サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

17 / 78
─8─

 せり、しのぶ、かずらが3人そろって見舞いに行ってから、数日が経った。

 

 今、夢組は出撃していた。

 それは深川の料亭で起きた火災騒動だった。

 しばらく前に花組隊長の大神とさくらが米田の見舞いに陸軍病院に行った際、陸軍大臣の京極慶吾と出くわしていた。そこで彼の取り巻きの陸軍将校達や本人との遺恨があり、さくらと紅蘭がサキから京極が深川の料亭にいるという情報を得て、花魁に変装しつつ潜入したのだが──そこにいたのは海軍大臣の山口和豊。

 その暗殺を狙った黒鬼会の放火によって料亭は火に包まれ、花組は脱出した大臣を安全な場所まで護衛することになったのだが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──そして、伊吹かずらは、燃え落ちる料亭の中で四方を完全に炎に囲まれていた。

 

(あぁ……もう、どうしようもないかなぁ……これは)

 

 その絶望的な状況に、さすがにあきらめが入るかずら。

 いかに夢組戦闘服の性能が高くとも、火の中を平気で抜けることはできない。

 手に持ったバイオリンで、かずら得意の霊力を乗せた演奏を行っても。その火勢を弱めたり火を操ることはできなかった。

 そうしてこんな事態になってしまったのか──それは、彼女がやむを得ず自分で引いたババだったのだ。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 少し前のこととなるが……

 

「──なに!? 逃げ遅れた人がいるッ!?」

 

 その報告を聞いて巽 宗次はさすがに焦った。

 すでに避難は完了していたんじゃなかったのか、夢組隊長代行として指揮を執っていた彼にその情報がもたらされ、彼は頭を悩ませた。

 

「よし、隊を二つに分ける。片方は火災で逃げ遅れた人達の救出、そして残りは花組の支援だ」

「花組も救助に人を出す!」

 

 宗次の指示に、花組隊長の大神一郎が割り込むが──

 

「いや、黒鬼会の……敵の数が多い。花組は海軍大臣の護衛に徹してくれ。救助は我々のみで行う」

「しかし!!」

「大神。この火災、真宮寺や李のせいじゃないんだ。気に病むことではないぞ」

 

 実は、火災の直前に潜入していたさくらと紅蘭が煙玉のようなものを使っており、それが火災の原因ではないか、と疑われるような状況ではあった。

 しかし、実際には火災の原因は黒鬼会幹部の五行衆が一人、火車の放火によるものと判明している。

 

「でも、あの場で騒ぎを起こしてしまったのはあたし達です」

「そうや。あれがなければ普通に逃げれた人達かもしれへんし……後生や、巽はん!」

 

 大神に代わってさくらと紅蘭が通信に入ってくる。

 だが、宗次の方針は変わらない。

 

「何事も適材適所だ。幸いなことに逃げ遅れた人数も少ない。近江谷姉妹の瞬間移動でなんとかなる。魔操機兵の相手は霊子甲冑でやるのが最も確実で、安全だ」

 

 それに「脇侍の数も多いからな」と付け加えると、さすがに大神も引き下がり、命令を出す。その指示には逆らえず、さくらと紅蘭も引き下がらざるをえなかった。

 そうして宗次は、炎上する料亭に救助に入る突入隊を組織する。

 そのメンバーは、特別班所属で突入と脱出の要である瞬間移動要員の近江谷 絲穂・絲乃の姉妹、それ以外の意識のない逃げ遅れがいないかの確認のために調査班副頭である伊吹 かずら、さらには熱等から守るための封印・結界班員と、実際にがれきの撤去したり直接救助を行う動きの良い除霊班所属のもの、という編成だった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 彼らは『千里眼』の遠見 遙佳の誘導で、無事に火のない場所に瞬間移動し、要救助者を確保、それ以外の逃げ遅れの探査をかずらが音響探知を行って調べ、再び瞬間移動で帰還──する直前に、かずらはハッとした。

 そのときの位置関係は、かずらは最も外側に立っていた

 要救助者を真ん中に、近江谷姉妹の間で円を描く範囲内ではあったのだが──その直上で、焼け落ちた天井が崩れそうなことに、かずらは気がついたのだ。

 

(このままだと、目の前の人達に直撃しちゃう!)

 

 反射的に落下予測地点付近の人を思いっきり押すかずら。

 押された人達は驚きながらも陣の中心へ押し込まれる。その反動で、かずらは外側へと離れ──生じた隙間に、天井の瓦礫が落ちた。

 

「な──ッ!?」

 

 突然起きたその出来事に一同が驚いている中──双子の姉妹の霊力同調が完了して瞬間移動が実行される。

 

「待ッ」

 

 異変に気づいた誰かの言葉が尻切れになり、双子の敷いた円陣に沿ってキレイに瓦礫が抉られ──瞬間移動は実行されていた。

 そこから外れたかずらは取り残されたのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──まったく、何でそんな事態になるんだ!」

 

 通信を切って思わず愚痴る宗次。

 確かにかずらの機転がなければ、助けるべき人を助けられなかったという事態になっていたのだから、ファインプレーではあるのだが……。

 だが建物の方はもう持ちそうにない。だからこそ天井が崩れてくるという事態も起こったわけであり、そこに取り残されたかずらの命運は非常に危険なものになっていた。

 

「遠見ッ!!」

「はい。バッチリとらえているッス」

 

 宗次の通信に、事態を聞いて真っ先に状況把握に動いた『千里眼』の遠見 遙佳が応える。

 

「かずらは健在ッス。でも、そこに通じる道は……」

 

 その口から出たのは厳しい内容だった。

 

 

「…………無いッス」

 

 

 彼女は悔し気に目をきつく閉じて報告を続ける。

 

「崩落や壁で全て塞がれて……」

「こんなことなら、秋嶋をそっちに配置するべきだったな」

 

 除霊班は主に花組の護衛任務のサポートに回していた。瓦礫除去で必要になることは見越して数名を付けていたが、頭である秋嶋 紅葉は花組援護側だ。

 火属性の霊力を操り、攻撃力と機動力に長ける彼女なら突入や、経路確保に使えただろうが今は花組と共に脇侍と戦っている最中だ。そこから離れることさえままならないだろう。

 

「まったく、アイツがいない時に限って、こういうことが起こる……」

 

 腹の一部がキリキリと痛むのは、最近──隊長代行になってからのことだ。

 このまま隊長代行を続けていたら、歳をとったときの頭頂部が心配になってくる。

 

(いっそ、未来の頭をティーラに見てもらうか)

 

 あくまで冗談だが──半ば本気で宗次は考えていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 一方、救出チームの方はといえば、慌ただしさを増していた。

 

「すぐに救出に戻りますッ!! 遙佳、場所のイメージを……」

 

 隊長代行への報告を済ませた近江谷姉妹の姉の方、絲穂が勢い込んでそう言うが、それにヨモギが待ったをかける。

 救助者が負傷していることも考慮して、ヨモギはこちらに配置されていたのだ。

 

「それは許可できませんよ、近江谷嬢の姉の方。妹さんが限界です」

「そんなこと、ありません……いけます……」

 

 気丈に絲乃が言うが、あからさまに顔色が悪い。

 かずらが取り残される事故が起こるまでに、近江谷姉妹は数回の瞬間移動をすでに行っていて消耗していたのだ。

 

「ホウライ先生、絲乃なら耐えられます! 行かせてくださいッ!!」

「ええ、一度はできるでしょう。しかしそれでは意味がありません。戻ってこられなければ遭難者が増えるだけです。それに不完全な同調で瞬間移動を行って失敗すれば、どこに飛ぶかわかりません。危険な場所に飛んでしまったり地面の中なんてこともあります。医者として許可はできません」

「く……」

 

 実のところ、絲穂も顔に出していないがかなり厳しい。ヨモギの言うとおり、二度の瞬間移動ができるほどの余力はない。

 

「なら、誰か脱出路を作れる人を連れていけば!」

「建物の崩壊が進んでいて危険です。それこそ戦闘に長けた頭クラス以上の人がいれば話は別ですが……」

 

 該当する紅葉も宗次、釿哉といった面々はこちらに来ていない。

 

「私が行くわ!!」

 

 そう名乗りを上げたのはせりだった。

 だが、ヨモギは首を横に振る。

 

「申し訳ありませんが、白繍嬢では無理です。あなたの『天鏑矢(あまのかぶらや)』では壁一枚くらいを貫くのがせいぜい。複数の壁や多くの瓦礫を一度に突破できるほどの威力はありません」

「だからって、かずらを見捨てろって言うの!? そんなの、私は認めないわ!!」

 

 ヨモギに掴み掛からんばかりの勢いで言うせり。

 しかしヨモギも譲らずに反対を貫く。

 

「だからといって、運に天を任せるような方法では、伊吹嬢を助けられないどころか、余計な犠牲者が増えるだけです。冷静になってください」

 

 ヨモギの意見はその通りだった。無計画に飛び込んでしまえば近江谷姉妹の瞬間移動という切り札を無駄に捨てることになってしまう。

 その切り札を切る以上は、絶対に確実な救出策でなければならない。

 

「──冷静に?」

 

 ヨモギの言葉で少し頭が冷えたせり。

 しかし──それが良くなかった。

 

 

『かずらがいなくなれば、あの人の周りをウロチョロする影が一人減るじゃない──』

 

 

「──え?」

 

 幻聴のように聞こえた声。

 

(──誰の、声?)

 

 とても聞き覚えのある声だった。

 ふと気がつけば、暗闇で包まれた空間──そのくせ目の前にいる人物と、自分の姿だけはハッキリと見えている──に、せりはいた。

 

「あの子が死んでも……困らないんじゃないの?」

 

 目の前の彼女がせりに問いかけてくる。

 

「そ、そんなわけない! かずらは、仲間よ。大事な仲間なんだから!!」

「そう? それは夢組としてはそうかもしれないけど……あなた自身にしてみたら、あきらかに敵だと思うけど?」

「そんなこと、そんなこと絶対にない!!」

 

 必死で叫ぶせりに対して、目の前の彼女はズイッと距離を詰めて覗き込んでくる。

 

 

「──本当に?」

「ッ!?」

 

 

 思わず息をのむ

 顔を近づけてきた彼女の顔は──せりとまったく同じ顔をしていた。

 その顔が意地悪く笑みを浮かべている。

 聞き覚えがあるもなにも、せりとまったく同じ声で彼女は問いかけてくる。

 

「本当にそうなのかしら? 私があの人の看病をしたいのを、会いたいのを我慢して食堂で仕事している間、かずらはずっと彼の傍らにいたのよ?」

「そ、それは……私が副主任で、主任の梅里もいないんだから、仕方がないことだから……」

 

 必死に言葉を探すせりを、クスクスと嘲り笑うせり。

 

「あの日も、一緒に仕事した私を置き去りにして、一緒に帰っていたのに?」

「それはッ──」

 

 顔が一気に青ざめる。

 もう一人のせりは意地悪い笑みを浮かべたままさらに言葉を重ねる。

 

「だから私は、悔しくて……妬ましくて……あの人を、自分だけのものにしたくて……だから、弓矢で彼を──」

 

 

「──違うわッ!!」

 

 

 せりは必死に叫んだ。

 

「違う! 違う! 違う違う違う違う違うッ!! 絶対に違うッ!! 私はあの人を、梅里を射抜いてなんか──」

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──ら繍嬢! 白繍嬢!! どうかしましたか!?」

 

 気がつけば、ヨモギに両肩を捕まれて揺さぶられていた。

 

「あ……ゴメンなさい。私……大丈夫、大丈夫よ」

「本当に大丈夫ですか? 以前も同じように突然、放心したようになっていたことがあったようですが……」

 

 訝しがるヨモギを顔色が悪いままのせりが手で制する。

 

「平気よ。それに今は私よりもかずらのことを……」

 

 そう、せりが言ったときのことだった。

 

 

「──遥佳、かずらを補足してるね? それを続けて。それと千波、合図でそれを僕に送れるよね?」

 

 

『──え?』

 

 夢組の全隊員の動きが一瞬止まった。

 その無線は──本来なら今ここで聞こえるはずがない人の声だった。

 そして、夢組の誰もが待ち望んでいた声だった。

 

「──それと、花組のアイリスの位置を教えて欲しい」

 

 周囲の戸惑いを意にも介さないその声に、戸惑いながらも場所が伝えられる。

 そして、声の主はそこへと直行した。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「熱い……苦しい……」

 

 伊吹 かずらは意識を朦朧とさせながらつぶやいた。

 かろうじて火に包まれてこそいないものの、周囲の炎による熱と息苦しさは彼女の意識を刈り取ろうとしていた。

 

「こんなに苦しいなら、やらなければ良かったかな……」

 

 先ほど自分がやった光景を思い出して、思わずつぶやく。

 助けようとした人達の顔を思い出して、あの逃げ遅れていた人達は助かっただろうか、と心配する。

 いや、夢組の仲間たちなら確実に助けているだろう。

 崩れた瓦礫で見えなくなっていたが、あのとき、近江谷姉妹は同調して瞬間移動をしようとしていた。彼女たちの能力(ちから)なら確実に無事な場所へと送り届けているはず。

 

「それにしても……また、乗り遅れちゃったな」

 

 近江谷姉妹の瞬間移動から外れて危機に陥ったのが、あの時のことを思い出させた。

 

「ふふ……あのときは、ミロクの脇侍に追われて……転んじゃった私を助けるために……梅里さんが、残ってくれて……」

 

 あのとき、間に合わないのを分かっていながらもかずらが思わず出した手を──自分の身を省みずに梅里が近江谷姉妹の間から抜け出して掴んでくれた。

 

「あのときは、嬉しかったな……」

 

 だんだんと薄れていく視界。

 ここで意識を失えば十中八九火に巻かれて命はない。

 それが分かっていたが──もはや酸欠でどうしようもない。

 

「ああ、梅里さん……最期に、会いたかったなぁ……」

 

 大きくため息をつきながら、弱気な言葉がついて出る。

 そして思わず涙が出た。

 

「やだよ……いやだよぉ……梅里さんに会えずに死ぬなんて……せめて最期に、もう一度……」

 

 思わず天井を見上げる。

 そこに天は見えなかったが、それでも祈った。最期の願いを、梅里に会いたいという切なる願いを──

 

 

 そこへ、局所的に霊力が高まり、一気に爆発し──

 

 

「かずら!! 生きてるか!?」

 

 意識を失う瞬間、彼女が最も聞きたかった声が、その耳に入ってきた。

 

「梅里……さん?」

 

 顕れたその影に、思わず手を伸ばし──かずらは意識を失った。

 




【よもやま話】
 唐突な火災シーン。
 ゲーム「サクラ大戦2」の「第四話・大暴れ!火の玉芸者ガールズ」の戦闘シーンと同じ場面で、そのためにこのような唐突な展開となりました。
 なお、ゲームでは全員無事に脱出したことになっており、逃げ遅れは出ていません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。