サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 ──帝都内某所

 

「さて、いよいよ本格的に私たちも動くことになるけど、準備は大丈夫かしら?」

「ええ。抜かりなく。水弧様」

 

 長い黒髪の女の声に、黒ずくめ──まるで舞台の黒子や文楽の人形師のような姿──の男が答える。

 

「本部勤務で間違いないの?」

 

 そしてもう一人その場にいた銀髪の女の確認に、水弧と呼ばれた黒髪の女がうなずく。

 

「ええ。華撃団に潜入という点では一緒になるわけだけど……くれぐれも足を引っ張らないように気をつけてほしいわね、ローカスト」

「先に潜入しているのはコチラの方なのだけど? それにワタシに関しては“夢喰い(バク)”と呼ばれる、と記憶しているけど?」

「あら、そうだったわね。ごめんなさいネ、人を信用しないから共同の作戦って苦手なのよ」

「……それで台無しにされたら、たまったものじゃないわ」

 

 水弧を睨む“夢喰い(バク)”。

 相手を蔑むような目で見返す水弧。

 

「おやおや、仲間内で争っても仕方がありませんよ、二人とも」

 

 仲裁に入る黒ずくめの男。

 

「人形師、あなたは黙っていなさい。いえ、むしろあなたも私にとっては邪魔の一人でしかないのですけど」

 

 不快気味に水弧が言うが、人形師と呼ばれた黒ずくめの者は表情こそ隠れて見えないものの飄々とした口調で返す。

 

「おや、私があなたについているのは、“あの方”の指示ですよ。ついでに言えばお二人がそろって潜入することも。それでも逆らうおつもりですか?」

 

 それでも水弧は黙って人形師をジッと見続ける。

 

「さて、“あの方”の計画において最大の障害となるのは帝国華撃団。司令の米田中将の作戦指揮能力も、それを実行する実働部隊である花組の能力も優れていますが……憂慮すべきは見えざるものを見る目にして聞こえざるものを聞く耳である、霊能部隊夢組です。ただ強くて暴れるだけの猛獣よりも、狡猾な獣の方が駆除するのには厄介ですから、ねぇ」

 

 帝国華撃団は後者であり、そう成らしめているのは月組の情報収集能力と、夢組の危機察知能力だった。

 例えるのなら華撃団は視覚・聴覚・嗅覚が発達しているだけでなく、それを逆手に取った罠でさえ、恐ろしく冴えている勘を頼りに見切って全て避けてしまうような猛獣だ。

 

「あれを罠にかけるには、まずはその勘を働かなくさせる。そのための夢喰い(バク)ですよ、水狐様」

「……わかったわ。それについては認める。でも、あなたも含めてよけいな手出しは無用に願うわ」

「承知いたしました」

 

 過剰なほどに慇懃に頭を下げる人形師に、水弧は面白くなさそうな顔をした。

 それで夢喰い(バク)とは有耶無耶になったようで、相手も不機嫌そうに銀髪をいじりながら視線を逸らすように振り返る。

 

「間もなく、私たち五行衆も動いて本格的に動き出すわ、我ら──黒鬼会が」

 

 水弧の言葉に人形師も夢喰い(バク)も頷く。

 

「最初の仕事は……文字通り華撃団の頭を潰すこと。その布石も含めて忙しくなる。新参のあなたもね、ローカスト」

 

 からかうようにもう一度、コードネーム以外の名で呼ぶ水弧を、夢喰い(バク)は鋭い目で睨みつけた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──葵 叉丹が銀座を襲撃してからしばらく経った。

 

 戦闘終了後には夢組や月組といった情報収集を得意とする部隊が、現場付近の捜査や調査を行い、その結果が形になり始めていた。

 そんな時期に、夢組は本部勤務をしている幹部達が食堂へと集まっていた。

 

 

「えっと、つまり……サタン=アオイを名乗っていたのが、対降魔部隊に米田指令と共に所属していたシンノスケ=ヤマザキっていうことかしら?」

「そういうことだ」

 

 虚空を見上げて頭の中を整理していたカーシャの問いに、帝国華撃団夢組の二人いる副隊長の一人、本部にいる塙詰しのぶではない方である巽 宗次が肯定した。

 普段は花やしき支部に勤務する彼は、昼の部の営業を終えた食堂で、隊長の梅里とよく会議をするのだが、今日はそれに本部メンバーのほとんどが参加している。

 

「だが、その葵 叉丹は間違いなく前回の戦いで死んでいる」

「What's!? 本当なの?」

 

 驚いたカーシャが振り向いた拍子に、ポニーテールにしたウェーブのかかった金髪が揺れる。 

 重々しくうなずく宗次が示すように、花組の報告ではそうなっていた。

 というのも、夢組は誰一人として聖魔城での戦いに参加していないので見た者がいないし、過去認知を使おうにも霊力状態が悪すぎて見通せないのだ。

 しかし、花組の報告にあるその直後に出現したという“悪魔王サタン”なる存在に関してはその圧倒的な妖力を感じられたし、実際、その力によって夢組が相対して倒した上位降魔が復活して再び戦うことになったのだから、それに関しては間違いない。

 そこから遡ることで、叉丹は死んだということは間違いない、という結論になるのだが──

 

「それなら、この前現れたのは……」

「生き分かれた双子の弟とかじゃねーの? とウチの頭なら言いそうだけど……」

 

 不安げなカーシャに対し、茶化すように苦笑しながら言ったのは錬金術班の越前 舞。その彼女にとっての「ウチの頭」といえば、出張中の松林 釿哉のことだ。

 容易に想像できて、皆一様にうなずく。

 

「いやいや、そんな。いくらなんでもそんなベタな展開が現実にあるわけないでしょ」

 

 それに思わず苦笑する梅里。

 そんな彼を予知・過去認知班副頭の駒墨(くずみ) 柊が何か言いたげに見つめていた。

 

「ん? どうかした?」

 

 視線に気づいた梅里が問うが、柊はなにも言わずに首を横に振った。

 

「真面目な話に戻すが──考えられるのは、戦いの混乱に乗じて生き延びた、または何らかの法術を使って死を乗り越えたか、と言ったところだが……」

 

 腕を組む宗次に、梅里は疑問を投げかける。

 

「さすがにあの状況で生き延びた、はあり得ないんじゃないかな。花組と全力で戦って決着が付いているんだから。六破星降魔陣が発動したときの紅のミロクとは違うでしょ」

 

 梅里が例に出したのは、黒之巣会との戦いの最中に、敵の魔法陣が完成したときに起こった地異で地割れが起き、それに黒之巣会幹部である紅のミロクが巻き込まれたことがあった。

 一時的には死んだと思われていた彼女だったが、日本橋で花組の突入を支援している梅里たちの前に現れて戦闘になっている。梅里はそのことを思い出して言ったのだ。

 

「……それに、法術で死を乗り越えた、というのもねぇ」

 

 梅里が続いて思い出したのは、やはり叉丹討伐後に現れた『悪魔王サタン』だ。それこそあれそのものがが「叉丹の死をもって現れる存在」なような気がして、それさえも花組の活躍によって倒されているのだから、これ以上はさすがに無理だろう、と思える。

 

「そうでなければ、不死の存在か……」

不死者(アンデッド)、デスカ?」

 

 梅里のつぶやきにカーシャよりも片言の日本語で反応したのは、夢組の元祖イギリス人、コーネル=ロイドだった。

 

「確カニ、死をキッカケに発動する呪法はありマス。それを自らに施して強力な魔導死霊(リッチ)とナリ、不死王(ノー・ライフ・キング)として君臨シタという記録もありマス」

 

 もちろん、表に残せない歴史ですが、とコーネルは補足する。

 悪魔払い(エクソシスト)であり、宣教師でもあるコーネルは西洋の魔術等といった方面にも知識が豊富だった。

 

「う~ん、やっぱりそれも違うように私には思えるけどなぁ……」

 

 そう言って首を捻るのはせりだった。やはりサタンとなることさえ異質なのに、そこからさらに、今度は不死者(アンデッド)になるというのは違和感がある。

 

「わたくしは、自らではなく他者に蘇らせられた可能性を危惧いたします」

 

 丁寧にそう言ったのは、閉じているように目が細い塙詰 しのぶだった。

 

「あ! そっか。そんなことが、できるってことは……」

 

 しのぶの言葉にせりが思わず目を丸くする。そして──チラッと梅里を盗み見た。それに気づいた彼は思わず苦笑する。

 

「そんな所行、許サレル訳がありまセンッ!!」

 

 しかしそれで激昂したのはコーネルだった。

 宣教師であり、聖職者である彼にとって死者を人の手で蘇らせるような術は禁忌にあたり、絶対に許容できるものではなかったのだ。

 だが、しのぶは首を横に振った。

 

「ロイド様の気持ちも理解できますが、例え許されざることでもそういった術があるのは間違いありません。そもそも、その術……『反魂(はんごん)の術』を使っていたのが葵 叉丹──山崎 真之介という方ではありませんか」

「え? どういうことですか?」

 

 話についていけず、かずらが疑問を口にする。

 

「蘆名天海。先の戦いでの敵であった黒之巣会の首領ですが……元々は江戸時代の初期に徳川家康に仕えた天海僧正。それを反魂の術で蘇らせ、背後で操ったのは葵 叉丹ですから」

「自分で使った術をかけられて蘇ったのだとしたら、何とも皮肉なものだね」

 

 しのぶの解説に梅里が付け加えて苦笑する。

 そして先ほどからちらちらと梅里の様子をうかがっているせりを見た。

 

「それで、せり。僕はもちろん反魂の術を使おうなんて考えてないから心配しなくても大丈夫だよ」

「そ、そんなの……思ってないわよ?」

 

 梅里に言われて明らかに焦るせり。誤魔化そうとしているが誤魔化しきれていない。

 せりが見ていたのは、それを使って彼が失った幼なじみを蘇らせようとか考えるのではないか、と心配したからだ。

 

「そんなものにすがっても、そのままその人が戻ってくるわけじゃない。そんなに都合のいいものじゃないことくらいわかってるよ。第一、そんなことをしたらアイツに叱られるからね」

 

 梅里は肩をすくめる。

 イザナミを迎えに黄泉国へいったイザナギの試みが不幸な結果になったように、神話の時代から死者を蘇らせようとする話はあるがそれがろくな結果にならなかったのはどれも同じだ。

 

「強引に呼び戻す反動で、どこかしらおかしくなるってところじゃないかな。江戸の基礎を作ったといわれるほど聡明なはずの天海僧正が、今の世を見て「徳川の世に戻さなければならない」と考えるくらいに、ね」

 

 黒之巣会の大義名分は「徳川の世への回帰」だった。

 今の豊かになった世を見て、それでも天海がそこにこだわるのだから妄執に取り憑かれて常軌を逸していたのは明らかだった。

 

「もしくは、逆に思考を完全に放棄して、蘇らせた者の操り人形となるか……」

 

 仮にそれができるとして、それでも叉丹が天海をそうさせなかったのは、あくまで自分の目的を果たすための隠れ蓑として目立たせる必要があったからだ。

 

「話が脱線しかけているが……オレも塙詰の誰かが蘇らせたという意見に賛成だ。しかし問題なのは誰が、何の目的で葵 叉丹を反魂の術を使ってまで復活させたか、ということだ」

 

 宗次が深刻そうに眉間にシワを寄せて考える。

 

「しかも、捨て駒のように使い潰して……ね」

 

 梅里の付け加えに一同がハッとして梅里を見た。

 

「仮に叉丹が誰かに使われていたとして、この前の戦いでは叉丹を支援したり、救助するような援軍はなかった」

 

 やってきたのは叉丹の口を封じるため、“鬼王”と名乗った鬼面に和服の男だけだ。

 

「せっかく、反魂の術なんてものを持ち出してまで蘇らせたのに、そんな貴重な駒をあっさり手放している」

「確かにな。つまりはそれが悪手ではない、ということか?」

 

 宗次が問うと梅里がうなずいた。

 

「これはあくまで僕の推測になるけど、敵組織にとって叉丹──山崎 真之介の役割は終わったんだと思う」

「かなり強かったように見えたけど、戦力として? それなら、それだけ敵が強いってコト?」

 

 今度はカーシャが問うが、梅里はそれに首を横に振った。

 

「いや、山崎 真之介の価値は純粋な強さだけじゃない。むしろ霊子甲冑・光武やその運用に使う翔鯨丸、轟雷号の設計から運用思想といった天才的な発想の方が価値があるんじゃないかと思ってるよ」

 

 純粋な戦力よりも、その戦力を何倍もにできる運用思想を発想できる者の方が、希有であり、重要なのは明らかだ。

 

「しかし、それを敵は捨て駒のように使った──」

「だから、用済みになったんじゃないか、と僕は思ったんだよ。技術的なものは全て吸収した、とかね」

 

 宗次に続いて梅里が言う。

 

「でも、用事が終わったとしてもそのままにしておけばいいんじゃないですか? ひょっとしたらまた必要になるかもしれないじゃないですか」

 

 不思議そうな顔をして小首を傾げたのはかずらだ。

 

「確かにね。それが将棋なら持ち駒にしてといっておけばいい。でも現実にはそういうわけにはいかなかったんだろうね。発想を期待しているのなら思考を捨てさせて復活させるわけにはいかないし、そうなると……思考能力を持ったままの叉丹が誰かの忠実な部下になる、なんて思う?」

 

 黒之巣会では天海の忠実な部下──のフリをして、その実は首領の天海を後ろから操る黒幕で、地脈に甚大なダメージを与えて聖魔城の封印を弱めるのに利用した。

 聞けば、対降魔部隊でも米田や他のメンバーと衝突する事もあったらしい。

 

「あの、梅里様? 反魂の術というのは、蘇った者は蘇らせた者に絶対服従を強いられると聞き及んでいますが……」

 

 恐る恐るといった様子でしのぶが発言する。

 

「叉丹ほど狡猾なヤツならその穴を見つけて反抗してもおかしくないでしょ。例えば、他の者に蘇らせた者を殺させる、とかね。そうすれば自分を縛るものがなにもなくなるんだから」

 

 梅里の説明で頭の上に「?」マークを乗せた除霊班頭・秋嶋(あきしま) 紅葉(もみじ)以外の皆が納得した。

 紅葉は戦闘能力はずば抜けて高いが、その分──理解力が弱い、残念な子なのである。

 

「反魂の術を使ったヤツが、自分の命を狙ってきそうならいない方がマシ、と思っても無理はない。もちろん、カーシャの言うように叉丹の危険さと戦力を天秤に掛けても、戦力として考えないでいい程に、敵の戦力が充実している、という証であると思うけどね」

 

 梅里がそう言って笑顔を浮かべると──

 

「Oh! さっすが隊長!」

 

 そう言ってカーシャがすぐ横にいた梅里に飛びつくように抱きしめた。

 

 

「「「なッ!?」」」

 

 

 思わず声を上げる三人を後目に──

 

「アタシみたいな新参者の意見もきちんと聞いていてくれて、うれしいわ! サンクス!!」

「え? あ……いや……それほどでも……」

 

 そう言いつつ、頬を掻いて戸惑いながらカーシャのするに任せる梅里。

 イヤな予感にそっと周囲に目を配れば、あからさまに怒っているせりの視線、頬を膨らませて不満げなかずらの視線、しのぶの冷めきった目線、がそれぞれ向けられている。

 

「外国人の挨拶……にしては度を超えてると思うけど……」

「むぅ……負けていられません」

「……やはり胸、だというのですか。梅里様」

 

 そんな三人に睨まれつつ、梅里は──

 

「敵の正体どころか名前さえもわかっていない今は情報を集めるしかない。月組がメインで動いているけど、そのサポートをお願いするよ。特に、調査班」

「ええ、わかったわ。でも……その首にぶら下げた巨大なアクセサリーは外してから指示を出した方がいいと思うけど?」

 

 首に腕を回して抱きついたままのカーシャをジト目で見ながらせりが答えた。

 




【よもやま話】
 暗躍する敵組織。水狐は……もうみんな潜伏時の姿を知ってるでしょ、ということであまり隠すことをしないつもりです。
 これを書くために攻略本とか見返してるんですけど、ゲームでも結構露骨に動いてるんですよね。4話で京極のニセ情報流したり、と。
 コーネルの話は、ぶっちゃけ「3外伝」への布石です。そうなるかも……レベルですけど。
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