サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 ──それは賢人会議でのことだった。

 日本の帝国華撃団が大規模な霊障に立ち向かい、それを鎮めるという戦果をあげたことで、華撃団構想が一躍、世界的にも注目を浴びたのは自然の流れだった。
 それに対して密かに協力してきた者として、鼻が高かった。
 それゆえ──私は期待してしまったのだ。
 欧州華撃団構想の中心都市を決める際の会議で、もちろん帝国華撃団が協力してくれるものだと。
 だが──


「──我が帝国華撃団は、フランスの巴里を推薦します」


 20歳前後の日本の若者がそう言うのを、信じられない思いで聞いていた。
 欧州で行われたその会議での発言に、愕然とさせられた。

「理由としては、これから数年の間に大規模な霊障が巴里で起こるのを、我々の霊能部隊・夢組が予知しているからです」

 ──霊能、部隊?
 聞き慣れない言葉だが、知識として知っている。帝国華撃団には予知のような霊能力を駆使してサポートを行う部隊があると。
 大規模霊障対策の実績があり、それに活躍していた霊能部隊の予知は、会議の中で説得力を持つのは間違いがなかった。

「また、この春に巴里市内の教会にある聖母像が次々と血を流す怪現象が認められたと聞き及んでいますが、それを裏付けると思われます。巴里での大規模霊障対策は急務といえるでしょう」

 そう締めくくって彼は席に座った。
 その瞬間、私は確信した。巴里で決まり、だと。いや、私以外の大多数の者がそう思っただろう。なにしろ巴里よりも自国の都市を強く推挙していた私自身でさえそう思ってしまったのだから。


 そして──会議では賛成多数で、欧州華撃団構想の中心となる都市は巴里へと決まった。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 投票結果の後──会議が終了してもなお、私はしばらく呆然として立ち上がることができないでいた。
 すると──

「ムッシュ、待ってください!」

 フランスの代表団であろう男が、歩いて会場から去ろうとする男を捕まえているのが、視界の隅に映った。
 あれはたしか──日本の帝国華撃団の関係者。あのとき発言した若い東洋人だった。
 男が呼び止めている間に、その上司らしき女性が彼に向かって手を差し出す。

「メルシー、ムッシュ。あなたのおかげで巴里が選ばれたよ」
「よしてください、ライラック伯爵夫人。僕は自分の立場で言わなければいけないことを言っただけですから」

 握手をしつつ若い東洋人は、あいている方の手で頬を掻いて苦笑を浮かべていた。
 彼こそ──私の望みを打ち砕いた男だ。
 そう私は胸に刻み込んだ。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


 その男は人知れず睨んでいた。
 彼の視線に気づくことなく、睨まれていた若い東洋人は、そこへやってき彼よりも歳が上な東洋人からも感謝されていた。

武相(むそう)隊長、わざわざ御足労いただいて、すまなかったね」
「気にしないでください、迫水大使。僕もたまたま欧州(こっち)に用事もありましたし……」
「私用中だったのかい? これは本当に申し訳ない」

 迫水大使と呼ばれた男が頭を下げる。その名前は日本のフランス大使と記憶していた。
 その横を通り抜け、会場の流れに逆らうように外から室内に入ってきた東洋人の少女が、迫水と話していた若い男の腕に掴まる。
 そのときは嬉しそうな顔でいたが、それから不満そうな顔になって彼女は迫水を見る。

「そうですよ。もう……せっかくの新婚旅行(ハネムーン)なのに」
「おや、それは無粋なことをしてしまった。そうとは知らずに……」

 少し驚いた様子の迫水。
 対する若い男はため息をついて自分の腕に掴まっている娘をたしなめた。

「かずら……そうやって、外堀から埋めようとするの、やめようね」
「ごめんなさい、梅里さん」

 悪びれずに、チロっと舌を出してイタズラっぽく笑う彼女に、彼──梅里と呼ばれた男は苦笑を浮かべる。

「ムッシュ、こちらは?」
「ああ、申し訳ありません、夫人。こちらは帝国華撃団夢組の伊吹かずらです」
「はじめまして。武相かずらです、夫人」
「……だから、そ・れ・ね!?」

 かずらを正面から見つめつつ、その頬を軽くつねる梅里。
 それまで悪戯っぽく笑みを浮かべていたかずらだったが、さすがにそれには涙目になる。

うめふぁとふぁん(梅里さん)ふぃふぁふぃふぇす(痛いです)

 そうして彼女の暴走を止めてから梅里は迫水とライラック伯爵夫人に再び視線を戻す。

「というわけです、夫人、大使。違いますから御安心を。彼女のコンクール出場の付き添いで来た、というのもありますけど……主たる目的は今回の会議ですよ、あくまで」
「あ~ん、梅里さんのいけず~」

 年下の娘がじゃれつくのをあしらう梅里。

「おや、ということは──なるほどねぇ、どのコンクールに出るのか、だいたい分かったけど……日本代表、というわけかい?」
「え? あ、はい。そうです」

 伯爵夫人に尋ねられて、かずらは思わず居住まいを正して頷いた。

「それじゃあがんばりなさいな。でも、観光気分で浮かれているようじゃ、どうだろうねぇ。そんな調子だと簡単に返り討ちに遭うから、せいぜい気をつけることだね」
「わ、わかりました……」

 かずらが神妙になるのを微笑むように見つめて梅里だったが、その顔を真剣なものへと変えて迫水大使の顔を見る。

「……ティーラからあの話を聞けば、我々帝国華撃団も動かないわけにはいきません」
「ふむ。こちら──いや、フランスとしては助かる話だったが、大丈夫かね。ライバル国はおもしろくはないだろう」

 迫水がチラッと視線を向ける。
 案の定、その国の代表は日本の代表団の方へ厳しい目を向けていた。

◆  ◇  ◆  ◇  ◆


武相(むそう)……梅里(うめさと)……」

 その西洋人は、恨みがましい目で元凶となった男の名をつぶやいていた。
 この会議の決定を受けて、この年──1924年(日本でいうところの太正13年)に、フランスで巴里華撃団が正式に設立されることとなる。



第1話 夢のつづき……
─1─


 偕楽園──茨城県は水戸市にある日本庭園であるそれは、江戸時代の終盤に当時の水戸藩主、水戸徳川家九代藩主である烈公こと徳川斉昭(なりあき)が、藩内の千波湖(せんばこ)の近くに、藩校である弘道館(こうどうかん)と共に設立したものである。

 領民と(とも)(たの)しむ、ことを名前の由来とするこの庭園の広さは300ヘクタールに及び、なによりも特徴的なのはその庭園に多数の梅が植えられていることだ。

 ちなみに、新政府から公園地の指定を受けた際に「常盤公園」とされており、太正14年現在の正式名称はそちらなのだが……水戸市民は偕楽園と開園時の名前に親しみ、呼んでいる者も多く、それは特に旧士族──元水戸藩士の家系では顕著だった。

 そんな水戸藩士の家系で育った彼──武相(むそう) 梅里(うめさと)にとっても、やはりそこは「常磐公園」ではなく「偕楽園」なのである。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんな「偕楽園」の多数ある梅並木の一角に、梅里は立っていた。

 他と変わりないように見える梅の木だが、その木は梅里にとって特別な一本だった。

 あの夜──三年前、昼間の今とは違う月明かりの下、同じように花を付けたこの木の根本で、彼女は息を引き取った。

 周りの目があるのであからさまに手を合わせるわけにはいかなかったが、目を閉じて祈り、報告する。

 

(鶯歌……久しぶり)

 

 前に話をしたのは息を引き取る直前の三年前……ではない。約一年前の戦いで梅里が命を落としかけたとき、その生死をさまよっている間に、彼女と会話をした。幻や夢のようなものかもしれないが、少なくともあのときの感覚は実際に会ったというリアルさを持っていた

 だから、少なくとも梅里の中では一年ぶり、ということになる。その後に彼女の一周忌の埋め合わせでこの地を訪れた、という意味でもやはり一年ぶりだ。

 

(この一年も、あっという間だったよ。戦いこそ無かったものの、忙しく動き回って……そうそう、海外にも行ってきたよ)

 

 欧州まで行ったのも昨年だった。ちょうど、かずらが国際的なコンクールに参加するから、と同じ時期に欧州で行われた賢人機関が中心となった会合に出席し、梅里は帝国華撃団の代表として、また予知を司っている夢組の隊長として参考意見を述べてきた。

 その際に行った欧州の光景──といっても日程に余りに余裕がなかったので開催された巴里くらいしか見ていないのだが──を思い浮かべる。

 

(ちょっと慌ただしかったから、凱旋門くらいしか見られなかったんだけどね)

 

 思わず苦笑を浮かべる。

 というのも、コンクールに向かうかずらと共に船旅で欧州へ……と少なくともかずらは考えていたようなのだが──

 

「片道一ヶ月以上、夢組の隊長ともあろう人が、そんなに長期間にわたって帝都を、なによりも主任が食堂を留守にしたら困るでしょ」

 

 ──そんな食堂副主任の主張により、シベリア鉄道による約20日間の鉄道旅となったのである。

 で、会議とかずらのコンクールを見たら、「早く帰ってきなさい」という食堂副主任のプレッシャーに負けて、そそくさと帰国することになり、欧州の観光──いや、視察をろくに行うこともできずに帰ってきたのである。

 それが終わった頃にはすでに夏も終わりつつあり──去年手伝った下町の神社の祭りを手伝うことになったり、劇場の公演があったり、その間も食堂は変わらず営業し続け──気がつけば一年経っていた、というありさまだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 帝国華撃団。

 

 陸軍対降魔部隊を前身とする、降魔の迎撃等の大規模霊障対策を主任務とする部隊。

 しかし逆に言えば、大規模な霊障が起こらなければ基本的には暇──でもある。

 ただし、その中で霊能部隊である夢組は、除霊に代表される霊子甲冑を必要としない小規模の霊障から、怪奇現象の調査、その原因となるものの封印、過去に施された封印の結界維持・補修、果ては帝都市民への御守りや御札への発行・販売といった任務もあり、開店休業中といった様子の他の隊とは違っていた。

 二年前に端を発し、約一年にわたる戦いの中で、その夢組の指揮を執って戦い抜き、現在も隊長の地位にある人──それが武相(むそう) 梅里(うめさと)だった。

 

 その梅里が、この場所にきたのは、幼なじみの墓参りのついで……ではあったが、なにか思うところがあって足が向いたのだ。

 

(鶯歌。また帝都になにか……悪い気配が迫っているみたいなんだ)

 

 それを、夢組の誇る予知・過去認知班は捉え、報告してきている。

 近々、また以前のような戦いが起こる、と。

 

(今度は、二年間と違って死に場所を求めている訳じゃない。帝都を守るために……また戦ってくるよ。だから、また見守ってほしい)

 

 そう言い残し、梅里は目を開く。

 ──その梅の木を背景に、幼なじみがそのポニーテールを揺らしながら「がんばってね」と言った気がした。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 それから、梅里は再び帝都に戻った。

 故郷への里帰りだったが、兄が実家を継ぐのが決まっているので、次男の梅里としては実家から出てしまっているような気でさえいる。

 もっとも、家族──特に母と、妹だけは梅里を実家に長くいるように言い、特に梅里の妹は梅里が水戸を経つ際には、「もう帰るの?」とかなり不満げであった。

 そんな家族に見送られた梅里は、二年前と同じように常磐線で南下し、茨城第二の街である土浦を過ぎ、県の南に位置する取手から利根川を渡り、千葉県へと至る。

 それから汽車は千葉県を抜け──帝都の上野へと到着した。

 帝都は一年前に降魔との戦いによって傷ついたのだが、さすがにこの一年でだいぶ進み、ほぼ元の様子へと戻っている。

 そんな中、彼は大帝国劇場に到着し、ホッとため息をついた。

 この一年──降魔との戦いを終えてから──いろいろと出かけたが、その最後とも言える実家のある水戸から帝都に戻り、梅里は感慨深げに帝劇の姿を見上げた。

 

 そこへ──

 

「おかえりなさいませ、梅里様」

 

 そう言って出迎えたのは塙詰(はなつめ) しのぶだった。

 丁寧に頭を下げる所作は堂に入ったもので、頭を上げた彼女は、その閉じているように見える細い目で微笑んでみせる。

 彼女は梅里と同じく帝国華撃団夢組に所属し、その二人いる副隊長の一人であり、支部である帝都の浅草にある花やしきに常駐するもう一人に対し、この銀座の帝劇本部に常駐して隊長──つまりは梅里──をサポートする役目を帯びている。

 また、普段はやはり梅里同様に大帝国劇場の食堂に勤務し、彼女は料理を運ぶ給仕係をやっている。

 そのため、帝劇の出入口で迎えた彼女の服装は給仕係のそれであり、長くのばした艶やかな髪も結い上げてアップにし、業務の邪魔にならないようにしていた。

 

「ただいま、しのぶさん」

 

 梅里はそう答えながら帝劇の中へと入る。

 入るとそこは正面に客席、二階席に繋がる階段があり、脇には売店が設置されているロビーだった。そこから奥へと進めば食堂に至る。

 そのロビーで出迎えたのは

 

「あー! しのぶさん、ズルい!!」

 

 という大きな声だった。

 それを言った彼女は梅里へと駆け寄ってくるやしのぶに詰め寄った。

 

「抜け駆けなんて卑怯ですよ、しのぶさん」

「いつも、抜け駆けを繰り返してるかずらさんがそれを言いますか……」

 

 そう言ってため息混じりに苦笑を浮かべるしのぶ。

 しのぶを苦笑させたのは、やはり夢組に所属する隊員だった。伊吹(いぶき)かずらという名前の彼女は、夢組の中では霊視等による調査を主たる任務とする調査班に所属し、その中でも上から二番目の立場にあたる副頭という地位に就いている。

 彼女がその地位にいるのは、得意とする楽器演奏に霊力を乗せ、その反響を使った調査ができるという希有な能力を持っており、その霊力の高さも評価されてのことだった。

 

「しのぶさんは食堂の営業があるはずなのに! せりさんに言いつけますよ」

「そうおっしゃるかずらさんも、練習を抜け出してきているではないですか」

 

 かずらは夢組隊員だが、普段は梅里やしのぶのように食堂で勤務しているのではなく、その演奏技術をかわれて帝劇の楽団に所属しているのだ。

 

「わ、私はいいんですよ。梅里さんを想うほどに演奏技術が向上するんですから……」

「──そんなわけないでしょ。さっき、楽団の人が探しに来たわよ」

 

 自慢げに言うかずらの後ろで、すまし顔ながらも怒っている人影が現れた。

 恐る恐る振り返るかずら。その首根っこをその人影にきっちり押さえられる。

 

「あの……離してもらえませんか、せりさん?」

「離したら、逃げるでしょ? かずら」

 

 迫力のある笑顔をニッコリと浮かべる給仕服の女性。

 肩くらいまでの髪を、後頭部で左右二つのお下げにしている彼女の名前は、白繍(しらぬい) せり。

 彼女もまた帝国華撃団夢組に所属し、普段は食堂に勤務する隊員である。

 そして夢組では調査班のトップである調査班(がしら)を務め、食堂では主任の梅里に次ぐナンバー2である副主任という地位にいる。

 

「しのぶさんも、いくら繁忙時間が過ぎたからって、勝手に抜けないでくださいよ。言ってもらえれば迎えに行くのを認めるくらいの分別は私にも……」

「……ございますか? せりさん」

 

 冷めた目で見つめるしのぶの視線に、せりは「う……」と二の句が継げなくなった。

 

「せりさんって独占欲強いですから、本当か怪しいですよね。今だって出迎えようとして食堂から抜け出してきたけど、出遅れたことに気がついて不機嫌になってるだけかもしれませんし……」

「……あなたのことを楽団の人が探しに来たのは本当よ? かずら」

 

 こめかみに青筋を浮かべつつ言うせり。

 そんなせり、かずら、それにしのぶの三人は──恋敵(ライバル)でもあった。そこにいる、一人の男──武相梅里をそれぞれが慕い、想いを寄せている。

 故に、たびたび……というかことあるごとにこうやって角をつき合わせるようなことをしているのだが、そんな三人のやりとりに、当の梅里は苦笑を浮かべていた。

 

「──あのさ、ここにせりとしのぶがいるってことは、食堂は大丈夫なの?」

「「え?」」

 

 言われた二人が思わず梅里の方を見る。

 食堂の給仕は基本的に三人体制だった。副主任で接客責任者のせりと、ヒラの給仕であるしのぶ。それともう一人、秋嶋(あきしま) 紅葉(もみじ)という髪の短い女性がいる。

 だが、彼女については帝劇にいるのが夢組の幹部──小規模霊障対策が主の除霊班の、その頭──であるということで、戦闘以外はからっきしな彼女を厨房に入れるわけにはいかないから、という消極的な理由で給仕をしているに過ぎない。

 もちろん。せりやしのぶとは比べるべくもなく仕事はできないし、基本的に戦闘以外はポンコツなのが紅葉という人だ。

 それを不安に想っての梅里の言葉だったのだが──

 

「そういえば、彼女がいらしたのは……梅里様が水戸に()たれた後でしたか」

「彼女?」

 

 しのぶの言葉に思わず問う梅里。それに答えたのはせりだった。

 

「ほら、前から言ってたじゃない。食堂の人員補強とか。その関係で二人増えたんだけど……」

 

 せりが食堂の人員補強と言ったが、正しくは『夢組内の組織改編』である。

 これは、しのぶではなくもう一人の副隊長、(たつみ) 宗次(そうじ)が先の戦いの検証を行った結果として提言したもので、簡単に言えば「本部メンバーの増員」だった。

 

「それは聞いてるけど……なるほどね。二人がそんなに信頼するほど仕事できる人が来たのなら、それは頼もしいけど……」

 

 梅里はうなずきながらも、食堂へと歩き始めた。

 すでに混雑時間は過ぎて、余裕がある時間なのは梅里も気がついている。だからこそしのぶもせりも食堂から出てきたのだろうが──紅葉と新人だけでは不安は残る。

 食堂へ至る途中、売店から椿が会釈してくるのが見えたので、それに応じつつ食堂に入った──のがよくなかった。

 

「──え?」

「──ッ!?」

 

 入るやいなや、なにかにぶつかった。

 しかもそれが、相手の驚くような顔で人だと気がついたときには──衝突していた。

 もつれ合うように転がる二人。

 そして──

 

「う……」

 

 その衝撃から立ち直った梅里が目を開く。

 すると、驚くほど近くに女性の顔があった。

 ほぼ同時に目を開いた彼女の目と合う。彼女もあまりの近さに驚いたようで、その目を丸くしていた。

 その目が青いのに気がつき──それで、彼女の髪が金髪なのに遅ればせながら気がつく。波打つようなウェーブのかかった髪が目を引く。

 また顔の中心にあるスッと高い鼻の付近にあったぞばかすもまた印象的だった。

 だんだんと周囲にも意識がまわるようになり、彼女の服装が食堂の給仕服なことに気がつく。だが、梅里の知る限り彼女のような給仕はもちろん、応援にくる夢組隊員にもそう行った姿の者は心当たりがない。

 そこまで考えたところで、梅里は首根っこを掴まれて無理矢理引っ張り上げられた。

 

「あなたねぇ……いつまでそんな体勢でいるつもり?」

 

 首根っこをつかんだせりがジト目で梅里を睨む。その横では、梅里の体を引っ張り上げるのを手伝ったかずらも不満そうに梅里を見ていた。

 

「まるで狙ったかのように上から覆い被さるような姿勢になるのは、どうかと思いますけど……」

「いや、わざとじゃないんだけど……」

「当たり前よ!!」

 

 梅里が困り顔で言うと、せりが怒って言い放つ。

 改めて立ち上がった梅里は、倒れたままの彼女に手を差しだし、謝った。

 

「ゴメン。前をよく見てなかったからぶつかってしまって……ケガはなかった?」

 

 それにカーシャと呼ばれた女性は、気を取り直して笑顔で応じる。

 

「いきなりでビックリしたけど、大丈夫よ。体も何ともないし」

 

 流暢な日本語で答えた女性は、朗らかに笑った。

 その彼女を思わず見つめる梅里。

 

(え、っと……)

 

 なにか妙に気になる笑顔。

 間違いなく初対面のはずの彼女のその笑顔に、どこか既視感(デジャビュ)を感じていた。

 




【よもやま話】
 夢組の話の、続きなので第1話をこのタイトルにしたのですが──たしか「サクラ~」の音楽のタイトルだよな、と思っていたらよりにもよって「サクラ大戦2」のEDテーマでした。
 1話目のタイトルが、元ネタゲームのEDテーマからって……ちょっと反省。

 そして序章……せっかくの欧州。それも巴里華撃団がらみなので「3」のキャラを出しました。迫水大使とライラック伯爵夫人=グラン・マです。グラン・マの本名とか、普通に忘れてたので調べました。
 そんなわけで、グラン・マは大神と会う前に梅里と会っていたことになってしまいました。

 さて──旧作の「1」に該当する「其は夢のごとし」は偕楽園から始まっていたのですが、今回はそれに倣おうと偕楽園を調べて──驚愕の事実を知ることに。
 実はこの偕楽園、1873年~1932年の間は正式名称が常盤公園でした。──ええ、サクラ大戦1~2の時代は1923年~1925年なので、もちろん「常盤公園」時代です。
 ……苦肉の策として「1932年に戻されるくらいなんだから水戸市民は偕楽園って呼んでいただろうな。ああ、サクラ大戦(というか~ゆめまぼろしのごとくなり~)の世界では水戸市民は呼んでいたことにしよう」と無茶な理論でそうなりました。明治7年ですので新政府側が決めたことでしょうから。
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