サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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─6─

 夢組幹部を示す特別色の袴の戦闘服に身を包んだカーシャの登場は、間違いなく夢組の面々に戸惑いと衝撃を与えていた。

 

「カーシャさん、どういうおつもりでしょうか? その服装は」

「あら? 支給された物だったけど、気に入っているから着ているだけよ。どう? 似合うでしょ?」

 

 その場でクルリと回ってわざわざ見せびらかし、挑発するカーシャ。

 線のように細い目のために感情が読みづらいしのぶだが、その形のいい眉が険しくなっており、明らかな怒りを見せていた。

 手にした扇を閉じたり開いたりして音を立てており、そうやって苛立たしさを露わにする姿をしのぶがとるのは、本当に珍しいことである。

 

「その戦闘服は……わたくし達夢組が戦場で懸けてきた命を覆い守ってくれたもの。その服の下で一致団結し、数多くの困難に立ち向かった象徴です。それを愚弄とするというのなら……絶対に許しません!!」

 

 細い目で険しくにらむしのぶ。その両手には扇が一つずつ握られている。

 そんな気迫をぶつけられたカーシャは──嘲笑を浮かべる。

 

「あなたがそれを言ってしまうの? 陰陽寮の犬として華撃団を裏切ろうとしたあなたが」

「──その通りです。わたくしは一度は華撃団を裏切ろうと、見捨てようとした身……」

 

 しのぶはかつての自分を思い出していた。

 陰陽寮を第一に考え、華撃団の情報を逐一報告していたあのころ。しのぶは、陰陽寮以外に自分の居場所が無く、それ以外を知らなかった。

 そんな彼女が得た居場所。梅里に作ってもらったのが華撃団だ。

 

「そんなわたくしの事を、あの方は受け入れてくださいました。それゆえに、わたくしは今、ここにこうしています。この戦闘服に誇りを持ち、同じ服に身を包む仲間達を大切に思えるようになったのです」

「へぇ……」

 

 笑みを浮かべた相手は、手にした波状刃の大剣(フランベルジュ)を振りかぶると、一気にしのぶへと距離を詰めてきた。

 

「それは──この服を着ているワタシのこともそう思ってくれるのかしら?」

 

 そして迷うことなく一閃させる──が、しのぶはそれを手にした扇で見事に捌いてみせた。

 

「ええ。ついこの間まで……梅里様に見破られた化け狸が、尻尾を巻いて逃げ出すまではそう思っおりました」

 

 彼女の高い霊力が込められた扇は鉄扇の固さをしのぐ。

 まるで舞うかのような両手に扇を手にしたしのぶの動きは、カーシャの剣をことごとく逸らしていく。

 

「もっとも──御髪(おぐし)の色は狸ではなく、狐のようでしたけど」

「タヌキよりもそっちの方が想像しやすくて助かるわ。話には聞いたことがあるけど、なにしろインドにも豪州にも本国にもタヌキがいないもので、ね」

 

 カーシャは両手で持ってるが、波状刃の大剣(フランベルジュ)は重く、取り回しが悪い。

 対して速度で勝るしのぶはカーシャの剣筋を完全に読めており、防戦一方ながらも追いつめられているという感じはなかった。

 

「キツネ狩り、というのがそちらの国で盛んと耳にしましたが……」

「奇遇ね。時期的にもちょうど今頃が解禁日よ。キツネを見つけた人がタリホーと叫ぶのだけど……叫んでみたら? 猟犬──紅葉が助けにきてくれるかもしれないわよ」

 

 数回、剣と扇をぶつけ合った後、しのぶが距離をとる。

 改めて両手に扇を手にして身構える。

 

「紅葉さんは別の場所で脇侍の相手で忙しいので……あなた様程度で手を煩わせるわけにはいきません」

「程度……ワタシ程度、といったのかしら?」

 

 言葉に帯びるわずかな怒気。

 

「そういえば、京都には糸みたいな細い目をしたキツネの神様を祭っている有名な神社があるそうだけど……先の戦いで華撃団を騙したキツネは京都に帰らずにこんなところに居座って、何をしているの?」

 

 しのぶの眉がピクリと動く。

 不快そうに歪められたが、すぐに元に戻った。

 

「わたくしが伏見の稲荷なら、あなたはさしずめ、人を騙して取り入り国を傾け滅ぼしてきた九尾白面、といったところでございましょうか」

「あら、ずいぶんと過分な評価をいただけたみたいね。人の心に潜み、災厄をまき散らした、という意味ではまさに同じ……といったところ? ありがとう、と言っておくわ」

 

 再び二人は距離を詰めると、お互いに剣と扇だけでなく、言葉をぶつけ合う。

 

「さすがは親日家だったトワイライト家出身ですね。よく御存知で……」

「よく御存知で、はこっちのセリフよ。そこまで言うのだから、気がついているのでしょう? ワタシが……カーシャであってカーシャではないことに」

 

 自身の銀髪を振り乱し、剣を振りかざす。

 その強い一撃を受け、しのぶの体が気圧されて距離を開けられてしまった。

 

「ワタシはローカスト。呪術によってアカシア=トワイライトの中に生まれた、もう一つの人格」

「やはり……」

 

 それは夢組内で予想した、カーシャの状況とほぼ合致していた。

 別人格を作って記憶を分断することで、虚偽探知や読心といった霊力を利用した対人捜査を誤魔化し、自分たちの秘密を守る。工作員としてはうってつけの術である。

 しかしその体はカーシャのそれであり──

 

「隙ありよ、しのぶ!!」

 

 しのぶの体勢が崩れた隙をつき、カーシャ──いや、ローカストがその内に秘めた超常的な力を爆発させる。

 一瞬で高まったその力を纏うと、彼女はその身を銀色に光らせる。手にした波状刃の大剣は、それを帯びて銀光の直刃を持つ大剣となった。

 

 

「『払暁黎明の閃攻(デイブレイク・スマッシュ)』ッ!!」

 

 

 叫び、その剣を両手に構え、一気に迫るローカスト。

 

「くッ!!」

 

 急速に切迫するその威圧に、しのぶは対応を間違えた。

 彼女は先ほどそれを防いだ巨大な扇の写し身を再び作り出して盾としたのだ。

 だがそのせいで、敵の姿が完全に見えなくなり──見失った。

 ゆえに──

 

「同じ手が通じるとでも?」

 

 敵は巨大な扇を避けるように進んでおり、その盾は無意味な物になる。

 だが、しのぶはそれを読んでいた。

 

「もちろん、思っておりません!!」

 

 出した写し身は彼女が手にする三組の霊扇(れいせん)──深閑扇(しんかんせん)のうちの支援を得意とする~(のぞみ)~である。防御を得手とする~樹神(こだま)~はまだ残してあった。

 

 ──相手は切り返すように方向転換をし、背後から来る。

 

 そう読んだしのぶは残していた~樹神~を使って写し身を──自分の後ろにそれを本命の盾として具現化する。

 しかし──

 

「残念。ハズレね♪」

 

 相手の狙いは──しのぶではなかった。

 銀光を纏った大剣は──それを手にした者が一枚目の扇の盾の横をすり抜けて進むと、二枚目を意に介することなく、別のものへとそのまま振り下ろされる。

 狙われたのは──脇侍の相手をしていて無防備になっていた光武・複座試験型。

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

 しのぶと近江谷姉妹の驚きの声が一致する。

 その瞬間、払暁黎明の閃攻(デイブレイク・スマッシュ)は光武・複座試験型へと炸裂し、それを行動不能へと追い込んでいた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 

『──複座光武、大破!!』

『近江谷姉妹は!?』

『状況不明! 急いで救助をッ!!』

 

 

 飛び交う無線を聞きながら、悔しげに眉を歪めるしのぶ。

 完全にしてやられた。

 対魔操機兵の切り札として動員した虎の子の光武・複座試験型を、こうも簡単に撃破されてしまったのだ。

 

「脇侍程度では分が悪いみたいで目障りだったのよ。あのデカブツ……」

 

 動けなくなった光武・複座式を一瞥し、そしてしのぶを振り返ると笑みを浮かべる。

 

「こちらにはまだ複数、脇侍が残っているわ。これで形成逆転、ってところかしら?」

 

 残存の脇侍を相手にするのに、唯一の霊子甲冑を失った今の状況では、維新軍を相手にする片手間に戦うのはきわめて困難。

 

「さぁ、このまま花やしき支部を蹂躙──」

 

 意気揚々と銀髪のポニーテールを揺らしながらローカストが言い掛けたとき──その脇侍が突如、爆発した。

 

「──え?」

 

 続けざまにもう一体──胴を横一閃に真っ二つになり、上半身と下半身が完全に切り離された後──爆発を起こしてあっという間にガラクタとなり、戦力外になり果てていた。

 その爆炎を背に──刀を鞘に収める人影。

 

「──これで、形勢逆転……とはいかなくとも、五分くらいにはなったかな」

 

 苦笑混じりに彼はそう言う。

 隊長を示す白い戦闘服──狩衣を模した男性用の夢組のものを身にまとい、腰に帯びているのは今まで数多くの魑魅魍魎、降魔、そして魔操機兵を斬り伏せてきた業物──聖刃(せいじん)薫紫(くんし)

 そんな彼の勇姿に──

 

「梅里様ッ!!」

 

 しのぶは思わず歓声をあげていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……いつの間に」

 

 現れた夢組隊長・武相梅里の姿を、ローカストは悔しげに睨みつける。

 それを今度は逆に、余裕を持った表情で見るしのぶ。

 

「わたくし、狐発見(タリホー)の声は紅葉さんには叫んでおりませんでしたが、きちんと伝えておりました。わたくしがもっとも敬愛し、信頼する方に──」

 

 そんなしのぶを悔しげに睨むローカスト。

 

「キミを見つけた、という報告をしのぶさんから受けて、駆けつけたんだよ」

 

 梅里はそう言うと、刀を鞘に収めたまま、無造作にローカストとしのぶがにらみ合うその場へと入ってきた。

 

「へえ……ワタシに一体、何の用なのかしら? まさか夢組に戻れ、なんて話じゃないわよね?」

「“キミ”にはそれをするつもりはないよ」

 

 苦笑を浮かべる梅里。

 

「でも──カーシャを含めたキミたちと話がしたいと思ってね」

「話? こちらにそのつもりはない、と言ったら?」

 

 そう言ってローカストは波状刃の大剣(フランベルジュ)を構える。

 対して梅里は、戦う気は無いとばかりに刀の柄に触れようともしなかった。

 

「意地でも聞いてもらう。この僕の──ただの言い訳だけど、キミたちにとって大事なことだと思うから」

「そんなことを言って、調子のいいことを吹き込み、カーシャを騙して都合よく操る魂胆なのでしょ。騙されないわ」

「なら、その判断はローカスト、キミがすればいい。僕は話をするだけだ」

「裏切り者の……ワタシよりももっと先に、この国を同盟国である祖国から裏切らせたアナタの話など──」

「そのときの、あの会議でなぜ僕が巴里を推したのか、その話をしにきたんだよ」

「…………」

 

 ローカストは無言で、しかし剣を構えたままその真意を推し量ろうと梅里をじっと見つめる。

 それに対し、梅里は得物を手にしないままローカストへとさらに踏み出した。

 

「梅里様ッ!?」

「──大丈夫」

 

 その無防備さには、さすがに割って入ろうとしたしのぶだったが、梅里は手を横に出してそれを制した。

 

「しのぶんさん……ここからは、手出し無用に願います」

 

 しのぶは納得できなかった。大事な想い人であり、いまや所属している華撃団や出身である陰陽寮よりも自分の居場所となった武相 梅里という人物。

 その彼が明らかに命の危機をさらすという場面を許容できるはずがない。

 だが──その彼からの指示であれば、従わないわけにはいかないのだ。

 

(何かあってもすぐに対処できるように……)

 

 可能な限り近くで、最大限の警戒の中で細心の注意を払って梅里と、その対峙する相手を見つめるしのぶ。

 その彼女が見つめる中で、ローカストも動けないでいた。

 カーシャがそうであるように、その体と知識を共有するローカストは夢組内でもトップクラスの近接戦闘の強さを誇るのだが──それでも目の前の男は、たとえ刀を手にしていなくとも恐ろしい相手だった。

 

(こんな相手──しかもその上をいく鬼王なんて、想像を絶するわ……)

 

 さらにはすぐ近くで陰陽寮の秘蔵っ子である塙詰しのぶが最警戒で状況を見つめている。

 

(もしなにかあれば、問答無用であの魔眼を使ってくるはず)

 

 それへの対処──陽の属性を持つ自分には一瞬で強烈な光を放つ目潰しができるが、それが通じるか、そしてそれがキチンと決まるかは運だろう。

 その緊張の中──

 

「なッ!?」

 

 彼は得物を手にすることなく、思わずローカストが驚くほどに近づいて、立ち止まっていた。

 踏み出して剣を振るえば届く範囲である。

 

「僕は嘘は言わない……キミに嘘探知や『読心』の力があれば使って欲しいところだけど……」

「あいにくと、無いわ」

 

 緊張しながら答えるローカスト。

 同時に、なんで自分の方が有利な状況のはずなのに、こんなに精神的に追いつめられているのかと、理不尽さに苛立ってもいた。

 

「そう思った。だから──嘘があると感じたのなら、遠慮なくその剣を振るえばいい」

「梅里様!? それは、許容できません!! 彼女はあなた様の命を狙ったことがあるのですよ」

 

 すかさずしのぶが声をあげる。

 当然だろう、とローカストでさえ思う。

 しかし──

 

「僕はそこまでの覚悟でキミたちに真実を話そうと思っている。キミとカーシャの信念に誓って、騙し討ちはしないと約束してくれないか? ……病室で僕の命を絶てる機会を見逃したキミなら、それくらいの譲歩はできるだろう?」

「あのとき……」

 

 意識を取り戻していたのか、と疑ったがそれはないとローカストは判断する。

 あれは意識不明だった梅里を狙ったときのことであり、躊躇っているうちに寝ていたはずのかすみが目を覚ましたので失敗している。そして直後に意識を取り戻した梅里は記憶を失っていたのだから、計算してできる行動ではない。

 タネを明かせば、梅里はかすみから聞いていたのだった。脱走したカーシャが銀髪だったという噂を耳にした彼女が「そう言えば思い出したのですが……」と梅里に伝えてきたのである。

 ローカストにとって、黒鬼会の工作員としては甘さを露呈してしまった醜態である。

 その甘さ、そしてそんな過去を断ち切るために──

 

 

「いいわ。そこまで言うのなら、話くらいは聞いてあげる」

 

 

 ローカストはそう答える。

 ただし剣はそのままで、と付け加えると梅里は頷いた。

 




【よもやま話】
 ここは長くなったので─7─と分けました。本当は一つにしたかったんですけど、さすがに合計16000文字を越えたのでこれは無理だと。
 しのぶとの戦い、そして梅里の説得開始──さぁ、うまくできるかどうか。
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