蒼き鋼と鋼鉄のアルペジオ Cadenza   作:観測者と語り部

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航海日記29 ウォッチタワー大作戦

 南洋諸島方面から押されていた霧の艦隊だったが、引き直される防御ラインがついに押しとどまり、逆に反撃の様子を見せ始めた。

 

 その急すぎる展開に、快進撃を続けていた異邦艦隊は、出鼻を挫かれ勢いを無くした。

 それどころか圧倒的な火力を前に、為す術もなく海の藻屑と化していく。

 

 水平線の彼方から急に、紋章光(イデア・クレスト)を発光させた艦隊が姿を現したのだ。

 その色取り取りの輝きは虹のようであり、煌めく光の帯は、異邦艦隊を原子レベルでバラバラにする攻撃だった。

 

「ふははは、異邦艦め。怖かろう?」

 

 16インチ・マーク6型砲に酷似した三連装主砲塔から、荷電粒子砲をぶっ放し、艦橋の上で高笑いを挙げている躯体(メンタルモデル)。彼女の名はサウスダコタと言い、米戦艦サウスダコタ級四姉妹のネームシップでもあった。

 

 日本戦艦と比べるとスマートな艦橋だが、感じる威圧感は大戦艦だけあって半端ではない。

 

 タンカーなどを除けば圧倒的に巨大な船体が、太平洋の荒波を物ともせずに突っ込んでくるのだ。しかも、三連装主砲から順次発射されるビームのオマケつき。向かってこられる方としては堪まったものではないだろう。

 

「サウスダコタの後ろからこんにちわ!! 死ねぇぇぇ!!!!」

「あらあら、まあまあ。ワシントンったら、はしゃいじゃって。それほど楽しい戦いなのね」

 

 しかも、後方からは似た姿を持ち、さらに大きな船が二隻も続いてくる。同じ三連装主砲を前部に二つ持ち、一番砲塔と二番砲塔から色違いのビームを照射してくるのだ。

 

 時折、変形し、装填音が響いたかと思えばビッグな主砲弾が火を噴いて吐き出され、続く形で幾つものミサイルが甲板から尾を引き飛んでいく。そして、射線上に存在する艦船を跡形もなく吹っ飛ばしていった。

 

 艦橋の造形こそ違えど、甲板上の武装。特に主砲塔あたりが、サウスダコタ級と非常に良く似ている大戦艦。名をワシントンと言い、ノースカロライナ級の二番艦である。

 

 それに続いているのは、ノースカロライナのネームシップ。戦艦ノースカロライナ。

 

 サウスダコタ級の前級であり、短縮されていない船体はサウスダコタに比べて大きく、艦橋の作りも大型である。しかし、防御を重視したサウスダコタ級に比べて、凌波性はよく機動力ではノースカロライナ級のほうが上回る。

 

 故に集中防御式で、重要防御区画(バイタルパート)の強制波動装甲が分厚いサウスダコタ級が前面に突出し、強力なクラインフィールドを展開して後方から続く艦隊を防御。少しだけ機動力に優れたノースカロライナ級が、サウスダコタ級の援護に回る形で布陣し、突進する。

 

「サウスダコタ姉さん! 前に出すぎだよ! もっと慎重に……」

 

 そんな先頭を行く大戦艦サウスダコタに必死に声を掛けるのは、同じサウスダコタ級戦艦の二番艦インディアナであり、斜め後方から続く形でネームシップである姉を追いかけていた。

 

「うむ! 案ずるなインディアナよ! 突撃しつつ、機動防御を展開し、臨機応変に対応すれば問題ない」

「つまり近づいて殴れって事ですね。さっすが、サウスダコタ。話が分かりやすい!」

「違います! 貴女達がやってるのは単なる突撃です! 戦術のせの字もないんですっ!!!」

「うふふ、みんな、楽しそうね~~」

 

 そんな事をのたまうサウスダコタに、ワシントンが悪乗りして、インディアナが突っ込む。

 ノースカロライナは微笑ましそうに三隻を見守っていた。

 

「そして、なんだかんだで付き合ってくれるインディアナであった」

「ワシントンっ!!」

「ほらほら、17年前よりも歯ごたえのある戦争でしょ。素直に楽しまないと禿るぞ?」

「私はハゲてませんよっ!?」

 

 すんげぇ楽しそうな笑顔を浮かべて、親指を立てながら煽ってくるワシントンに、インディアナは躯体(メンタルモデル)の胃のあたりを押さえるしかなかった。何故だか知らないが、体調を崩さないはずの身体は、何度も胃のあたりを痛めている。

 

 これがストレスか。と人類のネットワークから己の症状を判断するインディアナ。彼女の表情は既に苦悶に満ちていて、目の下には隈ができそうである。姉から美人が台無しだと言われそうですらあった。

 

「はっはっはっ。美人が台無しだな。インディアナ」

「誰のせいですかっ!! 誰のっ!!」

 

 訂正。既に言われていた。

 

「そう怒るな。私のように笑っていろ。総旗艦アイオワが、常に笑っているべきだと言っていたではないか。なぁ?」

「違いますから。そういう意味じゃありませんから……」

 

 サウスダコタの語った言葉の意味は、指揮官たる者、常に微笑んで、如何なる時も部下に動揺は見せないようにするべき。そんな意味を込めてアイオワが語った言葉だ。姉のように何も考えずに、不敵に笑い続けるのとは意味が全く違う。

 

 サウスダコタ姉さんのバカ。悪乗りして場を悪化させるワシントンのアホ。ノースカロライナの能天気。いつも場を取り繕う、私の身にもなれ。

 

 そんな言葉がインディアナの脳裏に閃いては消えていく。

 

 戦闘が始まったばかりだというのに、既に彼女の精神的疲労は限界を超えそうだった。

 

「さあ、オーストラリア方面を守っていた豪州艦隊の諸君。総旗艦アイオワの命により、我々が来たからには、もう安心。共に敵艦隊を捻り潰すのだ。ふはははは!!」

「もう、好きにしてください」

「うむ。そう言いながらも最後まで付き合ってくれるインディアナが大好きだぞ」

 

 そして、急にそんな事を言ってくるものだから、インディアナの感情シミュレーターが熱暴走を起こすのも無理はない。何故だか知らないが、躯体(メンタルモデル)の表情は、真っ赤になってしまい。頬やコアのあたりが熱かった。この感情の揺らぎを、インディアナは知らない。

 

「……サウスダコタ姉さんのバカ」

「インディアナよ。何か言ったか?」

「何でもないっ!」

 

 そうして笑いながら眼前の敵艦隊を粉砕する大戦艦二隻。何だかんだで後に続く大戦艦一隻。微笑ましそうに見守りつつ、後方からカバーする大戦艦一隻。計四隻による集中砲火。火力投射を正面から受ける異邦艦隊は既に瓦解寸前である。

 

 戦艦だろうが、空母だろうが、大型艦は集中砲火を受けて、為すすべもなく沈み。重巡洋艦以下の艦船は続く攻撃で爆沈。駆逐艦に至ってはミサイルの雨で、片手間に轟沈していく。潜んでいた潜水艦は、降り注ぐ対潜弾と魚雷の嵐で、発射管を開く間もなく真っ二つだ。

 

 何せ大戦艦だけではなく、その後方から無数の艦隊が続いている。大戦艦よりも威力は劣るが、連射性の高い主砲の照射。或いは光弾の連射。

 

 上空に向けて尾を引きながら発射されるミサイル。近距離の敵を葬る、射出された連装魚雷と艦首魚雷。

 

 戦艦の擁護を受けた重巡洋艦の援護。広範囲をカバーする軽巡洋艦率いる水雷戦隊。彼女らに守られる強襲海域制圧艦。その全てが、大戦艦たちに続いていく。

 

 光が南太平洋の海を染め上げ、時に発生する爆発や侵蝕弾頭の光が海を割る。

 その度に、敵艦隊が金属の悲鳴を上げながら轟沈していった。

 

 これこそが大戦艦アイオワの派遣する太平洋艦隊の援軍。

 後退する豪州方面艦隊と合流し、瞬く間に他を圧倒する大艦隊となった派遣艦隊は、その勢いを持って異邦艦隊に対し、苛烈な逆襲を開始した。

 

 パプアニューギニア周辺を掌握し、ソロモン海と珊瑚海に展開し、ソロモン諸島に飛行場まで建設しようとしていた異邦艦隊にとって、フィジーサモア方面から進撃してくる大艦隊は予想外であった。

 

 何せハワイ方面から新大陸と極東方面に潜水艦で圧力をかけ、北極海からも同時攻撃を仕掛けている。全方位に広がる戦場は敵艦隊を分散させ、防備にあたる艦隊を釘づけにして、各方面で孤立させるはずだった。

 

 それが、こんなにも早く戦力を再編し、大規模な攻勢に出て来ている。各方面に超兵器による攻撃だって加えているのだ。そんな状況で防御を手薄にして、反攻に転じてくるなど、誰が予測できるというのだろう。下手すれば本拠にしている海域が陥落することもあり得るのに。

 

 しかも、攻勢はフィジーサモア方面からだけではない。

 

 封鎖しているマラッカ海峡を迂回して、オーストラリア大陸とインドネシアの間にあるティモール海から、欧州英国艦隊および欧州仏国艦隊率いるの東洋連合艦隊も大反抗に転じている。

 

 さらに、オーストラリアから、ちょうど北部に位置する極東方面艦隊。通称、霧の東洋方面艦隊が南シナ海を抑えるように展開し、一部の大規模な艦隊はフィリピンから、アラフラ海とパンダ海に突入してきているという報告まであった。

 

 状況からして、挟み撃ちどころではない。全方位からの大包囲網による殲滅作戦だ。

 南洋諸島を起点にインド洋と太平洋に対する楔を打ち込み、北部と南部で包囲する手はずが、逆に包囲されているという、信じられない状況に陥っていた。

 

 まだ、増援の超兵器は到着していない。

 超兵器機関を基に、オーストラリア大陸を侵攻する超巨大陸上戦艦を建造する間もなかった。

 強力な未確認型飛行物体を配備する、ガダルカナル飛行場も完成前に粉砕された。

 

 今ではソロモン海と珊瑚海の艦隊すら殲滅され、パプアニューギニアのアラフラ海まで押し戻される始末。

 

 修理と補給を受けている四隻の超兵器を、急ぎ稼働させて、各方面の艦隊に対して反撃を行わなければ、せっかく得た拠点を奪還されてしまう。

 

 しかし、本腰をいれた霧の艦隊は圧倒的で、対抗しようにも第二次世界大戦前後の戦力で構成されたクラス1の艦隊では太刀打ちできない。

 これに勝てるとすれば光学兵器や光子兵器、電磁投射砲、プラズマ砲を搭載したクラス3の艦隊が必要になる。

 

 だが、それを派遣するためのゲートは未だ充分な大きさではない。

 ここに来て転移と、超兵器による建造を駆使した異邦艦隊の大規模攻勢は完全に止まってしまった。

 

 それでも、それでも異邦艦隊には四種の超兵器とは別の、最強クラスの超兵器を用意してある。

 南洋諸島侵攻艦隊の切り札ではあったが、ここで負けてしまっては元も子もない。

 

 超兵器の完全起動と構造体の生成。要するに時間稼ぎのため、異邦艦隊も本腰を挙げて、防備に入ろうとしていた。

 

 ここに霧の艦隊と異邦艦隊による第一大規模決戦の火蓋が切って落とされたのである。

 

 

 

 




みんな大好き霧の米艦隊(小規模)。

サウスダコタ。突進しての殴り合いあるのみ。アシガラと気が合う。
インディアナ。苦労人。防護の鬼。輪形陣による対空防御
ノースカロライナ。いつも能天気。あらあら系のお姉さんポジ。
ワシントン。時には殴り合い、時にはサウスダコタを盾にし、時には味方の背後から殴りかかる。ライバルはキリシマ。
レキシントン。空母として問題児。

他50隻以上。

なお、後続にエセックス級とボーグ級やカサブランカ級を中心とした予備艦隊が控えている模様。

カバーする範囲が広いからね。小規模でも仕方ないね。

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