サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 魔操機兵の足止めは困難を極める──と思われた。

 なにしろ降下に時間のかかった昇降機を再び戻すのだから、それに時間がかかるのは当然である。

 その間に縦穴の壁面に強力な強化付与を施し、さらには何重にも重ねた上で天井を面をあえて弱くなるように結界を張る準備も整えていた。

 昇降機が到着すれば、その結界の敷設を行う必要がある。

 それらの間、動力部にはダメージを与えることなく進行を遅くする──できれば止めるというのは相当な難しさになるはずだったのだが、意外な事実がそれを容易にしていた。

 魔操機兵の正面から、霊力で作り出した巨大な写し身の扇で壁を作ったしのぶと、鎖で動きを阻害しようと試みる紅葉が挑む。

 それに対し、梅里は背後へ回ろうとしたのだが──魔操機兵はその場でグルッと向きを変えた。

 

「え?」

 

 向きを変えた正面にいた梅里はそれを唖然として見守る。魔操機兵の頭部とまるで目があったような気さえしていた。

 そして魔操機兵は進み出す──梅里の方へと。

 

「狙いが、僕ってこと?」

 

 今までは結界を挟んで対峙し、その解除後も昇降機側を背にして相対していたので気が付かなかったが、魔操機兵の狙いは明らかに梅里だった。

 

(どうして……)

 

 当然にわき上がる疑問である。まるで梅里を殺すためだけにこの改造した魔操機兵を用意したようなやり方だった。

 しかし──この改造五鈷を作り出したのが、先ほどイヤな予感として想像したあの男だったとしたら、頷けるものになる。

 そして同時に、ある仮説を思いついた。

 

「陽属性……」

 

 あの男──“人形師”が用意したこの改造五鈷だが、疑問があった。

 いったい誰が搭乗しているのか、である。

 黒鬼会の中で、五行衆亡き今となっては乗り手がいないという疑問は解決していない。

 あるいはそれこそ“人形師”であれば、その能力を使って外部から巨大魔操機兵・宝形を操ったのだから当然、できると考えるのが普通だが、こんな自爆兵器に乗るとは考えづらい。

 外部からの操縦と妖力供給をしている可能性もあるが、糸の存在が感知できない上に、外部からコントロールしているにしては盲目的に梅里を狙う設定になっているのはおかしいだろう。

 そう考えると──搭乗者は霊力の供給だけを強いられ機体のコントロールは行っていない、ということになる。

 

「なら、これを爆発させるわけには──」

 

 梅里は人知れず、決意していた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 梅里が、ひたすら自分を追いかける魔操機兵をコントロールして時間を稼いでいる間に昇降機が到着し、資機材を設置し、準備は万端整った。

 ちなみに──梅里を追い続けるのが判明したので、それで地上の安全な場所へ誘導する、という案もあがったのだが釿哉から「とてもじゃないが、そんな時間はない」と却下されている。彼によれば黒鬼会のアジトから出て地上にでるまでの間に爆発してしまう、とのことだった。

 

 

「よし! 作戦開始!!」

 

 梅里の指示で、彼が結界の中心となる昇降機への中心へと誘導する。

 そして──

 

「結界、発動!!」

 

 封印・結界班を中心とした隊員達による霊力と地脈エネルギーを糧に結界が発動し、自爆型に改造された五鈷をしっかりと捉え、その動きを縛り付ける。

 作り出した結界に閉じこめるという、作戦成功への第一歩に皆がホッとしかけたのだが──あることに気が付いて皆の顔が蒼白になる。

 

「なッ!? なんで……そんな……」

「馬鹿!! なにやってんのよ!! アンタは──」

「どうして……梅里様が結界の中に……」

 

 かずら、せり、しのぶが絶句してその光景を見ている。

 四角形に結界壁で囲まれた改造五鈷はその動きを止められ──直上には白い男性用夢組戦闘服を着た男がいた。

 

「釿さん! 作戦中止よ──」

「ダメだ! 止めるな!!」

 

 本来なら結界が発動する直前に離脱するはずの梅里が逃げ遅れたようにしか見えなかった。作戦失敗と判断したせりが、作戦の要である二人に伝えようとしたが、それを梅里自身が止めたのだ。

 

「なにバカなこと言ってんのよ! このままだとそれを爆発させるのよ? どうやって逃げるっていうの?」

「いや……僕は爆発させる気はない」

 

 

「「「はあッ!?」」」

 

 

 さすがに驚く一同。

 

「なんでよ! だいたい貴方が立てた作戦でしょ? それを自ら否定して──」

「この機体に乗っているのはカーシャだ。霊紋照合、できるよね?」

 

 梅里の問いに、従軍していた錬金術班副頭の大関ヨモギが結果を見ながら答えた。

 

「ええ、霊紋合致です。隊長の言うとおりでしょう。その魔操機兵から発せられる霊力は、アカシア=トワイライトのものに間違いありません」

 

 やっぱり、と梅里は思う。

 同時にあの“人形師”という底意地の悪いヤツなら考えそうなことだと思っていた。

 この自爆型の魔操機兵は無理に足を止めれば、そのもくろみ通りに動力機関が暴走して大爆発を起こす。被害を最小限にするには釿哉が進言したとおり、対策をした場所で自爆させるのが一番だ。

 そしてそれを見越して──もちろんその陽属性の霊力による威力の確保も目的だろうが──カーシャをこの巨大な爆弾に組み込むことでそれを餌にして、安易な爆破処理を選ばせないという策だろう。

 

「──助ける、っていうの?」

 

 せりが低めの落ち着いた──ともすれば冷徹な声で尋ねた。

 

「私は……嫌よ。さっきは確かに彼女を許した。その思いに嘘はないし、いまさら覆す気もない。でも、貴方をこんな危険にさらしてまで、華撃団を裏切った彼女を助けたいとは思わない」

「せりさん……」

 

 しのぶがせりの厳しい目を見て、彼女の名前を慮って呟いた。

 だが、それはしのぶも同じ想いではあった。カーシャを安易に許せないというのは夢組の副隊長としての立場からでもあるし、華撃団よりも陰陽寮よりも大事なものである梅里を失いたくないという個人的な思いでもある。

 

「そうですよ! カーシャさんは梅里さんを殺そうとしたんです! せりさんの嫉妬を煽って霊力の質を妖力に変えようとしたり、華撃団を裏切っていたんです! そんな人を……梅里さんは庇うっていうんですか!?」

 

 かずらが感情露わに叫び、梅里に詰問する。

 それに対して梅里は──首を横に振った。

 

「違うよ、かずら。僕はカーシャを庇うつもりなんてない」

「それなら、どうして!?」

「花やしきでの戦いで、カーシャは最後に……“人形師”に連れ去られるときに彼女は僕に手を伸ばしたんだ。そして──僕に助けを求めた」

 

 怒ってさえいるかずらをしっかりと見つめる梅里。

 その脳裏にはカーシャが最後に言った「助けて」という言葉が今も残っている。

 

「悪を蹴散らすのが正義。それを示すのが華撃団……でもそれはやっぱり花組のやり方なんだよね」

 

 苦笑気味にそう言った彼は、それを不敵な笑みへと表情を変えた。

 

「助けを求める手を掴むことも正義だと僕は思う。それも帝国華撃団の──僕ら夢組の正義だ」

 

 梅里は、その手を見つめ──それを力強く握りしめる。

 

「助けを求めた彼女を、僕は見捨てない。一人でも多くの命を助けたいんだ」

 

 多くを助けるために一つの命を犠牲にする、それが安全策として正しいのかもしれない。

 だが──それは過去に後悔したやり方だった。

 

「だから……僕はカーシャの手を掴んでみせる!!」

「「「梅里」様」さん」

 

 せり、しのぶ、かずらの3人が梅里を見つめる。

 せりは思った。もしここでカーシャを見捨てれば、それは梅里によって第二の鶯歌になって彼の心に大きな傷となることを。

 しのぶは思い出していた。かつて自分がおずおずと差し出した手を、彼が力強く掴んで自分のいるべき場所へと引っ張り上げてくれたことを。

 かずらは思い知らされていた。自分が乙女組で学んだ「悪を蹴散らす」という正義の示し方とは違う、けれども間違いなく誰もが認める正義の示し方を。

 彼女たちからはもうこれ以上、反対する言葉は出なかった。

 それを確認した梅里は指示を飛ばす。

 

「万が一失敗した場合に爆発してしまう危険を考えたら、当初の作戦は続行するように! 各班は爆発を最小限にとどめる努力を怠るな!」

 

 その指示通りに隊員達は動き、一方で戸惑いつつも一般隊員が昇降機を動かした。それによって梅里は改造五鈷と共に降りていく。

 

「釿さん、遥佳が見た様子を千波が送るから、操縦席のハッチを引っ剥がすサポートをお願い」

「おうよ、任せとけ! 遠見、八束、しっかり頼むぜ」

 

 頼もしい釿哉の返事に、梅里は一度うなずく。

 遥佳の『千里眼』の遠視と透視を駆使すれば内部構造の把握は容易であり、釿哉ならそこから最適解を見つけてくれるはずだ。

 とりあえずは遥佳の分析待ち──と思って、何気なく周囲を見渡した梅里の視線が、一カ所で止まり、その表情が強ばった。

 

「な、なんで……?」

 

 視線の先には三人の女性──巫女服を模した夢組戦闘服を身にまとい、それぞれシアン──澄んだ青緑色、マゼンダ──鮮やかな赤紫色、萌木色──落ち着いた黄緑色の袴をはいた夢組女性幹部が、結界外ながらも昇降機のフロアに立っていた。

 しのぶ、かずら、せりの三人だった。

 

「もし失敗して爆発すれば、その結界じゃ防ぎきれない。昇降機を含めたこの縦穴に安全地帯なんてないんだ! 万が一が起きれば命を落とすことになる……三人とも早く退避して!」

 

 焦る梅里。だが三人は笑顔で答える。

 

「それはあなたも同じでしょ、梅里」

「わたくしの居場所は梅里様のそば、と決まっておりますので」

「私は、ホウライ先生みたいに「失敗しない」って梅里さんのこと信じてますから」

 

 そんな三人に、梅里は唖然とし──そして「しょうがない」と苦笑を浮かべる。

 同時に自分に「失敗できないぞ」と言い聞かせる。

 それから、梅里は遥佳からの情報をもとに解析した釿哉の指示で、改造五鈷の操縦席を開けるべく作業を開始した。

 なにぶん工具がなく、使えるのは刀くらしかなかったが、それでも満月陣で肉体を強化しつつ、どうにかハッチをこじ開けると──そこには繭のような糸の固まりがあった。

 その表面には複雑な模様が浮かんでいる。

 よく見れば魔法陣のような紋がいくつも、そして形成している繭が幾重にも重なっているのと同じように、その模様も幾重にも存在している様子だった。

 

「これは……」

「陰陽術式の応用です。これは……やはり、核となる人の霊力を過剰に暴走させる──自爆術式です」

 

 そう解説したのはしのぶだった。直接目視で確認できるような距離ではなく、釿哉同様に遥佳が見たものを精神感応で送ってもらっていた。

 効果は予想したとおりのものだったのだが──しのぶはその術式に驚いていた。

 

(きわめて難解な術式ですけど──でも、わたくしはこれに……見覚えがある? のでしょうか)

 

 術式の構造が複雑ながらも、しのぶが予想したものがその通りにピタリとはまっていくその感覚に違和感を覚えた。

 だが──それを疑問に思っている余裕はない。

 ハッチを開けた途端に、術式が切り替わったらしく、動力系に回していた霊力が完全に自爆の方へと回されたようで、機関の暴走がいよいよヒドくなっていく。

 そこへふと、唐突に見覚えのない術式が組み込まれているのに気がついて焦った。これでは解析できない。

 

「こ、この術式は……」

「ここは神道系のアレンジが入ってるみたい。私に任せて」

 

 すかさずフォローを入れたのはせりだった。陰陽師ではないために陰陽術式はサッパリだったが、そこはそれさすがは神社の娘である。しのぶが理解の乏しい神道系の術式にはめっぽう強い。

 

「しかし妙な術式ね。陰陽系かと思ったら部分的には神道系を取り入れたり……」

「おそらく、術式を組み立てた人が独自に組んだものだと思います」

 

 そう推理したしのぶだったが、それにしてはさっきの違和感──妙にしのぶの勘がピタリとはまる、まるで既視感(デジャビュ)のような感覚はおかしいと思える。それは独創性とは相容れないもののはずなのだから。

 その違和感を振り払うように意識からはずし、しのぶはときにせりの助けを得ながらも解析を続け、また遥佳の『千里眼』による透視が術式のさらに奥に隠れたトラップの存在を暴露させる。

 梅里はそれらの支援を受けて術式を解除していった。

 やがて解除寸前までこぎつけると、繭は薄くなり、中にいる人の存在を感じさせる人型がうっすらと判別できるくらいにまでなっていた。

 だがそこで──しのぶの指示が止まる。

 

「しのぶさん?」

 

 梅里の問いかけに、しのぶは眉をひそめて術式をじっと見つめる。

 

「右の紋と左の紋……どちらかを壊せば術式は止まります。でも──どちらが正解なのか、見分けがつきません」

「そんな。ここまできたのに……」

 

 かずらが悲愴な声を出す。

 

「どちらかを一か八かで破壊するしか……」

 

 悔しげにせりがつぶやく。

 とはいえ時間もない。

 焦る一同に対し──梅里は落ち着き払っていた。

 

「予知を! ティーラは右を破壊した場合を! 駒墨は左を破壊した場合を!」

「さすが大将! なんという冷静で的確な判断力なんだ!!」

 

 どこかで聞いたような賞賛をする釿哉。

 一か八かではなく、予知による確実な一手──のはずだったが

 

「ダメです! 右を消せば爆発します」

 

 ティーラが言えば、柊も『爆発』の文字を掲げた。

 それを見たせりが戸惑う。

 

「えぇッ!? なによそれ!! こんなの……どっちかの予知が正解かなんて、わかりっこないじゃない!」

 

 暴発寸前なほどに高まった霊力を感じて焦り、頭を抱える。

 だが結界内の当事者はいたって涼しい顔だった。

 

「いいや、簡単だよ。どちらの紋も──ブラフってことだ!」

 

 梅里は笑顔で言い──刀を、覆っていた最後の一包みへと一閃させる。

 

「なッ!?」

 

 梅里の強引な解除に、思わず声を出すせり。かずらとしのぶも爆発を覚悟して体を強ばらせる。

 だが彼女たちの考えとは裏腹に、切り払われた繭と共に霊力が霧散していた。爆発の危機は完全に去っていた。

 

「あ、あっぶな……」

 

 大きくため息をつくせり。かずらは目を白黒させており、しのぶにいたっては万が一を覚悟して魔眼を発動させようとさえしていたところだった。

 

「どっちも罠。紋には触れずに解除するのが正解だったってわけだね」

 

 得意げにいう梅里。

 その目の前では斬り払われた繭の下からカーシャが一糸纏わぬ姿で姿を現した。そのまま倒れ込むようにカーシャが傾いてくるのを、梅里は抱え込んで受け止める。

 その一方で、結界に阻まれて近づけないせりは梅里に、離れた場所から抗議の声を上げた。

 

「まったく、なんてことするのよ。あなたの予想が当たっていたからいいようなもので、もし間違ってたら爆発していたんだからね!!」

「せり……駄目だよ、仲間は信じないと」

 

 少し得意げに笑みを浮かべる梅里。

 

「どちらかが正解、と思い込んだら迷うけど。どっちも正解だと考えれば、この結論にはすぐたどり着くだろ?」

「……それってしのぶさんとか私の解析を信じてなかった、ってことじゃないの?」

 

 せりがジト目で指摘する。

 

「信じていたよ。だからあそこまで解除できたんだから。でも、そこまでスムーズに進んだのが逆に胡散臭く感じたんだ。それでこのスムーズな流れが罠なように見えてね」

 

 敵の目的は自爆なのは明白だ。なにしろあの巨大魔操機兵がそれしか考慮されていない設計なのだから。

 しかもそれが梅里を追尾している。敵の狙いは梅里なことも明白である。

 だから梅里の行動を読んで罠を張るだろう。最後に予知を頼るところまで予想していて当然だった。

 

「その上で解除したらどっちも爆発するって予知が出たんだから、これはもう完全に罠だってわかったよ」

 

 苦笑する梅里。

 

「これを作った“人形遣い”は僕らを試したのさ。ここまで読んだ上で……仲間を信じられるか? とね。信じた結果で混乱させようとするなんて、本当に意地が悪いもんだ……カーシャ? 気がついた?」

 

 梅里が説明している間に、抱き留めていたカーシャの目が開かれる。

 途中までゆっくりと開かれたが、それが驚きで一気に開かれた。

 そして次の瞬間、その碧い瞳は涙であふれ、目の前にあった梅里の胸に顔を埋めた。

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

 その光景を見ていた三人が思わず声をあげる。

 一方で、カーシャは視線を感じることなく、それどころか見られていることさえ気づいておらず、そのまま顔を上げた。

 彼女の涙で潤んだ目が、梅里の目と合う。

 

「──今まで、意識はあったのよ。なんで──こんな危険な真似を。せっかく結界に閉じこめたんだから自爆させればよかったのに」

「そういうわけにはいかないよ。だって……キミは僕に助けを求めたじゃないか」

 

 連れ去られる瞬間、カーシャは梅里に手を伸ばし「助けて」と言っていた。

 梅里は呆然としているカーシャをよそに、そのときは間に合わずに掴めなかったその手を掴み、そしてしっかりと握りしめる。

 

「それに、大事な仲間を見捨てるわけにはいかないよ」

「大事な仲間? でもアタシは裏切り者よ……仲間なんかじゃない……」

 

 卑屈に目をそらすカーシャに、梅里は笑みを浮かべて問いかける。

 

「帝国華撃団夢組除霊班副頭で大帝国劇場食堂の金髪の給仕係なのはいったい誰だい? 仮に仲違いしたとしても──僕の話を聞いて、誤解は解けたんじゃないの?」

 

 それはその通りだ。カーシャが華撃団を──いや、梅里を憎んでいた理由は、もうなくなっていた。

 それでも──今度は自分がしてきたことの負い目がカーシャを躊躇わせ、目を合わせることができなかった。まさに顔向けできないという心境だった。

 

「仲直りの握手、というわけにはいかないかな?」

 

 梅里の笑みに、カーシャは惹かれた。

 思わず頷きたくなる。しかしそれでも、カーシャを縛るものがある。貴族である彼女の家だ。

 

「……でも、アタシは……家に逆らうわけには、父に逆らうわけには……」

「関係ないよ、そんなの。僕はトワイライト家のアカシアさんなんかじゃなくて、僕の目の前にいるカーシャを誘っているんだよ」

 

 梅里はカーシャの手を離すと、今度は両手で何にも包まれていない両肩にをしっかりと掴む。

 驚いた様子の彼女の目をしっかりと見ながら梅里は言った。

 

「家に居られないと言うのなら、僕らのもとに来なよ、カーシャ。そしてやりなおそう、最初から」

right from start(最初から)……?」

 

 最初から──その言葉にカーシャが思い浮かべたのは、来てまもなくあった上野公園の花見だった。

 桜の花びらが舞う、まるで桃源郷のような光景。

 それはそのときのカーシャの記憶とは変わり、脳裏に浮かべた光景では色鮮やかなものへと変わっていた。

 そしてなによりも、それを共に見る仲間の姿が、今のカーシャにはハッキリと見えていた。

 その光景の中心にいたのは──

 

「ウメ、サト……」

 

 大粒の涙がその目からこぼれ落ち、カーシャは感極まった様子で梅里に抱きついた。

 そのままの勢いで彼を押し倒すような形になる。

 

「ウメサト! アタシは──間違えてた。そしてそれを正したい。アナタのことを恨むなんてもう、考えられない……」

「カーシャ……」

 

 彼女は顔を梅里の胸に押しつけ、さらにグリグリと埋めるように顔を振る。

 それを受け入れていた、梅里だったが──

 

「……って、ちょっと、なにしてるの、カーシャ」

 

 裸のカーシャは、遠慮なく梅里の服に手をかけると──それを剥ぎ始めた。

 

「な!? え、ちょっと……何、なんで……」

「愛してるわ、ウメサト。アナタにアタシのすべてを捧げたいくらいに」

「ま、待った! ちょっと待った!! 待ってください、お願いします……」

 

 馬乗りになっているカーシャにあっという間に上半身の服をとられた梅里は、さすがに焦り、なぜか懇願する立場になっていた。

 そして、彼以上に焦る三人の娘たち。

 

「な、な……なななななな、なにしてんのよッ!!」

 

 真っ先にショックから立ち直ったせりが声を上げると、ほかの二人も我に返る。

 そしてかずらが通信機に向かって大きな声を出した

 

「山野辺さん! 結界解除してください!! 最優先ですッ!! さっさと、急いで、緊急で! 今すぐに!!」

「は? しかし、絶界の急な解除は空間に負荷を強いるので危険が……」

 

 基本に忠実な和人が反論するが、そんなことは知ったことではない三人。

 その一人であるせりが声を荒げた。

 

「いいから、今すぐ解除し・な・さ・い!! 空間なんかよりも、梅里が危険なのがわからないの!?」

「せりさんのおっしゃるとおりです──って、カーシャさん!? それは、あまりにも……いけません。このままでは梅里様が……ああ、とても待っていられません。ここは魔眼で強引に──」

「お嬢!? 魔眼はそない簡単にホイホイ使(つこ)うてはあきまへんって、陰陽寮の本家からこの前注意されたばかりやないですか」

 

 封印・結界班の男副頭が言うと、しのぶは魔眼であることを如実に語る金色の瞳が半ば見えかけているその目でキッと睨みつける。

 

「ほんなら、あなたが命を懸けてでも、この絶界、解いてください! 今すぐに!!」

「そないなこと……それは無茶ですわ……」

 

 混乱をきわめる三人娘があたふたと右往左往している最中も、カーシャは止まらない。

 まるで外国映画のワンシーンのように、カーシャは必死の抵抗を見せる梅里に抱きつくと、むさぼるように唇を求め──

 

 

「「「早く、なんとか──しなさいよ!」してください!」してくださいまし!」

 

 

 三人の絶叫が、その場に響きわたる。

 今この瞬間、せり、かずら、しのぶの3人にとって、黒鬼会や太正維新軍なんかよりも梅里の貞操の方が最大の関心事であり、何よりも恐ろしい敵はカーシャだった。

 

 

 ──なお、鬼王は花組がどうにか倒した模様。

 




【よもやま話】
 助けた時点で巨大魔操機兵が動きを止めているので撃破する必要が無く、合体攻撃の必要もなかったが、別の合体を試みたカーシャのせいであやうく18禁になりかけたのでした。
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