サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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─8─

 ──明けて太正15年 元日……

 

 

『あけましておめでとうございます』

 

 

 大帝国劇場の食堂で、声をそろえて新年の挨拶をしたのは夢組の幹部達である。

 梅里に釿哉、和人、コーネルといった食堂勤務の男性陣に、しのぶ、せり、紅葉、カーシャ、舞、柊の女性陣、そして食堂勤務でこそないが本部付のかずら、さらには支部から宗次、ティーラ、ヨモギに加え、あまり本部には姿を見せない封印・結界班の副頭2名も集まり──帝劇の食堂には、副頭以上である夢組幹部がまさに勢ぞろいしていた。

 

「激化した黒鬼会との戦いも昨年中に決戦を迎え、無事勝利を収め──」

 

 司会役であり、挨拶後から長々と話す宗次。

 その挨拶には閉口するものも出始め、特に目を輝かせてお節料理を物色するかずらの耳にはまったく届いていない様子であった。

 彼女と同じようにマイペースに振る舞うカーシャやヨモギ、いきなり酒を飲みだした釿哉のような人もいれば、それを見て苦笑を浮かべているのは封印・結界班の男副頭に梅里だった。

 そんな梅里の両脇は、笑顔を浮かべつつも密かに争うせりとしのぶがおり、真面目にキチンと話を聞いているのは、和人やティーラ、紅葉、封印・結界班の女副頭に加えて意外にも思える柊である。

 

 ──ちなみに、ここ大帝国劇場のヌシとも言える花組メンバー達や米田、かえで達は楽屋で新年会を行っていた。

 そのための料理や準備のために正月から来ることになり──それに合わせてどうせなら夢組も、幹部を集めて新年会にしてしまおう、となったのが今回の趣旨である。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 宗次の次に挨拶を求められた梅里は「今年もよろしくね」と極力短い挨拶をして──それ以降はそのまま会食となった。

 

 そして、さすがに隊長である梅里の下へは挨拶が集中した。

 酒を持ってきた釿哉にはそれを飲まされそうになったが、どうにか誤魔化してそれを避け──続けてやってきた和人とコーネルの修験道VSキリスト教の宗教論争に巻き込まれそうになりつつ、連れ添うようにやってきた宗次とティーラの丁寧な挨拶にどこかホッとした。

 もっともその後で二人をマークするように即座に現れた封印・結界班の女副頭には驚いたが、彼女もまた礼儀正しく挨拶したので、梅里もそれには丁寧に応じた。

 やがて──

 

「ほら、梅里さん。これもすごく美味しかったですよ」

「あのねぇ、かずら。それを作ったのは梅里本人なんだけど?」

 

 料理をとってきたお皿を差し出すかずらが隙あらば隣を狙うのを、それを頑として譲らないせりがたしなめる。

 

「あ、そうなんですか? じゃあ、とても美味しくて気に入ったので、今度は私のためだけに作ってください」

「……自分で作る気はないのね」

 

 呆れたようにせりが言うと、かずらは小首を傾げた。

 

「どうせなら美味しい方がよくないですか?」

「努力すれば美味しく作れるようになるのよ。そういう努力が実を結べば、余計に美味しく感じられるしね」

「へぇ……じゃあ、今度教えてください、梅里さん!」

 

 せりの方を向いていたかずらはクルリと方向を変えて、梅里にお願いする。

 そんな天真爛漫なかずらの様子に苦笑を浮かべる梅里。その隣でせりもまた──こちらは微妙にこめかみをヒクつかせながら苦笑していた。

 

「私が教えてあげるから、ね」

「え~、どうせなら上手な人から教えてもらった方がよくないですか? せりさんよりも梅里さんの方が料理、上手ですよね……」

 

 圧のある笑みで威嚇するせりだったが、かずらにはそれが通じず、その上さりげなく、せりが普段悩んでいる痛いところを突いてくる。

 しかしせりはそれをぐっとこらえて、優しい笑みを浮かべて忠告することにした。

 

「……かずら、梅里から料理を習うのはやめた方がいいわよ。悪いことを言わないから、私で我慢しておきなさい」

「えぇ~」

 

 てっきりせりが怒るかムキになると思っていたかずらの想像と違う反応だったが、ともかく心底イヤそうに答えた。

 そもそもせりから習ったらせりを越えることは無理だと思うし、それに今は長い間彼女に教えを請うようなことはしたくない。

 ──もちろん、昨年のテーブルマナーの仕返しを恐れて、である。

 

「気持ちは分かるけど、アタシもそう思うわ」

「どうしてですか?」

 

 そんなかずらを止めたのは、物珍し気にお節料理を堪能していたカーシャだった。

 不思議そうに尋ねるかずらに、カーシャは説明する。

 

「アタシも料理に興味がわいたから、預かりの身なのもあって教えて欲しいと頼んだのだけど……アレは無理よ」

「あなたも知ってたのね……」

「どういうことですか?」

「梅里もだけど、プロは動きが早い上に高度すぎてなにやっているのかサッパリ分からないのよ」

「ええ、そうだったわ……ウメサトの作ってくれた出汁巻き卵が、とてもとてもとーっても美味しかったから作り方をきいたんだけど……全然分からなかった。巻くときは勝手に形が作られていくようにしか見えなかったし──」

 

 事情を分かりあうせりとカーシの一方で分からないかずらは首を傾げるかずらにせりが説明すると、それにカーシャが悟った様子で頷く。

 しかしそれを聞いたかずらの顔色が変わる。

 

「……ちょっと待ってください。カーシャさん、梅里さんに出汁巻き卵を御馳走になったんですか?」

 

 グルッと顔を向け、ただならぬ気配を漂わせつつ、かずらがハイライトが消えた目でカーシャを見た。

 その迫力に気圧されながらも、カーシャは頷く。

 

「え、ええ……預かりの身だもの。この前の休みの日に……」

「な……ん、ですって!? 梅里さん手ずから混ぜて、焼いて、巻いた──至極の一品を、あなたは食べたと言うんですか!?」

 

 信じられないような物を見たような驚きの目と、親の敵を見るような恨みがましい目が合わさったかずらの視線がカーシャを捉える。 

 

「……そこの伊達巻きもそうだけど?」

 

 ため息をついてお重の中に入った黄色い伊達巻きを指さすせり。調理方に混じって一緒に作ったので、梅里がそれを担当したのを知っていたのだ。

 それを聞いたかずらは瞬時に箸を翻し、伊達巻きの一切れを口の中に放り込むと──

 

「ん~、さすが梅里さんの、私への愛情が一杯こもった伊達巻きです♪」

「……別に、かずらのために梅里がつくったわけじゃないでしょうに」

「まぁまぁ、せりさん。かずらさんがそれで納得するのならよろしいではありませんか」

 

 幸せそうに満面の笑みを浮かべてモグモグと咀嚼していた。

 それを呆れた様子で見るせりと口には出さずとも同じことを思ったカーシャ。

 そして困った顔で苦笑するしのぶはせりをたしなめながら、自身も箸を重箱へとのばす。

 

 

 ──太正15年の始まりは、とても落ち着いたものであった。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 夢組の新年会も終わり、花組達と合わせた後片づけを済ませた食堂メンバー。

 新年会が終わると、食堂メンバーでない者達は挨拶をして去り、食堂メンバーも仕事を終えて、めいめいに挨拶しては帰宅していく。

 というのもこの正月、黒鬼会との戦いが終わった直後と言うこともあり、帝劇内に住み込んでいる花組メンバーも帰省するなりして、ほとんど人が残らない予定であった。

 それは住んでいる花組たちの食事がほとんどいらなくなる、ということでもある。

 米田からは昨年中にその予定が分かった段階で、「いい機会だから、お前らも正月休みをとれや」と言われて、今日行われたの花組の新年会用以外に、日持ちするお節料理を用意して、食堂は短いながらも正月休みに入る予定だ。

 この後片づけが終わったらしばらく休みなのである。

 

「ふぅ……」

 

 厨房の調理場を拭き上げた梅里は大きく息を吐くと感慨深げに眺めた。

 毎日のように使っている厨房だけに数日でも使わないというのが少しだけ違和感がある。

 

「ウメサト、終わった?」

 

 厨房メンバーも先に返して一人で仕上げていた梅里だったが、その作業が終わるのを見計らったようにカーシャが声をかける。

 

「うん、終わったよ。数日だけど、ここも休ませてあげないとね」

「厨房を休ませてあげる、か。変わった考えだけどおもしろい発想ね」

 

 西洋的な考えにはあまり見られない発想に、カーシャは楽しげに笑みを浮かべた。

 

「カーシャこそ、どうかしたの?」

 

 てっきり他の人と一緒に帰ったと思っていただけに、梅里は意外に思っていた。

 するとカーシャは満面の笑みを浮かべて梅里に尋ねてきた。

 

「ちょっと聞きたいんだけど……ウメサトってこの後どうするの? 花組の人達みたいに帰省?」

「いいや、帰らないよ。正しくは帰れないって言った方がいいかも。去年の春先に帰っただけじゃなくて夏にも帰らせてもらっているから、居残り組にならないとさすがにね……」

「ふ~ん……」

 

 梅里は首を横に振って苦笑する。

 降魔や大規模霊障への対策という緊急時が活躍の場である花組と違って、夢組は平時でも活動する任務はあるので、いくら正月とはいえども人員の半分程度は帝都に残っている必要があった。

 一方、納得した様子で頷くカーシャ。

 実はもし梅里が実家に帰るのなら「隊長預かりだから」と一緒について行こうと目論んでいたのだが、そのアテは外れてしまったのだが……しかしそれでくじけたり諦めはしない。彼女は(したた)かなのだ。

 

(では、プラン2にしますか……)

 

 心の中で呟くとカーシャは強引な鼓動に出る。

 彼の腕を抱きつくようにとると、そのまま再び笑顔を彼に受けた。

 

「じゃあ、初詣にいきましょ、ウメサト。日本に来て最初のお正月だもの。せっかくだから日本ならではの新年の慣習を体験したいわ」

「なるほど、わかった。僕も一緒に行くよ」

 

 さすがに梅里もカーシャの強引な行動に驚いたのだが、彼女は悪びれた様子もなく笑みを浮かべたままである。

 しかしそのカーシャの提案には梅里も合点がいった。そこまで言うのなら彼女に日本の正月を満喫させたいと思う。

 

「ええ。レッツゴーよ」

 

 梅里の言葉にとカーシャははしゃがんばかりの上機嫌でそう言い、そして──新たなる企みを実行に移した。

 

「ねぇ、ウメサト。実はもう一つ憧れていたことがあって、それに日本の新年の定番みたいだから、それもやってみようと思って……」

「うん? いったいなにを?」

「実は、『フリソデ』という和服を着たくて、用意して持ってきていたの」

 

 そう言ってカーシャは包みを出し、そこに収まっていた和服──振り袖を梅里に見せた。

 

「へぇ、立派な振り袖だね。すごいなあ」

 

 その描かれた模様や仕立ては、梅里が見ても分かるくらいに立派な高級品だった。特に黄色を基調とし、赤や黒で彩られた柄は思わず見入ってしまうほどだ。

 もちろん着物そのものだけでなく、その帯も見事なものだった。

 すると、カーシャはなぜかその振り袖一式を梅里にポンと手渡す。

 

「えっと……これは?」

「“キモノ”の着方って分からないから、アナタに着付けを手伝って欲しいのよ」

「は、はい!?」

 

 戸惑っていた梅里にカーシャは悪戯っぽい笑みを浮かべると──掴んだままの腕を引いてカーシャは厨房のさらに奥へと梅里を引っ張り込んだ。

 

「いったいなにを? 着付けってことは、着替えるんだろ?」

「ええそうよ。更衣室にしても楽屋にしてもアタシが着替えるのにウメサトが一緒にいたらおかしいでしょ? ここならもう人も来ないし、誰の目にも留まらないから大丈夫──」

 

 そういって笑みを妖艶なものへと変えたカーシャが、着ていた服のボタンを外し始め、それを見た梅里の顔がひきつったとき──

 

「──なわけないでしょ。まったく、油断も隙もない」

 

 厨房の入り口の方から、別の女性の声が聞こえた。

 あわてて振り返るカーシャ。その声にどこかホッとしつつも状況的には非常にマズいことを思い出して焦る梅里。

 二人の視線の先には、青い振り袖姿のせりがいた。派手さはないが落ち着いた素朴な柄のその着物は、せりの個性を表しているかのようでとてもよく似合っていた。

 

「梅里も甘いし油断しすぎよ。先月の戦闘直後になにをされたのか忘れたの? その人(カーシャ)はとびっきりの肉食系なんだからね。用心しなさいよ」

 

 カーシャをにらみつつ梅里に小言を言うせり。

 その横からひょこっとかずらが顔を出した。

 

「肉食系というよりも、肉食獣そのものですよね、カーシャさんって。梅里さんも本っ当に気をつけてください。食べられちゃいますよ?」

 

 彼女もまた振り袖に着替えていた。緑を基調としたその柄は、やはり彼女によく似合っている。

 

「しかも暗がりに連れ込んでだなんて本当にそのままですよ、カーシャさん。少しは自重してくださいな。もしまた問題を起こせば、今度こそ本当に除隊ということになりかねませんから……」

 

 最後に姿を現したしのぶ──やはり彼女も赤を基調とした彼女を引き立てる柄の振り袖を着ている──は夢組副隊長という立場から、カーシャに忠告する。

 

「あら? もちろん冗談よ。こんなところでウメサトを誘惑だなんて、するわけないじゃない」

 

 そう言って笑みを浮かべ冗談めかそうとするカーシャ。もちろん三人は「いいえ、絶対に本気だった」と微塵も考えを変えなかった。

 

「まぁ、カーシャも梅里も初詣行くんでしょ? それならみんなで行きましょ」

「そうですね。わたくしも梅里様と初詣に、と思っておりました。ここで分かれてもどうせ抜け駆けしようとして争いが起こるだけかと思いますし……ねぇ、かずらさん?」

「なッ!? なんで私に話を振るんですか! それじゃあまるで、私が抜け駆けするみたいじゃないですか」

「みたい、じゃなくてするでしょ、あなたなら。それでカーシャと不毛な争いを繰り広げるだけになるんだから、大人しく賛同しておきなさい」

「む~~」

 

 せりの駄目押しにかずらは不満げではあったが、渋々頷く。

 それからせりが代表してカーシャに「どうする?」と尋ねると、彼女はしれっと「もちろん、お願いするわ」と答えた。

 

「じゃあ、着付けもしてあげるわね。しのぶさん、かずら、手伝えるわよね?」

「ええ。もちろん、お任せくださいまし」

「わ、私は着付けなんてできないから梅里さんと待ってようかと……」

 

 そう言って梅里の方へと近づこうとしたかずらは、せりに首根っこをひょいと押さえられていた。

 

「はいはい。で、梅里はこっちに人が来ないように廊下に出て見ててちょうだい。万が一にでもこっちを覗いたら……分かってるわよね?」

 

 にっこりと笑みを浮かべるせりに、梅里は背筋に冷たいものを感じながら頷き、厨房から廊下へと出ていく。

 

「え? あれ? ちょっとせり、もしかしてここで着付けするのかしら? どうせならアタシ達の更衣室とか広さに余裕のある楽屋を借りるとか……」

「ええ、そうよ。ここならどうせ人も来ないし、他人の目もないから大丈夫でしょ」

「な!? ちょっと、アナタ本気で怒って──」

「ほら、大人しくしてないと着付けなんてできるわけ──」

 

 突然バタバタと始まった物音には気になった梅里だったが、もし振り返れば命が危ういのは火を見るよりも明らかなわけで──梅里は廊下に立って誰か来ないかを警戒し続けた。

 

「ほら、かずら……キチンと押さえてなさい。しのぶさん、お願い……」

「はい、了解いたしました」

「ちょ、本気で裸に──ま、待って、ホントの本気で待って……痛い痛い!! しのぶ、そんなムキになって締め付けたら、胸が苦しいに決まってる!」

「そうですか……ではカーシャさん、苦しくならないように胸を小さくしてくださいな」

「は? え? そんなの無理に──って、いったぁぁぁい!! ──ッ! 苦ッしくて、息がッ──」

「あの……しのぶさん? さすがにそれはやりすぎじゃない?」

「いいえ、そんなことありませんよ? ……ああ、せりさんも少しキツくシメた方がいいかもしれませんね」

「──うん、カーシャの帯はもっと締めた方がいいかもしれないわね」

 

 カーシャの悲鳴のような声が響きわたるとその様子にさすがにせりもドン引きしてさすがに彼女を不憫に思って言ったのだが、圧を感じる笑顔をにっこりと浮かべて答えるしのぶの様子のおかしさを見てとばっちりを食わぬようにあっさり折れた。

 

「ちょ、せり、ズル……い……」

「ちなみに……あなたのその胸、少しくらい萎んだ方がいいと思ってるのは、私も同じよ?」

 

 カーシャの胸をジト目で見つつ言ったせりに彼女は絶望する。この場に味方は誰もいなかった。

 

「う、ウメサト! 助けてー!!」

「──梅里さん、もちろん今こっちに来たらダメですからね?」

 

 かずらに念を押されるまでもなく、梅里は振り返ることができない。

 なによりも──騒がしいその声を聞いて「何事か」とやってきた花組メンバーやらを相手に、「なんでもないので大丈夫です」と諭して追い返すのに忙しい。

 

 

 ──太正15年の始まりも、やはり落ち着いたものにはならないのであった。

 




【よもやま話】
 年明けました。
 カーシャを責めるかずらですが──よく考えたら前作で、裸で迫ってたましたよね、かずら。
 しのぶさんは胸にコンプレックスを持たせ過ぎたかな、と思う反面、もっとやれと思う自分もいるわけで……
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