サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

68 / 78
─11─

 ──そのころ、『武蔵』内部では……

 

「破邪剣征……」

「狼虎滅却……」

 

 大神とさくらが、それぞれ左右の手に一振りずつ刀──神刀滅却(しんとうめっきゃく)光刀無形(こうとうむけい)霊剣荒鷹(れいけんあらたか)神剣白羽鳥(しんけんしらはどり)の二剣二刀──をそれぞれ構え、その力を込めて、振り下ろす。

 大神とさくらが行った二剣二刀の儀は──『武蔵』の最奥に鎮座した赤い宝玉を破壊する。

 それこそ、降魔兵器を制御していたものであり──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──舞台は再び帝都地上へと戻る。

 

 光武・複座試験型で超大型魔操機兵・六道へ致命的な一撃を与え──そこで光武・複座試験型は限界を迎えた。

 梅里たちが使う以前に、本来の搭乗者だった近江谷姉妹共々酷使していたという事情もある。

 だが梅里と彼が選んだパートナーによる一撃は、二人の相性のせいで霊力同調の割合が非常に高く、かなりの霊力出力を誇った。

 基本的に同じ質の霊力を掛け合わせる近江谷姉妹のそれと違い、根本的な属性から全く別種の霊力を合わせたための負荷や、それによって爆発的に高まった霊力が、未完成でほとんど搭乗者任せにしている脆弱な同調調節機能の許容量(キャパシティ)を突破してしまい──過負荷(オーバーロード)で機能停止してしまったのだ。

 

 光武・複座試験型のハッチが開き、梅里と相方が姿を現す。

 肩の端末に付いていた金具が自動で回転して外れ、二人は霊力の負担からよろめきながらも、しかししっかりと地面を踏みしめて、降り立った。

 目の前には六道が、スパークを立てて鎮座している。

 さすがに与えたダメージは大きく、活動を停止した──かに見えた。

 

「やった……のか?」

 

 思わず梅里がつぶやく。

 もしそこに松林 釿哉がいれば「隊長、その状況だと絶対に言っちゃいけない禁句だぞ」と突っ込んでいただろう。

 そして、彼の危惧したであろうお約束通りに──

 

 

「まだだ! まだ終わらぬ!! 私は、京極様に拾っていただいた恩を──まだ返してはおらん!!」

 

 

 六道の残骸──かろうじて残った八葉の胴体部分、切り裂かれたそこからは、髪も服装も乱れ。額から血を流し、満身創痍といった様子の幸徳井 耀山の姿が見え隠れしていた。

 切り札を失った彼は叫ぶ。

 

「──降魔兵器よ!! 我が下に、さらに集え!!」

 

 降魔兵器を呼び集める耀山。負傷し、満身創痍の彼が頼れるのはもはやそれしかなかった。

 だが効果は覿面だった。周辺の降魔兵器がこぞってやってきたかのような量がやってくる。

 応じた降魔兵器が耀山を守るかのように集まり、対峙した梅里が「さすがにこの量はやばい」と危機感を覚えたとき──梅里の愛刀、『聖刃(せいじん)薫紫(くんし)』が、光った。

 

「──?」

 

 それはいつもの危険予知とは明らかに違う反応だった。

 不思議に思った梅里だが、『聖刃薫紫』は四振りの聖剣によって行われる破邪の儀式──二剣二刀の儀を探知したのだ。

 そして、その直後──

 

「なッ!?」

 

 思わず絶句する耀山。

 それもそのはず、今まで猛威を振るい、今は集まって気炎を吐いていたはずの降魔兵器が、まったく動かなくなり、どのような指示も受け付けなくなったのだ。

 

 

 ──耀山は知る由もないが、ちょうどその時、大神とさくらが『武蔵』内部で二剣二刀の儀を行い、降魔兵器を制御している赤色の宝玉を破壊したのである。

 

 

「馬鹿な! 馬鹿な馬鹿な馬鹿な!! ええい、動け! なぜ動かん!!」

 

 動きを止めた降魔兵器に焦りを見せる耀山。

 

「大神さん達か!」

 

 快哉の声を上げ、武蔵を見上げる梅里。詳細は分からなくとも、そこで行われている戦いで降魔兵器の制御を止めるようななにかが起こったのだけは間違いなかった。

 

「幸徳井 耀山!! もう終わりだ。黒鬼会も、そしてお前自身も!! 大人しく縛につけ!」

 

 油断無く刀を構えた梅里が降伏勧告を行う。

 それに耀山は──

 

「終わり? いったい何を以て、どんな自信があってそのようなことが言えるのだ!」

 

 そう叫び、拒絶した。

 そしてその目に憎悪をたぎらせる。

 

「おのれ! 無知蒙昧なる帝国華撃団め、私の邪魔をしおって……この国を、あんな未来に……進ませるわけには──いかんのだ!!」

 

 嘆くように叫ぶ耀山。

 その周囲では動きを止めた降魔兵器をとりまく妖力が、その動きを止めたことで行き場を失うようにしてあふれ出していた。

 そんな付近に漂う怨念が渦巻くように集まっていく──

 

「……おのれ! おのれ! おのれえぇぇッ!! 私を、この私を粗雑に扱い追い込んだ馬鹿共に、正義の鉄槌を下すまで、私は止まるわけには……絶対に止まることはできんのだ!!」

 

 それらを取り込むように、徐々に変化していく耀山。

 理知的だった目も周囲の妖気が渦巻くように集まり出すと、やがて血走り、その言葉も怨嗟へと変化していった。

 

「耀山、様……」

 

 悪鬼と化す耀山の姿に思わず見ていたしのぶが(いたわ)しく思うが──

 

「女ぁ!! 貴様なぞに、憐憫の目を向けられる覚えなどないわアアァァァァッ!!」

 

 耀山はすでに変わり果てた様子で吠える。

 そして、高まった妖力を耀山は大量の糸へと変換し──裂かれた搭乗席から生じた無数の糸が、まるで縫合するように裂傷を縫い合わせ、その破損を瞬時に補修する。

 それだけでは終わらず、無数の糸が六道──八葉の胴から束となって放出され、付近に散らばった闇神威、大日剣、宝形、智拳、五鈷の破片を捉えて集める。

 

「再生? また戦おうとでも言うの?」

 

 眉をひそめ、身構えるカーシャ。手にした愛用の両手剣──波状刃の大剣(フランベルジュ)ヒート・ヘイズ(陽炎)』を構える。

 だが──事態は彼女の予想を上回った。

 

「まだだ。まだだ、まだだ、まだ足りぬわアアァァァァ!!」

 

 狂気じみた耀山の声と共に、さらに無数の糸が放たれ──周囲の動きを止めていた降魔兵器へと延びると、それを一気に貫いた。

 

 

「まだだ! まだだ! まだだまだだ!まだだまだだまだだまだまだまだだまだだまだだまだまだまだまだまだだまだまだまだだまだだまだだまだまだまだだまだだまだだまだまだまだまだまだだまだまだまだだまだだまだだまだまだまだだまだだまだだまだまだまだまだまだだまだまだだあああぁぁぁッ!!!」

 

 

 その絶叫のような狂声が響きわたり、それに応じて延びる無数の糸が次々と降魔兵器を捉え、捕らえ、残骸と化した六道へとまるで縫いつけるように次から次へと集めていく。

 

「うぅ……」

 

 その光景に、かずらが気色悪さと吐き気をおぼえて目をそらした。

 まるで肉を裂き、自らの体に縫いつけていくようなそのグロさは、正視に耐えかねるような光景であり、彼女のようなうら若き御嬢様にはさすがに辛い様子である。

 そして──やがてそれは一つの形となった。

 

「これは……」

 

 出現したのは──超大型魔操機兵・六道の残骸を核に、降魔兵器を何十体をも取り込んで作り上げた──巨大降魔兵器ともいうべき威容だった。

 その姿は──

 

「まったく……イヤなことを思い出させるわね!!」

 

 顔をしかめたせりが連想したのは、前の大戦の最終局面で目にし、夢組が──聖魔城へと向かわずに帝都防衛に就いた華撃団員の前に立ちふさがったその巨大な敵。

 復活したサタンによって蘇った上級降魔・十丹全員が合体して一つとなった巨大降魔である。

 目の前のそれはさながらその降魔兵器版といったところであった。

 

(あれを倒すには……また花組がいない状況で倒さなきゃいけないの?)

 

 焦るせり。

 なぜならあれは──あれを倒した際に、文字通り命を懸けて倒したからだ。

 その命を懸けたのが、作戦の中核を担った梅里である。

 当時のことを思い出して、せりは胸が締め付けられるように痛む。

 それは、あのとき思いを同じくした、しのぶやかずらも同じであった。

 

 そして──それを見た梅里は、即座に指示を出す。

 

「陰陽七曜の陣を使う。総員、配置につけ!!」

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 巨大降魔兵器が出現したという一報は直ちに、ミカサにも伝えられていた。

 六道によって通信施設を破壊されたせいでミカサと花やしき支部は一時的に通信不能になっていたが、今は応急措置が行われたのと、生きている別回線を補助に使って復旧したのである。

 

「あっちも最終局面みてえだな」

 

 苦虫を噛み潰したような表情をする米田。

 本来であればそちらにも花組を送りたいところだがそんな余裕も時間もない。

 とりあえず降魔兵器そのものは活動を停止したという報告は受けており、それが二剣二刀の儀によるものだと推測できた。

 花組も健在で無事に任務を続行中なのはわかるが──未だに『武蔵』内部で京極を討ったという報告はない。

 

(また霊子甲冑も無しであんなものの相手をさせなけりゃいけねえのか……)

 

 アイゼンクライトの使用許可は米田が出したので、それが乙女組の白繍なずなを乗せて運用されているのは彼も知っている。

 だが、ミカサ出撃から今までの帝都での激戦を考えれば、機体も搭乗者も消耗は激しいだろう。花組であれば7人でその負担を分けあえるが、1機しかない状況では不可能だ。

 夢組所属の扱いになっている光武・複座試験型もあったが、あれはそもそも欠陥により戦闘作戦行動に適さないとしているからこそ、花組ではなく装備運用試験のために夢組が管理しているものだ。

 戦闘使用許可は出すには出したが、戦闘継続能力は低く──多大な戦果は残したものの、米田の予想通りに近江谷姉妹は早々に戦線離脱して運用を停止していた。

 ──まさかそれを梅里が利用して、超巨大魔操機兵・六道を倒すとは思いもしなかったが。

 

(だがそれで複座の光武も壊れちまった。アレを倒すには──)

 

 米田は画質の悪いモニターに映る巨大な降魔に鋭い目を向ける。

 あんな異常な降魔を見るのは──三度目だった。

 一度は降魔戦争でのこと──最終局面で出現したそれを倒すために、二剣二刀の儀に失敗した対降魔部隊は、魔神器を使い、破邪の血統である真宮寺 一馬の命を犠牲にしてそれを封印した。

 二度目は一昨年の戦い。上位降魔・十丹が融合して現れたそれを──『陰陽五曜の陣』で花組をのぞく華撃団全員の霊力を集めた梅里の『満月陣・望月(もちづき)』によって討滅された。

 しかし、その際も莫大な負荷によって梅里自身が一度は心配停止になるという事態を招いている。

 

(しのぶの報告には、霊体が砕けるほどの負荷でほとんど死んだようなもので、助かったのは奇跡に等しい、とあったくらいだからな)

 

 今までの二度はともに霊子甲冑もなく、実質的に命懸けで倒してきたのだ。

 そもそも一馬の件があったからこそ、華撃団を設立し、霊子甲冑を配備した部隊を作ったのだ。だというのにそして今回もまた──霊子甲冑がそこには無い。

 

「現在、夢組が中心となって討滅作戦を実施中……夢組が……え!?」

 

 さらに由里が連絡を受けて説明していたが──突然、戸惑うような声を上げてその報告がとぎれた。

 それに米田は思わず眉をひそめる。

 

「どうした?」

「由里、報告は速やかに、明瞭に」

 

 すかさずかえでからも叱責が飛ぶ。

 それで気を取り直した由里が再び報告を再開させるが──

 

「は、はい。失礼しました。それがその……夢組が『陰陽七曜の陣』を使い、武相隊長の『満月陣・望月』で迎え撃つ、そうです」

 

 そう言って由里は、気まずげに──複雑な表情で報告した。

 

「な──」

 

 さすがに絶句する米田。

 前回の大戦と同じような相手に対し、ほぼ同じ作戦を行う──それで敵を倒しているのだから正解に思えるが、違う。

 

「バカな! アイツは前回、それで──」

 

 激高する米田。

 そのときその場にいなかったかえでさえも、事情を知っており顔を青ざめさせていた。

 

「梅里くん……ダメよ! 命を賭けるなんて……全員生きてこそ本当の勝利なのよ」

 

 彼女の脳裏には、あの戦いで犠牲となった姉の姿が浮かんでいた。

 そして──報告した本人である由里と、その傍らの椿が不安げにチラチラと、同僚のかすみの様子を見ている。

 あのときはそこまで彼に強い感情を抱いていなかっただろうが、今は違う。

 その彼が再び命を懸けようとしているのだから気が気でないだろう、と二人は推測した。

 

(かすみ、大丈夫かしら?)

(かすみさん、きっと心配ですよね……)

 

 そんな二人が心配する中──三人娘のリーダー格として任務中は常に冷静さを失わず、凛とした雰囲気を維持する彼女が──完全に動揺し、肩を抱いて己の身が震えるのを押さえていた。

 その姿はさすがに由里も予想外である。

 

「か、かすみ、大丈夫?」

 

 由里は風組でも事務局でも常に傍らにいる同僚のそんな姿に、自分の報告のせいなのもあって心配で声をかけるが──それさえも聞こえていない様子だった。

 そんな二人の様子に椿も眉をひそめる。

 

「武相主任、なんて無茶なことを……無謀ですよ」

 

 冷静に考えればそれは分かる。

 だが──帝都を守る現場である最前線であれば、自らの命をなげうってでもどうにかしなければならない戦況があるのもまた事実である。

 

「モニター、出ます!」

 

 動揺のあまり動けないかすみと、それを労る由里に代わって報告する椿。

 モニターに出た画像では、夢組はすでに配置は完了している模様であった。

 巨大降魔兵器には月組が中心となってつかず離れずの位置で攻撃し、その挑発と足止めをしている。

 一方で、少し離れた場所で夢組は円陣となり、その中心には梅里の姿があった。

 健在なその姿を見て、かすみの目が力を取り戻す

 

「ありがとう、由里。もう大丈夫……」

「本当に? 無理しないでね」

 

 そう声をかけるが、今は非常時である。無理をしていない華撃団員などいないのだからかすみの性格上、それができないのは重々承知していた。

 業務に戻った由里だったが、すぐに指示がきた。

 

「由里、通信をつなげ!!」

「え? あ、はい……えっと、誰にですか?」

 

 慌てた由里が尋ねると、苛立った様子の米田が答える。

 

「ウメのバカ野郎に直接だ! 今すぐ!!」

 

 感情露わに指示を出す米田の剣幕に思わずビクッと怯む由里だったが、その気持ちも分かっていた。

 前回の『陰陽五曜の陣』をつかった作戦はけっして成功とはいえないのだから。

 

「はい! 武相夢組隊長に──」

 

 肩をすくめながら由里が通信をしようとして──

 

「武相隊長、聞こえていますか?」

 

 隣のかすみがすでに呼び出していた。

 驚いた由里は思わずかすみを見るが、彼女は全く気にした様子もなく、通信に集中していた。

 

『……はい? 聞こえてますけど……なんでしょうか?』

 

 意外にもあっさりと通信に出る梅里。

 おまけに決死の覚悟な悲壮感はなく、あっけらかんとした様子であった。

 

「今すぐ作戦を中止してください。米田司令からの指示です」

 

 そう言うかすみの方こそ、よほど悲壮感が漂っている。

 彼女はそう言ってから米田をチラッと見た。正式にはまだ米田が指示を出していなかったがゆえの確認だが、その意志は明らかであった。

 それを汲んで米田は頷いて事後承諾をする。

 だが──

 

「それはできません。アイツを野放しにはできないし、月組もそうはもたない。夢組にも……花組が来るまで保たせられるような戦力が残ってません」

 

 多数の降魔兵器を相手に戦った、帝都に残された霊子甲冑──光武・複座試験型はそのメイン搭乗者である近江谷姉妹はとっくに限界を迎えて後方送り。それに複座式自体もさっきの梅里達の一撃で限界を迎えた様子で、完全に動きを止めている。

 気を吐いていたレニ機のアイゼンクライトを借りていたなずなも、先ほどの降魔兵器の活動停止と共に限界を迎えて、これ以上の戦闘は不可能だった。

 

「この、バカ野──」

「だからってあなたが! ──あなたが再び命を捨てる理由には、なりません!!」

 

 怒鳴ろうとした米田の言葉を、かすみの大きな声が遮った。

 機先をそがれた米田は、気まずげに必死なかすみを見る。

 

「お願いです、武相隊長……梅里くん、止めてください。その陣を使った──夢組全員の霊力にあなたは耐えきれなかったじゃないですか! だからこそ前回、ああなったんじゃありませんか!」

 

 それがゆえにかすみが──そして米田も、かえでも、この場にいる全員が反対しているのだ。

 

「それでも助かったのは──周囲のみなさんの努力と、運が良かっただけです。あなたの命が失われるのを、私、私は……見たくなんて、ありません!!」

 

 ついに涙混じりとなったかすみのその声。

 それにはさすがに米田もそれ以上言うことはできないでいた。

 

「あなたを失っての、そんな勝利に意味なんて──」

「ありがとう、かすみさん。僕なんかのことを心配してくれて」

 

 感極まりながらも、どうにかして梅里を翻意させようと言葉を探し、紡ぐかすみに対し、梅里はいつも通りの口調で応えた。

 彼の声はその心優しさを体現したようなもので──梅里は信頼して欲しいとばかりに、また自分自身に自信を持たせるために、一度大きくうなずく。

 

「でも、僕は死にませんよ。今回は死ぬつもりで作戦を立てていません」

「え──?」

 

 涙で塗れた顔をあげるかすみ。

 そこには優しい笑顔を浮かべている梅里の顔があった。

 

「──梅里くん、聞こえていますか? かえでですが──どういうことなの? 説明をお願い」

 

 割り込んだのはかえでだった。

 副指令である彼女が、作戦内容を気にするのは当然のことである。またかすみにこれ以上、梅里に尋ねさせるのは彼女にとっても酷になりかねないと心配しての措置だった。

 そんなかえでに根拠となる作戦概要を説明する梅里。

 それを聞いて──かえでは顔色を変えた。絶望の闇の中に、希望の光明を見たのだ。

 

「確かに、それなら……」

 

 しかし即座に反発した者がいた。かすみだった。

 

「でも! 何の確証もないじゃないですか!! 梅里くんが生き残るなんて保証はどこにも──」

 

 必死に訴えるかすみ。

 

「かすみさん……」

 

 苦笑し、再び優しい笑みを浮かべる梅里。

 

「でも、ここでアイツを放置すれば、他の命懸けで戦う隊員たちが傷ついて、それこそ命を落とすかもしれない。抑えきれなくなって暴れ回るような事態になれば、帝都市民の命だって危ない。だから僕は──この命、賭して……アレを倒さなければいけないんです」

 

 そう言って梅里は巨大な降魔兵器を見た。

 梅里の決意は固い。説得が不可能であり、けっして分の悪い賭ではないとなれば──その上、帝都市民の命を持ち出されては、帝国華撃団の隊員であるかすみには止めることはできるはずがなかった。

 

「そ、んな……そんなことを、言われたら…………」

 

 それでも感情を整理できなかったかすみは、その場に泣き崩れてしまった。

 いつも冷静沈着な姿しかみせない彼女のそんな姿に由里や椿は戸惑いを越え、かける言葉さえ見つけられない。

 その様子に困った梅里は、頬を掻き──話しかけた。

 

「……かすみさん、一つお願いしてもいいですか?」

「──え?」

 

 かろうじて顔を上げるかすみ。

 涙で汚れた彼女の顔というのは、本当に貴重な姿かもしれない、と見ていた由里や椿が思う。三人娘の長姉的な立場の彼女がそんな姿を見せたことはなかった。

 そして梅里は、それほどまでに落ち着いた女性が自分のために取り乱しているのを冷静に受け止める。

 

「もしよかったら、祈っててもらえませんか? 僕がアイツを倒せるように、僕のこの命が助かるように……」

 

 だからこそ、それは本心からの言葉だった。

 けっして気休めではない。なぜなら──

 

「僕ら夢組が使うのは霊力──人の意志が、人の願いが、強い心が生み出す力です。もしかすみさんが強く願ってくれれば、それが僕を助け、守ってくれると思いますから」

「………………はい。わかりました」

 

 長い黙考の末、かすみは答える。

 そして気を取り直し、立ち上がる。

 

「失礼しました。武相隊長……帝都を、よろしくお願いします。司令──」

「ああ、わかった、作戦は続行だ。頼んだぞ」

「はい!」

 

 米田の指示に力強く頷く梅里。

 そうして通信は切れ──作戦は承認された。

 ──そして米田はかすみに注意する。

 

「それと……かすみ。作戦中は私的な通信は控えろよ? ったくこっちが赤面しちまうぜ……」

「は、はい! ……申し訳、ありませんでした」

 

 通信内容を思い出し、醜態をさらしたのに気がついたのか、かすみが顔を赤くして恐縮する。

 米田はそんなかすみの表情を見て──

 

(大神も心配だが、まったくウメのヤツも……)

 

 密かにため息をついた。ただでさえ夢組内でも複数の女性隊員が争っているという状況なのに、と半ば呆れる。

 そして──

 

「だが、だからこそ……ウメ、死ぬんじゃねえぞ」

 

 米田は小声でエールを送った。

 あやめ、一馬、そして山崎 真之介──今は亡きかつての戦友たちに、この危なっかしい後進を守ってやってくれ、と祈らざるをえなかった。

 




【よもやま話】
 耀山はおかしく成りつつあったのが、妖力のせいでそれが一気に進行しました。そのせいでしのぶを認識できなくなってます。
 で、アレを使おうとすればもちろんストップ掛かるよね、ということで後半はミカサからの通信──ある意味、ここはかすみルートなので、そちら専用にして正規ルートではカットしようかとも思いましたが。
 そういうわけで後半は、今後かすみ√に移してしまうかもしれません。

~追記~
 移すのはやめました。かすみ√では違う展開になりましたので。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。