サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~ 作:ヤットキ 夕一
「ああ、もう! 姑息な敵でーす」
帝国華撃団花組としての初陣だったが、その戦いで織姫は焦れていた。
彼女が駆るのは帝国華撃団・花組が採用している霊子甲冑の光武・改ではなく、欧州華撃団構想で戦闘部隊となる星組が正式採用する予定だった、ドイツ製霊子甲冑アイゼンクライトである。
織姫のパーソナルカラーである鮮やかな紅紫色に染め上げられたその機体は指先から霊力の光線を放ち、攻撃する。
高い霊力と実力を持つソレッタ=織姫の操るアイゼンクライトは範囲内の複数の敵を捕捉し、一度に攻撃できるのだが──それを何度も食らっているうちに学習し、彼女の視界から外れて物陰に隠れている。
本来ならば段差をものともせず敵を捉え、弧を描く光線は障害物を迂回して攻撃できるはずなのだが、見えていない現状では攻撃しても外れる可能性が高い。
(まだまだ敵は多いでーす。無駄な攻撃は避けるべきですねー)
織姫は冷静な判断を下し。焦じれる心を落ち着かせる。
しかし、一気に多数を攻撃できるのが売りである織姫の機体でも、単体を小出し相手にさせられるのは負担が大きくなるのにつながる。
できれば一度に片を付けたいところだが──
「んん? なんですかー、これは……」
膠着状態になっている織姫に、妙な感覚の通信が入った。
(ソレッタさん、今から敵の位置を送ります……)
「座標で送られても、わたし、困りまーす。感覚で掴んでいなければ……」
(それは……大丈夫と思量されます。とにかく……送りますので参考になれば……)
そうして思念が途切れる。
「今のは、
織姫が戸惑っていると、そこへ聞き慣れた旋律が彼女の耳に飛び込んできた。
「え?」
それはバイオリンを奏でる音。
場違いにも聞こえるそれは、織姫を中心に──いや、その傍らに立ちバイオリンを構える少女を中心に広がっていく。
「まさか、かずらですかー?」
(はい。千波さん……
くすんだ黄緑色──萌木色に染められた袴の、巫女服のような女性用夢組戦闘服は洋楽器であるバイオリンとは不釣り合いにも、また意外に合うものにも感じられる。
それを身にまとった少女、伊吹 かずらの霊力が込められた演奏は、まるで闇夜で正確に獲物を捉えるコウモリが放つ超音波のように──純粋な音ならば建物に当たって反射するが、霊力はそれさえも通り抜けて捕捉する──正確に敵を見つけだしていた。
「これなら丸見えでーす。かずら、感謝しまーす!!」
快哉の声をあげる織姫。
彼女の放った霊力の光線は、敵を正確に捕捉していたために急所をピンポイントで撃ち抜き、複数体を一気に撃破する。
「この調子でいきますよ、織姫さん」
かずらの笑顔に、織姫はアイゼンクライトの腕でその胸部をたたき、任せろとジェスチャーで送る。
「おー、あの二人の息、合ってるなぁ」
白色の男用夢組戦闘服に身を包んだ梅里が、戦況を確認しながらつぶやく。
「複数を一度に捕捉できる伊吹くんの能力と、複数を一度に攻撃できる織姫くんのアイゼンクライト、相性の良さは抜群だね」
それに応じたのはすぐ横にいた、白い霊子甲冑・光武改に搭乗している花組隊長の大神 一郎だった。
「それにしても……あの気むずかしそうな織姫くんと、気弱そうな彼女の仲がいいとは意外だな」
「かずらが、気弱?」
思わず梅里が苦笑を浮かべる。彼に想いを寄せるかずらのアプローチや、梅里への態度は気弱とはほど遠い。それはせりやしのぶへの牽制に関してももちろんだ。
だが、人見知りな彼女がそういった面を見せるのは、あくまで親しい人に対してだけであり、大神や他の花組隊員たちは、かずらが大人しい引っ込み思案な娘という認識だったのだ。
「なんでも音楽室で顔を合わせて、そこで意気投合したそうですよ」
「へぇ……そういえば織姫くんはピアノが得意だったな」
大神がポツリとつぶやく。
ちなみにこの二人、通信だけ聞けば隊長同士でなにげなく会話しているようにしか見えないが、この間にも大神は襲い来る脇侍を片っ端から斬り倒している。
梅里もまた愛刀の『
この隊長二人がいる付近は魔操機兵・脇侍にとっては危険な死地と化していた。
そうなればもちろん目立つわけで、そこには──
「あれは……」
「あの雰囲気、覚えがあります。大神隊長もわかるでしょうが……気をつけてください」
大神に梅里が警告を発する。
白い霊子甲冑と生身の剣士が、かたや二刀流かたや一刀流で刀を構えて、近づいてきた敵を警戒する。
「……久しいな、帝国華撃団」
聞き覚えのある声。
そして──忘れもしない声だ。
「──お前はッ!!」
激高し、動きかける梅里。
その前に白い霊子甲冑が立って、それを制する。
「葵 叉丹……」
それは約二年前のこと。『葵 叉丹』の名前で、最初は黒之巣会の幹部である死天王の一人として華撃団と敵対した彼は、黒之巣会首領の天海討伐後は降魔を支配し、上位降魔すらも従えて帝都を、この国を降魔のものとしようと企んだ。
そして華撃団と戦い──そして、討たれたのが約一年前ととなる。
「……大神少尉、どいてください。僕は、アイツを許すわけには……」
「武相隊長、気持ちは察するが……」
刀の柄を握りしめる梅里に対し、自分の霊子甲冑を押しとどめるように立たせる大神。
降魔を支配し、当時の帝国華撃団副指令であった藤枝あやめを、上位降魔・
それは理解しているが、大神とて華撃団で様々なことにぶつかり悩んだ自分を助け、導いてくれたあやめを奪われているのだ。そんな大神の怒りも梅里にけっして劣るわけではない。
ただ、梅里と違うのは──
「なぜだ。お前は確かに俺たちが倒したはず」
失われた大地『大和』の聖魔城での戦いで、花組は直接戦い倒している。帝都に残ってその防衛につとめてその戦いには参加していなかった梅里とは違い、その確たる感触があるのだ。
だから今、目の前にいるのが本当に叉丹なのか、もしそうなのだとしたら、どうして、どうやってここに現れたのか、明らかにする必要があった。
ゆえに大神は訊かずにいられなかったのだ。
「貴様の狙いは、いったい何だ、葵 叉丹!!」
「それを貴様らに教えてやる必要が、どこにある?」
「それなら、叩きのめして吐かしてみせる!!」
そう叫んだ梅里が改めて刀を構えるや、球状になった銀色の光のフィールドに包まれた。
彼の家でのみ伝わり、魑魅魍魎と戦い磨き続けた武相流剣術の奥義であり、霊力のフィールドをまとうことで身体能力を爆発的に引き上げる満月陣という技だ。
「貴様らごときが勝てる相手ではないわ! この闇神威は!!」
迎え撃つ叉丹の駆る闇神威。
梅里の一撃を弾くと、そこへさらに大神の光武改が加わって挑む。
手にした二刀と、闇神威の一刀がぶつかり合い、火花を散らす。
互角以上の戦いを繰り広げる闇神威。
「くッ! さすがに……強い!!」
うめく大神。
そこへ、隙間を縫うように飛来した銀光が、闇神威にまとわりつくように走り、牽制する。
「うるさい蠅め!!」
焦れる叉丹。手を、そして刀を振り回すが、銀光──梅里はそれを巧みに避け続ける。
頑強さでは到底及ばなくとも、生身の体は魔操機兵に比べれば遙かに小柄である。小回りが利くのを生かして、翻弄する。
「くッ!!」
その梅里に気を取られると、大神の霊子甲冑による力強い太刀が襲い来る。それを太刀で受け止めた叉丹は──
「貴様ら! 調子に乗るなァッ!!」
魔操機兵を中心に妖力を爆発させる。
直前に気配を察知して距離をとる大神と梅里。
攻め手がとまったその隙をついて形勢を逆転せんと距離を詰める闇神威。
そこへ──
「大神さん!」「梅里様!」
「「──おうッ!!」」
それぞれの呼びかけに応じて、大神と梅里が、まるで道を開くように左右に分かれて距離をとる。
「ぬう!!」
どちらを追うべきか、その動きに戸惑う叉丹。
だが、それは翻弄が目的の動きではなかった。二人がいた場所のさらに先には──桜色の霊子甲冑が鞘に納められた刀を握り、霊力を貯めていた。
さらにはその足下には、鮮やかな紅紫色──マゼンダ色の袴の女性用夢組戦闘服に、両手に一つずつの扇──『
真宮時さくらの光武改と、夢組隊員にして副隊長の
そのしのぶが、手にした扇を広げる。
かたや
それらを開き、霊力で大きな写し身を作り出すと──
「さくらさん、いきますよ!」
「はい、しのぶさん。お願いしますッ!」
「では……参ります! ──大地に眠りし育む力よ、咲き誇れ!!」
しのぶが霊力を解放し、自分とさくらの光武改の足下がピンク色に染まる。
よく見れば、花の形をしており、それは霊力でできた芝桜のようであった。
それがしのぶが振り上げた二つの深閑扇によって舞い上げられ──花吹雪に包まれたさくらの光武改は、その霊力を底上げされる。
そして──
「破邪剣征……桜花爛漫!!」
今のさくらとその光武改の限界を超えた──今のさくらではたどり着けない一歩先の極意に到達した──斬撃が居合い抜き様に放たれ、しのぶが舞い上げた花吹雪と、さくらが放った桜吹雪が渾然一体の怒濤となって──闇神威へと押し寄せる。
「なに!?」
その花の嵐の前に、必死に堪える闇神威。
そこへ、左右に分かれた二人の隊長が、再び合流して一撃を加えんと突き進む。
「大神隊長! 渾身の一撃を!!」
「おうッ!!」
大神の光武改が持った二つの刀が雷を帯びる。
そして──それと闇神威を中心に反対から迫る、球状の銀光に包まれた梅里は、右手に愛刀を、そして左手にはほぼ同じ形の太刀を霊力で写し身として作り出していた。
「満月陣・月食返し……」
梅里が初めて見せる二刀流。それはまるで鏡に映ったかのように、大神とまったく同じ動きをし、その二刀が雷を帯びる。
「「狼虎滅却……天地一矢!!」」
「なんだとォッ!?」
左右から、両方とも大神の必殺技による挟撃。
正面からのさくらの攻撃に耐えている闇神威にそれを迎え撃つ余裕などなく、挟まれるようにその一撃……いや、挟撃をその身に受けては耐えられるはずもなかった。
煙を出し、機体からスパーク光を走らせながら、行動を停止する闇神威。
そこから姿を現す、長い銀髪の男。
彼こそが、約一年前に起こった戦いの元凶、葵 叉丹である。
満身創痍で魔操機兵・闇神威から出てきた彼に余力は無いように見えた。
他の脇侍もまたことごとく倒され、誰の目から見ても叉丹の敗北は明らかな状況である。
そこへ、霊子甲冑から降りてきた花組の面々が遠巻きに見ている。
一方、大神の技を模倣してトドメの一翼をになった梅里はというと、無理がたたって動けなくなっていたのを、せりに支えられてようやくこの場へとやってきていた。
「まったく、なんであんな無茶したのよ。動けなくなるくらいに」
「いや、ノリというか、つい……」
「また、つい? 本当に無計画なんだから、もう少し霊力は計画的に使いなさいよ。雷の霊力って消費が激しくて負担が大きいんだからね」
「それは今回、身に染みてわかったから……」
支えつつもお小言を忘れないせりに答えつつ、梅里は花組たちの近くにまでやってきていた。
そして、叉丹の姿が見える。
「あれが葵 叉丹。敵の首領……」
感慨深げにせりがつぶやく。
梅里も彼の顔を見る。もちろん見覚えがあった。
その顔を見たのは一度しかないが、忘れはしない。あやめが降魔へと変えられたときが、その唯一の目にした機会であったからだ。
「今回は、いったいどんな企みを──」
「どんな企みだって関係ないさ」
せりの言葉を遮って、梅里が腰の刀を抜きながら一歩踏み出す。
「あの男は……人を降魔に墜とすようなヤツは、生かしてはおけない」
「梅里……」
その苛烈な反応に、せりは思わず息をのんだ。
たとえ何年経とうとも、彼の降魔に対する怒りは全く消えていないのだと改めて思う。
そうして梅里が花組たちの間を抜けようとした、その瞬間──
「グォハ……ッ」
「……え?」
葵 叉丹の腹から切っ先が生えていた。その光景にたった今まで殺すと息巻いていた梅里が呆気にとられている。
そして──その背後にいつの間にか現れたものが、刀を突き刺していたのだと気がつく。
「グッ……貴様……」
憎しみを込めた視線を背後に送る叉丹。
そうして見つめられた男の顔は──被った鬼面のせいでうかがうことはできなかった。
「お前は!?」
「……鬼王」
大神の誰何の言葉に、鬼面の男は答えつつ、刀を叉丹の体から引き抜く。その拍子で叉丹の体は地面に崩れ落ち、同時に彼の刀が地面に転がる。
鬼王と名乗った鬼面に和服姿の男は、その落ちた刀を拾い上げ──そして、かき消えるように姿を消す。
「今のは、いったい……」
大神が戸惑うのも無理はない。
気がつけば残されていたのは、葵 叉丹の亡骸のみであった。
【よもやま話】
本当は─3─の後半だった戦闘シーン。
前作の戦闘の反省で、今作はなるべく花組との共闘シーンを中心にしようと思ってます。
霊子甲冑を支援する部隊、のような雰囲気。感じとしては機動戦士ガンダムの第08MS小隊のOPとかに出てくるモビルスーツをいろいろと支援する人たちみたいになれたらなぁ。
なお、織姫の攻撃はゲームでは壁越しで余裕で当たるのですが、その原理はこうなってます的な解釈です。
またさくらの必殺技ですが、「2」の最終技に進化しているのはしのぶの援護を受けたからです。この時点では独力では放てません。
一方で、大神の必殺技はこの時点でのものです。それを梅里が「月食返し」を使って模倣しているのですが──なんと前作1話以来の使用。
というか、いろんな理由で「2」で使いたいから前作1話で先行使用していたんですよね、月食返しは。