サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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─9─

 花やしき支部の防衛は無事に成功した。

 

 華撃団は防衛した花やしき支部を拠点に反撃へと移る。

 すでに防衛戦と同時進行で、本部から逃げてきた花組の大神とさくらに地下で新型霊子甲冑・天武を受領させると、翔鯨丸を使って銀座へとんぼ返りをさせた。

 そして、大帝国劇場に陣取っていた黒鬼会の五行衆の一人、木喰と対決をしたのである。

 人数こそ大神とさくらのたった二人だったとはいえ、その数の不利をたやすく覆すほどの力を天武が発揮し──見事に撃破に成功。木喰はそこで命を落としている。

 そして──花やしき支部でも一定時間の経過と共に敵部隊が撤退したのだが──帝劇本部もまた木喰を退けた大神達が劇場内に入ると、そこはもぬけの殻のように維新軍の姿はなく、容易く帝劇本部を取り戻したのである。

 

 そしてその後、華撃団は奪われた魔神器の中の二つ“剣”と“鏡”の奪還作戦を行った。

 反応をたどり、その所在が新宿にあると判明した為に出撃した華撃団はそこで魔神器を守護している鬼王が指揮する部隊と対峙するのであった。

 激突する花組を中心とした華撃団と──迎え撃つ鬼王率いる黒鬼会の魔操機兵・脇侍の部隊。

 その両者の決戦の火蓋が落とされたところで──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「……え?」

 

 その反応に、作戦司令室にいた風組の藤井かすみは思わず声を上げていた。

 訝しがったのは副司令のかえでと、司令の米田である。

 作戦司令室に詰める三人の風組隊員──天武輸送任務を終えた椿が復帰して元の三人体制に戻っている──の中でも、年上でもっとも冷静な彼女が驚いて声を出すのが意外だったからだ。

 

「どうかしたの、かすみ?」

「はい。黒鬼会の鬼王なのですが……そこで戦闘が起きている模様です」

「──どういうこと?」

 

 確認したかえでだったが、かすみの答えにさすがに戸惑う。

 戦況を見た限り、鬼王は脇侍達の最も後方に位置して指揮を執っているように見えた。最奥にいる鬼王と戦闘になるのは、最後のはずであり、魔神器を持っているのだからそうなるのは当然だろう。

 開戦からそれほど時間が経っていないのと、建物や障害物が邪魔をしていることもあって、もちろん花組は未だに脇侍の部隊を突破できていない。

 つまりは戦闘など起こるはずがないのだが──

 

「カメラは?」

「最望遠でも詳細がハッキリしません」

「なら、夢組の『千里眼』で──」

 

 しびれを切らした米田が自ら指示を飛ばそうとしたが、今度は由里が困った顔をした。

 

「それが、夢組が混乱しているようです」

「混乱? いったいなにが起きたんだ?」

「通信を聞いている限りですが……その……隊長が、行方不明とか……」

 

 自分が悪いことをしたわけでもないのに、由里が首をすくめながら報告し、それからかすみをチラッと見た。

 

「ったく、なにやってやがるんだ……いいから遠見に“遠視”の指示を出せ。司令部からの直接指示だ。八束に感応接続の指示も併せて、な」

「りょ、了解!」

 

 言われた由里があわてて指示を出す。

 間もなく、遠見 遥佳が『千里眼』で捉えた映像を、八束 千波が『精神感応』で繋げた画像がモニターに映し出される。夢組錬金術班の技術によって可能となった機能である。

 そして、そこに映っていたのは──

 

 

「「「「「えぇ!?」」」」」

 

 

 その場にいた米田、かえで、さらには風組のかすみ、由里、椿の合計5人の言葉が見事に一致した。

 鬼王と刃を交えていたのは、白い男性用夢組戦闘服を身にまとい、日本刀を手にした男──行方が分からなくなったと夢組が騒いでいた、その隊長である武相 梅里、その人だったのだ。

 

「なんだと!? なんでそんな独断専行を!!」

「無謀よ。周囲の脇侍に取り囲まれたら……すぐに武相隊長へ撤退命令を!」

 

 唖然とする米田と、即座に指示を出すかえで。

 だが──

 

「武相隊長、通信届きません。夢組の八束隊員からも霊波での通信も不能という返答がありました」

「……わかったわ。かすみ、呼びかけは続けてちょうだい」

「了解しました」

 

 藤井かすみはそう答え、「武相隊長、聞こえますか?」と何度も問いかける。

 当然に返事はなく──それを事務的に繰り返しながら、自分の考えを巡らせていた。

 

(いったいなぜ、こんなことを? あのときの仕返し?)

 

 確かに梅里は鬼王の襲撃を受けて生死の境をさまよったのだから、その恨みがないとは限らない。

 だがそれは梅里のイメージとはだいぶ違う。

 

(やられたらやりかえす、とか……いえ、そういう性格ではありませんよね……)

 

 かすみは戸惑いながらも、いっこうに返事のない無線へと呼びかけていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──少しだけ時間はさかのぼる。

 

 華撃団は黒鬼会と対峙し、布陣を終えてまさに戦闘が始まろうとしていたそのときのことだった。

 ふと、白繍せりは違和感を感じていた。

 その対象は、自分たち夢組を率いる隊長にして、彼女の想い人でもある彼なのだが──

 

「ねえ、かずら。さっきから梅里、なにかおかしくない? 一言もしゃべってないような……」

 

 せりは訝しがるように見つめながら、隣にいた部下でもある伊吹 かずらに尋ねた。

 

「そうですか? さっき私に向かって話しかけてくれましたよ。かずら、今日も可愛いね。愛してるよ……って──」

 

 目を閉じ、腕で自分の体を抱きつつ揺らしながら、夢見がちな様子で言ったかずらを、せりはジト目で見た。

 そして冷め切った様子で言い放つ。

 

「それ、ただの、あなたの脳内の出来事よね? 妄想よね?」

 

 相変わらず体をくねらせていたかずらは、冷たい視線を向けてきたせりに改めて向き直る。

 

「ええ、まぁ、そうですけど。でもやりません? 梅里さんから言われたい言葉の脳内再生とか」

「そんなの、普通はしないわよ。まったく……」

 

 すっかり自分が言い出した最初の話題を忘れたせりが冷たく突き放しつつも──ふと出来心で、試しにかずらに言われたことをついやってしまった。

 

(せり……可愛いね、愛してるよ)

 

 そんな脳内再生した台詞にせりが顔を真っ赤にする。

 そしてそれにめざとく気がつくかずら。

 

「あ、今、せりさんしましたよね? どうでしたどうでした?」

「そ、そんなのやってないわよ!」

 

 慌ててムキになって否定するせり。もちろんそれで引き下がるかずらでもない。

 

「いえいえいえ。せりさんの嘘ってすごくわかりやすいですよね。したのバレバレですって」

「か、かずら! いい加減になさい。戦闘前よ!」

 

 ついに顔を赤くしながら怒るせり。

 だが──それを冷静な言葉で遮ったのは、同じく付近にいたしのぶだった。

 

「せりさん、仰る通りですよ」

「は? だから私はしてないって──」

「いえ、そちらではなく……違和感の方です。あの梅里様、やはり何かおかしいようにわたくしも思うのですが」

「え? あ、そっち? そっちね……」

 

 焦ったせりは誤魔化すように咳払いをする。冷やかすように見つめるかずらの視線は完全に無視した。

 それで興味を失ったのか、かずらはしのぶへと話しかけた。

 

「梅里さんがおかしいって、どこがですか?」

「先ほどから指示を出しているのは専ら巽副隊長ですが、梅里様は頷いていらっしゃるだけです」

「そうなのよね。なぜかさっきから一言も喋ってないのよ」

 

 せりがジッと梅里を見つめて、首を傾げている。

 かずらも同じように見つめるが──やはり普段通りの梅里にしか見えない。

 

「ノドの調子でも悪いんじゃないですか? 今朝は雪が降るほど急に冷え込みましたからね。風邪のひきはじめかもしれません……なるほど、これは付きっきりで看病するという手が……

「あのねえ、私としのぶさんは真面目な話をしているの。茶化すなら黙ってて──」

 

 何か企み始めたかずらをせりが咎めようとしたそのとき、しのぶがスッと動いていた。

 それをせりとかずらが戸惑っている間にしのぶは梅里の元へと至ると、手に扇を握りしめ──それを一閃させる。

 

「──ッ!!」

 

 身を翻らせる梅里。

 しのぶは振りかざした閉じている扇を開き、返す腕でそれで扇いで風を生じさせる。

 彼女が手にする扇はただの扇ではなく、愛用の霊扇『深閑扇』の一つである。扇いで生まれた風は、当然に霊気をまとっており──それに煽られて梅里の姿が揺らいだ。

 

「「えぇ!?」」

 

 おかしいとは思っていたせりと、半信半疑だったかずら。その2人とも揺らいだ梅里の姿に驚いていた。

 確信をもったしのぶがさらにもう一度扇いで──今度は全力の霊力を込めて──生まれた強烈な風によって、纏っていた梅里の姿は吹き消されるようにして完全に消え去った。

 そこに残っていたのは──

 

 

「「「(ひいらぎ)!?」」」

 

 

 駒墨 柊だった。

 そのおでこには御札のように短冊が張り付けてあり、達筆な文字で『武相 梅里』と書かれている。

 彼女の霊力と特殊な墨によって『書かれた文字を具現化する力』が発動して、周囲の者は彼女自身を梅里と強制的に認識させられていたらしい。

 ついさっきまで指示の追認をとっていた宗次でさえも、それに気がついていなかったらしく唖然としている。

 

「ちょ、ちょっとどういうこと? 梅里はいったい何を……というか、どこにいるの!? 柊、答えなさい。知っているんでしょう?」

 

 せりの詰問に、柊は愛用の矢立の筆を持ち歩いている短冊に走らせて、「黙秘」と書かれた文字を見せる。

 

「な……駒墨さん、そんなことをしてる場合じゃ、梅里さんが……」

「敵に回った、というわけではありませんよね?」

 

 焦るかずらに対して、冷静でありながらも剣呑な空気を纏うしのぶの問いかけには、柊は「肯定」の文字を示しつつ頷いた。

 

「じゃあ柊、あなたはどうしてこんなことを……」

 

 せりの問いに対して、彼女は「特命」という文字を示す。

 そんな筆談に、明らかにイライラし始めたせりが目を三角にして柊を睨み、さらに問いつめるが──柊は「機密」、「言えない」、「黙秘」、「回答拒否」と短冊を書き散らかして煙に巻こうとする。

 そんな態度は余計にせりをイラだたせ「もおぉぉぉぉ!! 本当に、いい加減にしなさいよ!!」と完全におかんむりだった。

 そうやって別の人が怒っている姿を見ると周囲は逆に冷静になるもので、しのぶは考えを巡らせる。

 

「誰かに拉致されたわけではない……梅里様は、自らの意志で行方をくらませている?」

 

 そう考えるのが妥当だろう。柊があそこまで頑ななのも、梅里からの厳命であれば頷けるところだ。

 ただし──副隊長であるしのぶはもちろん、もう一人の副隊長の宗次が先ほど驚いていたのを見ると、彼も事情を知らされていないと見るべきだろう。

 そして、当然せりは怒りとイライラをこじらせ続けている。

 

「千波ッ! 埒があかないから直接、柊と“念話”させて!」

「……無理。彼女の方が拒絶してる」

 

 せりが近くにいた特別班の八束 千波を掴まえて、念話での直接尋問をしようとしたが、千波は不可能と首を横に振った。

 彼女の能力はあくまで精神同士を感応させて“念話”を可能とすることであり、双方が受け入れる──少なくとも拒絶していないことが大前提だった。

 そのように強制力がほとんどない代わりに、繋げられるネットワークのキャパシティが異常に大きいのである。

 今回は、柊の方が明らかに拒絶しているために無理なのだった。

 ──もっとも、隊長直属の特別班への命令権限とせりは持っていないのだが。

 

「なら、彼女の思考に干渉して──」

「それは……私の領分じゃない、です」

 

 物静かな千波が首を横に振ったので、せりは思い出したようで「ああ、もう!」と焦りを露わにしていた。

 思考を読むのは同じ精神感応系能力でも千波ではなく、調査班副頭である御殿場 小詠でなければできないのだ。

 

「じゃあ、小詠は──」

「小詠さんなら、さっき、戦闘なら私は役に立たないからって戦線離脱しましたけど?」

 

 同じ調査班副頭のかずらがあっけらかんと答る。それを恨みがましく見るせりはイライラのあまり、気の毒なほどに憔悴しているようだった。

 実際、小詠は調査任務──特に対人の捜査では無類の強さを発揮するのだが、他のことは苦手なようで、特に戦闘支援のような出撃の際には姿がなかったり、離脱してしまうことが多い。

 ──もちろんそれは理由があり、戦闘支援の場合にはもう一つの顔である特別班の5人目として能力を求められることがあるからであった。

 実際、すぐ近くで気配を隠した上で“謎の五人目の特別班員”として、フード付きの上着を着こんでそのフードを目深にかぶって顔を隠し、袴を特別班員を示す濃暗の赤色へと変えて待機している。

 ともあれ、ままならないことだらけになったせりは、苛立たしげに頭を抱え──

 

「ああ、もう! 梅里はどこにいったのよおぉぉぉ!!」

 

 と、天に向かって叫ぶのであった。

 『千里眼』の遥佳と『精神感応』の千波に、司令部からの直接で命令がきたのは、ちょうどそのときだった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 花やしき支部防衛戦で、脇侍の主力を投じてきた正門での戦いで光武・複座試験型は多くの脇侍を破壊し、その功績は大きかった。

 だが──その功績の一方で、カーシャの一撃を受けた機体は大破し、搭乗していた近江谷絲穂・絲乃の姉妹はそろって負傷。後方での治療を余儀なくされていた。

 

「近江谷姉妹の離脱は痛い……」

 

 梅里が思わずそう呟くほどである。

 彼女たちが特別班に所属しているのは『共鳴』という特殊能力はもちろんだが、それによって可能となる、多数を巻き込んだ『瞬間移動』の価値が高いためである。

 疲労が大きいためにそう何度も行えないが、部隊一つを壁や距離を無視して動かすことができるのは、夢組にとってはとてつもなく大きな切り札の一つなのだ。

 その切り札を限られた回数を使う前に使えなくなったのは、あまりにもったいない。

 

「あれはやむを得ない。霊子甲冑でなければあれだけ多くの脇侍は倒せなかったのは確かだ。あまり気にするな」

 

 そう宗次がフォローするほどに、光武・複座試験型の戦果が大きかったのは確かである。

 だが──梅里にとっては、今この場に彼女たちがいないのが、悔やまれているところだった。

 

「絲穂と絲乃がいれば、こんな苦労しなくてもよかったんだけどね……」

 

 物陰に身を隠した梅里は思わず一人()ちていた。

 白い男性用夢組戦闘服の上には、黒い外套をつけており、足にも特別な覆いがされている。

 さらに胸には護符を下げ、梅里は機会を待ちわびていたのだ。

 そこへ──千波から他に傍受されないように調整した極短念話で「バレた」という連絡が入った。

 

「やれやれ……それじゃあ、多少無理にでも仕掛けないと」

 

 すでに開戦によって脇侍達が前進してから少し経っていた。

 梅里が隠れ潜む建物の周囲には、巨大魔操機兵が1機と、その取り巻きの脇侍しかいない状況である。

 おりからの雪とこの騒動で周囲に人影はない。静かに雪が舞い落ちる中、脇侍の蒸気機関の音だけがやたらと大きく響いていた。

 集中のために目を細めた梅里は、隠行を駆使して気配を消しつつ、標的の元へと向かう。

 それが功をそうして、取り巻きの脇侍に反応されることなく巨大魔操機兵・闇神威へと近づき──その付近に立っていた鬼面に着流しの男へと斬りかかった。

 

「フッ!!」

 

 気合いと共に振り下ろした刀は、男──鬼王によってあっさりと受け止められる。

 気が付かれていたか、と思った梅里だったが、鬼王が少なからず戸惑った様子に見えたので、その考えを改めた。

 

「奇襲が卑怯、なんて言わないよね? 今までのアンタの十八番(オハコ)なんだから」

 

 本来ならそこまで隠行を得意としていない梅里だが、鬼王への奇襲を成功させたのは、刀を振り下ろし様に脱ぎ去った外套と、未だに足と胸元に残っている特殊装備のおかげだった。

 

隠行の外套(ミエナイン)消音の雪駄(キコエーヌ)気配遮断の護符(カンジラレン)……さすがは釿さん謹製の特殊装備ってところか」

 

 これがあったからこそ、周囲の脇侍に気取られることなく、鬼王へと肉薄できたのだから。

 もし近江谷姉妹がいたら──瞬間移動を使っての奇襲ができたことだろう。それが2人の負傷によってできなくなったからこそ、こういった手段に頼らざるを得なくなったのだ。

 

「何が狙いだ……」

 

 鬼王が言葉少なに尋ねる。

 

「魔神器……と言いたいところだけどね、元々それの護衛を申しつけられていたのは僕ら夢組だし。でも──違う」

 

 鍔迫り合いを解消して少し距離をとる二人。

 それぞれの構え──梅里は右半身を引き、前へ構えた刀の横へ左手を添えて構え、鬼王もまた正眼ではない変わった構えをとる。

 それが──梅里が実家で祖父から聞いた構えと合致する。

 

「真宮寺は、変わった構えを得意としていてな……」

 

 そう言って祖父自ら実践して見せた構えと、酷似しており──梅里は確信した。

 ゆえに、決意する。

 

(ここで──鬼王を討つ!)

 

 自ら動き、仕掛ける。

 春の夜──梅里が重傷を負った時は一方的にあしらわれるほどの技の差があった。門外不出で原則的に人に振るわれることがない武相流を、知っていたがゆえに見切られたという事情もあったが、それでも禁忌の奥義を使わなければ撃退できなかった相手だった。

 だが、この短い期間ながらも戦い──皮肉なことに鬼王との戦いこそ最も実力が伸びた負け勝負であった──を経て成長した梅里は、実力において鬼王へと迫っていた。

 

「──む」

 

 梅里の現在の実力に戸惑う鬼王。

 その反応に快哉の声を上げる梅里。

 

「命を落としてから成長できないあなたとは違う!! 春の戦いでの借り、ここでキッチリ返させてもらう! それが僕の──狙いだッ!!」

 

 梅里の鋭い斬撃に、距離をとる鬼王。

 だがやられっぱなしではない。即座に踏み込み──隙をついて斬り返す。

 迎撃の間に合わず動きが止まっている梅里を、鬼王が手にした刀──二剣二刀の一振り『光刀(こうとう)無形(むけい)』が捉え……

 

「──なにッ!?」

 

 絶対の自信を持ったその一撃は、捉えようとしていた梅里を手応え無くすり抜ける。

 そして──刀を振り抜いたのとは反対側の位置に突如現れた梅里は、反撃(カウンター)となる必殺の突きを放つ。

 

「──ッ!!」

 

 梅里の刀──『聖刃(せいじん)薫紫(くんし)』の切っ先が鬼王を捉えるが、鬼王はとっさに身を返しており、必殺のはずの突きは浅く致命傷には遠い。

 

「これさえ避けるのか……さすが……」

 

 再び距離をとって対峙する二人。

 だが、梅里にとって今の攻防で鬼王を討ち果たせなかったのは、致命的な失敗であった。

 さすがに周囲の護衛についている脇侍が動き出していたのだ。

 それらを相手にしながら鬼王とも戦うのは、さすがに無謀である。かといって自分からやってきた梅里を、鬼王が見逃す理由もない。

 

(ちょっと後先考えずに先走りすぎたかな……)

 

 そう梅里が思ったとき──にわかに周囲が騒がしくなった。

 

「鬼王! 魔神器を返してもらうぞ!!」

 

 脇侍や障害物を突破してきた花組が、到着したのであった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 それを見た鬼王は──梅里のせいで手負いとなったからか、それとも直前までの戦闘で乗機である闇神威の準備が整っていなかったためか、はたまた別の理由か定かではないが──二つの魔神器をその場に残し、戦うことなく去ったのであった。

 




【よもやま話】
 入れるかどうか迷った、水戸に帰った時につかんだ鬼王の正体に関する話を、いまさらながら入れました。
 3話で梅里が土蜘蛛と戦うシーンは鬼王で考えていた……のですが、そのときに鬼王と戦う理由があるのをすっかり忘れて土蜘蛛に変えてしまったツケです。完全に。
 あとは、なぜかゲームだと戦わずに帰る鬼王の理由付けにはなったかな、と。
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