サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 梅里が見つけたそれは、目にした瞬間に閃いた思いつきであり──その時点ではまだ、星が(またた)くような、わずかな光でしかなかった。

 同時に頭に浮かんだ、去年の年末に言われたあやめからの言葉──

 

(……梅里くんが修得したあの技を使っている間に限って、霊力の特質が変化して、霊子水晶との相性の問題が解消されるみたいなの)

 

 それが僅かな輝きを確かな光明へと変える。

 梅里が見つけたのは──光武・複座試験型。

 本来の搭乗者である近江谷姉妹が限界を迎えて後方に下がったものの、それを撤収させる余力が無く、ハッチが開けっ放しのまま放置されていたものだった。

 

「コイツは僕一人では動かせない……」

 

 多少は改善されているという話は聞いていたが、それでも霊力の同調を必要とするこの機体。

 それは搭乗者が互いに信頼し、そして呼吸を合わせることができるほどに息のあった相手であることが要求される。

 

「動かせるかどうか、一か八かになるけど……だとしたら──」

 

 そう呟いて、梅里が見たのは──

 

【選択肢】

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

→塙詰 しのぶ

 

「しのぶさん!!」

 

 付近にいたしのぶを、梅里は大声で呼んだ。

 気が付いた彼女が駆け寄り──梅里は自分が考えた作戦を話す。

 

「わたくしと梅里様で、この光武を?」

「うん……僕らなら、きっと動かせるはず。いや、動かさないといけない。あの人を──止めるために」

 

 そう言って梅里が見つめる先には離れた先で暴れる超巨大魔操機兵・六道の姿があった。

 それに乗り込んだ幸徳井 耀山。

 先ほど聞いた彼の話は衝撃であった。

 彼が何を見たのか、想像さえできない梅里にとってはその気持ちを理解した、とは完全には言えない。

 でも、それでも、彼の深い絶望と使命感にかられた行動だということはわかった。

 

「梅里様……」

 

 そんな梅里の様子を見て、しのぶは声をかける。

 彼女は、梅里と違って幼いころから彼を知っており、その人柄も梅里よりもわかっていた。優しく人格者であった彼がああなってしまったことは衝撃であり──同時に、変えてしまった原因の深刻さを物語っている。

 だからこそ、それに配慮して耀山を“止める”と言った梅里の気持ちが──その優しさがしのぶには嬉しく思えた。

 

「はい。是非、わたくしにもそのお手伝いをさせてくださいまし」

「よろしく頼みます。しのぶさん」

 

 しのぶの言葉に、梅里はうなずき、頼もしい笑みを浮かべた。

 そしてしのぶの手をとり、梅里はハッチを開けたままになっている光武・複座試験型へと駆け寄った。

 前面にあるメイン搭乗者──おもに機体の操縦を担当する、普段は近江谷姉妹の姉・絲穂が担当しているその席へ、梅里は乗り込んだ。

 ほぼ同時に、後ろの──前部搭乗席に比較するとやや高い場所に位置する後部搭乗席にしのぶが座った。

 

「たしか、ここをこうして……」

 

 霊子甲冑を起動させる作業に移る。

 動かせる可能性ができた時点で、万が一に備えてレクチャーを受けるカーシャに付き合って、梅里もそれを見ていたので覚えていたのだ。

 幸いなことに起動手順は、複座とはいえ光武・改や他の霊子甲冑とそう変わるものではなかった。

 光武本体から延びたコードが、夢組戦闘服の肩の下にある汎用金属端子に接続される。

 

「んん……」

 

 後ろから聞こえるしのぶの声。彼女の戦闘服にも接続されたらしく、その慣れない違和感から、声が出てしまったらしい。

 

「しのぶさん、僕が動かせるといってもその時間は決して長くはない。勝負は一撃で決めるしかない」

 

 梅里が霊子甲冑を動かせるのは、霊子水晶との相性問題が解決できる『満月陣・朧月』を使用中の間だけなのだ。

 

「心得ております。ですからわたくしも──」

 

 後方──しのぶの席から圧倒的な“力”が生じるのが分かった。

 梅里の背後からはその“力”が放つ金色の光がさしているのがわかる。

 

「──魔眼の(この)力、使わせていただきます」

 

 普段は閉じたように細められているしのぶの目が、今はハッキリと開いていた。

 その中には複雑な模様が浮かんでいる金色の瞳──それこそしのぶが陰陽寮で「忌み子」と畏れられ、恨みをかわぬように形式上は大事され、潜入させて場合によっては敵対組織を一方的に壊滅させるための工作員として育てられた原因となった、目が合った者、見つめたものを一方的に支配し魅了する『覇者の魔眼』である。

 

「……ありがとう、しのぶさん」

 

 彼女がこの力を好んでいないことは明らかだった。

 それでも──自分のために使ってくれることが、梅里にはありがたく、そして申し訳なく思えた。

 

「いいえ。梅里様、わたくしは何度も申し上げているではありませんか。このしのぶめが居るべき場所は梅里様の側において他にはございません。あなた様の手助けができて、本当に嬉しゅうございます。ですから──」

「ああ。アイツを──」

 

 二人が顔を上げたときだった。

 

 

「こんなところにいたのか! 武相 梅里ォォッ!!」

 

 

 超巨大魔操機兵・六道が目前に迫っていた。

 未だハッチが閉まっておらず、肉眼でその巨体を捉える。

 それは六道──耀山側も同じであり、光武・複座試験型に乗り込んだ梅里と、その背後の人影をもハッキリと捉えていた。

 

「しのぶ、キサマァァァッ!!」

 

 その目が開き、金色の瞳が見えているのが耀山の目にも映っていた。

 自分を拒絶したしのぶが、自分が求めていたその力を、梅里のために使っている──その事実が、悔しく、腹立たしく、そして──嫉妬させた。

 光武・複座試験型のハッチが閉じる。

 それでも耀山の目には、搭乗席に座る二人の姿がしっかりとこびりついていた。

 

「刃向かうか、武相 梅里! 逆らうか、塙詰 しのぶ!!」

 

 六道の狙いは、今や完全に光武・複座試験型に向けられていた。

 その光武・複座試験型が完全に起動し──その足下周辺に、霊力の芝桜が敷き詰められたように具現化した。

 

「…………」

 

 搭乗席では梅里が朧月を発動させて精神を集中させ、しのぶとも霊力を同調させた彼の姿は、淡く金色に光り輝いていた。

 その手に武器のない光武・複座試験型は花咲き乱れる地面に手をあてると──生じたマゼンダ色に輝く刀身の巨大な刀を引き抜いた。

 

「そんなものが、通じるものかァァァッ!!」

 

 そこへ襲い来る超大型魔操機兵・六道。

 振り上げた刀、模造刀、鉄扇、そして徒手の六腕が、まとめて叩きつけられ──地面の芝桜を舞上げる。

 だが、そこに光武・複座試験型の影はない。

 しかも、舞い上がった花びらが六道の周囲をがまとわりつくように取り巻き──動きを阻害する。

 

「なッ!? バカなッ!! 動かないだとッ!?」

 

 六道の操縦席で、両手の五指から延びる制御用の糸に妖力を送り込むが、舞い上がった花びらが、伝達系統に使われているその糸へと張り付き、阻害していた。

 

 

「しのぶさん……いきます!」

「心得ております、梅里様!!」

 

 

 光武・複座試験型は、朧月の動きそのままに敵の一撃を瞬間移動で回避し──そのすぐ側の死角に現れていた。

 

「武相流……満月陣・花月…………」

「急々如律令……」

 

 その一瞬──辺りは静寂に包まれた。

 花吹雪が舞い散る中──その足下は鏡の様な水面となり、そこの上に一筋の波紋をたて、横一文字に振り抜かれる赤紫の刀身。

 

 

「「──花吹雪・鏡花水月」」

 

 

 ごく自然な動きで刀は振り抜かれ、そのまま六道の後方へと抜ける光武・複座試験型。

 そのままの姿勢で残心を残し──機体に深い傷を負った六道は、その一撃によって活動を止めた

 

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

→白繍 せり

 

「せりッ!!」

 

 梅里は、青いアイゼンクライトのすぐ側で、その搭乗者である自分の妹へ必死に話しかけている白繍 せりの下へと駆け寄った。

 それでも気が付かない様子で一生懸命なずなにアドバイスするせりに、梅里は話しかける。

 

「せり、話があるんだ!」

「もう、後にして! 今、それどころじゃないんだから……」

 

 なずなが憔悴しているのは誰が見ても明らかだ。

 それでも出撃させなければならない状況。肉親を死地に送り込まなければならないその心境は、せりにそんな態度をさせるのも仕方がないことだろう。

 だが、梅里はそれに遠慮するわけにはいかなかった。

 

「せり!」

 

 もう一度名前を呼び、両手で彼女の肩をしっかりと掴む。

 

「なッ!?」

 

 そのままひっくり返され、梅里の正面を向かされる。

 

「なにするのよ! 私はなずなが心配で──」

「せり、落ち着いて聞いてほしい」

 

 せりの言い分を完全に無視し、梅里は真剣な眼差しでせりを見つめる。

 そのただならぬ様子に、せりは思わず気圧されていた。

 

「な、なによ……」

「僕にはキミが必要だ。よく考えたけど……キミ以外、ありえないんだ!」

「んな──ッ!?」

 

 そんな梅里の突然の告白に、せりは顔を真っ赤にして絶句する。

 そして──

 

 

「……ええ、ええ、ええ! わかってますよ。わかってましたよ。どうせそんなことだろうと思いましたッ!! だって、ありえないもの!! あんなところで突然……」

 

 不機嫌なせりが狭い搭乗席でブチブチと文句を言っている。

 ここは光武・複座試験型の操縦席で、前後二つある席の中で、前面の主に操縦を担当する席に梅里がつき、せりはその後方やや上にある席で憮然としながら作業を進めていた。

 

「あの、せり……なんで不機嫌なの? さっきは快諾してくれたのに……」

「アンタが、紛らわしいこと言うからでしょうがッ!!」

 

 思わず足を動かして、そのすぐ近くにあった梅里の頭を軽く足蹴にする。

 さすがに背後で不機嫌でいられてはたまらないと思って梅里が声をかけたのだが、せりの機嫌は直るどころかますます悪くなった。

 光武・複座試験型に乗って一緒に戦うため、梅里はせりに呼びかけ、それに「は、はい! よろこんで!!」と顔を赤くしながら喜色満面で答えたのだが──光武・複座試験型の下まできて詳しい説明をすればするほど、せりの上機嫌はどこへやら、見る見るテンションが下がって、現在は不機嫌の真っ只中にいる。

 

(霊力同調を考えると、今のままだと困るんだよなぁ……)

 

 などと、梅里は梅里で深刻なその問題を考えており、二人の気持ちは見事なまでにすれ違っていた。

 そこへ通信が入る。

 

『スミマセン、隊長。うちの姉が……姉さんってばてっきり告白されるのだと──』

「なずな! アンタは黙ってどこへでも出撃してなさいッ!!」

 

 さっきの妹を心配していた姿はどこへやら、からかうなずなに怒り心頭の様子である。

 さらに──

 

「……あ~、もう! なんなのよ、この複雑怪奇な機械は~!!」

 

 それらの外部的要因もあって、起動作業が進まずイライラを募らせると、まるで投げ出すようにして嘆いた。

 実は彼女、家事や調理にかかる機械以外は完全にダメという、ちょっと変わった変則的な機械音痴であった。

 それをからかわれるので釿哉を目の敵にしているところもあるのだが、そんなせりが技術の粋ともいえる霊子甲冑をまともに扱えるわけがない。

 

『姉さん、落ち着いて……あたしが手伝ってあげるから』

 

 なずながそう言うと、アイゼンクライトのハッチが開き、わざわざ中から出てくる。

 彼女はハッチが開いたままの光武・複座試験型までくると、座っているせりの傍らに立ち、その起動準備を手伝った。

 そこはそれ、さすが乙女組出身であり、花組候補生に数えられ、天武の試験操縦者までこなしただけのことはあり、基本的には同じ起動手順のそれをテキパキと進める。

 

(それにしても、ここまで機械が苦手だったなんて……姉さんって霊子水晶との相性じゃなくて、機械との相性がダメで起動できないんじゃないの?)

 

 なずなはふと、作業の最中にそんなことを思いつきつつ、手は作業を行っていた。

 着々と手順は進み、夢組戦闘服の肩の下にある金属端子に、霊子甲冑から延びたコードが接続され──

 

「ぁん……ッ」

 

 思わずせりが声を出す。

 それに眉をひそめてジト目を向けるなずな。

 

「……姉さん、変な声出さないでくれる?」

「なッ!? 変な声ってなによ!! ピリッときたからつい反射的に声が出ただけじゃない」

「それにしては妙に色っぽい──というかエッチな声だったような……」

 

 今度はニヤリとからかうように笑うなずな。

 

「あ、あああアンタ、何言い出すの!? 突然──」

 

 再び顔を真っ赤にして焦るせり。

 しかし、なずなはそんな姉を不思議そうな目で見ていた。何でこんなにムキになっているのだろう、と。

 この接続に関することは、乙女組ではよくあることで、慣れていないが故に出てしまうその声をからかうのは日常茶飯事だった。

 しかも乙女組は女しか居ないこともあって、皆が遠慮なくやっていたのである。

 

 ──だからすっかり忘れていた。すぐ近くに男が一人いることに。

 

「あの……準備、大丈夫かな?」

 

 思わず頬を掻いて、所在なさげに苦笑する梅里。

 

「あ、あら隊長。申し訳ございません……」

 

 オホホ……とわざとらしい笑いを浮かべてごまかすなずな。

 そんな妹をジト目で見ながらせりもまた準備を整え──起動準備が万全になったところで──

 

 

「こんなところにいたのか! 武相 梅里ォォッ!!」

 

 

 付近まで来た六道が一気に距離を詰めてきた。

 

「なずな、早く離れなさい!」

「うん、わかった……それとウメ隊長、姉さんをよろしくお願いします♪」

「ああ。任せておいて」

 

 ウィンクするなずなに梅里も笑顔でうなずいた。

 それを見て驚愕するせり。

 

「ちょ、ちょっとなずな!? ウメ隊長ってどういこと──」

 

 なずなが悪戯っぽく笑みを浮かべ、せりが猛然と問いつめようとする中、無情にも光武・複座試験型のハッチは閉じる。

 その間になずなは慌ててアイゼンクライトに戻ったが、六道の狙いは光武・複座試験型──いや、武相 梅里のみであり、完全に無視されていた。

 ──そしてハッチを閉じた光武・複座試験型は修羅場になっていた。

 

「……梅里、今のはどういうこと?」

「ちょ、ちょっとせり、今それどころじゃなくて……」

「それどころよッ! なんでアンタを“ウメ隊長”なんて……“ウメ”なんて愛称で呼んでるのよ!! それが分からない限り、同調も何もないでしょ!?」

 

 再び後頭部を足で小突かれる梅里。しかも今度は「ゲシゲシ」と連続だ。

 この光武・複座試験型における搭乗者の位置関係は深刻な改善箇所だと梅里は痛感した。

 

「だ、だから──支部の女性隊員達の中だと、そう呼ばれてるんだってば!!」

「なに!? 支部の隊員にも手を出していたの!?」

「違うよ! 彼女たちが勝手に呼んでるあだ名で、宗次だってタッちゃんって呼ばれてて──」

 

 迫る六道の姿に焦り、切羽詰まった梅里が言った言葉に、せりは思わず吹き出した。

 

「……タッちゃん? ──ッ、なによそれ。ちょ、反則よ……」

 

 笑うせり。

 そして──せりの梅里への反発がなくなり、光武・複座試験型は霊力の同調を開始した。

 直後にやってきた六道の放った攻撃。

 

 

 ──しかし、地面を叩いただけだった。

 

 

 そこに紫電の残滓を残し──少し離れた場所に、光武・複座試験型は佇んでいた。

 瞬間的に起動が間に合ってどうにか避けたが、集中が不完全で朧月は即座に解除されて再び動かなくなっている。

 だが六道はそれに気が付かず、警戒して様子をうかがっていた。

 

「……まったく、私だってあだ名でなんて呼んでいないのに、なずなめ……」

 

 恨みがましく言うせりに、梅里は意外そうに尋ねた。

 

「ひょっとして……呼びたかった、とか?」

「ううん、違うわよ」

 

 それに首を横に振って答えるせり。彼女は優しげな表情を浮かべて語る。

 

「私は、そんなあだ名で呼ぶような人達なんかとは比べものにならないくらいにあなたのことをよく知っているからね」

 

 さらっと言ってのけるせり。

 

「それを考えれば、十把一絡げな扱いなんて、イヤよ」

「……僕も、せりにウメ隊長なんて他人行儀な呼ばれ方は、されたく無いな」

「──え?」

 

 その梅里の答えにせりは驚きつつ、頬を少し赤く染める。

 そして勝ち気な笑みを浮かべ──うなずいた。

 

「ええ、いくわよ──梅里ッ!!」

「ああ、せり!!」

 

 二人の霊力は完全に同調し──梅里も精神を集中させ、満月陣・朧月を使う。

 そして再起起動した光武・複座試験型が手をかざす。

 その直後、轟音と共に落雷がまさにそこへ落ち──光武・複座試験型の手には、まるで雷によって天から授けられたように、青白い光を放つ直刀が握られていた。

 

「キサマらアアァァァッ! 武器を手にしたところで!!」

 

 それを見て察知した六道が、改めて迫る。

 その六腕が手にした刀、模造刀、鉄扇、そして空いた手が握りしめた拳が、まとめて叩きつけられ──光武・複座試験型はまるでかき消えるような速さでそれを避けた。

 そして、まるで稲妻が逆行するかのように直線的な動きで、幾度か虚空を蹴るようにして上空へと駆け上がる。

 

 

神鳴(かみな)りよ……紫電となりて、我が君を照らせ──」

「武相流……満月陣・紫月…………」

 

 

 遥か上空の雲の中へと至った光武・複座試験型はその中の雷を集め、直刀がそれを帯び──

 

 

「「──稲妻光陰落としィィィッ!!」」

 

 

 さながら落雷のごとく、先ほどとは逆に轟音と共に一瞬で地面へ舞い戻り──直刀を落雷と共に地面に叩きつけ──その姿勢で止まっている。

 目の前には超巨大魔操機兵・六道。

 次の瞬間──光武・複座試験型が縦一文字に振り下ろした剣によって致命的なダメージを受けた六道の機関が暴走し、スパークが走る。。

 再び紫電をまとった光武・複座試験型が瞬間移動のごとき迅さで駆け抜けたその背後で──六道は爆発を起こすのであった。

 

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

→伊吹 かずら

 

 梅里はかずらの姿を求めてを振り返った。

 すでに彼女は、付近にいる者達への支援のために、霊力を乗せてバイオリンを奏で始めていた。

 その彼女の下へと近寄り、声をかける。

 

「かずら、ちょっといいかい?」

「はい? でも……」

 

 梅里の声にはすぐ気が付いたかずらだったが、支援中のため手が放せず戸惑っていた。

 六道と降魔兵器相手に、夢組各員をはじめ華撃団はぎりぎりの戦いを強いられている。大勢を支援することができるかずらの演奏は、勝敗を左右する可能性もあった。

 おいそれと簡単に中断するわけにもいかず、躊躇ったのである。

 

「かずらに、キミにしかできない頼みたいことがあるんだけど……」

「はい! なんですか? 梅里さん!!」

 

 梅里の頼みとあってはかずらにはそれ以上の優先事項はない。

 かずらは梅里が唖然とするほど良い返事をして、迷い無く演奏を打ち切っていた。

 

 そうして梅里から光武・複座試験型に乗ることを説明されたかずらは、彼に従って機体の所までいき、メイン搭乗席である前に梅里、後方やや上にあるサブの搭乗席にかずらが座る。

 生身でも降魔や魔操機兵と戦える梅里が操縦するべきなのは明らかだった。

 

「梅里さん、起動の手順はわかりますか? 分からないことがあれば言ってくださいね」

 

 自分自身の作業を進めながら、かずらは嬉々としてた様子で梅里に言った。

 

「うん、今のところ大丈夫だけど、なにかあったら教えて欲しい」

「はい。ぜひ頼ってください♪」

 

 そう言って上機嫌に胸を張る。

 その起動作業はかずらにとってはとても懐かしいものだった。

 乙女組出身である彼女。乙女組は基本的には花組を目指す女子が所属しているため、当時のかずらもこの起動作業の訓練も受けていた。

 だが──霊子甲冑の中枢である霊子水晶と彼女の霊力の相性が悪く、霊力の強さは十分ながらも、彼女は動かすことができなかった。

 かずらにとって諦めざるをえなかった夢。それが霊子甲冑だった。

 

(でもそれが……こんなことをしているなんて、なんとも不思議な気分です)

 

 夢破れたはずだったのに──今、こうして霊子甲冑に乗るための作業をしている。

 霊子甲冑に乗れないという事実を知ったとき──親友はその様子を“荒れた”と評したが、まさにその通りだった。

 かずらはそれまで挫折というものを経験しないで育ってしまった娘だった。

 帝都に別宅を持つほどの神奈川の貿易商という裕福な家庭に生まれ、仲の良い両親に蝶よ花よと育てられ、本人も利発で賢く、音楽の才能さえ持つ。その上──高い霊力まで備えていた、本当に恵まれた娘だった。

 だからこそ、大抵のことは思い通りになった。

 夢組に入る前──というか梅里と出会う前──の彼女は人見知り気味で大人しく、自己主張が弱かったので、いわゆる“ワガママなお嬢様”でもなく、そのため彼女の願うことはほとんど叶ったのである。

 それがどうにもならなかったのが霊子甲冑であり、霊子水晶との相性であった。

 こればかりは、たとえかずら以上のお嬢様が豊かな家の財力や両親親族のコネを使おうとも、解決することができない、どうしようもない技術的な問題であり、越えられない壁だった。

 

(うん。ぺんちゃんの言うとおり……荒れたよね)

 

 部屋の中で暴れ、授業もサボり、乙女組も辞めようとした。

 その高い霊力を必要とした華撃団がどうしても引き留めたかったという事情や、その件で親友になった世話焼き好きなその姉によく似たお節介が居なければ、きっと今、この場には居なかっただろう。

 この──完全に諦めた夢を、叶える場には。

 

「かずら、ここは……?」

「あ、そこはですね──」

 

 前の操縦席から問われた質問に答えるかずら。

 そしてその説明に従って作業する姿を後方やや上から見つめ──

 

(ありがとうございます、梅里さん。あなたと一緒にいると……どんどん夢が叶っちゃいます)

 

 コンクールで日本一になって欧州へと行ったのも、バイオリンを始めた頃から描いた夢だった。

 好きな人と一緒に海外旅行──という夢もそのときに叶えてしまっている。

 そして今回は──絶対に不可能と突きつけられた、諦めなければならなかった夢。

 それさえも、目の前のかずらが大切に思う人は、叶えてくれようとしていた。

 

(私にとって梅里さんは、本当に……なんでも願いを叶えられる魔法使いみたいですね)

 

 料理ができない彼女にとって、「あの材料がこんなに美味しいものに?」と驚かされる梅里が作る料理はまるで魔法だった。

 そしてピンチに颯爽と駆けつけ、助けてくれた──それは魔法使いというよりはヒーローだった──こともあった。

 この人について行けば、ついて行くことができれば、もっともっと夢を叶えてくれるに違いない、幸せにしてくれるにちがいない、かずらは心の底から思える。

 だから──

 

 

「こんなところにいたのか! 武相 梅里ォォッ!!」

 

 

 超巨大魔操機兵・六道が目の前に現れようとも、けっして恐れることはなかった。

 

「かずら、いける?」

「もちろんです、梅里さん♪ 私の方はとっくに終わってましたよ」

「さすが元乙女組……」

 

 梅里が苦笑を浮かべ、光武・複座試験型のハッチが閉まる。

 

「じゃあ、現役乙女組さん、足止めをお願いしますね」

 

 そしてかずらがいたずらっぽく言うと、即座に現役乙女組の親友から反応がある。

 

「あのねぇ、私だってほとんど引退したようなものなんだからね!」

「そうね。もらってくれる人がいないだけだもんね……」

「ちょ、言い方ッ!! 人員に空きがないだけだから!!」

 

 からかうとムキになってすぐに反応してくれるのは、本当に姉そっくりだ。

 

「なずなちゃん、少しの間……頼む!」

「は、はィ! ウメ隊長!!」

 

 梅里が真面目な様子で声をかけると、彼女は舞い上がったような、一段の高い声で返事をして──アイゼンクライトで六道へと立ち向かった。

 

(夢組に入りたがっていたぺんちゃんが花組候補で、花組を志望していた私が夢組にいるなんて。よく考えると本当に、奇遇で……世の中ってままならないものです)

 

 その独特な形状の、Yの字に配置された霊子機関から蒸気吹き出すアイゼンクライトの後ろ姿に──思うところがないわけではない。

 

(でもね、ぺんちゃん……今は私、夢組に入れて良かったと思ってるよ。だって梅里さんに出会えたんだから──)

 

 先ほどの「ウメ隊長」という呼び方。

 あだ名のようなそれは、夢組の支部隊員の中で密かに通用しているものだった。それをついうっかり、なずなが呼んでしまい──梅里本人に事情を話したもので黙認されていたもの。

 ──もちろん厳しい副隊長の宗次は言ったものを睨みつけるのだが。

 そしてそれは、かずらにとっては嫉妬の対象にはならなかった。自分にとって恋敵(ライバル)足りえない人達が呼ぶ呼称だったからだ。

 なずなの梅里にあこがれる視線は気にならないわけではないが、それでもその姉に比べれば全然、歯牙にもかけない相手だった。

 

「じゃあ、梅里さん。やりましょう!」

「ああ、かずらも霊力を上げて──」

「はい! 私達がラブラブなところ、ペンちゃんに見せつけましょう!」

「えぇっ!? 違うからね!? それが目的じゃないから!!」

 

 そのなずなは、六道の猛攻を道師直伝の錫杖を使ったトリッキーな動きで避けたり、結界で防いだりして、囮役として十分に役目を果たしていた。

 

(──だからぺんちゃんにも、きっとそんな出会いがあるよ)

 

 気を取り直し──梅里が操縦席で目を閉じ、精神を集中させる。

 その体が淡く光って朧月が発動すると、光武・複座試験型が起動する。

 

「梅里さん……」

 

 かずらも目を閉じ集中する。

 そしてイメージした。

 この自分が霊子甲冑で戦うというステージにふさわしい、梅里と共に敵を倒すという場面に最もよく似合う音楽が──頭に浮かんだ。

 

「いきます……」

 

 まるで指揮者のように、光武・複座試験型の両腕がサッとあがった。

 その手の先は、なぜか空気が霞んでいた。それはその周辺の空気が激しく振動しているからであり──光武・複座試験型が放つ強い霊力によって行われていた。

 空気の振動──つまり音。

 生じた音は光武・複座試験型によって完全に制御され、導かれ旋律と化す。

 

 

「何を、企んでいるのかアアアァァァァァァッ!!」

 

 

 音を発したために、六道はそれに気が付いた。

 必死に気をひいていたなずなのアイゼンクライトの努力もそこまでで、六道は一目散に光武・複座試験型へと迫る。

 そして──迫る巨大な敵を前に周囲に重厚な音楽が流れだした。

 それは両手の空気の振動という音の固まりから、光武・複座試験型が紡ぎ出した楽曲であった。

 

「武相流……満月陣・響月…………」

「……悪を蹴散らし、正義を示す……その裁きを(いろど)る旋律よ──」

 

 光武・複座試験型は両足でしっかりと大地を踏みしめ、頭上に掲げた両手を組む。

 その組み合わせた手にあった、空気の振動の固まりは、合わさり、混ざり渦となり──

 

 

 「「──ミュージック・フォー・エクスキューション!!」」

 

 

 掲げていた腕を振り下ろすと、それはまるで無色透明の細かく振動する破壊の渦となり──襲い来る超巨大魔操機兵・六道を迎え撃つ。

 振りかざしたその破壊の剣は、その猛烈な衝撃波によって──その渦に巻き込まれた六道をまるで共鳴するように激しく振動させ、その装甲は一瞬でヒビが入り、ボロボロと崩れ……

 六道は機能不全を起こして完全に崩れ落ち──直後に爆発を起こした。

 

 組んだ腕を解き──その腕を横に振ると、まとっていた振動と霊力が散った。

 そしてポーズを決めると、音楽は尺を合わせたかのように、見事に最後まで流れきっていた。

 

 

 

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

→アカシア=トワイライト

 

 カーシャの手を借りようと振り返った梅里は、すぐ近くまで彼女が近寄ってきていたのに気が付く。

 そしてそのまま彼女は梅里の下まで来ると、ある提案をしてきた。

 

「ウメサト、お願いしたいことがあるのだけど……」

「なんだい、カーシャ?」

 

 カーシャは僅かにためらってから──青いアイゼンクライトの方を見ながら話を切りだした。

 

「あのアイゼンクライトの搭乗者を、アタシに変更して欲しいの。その許可をお願い!」

「え!? カーシャが、アレに乗ろうっていうの?」

 

 さすがにそれは想定外だった梅里は面を食らった。

 

「ええ。アタシは霊子甲冑に乗ることができるのは、それを伝えられたときにアナタも一緒にいたから知っているでしょ?」

「ああ。もちろん……」

 

 梅里がうなずくと、カーシャはいつも明るいその表情を曇らせる。

 

「そして……なずなの姿も、見たでしょ? あれは今までかなり無理しているわ……」

「……それは、僕も分かってる」

 

 なずなの顔色はハッキリ言って悪い。疲労が色濃く出ている。

 梅里が参戦して少し休ませたが、その前は完全にバテてしまっていた。

 ペース配分を完全に間違えてしまったのは、彼女が花組隊員と違って戦い慣れていない、いわば経験の差であった。

 もちろん、彼女が恩ある巽 宗次が戦死したという情報で冷静さを欠き、無謀な戦いをしてしまったという未熟さもある。

 ともあれ──端から見ても戦える状態であるとは言い難い。

 まして相手は通常の脇侍どころか降魔兵器でさえなく、敵幹部の巨大魔操機兵の集合体のようなシロモノである。

 先ほど梅里も思ったことだが、戦ったところで勝てるとは思えないという結論に至るのは当たり前だろう。

 

「でもアタシなら違うわ。近接戦闘も得意だし、なによりまだ元気だもの」

 

 笑みを浮かべて右手を掲げ、その二の腕を左手で掴んでその元気をアピールした。

 カーシャは強い。

 両手剣を持たせれば、夢組屈指の実力者である鎖鎌の紅葉と互角に戦うこともできるほど。

 その彼女が、霊子甲冑を使うことができる。しかもアイゼンクライトという霊子甲冑がそこにあるのだ。使わない手はないように思える。

 だが──

 

「カーシャ、キミも疲労は大きいはずだよ。除霊班は十分に降魔兵器を生身で相手にしていたんだから」

「あら、除霊班(うち)の頭を見なさいな。まだまだ元気いっぱいよ?」

「紅葉は規格外だよ。アレを基準にしたら他が完全にバテる」

 

 除霊班頭の秋嶋 紅葉は、その戦闘継続においては他の追随を許さない。

 その獲物を追い求めて走り回る辺りも「忠犬」と呼ばれる所以である。

 

「それに、あの機体はなずなに合わせて再調整してある。キミが乗ってもその実力を百パーセントは発揮できない」

 

 そしてそれは、なずなをアイゼンクライトに乗せることはあらかじめ許可を得ていたということだ。

 もちろんカーシャは許可を得ていないし、その許可を出す権限は梅里にはないのである。アイゼンクライトは花組の管理する装備品なのだから。

 

「でも──」

 

 なおも食らいつくカーシャ。

 だがそれは、霊子甲冑に乗って活躍したいという自己顕示欲でも、自分の方がうまく扱えるという驕りからくるものではないように思えた。

 しかし、だからこそ危ういようにも思える。

 

「それは最終手段にしよう。もし、今から言う作戦でアレを倒せなかった場合の──」

「作戦?」

 

 不思議そうなカーシャに梅里は、少し楽しげに笑みを浮かべた。

 そして告げられた梅里からの頼みごとの内容は、カーシャを興奮させるものだった。

 

「──まったく、早く言いなさいよ。もちろん、そっちの話に乗らせてもらうわ」

 

 そう言ってカーシャもまた、梅里同様に楽しげに笑みを浮かべた。

 

 

 ハッチが開いたままの光武・複座試験型に、梅里とカーシャが向かい、乗り込んだ。

 その操縦席──前のメインに座ったのはカーシャだった。

 確かに近接戦闘では夢組最強を誇る梅里がメインを務めた方がいい動きができるのは間違いないのだが、梅里には霊子甲冑を動かせる条件に「満月陣・朧月発動中に限る」という条件が付帯する。

 霊子甲冑を動かせない他の夢組隊員であれば、普段動かせないという条件が一緒なのだが、カーシャだけは事情が違う。彼女は単独でも霊子甲冑を起動することができるのだ。

 霊子水晶との相性の関係という制限もなく、近江谷姉妹と違って単独でも動かせるだけの霊力を持っている。

 安定した稼働を考えてカーシャが前、梅里が後ろで補助という布陣になった。

 お互いに操縦席で起動準備を始める。機器のスイッチを確かめ、蒸気機関を稼働させる。

 そんな中、梅里は作業の手を止めずにカーシャに話しかけた。

 

「ねえ、カーシャ……」

「ん~?」

 

 作業内容は頭に入っているが、まさか乗るとは想定していなかったので起動作業に慣れているわけではない。

 カーシャはどこか上の空で梅里の言葉に答える。

 

「……さっきの、アイゼンクライトの件だけど……ひょっとして、せりに気を使った?」

「…………」

 

 カーシャの作業の手が思わず止まる。

 だが、それも束の間──何事もなかったかのように作業が再開される。

 

「なぜ?」

 

 作業中なこともあって言葉少なに問うカーシャ。

 それに梅里は──

 

「だって、さっきアイゼンクライトじゃなくて、せりを見てたでしょ?」

「──ッ」

 

 今度は覚悟していたので手は止めなかったが、それでもカーシャは衝撃を受けていた。

 完全に図星をつかれていた。

 

「……参ったわ。降参。そうよ、せりを不憫に思ったのよ……彼女に負い目があるからね、アタシは」

 

 去年、せりを精神的に追いつめることに手を貸していたカーシャ。

 そのせりが再び精神的につらい状態になっているのを見て、その贖罪をしたかったのだ。

 

「あんな状態で、あんな敵の相手をするなんて自殺行為よ。妹をそんなところに送り出さなければならない彼女の辛さを考えたら……アタシが代わればいい、そう思ったのよ」

「──カーシャ、気持ちは分かるけど……誤解してるよ」

「え?」

 

 やはり作業を止めずに言った梅里の言葉に、カーシャは意外そうな顔になる。

 

「誤解って……なにを?」

「あんな敵を相手にするんだから、カーシャが代わったって心配するに決まってるよ。せりはもちろん、僕も他のみんなも──」

 

 そう言って梅里は、一度手を止めて後ろからカーシャをまっすぐに見つめる。

 

「だって、カーシャは夢組の……僕らの仲間だろ?」

「あ……」

 

 その言葉が胸に響く。

 そして、その温かさがじんわりと胸に広がっていく。

 カーシャは胸に手をあて、目を閉じ──その言葉を反芻していた。

 それを噛みしめたカーシャは、目を開くと意地悪そうな笑みを浮かべる。

 

「一つ訊きたいのだけど……じゃあ、あのときアナタが見ていたのはアイゼンクライト? せり? それとも……ア・タ・シ?」

「なッ──」

 

 思わず反撃に面を食らう梅里。

 実際──カーシャにはわかっていた。アイゼンクライトでもせりでもなく、自分を見てくれていたことに。

 そうでなければ、カーシャがせりを見ていたという細かいことに気が付くわけがないのだから。

 それを嬉しく思い──

 

 

「こんなところにいたのか! 武相 梅里ォォッ!!」

 

 

 突然に響く怒号。

 迫り来る超大型魔操機兵・六道から、幸徳井 耀山の声が響きわたったのである。

 ハッとして視線を向ければ、ハッチが開いた状態の光武・副座試験型からはその威容がハッキリと見えた。

 そして──

 

「“人形師”……」

 

 カーシャにとっては、幸徳井 耀山という本名よりも、そちらの呼び名の方がしっくりきた。

 その『夢喰い(バク)』というコードネームを貸し与えられて便利に使われ──役に立たないと判断されて切り捨てられた相手である。

 

「──それこそ、人形みたいに」

 

 彼の思い通りに動かなかったために、役に立たない人形として切り捨てられ、最後には爆弾のパーツにさえされた。

 それに対する怒りや憎しみはもちろんあるが──今はそれよりも、敵である彼を倒す役に立てるという、華撃団から与えられた役目にこそ価値があるとカーシャは思っていた。

 

「ウメサト! 行くわよ!」

「ちょ、ちょっと待った! まだ起動準備が……」

「……やれやれ、ね」

 

 ともあれ、梅里の準備が整っていなくとも、カーシャの方のメインが起動できれば最低限度には動ける。

 六道が接近する前に、光武・副座試験型はそのハッチを閉じ──カメラに光がともり、レール沿いに左右に動いた。

 そこへ六道からの一撃が襲いかかるが──起動した光武・複座試験型は間一髪避ける。

 

「このままじゃ戦えない──ウメサト、急いで!!」

「わかった」

 

 カーシャが最低限の稼働で動く光武・複座試験型を操縦して、どうにか攻撃を避け続け、梅里はその副操縦席で作業を続ける。

 

「風組ッ! 武器を──両手剣を! Give it to me!!」

『了解しました』

 

 カーシャの要請から数秒後、付近に不発だったミサイルのように、射出され飛来した円筒形の物体が地面に刺さり──その外郭が外れ、カーシャの要望通りの両手剣がそこにあった。

 駆け抜けざまに地面に立つそれを素早く引き抜き回収した光武・複座試験型。

 

波状刃(フランベルジュ)はないの?」

『無茶言わないでください!!』

 

 思っていたのと違うその形状に、操縦席で思わず言ったカーシャのぼやき。それを通信で拾った風組隊員が即座に応えた。

 設地した脚部を勢いそのままに滑らせ──その剣を構えるカーシャ。

 そこへ──

 

「カーシャ! 準備完了したよ!!」

「ナイスタイミングね♪ ウメサト!!」

 

 光武・複座試験型の本来の力──搭乗者二人の霊力を同調・感応させて、何倍にも高めるその能力が発揮された。

 そこへ迫る六道の六腕に握りしめられた刀、模造刀、鉄扇、そして空いた手が握りしめた拳。

 今まで避けてきた光武・複座試験型だが、これは避けられない──

 

「砕け散れええぇぇぇぇいッ!!」

 

 怒号と共にそれらが、まとめて叩きつけられ──

 

 ──光武・複座試験型は、すでにそこにはいなかった。

 

 梅里の朧月のように、間一髪で瞬間移動で攻撃を避けた光武・複座試験型は、その完全に同調した霊力を受けて、手にした大剣が強烈な光を放つ。

 強烈な霊力を帯び、揺らぐような金色の光の刃となり──まさにカーシャの使い慣れた波状刃の大剣(フランベルジュ)のようであった。

 その剣を手に、上空に現れた光武・複座試験型。

 強烈な霊力を感じて顔をそちらへ向ける六道。

 その視線の先で──煌々と輝いていた光武・複座試験型が一転し──闇、いや影にその光を遮られていた。

 そして、その影からこぼれるように、まるで溜め込んでいたかのように、強烈な光明が生まれる。

 

「武相流……満月陣・陽月(ようげつ)…………」

「月と太陽が重なり生まれる金環の──直後の煌めきを、その目に焼き付けなさいツ!!」

 

 

「「輝け、ダイヤモンドリング!!」

 

 

 影によって生まれた薄闇に包まれる空間で、光武・複座試験型の背後には太陽の金環食が生まれていた。

 完全に重なり合った太陽と月──その直後、ほんの僅かにずれたそこから強烈な輝きが生じ、六道の中の“人形師”は思わず目が眩む。

 

「う……」

 

 直後、光武・複座試験型はその輝きと共に六道の横を駆け抜け──すれ違いざまに剣を一閃させる。

 同時に出現する、六道を中心にした光の金環。

 現れて数瞬のうちは安定していたそれは、環を一気に収束し──集まったエネルギーもまたその中心へと収束する。

 その中心とはすなわち──超大型魔操機兵・六道。

 

「な!? 馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿なバカなああぁぁぁぁ!!」

 

 その圧倒的なエネルギーには六道といえども耐えることができず──爆発する。

 巨大な下半身中心にして、超大型魔操機兵・六道は大爆発を起こすのであった。

 

 

 

 

 




【よもやま話】
 本来なら─9─と一緒にするはずでした。
 実際、「2」になってからの長さの基準では─9─だけでは短い部類に入ります。
 でも──いくら同じシーンの差分でも、ぶっちゃけ全部読みますよね? 私だったらそーする。
 というわけで、4人分の差分全部読んだらかなりの長さになってしまうので、あえて分離しました。 
 もちろん、ヒロイン一人分しか読まないのも読む側の自由です。

~しのぶ√~
 ラスボスが関係者ということで、王道ルートです。意外と綺麗にまとまりました。
 ちなみに『鏡花水月』とは、実体が無く儚いもの、を表すそうな。
 最初に書いたので「これくらいの文量でいいだろう」と思っていたら次が爆発的に増えたせいでその後ろもなんとなく増え……結果的に一番短く……ラスボスとの因縁もあって一番正規ルートっぽいのに。残念な感じに。

~せり√~
 ラスボスとの因縁もほとんどないのでドタバタコメディ色が強くなりました。
 姉妹のこういうシーンは今まで無かったですしね。本当に書きやすくて困る。王道と言ったしのぶの1.5倍近いですし。
 「稲妻光陰落とし」は前作の合体攻撃の名前でボツになった科学戦隊ダイナマンの「稲妻重力落とし」からのオマージュを復活させました。
 そしてうっかり二番目に書いたせいで、他の未完成な二つが進まなくなって困りました。ええ、次からはせりは最後に書こう。

~かずら√~
 せり以上に耀山との因縁がないので純粋に困りました。
 でも、いざ光武・複座試験型に乗せようとなってから、「ああ、そういえばかずらって花組目指していたんだよな」と思い出してこのような話になりました。
 彼女のルートのみ、親友のなずなが囮を務めてくれます。
 ちなみにトドメの「ミュージック・フォー・エクスキューション」=「処刑用BGM」を直訳したものです。流れているのはまさにそういった曲ということで。
 そして技のモチーフはエクスキューションつながりで水瓶星座の黄金聖闘士の必殺技『オーロラエクスキューション』。冷たくないけど。
 そんな私の星座は水瓶座です。

~カーシャ√~
 カーシャはせりに負い目を感じていたので、なずなを気にかけていたのと、彼女自身、妹が欲しかったという裏の理由もあります。
 そして、カーシャルートは操縦席の梅里とヒロインが乗る位置が逆転しています。カーシャは梅里のような特殊な条件下という枷がないので、彼女にメインを務めてもらえれば、動けなくなる危険が無くなるので、梅里が補助に回ったという実務的な理由です。

 ──え? かすみルートが無いって?
 あれは共通ルートからは入れない特殊ルートですから。ここではなく別で描く予定です。


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