サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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鶯歌:
 さぁ、前回同様に、ここまで話を読んでくれた皆さんに特別プレゼント。
 もちろん今回も、全部読んでくれて構わないけど……どの()との未来から読むか、選ばせてあげましょう。
 ──と言っても、も・ち・ろ・ん、一緒に光武・複座試験型に乗った娘を選ぶんでしょう?

 さぁ、ウメくん。どの娘との未来を見るの?















個別エンド集

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

~しのぶエンディング~

 

 荘厳な雰囲気をまとう、大きな大きな屋敷。

 京の都の中心地にそれを構えるということが、その家がどれだけ強い力を持っていたのかを如実に物語っていた。

 その中にある建物の大きな広間──畳が敷き詰められたその空間の真ん中に、武相 梅里はいた。

 彼は畏まり、相手がやってくるのを待っている。

 やがてやってきた足音を耳にして、頭を下げ──ジッと待つ。

 

「……顔を上げられよ」

 

 やってきた男の声に梅里は従った。

 束帯に烏帽子という、古の貴族そのままの姿の彼が目に入る。

 その人こそ、日本最大にして世界でも有数の歴史を誇る魔術結社、陰陽寮の現在の最高権力者である。

 

 その彼は、目の前の帝国華撃団を代表してやってきた若い男──陰陽寮が協力している霊能部隊・夢組の隊長──を一瞥し、さらにはその後方に控える女性を睥睨する。

 その長い黒髪、顔を伏せているためにハッキリとは見えずとも、なにより特徴的で印象的な、その閉じたような細い目の彼女を見間違えるはずがない。

 

 ──塙詰 しのぶ。

 

 彼の家である土御門家の分家筋にあたる塙詰家。土御門同様に昔から陰陽寮の運営に寄与してきた貴族であり、一族皆陰陽師というその家は現代にあっても土御門家には劣るが爵位を与えられた華族でもある。

 その彼女が、陰陽寮を代表する自分側ではなく、相手側に座していることは、彼女が帝国華撃団夢組副隊長という地位があるのを理解しても、面白くはなかった。

 彼の言葉に従って頭を少し上げた男は、この年の始めまで続いた帝都での争乱とその顛末を彼に語るのであった。

 

「──以上のようにして、華撃団は事を収めた次第です」

 

 陰陽寮の当主への報告を終えて、梅里は再び頭を下げた。

 それに当主は──

 

「左様ですか。報告、御苦労さまです」

 

 事務的にそう言って、立ち上がろうとした。

 そこへ──

 

「お待ちくださいませ……」

 

 梅里の背後にいたしのぶが声をあげた。

 

「此度の戦いにおいて、陰陽寮がその立ち位置を不鮮明にされた時期がございました。それについて、お聞きしたいことが……」

 

 それは、黒鬼会との戦闘が激化して間もないころの話だった。

 先の戦い以降、友好的な関係を築いてきたはずの陰陽寮が、突如として華撃団と距離をとろうという動きがあったのだ。

 特に若手の中で顕著で、その動きの中心になったのは彼らであり──それこそ、元は『復古派』と呼ばれていた者達や、その影響を強く受けた者達である。

 その動きは、黒鬼会と連動していたものであり、かつて復古派の代表であった幸徳井 耀山が黒鬼会のメンバーであったことを考えれば、そこにつながりを疑うのは当然のことだろう。

 当主は露骨に顔をしかめ──

 

「いえ……必要ございません」

 

 梅里が遮る。

 

「え? ……梅里様?」

 

 驚き、小声で確かめるしのぶ。だが、梅里はそれに反応せず、当主の方を見て顔を上げ──

 

「陰陽寮と、我ら帝国華撃団の関係は常に良好……そうでございましょう?」

 

 そう言って人好きのする笑顔を浮かべた。

 そんな彼の行動に戸惑った当主だったが、「うむ、左様であるな」とうなずく。

 しのぶは不満そうであったが、ともかく当主は再度立ち上がろうとし──

 

「おそれながら……その友好の証として、献上したいものがございます」

 

 梅里は恭しく、一段と頭を下げる。

 そして、大きめの包みを座している自分の前に置いた。

 動きを止めた当主は──側に控える者をチラッと見ると、その視線を受けた者が包みを受け取り、それを当主の下へと運んだ。

 

「これは?」

「中を、御確認くださいませ」

 

 包みの口を開き、中を見ると──そこには細かな金属の破片が入っていた。

 思わず眉をひそめる当主。

 

「──それなる金属片は、我らが倒した敵が残したもの。此度の戦いの証拠として、是非ともお納めくださいませ」

 

 『武蔵』側ではなく、帝都に出現した最大の敵である巨大降魔兵器。その核となった魔操機兵の、ボロボロになって残った破片である。

 梅里が言うと、当主はますます眉をひそめた。

 

「かようなことをされずとも、こちらはその戦果を一つも疑ってなどいないが?」

「そして──“人形師”こと幸徳井 耀山がこの世に残した唯一のもので御座います」

 

 梅里がポツリと付け加えた言葉で、当主は顔色を変える。

 当主の雰囲気が剣呑なものへと一気に変わっていた。

 

「……かような物を我らに示すとは、いかなる存念か?」

 

 元陰陽寮の陰陽師だった幸徳井 耀山。その遺品を送りつけるというのは、しのぶの発言も含めれば陰陽寮を糾弾しようという意図であると受け止めるのも当然である。

 先ほど、梅里が関係を「常に良好」と言ったことも、皮肉として受け止められる。

 陰陽寮の当主たるもの、当然に超一流の陰陽師である。

 古より呪術さえも研究されていた陰陽寮の、その性質は清濁併せ持つものであり、当主の放つものは霊力とも妖力ともつかないものであった。

 その異様な気配を前に、しのぶは恐れおののいたが──その前にいる梅里は臆することなく、しかし(へりくだ)ることもなく、神妙な面持ちのまま言った。

 

「……子を案ずるのは親として自然なことかと思い、余計な気を回した次第で御座います」

 

 彼の落ち着き払った声が響き、それに対し──

 

「…………っ」

 

 梅里の言葉に息を飲んだ当主。その纏っていた剣呑な空気は吹き飛んでいた。

 幸徳井 耀山の遺体は残っていなかった。

 しかし最期の乗機となった超大型魔操機兵・六道は巨大降魔兵器の核になっているのが確認されており、それが完膚無きまでに破壊されていることから、行方不明ではなく戦死したと認められている。

 その唯一残したというその破片は──彼の遺品であり、遺骨にも等しい。

 だからこそ梅里はそれを、彼の実の親である土御門家の当主へと渡したのだ。

 

「左様か……」

 

 包みの口を閉める当主。

 彼は立ち上がると即座に後ろを振り返って梅里達に背中を向ける。

 

「かような行い……かの者は幸徳井家の者であり、すでに我とは関係ない。まして──陰陽寮からは追放された者。過ぎたる気遣いと心得よ」

「──は。申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げたまま謝罪する梅里。

 それに対して彼は──

 

「この破片は、先ほどのそなたの言の通り、華撃団の戦果の証として、受領しよう」

 

 当主の言葉に、梅里は一度、さらに深く頭を下げる

 その動きを察したのか、彼は──

 

「……遠路はるばる大儀であった」

 

 そう言い残して広間から去り、姿を消す。

 その目にはうっすらと涙が浮かんでいたが──梅里もしのぶも、それに気づくことはなかった。

 

 

 冬寒い京都とはいえ少しだけ暖かさを感じられるような季節にとなっていた。

 そして梅里は、しのぶと共に桜の名所の一つでもある上加茂神社の通称で親しまれる賀茂別雷(かもわけいかづち)神社(じんじゃ)──を訪れ、その一の鳥居から続く桜並木を眺めていた。

 この神社に訪れた際には梅里が「加茂って、あの?」と陰陽寮で中核となった加茂家の氏神を祀っているのかと思ったが、しのぶの説明によれば別系統らしい。

 そんな会話をしながら、見事な桜を眺めていると──会話が途切れたタイミングで、しのぶが不意に立ち止まった。

 

「梅里様……重ね重ね、ありがとうございました」

「なんのこと?」

 

 桜の花を見上げていた梅里は、しのぶに言われて首を傾げる。

 

「先の、陰陽寮での一件でございます」

「あれは……礼を言われるような事じゃなかったような気がするけど。現に当主様を怒らせてしまったみたいだしね」

 

 梅里が言うと、今度はしのぶが首を傾げた。

 

「御怒りになどなられて無かったかと思いますが……」

「でも、余計な気遣いだって言われたけど?」

 

 それでしのぶは、なるほどと納得する。梅里の勘違いに気がついたのだ。

 

「御方様は陰陽寮の長でいらっしゃいますから、その立場からああ言わざるを得なかったのだと思います。もし、本当に不快に思っていらしゃったのなら、突っ返してそもそも受け取らなかったかと」

「じゃあ、受け取ってもらえたってことは……」

「梅里様のお気持ちはキチンと伝わった、ということでございましょう」

 

 そう言ってしのぶは微笑み、スッと梅里との距離を縮める。

 

「実はあのとき、わたくしは感動しておりました。子を案ずるのは親として自然のこと、と……」

 

 そう言ってしのぶが思い浮かべたのは、自分の両親だった。

 土御門家の分家筋にあたる塙詰家。

 そんなしのぶの親もまた陰陽寮に属する陰陽師である。

 そして──先の大戦で陰陽寮の意図に逆らったしのぶは、それ以来両親には会っていない。

 陰陽寮は結果的には、しのぶにその反逆の責を問わなかった。

 黒之巣会との戦いが終わった直後に華撃団を代表した梅里が直接訪れて、陰陽寮が華撃団を裏切って人員の引き上げを行ったという事実を無かったことにしたためである。

 そのおかげで責そのものがなくなったからだが──それでも両親は家の存続のためにしのぶと距離を置き、今に至るまで会っていない。

 

「梅里様……」

「うん?」

 

 しのぶに呼ばれ、梅里は振り返る。彼女は思い詰めた様子で梅里をジッとみる。

 

「わたくしも、両親に……御父様や御母様に、会うべきでしょうか? 二人にお会いすることが迷惑にはなりませんでしょうか?」

 

 しのぶは実の兄から両親の心遣い等は聞いているし、その様子も聞いている。

 二人からの愛情は十分に伝わっていたが──忌まわしき魔眼の所有者として、周囲に気遣うしのぶは自ら会いに行くことをしなかったのだ。

 不安げな彼女に、梅里は優しく笑みを浮かべ──

 

「会うべきだと思うよ。しのぶさんが会いたいのなら、間違いなくね」

 

 心の中で、もしも誰かが亡くなればそれが二度とかなわなくなり、一生後悔し続けることになるから、と付け加える。

 しのぶは華撃団の一員として危険な任務に赴くこともあるし、両親も陰陽師として怪異の調伏にあたるのならその危険はあるだろう。

 なにより、近年は黒之巣会に黒鬼会と世を乱す組織の暗躍があったりと、安らかな時勢とは言い難い。

 

「そうで、ございますよね……」

 

 梅里の言葉を受けたしのぶだったが、まだ迷いがある様子だった。

 

「しのぶさん、もしも──御両親に会うのが怖いのなら、僕の方から用事を作ろうか? 例えば、挨拶とか……」

 

 帝国華撃団夢組の隊長として、陰陽寮の華撃団に友好的な塙詰家の当主夫妻と面会する。それに副隊長が付いてくる、というのはきわめて自然だろう。

 そう考えた梅里だったが──

 

 

「──えっ?」

 

 

 なぜかかなり驚いた様子のしのぶに、梅里はポカンとする。

 そして彼女は恐る恐るといった様子で梅里に尋ねてきた。

 

「あ、あの……よろしいのでございましょうか? 梅里様は、それほどの御覚悟が……」

「覚悟?」

 

 会うのに覚悟がいるとはどういうことだろうか、と梅里は内心で首をひねる。

 それほどまでに苛烈でおっかない人なのだろうか、と思い至り、幼い頃の稽古中の母親の様子を思い浮かべる。

 

 ──そして、背筋がひんやりとした。

 

(うん、あれは本当に恐ろしかった。あれ以上はなかなか無いと思うけど……)

 

 思わず苦笑をうかべる。むしろ苦笑を浮かべるしかない。

 だからこそ──

 

「うん、大丈夫だと思うよ」

 

 そう答える。

 すると、しのぶがパッと晴れ渡った笑顔を浮かべ──

 

「──梅里様ッ!!」

 

 喜色満面のままひしと抱きついてきた。

 

「しのぶめは──幸せ者にございます。本当に、本当にうれしゅうございます」

「え? うん?」

 

 その熱烈な反応に、梅里は戸惑う。

 そんな梅里にしのぶは違和感を覚えたのか、腕を背中に回して埋めた顔を上げる。

 そして──言った。

 

「わたくしの両親に挨拶していただける、ということでございますよね?」

「え? まぁ、うん……華撃団と陰陽寮の友好のために、ね」

 

「──は?」

 

 今度はしのぶが呆気にとられる番だった。

 

「え? あの……梅里様が、わたくしの両親に挨拶を……という話ではないのでしょうか?」

「挨拶というと……?」

「それはその、正式な……」

 

 言いよどむしのぶが戸惑いながらも頬を少し赤く染め──梅里はそれで勘違いに気が付いた。

 

「あ! いや、それは……そういうわけじゃなくて…………」

「ああ……そうなの、ですね……」

 

 しゅんとしたしのぶだったが、苦笑混じりに顔を上げる。

 

「も、申し訳ありませんでした。わたくしの早合点で……でも、梅里様が取り持ってくださるというのなら、是非にお願いいたします」

「うん、任せてよ」

 

 苦笑を微笑みに変えたしのぶに梅里はホッとしながら、彼もまた笑みを浮かべる。

 

(いつか……それが本当の、梅里様がわたくしの両親に挨拶してくださる、その予行演習になれば…………)

 

 密かに思ったしのぶは、梅里を抱く腕に力を込める。

 

(そして、いつか──子を持つ親の心というものを、わたくしも実感しとうございます、梅里様……)

 

 彼の胸に顔を埋めたしのぶは、心の底からそう思い、でも気恥ずかしくて面と向かってそれを言うことができず、心の内にそれを隠し──そして、この腕を決して放さないと誓う。

 

 桜吹雪が舞い乱れる中──二人の影はいつまでもいつまでも、離れることなく一つのままであった。

 

 

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

~せりエンディング~

 

 

「──わぁ……すごいな、これは」

 

 その桜の花が満開に咲く光景に、武相 梅里は思わず感嘆の声を上げていた。

 帝都の桜の名所と言われるところに本数も木の大きさも劣ってこそいないが、さすがに勝るとは、といったところたが──梅里が感嘆しているのには理由があった。

 

 この桜が咲いている時期である。

 

 帝都の桜はとっくに散り、梅里自身「今年の桜は見納めた」という気持ちでいた。

 そこにこの満開の桜である。

 完全に予想外であり、不意打ちのそれに、梅里はすっかり心打たれていた。

 

「そうでしょ?」

 

 その傍らには、うんうん満足げにうなずく白繍せり。

 彼女にとっては逆に、この時期の桜こそ本来のそれなのだ。

 三月の終わりごろに帝都で咲く桜は、本州最北の青森では四月の終わりごろに花を咲かせる。

 ほぼ一ヶ月かけて北上する桜前線は、ここ──せりの地元である山形県には四月の中ごろにやってくるのである。

 

 

 梅里とせりがいるこの場所は──()(じょう)の異名を持つ山形城の城跡だった。

 江戸の初期──いや、その以前の戦国武将が群雄割拠するその時代にこの山形の地に羽州探題として君臨した最上義光。

 激しい時代をくぐり抜けて勢力を拡大・守ってきた彼は、北の関ヶ原と言われる奥州出羽合戦で、長谷堂城での戦いで何倍もの上杉軍を相手に奮戦し、戦後には57万石もの大名になった。その義光公が終始拠点としたのがこの奥羽地方最大の規模を誇る山形城である。

 義光の没後にお家騒動でとり潰しにあった最上家の後は譜代大名が城主となり、山形藩の石高には釣り合わぬほど巨大な城ではあったが──徳川の世が終わってからは市が買収して誘致し、陸軍の歩兵第32連隊の駐屯地となった。

 その連隊が1906年に日露戦争の戦勝記念に植えられた桜の木々は、この地を山形県を代表する桜の名所としたのである。

 ──その陸軍に属する帝国華撃団の夢組隊長・武相 梅里は同じく夢組のせりとともにそのコネを利用してやってきたのだった。

 

 

 頭上の桜を感慨深げに見ていた梅里。

 それを眺めていたせりだったが──なぜかだんだんと不機嫌になっていた。

 

「いや、すごい桜だよね……」

「そ、そう? まぁ、私の地元にだって負けないくらいの桜の名所があるんだけどね」

 

 ついさっきまで満足げだったのに、せりは手のひらを返していた。

 それを見て、梅里はつい笑ってしまう。

 

「せりって、自分の地元が大好きだよね?」

「え? それ程でもないと思うけど……まぁ、誇りは持ってるわよ?」

 

 誤魔化すせりだが、梅里は確信している。彼女の地元愛はかなり強い。

 今も「山形県」というくくりでは一緒になるこの山形の地を梅里が誉めたのがうれしかったのだろうが、彼女の地元はここではなく日本海側である。

 その方言もせりの地元とこの周辺とはかなり違っているらしい。

 そして江戸時代の藩も違っている。最上家の後は譜代大名がコロコロと入れ替わった山形藩とは違って、彼女の地元は別の藩となって以降は一度も転封がなかった。

 そのため領民と家臣の結束が強く地元愛も強く、せりの気質はそれに由来するものでもある。

 梅里が余りに誉める「山形」に、今度は逆に嫉妬したのだろう。

 

「じゃあ、早くせりの言うその桜の名所に行こうよ」

「もう、焦らないの。今日はこの周辺で一泊して、明日向かうんだから……」

 

 苦笑する梅里をたしなめながら、ため息を付くせり。

 先の大戦を勝ち抜いて得た休暇を、梅里は親の出産を手伝うために地元に帰るせりにつきあった梅里だったが──今回もまた、せりの帰郷につきあっているのだった。

 

 それは──しばらく前にせりにかかってきた電話がきっかけであった。

 

【以下のせりと母親の会話は方言で行われていますが、分かりやすく標準語でお送りします】

 

「ええっ!? なんでよ!!」

 

 大帝国劇場で、自分宛にかかってきた電話を受けたせりは、相手が母親だと知るや、その言葉を地元のそれにして会話を始め──即座に声を上げていた。

 

「なんでって、今、説明したでしょ? 大祭で人手がいるから、アンタ帰ってきなさい」

「大祭って……うちの大祭はまだ先でしょう?」

 

 母親の説明に思わず言い返すせり。

 

「うちじゃなくて、近場の──」

 

 母親が説明したのは、せりの実家ではなく、その周辺にあって付き合いのある神社だった。その神社が数年に一度大きな祭りを行っているのはせりも知っていた。

 

「あの祭りは人手が足りなくなるから、神職としてうちからも人を出すのが昔からの習わしなの。それはアンタも知ってるでしょうに……」

「それは知ってるけど……いつもみたいにお母さんが出ればいい話じゃないの」

「ウチには鈴菜と鈴代がいるのよ? 置いていけるわけ無いでしょ。そもそもうちの神社だって空にするわけにはいかないんだし」

 

 かといって残っているせりの妹弟は……一番上の護行(もりゆき)でさえ中学生である。まだ出すわけにはいかない。

 

「じゃあ、またなずなを帰すから──」

「なずなは正月に帰ってきたばかりじゃないの! 今回は正月に帰ってこなかったアンタが帰ってきなさい!」

 

 母親にピシャリと言われ、思わず首をすくめるせり。

 

「で、でも……」

 

 どうにか反論しようとするせりは視線を泳がせ──ふと、電話をかけている事務局内にいるかすみと目が合う。

 その視線に気が付いた彼女はにこやかに微笑んで一礼する。

 

(ダメよ、せり。ここで帝都を離れるなんて、あまりに危険……)

 

 そのかすみの表情で決心する。決して折れてはならないと。

 だが──

 

「で、その正月に帰ってこなかったのも、梅里さん絡みなんでしょ?」

「なッ──」

 

 図星をつかれ、機先をそがれる。さらに──

 

「なずなから聞いたわよ。ほかの恋敵()たちが帰省しないから対抗したって……」

「むむむ……」

「で、帰省せずに頑張った成果はどうだったのかしら? 実家の繁忙期を手伝うよりも優先させたんだから、も・ち・ろ・ん、なにかしらの結果は残せたんでしょうね?」

「ぐぬぬ……」

 

 受話器を握りしめながら苦虫を噛み潰したような顔になるせり。

 

「も、もちろんよ。ちゃんと──」

「その結果もなずなから聞いてるわよ──なんの成果も得られませんでした、ってね!」

 

 嘘をついて誤魔化そうとしたせりだったが、いともたやすく母親にトドメを刺された。

 受話器を持ったまま一瞬固まった彼女は、直後に頭を垂れるようにうつむく。

 そして気分的には母親に土下座して、受話器にどうにか言葉を出す。

 

「……つ、次こそは……次こそは必ずや結果を…………」

 

 まるで悪役組織の中間管理職的な地位にいるキャラが言うお約束のような台詞を絞り出すが──

 

「その言葉、もはや聞き飽きたわ」

 

 ──母親は、その上役幹部のような台詞で叩き潰した。

 さすがにせりは、なにも言えない。

 

「だから、今回の帰省に、梅里さんも連れてきなさいな」

「え?」

 

 そんな母親の言葉に、せりは思わず自分の耳を疑った。

 

「母さんから米田支配人に手紙を書いたから。大祭の手伝いでアンタを一時的に帰省させて欲しいというのと、それに合わせて一人、男手が欲しいって」

「んな──ッ!?」

 

 この母親は、自分の知らないところで何をやり出していたのか、と唖然とするせり。

 せり自身を実家に戻して欲しいというのならまだわかるが、ついでに人手を要求するとは、あまりにも──ちゃっかりしているを通り越して、図々しいレベルである。

 

「お母さん、止めてよ……恥ずかしいでしょ!?」

「恥ずかしいとかなんとか、言っていられるような場合じゃないでしょう? まったくアンタは……」

 

 心底あきれたとばかりに言うせりの母親。

 彼女は、せりに突きつける。

 

「母さんだって恥ずかしかったわよ。それでもアンタのためを思うからやったんだからね?」

 

 もちろん彼女とて分別のあるいい大人である。自分のしたことが図々しいことくらい百も承知だ。

 それでもやったのは、娘を思う親心ゆえである。

 

「いい? ここまでしたんだから、絶対確実に決めなさい」

「き、決めるって……なにをよ?」

「アンタに課せられた使命はただ一つ──既成事実よ」

「はあァッ!?」

 

 思わず素っ頓狂な大きい声が出た。

 その声で事務局にいた者たちが、何事かとせりを見るが、せりはそれに気づく様子もなく、思わず受話器を握りしめる。

 

「な、ななな……なにを言い出すのよ、いったい!!」

「黙らっしゃい! アンタがそんなだからいつまで経っても進展しないんでしょうが。そのまま他の()()られてもいいの?」

「そ、そんなことは……ないけど…………」

 

 思わずチラッとかすみを見るせり。

 

「で、でも……実家に連れて行っても、それこそ護行とかはこべ、小平太もいるのよ? みんないる中でそんなのは無理で…………」

 

 神社である実家は広いことは広いが、家族の人数も多い。

 そんな中で、せりと梅里が完全に二人っきりになれるプライベート空間など作れるわけがない。

 そう思ったせりだったが──母親が一枚上手だった。

 

「実家に来る間……山形辺りで宿を用意しておくから、そこで決めてきなさい。いいわね? どこがいい? 山形? 天童? 上山(かみのやま)? それとも蔵王温泉? アンタに希望がないならこっちで勝手に決めるわよ」

 

 そう言った母親が、宿泊地を強引に決めて──その電話は切れた。

 思わず脱力し、俯きながら受話器を戻すせり。

 

(あああ……ど、どうしよう…………)

 

 この計画は、間違いなく実行される。

 昔から母の行動力を知っており、それに振り回されてきたせりにはよくわかっていた。

 おまけに、今回は振り回されるのが自分だけではなく──梅里も巻き込まれる。

 せりはそれに愕然とし、そして悩む。

 

「あ、あの……せりさん? 大丈夫ですか?」

 

 あまりに変な様子なせりに、かすみが心配そうに声をかけてくる。

 

「だ、大丈夫で──」

 

 大丈夫です、と答えかけた彼女の目に、事務局の前を通り過ぎていくツインテールが目に入った。

 あれは──せりの目が一瞬で生気を取り戻す。

 

「な~ず~なあああぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 起きあがるや一目散に駆け出すせり。

 一方、用事があって帝劇にやってきたせりの妹のなずなは、突然背後に現れた不穏な気配に振り返り──般若のような表情で追いかけてくるせりの迫力に、あわてて一目散に逃げ出した。

 まるで吹き流しのように流れるなずなの髪の毛を追いかけるように、せりが背後にピタリとついて走る。

 

「待ちなさい! なずな!!」

「そんな形相で待てって言われて待つわけ無いでしょ、姉さん!!」

「アンタ……よくも母さんに有ること無いこと吹き込んでくれて──」

「姉さんが、あたしを強引に実家に帰すからでしょうが! 母さん達から姉さんのことを聞かれれば素直に話すしかないもの!」

「だからって、あんな事まで──それに、帝都(こっち)に戻ってきてからも母さんに話したでしょ!!」

「姉さんにわかるわけ無いわよ! せっかくの冬休みを実家に帰省させられて忙しく過ごしたと思ったら、休む間もなく強制召集かけられて、そのままあの激戦に放り込まれたあたしの気持ちが!! あれくらいのウサ晴らし──じゃなかった、気晴らしは可愛いものでしょ!?」

「どこが可愛いよ! アンタって()は、本当に昔っからお転婆気質は変わらないんだからああぁぁぁ!!」

 

 などと言い合いながら、白繍姉妹は走り回る。

 支配人室の前をあっという間に駆け抜け、二階へ上がる階段を駆け上がると即座に右折、大神の部屋の前を通ってサロンへ抜け、そこからホールへと向かい、また一階へと駆け下りる。さらに売店を横目にまた事務局の方へと戻り──

 

「あ!!」

 

 なずなが救世主を見つけてそこへと全速力へ駆け出す。

 その後ろを猛追するせりだったが──

 

「ウメ隊長! 助けて!!」

 

 ──と、なずなが食堂付近を歩いていた梅里を見つけてその背後に回り込んだので、せりは急制動をかけて、その目の前で止まった。

 

「っと! どうしたんだい、なずなちゃん。それに──せりも。そんなに息を切らせて……」

 

 全力疾走の結果、乙女としてはどうかと思う「ぜ~は~」と激しく呼吸するせりを目の前に、戸惑う梅里。

 そんな彼を目の前にして──本当のことを言うわけにも、それを理由になずなを糾弾するわけにもいかず……

 

(なずな、後で覚えておきなさいよ!)

(べ~! なんかしたら母さんやウメ隊長に言いつけるからね)

 

 梅里を真ん中に挟んで、姉妹はアイコンタクトで喧嘩をするのであった。

 

 

 ──そして、山形城跡を経ち、いよいよ宿泊先へと向かう二人……

 

 その温泉旅館では豊かな山の幸に恵まれた山形特産の料理や、かの義光公が愛してやまなかったという鮭料理に舌鼓を打つ。

 それを絶賛する梅里に、せりは──「まあ、豊かな庄内平野とか日本海の海の幸には負けるけど……」と言って負けん気を発揮する。

 そうして食事を終え──せりは今、温泉に入って身を清めていた。

 ……普通に入浴しただけだが、せりの気分的には水垢離に等しい。

 その露天の温泉の情景は素晴らしいものだったが、東北の春先の夜はまだ寒く──温泉で火照った肌を冷ますのにはちょうど良かった。

 そして考えを巡らせる。

 

(梅里は、もうあがったころかしら……)

 

 男よりも女の方がどうしても長湯になる。

 二人一緒に温泉へと向かったのだから、自然とせりの方が後になるだろうとは思っていた。

 

(さっきの料理も……母さんが、予約したときに手を回したのね。まったく……)

 

 夕飯に出た山の幸の中には、山芋や(スッポン)(うなぎ)といったあからさまな“精の付くもの”が入った料理が多数入っており、その意図に気が付いているせりにとっては、梅里が気が付くんじゃないかと気が気ではなかった。

 こうして温泉に入った体を冷ましているのに顔が赤くなっているのも、それを思い出しているせいというのもあった。

 一方、その梅里と言えば、そんな料理を「美味しい、美味しい」と、無邪気なまでに嬉しそうに食べるので、せりとしてはどこか騙しているようで気まずいところもある。

 だが、思えばそれは母からの気持ちであり、せりを応援しようという気持ちに嘘偽りはないのだろう。

 だからこそ、決心する。

 

(うん……梅里と私は…………)

 

 結ばれる、そう思うと顔は赤くなるが──決してイヤなわけでは、絶対にない。

 むしろそれを望んでいるのだが──やはり恥ずかしさはある。

 

「えい! 女は度胸と愛嬌よ!!」

 

 せりはそう言って湯から立ち上がると、その勢いのままに部屋へと戻り、隣の──梅里の部屋へ赴いた。

 

 しかしその勢いが残っていたのは、彼の部屋の前までであった。

 後で行くからと言っていたので、部屋の入口に鍵がかかっていなかった。

 しかしその扉を開けるときには、すでに緊張でギクシャクしたような動きになっており、つい抜き足差し足で、そっと部屋へと進入する。

 

 ──もちろん、これからすることを考えて、そっと入口の鍵を閉めた。

 

 そして、部屋の引き戸の手前で──せりは足を止めた。

 

「──あの、梅里?」

「ん~?」

 

 なんとも弛緩しきったような返事が返ってきた。おいしい料理を食べ、温泉に入ってすっかり気が抜けているように思える。

 ともあれ返事があったことで、彼がまだ戻ってきていないという可能性はなくなった。

 せりの心臓がドキンと大きく跳ね、思わず胸に手を当てる。

 

「あ、あのね……ちょっとお願いしたいことがあるんだけど…………」

「う、ん……」

 

 相変わらず気の抜けたような相づち。

 それにせりは「まったく、人の気も知らないで」と少しカチンと来るのだが、梅里にせりの決意を察しろというのは、あまりに酷な状況である。

 だが、そのせりのほんの少しばかり生まれた怒気が──せりの勇気を奮い立たせる。

 意を決して立ち上がり──せりは浴衣を脱ぐ。

 衣擦れの音が思いの外に大きく部屋に響き──せりは一糸まとわぬ姿となった。

 

「~~~~ッ!!」

 

 恥ずかしい。

 もちろん恥ずかしいが──それでも、梅里と結ばれたい。

 自分の生まれたままの姿を見て欲しい、そう思い──せりは意を決して戸の(ふすま)を開ける。

 

「梅里──」

 

 ──と、声をかけたせりは…………固まっていた。

 そこには──

 

「…………っ …………っ …………っ ……ん~」

 

 規則的な寝息を立てている梅里が横になっていた。

 御丁寧なまでにきれいな大の字になり、見事な鼻提灯を膨らませる姿が幻視できるほどに熟睡している。

 先ほどの返事は──せりの声という音に反応して、ただ梅里が声を出しただけのようだ。

 

「……………………………………うぅ~~~ッ!!」

 

 やり場のない怒りを感じる、真っ裸のせり。

「……こんな、ことって……恥ずかしいのを我慢して、こんな思いまでしたのに~~」

 

 気持ちよさそうに眠る梅里の寝顔を恨めしく睨むせり。

 梅里の名誉のために言うと──最終決戦で激しく霊力を消耗し、さらには霊力中枢に負担をかけた梅里の体は、本人が考える以上に身体も霊体も根本から疲れ切っていた。

 その疲れはなかなか癒えることなく、この数ヶ月を過ごし──今日になってやっと温泉で身を癒し、それだけでなく“精の付く食べ物”をたくさん食べることによって気力が充実し、霊体にも活力が満たされたのである。

 それによって梅里の体は、霊体を癒そうと休息を欲し──温泉によってポカポカに暖められた体の作用もあって、ぐっすりと眠りこけていたのである。

 もちろん、そんなことが梅里の体の中で起きていたなど知る由もないせりは──

 

「ホンットにもう、乙女に恥をかかせて……」

 

 などと恨みがましく見て、その拳を振り下ろそうと──したのだが、あまりに幸せそうな、安心しきった梅里の寝顔を見て、思わず笑みがこぼれた。

 

「……思えば、一生懸命頑張ったものね」

 

 ほぼ一年前から始まった黒鬼会との戦い。

 その中で、せりが彼を傷つけてしまったことがあった。

 それで彼は生死の境をさまよった。

 自分が嫉妬に狂いそうになる中、それを助けてくれたのも彼だった。

 せりが人質になって操られたとき、彼は身を挺して助けてくれて体の中から闇を祓ってくれた。

 そして超巨大魔操機兵を相手に、無理をして複座式の霊子甲冑で立ち向かい──

 あの悪夢を思い起こさせた巨大降魔兵器を──今度は、その命を失うことなく討滅した。

 それらはすべて、せりにとってはかけがえのない、大切な思い出である。

 

「……普段はちょっと頼りなくて、調理くらいしか取り柄がないのに…………いざっていうときには、あんなにカッコいいんだもの、ズルいわよ」

 

 寝ている彼の胸にそっと手を当て、そしてその体に自分の体を添わせた。

 思わず胸に当てているのを手から自分の頬へと変え、その温もりをより近くに感じようとする。

 聞こえてくる心音は、穏やかで──でも力強くて……何よりも安心感を与えてくれる。

 

「おやすみなさい、梅里……」

 

 せりもまた眠気に襲われる。

 そのまま添い寝するような姿勢のまま、寒さを感じないようにとかろうじて布団を掛け──せりは安心しきったまま、眠りに落ちていった。

 

 

 ──翌朝。

 

 ほぼ同時に目覚めたせりと梅里。

 浴衣がはだけかかった梅里の驚きの声と、全裸のせりの悲鳴という…………二つの叫び声が静かな温泉旅館に響きわたった。

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

~かずらエンディング~

 

 

 帝都の桜の名所の一つ、上野公園ではその桜が見頃を迎えていた。

 夜は桜の下で宴会を行う花見客で混雑するが、昼間も昼間でもちろん混雑する。

 そんな中で、その一角は、まさに別世界と化しており──見る者の心を掴み、感嘆と驚きのため息をつかせ、その幻想的な光景で魅了していた。

 

 麗らかな春の日差しが注ぎ、桜吹雪が舞う中で──娘はバイオリンを奏でていた。

 その服装は、帝国華撃団・夢組の戦闘服。

 女性用のそれは肩の下あたりには金属製の接続用の端子がある以外は、ほとんど巫女服のようである。

 その戦闘服だが、幹部の物はそれぞれ個人識別と存在を示して志気を鼓舞するために、それぞれ違う色に染められている。

 女性用の場合、上衣は変わらないが袴の色が違う。そして彼女の袴は、くすんだ黄緑色──萌木色。調査班副頭という立場にいる彼女は夢組の幹部なのである。

 その袴の色は、桜吹雪のピンクに埋もれることなく、しかし過度な主張をするわけでもなく、とてもマッチした色合いであった。

 

 そして、その桜吹雪は──流れる調べに合わせて舞うかのように、周囲をひらりはらりと舞っている。

 その中心には、ふわふわの髪を三つ編みにまとめた見目麗しい少女が、目を伏せ、一心不乱にバイオリンを奏でている。

 

 そのような光景は、花見に来て宴会をしようとしていた者や、すでに始めてできあがっている酔っぱらいさえも、呆けたように唖然とし、食い入るようにその光景を見ていた。

 やがてクライマックスに至るその楽調に合わせて、桜吹雪は彼女を中心に渦を巻き──そして、集まった花びらを一気に撒くように、パッと穏やかに散る。

 そうして演奏が終わると──どこからともなく始まった拍手の手は、やがて聞いていた者達が心を一つにして、喝采となり──それを聞いて中心にいた少女はペコリと頭を下げるのであった。

 

「ヒドいですよ、梅里さん……なかなか助けに来てくれないんですから」

 

 聴衆のアンコールに何度か応えた後、どうにかその輪から逃げ出すことができた彼女は抱くようにバイオリンを持ちながら不満げに頬を膨らませていた。

 

「ごめんよ、かずら。さすがにあの状況で連れ出していたら、観衆から袋叩きにされていたから……」

 

 そう言って苦笑混じりに頬を掻くのは、狩衣風の夢組戦闘服──それも幹部を示す独自色は金の装飾に白色のもの──を身にまとった、夢組隊長の武相 梅里だった。

 二人は上野公園の桜並木の中を歩いていた。

 今日は、その服装からも明らかなように夢組の調査任務──で、ここへ来ていたのだが実際のところは違う。

 混乱がようやく収まりつつある帝都は、今はそれを乱すような、帝国華撃団と敵対するような組織の暗躍はなく、調査と言っても異常がないのを確認する──本来なら隊長の梅里はもちろん、かずらのような幹部が出てくるような調査任務ではない。

 それでも二人が出てきたのは、かずらの謀略であり──任務と称したデートであった。

 

「──それくらい凄い演奏だったよ。また腕を上げたね、かずら」

「はい。もちろんです。それに、梅里さんが聴いてると思ったから、余計に頑張っちゃいましたから」

 

 笑みを浮かべて答えるかずらに、梅里も目を細める。

 さっきのは彼女の特殊技能でもある「演奏に霊力を込める」という力で、意のままに桜吹雪を操って、見事な演出をしたのである。

 しかも本来の目的であった、広域の霊力調査のついでに、だ。

 演奏技術も霊力を使う技術も、また一段と成長していたのだ。

 

「今度のコンクールも優勝して、また欧州に行きますから……そのときはまた一緒に行きましょうね、梅里さん♪」

 

 並んで歩いていた二人だったが、かずらが梅里の手を抱くように掴む。

 去年のコンクールは、黒鬼会の活動が激しいという外的要因から、また梅里が大怪我したり、せりの様子がおかしかったりして精神的な負担がかかったという、かずら自身の内的要因もあって、他の人に譲るところがあった。

 だが、黒鬼会もその首謀者である京極も倒れ──なんの憂いもなく参加できるのであれば、その優勝はかずらがもらったようなものだろう。

 

「あ……うん、まぁ…………」

 

 楽しそうなかずらとは対照的に、梅里は言葉を濁す。

 前回、かずらの欧州でのコンクールに付き合って渡欧したのは、あくまで欧州での賢人会議に参加するのが主目的だった。

 そういう理由でもなければ、梅里が帝都を離れるのは難しいだろう。

 

「また、巴里にいきましょうよ、梅里さん。そこで留学してる大神さんにお会いするのも面白いかもしれませんし」

 

 だが、梅里はそれに渋い顔をする。

 

「えぇ~、なんか厄介ごとに巻き込まれそうじゃない? そこは……」

 

 そう言って苦笑いを浮かべた梅里は、巴里にはあまり寄りつきたくない様子だった。

 これから大神や巴里華撃団を待ち受けるパリシィ事件を、それとなく察知している辺りは、さすが夢組隊長──といったところだが、残念ながらこの時点でそれが起こることを誰も知らない。

 

「それに、せりが絶対に許さないでしょ? この前の時も渋々許したような感じで、おまけに強行軍を強制されたし……」

 

 シベリア鉄道での旅も最初のうちは一日中鉄道に乗りっぱなしというのに、帝都と水戸が一日もかからず慣れていないのと、初めての国ということに新鮮味を感じたが、数日ですぐに飽き、やることもなく──非常に退屈だった。

 それを思い出したのか、うんざりしたような表情になった梅里を見て、かずらは苦笑を浮かべ──

 

「──じゃあ、せりさんも連れて行けばいいじゃないですか」

 

 そうかずらが言ったので、驚いた梅里は思わずかずらの顔をのぞき込んでしまった。

 それに気がつかないのか、かずらはさらに続ける。

 

「あと反対しそうなしのぶさんも連れて、四人で行きましょう。そうすれば誰も文句を言いませんし、車内……船でもいいですけど、どちらもきっと退屈しませんよ?」

 

 笑顔でそう言った彼女を、梅里はジッと見つめ──その視線に困惑したかずらは、思わず目を(しばたた)かせた。

 

「あの……どうかしました?」

「いや、こっちこそ訊きたいんだけど……どうかしたの?」

 

 梅里が問い返すと、かずらは苦笑気味に答える。

 

「だって、あのときは巴里にいたのなんて一日か二日くらいだったじゃないですか。その後はすぐに帰路について……せっかく欧州まで行くんですから、もっとゆっくりしたいな、と思いまして……」

 

 ゆっくりさせてくれないのなら、その原因となる人も連れていってしまえばいい、かずらはそう言って悪戯っぽく笑う。

 

「もし梅里さんが巴里がイヤなら、羅馬(ローマ)とか伯林(ベルリン)とか……それか、倫敦(ロンドン)とか…………」

 

 ためらいがちに、最後にその都市の名を挙げた。

 やはり意外だった。

 梅里は、かずらのことだからその都市だけは絶対に訪問候補に並べることはないと思っていた。

 なぜなら──そこはカーシャが帰る都市なのだから。

 それが顔に出ていたのか、かずらは梅里の顔を再び困惑した様子で見ている。

 

「またそんな表情をして……本当に、どうしたんですか? 梅里さん……」

 

 尋ねてくるかずらに、梅里は思ったことを素直にぶつけた。

 

「意外だと思ってね」

「意外、ですか?」

 

 小首を傾げるかずら。

 

「ああ。いつも他の人を出し抜こうとするかずらが、せりやしのぶさんを連れて、しかもカーシャのいる街に行こうだなんて。まるで敵に塩を送るようなことを言うとは思わなかったから」

「……梅里さんって、私のことそう思っていたんですか?」

 

 かずらはジト目になり、不満そうに頬を膨らませる。

 だが、その表情をフッと自嘲気味の苦笑に変える。

 

「でも……確かに、そう思いますよね。私も、せりさんもしのぶさんも恋路を邪魔するお邪魔虫、って思ってましたから……」

「かずら?」

 

 梅里から視線を外し、頭上の花溢れる桜の枝を──その先の虚空を見つめ、遠い目をするかずら。

 

「でも……そうじゃないって、最近思い知りました」

 

 ポツリと言った彼女の顔は、ひどく寂しげであった。

 その表情のまま、梅里を振り返る。

 

「私、今の帝劇での生活が好きです。梅里さんがいて、せりさんやしのぶさん、夢組の食堂のみんながいて……楽団のみんな、花組のみなさんや事務局のかすみさんと由里さん、それに椿……そして、米田支配人……」

 

 それは梅里が来てから──かずらは三年前のことを思い出し、懐かしくさえ思っていた。

 

「それから、去年になってカーシャさんや柊ちゃん、舞さん。花組のレニさんや仲良くなった織姫さん、それにかえでさんが加わって、ますます賑やかになって……こんな楽しい日々がいつまでも続く、そう思っていたんです」

 

 さらには大神とさくらが連れてきた白い子犬を思いだし、かずらはそれを愛おしむように微笑んだ。

 

「でも……カーシャさんが、コーネルさんと一緒に華撃団から去るって聞いて、そうじゃないんだな、って……当たり前ですけど、みんながいる毎日が、いつまでも続くわけじゃないって気がついて…………」

 

 そう言ったかずらの表情から笑みが消えていた。

 かずらが夢組の正式な隊員となって帝劇本部に配属になってから、帝劇を去った者がいないわけではない。

 例えば──藤枝あやめ。

 彼女は上位降魔・殺女(あやめ)となって帝劇からいなくなったが、それでもその本質は普段のあやめだと思っていたし、彼女が去ったのが寂しくないわけではなかった。

 しかし、それは──華撃団としての戦いの一部として、あやめが戦いの中で消えていったという認識だった。

 いわば戦闘の結果であり、悲しみこそしても、それをきちんと受け止め、頭の中で整理がついていた。

 また、もう一人──影山サキについては最初から敵のスパイとして潜り込んできたものであり、かずらの意識の範疇にさえなかった。

 しかし、カーシャとコーネルが去るのは突然のことだった。それに驚いたというのもある。

 戦いに敗北したわけでも、戦いの中で命を落としたり、華撃団にいられないほどの負傷をしたわけでもなく──かずらは、帝都を無事に守り抜いたのに二人がいなくなるという状況に困惑したのだ。

 そんな二人の退団がきっかけとなり、この世界が永遠に不変ではなく、まるでお祭りのようなこの楽しい日々が永遠にいつまでも続くわけではないことに、あらためて気がつかされたのだ。

 

「私、梅里さんとの毎日は本当に楽しいです。でも同時に……せりさんやしのぶさん、カーシャさんが邪魔なわけじゃないって、あの人達と梅里さんを取り合うのも含めて、楽しかったんだって──今になって、カーシャさんがいなくなる今になってやっと、分かったんです」

 

 うつむき、目を伏せるかずら。

 ついにはその目からは涙があふれ出す。

 そんなかずらを──梅里は抱き寄せた。

 一瞬驚いた様子だったかずらだが、顔を梅里の胸に埋め──感情を爆発させた。

 

「なんで! なんでお二人はいなくなっちゃうんですか!? 私たち、勝ったはずじゃないですか!! この帝都を……私たちの世界を守るために戦って、そして勝ったはずなのに──」

 

 守り抜いたはずの世界から、カーシャとコーネルが抜ける。

 戦って勝ったのだから、御褒美として仲間が増えるのならともかく、逆に仲間が減ってしまうのでは、まるで罰のようではないか、と思っていた。

 

「怖いんです。今の帝劇が……華撃団が、夢組が……このまま人がいなくなっていくんじゃないかって、私たちが守ったはずの世界が、崩れていくんじゃないかって……」

 

 梅里の胸に顔をあて、かずらの慟哭は続く。

 

「だから、せりさんやしのぶさんも──いなくなっちゃうんじゃないかって……ううん、違います。いつかはきっと二人も……いなくなっちゃう。私の前から…………」

 

 今はこうして帝国華撃団夢組の仲間としてかずらと同じ道を歩むせりとしのぶも、いつかは必ず別れがくる。

 それが、カーシャのように二人が先に退団するのか、それともかずらの方が先に退団するのかはわからない。

 だが──いつかはわからなくとも、いずれかは訪れることになる未来である。

 はたまた──帝国華撃団が軍である以上は十分に考えられる状況として──かずら側か、せりとしのぶ側か、どちらかの“死”ということも十分にあり得るのだ。

 その考えにいたって、かずらの腕に力がこもり、梅里をギュッと抱きしめる。

 それに気がついた梅里も、彼女がその考えに至ったのを察し──

 

「かずら……だから今を大事にしようと、せりやしのぶさんにも気を使ったんだね……」

 

 その頭を優しくなでる。

 ふわふわと柔らかな彼女の髪の感触は、なでた右手に心地よい感触を伝えてくる。

 彼女を落ち着かせるために、そしてその感触を忘れぬように、梅里は何度もその頭を撫でた。

 そしてかずらは──

 

「梅里さんは──私の前から、いなくなったりしませんよね?」

 

 少しだけ気持ちが落ち着いた彼女は顔を上げ、彼を見上げながら尋ねる。

 すると──

 

「……もちろんだよ、かずら」

 

 彼女の大好きな、優しい笑みを浮かべて頷いた。

 思わず感極まり、その視界がにじむ。

 それが絶対のことではないのは、彼女が一番よくわかっていた。

 二年前に心配停止となり、医師の大関ヨモギが死亡判定を出したあのときのことを思い出したからだ。

 それにこの前の戦いでも、倒れ込んだ梅里を死んでしまったのだと思いこんでせりと共に泣いてしまったし──鬼王の襲撃、“人形師”からの奇襲と、この一年で梅里は何度も命の危機に遭っている。

 それを考えれば、いなくならないなんて保障はまったくない。

 しかしそれでも──「もちろん」と言う彼の優しさにかずらは、流れゆく世界の中で楽しいと思えるこの一秒、一瞬こそが大切な宝なのだと思い知る。

 そして、目一杯に延ばした手を梅里の首の後ろに回して──彼に身を寄せ、その唇を合わせた。

 

 ──そのときに吹いた一陣の風により、桜吹雪がそんな二人の姿を隠すように舞いあがった。

 

 

 


◆  ◇  ◆  ◇  ◆

~カーシャエンディング~

 

 港には出航を待つ船が停泊してた。

 その周辺には、この時期独特の景色──淡いピンク一色で染まった木々から、まるでこぼれ落ちるように花びらが舞っている。

 そんな風景を──アカシア=トワイライトは見て、思わず目を細めた。

 彼女が幼いころに心打たれた風景画そのものの世界──いや、平面である絵画では限界のある表現しきれない、現実という圧倒的な臨場感に、カーシャはただただ感激するのみだった。

 

「──ウメサト、やっぱりアタシ……日本に来て良かったわ」

 

 そんな彼女の傍らには、彼女の最愛の人が寄り添うように立っていた。

 その腕をしっかりとつかんで胸に抱き、彼に体重を預けるようにする。

 自分の体をしっかりと受け止め、支えてくれる──まるでその名にある樹木のように。

 その感触が、安心感がたまらなく心地よく……カーシャの心を揺さぶる。

 ここに──この国に──あの街に──帝都に、居続けたい。

 そんな思いに負けそうになりながら──その思いを二週間も保たないその花が咲く光景に重ね、儚い夢と割り切る。

 それが彼女に今できる、精一杯の努力だった。

 

「最後に、一つだけ……正直に答えてくれないかな、カーシャ」

 

 無言で寄り添っていた二人だったが、梅里がついに口を開いた。

 

「……なにかしら? ウメサト」

 

 桜吹雪を見つめていたカーシャが、抱いた彼の腕はそのままに、見上げるようにして梅里に尋ねる。

 

「どうして、日本を去ろうと思ったんだい?」

 

 梅里はそれが疑問だった。

 あの最後の戦いの前まで、カーシャは華撃団に居続ける気だったと思っている。少なくとも当時の彼女から日本を去ろうとする様子は感じられなかった。

 なにより負けん気の強い彼女のことだ。もしも今の状態で日本を去れば──端から見ている者からは、彼女が日本から逃げ帰ったと思われかねない。

 きっとそれは、彼女にとって我慢ならないことに他ならないだろう。

 

「……ヨウザン──“人形師”のせいよ」

 

 幸徳井 耀山という本名よりも、同じ組織にいて慣れ親しんだ“人形師”というもう一つの呼び名で、カーシャは彼を呼んだ。

 

「彼の、せい?」

「ええ……あの人が見たという未来。それがアタシには気になって仕方がなかったの」

 

 彼が見たという、この国の都市が地獄と化す光景。

 世界を巻き込んだ大戦に敗北するという未来。

 まるでこの国が無くなってしまうかのような、彼の言葉をにわかに信じることはできなかった。

 できなかったが──もし、本当だったら?

 そのわずかな可能性が発芽し、大きく育ち、この国に滅びが訪れるとしたら──カーシャの背中に冷たいものが走っていた。

 

「ウメサト……アタシはこの国が好きよ」

 

 一年間でほんの短い期間しか見ることができないこの幻想的な景色──幼いころからのあこがれだったこの風景をしっかりとその目に焼き付けた今になってはなおさらだ。

 この一年を通じた戦いを異なる二つの陣営から見たカーシャは、この国で生きる人達の強さを知った。

 そしてなによりも──この胸の中にある、なによりも大切な人。それを失いたくない。守りたい。

 

「あの人が予知した未来が訪れるなんて、アタシは思っていない。なぜなら帝国華撃団があるから──」

 

 敵として戦ったことがあるからこそ分かるその強さ。

 それは武力的なものだけではない。決して諦めない、目標に向かって突き進む強さは不可能を可能にするものだ。

 

「それがあれば、きっと不幸な未来になんてならない。アタシはそう思ってる。でも……」

 

 もし、万が一にでも──予知した未来が現実のものとなってしまったら。

 それを回避する要因が、華撃団やこの国ではなく、もし他所(よそ)にあったのだとしたら──帝国華撃団の手には届かないところにあったのだとしたら、この国だけでは不幸を回避することはできない。

 

「もしその不幸を回避するのに他国からの手助けが不可欠だったら、気がついたときには手遅れだったら、取り返しがつかないことになる。それにたとえ回避できなかったとしても、あらかじめ備えていれば少しでも多くの人を国外から助けることができるかもしれない……」

 

 全員とはいかなくとも、彼女が守りたいと思う人達だけでも、助けることができれば──

 

「──その環境を整えることが、アタシにならできるはず」

 

 国は違っても、華撃団というつながりがあれば、それはきっと可能になるだろう。

 そのためにも英国に華撃団をつくることこそ、自分の使命だ。

 

「ううん、今はアタシにしか、できないと思ってる」

 

 カーシャが関わらなくとも、華撃団はいずれ設立されるかもしれない。

 でもこの国を救うためには、帝国華撃団と確固たるつながりを持った者が英国の華撃団にいなければならない。

 それができるのは、英国貴族としての地位と財産を持ち、霊子甲冑で戦えるだけの霊力と戦闘力を持つ、そして帝国華撃団に在籍経験があり──その夢組隊長を愛するカーシャだけだろう。

 

「……そっか。確かにそれはカーシャにしかできない、役目だね」

 

 梅里の言葉にカーシャはもう一度、胸の中の腕を強く抱きしめる。

 

(この腕を……離したくない)

 

 それは乙女として当然の感情だ。

 愛するものと共にいたい。同じ時を過ごし、同じものを見たい。

 だがそれでは、彼と共に過ごすその未来さえも闇に閉ざす結果となりかねない。

 しかしそれは──なによりも耐え難い結末だった。

 

「アナタと離れるのは……辛い。まるで半身が引き裂かれるかのようだわ」

 

 だが、不幸な結末(バッドエンド)を迎えるくらいなら、その痛みを受け入れる。

 損して得とれ、とは商売人の中ではよく言われる言葉であり、貴族ながら植民地経営でその地位を延ばしたトワイライト家は商売人といっても過言ではない。

 

「でも……それは、永遠の別れじゃないわ、ウメサト──」

 

 そのトワイライト家の者として──カーシャは梅里との未来という最大級の得のために、今この手を離すという耐え難い損を選ぶしかなかったのだ。

 

「ああ、僕たちの未来はきっと……」

「そう、再びつながるわ」

「うん。いつかきっと、どこかで──そして、でも間違いなく……」

 

 なぜならカーシャは梅里を想い、見つめ続け──梅里もまたカーシャを想い、見続けるのだから。

 たとえ一時、離れようとも再びつながるその日のために──カーシャは倫敦へ

 

「あら、ウメサト。アタシはその“いつかきっと、どこかで”を待つつもりはないわよ」

 

 そう言って彼女は自身たっぷりな勝ち気な笑みを──その目に涙を湛えながら──浮かべる。

 

「今回は、アタシが乗ろうとした船にたまたまアナタも先に乗っていただけ……でもアタシは、アタシがつくりあげた船でアナタを迎えにくるわ。アナタにふさわしい、アナタにしか座れない座席を用意して、ね」

 

 ビシッと梅里を指さすカーシャ。

 

「それまで……覚悟して待ってなさい!」

 

 それを受けて梅里は──

 

「うん、きっと待ってるよ。カーシャ……」

 

 そう言って浮かべた彼の笑顔に堪えきれなくなり──

 カーシャは思わず飛びついていた。

 二人がクルクルと回る中、汽笛の音が響きわたり──いつしか、回転の止まった二人の影は一つになり、梅里は重なり合ったカーシャの唇から自分のそれを離すのであった。

 

 

 

『サクラ大戦2外伝 ~ゆめまぼろしのごとくなり2~』 了

 

 

 





【よもやま話】

 前回やったので今回もやらないと、というわけで頑張りました。
 ちなみに今回の書いた順番はカーシャ→かずら→しのぶ→せり。
 今回はサクラ大戦にちなみ、全部、桜の花がシーンに入ってます。そういう時期の話です。

~しのぶED~
 王道ルートなエンディング。今回の「2」で耀山のエピソードが後半の軸に入ったおかげで、ようやくメインヒロインっぽくできました。

~せりED~
 梅里の母親とせりの母親を会わせれば、本人たちのためらいとか全く関係なく、すんなり縁談が進むような気がするのですが。
 ちなみに私は山形県が大好きです。

~かずらED~
 一番ネタに困ったかずらでしたが、意外と書けました。
 しのぶと互角くらいの長さですし。
 かずらなりにいろいろ考えてます、という予想外にシリアスなエンディングに。

~カーシャ~
 一番先に書いたキャラの悲しい宿命で、もっとも短くなるというのは避けられませんでした。
 ……もともとは他の3人もこれくらいの長さにするつもりだったのですけどね。他が長くなっただけです。
 意味合い的には、次作以降につながる、じつは一番意味のあるEDだったりするのですが。







─次作予告─

ティーラ:
 ……あら? 最終話なのになぜこの場所があるのでしょうか?

ローラ:
 それは! これが次回ではなく、次作の予告だからだッ!!

ティーラ:
 ──ッ!? だ、誰ですか? あなたは……

ローラ:
 フッフッフ……名探偵ローラこと、ローレル=クレセントとはボクのことだ。以後お見知り置きたまえ!!
 そして次作では、『見通す魔女』たる貴方に代わり、名探偵であるボクが、次話に起こる事件(こと)を華麗に推理しつつ、次回予告を担当してあげよう、というわけだ。

ティーラ:
 はぁ……確かに次作の舞台は巴里ですからね──

ローラ:
 その通り! 安心して休んでいてくれたまえ!
 そして、賢明なる読者諸君。このボクが、次作について少々紹介させてもらおう。
 物語の舞台は、先ほどそこの新婚新妻占い師が言ったように、欧州はフランスの巴里(パリ)
 時期はパリシィ事件の最後を飾ったオーク巨樹騒動から間もない、帝国華撃団の大神一郎氏が巴里を去った直後から始まる。
 彼の後任としてやってきた日本からの娘と、とある青年の出会いから始まるストーリーは山を越え、海を越え、そして遙かなる──っと、これ以上はまだ秘密だったね。
 ともあれその巴里を舞台に繰り広げられる、(ラブ)! (アンド)! 喜劇(コメディ)ッ!!

ティーラ:
 ……そこは恋物語(ロマンス)じゃないんですか?
 それに、それだとラブコメ……

ローラ:
 うむ! あの新人隊員にそれを期待したらダメだと推理できたのでね!
 そんな巴里華撃団の新人隊員達の活躍を描く──

『サクラ大戦3外伝 ~絶海より愛を込めて~』


 ──乞うご期待!!

ティーラ:
 代わりの次回予告、ありがとうございました。
 それにしても、随分と活発な少年探偵さんですね。

ローラ:
 なっ!? ま、まったく失礼きわまりないな……ボクは女性だぞ!!

ティーラ:
 え? あ、失礼しました……背も低いし胸がないので男の子かと

ローラ:
 ぬわアアアアァァァァァァァァッ!! 言ってはいけないことを!!
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