サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 魔操機兵・八葉と土蜘蛛がいなくなれば、結界を脅かす存在はなかった。

 結界を壁に夢組は優位に戦闘を進め、脇侍を一体、また一体と確実に倒していく。

 そんな様子を背中に、そこから少し離れた場所で梅里は休んでいた。

 戦闘の消耗が激しく、今は一休み中、といった様子である。

 梅里は周囲に集まっていた特別班に戦況を確認していた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「結界前の戦闘はほぼ終了ッス。紅葉さんもいますし……」

「……まだ戦ってたの?」

 

 『千里眼』で結界周辺を見ている遥佳の報告に、梅里は苦笑を浮かべた。

 土蜘蛛との戦いは激しかったし、その前からも戦っていたはず。梅里がバテているのはここにくる前の鬼王との激戦が響いているからだが、それがなかったとはいってもここまで継戦能力が高いのはもはや異常である。

 

「次に脇侍を倒したら、紅葉には後退指示を出して。まだ花組のいる本隊から目的達成の連絡はないんだ。不測の事態に備える必要はあるからね」

 

 そう言いながら、通信役である千波を見る。

 しかし千波は憂いを帯びた心配顔になっていた。

 

「了解。でも……紅葉が私の言うことを聞くか疑問……」

 

 彼女がそう思うのも無理はない。基本的に紅葉の順位付けはまるで動物のように強さ順である。

 梅里や宗次の言うことをきくのは彼女が自分よりも強いと認めているからで、特別班の中でも戦闘を苦手としている千波の言うことを聞く可能性は低い。

 それに思い至った梅里は苦笑を浮かべ──

 

「僕からの指示として伝えて。さらなる働きのために待機しろってね」

「了解。ダメな場合は隊長から指示を……お願いします」

「心得ているよ。そのときは遠慮なく『精神感応』で繋げてくれていいから」

 

 千波が頭を下げ、それに梅里が手をひらひらと振って応える。

 すると、頭を上げた千波が、じっと梅里の背後を見ていた。

 つられて後ろを振り返ると──いつの間にか、かずらがやってきていた。

 

「……かずら? どうかしたのかい?」

 

 その不穏な雰囲気に梅里が尋ねるとかずらはジト目で睨んできた。

 

「梅里さん……妙に紅葉さんに優しくないですか?」

「さっきの指示のこと? だって紅葉はすでに長時間戦ってるし。無理をしているのは明らかで、誰かが止めないとずっと戦い続けかねないからね」

 

 梅里の説明にもかずらは納得せず、頬を膨らませて不満を隠そうとしない。そんな彼女の態度に梅里は困惑しっぱなしである。

 

「……梅里さんの、浮気者」

「はい!? いきなりなにを……」

「だって、さっき……私と、想いが通じ合って、そして心と愛情を重ねて、合体に及んだのに──」

「いや、合体攻撃ね。攻撃が抜けてるから。そこ重要だから」

 

 かずらの言葉に、ケガで戦線離脱している近江谷姉妹以外の特別班メンバーの視線が突き刺さり、素早く訂正する梅里。

 

「せっかく……想いが通じて結ばれたのに! あんなに激しく重ね合わせたのに──」

「──霊力を、ね」

「それで熱い思いを放っておきながら──」

「さっきからその言い方、わざとだよね? ずいぶん語弊が出てるんだけど……」

 

 かずらの言葉を聞いて、ついにはヒソヒソ話を始める特別班3人をチラッと見る梅里。

 

「あの直後に、紅葉さんと浮気するなんて!!」

「は!? 浮気!?」

「してたじゃないですか! 梅里さんも刀を赤く熱を帯びさせて、二人息を合わせて斬っていたの、見てないとでも思ったんですか?」

「あれは、月食返しの応用だよ。敵を間に挟んで同じ技を重ねて叩き込んだだけで……」

「でも、紅葉さんと仲良く魔操機兵を攻撃していたし。結局、それがトドメになって……」

「それはまぁ、確かにそうだったけど。でも浮気とかは誤解だよ誤解」

「浮気者はみんなそう言うんです!」

 

 梅里は困り顔で頬を掻く。目の前にいるかずらはプンスカと怒っており、自分と梅里が力を合わせた攻撃ではなく、紅葉と梅里の攻撃が敵を倒したのが気に召さなかったようだ。

 騒ぐかずらに梅里がどうしたものかと困っていると──

 

「梅里様、どうかさなったんですか?」

「かずらが浮気者~、とか言ってるけど、どういうことよ?」

 

 そこへしのぶとせりが加わったのだが……その二人の登場に、梅里は目を丸くする。

 

「え? しのぶさんもせりも、本隊の随伴だったよね? なんでこっちに……」

「司令部から指示がありまして、巨大魔操機兵が現れたので後方へ転進しろと──」

「いざとなったら嬢の魔眼を使え、という司令の指示で、緊急用の転移術式使うて戻ってきたんどすが、どうやら倒せたようで。なによりです」

 

 しのぶの後を継いだのは、封印・結界班の男性副頭だった。

 陰陽寮出身の彼は夢組内にいる陰陽寮派のナンバー2で、かつてはしのぶという御輿を担いで隊長にしようと画策したり、逆に華撃団を助けるために陰陽寮の指示に逆らう中心になったりしている。

 

「──で、なぜかそれに白繍はんも付いてきてしもうて」

 

 その彼に横目で見られ、せりが焦ったように反論する。

 

「ち、違うわよ! 巽副隊長が、花組が最奥に至って、罠や伏兵を探る調査班の役目もほぼ終了したから梅里の手伝いをしてこいって……」

「そんなん、白繍はんが隊長気にして気もそぞろになってたから副隊長が気を利かせただけやないですか」

「なッ……」

 

 薄々感づいていたせりは、それに反論できなかった。だから──

 

「そ、それでかずらは何をそんなに怒ってるのよ?」

 

 かずらに尋ねて誤魔化そうと試みる。

 そんな思惑を気にすることなく、かずらは──

 

「梅里さんが、紅葉さんに浮気した」

「「はぁ!?」」

 

 かずらの言い分に、しのぶとせりは思わず声を出していた。封印・結界班の男副頭も声こそ出さなかったが訝しがるような顔をしている。

 

「かずら、落ち着きなさいよ。あの紅葉よ? 梅里とそんな空気になるわけが……」

「でも、二人で合体攻撃……」

 

 心と霊力を重ねて放つというソレは、二人が想い合っていなければ少なくてもできないものだ。

 さすがにせりがジト目で見つめ、しのぶもその細い目で梅里を睨む。

 

「だからそれは誤解で──」

 

 

「──隊長!! 緊急入電です!!」

 

 

 梅里の言葉を遮って通信が入る。

 緊迫したその声に、弛緩しかかっていた梅郷周辺の空気が一気に引き締まった。

 

「巨大魔操機兵がさらに出現! 結界へと迫っています」

「魔操機兵? それも大型の?」

 

 訝しがる梅里。

 大型の魔操機兵は幹部が搭乗する機体だ。しかし、これまで花組が五行衆の水狐を池袋で、その後に浅草で火車をそれぞれ討ち、今回の維新騒動の最中に帝劇前で木喰、巨大エレベータで金剛を倒し、さらには土蜘蛛は梅里たちが倒したばかりだ。

 そして現在は鬼王と花組が交戦中だという。だからこそ──

 

「いったい誰が乗っているんだ?」

 

 梅里がその疑問を抱くのは無理もないことだった。幹部はほぼ全滅状態で、乗る者が皆無なのだから。

 

「現時点では判明せず。形状的には火車の魔操機兵・五鈷と思われます」

「火車の?」

 

 先月破れた火車の魔操機兵。その報告に梅里はイヤな予感を感じていた。

 水狐が倒された後、彼女の魔操機兵・宝形の予備部品を組み立てて動かしてきた敵がいた。

 

「まさか、ね……」

 

 嫌な予感を感じながらも、ともかく梅里は敷設された結界の前へと向かった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そこは侵入を阻もうとする結界と、結界を破ってでも侵入しようとする巨大魔操機兵の力のぶつかり合いが、バチバチと不協和音を立てていた。

 夢組が敷設した結界は、錬金術班が開発した装置によって簡易的ではあるものの、地脈エネルギーをも利用したものであり、非常に強力なものだった。

 それゆえに巨大魔操機兵の侵攻を防げている。土蜘蛛の八葉のように特殊能力ですり抜けでもしない限りは突破も容易ではなく、結界はきちんと維持されてその役目を果たしていた。

 この様子なら心配はなく、あとはこの大型魔操機兵をどうするか──と考えた梅里だが、この五鈷にそっくりな大型魔操機兵を見ているうちに疑問がわいた。

 

「──動きが単調すぎやしないか?」

 

 巨大魔操機兵は、先に進もうとして結界に衝突している。だがそれだけだ。

 それに当然に搭載されているであろう武器での攻撃──五鈷であれば放出型攻撃端末である火乱はもちろん、本体による火炎放射さえ行っていない。

 それどころか──

 

「ひょっとして、武装が無いのか?」

「──その通りだ、大将」

 

 独り言に返事があったので、梅里は驚いてそちらを見る。

 錬金術班頭・松林 釿哉が深刻そうな表情で、敵の魔操機兵を見つめていた。

 

「あれには武装がない。いや──俺の推論が正しければ、そんな余計なものを取り付ける必要がない」

「余計なもの? 武器が?」

 

 兵器である魔操機兵に敵を攻撃するための武器が必要ないというのが理解できなかった。

 しかし釿哉は自信を持った様子で頷く。

 

「あれそのものが武器だからな」

「そのものって……ただ進むことしか能がない、あの魔操機兵が?」

「その通りだ。あの大型魔操機兵の現状は、かなりヤバい。盲目的に結界を突破しようと、動力機関をバカみたいにフル稼働している」

 

 釿哉の言葉を裏付けるように、巨大魔操機兵は結界にブチ当たりながら機関から大量の蒸気を噴き出させていた。そしてその回転数をさらに上げようとしている。

 

「このままだとオーバーヒートして止まる、とか?」

「そんなに甘いわけがないだろ。動力機関のオーバーロードによる自爆──それがアレを作ったヤツの狙いだ。アイツ本体が爆弾そのものなんだよ!」

 

 釿哉の分析に驚き、梅里は改めて改造された五鈷を見る。

 

「あの動力機関はもはや暴走寸前だ。そうなれば爆発は避けられない」

「それが意図的なもので──自爆して、華撃団を巻き込もうって腹積もりか。でも、動力機関の爆発くらいなら、結界が耐えられるんじゃないのか?」

 

 梅里の問いに釿哉は首を横に振る。

 

「コイツの動力機関は、オリジナルの五鈷とは比べものにならねえ。霊子核機関でも搭載しているんじゃねえか、と思うほどだ。だが──天武の開発に関わったからこそわかるが、霊子核機関を小型化して積むのはそう簡単なことじゃないんだ。かなり無理矢理搭載しているはず」

「たしか、翔鯨丸の動力も霊子核機関だったよね? それなら、復活した山崎真之介が翔鯨丸の技術を基にして、可能なんじゃないの?」

「ヤツにその技術があったら、天武の前に光武もしくは神武の動力に選ばれてるさ。で、高出力の動力機関の暴発は確かに高威力になるが、それが本質的な問題じゃねえ。その動力機関に注ぎ込まれている霊的エネルギーこそ厄介なんだ」

 

 霊子甲冑の動力である蒸気併用型霊子機関は蒸気機関とともに搭乗者の霊力によって動いている。それを指して釿哉は霊的エネルギーと称した。

 

「何がヤバいって属性がヤバい。陽属性だからな」

「それはまたずいぶんレアな……」

 

 火・水・土・木・金の陰陽五曜ではなく、それに日と月を加えた陰陽七曜の属性の“日”にあたるのが“陽属性”だった。

 

「同じ熱でも火属性と違って陽属性は太陽の力。霊子核機関に匹敵する出力が暴走して陽属性の力が具現すれば、その威力は火属性とは比較にならねえ」

「……それって、かなりヤバいんじゃない?」

 

 ことの深刻さを理解した梅里が青ざめる。

 

「ああ。もし無対策で自爆すれば付近一帯が容易に消し飛ぶぞ。これ以上の負荷を避けるためにも、結界の解除を要請する──」

 

 釿哉の提案は梅里によって即座に受理され、結界が解除された。

 同時に進み出す自爆型に改造された五鈷。その歩みは障害物を突破するために速度よりも力を重視したようで、幸いなことに遅かった。

 だが──結界を解除したところで、とりあえずの早期自爆を避けただけで、有効な対処方法があるわけでもなかった。

 

「釿さん、攻撃しても爆発しないのか?」

 

 その進路を阻むように立った梅里は、刀を手にしてそれを確認する。

 

「100パーセントの保証はできねぇな! 動力機関と霊的エネルギーの供給を切り離すのが一番安全な手だ。爆発を止めるには、俺にはそれしか思いつかん」

「……操縦席から、搭乗者を引きずり出せってことか」

 

 だが、それが難しいのは明らかだった。

 暴走している車を止めるのに車そのものを止めるのではなく、車から運転手を引っ張り出すようなものである。ましてそれが搭乗者を頑丈に保護している兵器なのだからその困難さは跳ね上がる。

 

「あとは逆に、完全に対策を施した状況においてからあえて爆発させ、爆発のエネルギーを完全に制御する方法だ。こっちの方が現実的でオススメだ。可能かどうかはさておきな」

「爆発を制御……」

 

 梅里は考えを巡らせる。

 爆発のエネルギーは密閉されていれば逆にその内部では跳ね上がってしまう。結界で爆発そのものを押さえ込もうとしても、それに耐えられないだろう。

 だが、あえて完全に塞がずに力の逃げ場を残せばその威力は下がる。問題は、その力の逃げ場だ。

 梅里は背後にある巨大な穴──巨大昇降機が降下した状態──を思い出す。

 

(あれが降下するのには結構な時間を有していたから、深さはかなりある。一番下まで下ろさなければ最深部への影響も少ないはず。そして万が一ここが塞がっても、もう一つの侵攻ルートだった裏道が残っている)

 

 これ以上、爆発させるのに適した場所はない。むしろそれ以外で爆発したときには防ぎようがない。

 

「昇降機の縦穴を煙突に見立てて、そこで爆発させる! 直ちに昇降機を上昇させるんだ! 錬金術班はさっき解除した結界の資機材を使用し、封印・結界班と連携して縦穴の強化と捕縛結界の敷設を! あとの皆は──」

 

 梅里は視線を目の前の、ゆっくりと進む大型霊子甲冑へ向ける。

 

「コイツの足止めだ! ただし、動力機関への攻撃は絶対に禁止!!」

『了解!!』

 

 直接、または無線を通じて返事が来る。

 いよいよ作戦開始──だが、梅里は付け加えた。

 

「とくに紅葉、間違っても当てるないように」

「は、はい! 了解しました!!」

 

 鎖鎌を手にした除霊班頭がビクッと体を跳ねさせたが、梅里からの直々の言葉とわかると、嬉しそうな顔で霊力を漲らせ──濃茶色だったその髪の毛が深紅に染まり、まるで燃えさかるようにショートカットの髪が逆立った。

 尻尾があれば猛然とした勢いで振っているだろう、と見ていた者は思う。そして──

 

「梅里さん、やっぱり紅葉さんのこと……」

「うん、怪しいわね」

 

 疑ってジト目を向けるかずらとせり。その横では比較的冷静なしのぶが──

 

「注意しておかないと、紅葉さんなら壊しかねませんから……」

 

 ──そう言って苦笑を浮かべ、梅里に理解を示していた。

 




【よもやま話】
 ここで出てきた五鈷も、火車が死んで使わなくなった補修部品を利用してくみ上げたものです。
 余ったものを無駄にしないエコですね。
 ちなみに作った人はこの自爆魔操機兵に「陽鈷」(ようこ)と名付けてました。妖狐からつけたのですが、名乗ったり教える人が誰もいなかったので華撃団内では改造五鈷と呼ばれてます。
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