:敵だったとしてもプロトの獣特攻が刺さって勝てない
アサシン・ハサン:そもそも近づいてこない
バーサーカー・ヘラクレス:三世以上に話が通じない。一撃で潰される


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