サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

71 / 78
─14─

 ──戦いから約二月と少し後……

 

 帝都にあるとある教会の鐘が荘厳に鳴り響く。

 重々しく鳴り響くその音は──人を畏まらせるのに十分な厳かさを持っていた。

 あの戦いが起こした大混乱がようやく終息し、人々が落ち着きを取り戻そうとする中で、ケジメとして執り行われることになった今回の式。

 その主役となる者の中に──巽 宗次の名前があった。

 

 そう、今日は彼の葬儀──

 

 

 

 

 

 

 

 ──などではなかった。 

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 あの日──帝都では幸徳井 耀山が生み出した巨大降魔兵器が夢組によって倒され、その上空の『武蔵』で騒動の根元であった京極慶吾が花組によって倒された、その日のこと──

 

 『武蔵』を離れた空中戦艦ミカサは帝都に戻りつつあった。

 ただし、帝都地下に分割収納されていたミカサを元に戻すのは容易ではない手間がかかる。

 その作業は風組によって行われ、その作業に全く役に立たない夢組のミカサ搭乗者組は邪魔にならぬよう、またダメージの大きい帝都居残り組のサポートのために、翔鯨丸に乗り込んで一足先に帝都へと戻ってきていた。

 その翔鯨丸が普段、地下に納められている花やしきにいた武相 梅里は、翔鯨丸が着陸のために高度を落としているのを、真下から見上げるように見つめていた。

 

「はぁ…………」

 

 そして大きくため息をつく。

 これからのことを考えると気が重かったために出た、大きな大きなため息であった。

 

「──どうしたんだ、大将? しけた面して……」

「いや、今回はさすがに……未帰還者が出たからね。その一人が宗次なのを考えると、ティーラとどんな顔をして会えばいいのか……」

 

 副隊長で夢組支部長の宗次と、夢組副支部長のティーラが恋仲なのは、夢組の者ならほぼ誰でも知っている。

 

「……ティーラも(つれ)えだろうな」

「うん……」

 

 ましてティーラは予知・過去認知班の頭であり、予知部門のエースである。その彼女が最愛の人の不幸を予見できなかったのは、痛恨の極みであろうし、それを気にしていないわけがない。

 梅里もまた最愛の人を亡くしたことがある。

 ひょっとしたら避けられたかもしれないその不幸を後悔し続けた身として、だからこそその心中は複雑であった。

 そして──翔鯨丸は到着し、その搭乗口が開く。

 

「とはいえ、激戦をアイツ無しで指揮を執ったんだから、労わねえとな」

「それはもちろんだよ。でも──宗次のことを考えると、やっぱりね……」

 

「──オレが、どうかしたのか?」

 

 そんな声がした。

 

「──え?」

 

 思わず声のした方を見れば、翔鯨丸から下船してきた、青い男性用夢組戦闘服に身を包んだ男の姿が見えた。

 さすがに唖然とする梅里。

 なぜならその見慣れた戦闘服の上には、見慣れた顔がついていたのだから。

 その顔こそ、夢組副隊長の巽 宗次のそれである。

 

「──は? えぇ!? だって、宗次……キミは……」

 

 信じられなかった。

 梅里が聞いた報告では、大日剣モドキの黄童子と戦闘になり、その撃破の爆発に巻き込まれて行方不明になったはずである。

 現に、今の今まで連絡は取れず、夢組の指揮はしのぶが執り、それを梅里が復帰してからは引き継ぐ形で執っていた。

 それが、なぜ──平然と翔鯨丸に乗って帰ってきたのか。

 信じられないようなもの──まさに幽霊や(あやかし)の類でも見た一般人のような梅里の目に、宗次もさすがに気まずさを感じる。

 

「あぁ、あれは……さすがにあの衝撃で気絶してしまってな……」

 

 宗次の説明によれば、大日剣の爆発に巻き込まれた宗次は吹っ飛ばされ、そこでそのダメージと、直前の過度の霊力消費で気を失ったらしい。

 

「とばされた場所も悪く、死角になっていて他の隊員からも気づかれなかったんだ。そのせいで危うく『武蔵』に取り残されるところだったが……」

 

 そう説明し、宗次は「はっはっは……」と普段は見せないような誤魔化す笑顔を見せる。

 ちなみにそのときの衝撃で通信機も壊れてしまい連絡も取れず、位置発信機能も途切れたために場所も不明になったらしい。

 

「……まったく、人騒がせな~」

 

 梅里が安堵のために脱力して、思わず地面に座り込んでいた。

 その姿をすまなさそうに見ていた宗次の背後には、心底うれしそうなティーラの姿が見え、それだけで梅里は「とにかく生きていて良かった」と心の底から思っていた。

 脱力してうつむき、地面を見ながら再度ため息をつく。

 そこへ──

 

「まったく本当だぜ、なあ……」

 

 梅里の人騒がせという意見に同意する声が聞こえ、梅里は思わず「そうだよ」とそれに相づちを打つ。

 だが──

 

「オイ、それはこっちの台詞だぞ」

「は?」

 

 宗次に言われて思わず顔をあげる梅里。彼にそう言われる心当たりはないが──さっきの死んだと勘違いしたのはあくまでせりであり、その報告は通信にも乗っていなかったはずだ。

 そう思って顔を上げた梅里だったが──宗次の視線は、梅里を見ていなかった。

 

「なんでお前が生きている、釿哉!!」

「──え?」

 

 宗次の視線を追って振り返れば──

 

 

 ──何食わぬ顔で松林 釿哉が立っていた。

 

 

 その傍らには、いつも通りの半眼のヨモギと、さすがに気まずそうに苦笑している舞の姿もある。

 

「はいィィィ!? な、なんで!? なんで生き返ってるの!? 釿さんが……」

「なんでって……オレは大将と違って死んだことは一度もないぞ? ……そもそもさっきからずっと話しかけていたじゃねえか」

 

 ほんのつい先ほどまで、梅里は宗次やティーラのことばかり考えて上の空になっていたが、言われてみれば確かにその声で話しかけられていたように思える。

 だが、宗次は納得しない。

 

「土蜘蛛と戦って、お前達は甲板から姿を消しただろうが!! ミカサ内に姿がない以上、落ちたとしか思えなかった。そして、あの高さから落ちて、助かるわけがない!!」

「あー、確かにな。落ちたときは死んだと想ったぜ。でもオレ、実はあのとき……落下傘、背負ってたんだわ」

 

『なッ!?』

 

 さすがに驚く周囲の者達。

 

「馬鹿な! お前はあのとき、そんなもの背負ってなど──」

 

 宗次の指摘通り、釿哉はあのときは落下傘を用意している様子はなかった。

 

「さすがに皆が命綱だけで高所作業するのに、一人だけ万が一に備えて、しかも責任者の(かしら)が落下傘背負ってるのも格好悪いだろ? だから認識阻害かけたんだわ、その落下傘に」

 

 宗次が唖然とする中、「いや~、それがまさか役に立つとは」と頭を掻く釿哉。

 

「意外とビビリですから、この人」

 

 とはジト目で釿哉を見ているヨモギの言葉である。

 

「で、八葉の爆発に巻き込まれ、オレたち三人は命綱も切れて放り出されて、さすがにやべえ、ってなったんだが──認識阻害が強すぎてオレ自身さえ忘れてたその落下傘を思い出して、とっさに篭手に仕込んでたワイヤーで他の二人を引き寄せて、降魔兵器に的にされないよう十分に高度を落としてから落下傘を開いて、無事に着地したってわけだ」

「私たちも負傷がひどかったので……その場で応急措置をしていたんです」

 

 気まずそうに舞が説明する。

 

「こっちも通信機が、爆発に巻き込まれて空に放り出された際に外れたらしく、3人とも残ってなくて……治療後に急いで花やしき支部を目指したんですが、なにしろ遠いところに降りてしまった上に、混乱で交通機関も麻痺していて……間に合いませんでした。申し訳ありません」

 

 苦笑を浮かべながら説明する舞は、釿哉とは対照的に本当に申し訳なさそうだった。

 

「まったく人騒がせな……」

 

 先ほど言われた台詞を、今度は憤然としながら漏らす宗次。

 

「あの……宗次も他人のこと言えないと思うけど?」

 

 梅里が頬を掻きつつ指摘する。

 

「ん? オレは八束からの念話(テレパシー)での協力要請で、神槍真理に霊力を込めて投げたんだぞ? そのときになぜ生きていたと気がつかなかったんだ?」

「あ~、それはオレもだ。銃剣に霊力込めて全力で投げたわ」

 

 宗次と釿哉の説明には心当たりがあった。

 確かに陰陽七曜の陣を使った際に、どこからともなく飛んできた二人の武器のおかげで、陣は安定して作用し、霊力は増幅されて巨大降魔兵器を倒すほどの霊力を生み出した。

 それに梅里は、今度は彼が気まずそうに──

 

「あれは、死んだ二人の形見の品がその遺志に従って飛んできた感動的なシーンかと思って……」

「「勝手に殺すな!」」

 

 二人に言われて首をすくめる梅里。

 だが──

 

「お二人、いえ四人が生きていらっしゃって、よかったではありませんか」

 

 もう一人の副隊長であるしのぶが間に入る。

 

「つまり夢組は──負傷者は多数出ておりますが、死者及び行方不明者は無し……ということでございましょう?」

 

 しのぶの指摘に釿哉と宗次は顔を見合わせ──拳をぶつけ合う。まるでその生存を確かめ合うように。

 それから宗次は夢組全員の方を振り向き、大声で指示を出した。

 

「総員──整列ッ!!」

 

 その指示と剣幕で、夢組隊員達は集まり、整然と梅里の前に並ぶ。

 並び立つ隊員達の横に立った宗次、列の正面に立つ梅里に向かって頭を下げ──帽子をかぶっていないときの敬礼である──そして顔を上げると夢組の隊員の総人数を言う。

 

「──欠員無し!! 総員、異常ありません!!」

「了解。みんな、ご苦労様。よくぞ……生き残ってくれた」

 

 梅里がその報告に笑顔を浮かべ──

 

 

『──はい!!』

 

 

 夢組全員の返事が、晴れ渡った冬の空に響きわたった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──というわけで、夢組に死者・行方不明者はなく、全員がその戦いを生き延びた。

 激しい戦いの中で、さすがに負傷者は多数出ており、中には四肢のいずれかを欠損するほどの負傷を負った者もいたが、とにかく命だけは皆助かったのである。

 そんな中で、巽 宗次は本日、今日のこの良き日に──この教会で行われているのは──

 

 ──結婚式だった。

 

 主役の一人である新郎の宗次。

 その白いスーツに身を包んだ出で立ちは筋肉質ながらスラッとしており、その洋装がとてもよく似合っていた。

 もう一人の主役である新婦──花嫁は、と言えば純白のドレスを身にまとい、そのベールの下は長い黒髪と健康的な褐色の肌が目に付く。

 二人はすでに祭壇の前におり、並んで寄り添うように立っていた。

 そして、その壇上にいる神父が問う。

 

「巽 宗次……あなたは病めるときも健やかなるときも、妻であるアンティーラを愛することを誓いますか?」

「はい、誓います」

 

 宗次の答えに頷いたのは──神父を務めるコーネル=ロイドである。

 彼はウェディングドレス姿の女性──ティーラを振り返り、彼女にも問うと──

 

「はい。誓います」

 

 目を伏せ厳かに彼女も誓った。

 

「なんで、巽副隊長もティーラさんもキリスト教徒じゃないのに、教会でやるんですか?」

 

 そう言って、参列者の席で首を傾げるかずら。彼女はこの場にふさわしい大人しめのドレスを着ていた。

 それに答えたのはしのぶ。彼女は洋服であるかずらと違い和装である。髪を結い上げ、やはり主役であるティーラを立てるために控えめの目立たない程度に押さえた装いであった。

 

「コーネルさんが帰国するので、最後に彼に祝福してほしいから、だそうですよ」

「う~ん……まさか、コーネルが退団して帰国するとは思わなかったわ」

 

 しのぶの説明に眉根を寄せて困った顔をしたのは、こちらも和装のせり。

 

「揚げ物担当、いなくなっちゃいますもんね」

「それは残った人でカバーする予定よ。なんならかずら、あなたも厨房入りしてみる?」

 

 ちょっかいを出してきたかすらに、意地悪く笑みを浮かべるせりが返すと、彼女はあわてたように答えた。

 

「い、いえ……副主任が厳しそうなので、遠慮します」

「それにしても、英国でも華撃団を作るから、でしたっけ?」

「そうよ。それをまさか──カーシャが言い出すとは、ね」

 

 思い出すように首を傾げたしのぶの言葉に、せりが答える。

 彼女の説明通り、英国での華撃団立ち上げのため──かつては中心になっていたトワイライト家のカーシャが英国へ帰国し、その手伝いのために、帝国華撃団で活動してノウハウを知っているコーネルも帯同する、ということになったのだ。

 かつては華撃団の敵であったカーシャ。その一番の被害を受けたものとして、せりは複雑な想いがあった。

 

「それで、帝都(ここ)を離れて帰国するなんて……まさか、まさかよ」

 

 その計画が完了し、無事に設立されれば倫敦華撃団となるそれを組織するために、カーシャは帝国華撃団を退団し、英国へと帰国することになった。

 そして、その応援にコーネルを勧誘したのである。

 カーシャの梅里への想いを知っているだけに、せりは信じられない思いだった。

 

「……そういうのは、本人のいないところで話してくれない?」

 

 とは、彼女達が話している後ろの席にいたカーシャの言葉だった。

 彼女もまた参列者の一人であり、主役を食わないギリギリラインの豪華さを誇るドレスをチョイスして着こなしているあたりは、さすがと言う以外にない。

 

「それは悪かったわね。でも──なにを企んでいるの?」

 

 そう言ってジト目を向けるせり。

 彼女の(したた)かさを知る者としては、ここであっさり日本を去ることが、梅里を諦めたのだというようには思えなかった。

 

「なんのことかしら? 元々、倫敦は華撃団構想に乗り気だったんだし、欧州の本部は巴里に奪われても、第二の──最大の支部を目指すだけよ」

 

 そう言ってから、もし巴里に何かあれば本部にとって代わるつもりだし、と付け加え、野望に満ちた目をするあたりは、カーシャらしいと言えるだろう。

 しかしせりもそれで警戒を緩めるようなことはしない。

 

「あなたの父の言葉、忘れてないわよ。梅里のこと、ずいぶん熱心に勧誘していたのに、あっさり手を引くだなんて……おかしいわよ」

「そうだったんですか? でも、それなら確かに……」

 

 せりの言葉にかずらも警戒して「む~」とにらむ。

 そんな二人に対してカーシャは、優しげな目でフッと微笑んだ。

 

「アタシなりの罪滅ぼしよ。アタシのせいで、帝国華撃団には多大な迷惑をかけてしまったからね」

「罪滅ぼし……?」

「ですか?」

 

 せりとかずらの言葉に、カーシャは一度うなずいた。

 

「それこそアタシの手には余るような、大きな大きな借り……だから組織を作り、それを帝都に何かあったなら手助けできるくらいに強くて大きなものにできれば──すぐには無理でも、ゆくゆくは帝都の一助になれれば……そう思って、倫敦での華撃団設立に尽力しようと思ったのよ」

 

 カーシャは遠い目をしながら語る。

 

「倫敦の華撃団計画は我がトワイライト家は一度手を引いてしまったので、この話は他の家が引き継いでいるの。それを横取りするのは信義に(もと)るわ。だからアタシが直接、華撃団のメンバーになることで、手助けしようと思って。幸いなことに、霊子甲冑で戦えるし──」

 

 華撃団を組織するのを助けることができ、なおかつ霊子甲冑を駆る主力部隊に所属できるのは、カーシャしかいないだろう。

 

「そっか。カーシャさんがいなくなったら……寂しくなりますね」

「そう言ってくれるのは嬉しけど、全然そうは見えないのだけど?」

 

 ニコニコしながら言ったかずらを、呆れた様子で見るカーシャ。

 そして彼女は、その特徴とも言うべき、自信に満ちた勝ち気な笑みを浮かべる。

 

「……それに、もちろんウメサトをあきらめたわけじゃないわよ?」

「えぇ!?」

 

 その言葉にかずらは思わず声をあげてしまう。

 式の真っ最中ということもあって、周囲から視線が注がれ──あわてて口を押さえて頭を下げた。

 

「もう……かずら、恥ずかしいでしょ? 大人しくしてなさい」

 

 せりからはたしなめるような抗議の言葉が飛んでくる。その口調はさながらお転婆な妹を咎める姉のようであった。

 その一方で、カーシャは声を抑えながら自分の考えを説明し始めた。

 

「巴里ではあきらめたみたいだけど、旧教(カトリック)勢力の力が弱い英国なら、バチカンの影響力も弱いし、霊能部隊を組織できるはず。そうなったら──倫敦華撃団夢組の隊長にスカウトするつもりよ」

「な……そんなの、認めません!!」

「あんな料理不毛地帯に、料理人の梅里が行くわけないじゃない」

 

 そう言って反発するかずらとせり。

 しかしカーシャは「フフン」と自信ありげに笑みを浮かべ──

 

「良い報酬と良い待遇。充実した福利厚生。さらにそこにアタシを入れれば──必ず来るわ。アタシも、今よりももっと自分に磨きをかけて迎えに来るつもりだし」

「えぇ~、カーシャさんとか余計なオマケが付いてきたら、断られるんじゃないですか?」

「まったくその自意識過剰なまでの自信……どこからくるのかしら」

 

 呆れたようなかずらとせり。

 そして──

 

「……では、その前に梅里様には、わたくしと夫婦(めおと)になっていただくとしましょうか」

 

 黙っていたしのぶがボソッと言い──他の三人が目を丸くした。

 そして一気に騒ぎ出す。

 

「な、なんでしのぶさんと梅里が結婚するって話になるのよ!!」

「そうです! そんな抜け駆け、許されるはずがありません!!」

「まったく……澄ました顔で虎視眈々と狙うなんて、やっぱりしのぶはキツネね」

 

 せり、かずら、カーシャが次々と言い──

 

 

「オホンッ!!」

 

 

 神父──コーネルの大きな咳払いで、我に返る四人。

 見れば他の参列者から冷たい目で見られてしまっていたのであった。

 そんな四人を苦笑して見ていた梅里は、なぜかその四人から「あなたが元凶でしょ?」とばかりに鋭い視線を送られ──かくして式は厳かに進められていく。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 やがて教会の外へでた新郎新婦と参列者。

 晴れ渡った日差しは、この時期にしては珍しく温かさを生み、この式の主役二人の行く末を祝福しているかのようであった。

 そして厳かに響きわたる教会の鐘。

 鐘の音に併せるように、参列者からのフラワーシャワーが舞った。

 宗次とティーラを祝福する声が何度も何度も挙がる。

 華撃団の慶事ということで所属の組を分け隔てなく集まったその式は、本当に素晴らしいものであった。

 

 そして──その最終盤になり、にわかにその場に緊張が走り始めた。

 

「ねぇ、マリア? これから何が始まるの?」

 

 そんな不穏な空気を感じ取ったのか、華撃団員として参列していた花組のアイリスが、同じように参列していたマリアに尋ねる。

 

「それはね、アイリス。これから花嫁が手にしたブーケをみんながいる方に投げるのだけど……それを受け取った人が次の花嫁になれる、と言われているのよ」

 

 マリアが優しい目をしながらそう説明する。すると──アイリスは目を輝かせた。

 

「アイリスも欲しい!! だって、アイリス、お兄ちゃんと結婚するんだもん!!」

「ア、アイリス……今回は夢組のティーラさんの式だから──」

 

 そう言ってあわててたしなめたのは、同じく参列していた花組のさくらだった。

 そして彼女はそっと振り返り──せりに親指を立てる。

 

(健闘を祈ります)

 

 それを見たせりもまた感謝を示す。

 

(ありがとう、さくら。私の時はあなたにパスするわね)

(いいえ、あたしの方が先に結婚しますので──そのときもせりさんに投げてあげますから)

(いやいや、私の方が年齢上なんだから先に──)

(でも大神さんと武相主任なら、大神さんの方が年上ですよ? やっぱりあたし達が先に──)

(いえいえいえ、私と梅里の方が──)

 

 視線とジェスチャーでなにやら言い合いを始めるさくらとせり。

 それを何事かと微妙な視線で見つめる周囲の者達。

 

 やがて──ブーケトスの時間がやってきた。

 梅里の周囲にいるせり、かずら、しのぶ、カーシャの四人は「私に!」とジッと見つめ、ティーラにアピールする。

 

「これは……プレッシャーですね」

 

 思わず苦笑する花嫁のティーラ。

 彼女はちらっと、大神 一郎の周囲に集まってる花組メンバー達を見て、わずかに頭を下げる。

 彼女達には申し訳ないが、今回は──やはりあの四人の方へと投げるしかないようだ。

 そもそも、大神周辺に投げれば、それ以上の修羅場を起こしかねない──というのは、予知能力を使わずともわかる。

 占い師であるティーラの投げるものだから霊験あらたかだろう、と目の色を変えている者は大勢いるように見えるのだから。

 

(といっても、あの中でも誰かの近くに投げれば、角が立ちますからね──)

 

 そうしてティーラは満を持して──四人の誰もが取れるところへと放った。

 

 

「「「「「────ッ!!」」」」」

 

 

 必死に延ばされる五つの手。

 しかし、ブーケはそれらをくぐり抜け──中心にいた梅里の手の中へと収まってしまった。

 

『あ…………』

 

 会場中が絶句する中、はからずも自分の手に収まってしまったそのブーケを梅里が気まずそうに見つめていると──せりが梅里に手を差し出した。

 

「う、梅里が持っていても仕方ないでしょ? ほら、私に渡しなさいよ。あなたが受け取っても場が白けるだけだし……」

「な!? せりさんズルいです! 梅里さん、是非とも私にください! そして結婚しましょう」

「まぁ、かずらさんったらなんとはしたない……梅里様、あなた様ならわたくしに渡してくださるものと信じております──」

「あら、ウメサト。もちろんアタシにくれるんでしょう? 日本の最後の思い出だもの」

 

 四人に手を突き出され──

 

「え? あ、いや、その……」

 

 ブーケ片手にたじろぐ梅里。

 

「もう! 煮え切らないわね!! そんなだからあなたは──」

「そうです、梅里さん。この際ですからハッキリしてください!!」

「梅里様、わたくしはいつでもいつまでも、わたくしを選んでくださるものと信じてお待ちいたしております……」

「ほら、ウメサト。アタシに決めてしまいなさいって。そして英国に行きましょ?」

「──梅里くん、ここはやはり年長者の私に、譲ってくれるんですよね?」

 

「「「「──って、かすみさん!?」」」」

 

 突然の乱入者──実は先ほど四人に交じってひそかに手を伸ばしていた──に、四人が目を丸くして驚き、彼女を見る。

 彼女たちの視線が逸れた、その瞬間に隙を見つけた梅里は迷わず走り出していた。

 

「「「「あ! 逃げた!!」」」

 

 あわてて追いかける女性達。

 

「待ちなさい、梅里!!」

「梅里さん、逃がしませんよ!」

「梅里様、お待ちになってくださいませ!!」

「アタシは、欲しいものはどんな手を使ってでも掴んでみせるからネ、ウメサト!!」

 

 荘厳な鐘の音が響きわたる中、武相 梅里と彼を慕う女性達の壮絶な追いかけっこが始まるのであった。

 

 

 天下太平こともなし。

 平和が戻った帝都に──

 

「ティーラ、もう一回やりなおして! これ渡すからもう一回投げてよ~!!」

 

 梅里の救いを求める叫び声が響きわたるのであった。

 




【よもやま話】
 二人──というか四人──とも生きてました、実は。というオチ。
 はい、物を投げないでください。
 だって……サクラ大戦ですよ? 死なせるわけにいかないじゃないですか(「1」であやめは死んでるけど) 。
 ええ、私だってリューナイトの終盤で月心、グラチェス、ヒッテル&カッツェと、次々とやられて、最後に戻ってきたのは唖然としましたよ。悲しみ返せコンチクショーと思いましたから。
 ……少しでもそう思ってくれたのなら、作者冥利に尽きます。

 後半の宗次とティーラの結婚式は──もうリメイク前から決まってたラストでした。ブーケトスのラストまで完全に当時考えたままです。
 おかげでやっと20年前の心残りが解消しました。
 でも……クーガーの兄貴に言いたい。20年かけても傑作小説がかけないバカもいるんですよ。ホントに。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。