サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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─9─

 戦闘中の花組ではあったが、仲間への支援と回復を主な任務とする、黄色いアイリスの光武・改は主戦場からは少し離れていた。

 

「つまんなーい。アイリスだって戦えるのに……」

 

 少し面白くなさそうにしていたアイリスだったが──

 

『アイリス、ちょっと手伝ってもらっていいかな?』

 

 通信に入ってきた声に、アイリスは周囲を見渡す。

 光武・改のメインカメラは、機体の正面にいた人物を写し出していた

 

「あれ? シェフの……え? でも、意識がなかったんじゃ……」

 

 目の前にいたのは同じ華撃団でも違う組の隊長。

 その戦闘服は花組のそれとは違い、和風の装いのデザインだった。

 もちろん彼のことは知っている。華撃団の隊長というよりは、普段の帝劇にいる顔こそ馴染みがあるほどだ。

 しかしアイリスは、その人が大怪我をして大変なことになっている、と聞いていた。

 だが彼は無事な様子で、しかも彼の代名詞とも言うべき銀色の光球を纏う技を使ってアイリス機の前に立っていたのだ。

 だからこそ戸惑ったのだが──

 

『アイリス、お願いがあるんだ。短距離──すぐ横でいいから、瞬間移動をしてもらえないか?』

「……え? どういうこと?」

 

 突然の頼みに、その意図が分からず戸惑うアイリス。

 アイリスの霊力をもってすれば、光武・改による瞬間移動はお茶の子さいさいであるが──

 

『アイリス、彼の指示に従ってくれ。瞬間移動を見せてあげるんだ』

「お兄ちゃん!?」

 

 通信を入れてきたのは花組の隊長である大神一郎だった。

 

「お兄ちゃんがそういうなら……」

 

 戸惑いながらも霊力を高め──すぐ近くへと瞬間移動する。

 

『ありがとう、アイリス。それに大神さんも。このお礼は後で必ず──』

 

 通信は途中で切れた。

 アイリスは元いた場所の正面──アイリスに頼みごとをしてきた彼がいた場所を見たが──

 

「あれ? 誰もいない……」

 

 その場所には銀色の光球も彼の姿も無く、まるで最初から誰もいなかったかのように影も形もなくなっていた。

 まるで──瞬間移動をしたかのように。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

「──ッ!?」

 

 気がつけば、かずらは口を塞がれていた。

 失っていた意識が戻り──そして、目の前の光景に驚く。

 驚くほど近くに、梅里の顔──いや目があった。

 

「ぷはッ!!」

 

 塞がれていた口が解放される。

 そして──

 

「──気がついた?」

 

 かずらが聞きたいと望んだ、優しさ溢れる声がその耳に飛び込んできた。

 霞んでいた視界も戻り、梅里の姿と周囲の光景までハッキリ見えるまでに回復していた。

 

「……あ、あの、一つ聞きたいんですけど」

「なにかな?」

 

 目の前には、最期に会いたいと願った相手。なんというか出来過ぎているこの状況が、とても信じられなかった。

 

「ここって、あの世……ですか?」

「──はい?」

 

 突拍子もないかずらの発言に、さすがの梅里も唖然とした様子であった。

 

「だって私、死にかけていたんですよ? 最期に会いたいと思った梅里さんもいるし、その梅里さんが……」

 

 梅里の顔をじっと見つめる。

 

「……記憶、戻ってるし」

 

 そう言って、かずらはさらに彼へと詰め寄る。

 

「記憶を失ったはずの梅里さんが元に戻ってるなんてありえません。でも、死後の世界なら……」

「そこに僕がいるってことは、つまりは僕も死んでることになるような……」

 

 頬を掻きながら苦笑する梅里。

 

「記憶失っちゃったんですから、死んだようなものじゃないですか!」

「そんな無茶な……というか、僕もかずらも死んでないからね? ここはあの世じゃなくて、ちゃんとこの世だから」

「じゃあ、夢──」

 

 そう言い掛けたかずらのほっぺたを梅里が軽くつねる。

 

「痛いです……」

「ほら、違うでしょ」

 

 笑顔を向ける梅里に、かずらはそれを信じられないと言わんばかりの表情で見つめ──

 

「じゃ、じゃあ……ホントのホントに……梅里さん、なんですか?」

「そうだよ」

「記憶を失ってもいなくて……私のこと、ちゃんと覚えてます?」

 

 かずらが不安そうに見つめる中、梅里は朗らかな笑みを浮かべてうなずく。

 

「もちろん。帝国華撃団夢組調査班本部付副頭で、華撃団育成機関の乙女組出身。世界の誰よりもバイオリンが上手に弾ける……そして押しが強い、自称僕の婚約者、でしょ?」

「──ッ! 記憶を失ってたときのことも、覚えてるんですかぁ」

 

 その笑顔に思わず涙が出る。

 かずらはわき上がる感情のままに、梅里へと抱きついた。

 

「うわああぁぁぁ!! 梅里さん! 梅里さん! 私、私……」

 

 一方、梅里は抱きついてきたかずらのするがままに任せつつ、そっと手を伸ばして彼女の頭を軽くなでる。

 

「ゴメンなさい。あのとき、鬼王に襲われたとき、何もできなくて……」

「そんなことないよ。僕を狙ってきたのに巻き込んじゃったんだから、謝るのは僕の方だよ」

「あの後、私、梅里さんが倒れて、死んじゃうかもって……でも、そのときも何もできなくて……ホウライ先生に任せるしかなくて」

「かずらは医者じゃないんだから当たり前じゃないか。逆だったら僕だって何もできないよ」

 

 思わず苦笑する梅里。

 

「意識が戻った後……せっかく梅里さんに会えると思ったのに、おしゃべりできると思ったのに……ヒドいです。私のことを忘れるなんて!」

 

 一度顔を上げ、抗議するかずら。

 梅里は不満げな彼女の顔を見ていると、愛らしさで思わず笑みがこぼれた。

 

「──婚約者だって嘘を教え込もうとするのは、もっとヒドいと思うけど?」

「あ、あれは……梅里さんがいけないんです! 私のことを忘れるから。それで意地悪しただけですもん」

 

 慌てるかずら。彼女は誤魔化すように再び梅里に抱きつき、今度は無言でギュッと力を込める。

 しばらく無言で抱き合う二人。

 だが──周囲の状況がそんな二人を許さなかった。炎に包まれているために熱く、呼吸も荒くなっていく。

 

「──梅里さん、どうやってここに来たんですか?」

「花組のアイリスの瞬間移動を一か八か、『月食返し』できるか試してみたら、できた。イメージは遙佳の『千里眼』で見たのを千波に送ってもらったからね」

 

 梅里が説明するが、かずらは自分以外の女性の名前がポンポン出てきたので、「むぅ」と頬を膨らませる。

 すると、梅里が申し訳なさそうに言う。

 

「それでかずら。ものは相談なんだけど……ここに来るところまではちゃんと計画通りだったんだけど……この後の脱出は、キミの力を借りないとできないんだ」

「え?」

 

 戸惑って顔を上げたかずらが梅里を見ると、彼は見慣れた苦笑を浮かべている。

 それを見て思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「まったく……せっかく王子様が迎えに来てくれたと思ったのに。お姫様を働かせるなんてヒドい王子様もいたものですね」

「それを言うなら、かずらも魔法が切れるからと慌てて舞踏会から帰ったり、古城で大人しく眠っているようなお姫様じゃないだろ?」

 

 わざとらしくため息をつくかずらに、梅里が意地悪く笑みを浮かべて応える。

 それに対して彼女はクスッと笑った。

 

「ふふ……そうですね。それは私の性分に合わないかもしれませんね」

 

 名残惜しそうに抱きついていた腕を解放し、かずらは足下にあったバイオリンを手にする。

 彼女が普段の演奏に使うような繊細なものではなく、錬金術班が戦闘にも耐えられるように、と頑丈に補強したものだけあって、高温に歪むこともなく、普段通りの音が出た。

 それを確かめたかずらは、傍らで久しぶりに愛刀『聖刃(せいじん)薫紫(くんし)』を構えた姿を見せた彼に頷く。

 

「やりましょう、梅里さん」

「ああ。かずら……」

 

 彼は、再び霊力を高めると、銀色の光球に包まれた。

 そしてかずらの霊力を込めた演奏が響きわたる。

 

「満月陣・響月(きょうげつ)!!」

 

 かずらの奏でる調べは、梅里の構える刀をまるで音叉のように共鳴させ──それにあわせて二人の霊力が混ざり、高まっていく。

 それが頂点になったとき──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 焼け落ちる料亭を前に、夢組の救助メンバーに選出された面々は呆然とそれを見つめていた。

 消火活動も、もはや消火は諦められて延焼を防ぐことに専念している。

 そんな中、建物に取り残されたことが分かっているかずらの脱出を待ちわびていたのだが──

 

「これは……」

 

 もはや素人目に見ても脱出なんて不可能なのは明らかだった。

 木造建築のそれは残らず火に包まれ、今にも崩れ落ちそうなほどだ。

 

「かずら。それに……」

 

 見ていた白繍せりが思わずつぶやく。

 無線だけで聞いた、久しぶりのあの声の主は──きっとあの建物の中にいるはずだった。

 

「これじゃあ中にいた人は……」

 

 見つめるカーシャが呆然とつぶやくのを横で聞いていたせりは、それに気がついて視線を走らせる。

 

「音……いえ、旋律……かずらなの?」

 

 消火作業の怒鳴るような喧噪や、木材が燃えて起こるパチパチという音に混じって、かすかに聞こえるそれは、聞き覚えのある楽器の音色だった。

 

「ああッ!!」

 

 それは誰かがあげた、建物が焼け落ちて崩れる悲鳴に打ち消され──次の瞬間、崩れていくはずの建物の一部が、内側から爆ぜるように吹き飛んだ。

 

『──えッ!?』

 

 見ていた全員が呆気にとられる。

 彼らが見つめるその真ん中には、掲げるように刀を構えた梅里と、一心不乱にバイオリンを奏でるかずらの姿があった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──かくして、かずらは無事に救出され、深川の料亭での火災は、建物こそ甚大な被害を出したものの、死亡者を出すくとなく無事に鎮火した。

 騒動に巻き込まれた──というよりはむしろ命を狙われた──海軍大臣・山口和豊も花組の活躍によって、無事に窮地を脱した。

 

 後日、そのお礼もかねて大臣は大帝国劇場を訪問し、花組達の歓迎をうけるのであった。

 




【よもやま話】
 前の─8─と含めてなんか短い感じがしているかもしれませんが、どちらも4千文字くらいでして、前作ではこれが普通サイズでしたよ?
 『~2』になってからどうにも長くなることが多いだけです。
 ──しかし今気づいたのですが、敵幹部を出し忘れたなぁ、と。
 ゲーム3話と4話のボスである土蜘蛛も火車も完全にスルーしてしまいました。火車とかこの後、普通に出番なく終わりそうです。
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