サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~ 作:ヤットキ 夕一
それは太正14年11月9日未明のことだった。
季節はずれの大雪に街が白く染められる中、陸軍の将校によるクーデターが勃発した。
太正維新軍を名乗る彼らに対し抵抗する勢力の反撃もむなしく、帝都の要所がそれらの軍勢に抑えられることになってしまった。
そしてその襲撃対象には、大帝国劇場──帝国華撃団の本部が入っており、劇場の地上部分はあっという間に占拠されることとなった。
そこで寝泊まりをしている花組達、それに米田司令や藤枝かえで副司令達は地下の作戦司令室に籠もって、籠城の構えを見せていた。
そして──クーデター軍から命をねらわれている真宮寺さくらを連れ、地下の轟雷号を使って本部を抜け出した花組隊長の大神一郎は、米田司令の言われるままに、花やしき支部を目指していた。
その花やしき支部──本部が銀座にあるのに対し、浅草にある支部は地上部分が近代的な遊園地になっており、とても軍の施設に見えないのは本部の大帝国劇場と同じである。
そんな花やしき支部も秘密部隊とはいえ陸軍の一部隊である帝国華撃団の施設を、陸軍将校達が知らないはずもなく、本部同様に目を付けられていた。
とはいえ、軍服姿に銃剣を担いだ将校達が大真面目に遊園地を占拠しようとしているのだから、それはなんとも珍妙な光景ではあった。
もちろん、それは陸軍将校達も自覚はあるわけで、それを目標に進むのはかなりの違和感を感じていたのだが──そこへ銃弾が撃ち込まれて顔色を変えた。
「なっ!? 防衛勢力だと? 対応が早すぎるんじゃないのか!?」
「しかも待ち伏せとは……我々の進軍ルートが読まれていたとでも言うのか!」
「馬鹿な! 我々の完璧な計画が漏れるはずなどない! いったいなぜ──」
統制された射撃によって、物陰に隠れざるを得なくなる維新軍の将校達。
そこへ──
「外れだなぁ、全部!! こっちとらそっちの動きを見て早々と対応したわけでも、ルートを読んだわけでも、まして諜報活動で情報を掴んだわけでもねえ!!」
敵と同じように銃剣を構えながら、意気揚々と声を上げる男。
その男は声を上げながら、何度も何度も銃弾をぶっ放す。
「俺たちを誰だと思ってやがる! 世にも珍しい霊能部隊、帝国華撃団夢組だぞ!? てめえらが今日、この時間にこの場所にくることくらい、予知で何日も前からすっかりお見通しよ!!」
狩衣を模した男性用夢組戦闘服。それを幹部用の個人を特定する特別色──黄土色に染められたそれを着た男が挑発めいた言葉を発していた。
帝国華撃団夢組錬金術班頭・松林 釿哉である。
そんな釿哉が指揮し、抵抗してる戦場を見つめる者達がいた。
「副頭、あれは本当のことでありますか?」
陸軍の制服に身を包んだ完全に維新軍側の人間達。その一部隊が、成り行きを見守っていた。
「そんなわけがない。お前達は夢組でどこを見ていたんだ? ある程度の推測やルートの限定はできただろうが、細かな時刻や動きまでを予知・過去認知班が把握などできるものか。それと副頭ではない。間違えるな」
「ハッ、申し訳ありません」
その部隊の長である女性士官が尋ねてきた者を、かけた眼鏡越しの鋭い目で一瞥しながら言う。
現在、帝国華撃団花やしき支部をめぐる攻防は完全な膠着状態になっていた。
それというのも花やしき支部の守りが非常に固いためである。
本来の出入口であるゲートは完全に封鎖され、風組が中心になって防衛している。そのゲートを含め、敷地を取り囲むように地脈を利用した強力な霊的結界が敷設されており、守りを固めている。
その中で障壁の要であり、突破口とも言うべき場所が、今現在、帝国華撃団夢組が中心になって守っているこの場所である。
地脈を利用し、防御壁と結界を連動させている技術は間違いなく夢組の錬金術班の手によるものであり、その頭である釿哉がここに詰めていることこそ、その要所であることを雄弁に物語っているように見えた。
「我々の目的は結界の解除・突破である。それこそ維新軍で我々に与えられた任務であり、役割だ。それを今こそ果たせ!」
女性士官が指示を出すと、部隊の者達が一斉に障壁をまとった防護壁へと向かう。
結い上げた髪と眼鏡の奥の鋭い目。軍服姿の彼女は──
「待っていましたよ、副頭殿……」
──その部隊に対応するように、今度は女性用の巫女服、男性用の狩衣を模した帝国華撃団夢組の戦闘服に身を包んだ者達が新たに現れる。
その新手の中心には、鋭い目で彼らを見つめる男がいた。
「副頭はそちらの方だろう。帝国華撃団封印・結界班副頭殿」
「あなたも同じ肩書きだったじゃないですか」
にらみ合う男女。
ともに帝国華撃団夢組の封印・結界班副頭という地位の二人。花組戦闘時には「結界展開による戦場の限定・封鎖・形成」という大事な役目のある封印・結界班は即応能力を求められ、頭である山野辺 和人が大帝国劇場本部に常駐しているため、二人の副頭はともに支部付とされてその指揮をとっていた。
そのうちの一人である女性副頭は──太正維新軍側へと回っていたのだ。
「──しかし前回、六破星降魔陣が完成させられたときとは立場が逆になりましたな、副頭殿。それにしても……なぜ?」
「いい加減、副頭と呼ぶのは止めていただこう、副頭! 私は元々、陸軍所属……申し訳ないが、腐れ縁というモノだ!!」
眼鏡の女性士官が手にしていた銃剣を構える。
それに対して、封印結界班も懐から取り出した符を手に身構える。
同じ封印・結界班副頭同士がぶつかり合うが、その実力は拮抗していた。指揮官を抑えられた形になった維新軍のその部隊は、そこに釘付けにされて“結界破り”を利用した防御壁の突破という与えられた役割をこなすことができず、完全に足止めされていた。
「──という、戦況です!」
「了解した。報告、御苦労」
「ハッ! 戻ります!」
部下の報告を聞いた帝国華撃団夢組副隊長、巽 宗次が答えると報告を終えた者は敬礼をした後、去っていった。
それを見送り、ため息をつく。
「──梅里、申し訳ない。陸軍出身の者を完全に止めることができなかった」
「……巽副隊長同様、わたくしも謝罪することしかできません。陰陽寮の一部の離反をくい止められませんでしたから」
もう一人の副隊長、塙詰しのぶがそれに続くと、二人の副隊長から謝罪された隊長である武相 梅里は苦笑を浮かべた。
「二人とも謝らないでよ。そのための手は打ってあったんだから……」
梅里の苦笑が伝播するように宗次も苦笑を浮かべる。
対してしのぶは申し訳なさそうに目を伏せていた。
「司令が狙撃されたときに乗じた陰陽寮での混乱から、こうなることはある程度予測しておりましたが……」
「陰陽寮の中での反華撃団派による攪乱とは聞いていたが、まさか隊員の中にもそれが入り込んでいたとはな」
「ええ。お恥ずかしい話ではありますが。前回の黒之巣会との戦いで離脱しようとしたのを寛大な処置をいただいたのですが……それに劣等感を抱いた者達もいたようで、今回の離反はそれを煽られた者達の暴走です」
もともと、黒之巣会との決戦直前の離反はしのぶが中心になって行われようとしたことである。事前に察知した梅里と宗次が当時から陰陽寮派が多数所属し、副頭の一人が陰陽寮出身者である封印・結界班の頭であり、人格者として認識されている和人を仲裁役に送り込んで説得に成功させたのだ。
だが、中にはそれを不満に思っていた者もいたらしい。当時は六破星降魔陣の完成により多数の魔操機兵が暴れていた帝都。離反して京都の陰陽寮に戻るために帝都を脱出しようにも、少人数ではそれができないのは明白であり、渋々残った者もいたのだろう。
そのまま華撃団に残ったはいいが、一度離反しようとしたことに負い目を感じ、それを募らせていたのを、反華撃団派に目を付けられて引き込まれたのだ。
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「まぁまぁ、二人とも……そのおかげで、敵の動きもわかるわけだから。“結界破り”を手に神出鬼没に動き回られるくらいなら、こっちの方がはるかにマシでしょ」
一部隊としてまとめられた元夢組達。さながら小規模の霊能部隊といったところだろうが、やはりその運用ノウハウが太正維新軍には無いように思える。
そして元夢組といえば、もう一人──戦場に現れるはずであろうその人の姿が未だになく、梅里はむしろそちらを気にしていた。
(
すでに帝劇本部は地上部分を占拠され、米田司令と藤枝副司令、それに花組の面々が地下作戦司令室に立てこもっている。
それを想定して強力な結界をすでに設置してあったので、それでかなりの時間は保たせられるだろう。
そして敵の目的である花組の真宮寺さくらと、魔神器の一つである“珠”を抑えた花組隊長の大神一郎が、弾丸列車轟雷号で本部を脱出し、この花やしき支部へとやってきている。
本部奪還の切り札は──ここ、花やしき支部にあるのだ。
「申し上げます! 敵部隊に魔操機兵・脇侍を複数確認!!」
「数は!? それに位置もだ!」
宗次の確認に、報告をあげた隊員がその数と場所を答える。
「多くはないが、二方面に分散か……」
腕を組む宗次。それに梅里が提案する。
「対魔操機兵なら、紅葉に任せよう。彼女なら人を相手にするよりもその方が良いと思う」
「ああ、それに異論はないが……もう片方はどうする? お前は今動くわけにはいかないだろ?」
梅里は待ち人を待っている状況だ。
脇侍とはいえ魔操機兵。しかも一般の陸軍将校達が支援するそれを、攻撃をかいくぐりながら撃破できそうなほどの腕前となると、紅葉の他には梅里と宗次くらいしかいない。
「やはり、ここはオレが──」
「いや、宗次にはここで指揮をとり続けて欲しいから動かせない──霊子甲冑を使おう」
「「え!?」」
さすがに驚く宗次としのぶ。
「オイオイ、アレは使えないぞ? 大神と真宮寺のアレは本部奪還の切り札で……」
「もちろんわかってるよ。もちろんそっちを使うつもりはない。でももう一つ、残ってるよね? 動かせるのが」
「「もう一つ?」」
再度、宗次としのぶは声を合わせていた。
脇侍を確認した方面──正面のゲートを巡る戦いは危機を迎えていた。
風組が中心になって防衛を担当していたが、脇侍には霊力を込めていない通常兵器の効果が著しく劣化する。
それこそ黒之巣会や黒鬼会に対して霊子甲冑を有する帝国華撃団花組が戦ってきた理由でもある。
二方面に現れた脇侍──これの出現と共闘によって太正維新軍と黒鬼会が繋がっているのがほぼ確定になったわけだが──のうち、多い方がこの正面ゲート付近である。
通常兵器をものともしない脇侍によって、戦線が崩壊しかかっていた。
風組隊員達が、顔をゆがめて焦る中──放たれたロケット砲が脇侍を捉え、炸裂して大きなダメージを与える。
「なんだ!? 今の砲撃は──」
思わず攻撃が飛んできた方を見ると、そこには霊子甲冑の姿があった。
光武をさらに巨大化させたような、その機体は──光武・複座試験型。
搭乗しているのは夢組特別班に所属する近江谷 絲穂と絲乃の双子の姉妹である。
「標的への直撃を確認……続いて第二射、準備にはいります……」
「さっすが、絲乃! 私が操縦に集中するから、
「はい、姉さん……」
光武・複座試験型の中で、絲穂と絲乃が会話する。
とはいえ二人は全力で霊力を制御していた。二人の霊力を常に同調させつつ戦闘をするというのはかなり厳しい。
全力で自転車をこぎながらパズルをやるようなくらいに、まったく違うことをどちらもフル回転させながらやるようなものだった。
光武・複座試験型の欠陥は明らかであり、実戦には役に立たない──というのは華撃団での共通認識だったが、普段から行っていた近江谷姉妹の霊力同調試験や、釿哉や紅蘭による改良や微調整によって少しずつながら性能が向上しており、光武の紅蘭機が搭載している砲撃用装備を使うことで、移動砲台代わりにはなる程度になっていたのだ。
だが、この局面で重要なのは──霊力が込められた攻撃によって、脇侍に大きなダメージを与えられる、ということ。
その役目を、光武・複座試験型はきっちりとこなしていた。
しかし、それが脅威であることはすぐにわかってしまう。
「あのデカブツをねらえ!!」
維新軍側の指揮官から指示が飛ぶ。
魔操機兵同様に、霊子甲冑も通常兵器に強いが、それでも集中砲火を受ければダメージは積み重なるし、なによりも足を止められてしまう。
そしてそこへ、遠距離攻撃型の脇侍から強力な一撃が加えられる──が、それを突如出現した白い壁が盾となって防いだ。
攻撃を受けたそれが割れるように砕け散り──その破片が舞い散る中に、光武・複座試験型の前で悠然と立つ者がいた。
山水画が描かれた扇──
梅里と宗次が動けないために、しのぶがここへとやってきたのだ。
「絲穂さん、絲乃さん……援護いたします。殲滅いたしましょう」
~樹神~とは逆の手に持った、それと三対一組の扇──こちらは四季を象徴する花鳥画が描かれた
「大地に宿りし育む力よ、咲き誇れ!! 『花地吹雪・援』!!」
しのぶの霊力に応じて、地脈の力が鮮やかなピンク色の花のようになって光武・複座試験型の足下付近の地面に具現化する。
彼女が下から上へと振り上げた扇によって舞い上げられるように、開花した花はあっという間に花吹雪となって地面から舞い上がり、光武・複座試験型を取り巻く。
「これは……」
「ありがたい! 百人力です塙詰副隊長!! 感謝します!!」
しのぶの支援を受けて、近江谷姉妹の負担は明らかに減った。二人とも二支援を受けたことで霊力の同調バランスも問題はなく、霊力が底上げされたことで稼働させる出力にも余裕が生まれている。
動きに精細さを放ち始めた光武・複座試験型は、次々と脇侍に砲撃を加えはじめ──
「あまり調子に乗らないことね──」
「危ない!!」
突如現れた、光武・複座試験型を狙う銀光をまとった一撃を、しのぶが再びとっさに庇った。
~樹神~を依代にして霊力で作り上げた巨大な写し身の扇は、たった一撃でそれを破壊されてしまう。
「ワタシの切り札──『
ウェーブのかかったセミロングの髪をポニーテールにした女性が不適な笑みを浮かべてそう言った。
周囲が陸軍の軍服に身をまとう中、たった一人──まるで華撃団を裏切ったのを喧伝するかのように──巫女服を模した帝国華撃団夢組の、それも幹部を示す個人色の山吹色に袴を染めあげた女性用戦闘服を身にまとった彼女の姿は、脱走前のカーシャ=トワイライトとまったく変わらなかった。
ただ一つ──その濃い金髪だった髪の毛が、銀色に変わっている以外は。
【よもやま話】
太正維新軍との戦いの開始──ここでやっと原作の「帝劇のもっとも長い日!?」が開始という時間軸ですね。
梅里達が本部ではなく花やしき支部にいるのは、やっぱり身動きができなくなって、カーシャの件が進まなくなるからです。
カーシャ以外に離反者が出たのを書いたのは……やっぱり陸軍出身者がいればそういうものも出るだろう、と思ったのと陰陽寮派も一枚岩ではないのを出しておきたかったから。
ここを書いているときは、二人の封印・結界班副頭の名前がどちらもないものだから非常に苦労しました。いい加減、付けようかなと何度も思いましたが、結局決めず。