サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 華撃団は、水弧に続いて五行衆の一人である火車を倒したことで盛り上がっていた。

 その最大の功労者はやはり前面に出て、霊子甲冑で戦う花組である。

 彼女たちを労う一方で──火車が起こす爆発を、結界を使うことで必死で最小限にくい止めていた夢組の封印・結界班も評価されていた。

 また、対火には完全な耐性を持ち、さらには対巨体戦闘(ジャイアントキリング)を得意とする紅葉が、水を得た魚のように霊子甲冑顔負けの活躍を見せて存在感を顕していた。

 その一方で──梅里とせりは「非常召集にも応じないとは何事だ」と厳しい叱責を受けた。

 特に梅里は──

 

「せりは隊長預かりなんだ。せりの責任もお前が背負え」

 

 ──と米田司令から特に厳しく注意され、その罰として居残りで、因縁の棚卸しにあたることになった。

 それもたった一人で、である。

 せりはもちろん、「せりさんと二人にするわけにはいきません」と主張するかずらや、しのぶが手伝おうとしたのだが──米田は「それだと罰にならねえ。手出し一切無用」と厳命していた。

 ようやく終わったころには遅い時間になっていた。

 疲れ果てた梅里は疲労感も相まって、食堂のテーブルの一つに突っ伏すようにして寝てしまっていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そんな梅里へと近づく影があった。

 時期的には、濃紅梅の羽織にコックコートだけではさすがに風邪をひいてしまいそうな気温になる季節である。

 そっと梅里に近づいた人影は彼の気持ちよさそうな寝顔を確認し──手にした包丁を振り上げた。

 

 

「──それで殺すのは勘弁してくれないかな。大事な商売道具なんでね」

 

 

 素早く身を翻す、その人影。

 

「ただ命を奪うためではなく、命を生かすためにいただいている。それが食事であり、そのための道具が調理器具だから」

 

 それは代々食事方をつとめてきた武相家の家訓でもある。

 

「だから、もし僕をそれで殺すとしても僕を食うわけにはいかないだろう? たとえキミが『夢喰い』なんてコードネームを持っていてもね」

 

 梅里が言うと、相手はビクッと肩を震わせた。

 それを確認して、梅里はゆっくりと身を起こす。

 

 

「待っていたよ、カーシャ」

 

 

 そう言った梅里だったが、目の前の女性を見て戸惑った。

 姿形はたしかにカーシャ──アカシア=トワイライトに間違いない。

 だが彼女は一つだけ、決定的な違いがあった。金髪であるはずの彼女の髪が──銀髪になっている。

 

「……単純にカーシャ、って訳ではなさそうだね」

「あら、ワタシはカーシャよ。この体は間違いなく──」

 

 言いながら腕を振り、手にしていた包丁を投げつけてくる。

 対して梅里は「だから、やめろって……」と愚痴を言いながらそれを避ける。包丁はその先のテーブルに見事に突き刺さっていた。

 

「あ~あ、せっかく研いだのに。あれじゃあ使い物にならないよ」

「包丁を気にしている余裕なんてある?」

 

 彼女はそう言いながら、その隙に一気に距離を詰めていた。

 その両手で握りしめた波状の刀身の大剣を振りかざして。

 

「室内で、そんなものを!!」

 

 どうにか避ける梅里。

 彼女の手にしている剣は、普段の夢組の任務で使っている彼女の家に伝わる波状刃の大剣(フランベルジュ)、『ヒート・ヘイズ』である。陽炎の意味を持つその名の通り、熱を帯びたその大剣は、刀身周辺の空気をゆがめて距離感を掴みづらくさせる。

 その特性を知っているからこそ、大きく距離をとってやや大げさに避けようとするが場所が悪い。食堂にはテーブルやイスなどが置いてあり、梅里の動きを阻害する。

 梅里は追いつめられ、波状剣(フランベルジュ)の切っ先を突きつけられていた。

 

「一つ質問していいかしら?」

「……どうぞ」

 

 追いつめている者と追いつめられている者。ギリギリの緊張感の中でのやりとりで、カーシャは尋ねる

 

「なぜ、ワタシに気がついたの? アナタの刀……クンシと言ったかしら? それが近くに無いのに」

 

 それに梅里は淡々と答える。

 

「武相流の極意に、臥待月(ふしまちづき)というのがあってね。それを使って寝ると危機が迫れば目が覚める、という技だよ。おかげで疲れはとれないけど」

 

 苦笑する梅里。これは警戒しながら休息をとるというような便利な技ではないのだ。

 

「様々な種類がいる魑魅魍魎の中で、寝ないと姿を現さないような慎重な妖もいるからね──キミみたいに」

「ということは、ワタシは罠にかけられた、ってこと?」

「そうなるね」

 

 ため息混じりに尋ねる彼女に、梅里は首肯する。

 

「そういえばアナタは前に、“仲間は信頼したい”というようなことを言ってなかった?」

 

 皮肉気に笑みを浮かべる彼女。

 それに梅里は笑みを浮かべて答えた。

 

「うん。()()()、ね。でもカーシャはともかく、キミは仲間ではないだろ?」

 

 梅里の、目の前の女を見る目が一瞬鋭くなる。それに対して彼女は余裕のある表情で答えた。

 

「あら、つれない。それとも気が付いているのかな、ワタシのことを……」

「予想レベルだけど、薄々は。一応これでも霊能部隊の隊長なもので。魔術や呪術の知識も詰め込んでいるからね」

「なるほど。でも……いくら囮だからって、丸腰なのはナメすぎじゃない? さっきも言ったけど、ワタシはカーシャよ?」

「それはさっき、身に染みて分かったよ。紅葉と互角に戦えるだけのことはある」

 

 剣を突きつけられたまま言った梅里は、そこでニヤリと笑った。

 

「でも、キミも忘れていないか? 僕は、紅葉に勝てるってことを」

「そう。ならそれは──あの世で自慢なさい!!」

 

 剣を握る手に力が込められ、一瞬で突きが放たれる。

 突きつけられていたそれが、梅里の胸へと迫り、突き刺さるのには時間を必要としなかった。

 が──

 

「なッ!? これは……」

「──朧月。話しながらでもどうにかできるようになったのは、最近の訓練の(たまもの)だけどね」

 

 カウンターを仕掛けるのではなく、少し離れた場所へ移動していた梅里。

 会話中のために「無への没頭」が甘かったのを強引に発動させたせいで体への負担が大きかったために、大きく息を乱しながら説明する。

 

「でも……逃げ回るのにあと何回、それを使えるのかしらね!」

 

 再び切りかかろうとする彼女だったが、危険を察知してそれを急に止める。

 そして目の前を矢が抜けていった。

 矢が飛んできた方を見れば──予想通りの人が弓を構えていた。

 

「あら、“仲間”をまた射抜くつもり? せり」

「私の嫉妬をさんざん暴走させてくれたあなたを、仲間と思えって言うの? カーシャ」

 

 二の矢を手に取りつつ警戒し、せりは梅里の下へと移動する。

 そして持ってきていた彼の愛刀を手渡した。

 

「確かに、私に嫉妬心を煽って妖力を吹き込んだのは水弧だった。でもその後、私に妖力を使って干渉して、嫉妬心を暴走させたりしたのはあなただと、調べがついているわ」

「あら、そこまでバレちゃったの? じゃあ、この潜伏生活も今日で終わりね」

 

 そう言って大げさに肩をすくめる。

 

「あ~あ、ここでの生活も気に入っていたので残念だわ。単純で鈍いあなたのことだから気が付かないと思っていたけど、さすがに他の人には気がつかれちゃったか」

 

 挑発の笑みを浮かべる彼女を、せりは睨みつけ、手にしていた矢をつがえる。

 

「あなただけは、絶対に……許さない!!」

 

 せりの霊力が高まり、矢が雷を帯びる。

 

「せり!? ちょッ──」

 

 そんな彼女の反応に驚き、声をあげて止めようと試みた梅里だったが、時すでに遅し。

 一条の稲妻となって放たれる彼女の必殺の一矢、『天鏑矢』が目の前の敵へと放たれていた。

 それに対し──彼女が構えた波状刃の大剣(フランベルジュ)が白銀色の光を帯びる。

 その特徴である波状の刃を覆うように霊力の刃が形成され、さながら銀色の直剣となり──構え振りかざすそれで迎え撃つ。

 

 

「これで──払暁黎明(デイブレイク)()閃攻(スマッシュ)ッ!!」

 

 

 向かい来る矢──それも稲妻と化したそれに対し、全力を込めた大剣の一撃をぶつける技量はさすが、という以外にない。

 二人の霊力が込められた攻撃は衝突し、拮抗し、そして炸裂する。

 

 

「「──ッ!!」」

 

 

 まさに落雷のような轟音をたてて起こった爆発は食堂をのテーブルやイスを吹っ飛ばし、巻き起こった爆煙が収まるまでの間、梅里はせりの近くに寄って、敵の襲撃を警戒していた。

 

 

 だが──結果的にはそれはなく、収まったころには、彼女の姿はどこにもなかった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 姿を消したカーシャが、大帝国劇場から逃げ去ったのは明らかだった。

 それを追おうとするせりを、梅里は掴まえて止める。

 

「追うな、せり」

「なんでよ!? アイツはあなたを……」

「さっきのを除けば、彼女は今まで僕を傷つけることはしていなかった。確かに、心を乱されたせりからしたら許せないと思うのはわかるけど……彼女は、なにか違う」

「なにかって……なによ?」

 

 梅里が必死に止めたので、せりは落ち着きを少し取り戻していた。

 

「彼女は、五行衆みたいに組織の考えに心酔しているわけじゃない。この前会った男とも違うように思える。彼女が僕らと戦う理由は──その原因は、きっと僕にある」

「あなたに? なんで? だって、アイツが華撃団にくるまで面識なんてなかったんでしょう?」

「うん。それは間違いない。でも……」

 

 梅里は心当たりがあった。

 彼女の祖国の顔を潰したことが、一度だけある。面識のなかったカーシャに、命をねらわれるほど恨まれるのだとすればそれ以外にない。

 

「……わかったわ。でも、私は許すつもりはないからね。どんな理由があっても」

「それは僕も分かってる。でも……一度きちんと話したいと思ってさ。なにも話さずに殺し合うなんて……向こうは潜入のつもりだったかもしれないけど、食堂で一緒に働いた仲間とそうなるなんて、悲しいと思ってさ」

 

 納得はしていないが、引き下がるせり。

 そして、その代わりとばかりに──気になっていた質問をぶつけた。

 

「……面倒くさいこと、聞いていい?」

「あまり良くないけど……」

 

 そう聞かれて素直に頷く人はいないんじゃないかと思いながらも渋々頷く梅里。

 そしてせりは、それでも一度躊躇ってから──意を決して尋ねた。

 

 

「私、鶯歌さんの代用品、なの?」

 

 

 意外な質問に、唖然とする梅里。

 確かにそれは言われたが、あれはさっきのカーシャとのいざこざで出た言葉ではない。もっと前の、黒装束の男から言われた言葉だ。

 つまりそれは、せりがずっとそれを思い悩んでいた、ということでもある。

 驚いて思わずせりの顔を見る。彼女は、思い詰めたように、真剣な顔をしていた。

 それに梅里は苦笑し──やがて大声で笑っていた。

 

「なッ!? ちょっと、私が真剣に──」

「ひょっとしてこの前言われて、気にしていたの?」

 

 笑う梅里を「むぅ」と睨んでいたせりだったが、彼から訊かれて躊躇いがちに頷いた。

 それに梅里は──

 

「そんなわけないだろ」

 

 ──ときっぱり言う。

 それから笑みを止めると、懐かしむように虚空を見つめる。

 

「鶯歌は、明るくサバサバした性格で、細かいことは気にしなくて、突然の思いつきで行動するから引っ張り回されたりして、そのくせ感激家で些細なことで喜怒哀楽を爆発させて──」

 

 そう長所を連呼されればせりとしては面白くなかった。不満げな顔で、さらに頬を膨らませる。

 しかし、そこまで言って梅里は自嘲するような寂しげな笑みを浮かべて、自分の両手を見つめた。

 

「そんな彼女のその命を僕が奪ったんだ。代わりなんて──求めないよ」

 

 寂しげな笑み。心の痛みが伝わってきて、せりは申し訳ない気持ちになる。

 そんな彼は、ふと視線をせりへと向けて、朗らかな笑みを浮かべた。

 

「でも──もちろん、明るくて勝ち気で、世話焼き好きで優しくて、だから子供にも好かれて、しっかり者だから計画的で少しだけ口やかましくて、そのくせ心配性で困っても周りになかなか相談できないから目が離せない、そんなせりの代わりになる人だっていないよ」

「な──ッ!?」

 

 不意をつかれて思わずドキッとするせり。

 思わず急に激しくなった鼓動を押さえるように、胸に手を当てる。

 

(急に、言うから……ホンットにズルいわよ!)

 

 心の中で抗議しつつも、本心は嬉しくて仕方がなかった。

 鼓動が大きくなる中、せりはそっと梅里との距離を詰める。

 そして──

 

 

「──うん、しのぶさんの代わりになる人も、かずらの代わりになる人も、ね。誰かの代わりを別の誰かに求めるなんて、やったらいけないことだよ」

 

 

 梅里は笑顔でそう言ってのけた。

 

「な……」

 

 さっきと同じ言葉が思わず出たが──意味合いはだいぶ違う。今度のそれは“呆れ”に近い。

 そしてせりは強引に笑顔を浮かべ、それがひくつくのを隠そうともしない。

 

「そうよね、あなた……そういう人だったわ」

 

 笑顔でありながら怒ったせりが、梅里に詰め寄る。

 

「ちょ、ちょっとなんで怒るのさ!!」

「うるさい! アンタはいい加減、乙女心というものを少しは理解しなさいよ!!」

 

 詰め寄るせりに梅里は戸惑う。

 

「なんだよ、乙女心って……」

「あなたが、そんなだから……私がやきもちをやくことになるんでしょうが!!」

 

 怒りに任せたせりが、梅里の顔を両手で掴む。

 驚いた梅里の目と、怒ったせりの目が至近距離で見つめ合う。

 そのせりの目が、潤んだように梅里の目には見えた。

 

「お願いよ。いつも見てとは言わないけど……今、私とあなたしかいないんだから……せめて、こんなときくらいは私だけを見てよ」

「──ッ!」

 

 そう言ったせりの目は、明らかに普段の──食堂主任や調査班頭といった顔の──それとは違う恋する乙女の、梅里を求める目だった。

 その目が閉じられる。

 思わず梅里は息を飲む。

 せりがねだるように出した唇に吸い込まれるように──

 

 

「こんなところで、いったい、何をしているんですか? お二人とも……」

「「──ッ!?」」

 

 

 横からの声に慌てて身を翻して、離れる二人。

 そして、声のした方を見れば──

 

「か、かすみさん!?」

「あの、これは、その……」

 

 驚くせりに、狼狽する梅里。

 にっこりと笑みを浮かべ、食堂の入り口に立った彼女は、その笑みの奥に怒りを宿して──ツカツカと二人の下へと歩いてくる。

 

「主任?」

「は、はい!?」

「この、惨状は……一体なんですか?」

「惨状?」

 

 かすみが怒りを押さえて周囲を見渡す。それにつられて梅里とせりも周囲を見渡し──

 

「「あ……」」

 

 愕然とした。

 

「テーブルと椅子はもちろん、床もひどい有様じゃないですか。場所によっては壁まで……」

 

 かすみの指摘通り、テーブルと椅子は木っ端微塵になっているか、酷く傷ついて使えないようなものばかりである。

 それというのも──

 

「せりの『天鏑矢(あまのかぶらや)』とカーシャの『払暁黎明(デイブレイク)()閃攻(スマッシュ)』がぶつかったから……」

「な、なによ!? 私のせいだっていうの? 元はといえば、あなたがこんなところでカーシャを追いつめようとしたからじゃないの!」

「追いつめたかったんじゃなくて、問いつめたかっただけだよ!」

 

 せりの指摘に反論する梅里。それにせりはさらに追い打ちをかける。

 

「へぇ……で、手ぶらでいった結果、波状刃の大剣(フランベルジュ)を振り回す女に追いつめられていたのは、どこのどちら様でしたっけ?」

「追いつめられてないよね? きっちり逃げおおせていたんだけど。その様子見ていたはずだよね」

 

 反論する梅里もすっかりムキになっている。

 

「ええ、ええ、見ていましたとも。私が矢を射掛けなかったら、危ないところでしたよねぇ、隊長さん!」

「ほら、やっぱりせりとカーシャのせいじゃないか。包丁投げて剣を振り回したのはカーシャだしね。まったく、食堂内で矢を射るかな、普通……しかも全力で霊力を込めて──」

「なによ! 貴方のことを守ろうと思って、人がせっかく──」

 

 

「二人とも、いい加減になさい」

 

 

 かすみがピシャリと言い放ち、二人は黙る。

 

「たしかに支配人から許可が出ていたのは私達事務局も知っていますが……これはやりすぎです」

「はい……」

 

 うなだれる梅里の横で、せりがはやすように笑みを浮かべて梅里を煽る。

 それに梅里は、さすがにムッとなってせりを睨むが──

 

「なにか反論でもあるんですか? 主任」

「──ございません」

 

 かすみの咎める目で見つめられて意識を戻され、しゅんとしながら頷くしかなかった。

 

「それで、せりさん……あなたは自分の責任ではないと、そうおっしゃるわけですよね?」

「は、はい……だって、カーシャといざこざを始めたのは彼ですし……」

 

 とばっちりを恐れたせりが予防線を張って逃げ腰になる。

 それを聞いた梅里が抗議の目でせりを見るが──

 

「──わかりました」

「え!?」

 

 かすみがあっさりそれを受け入れたので、梅里は面を食らい、慌ててかすみを見た。

 

「言い分を認めますので、どうぞお帰りください。武相主任はこれの後片づけをお願いしますね」

「そんな……」

 

 うなだれる梅里。それを後目に、煽るような笑顔を浮かべて「じゃ、がんばってねー」と言ったせりだったが──

 

「私も手伝いますので、早く終わらせてしまいましょうね」

 

 ──と、かすみが梅里に微笑みかけたので、その笑顔が強ばった。

 

「は、はい!? なんでかすみさんが梅里を手伝うんですか!?」

「今回の件は事務局の許可も出ていますので、こちらにも責はありますから。でも……たしか、せりさんは関係なかったのではありませんか?」

 

 笑顔で言うかすみに、気圧されるせり。

 

「か、関係……無い……けど、なくもないかな~……って……」

「有るんですか? 無いんですか?」

 

 ついに笑顔を消して、詰問するかすみにせりは──

 

「はい! あります!! 私がやりました!! 私とカーシャのせいで、こうなってしまいました!」

 

 半ばやけっぱちになりながら答える。

 するとかすみは再び笑みを浮かべ──せりに掃除用具をそっと手渡す。

 それを多少ひきつったぎこちない笑みで受け取ったせりだったが、心の中では──

 

(とはいえ、梅里と一緒なんだから悪くもないかな~。まぁ、なりゆきによるけど、お邪魔虫(かすみさん)がいなくなれば、さっきの続きだって……)

 

 ひそかに思い、チラッと梅里を見る。

 しかし、そんなせりの思いを見透かしたかのように、掃除用具を渡して手ぶらになったかすみは──梅里を振り返った。

 

「では、帰りましょうか、梅里くん」

「なッ!? なんでそうなるんですか?」

 

 さすがに抗議するせり。

 それに対してかすみは泰然と笑みを浮かべたまま答える。

 

「だって、今、自分のせいだとおっしゃったじゃないですか。先ほどは責任の所在が不明だったので、食堂の責任者と不始末のあった事務局の合同で後始末をするつもりでした。でも、事態を招いた犯人が名乗り出た以上はそちらに責任を負ってもらうのは当然のことかと思いますが……」

 

 そう言って「あとはお願いしますね」と慇懃に頭を下げる。

 そして頭を上げると──戸惑っている梅里を連れて食堂から出ようと歩みを進めた。

 完全に論破されてしまったせいで唖然としていたせりは、それを見送ってしまう。

 そして、こともあろうかかすみが梅里の腕に自分の腕を絡めようとするのを見て我に返り──

 

 

「ず、ズルい! 卑怯ですよ、かすみさんッ!!」

 

 

 そんな言葉に、かすみは顔だけ振り返ってにっこりと微笑んだ。

 そうはさせじと慌てて二人を追いかける。

 

(もう、やっぱり強敵じゃないのよぉぉッ!!)

 

 追いつき、どうにかその腕を引きはがそうと躍起になりながら、せりは心の奥で悲鳴をあげるのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──翌日、結局のところ食堂は休業となって勤務員一同で後片付けをし、さらには補修作業を行ったために少しの間、休業することとなった。

 そんな状況に、食堂に行くのを楽しみにしていた帝都市民は「食堂でなにがあったんだろうか?」と首をひねる。

 食堂という場所柄から爆発事故説や、一昨年の戦いで残っていた不発弾が爆発した説、蒸気機関の不具合による暴発、はたまた食堂で働く者──具体的には少し前に様子がおかしかった副主任──が嫉妬のあまり心中を仕掛けたが失敗した、なんて微妙に事実をかすりかけたトンデモ説まで含め、まことしやかにいろんな噂が流れた。

 


 

─次回予告─

 

ティーラ:

 太正維新軍……陸軍大臣率いる陸軍若手将校を中心にしたクーデター。

 その標的となった我ら帝国華撃団は大帝国劇場本部を制圧寸前にまで追いつめられてしまいます。

 ですがこのまま負けるわけにはいきません。反撃の拠点は──花やしき支部。

 その防衛戦に現れたカーシャ。隊長は果たして彼女を説得できるのでしょうか……

 

 次回、サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~、第4話

 

()はまた昇る……」

 

 太正桜に浪漫の嵐。

 次回のラッキーアイテムは、『リボルバーカノン』!! ──って、えぇ!? 別の華撃団の切り札じゃないですか!! しかも時間軸的に言ってしまって大丈夫ですか、これ?




【よもやま話】
 ってカーシャのようの、そうじゃないような……という曖昧な感じで。
 次はカーシャ回なので、なんでそうなったのか、は次の話で明らかになります。
 で、ラストはかすみが持って行くのですが──ところがどっこい、これはまだ一周目でエンディングを迎えてないので、そっちのルートには入れないのですよ。残念。


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