サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~ 作:ヤットキ 夕一
花やしき支部の地下にある医療施設。
その廊下でかずらとかすみからの聴取を終えた帝国華撃団月組隊長の加山雄一と、同じく帝国華撃団──こちらは夢組調査班副頭であり、特別班所属でもある
梅里という帝国華撃団夢組の隊長が襲撃された今回の件は、再発防止のために絶対に真相を究明して犯人への徹底的な報復まで視野に入れた対応をする必要があり、そのためのチームが早々に結成された。
帝国華撃団の調査や捜査を司る月組と夢組の合同で組まれたそのチームは、トップは隊長クラスになるため月組隊長の加山になっている。本来なら夢組隊長の梅里も入るはずだが、彼こそ被害者であり、そもそも参加できる状態ではない。
それを考慮すれば、夢組副隊長である
とはいえ、それを負い目に感じたのか、宗次がつけたのは夢組内で考えうる最高の人材だった。
調査班副頭にして『
その二人が、まず行ったのは目撃者にして襲撃の被害者という当事者でもある伊吹かずらと藤井かすみからの聴取だった。
「──それで御殿場、二人の話に嘘は?」
「もちろん、ありませんでした。内容からも嘘をつく必然性も感じられませんでしたし……」
残業で遅くなったかすみと居残り練習で遅くなったかずらを、やはり残業で遅くなった梅里が送っている最中に、
圧倒された梅里だったが、起死回生の一撃を放とうとしたとき、離れた場所から放たれた光に貫かれて、梅里は重傷を負った。
鬼王が梅里にとどめを刺す前に、救援の
梅里は緊急搬送された。
この一連の流れで、二人が嘘を言う余地はないようにしか思えなかった。
「しかし、加山隊長。これは捜査する意味あるのでしょうか? 襲撃しているのは鬼王を名乗る鬼面の男ですし、どう考えても、先日鶯谷で暴れた黒鬼会の仕業ですよ」
「まぁ、確かにな。しかし決めつけるのは危険だぞ、御殿場」
加山の言葉に首を傾げる小詠。黒鬼会と分かっている以上、捜査するのは無駄に思えて仕方がないからだ。
「まず、襲撃してきた者についてだが……例えば、鬼面を被った着流しスタイルで、刀を携えていれば……誰でも鬼王に見えるんじゃないのか?」
「え? あ、言われてみれば確かに……」
呆気にとられる小詠。だが──加山は自ら崩した前提をあっさり元に戻す。
「だが、刀を持った梅里は強い。オレでもおそらく勝てん。その梅里を圧倒できるほどの腕前となれば限られる。その中に、叉丹をあっさり殺した鬼王が入るのも間違いないがな」
「はぁ……」
鬼王を否定した直後に肯定するような加山に、小詠は困惑するだけだった。
それを見て加山は意地悪くニヤリと笑う。
「決めつけるな、ということだ。現にお前は今も決めつけて大事なことを見落としているぞ」
「えッ?」
加山の指摘に小詠は驚き、先ほどの二人からの聴取を再度思い出す。
「二人の話でかみ合わなかったところがあっただろう?」
「かみ合わない?」
眉をひそめて思い出し、唯一の心当たりを言う。
「……隊長を貫いた光をかずらは見たのに対し、かすみさんは見ていない……」
「そうだ。風組の藤井隊員の話では、突然、伊吹隊員が立ち上がって声をあげたのでそちらを見ていて光を見ていない、と言っていた」
「……あれ? でも、それって……」
気がついた事実に加山はうなずく。
「ああ、おそらくお前が思ったとおりだ。つまりは──犯行の瞬間を見ていたのは伊吹隊員だけだ」
「ですよね? つまり……ということは……かずらの言葉が嘘であれば、隊長が狙撃された、という前提が覆る?」
青ざめる小詠。それに対し加山はニヤリと笑みを浮かべた。
「おいおい、そこで青ざめてどうする。嘘はない、と断じたのはお前だろ」
「そ、そうでした。かずらは嘘をついてません。そうなると……」
チラッと加山を見る小詠。それに苦笑する加山。
「いいか、御殿場。普通なら“伊吹かずらが嘘をついていない”ということが分からないんだからな。それが当たり前になっている自分自身では分からないだろうが、その能力の凄さを自覚しろ。そして──だからといって決めつけるなよ?」
「え?」
戸惑う小詠に加山は言う。
「なまじ捜査向きですごい能力だけに過信したくなるが、その能力を騙せないわけではない。例えば、伊吹隊員が幻覚を見ていた場合だ」
小詠の能力『読心』は嘘を見破れても、本人が誤認をしていれば、事実と異なっていても見破れないという穴がある。
「あとは──彼女が何かを隠そうとして、嘘にならない範囲でしか証言していない、とかな」
「……なるほど。勉強になります」
そう言って小詠は頭を下げる。
「そうなると、二人の心が落ち着いてから、その時の状況を深く『読む』ために、精神潜行をしたいと思いますが……」
「妥当だろうな。だが、少なくとも数日は無理かもしれん」
一見、落ち着いているように見えるかすみも、おそらくはかなり消耗しているだろう。
また想いを寄せる梅里が負傷するのを目の前で見ていたかずらのショックも大きい。
そんな中で、精神を感応させて記憶をより深く覗くのは危険を伴いかねない。
二人は花やしき支部を出て、再び現場での捜査へと戻った。
その後、米田への狙撃事件の発生によって、そちらへ重きをシフトしたばかりに、二人ともその特別捜査チームへと変わってしまい、かずらやかすみへの精神潜行は行われなかったのだった。
─1─
米田が狙撃された一報を受けて、夢組副隊長で現在は隊長を代行している巽 宗次は帝劇本部を訪れ──そこで花組隊長の大神一郎に遭遇した。
「役に立たず、申し訳なかった……」
宗次に頭を下げられ、大神は苦笑いを浮かべる。それが先の戦いについての謝罪だと気がついたからだ。
「そちらの事情は把握しているさ。無理もないことだと思っているよ」
渋谷で行われた黒鬼会幹部である五行衆の一人、木喰との戦いにおいて、戦場に置かれている物の調査が遅れたばかりに、花組にいらない負担をかけてしまったのである。
本来であれば霊能部隊である夢組が霊視し、中身を透視して把握すれば余計な手間がかからなかったのだが、その時の夢組は集中力に欠け、調査班頭も上の空でまるで役に立たなかった。
唯一、気を吐いたのが特別班に所属する遠見 遥佳で、その『千里眼』で支援したが、破壊して罠にはまったものも多く、万全な支援ができたとはお世辞にも言えない状況である。
「結果的には、敵は退けられたんだ。それも誰一人欠けることなく、だ。とりあえずはそれで十分さ」
「しかし……」
慰めるような大神の言い方は、宗次のプライドを刺激する。反発しようとしたが、大神は手のひらを向けてそれを制した。
「無理するな、巽。今の夢組が大変なことくらい、華撃団で理解していない人はいない。司令と隊長がそろってあんなことになったんだから」
上から二人が一気に欠けてしまったのだ。宗次にしても瓦解を防ぐので精一杯である。
「それに……花組も身動きがとれなくなるかもしれない」
「なんだって?」
厳しい顔で言った大神の言葉に、宗次はさすがに驚いた。
「それは、どういうことだ?」
「財界からの援助が止まったらしい。花組……というよりも霊子甲冑は金食い虫だ。動かすにも維持するにも費用がかかる」
「バカな! 今、花組が、華撃団が動けなくなれば、誰が帝都を守るというんだ」
思わず叫ぶ宗次。
昨年半ばのような平時ならともかく、今はまさに黒鬼会という組織が胎動し、破壊活動を行い始めている。魔操機兵を相手に通常兵器が有効ではないのは黒之巣会で十分に学んだはずだ。
「こんな時に司令が……クソ! 副司令が居てくださったら……」
思わず口をついて出た自分の言葉に、宗次自身も驚く。
帝国華撃団の副司令といえば、藤枝あやめである。彼女亡き今もその地位は空白で、すくなくともこの一年あまり、その席を埋めようという話もなかった。
「……米田中将が身動きがとれない以上、隊長同士の連携を強めて対応するしかないと思う。夢組の隊長代理は巽でいいんだよな?」
大神の言葉にうなずく宗次。
「ああ、もう一人の副隊長は、ちょっと厄介なことに巻き込まれてな。その対応で身動きがとれなくなった」
「厄介なこと?」
訝しがる大神に、宗次は説明する。
「夢組は以前、陰陽寮派と軍派に分かれかけていたんだが……大神はそれを知っているか?」
「一応は聞いている」
華撃団が結成したとき、宗次は夢組隊長心得という役職に就き、夢組の隊長になる予定だった。
だが、霊力を持つ者の人員確保のために京都の陰陽寮の力を借りたせいで、そちらの発言力が大きくなり、また民間登用の多い夢組を軍方式でまとめようとした宗次が失敗したこともあって、その対立が深まったことがあった。
その時の陰陽寮派のトップこそもう一人の副隊長の塙詰しのぶであり、対立を解消するために、どちらの派閥に関係ない上に司令である米田とつながりのある武相 梅里が隊長となることでバランスをとったのだ。
「その陰陽寮がゴネだしたらしくてな」
「なんだって? 今ごろになって、なぜ……」
派閥争いが終結した後、しばらくは陰陽寮派もおとなしくしていたのだが、黒之巣会が六破聖降魔陣を完成させて帝都で大規模な破壊が起きた際に、大元である陰陽寮が帝都とそれを守る帝国華撃団を見限ろうとしたのだ。
しかし華撃団がその窮地をひっくり返し、またしのぶをはじめとした陰陽寮派が京都の意向に反発して離脱せず、そのまま協力し続けたため事なきを得ており、結果的にはうやむやになっている。
そんな経緯もあって、黒之巣会による混乱の終結後はあやめの根回しのおかげもあり、全面的な協力を得られる体制になったはずなのだが──今になって、急に反旗を翻した派閥があるらしい。
そのため、しのぶは後ろ髪を引かれる思いで、今は華撃団サイドに立って陰陽寮との折衝を行っているところだ。
「……しかし巽。なにか、おかしくないか?」
「ああ。オレもまさにそう思っていたところだ。あまりにタイミングが出来過ぎている」
そう応えた宗次の言葉に大神は大きくうなずいた。
「その通りだ。武相隊長への襲撃を端に発した米田中将への狙撃。その混乱を見越したかのように支援停止による活動資金の危機と、陰陽寮の不穏な動き……」
資金の枯渇により実働部隊の対降魔迎撃部隊・花組、輸送空挺部隊・風組、局地戦闘部隊・雪組が動けなくなり、隊長襲撃と混乱で霊能部隊・夢組も機能不全に陥った
「キナ臭い、とはまさにこのことだな」
顔をしかめる宗次に大神が賛同する。
「偶然というには重なりすぎている。明らかに何者かの思惑が感じられる。それも、そいつは大規模に、本気で華撃団をつぶそうとしている」
「順当に考えれば黒鬼会ということになるんだろうが、しがない秘密結社にしては財界やら陰陽寮にパイプがあるのは不自然だ。よほど強力な
見えぬ敵組織の全容と背後関係に、大神が「クソッ!」と珍しく焦りを露わにした。
花組が、帝国華撃団が危機に陥っているのもあるだろうが、その父ともいうべき米田が殺されかけ、今まさに命の危機に瀕している。それにも関わらず何もできず、まして敵が見えない現状に苛立ちを感じたのだろう。
「お前らしくないぞ、大神」
「わかっている。しかし……」
そこは士官学校の同期生。宗次は大神を華撃団に入る前から知っている仲だ。
「米田司令の狙撃犯を含め、敵組織の捜査は月組が中心になって探っている。夢組も全力でその協力を行う。お前達花組も、自分たちができることを、いや、自分たちにしかできないことをやって、状況を打開するしかないだろ」
「花組にしか、オレ達にしかできないことを……」
宗次に言われて冷静さを取り戻し、自分の手を見つめる大神。
そこへ──
「大神さーん!!」
真宮寺さくらが大神を探してやってきた。
走ってきた彼女は大神の前まで来て、傍らの宗次を見る。
「やっと見つけました……あの大神さん、こちらの方は?」
「ああ、面と向かって会うのは初めてだったかい? 巽 宗次少尉。夢組の副隊長だ」
「し、失礼しました。あたし、真宮寺さくらです」
大神に紹介された宗次が一礼し、さくらもまた慌てて一礼してから自己紹介した。
宗次は夢組支部長という立場から支部常駐で、たまに副隊長として隊長の梅里と会合をするために帝劇本部に来るが、会うのは昼夜の営業時間の間を狙った食堂が多く、終わるとすぐに戻るか帰宅しているので滞在時間も短いのだ。
もちろん宗次は任務中に現場で何度もピンク色の霊子甲冑を見ているが、こうして生身できちんと会うのは初めてのことだった。
「丁寧にどうも。巽 宗次だ。もちろん何度も戦場で見かけているが、こうして顔を会わせるのは初めてか。あまりそんな感じはしないな」
「お互いに、華撃団に入って長いですからね。でも、夢組の副隊長ということは……」
さくらの表情が曇る。米田への狙撃で隠れた感はあるが、梅里のことは花組メンバーも聞き及んでおり、心を痛めていたのだ。
「まぁ、アイツのことなら大丈夫でしょう。皆に心配してもらえて幸せ者ですよ」
あえて軽い口調で言って笑みさえも浮かべる宗次。もちろん予断を許さないところから変わってはいないが、他の隊の隊員への心労を少しでも軽くしようと思った宗次なりの配慮だった。
話の区切りもついていたので、宗次は大神に声をかけてからその場を去ろうとした。
──が、ふと思い出してその足を止める。
「ところで真宮寺さん……」
「え? あたしですか? はい、なんでしょうか」
「この前……米田司令が狙撃される前日の夜、外に出かけていないよな?」
「えっと、確かあの日は……」
宗次の問いに、さくらは眉をひそめたが──その日こそ夢組隊長の梅里が襲撃された日だと気がつき、一生懸命思い出す。
そして、その表情がだんだんと不機嫌なものになっていった。
「そうです、あの日は大神さんとサキさんが舞台裏で……」
「な!? あれは誤解だと言ったじゃないか、さくらくん」
「……ということは、帝劇から出ていないということで間違いない、か」
焦る大神の反応で、二人が帝劇にいたのを確信した宗次がつぶやく。
それを見た大神が訝しがるように宗次に尋ねた。
「なにか、あったのか?」
「ああ。現場にいた
「えっ? あたしの!?」
思わず大神もさくらを見る。
「あたし、行ってませんよ? あの日は舞台裏のあとは自分の部屋に戻って出てませんし、舞台裏の前はたしか……あ!」
さくらが何かを思い出すのとほぼ同時に、宗次がフォローした。
「いや、おそらく使ったのは梅里だろう。一応の確認だから気にしないでくれ」
「武相隊長が、あたしの技を? でも、あの人の剣技は……」
眉をひそめるさくら。確かに梅里は、さくらも同じ刀を使う者として知っているし、降魔すら一人で、それも生身で倒せるという実力が華撃団屈指なのもわかっているが、それでも自分が修行の末に会得した技を簡単に使われてはプライドを刺激される。
「アイツの技に相手の技を模倣するものがあるから、たぶんそれだろう。オレも最初にそれをやられて困惑したよ」
苦笑を浮かべる宗次。初めて梅里と会ったときに挑んだ決闘でのことであり、懐かしく思い出す。
それを聞いた大神がこの前の戦いのことを思い出して付け加える。
「ああ、そういえばこの前の叉丹との戦いでも、オレとまったく同じ技を使ってたね」
そんな話をしていると、さくらが申し訳ばさそうにして宗次に話を切り出した。
「あの、巽少尉。今さっき思い出したんですけど……あの日、あたし夢組の柊さんと夜に帝劇内で会いまして、その時に彼女から隊長が危ないと伝えられて……あたし、てっきり大神さんのことだと思っていたんですけど……」
実際、あのときの大神はサキの色香にやられかけていて危険な状態であった。ゆえにさくらもそれを危機と解釈していたのだ。
「今思えば、武相隊長のことだったんですよね、きっと。あのとき、あたしがそれに気がついていれば……」
「いいや、気に病むことはない。それだけの情報で梅里の危機を把握して場所まで特定して助けるなんてことは、現実的に不可能だ。柊も失語症で説明ができなかったのだからやむを得ないさ」
「でもあたし、そんな簡単に割り切ることなんてできません」
米田のせいで心が弱っているのもあるのだろう。さくらがますます落ち込む。
「ふむ……いいか、真宮寺さん。オレ達夢組は見えないものを見るのが任務であり、それはひどく曖昧なものになることが多い。予知なんてものはその最たるものだ。だからせっかく予知していたものを防げなかった、なんてことはザラにある」
「そう、なんですか?」
さくらの問いに宗次はハッキリとうなずいた。
「専門のオレ達ですらそうなんだ。慣れないキミが気に病む必要なんてない。それに……」
宗次は予知・過去認知班頭であるアンティーラ=ナァムの顔を思い出す。
多忙な中で支部に戻った際に、チラッと姿を見たが彼女はひどく落ち込んでいた。
「一番つらいのは、そういう経験を誰よりも多くしている予知の能力を持ったヤツだからな」
「あ……それは、そうですね」
ポツリとつぶやくとさくらは申し訳なさそうに顔を曇らせる。
「そこまで深刻になることはない。ただ、頭の片隅でそういう人たちもいると覚えてやっててくれ」
宗次はそう言うと、大神とさくらを背にしてその場を去った。
【よもやま話】
2話のタイトルは前作のかずら回と同様に、音楽からとってルビを入れました。サクラ大戦らしく「ららばい」としてもよかったのですが、話の雰囲気から「ララバイ」の方があっていると思ったので。
小詠と加山の組を超えた特別捜査チーム結成……したものの、梅里の事件の捜査ではなく、米田狙撃事件の捜査に回されてしまい、そちらの捜査は大きく遅れることになります。
後半は、宗次と大神のシーン。前作でも少ししか触れていませんが、大神と宗次は同期なので、隊長と副隊長なのに敬語を使ってません。
前作のころの宗次なら敬語を使っていたかもしれませんが、梅里が隊長を務める夢組の「緩さ」に染まってきているのかもしれません。