サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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─12─

 夢組は陣を布いていた。

 前回の大戦では総員が帝都に残ったのに対し、今回はミカサの完成度が高くなったために艤装も大分できており、搭乗して結界の展開等を担当した者達が多数いた。

 そのためにこの陣に参加する明らかに人数が減っている。

 その証拠に──前回は要となる五曜を担うメンバーは全員、夢組幹部が担当したのだが、そのメンバーが変わっていた。

 封印・結界班の頭で前回は『土』属性担当だった山野辺 和人はミカサ防衛のための結界展開のためにミカサに乗り込み、こちらにはいない。そのため大地の力を花開かせる術を持つ副隊長のしのぶが代わって担当することとなった。

 和人同様に、『水』と『金』の属性もミカサ搭乗組だったために別の──霊力属性が合っている中でもっとも霊力の強い一般隊員が代わって担当することなった。

 

 ──そうして着々と準備が進む中、梅里は先ほど通信でしたかえでやかすみ達にした説明を思い出していた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「前回の五曜の陣との違いは二つ。一つは、『七曜の陣』となったことで陽属性のカーシャが入ったことです」

 

 太陽の力である陽属性は皆の希望となること──すなわち皆から力を受け、まとめあげる能力である。

 それを持っている彼女がその役目を肩代わりすることで、梅里への負担が極端に減るのは間違いなかった。

 

「そして、もう一つは──朧月です」

 

 梅里は人差し指を立てて説明する。

 昨年の12月に告げられた、朧月使用中に限って霊子甲冑の適正が生まれたことを疑問に思った梅里。

 それで朧月には花組の大神の能力のような触媒能力があるのではないか、と推測し──それを極秘で調査していた。

 結果として、ほぼ確実と確信しているが、はっきりとした最終的な調査結果が出ていないので米田やかえでにもまだ報告していなかった。

 

「大神少尉なら、五曜の陣に耐えられたという検証報告も上がっていますからね。いけるはずです」

 

 笑顔を浮かべた梅里から作戦概要を説明され、かえでは深刻な様子でそれを検討し、含まれている推論にも十二分に説得力があると感じていた。

 だからこそ──この作戦がそのまま採用されたのである。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 外周には一般隊員たちが配置され、祝詞をあげて霊力を高めている。

 それをさらに底上げする、霊力の込められた演奏を行って支援するかずらもこの位置だ。

 その内側には陰陽五曜の陣と同じく──火・水・木・金・土の属性を持つ隊員達が配置されている。

 火の担当の紅葉と、木=陰陽道で木気の雷の属性を持つせりは前回と変わらず。

 土を担当した和人がしのぶが代わりに、水と金を担当する一般隊員の二人も幹部に囲まれながら緊張気味にその円に加わっていた。

 そして陣の中心には月属性の梅里と、日=陽属性のカーシャが布陣し、今まさに作戦は始まろうとしていた。

 

 その作戦に何の懸念もない──わけではなかった。

 

 

(やっぱり水と金……宗次と釿哉がいないのは、厳しいな)

 

 梅里は堅く目を閉じる。

 すでに代役は立てている。しかし同じ代役でも夢組幹部であるしのぶと違って一般隊員だ。

 属性が合致したという理由での代役だが、他の三人と比べると霊力がどうしても一段劣ってしまう。

 その明らかに劣る霊力で、陣を維持できるかが心配だった。

 五曜の部分は属性の優劣によって流れを作り、劣性属性から優越属性へと霊力を流し、練り上げるように高めるのがキモだ。

 しかし、霊力の強さそのものが劣る属性があれば、そこで流れが停滞してしまい効率が落ちる。

 そういった不安要素ができてしまったのである。

 

(でも、どうにもならない。あの二人は──)

 

 宗次は──ミカサでの戦闘で戦死。その報告は梅里も聞いていた。

 そして、その際に宗次が隠そうとした釿哉・ヨモギ・舞の戦死も、梅里だけは密かに報告を受けていた。夢組を預かる身なので当然である。

 だからこそ、その代わりに最後まで戦い続けなければならない。

 梅里がそう思ったとき──

 

 ドン、と大きな音がした。

 それも続けざまに二度。

 

「攻撃!? こんなところまで!?」

 

 その音を巨大降魔からの攻撃かと勘違いした梅里が音がした方を見れば──攻撃でこそ無いものの、なにかが飛来し地面に衝突した音だった。

 そしてそれが落ちたのは、どちらも中央の円陣で代役を務めようとしていた、水と金の担当者の場所。

 そこには──

 

「宗次……釿さん……」

 

 彼らの姿は無い。

 だが──彼らの立つべき場所には、どこから飛んできたのか、宗次の愛槍である『神槍真理』と、釿哉が使っていた銃剣が地面に突き刺さっていた。

 その二つの武器の背後には──『神槍真理』には力強く頷く宗次の顔が、銃剣には親指を立ててニヤリと笑う釿哉の顔が、それぞれ浮かんだような気がした。

 死してなお──その熱い二人の思いに、梅里の視界は思わずぼやける。

 

「……完璧だよ。ありがとう、二人とも。負けるわけがない……ああ、絶対に──“失敗しない”。そうだよね、ホウライ先生」

 

 彼女もまた行方不明者の一人。

 彼女と同じように自分に言い聞かせ──梅里は意識しながら自己暗示をかける。

 

「失敗しない……だから──発動せよ!! 『陰陽七曜の陣』ッ!!」

 

 梅里の号令で発動した陰陽七曜の陣。

 外円部の一般隊員たちから霊力が中心部へ向かって送り込まれる。それを高めるとともに制御して滞りなく流しているのは、まるで荘厳なBGMのように流れる、かずらの霊力を込めた演奏である。

 

(梅里さん……絶対に、絶対に死なないでください!!)

 

 特にその一念を強く込めて、かずらは演奏する。

 そして──その内側では、霊力が渦を巻いていた。

 皆から受けた霊力を受け取ったせりが──

 

「絶対に……絶対に死なせないんだから……」

 

 雷──『木』属性の彼女から『金』へ、そして『火』の紅葉、『水』と繋ぎ──

 

「梅里様……わたくしは、信じております…………」

 

 『土』担当のしのぶへと行き、さらにまた『木』気担当のせりへと流転し、高められていく。

 宗次と釿哉の武器が放つ霊力の助けをもあって、その莫大な霊力は滞ることなく流れていた。

 もしそれがなければ停滞した霊力の負荷によって、担当した一般隊員にさらなる負担がかかり──と悪循環を起こすところであった。

 その完成している陣によって、渦を巻いてさらに高められた霊力は陣の中心にいる金色の霊力を帯びたカーシャが(ひとえ)に集めていた。

 その傍らには銀色をした球状の霊力フィールドを纏った梅里がいる。

 陣の最終段階を前に──その銀光が急速に収束し、代わりにその体が淡く銀色に光る。

 無への没頭によって満月陣が朧月へと変化したのだ。

 そしていよいよ、『七曜の陣』は最後の段階へと移った。

 

「「頼んだわよ──ウメサト」──ウメくん」

 

 ──そのとき、なぜかカーシャの声と重なって別の声も聞こえた気がした。

 そして梅里は満月陣・朧月を使い、そこから望月を発動させ──カーシャからの霊力を受け止める。

 

「──ッ」

 

 体の中心から熱くなる感覚。

 熱病のそれとは違い──体にだるさはなく、逆に力が溢れてくる。

 そうして梅里が纏った光は、本来の銀色から金色へと代わり──淡く体を取り巻いていたものが、再び体を包み込む光球状のフィールドへと戻っていた。

 

 そして──次の瞬間、巨大降魔兵器の傍らへと空間転移していた。

 その周辺には巨大降魔兵器相手に囮を務めていた月組隊員たちがいた。

 

「来たな、梅里!! オレ達の霊力も──使え!!」

 

 突如現れた梅里を見るや、快哉の声をあげる月組隊長の加山。

 他の月組隊員たちも含め、さすがの反応速度で応えて手をかざす。すでに作戦はミカサから発信されていたので知っていたのだ。

 付近で活動中だった風組や雪組隊員達も気がついて手のひらを向ける。

 そして──上空に遠く離れたミカサからも、そちらに乗って陣に参加できなかった夢組隊員の仲間たち、そしてミカサを飛ばすためにサポートしている風組隊員たち、さらには米田とかえで、それに──

 

(梅里くん……お願いします。そして、どうか無事で……)

 

 霊力と共に送られてきた、祈るようなかすみの声が受け手である梅里にははっきりと感じられた。

 一段と輝きを増した金色の光球。

 そして──梅里は巨大降魔兵器へと一気に迫る。

 

「皆の明日を生きる希望のために──梅里さん!」

「そうよ、梅里! 帝都に平和を──」

「人々を苦しめる存在(もの)に……ウメサト、裁きを──」

「その狂った魂に救いを──よろしくお願いいたします、梅里様!!」

 

 それらの想いを受けて──

 

「ああ!! 皆で勝ち取る未来のために──」

 

 太陽のごとき金色の光をまとった梅里が、刀を振りかぶる。

 そして頭に浮かんだのは、耀山が京極の下へ走るきっかけになった件であった。

 

「予知した不幸を回避しようとするあなたの気持ちは分かる!」

 

 それは帝国華撃団夢組の使命の一つでもあるから。

 だからこそその苦悩は誰よりも理解している。

 

「だが──それを、多くの人々の不幸を回避するために、大勢の人を不幸にするアンタのやり方は間違っている!!」

 

 その矛盾に、なぜ気がつかないのか──梅里は叫び、嘆く。

 彼が優れた陰陽師であればこそ──かつて幼いしのぶがあこがれるほどに心優しかったのだから、同じ道を歩むこともできたのではないか……そう思うがゆえに。

 

「だから僕は、それを──アンタの言う正義を否定する!!」

 

 そして全力を込めて刀を、刀身に金色の烈光をまとった聖刃薫紫を──振り下ろした。

 

 

「帝都を害するその悪意と怨念を──断つッ!!」

 

 

 相手が巨体とはいえ、薫紫の切っ先からは金色の光の刀身が延び──巨大降魔兵器を一刀両断に切り裂く。

 

「────ァァァァァッッ!!」

 

 周囲には巨大降魔兵器の断末魔の絶叫が響き渡る。

 そして込められた霊力が斬りつけられた巨大降魔兵器の体を伝わり、爆発し──周囲は金色一色の光に包まれた。

 

 

 その光の中で──梅里は、男の姿を見た。

 それは梅里よりも十歳ほど年上だろうか。穏やかそうに切れ長の目を細めた彼は──

 

「ああ、やはりキミが……あのとき見た、彼女の笑顔の原因(もと)か……」

「──え?」

 

 戸惑う梅里にさらに言葉をかける人影。

 

「ありがとう……そして、しのぶのこと……頼みますね……」

 

 そう言って理知的に微笑み──彼は光の中へと消え去っていった。

 




【よもやま話】
 正直、前と一緒にしてもよかったんじゃないかと思うくらいの長さですが、これを入れると─11─が長くなりすぎるという罠があるのです。
 最後の耀山はふと思いついて入れたのですが、そしたらなんかすげーイイ奴になってしまった。
 う~ん、もっと悪役らしくする予定だったのに。
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