サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~ 作:ヤットキ 夕一
「せりさんッ!! しっかりなさいッ!!」
その声は、通信機を通じたものだったが、せりの心に激しく訴えかけていた。
言外に感じられる「あなた、それでいいの?」「あなたの彼に対する気持ちはそんなものなの?」というかすみの言葉。
それにせりは反応して──
「──ッ!?」
突然聞こえたその通信に、我に返るせり。
そして今の状況──自分が梅里を狙っていることに気がついた。
その手の内には今にも放とうとしていた雷──妖力による黒いそれだったものが、せりが意識を取り戻したことで青白いものへと染まる。
──ふと、思い出す。これとそっくりな状況があったことを。
(これは……あの日の再現だ)
それは、あの日以来、一日たりとも忘れたことがない、せりにとって最悪の夜の光景。
何度後悔したことか。何度悪夢に見たことか。
悔やんでも悔やんでも、悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない──せりの心に刺さった棘。
──せりは梅里を射抜いたあのときを、瞬間的に思い出していた。
ただ一つ違うのは、前は放たれた直後に意識を取り戻したが、今は放たれようとする寸前に意識を取り戻せたこと。
ほんの少しの差ではあったが──大きな違いだ。
なぜなら、どうにかしようとあがくことができる。
それでも──
(ダメ、技を途中では止められない……)
──高まった電撃は逃げ場を求めていた。
中断はできない。放つしかない。
──それをとっさに判断し、どうにか定めていた狙いを──彼を見つめていた目を強引に逸らす。
そして流れた視線が偶然捉えたものを見つけ──そのときにはそれを放っていた。
稲妻となった電撃を帯びた矢は一直線に迅り──梅里ではなく、それと相対していた土蜘蛛を偶然に貫く。
「なッ!?」
突然の流れ矢のような一矢を受け、土蜘蛛は戸惑った。
普段なら反応できていたかもしれないそれも、射手の意志が、殺気がない矢だったために察知することができず、それに気づくことなく受けたのである。
「くッ……キサマら、ナメた真似を……」
受けた傷を手で押さえつつ、土蜘蛛は憎しみを込めて梅里を睨みつけていた。
そして自分を傷つけた射手を探す──矢が来た方向で、弓を持った夢組隊員が離れた場所にいるのを認める。
「弓矢ならこっちにもあるが……」
数の上では二対一になった。
普通ならそれでも土蜘蛛は戦っただろうが、今は相手が悪い。
相対している華撃団夢組の隊長は、もう一人を相手にしながら片手間で戦えるような楽な獲物ではないからだ。
「癪だが……まぁ、時間は稼いだ。十分だろう? 水狐」
彼女のためにやったことではないが、与えられた使命は果たしている。
「それに、楽しみはとっておかないとな。そうでなければ狩りがつまらなくなっちまう」
引き時とみた土蜘蛛は六本の腕で地面を叩き──まき起こった圧倒的な量の土煙にその身が隠れ──梅里が警戒する中、土煙が消えた後にはその影は消え去っていた。
「ふぅ……」
梅里は大きく息を吐き出すと、刀を腰に納める。
終始圧倒した梅里だったが、主導権を握り続けていたからこそであり、決して油断できる相手ではなかった。
その脅威が去り、警戒を緩めた梅里は、敵を退かせるきっかけになった青い稲妻が放たれた元の方へ目を向ける。
そこには、ペタンとその場に腰を落として呆然としていた、せりの姿があった。
梅里はせりの方へと歩き出した。
まだ呆気にとられている様子だった彼女だが、梅里が近づいてくるのに気が付くと、慌てた様子で立ち上がる。
そして、一目散に逃げ出した。
「なんで……?」
驚いた梅里はせりを追いかける。
運動神経の良いせりの足は速かったが、それでも男女の差は大きいし、なにより梅里も体を鍛えている。
距離はすぐに縮まり──梅里はせりの肩に手を伸ばす。
「せり! なんで逃げるんだよ!」
梅里の手が肩を掴むと、せりは観念したように足を止めた。
だが、それでも振り返ることはできなかった。
「それは……今、あなたのことを……」
そこまで答えるのが精一杯。それ以上は言えないせりの意を汲むように、梅里が遮った。
「せりのさっきの一撃のおかげで土蜘蛛を退けられた。助かったよ。ありがとう……」
感謝の言葉。
その心からの言葉は、彼の優しさを如実に表しており──それが却ってせりの心を締め付ける。
「そんなこと……ない」
梅里に背を向けたまま、せりは言う。
そして二度目の言葉はほとんど叫ぶように言ってた。
「そんなことない! 今のは、お礼を言われるようなものじゃない。お礼を言われる資格なんて……私には、無い」
せりの吐露で、頭の後ろの二つのお下げが揺れる。
それを見つめながら──梅里は口を開いた。
「──なんで?」
それに対してせりは、さらに言葉を感情と勢いに任せて続ける。
「だって、今の
「──どうして?」
責めるような語調ではなかった。
ただ純粋に理由を──まるで、子供のやったたわいないイタズラの理由を笑顔で尋ねる親のように、彼が尋ねる。
だからせりは自然と──まるで子供のように感情を爆発させていた。
「そんなの、わかるわけ無いわよ! 気が付けば、あなたに狙いを定めていた。手には私が生み出した雷があるし、しかもそれは──真っ黒くて、まるで妖力みたいなものでできていて、すぐに私の霊力で元に戻ったけど……本当は、本来は違ったのよ? あなたのことを助けようと思って、あなたが戦っていたのが見えたからその手伝いがしたかったから……弓に矢をつがえて、狙いを定めたのに……」
うつむいたせりの肩がわなわなと震える。
自分のみっともない部分をさらけ出すようで、この先を言うのは抵抗があった。でも──梅里に洗いざらい本当のことを話したい、という気持ちが上回った。誤解されたままでなんていたくはなかったからだ。
「土蜘蛛に狙いを付けて、そして思ったの。あの人の胸とか、露出の多いその姿を見て、ああ、またあなたが私以外の女の人といるって──戦闘中なのに、敵として戦っているのに──そんなこと、頭ではきちんとわかってるはずなのに、心が、この胸が──勝手にそう思いこむのよ!」
忌まわしいものへ抗議するように、せりは胸当て越しに自分の胸をもどかしげにトンと強く叩く。
「その気持ちに抑えが効かなくなって──気が付けば、また、あなたを狙っていた」
背を向けて、顔向けできない彼に対するせりの懺悔。
だが──その彼はさらに踏み込んだ。
「──また?」
ああ、やはりそこをついてくるのか、とせりは思う。
今回の懺悔のついでにこっそり入れた、せりなりの告戒。
それを、彼は流しはしなかった。きちんとついてきた。
しかしそれこそが、せりが本当に求めていたものかもしれない。彼なら、そこに気がついて、きっと問うてくれる──そんな信頼が、あった。
だからせりは、覚悟ができていた。
肩が震える。手も足も震える。
それでも必死に拳を握りしめ、力を込めて震えに
「そう……あなたを、前にあなたを射抜いて命の危機にまで追い込んだのは……私なの!!」
言った。
言ってしまった。これで後戻りはできない。
それどころか、もう一緒にいられないだろう。でも、それでも彼に隠し事をしたままでいるのは──彼に嘘をつき続けるのは、もう耐えられない。限界だった。
振り向くや怖くて目をつぶっての告白だったが、それを終えて恐る恐る顔を上げると──彼は、なぜか笑顔だった。
とても優しい笑顔で──彼は言った。
「──うん。知ってた」
実にあっけらかんとそう言った梅里に、せりは呆然とする。
「……え? 気づいて……いたの?」
驚いて目を見開くせり。
そんな彼女の問いに梅里はうなずきながら、笑みを苦笑へと変えた。
「一緒にいるようになってから、どれくらいだと思ってるんだよ。気が付かないわけないだろ? あの『
「な……」
「でもまぁ、自分で受けたのは、あれが初めてだけど……」
そう冗談めかして言う梅里に、せりの肩が再びわなわなと震え始める。
「な、なによそれー!!」
そう叫んで感情を爆発させたせりは一気にまくし立てた。
「まったく、あなたはそういうことを平気で言って……私が一大決心して言ったことを茶化して……本当に、信じられない!」
一度始まった感情の吐露は止まらなかった。
「あなたが! 梅里が意識も記憶も戻ったのに、何も言わないから、てっきり……気が付いていないと思ったのに。でも、なんで? それならなんで今まで黙ってたのよ! あなたが何も言わないから、私……とっても悩んだんだからね!」
「……ごめん」
「そんな笑いを浮かべたまま謝ったって許さないわよ、もう。ホントに信じられない……どれだけ私が悩んだことか。誰かが気が付いて……もしも裏切ったって告発されたら、私、華撃団にいられなくなっちゃうと思って……」
「僕が、せりが裏切ったと疑うとでも思ったの? それは心外だよ」
そう言ったときの梅里は、笑みを浮かべていなかった。
真面目な面持ちの彼は、少し怒っているようにさえ見える。
「そうさ。裏切るなんて思ってない。だから……ずっと待ってた。やっと、言ってくれたね、せり」
「──どういう、こと?」
厳しかった顔が急にホッとしたような笑顔になった梅里に戸惑うせり。
そんな彼女に説明する。
「鬼王と戦っていた僕を撃った犯人として、せりのことは疑われてはいたんだ」
共に襲われた二人の──そのうち、梅里を貫いた光を見たというかずらの証言。
治療し、診察した大関ヨモギによる傷の所見と、記憶喪失の原因と思われるもの──電撃のような攻撃を受けたではないか? という推測。
それらの証言、証拠だけでは可能性の一つとして考慮する程度の弱いものだった。
しかし、遅々として進まない梅里襲撃に関する調査と、それに対する責任者であるはずのせりの消極的ともいえる姿勢は、当初は事件そのものがショックだったのだと思われたが、いつまで経っても改まることがなかった。
普段のせりを考えれば「大将のことを傷つけたヤツなら、地の果てまで追いつめて犯人を引きずってくるだろ」と釿哉が揶揄するほど、のめり込んでもおかしくないと言うのに。
その上、消極的な割には日に日に憔悴していく様子は、気が付いてみればおかしいとわかる。
そして──記憶が戻った梅里は、さっき彼自身が言ったように、『天鏑矢』だとほぼ確信していた。
ゆえに梅里は特別班四天王の五人目を使った。
そして──あの喫茶店でせりが妹のなずなに自白するのを、彼女は聞いていたのだ。
「でも……だからこそ、せりが犯人だとこっちで決めるわけにはいかなかった」
「なんでよ? 私が犯人だって確信したなら、捕まえればいいじゃない」
意味が分からず問うせり。実際、あのときも、あのあとも苦しみ続けていた。
早く楽にしてほしかったと思っていたせりにとっては、苦痛でしかなかったのだ。
梅里は答える。
「僕はせりを信じていた。キミは裏切らないって」
「そんな……どうしてそこまで私のこと……」
信じられるのは嬉しいことだが、その盲信の理由は気になる。
梅里は笑顔で答えた。
「だって僕の心を救ってくれたのは、せりだったじゃないか。あのとき彼女の想いを教えてくれたから、今の、生きることに前向きになれた僕があるんだ。そんなせりが……僕を救ってくれたキミが、裏切るわけなんて、ありえない」
「な……」
「だから、キミを裏切り者として捕まえるわけにはいかなかった。たとえそれが誰かに操られたものだったとしても。僕は信じていた──本当のことをこうして自分から話してくれるって」
「うめ、さと……」
せりの目に涙が溢れる。
こぼれ落ちたそれは頬を伝い、地面を染める。
「ズルいわよ、そんなの……」
涙と共に憑き物が落ちたように、何かが抜け──脱力したせりが崩れ落ちかけるのを、梅里は慌てて抱き留める。
「怖かった。あなたの元から離れなければならなくなるのが。だからどうしても言えなかった。言おうと思っても……私の弱い心が、みんなを信じきれなかった」
今にして思えば──なぜ、あの戦いをくぐり抜けた戦友達を信じることができなかったのか。
自分の主張を聞いてもらえず断罪される、と思いこんでいたのか。
「そうこうしているうちに、気が付けばあなたと誰か他の女の人が一緒にいるのを目にしたら気持ちが暴走するようになってた。私の、嫉妬心が──」
抱きつくような形になったせりは、梅里の胸に顔を埋める。
これが──これこそが、せりがあの事件で梅里を射抜いてから今まで何度と無く夢見、焦がれ、そして欲した感覚だった。
「そうよ、私は嫉妬していたの。あの日も、かすみさんの言うことをなんでも聞いてしまうあなたに。だから喧嘩して……それでも待ってくれてると思ったのに、あなたはかずらとかすみさんと一緒に帰った。私を置いて……」
「あのときのことは、ごめん」
梅里が思い出しながら謝るが、せりは顔を上げて怒る。
「許せないわよ! それからことあるごとに嫉妬が強くなっていったのに……記憶が戻ったあなたが水戸に行っている間、私がどれだけ思いを募らせたか、そのせいでいろいろ考えて、嫉妬が暴走するのを抑えるのに、どれだけ苦労したか、わかる?」
梅里が水戸から戻ってくる頃には、すでに嫉妬心を抑えこむのに一苦労するありさまだった。しかもそのうち、嫉妬心が妖気を生み始め──それを防ごうとさらに必死に霊力で押さえ込み──そのせいで憔悴したせりは、まるで鬱のような精神状態になっていたのだ。
「もう制御するのも限界に来ていたの。それで今回は、一緒に探索することになって……私が見つければ、敵の襲撃を警戒してあなたがレニの元へ向かうことになるのは分かっていた。でもそうなると……私は嫉妬を抑えきれなくて、あなたかレニを殺しかねない」
「え……?」
梅里が戸惑って思わず声を出したが、せりはそれに気がつかず、話を続ける。
「そう思ったから、飛び出したのよ。なんとしてでもあなたよりも早くレニを見つけて、私の手で保護しないと、と思って」
せりの罪の告白は、今回の件にまで及んでいた。
だが、それを聞いた梅里は、眉をひそめる。気のせいか、なぜか引いているようにさえ、せりの目には見えた。
「え? ちょっと待って。ひょっとして……せりって宗次や釿さん、和人やロバートにも嫉妬していたの?」
そんなことを言われれば、さすがに驚くせり。
あの土蜘蛛にさえ嫉妬したことに驚いたが、アレはまだ確かに性別的には女性だった。さすがに男には嫉妬心を抱いていない。
もちろん──男同士の交わりを想像するような趣味もない。
「えぇッ? そ、そんなわけないでしょ!? 私って、そんな目で見られてたわけ?」
「ん? そんな目って……どんな目?」
BL的なものを想像したせりに対し、意味が分かっていない梅里が問い返すと、耳年増のせりは顔を赤くする。
「なんでもないわよッ!! とにかく、なんでそんなこと聞くのよ!?」
「いや、だって……レニって、男でしょ?」
「──は?」
呆気にとられるせり。
そんな反応を見て戸惑う梅里。
二人の間で空気が固まっていた。
すでに帝劇では女性として認知されているレニだが、来た当初は男だと思われていた時期が確かにあった。
──勘違いした大神がレニの入浴中に入り込むという、トンデモ事件を起こしてそれが分かったのだが──大神の周囲からの好感度という大きな犠牲を払っていた。
ともあれ、それが分かったのはレニが来てからしばらくしてからのことだ。
一方、レニが来た直後に襲撃事件によって意識不明の重体になり、意識が戻っても記憶喪失でカンヅメ状態。それが解消したら今度は水戸に長期帰省──と、レニとほとんど入れ違いになっていた梅里。
そんな彼が戻ってきたころにはにレニが女だというのは帝劇内では当たり前の話になっており、改めて梅里に知らせる者も無く、彼が知る機会は皆無だったのだ。
それに気がついたせりは、ため息混じりに言った。
「レニって……女の子よ?」
「は? いやいや、そんなわけないでしょ」
そう苦笑を浮かべる梅里。
それを聞くや、途端にムキになるせり。
「あのねぇ、レニは女なの! 逆に訊くけど、どうしてそう思うのよ?」
「だって、一人称が“ボク”でしょ? 僕と一緒なんだから男に決まってる……」
「は? なにそれ、それだけの理由でそういうこと言うの? それともなに? あなたも大神少尉みたいに、一緒にお風呂にでも入って確認したっていうの? でもそれならおかしいわよね!? 見たら分かるんだから!!」
「見たらって……」
梅里が苦笑を浮かべると、せりは急に顔を真っ赤にする。
「う、うるさい!! と・に・か・く!! レニは女の子なの!! だから、私は、あなたがレニと触れたら嫉妬がまた抑えられなくなると思ったのよ。そう思ったのに──ッ!?」
レニと梅里が触れる、自分で言ったその状況を想像しただけで、心が嫉妬を生み、せりの霊力はドス黒いものとなって暴走しかける。
あふれ出した黒い影に。「ダメ……」と絶望的になるせり。
それを──梅里が再び力強く抱きしめた。
「あ……」
「そんなのに負けるようなせりじゃないだろ」
戸惑ったせりは、梅里に言われてハッとする。
悪いものを生み出しているという自覚があったから、これを抑えようという気持ちはあった。
でも──心のどこかで向かい合う気持ちに甘さがあったように思える。
それは「梅里に嫉妬するのは、仕方がないこと」とどこかで諦めていた──むしろそれさえも愛情表現の一つである、とまで考えていたせりの気持ちは、少なからず嫉妬を受け入れていた。
(それが原因、だったのかしら……)
梅里の手に包まれている安心感、それに身を委ねていると──通信が回復し、同時に水狐の使っていた魔操機兵を破壊したという連絡が入った。
「水狐って……サキさん、だったんでしょ?」
敵の間者だったということはすでに周知されている。
それでも少しせりが寂しそうなのは、同じ帝劇で働き、食堂副主任として事務局で働いていた彼女と接点があったからだろう。
「ああ。でもね、せり。アイツはキミの心を利用した……僕は絶対に許せない」
梅里もまた、少し寂しげに言う。
それを見てせりは苦笑を浮かべ──
「絶対に許せない、って顔してないわよ」
彼女の言うとおり、梅里の顔には激しい怒りを抱いているようには見えなかった。
「まったく、優しすぎるんだから」
クスッと笑うせり。だが、彼女は梅里と同じようにサキをどこか許せない、という気持ちにはなれなかった。
「でもね、私は……自分のことはさておき、あなたの命を本気で狙ったあの人を、許すことはできなかったと思う……って、あ、れ……?」
そこまで言ったせりは、急に脱力していた。
突然のことに自分でも戸惑うが、抱き留めていた梅里もまた、驚いてた。
「……黒い霊力が、抜けていっている?」
せりを縛り付けていた妖力が離れていくように梅里には感じられた。おそらく、水狐がかけた呪いが、本人の死によって解けたのだろう。
せりから抜けた黒い妖力が、舞い上がり、空に散っていくのを、梅里とせりは複雑な思いで見つめていた。
【よもやま話】
ようやく、ここで1話からつづいていたせりが負い目から解放されました。
──でも、第3話はあとちょっとだけ続く。