サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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【目次】
  ・─1──2──3─




【第5話 後半】 ~ルート差分~

 

────1────

 

 

 年が明け、太正15年1月3日のこと──

 

 朝、目を覚ました梅里はそっとため息をついた。

 年が明けてすぐの元日に、梅里をはじめとした食堂メンバーは仕事始めを済ませていた。

 大帝国劇場に住み込んでいる花組の食事を作る必要があるためだった。

 黒鬼会の脅威が去った今、彼女たちはほとんどは実家なり、縁のあるところへの挨拶等で1日の午後からには出かけるような状況だった。

 ようは、一昨年のような、みんな帝都に残るのでお節料理として三が日用の食事を作り置きしておく必要がなかったのだ。

 そんな事情から、全員が揃っているうちに新年会のように、新年の祝いをやってしまおうとなったらしい。

 そしてその準備をする厨房メンバーを擁する夢組もまた、どうせなら──と厨房以外の食堂メンバーはもちろん本部勤務以外の夢組幹部も集まって、元日に仕事始めどころか、新年会まで済ませてしまっていた。

 そういう事情で、元日の午後になってようやく正月休みとなったのだが──梅里がすんなりと帰れるわけもなく──初詣を体験したいというカーシャに捕まり、しのぶ・せり・かずらがそれに乗っかり、そのメンバーで明治神宮へと初詣にいくことになった。

 

「それは別にいいんだけど……」

 

 そこまでは、梅里もある意味覚悟していた。

 正月に皆で集まったのだから、初詣に行こうという話になるのは自然の流れでもある。

 

 ──予想外だったのは翌日である。

 

 きちんとした休みに入った2日は、梅里はゆっくり過ごすつもりだった。お節料理も準備してあったし、出かけるつもりもなかった。

 だが、早朝から来客があった。伊吹かずらである。

 満面の笑みを浮かべた彼女を、追い返すこともできず──迎えてしまった彼の下へ、まもなくカーシャがやってきて、それに雑煮の準備をしたせりが続く。

 陰陽寮の新年行事があるというしのぶが来なかったのが幸いで──三人は長々と、日が沈むまでキッチリと滞在していった。

 

 ──もちろん、ゆっくりできるはずがなかった。

 

 そんな日が明けて朝になり──梅里は恨めしげに新しくなったカレンダーを見つめる。

 4日は、それこそ仕事始めである。休みは残すところ今日一日だ。

 

「今日だけは、ゆっくりしたいんだけど……」

 

 昨日、かずらがやってきた時間まではまだある。

 そして今日もやって来ないという確証はまったくない。

 

「……ちょっとの間、出かけるか…………」

 

 腕を組んで「ふむ」とつぶやいた梅里は、とある策を思いついた。

 それは、誰かがやってくる前に出かけてしまい、昼前に帰ってこようというものだ。

 そうすれば午前中にやってくるであろう彼女たちは、あきらめて帰るに違いないし、その後で戻ってゆっくりすれば──少なくとも今日の午後はのんびりできるはず。

 

「うん……これで行こう」

 

 少なくとも、なにも手を打たなければ昨日の二の舞になるのは間違いない。

 決意した梅里は、外出用の服装に着替え、そしていつもの濃紅梅の羽織に袖を通し──たところで、呼び鈴が鳴った。

 

 

「………………」

 

 

 思わずため息をつきかけるが……ふと気がつく。

 このまま応対に出なければ、結果的には同じことではないだろうか、と。

 俗に言う、“居留守”というヤツだ。

 少なくとも、今来ている人が玄関前から去るのを待って、それから外出しようと心に決め──再び呼び鈴が鳴る。

 思わず息をひそめる梅里。動きを止め、中に人がいる気配を消す。

 ついでに、心を静め──霊力を抑える。

 なにしろ相手は帝国華撃団夢組の幹部である。

 それも調査班所属の者もいる上に、今、玄関前にいるのが夢組内でもっとも霊感が強い白繍せりの可能性もある。

 たとえ音や気配を消しても、霊力を察知されて中にいるのがバレかねない。

 息をひそめ、動きを止めて、目を閉じ──気配を消し、音を消し、霊力を消す。

 そのうちに何度か呼び鈴が鳴り、梅里も「そろそろ諦めてくれないかな」と思ったころに──玄関の戸が揺れた。

 

「──ん?」

 

 留守宅の可能性を考えれば、戸を壊してまで入っては来ないだろうが、随分乱暴だな、と思っていると──なにやらガチャガチャと金属の音がして…………鍵が解除される。

 

「え──?」

 

 梅里が呆気にとられているうちに玄関が開き──入ってきた人の驚いたような顔と目が合った。

 

「っ!? え……? あ、あの……」

「か、かすみ……さん?」

 

 思わぬ対面に──てっきり夢組の誰かと思いこんでいた梅里は、完全に予想外なその人の姿に戸惑っていた。

 やってきていたのは、編んだ長い髪を体の前に垂らしている、風組所属の藤井かすみだった。

 一方、かすみはかすみで、これだけ呼び鈴を鳴らしても出てこないのだから、まだ寝ているか、あるいは出掛けてしまった──実家に帰省しないのは確認済み──のか、と考えていた。

 もし寝ていたのなら起こし、出掛けているのならそのまま帰ろうとおもったのである。

 とはいえ、梅里が驚いているのは、かすみが来たのが予想外だっただけではなく──

 

「……あの、かすみさん。いったいどうやって鍵を?」

 

 鍵を解除されたのが、完全に想定外だったからだ。

 それに驚きから立ち直ったかすみは、「え?」と戸惑い──

 

「この前……煉瓦亭に行った日に、梅里くんから渡されましたが?」

「………………あ」

 

 すっかり忘れていた梅里が、思い出して思わず声を出す。

 あの日、かすみの部屋まで行った梅里が、機嫌を直すためにアレやコレやと打った手の中に、自分の官舎の鍵を渡すというものがあった。

 それが決め手にはならなかったが、それでも多少は機嫌を持ち直したかすみ相手に、そこから半ば強引に────(自主規制)に及んで誤魔化したので、十分な結果は出せていたのである。

 それを思い出した梅里は、なるほどと納得する。

 だが──それで納得しない相手もいる。

 

「あけましておめでとうございます、梅里くん」

 

 遅ればせながら挨拶をして頭を下げるかすみ。

 見れば彼女は振り袖姿。

 普段、職場で一見すると和服のようで、よく見るとそうではない制服を着ている彼女の姿を見慣れている梅里には、和装にいつも通りな安心感と、振り袖という普段とは違う新鮮味という相反する二つの感想を抱いていた。

 

「あけましておめでとうございます、かすみさん。今年もよろしくお願いします」

 

 梅里も頭を下げてそう返しながら、去年の今頃はこういう関係になるとは予想だにしていなかったと思い返す。

 そんなことを考えながら顔を上げた梅里に、かすみはニッコリと微笑み──

 

 

「──さて、梅里くん。こんな朝から一体なにをしていたんですか?」

 

 

 彼女は返答に困る質問をストレートにぶつけてきた。

 

────2────

 

 かすみとの関係もすでに数ヶ月。

 そろそろ付き合い方も分かってきた梅里は、一枚も二枚も上なこの年上のカノジョ相手に、変に隠し事をしたところで隠しきれず、結果的に彼女の機嫌を損ねるだけということを理解しはじめていた。

 だから、彼は素直に昨日のこと──かずらとカーシャとせりがやってきて、ゆっくりできなかったこと──を説明した。

 そこまですれば、やましいことは何もなく、押しかけられた上に複数の人が来ていたという証明にもなり──言い訳として完璧である。梅里はそう考えたのだ。

 

「──というわけです」

 

 さらには今朝はその二の舞を踏まぬように、昼前まで出掛けて散策等をして時間をつぶして戻り、午後にはゆっくりしようと思っていたことまで話す。

 そうして前日の反省まで入れて、今朝の行動を説明して駄目を押す。

 

「なるほど。そういう事情でしたか……」

 

 それを聞いたかすみは、自分以外の女性がここにあがっていたことに思うところがないわけではなかったが、とりあえずは納得する。

 同時に、元日に仕事があるのは聞いていたので二日はゆっくりしたいだろうと遠慮したのが(あだ)になったのには後悔した。

 多少強引でも来て誘ってしまうべきだったと反省する。

 

「では、これから出掛けませんか?」

「それは構いませんよ。むしろ出掛けようとしていたんで好都合です。でも……どこにいきます?」

 

 そう問うた梅里だったが、かすみの服装を見れば目的は一目瞭然だった。

 しかし初詣が目的でも、行き先は数多(あまた)ある。

 この帝都に神社仏閣はそれこそ数え切れないほどあるし、その中でも有名どころも指折り数えなければならないほどだ。

 だからこそ、梅里は安心してもいたのだが──

 

「そうですね……まだ新しい帝都の初詣の名所、明治神宮はいかがですか?」

 

 そんな安心を裏切るように、かすみの選んだ場所がよりにもよって二日前と被ったのは完全に予想外だった。 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 そうしてやってきた明治神宮。

 やはりその人出は多く、今日も混雑していた。

 

「……でも、元日よりは少し減ったかな」

 

 元日にも来ていて、今年に三日目ですでに二度目というハイペースでここに来ている梅里はそんな感想を抱いた。

 とはいえ、それは多少といった塩梅に過ぎない。三が日であり、まだまだ溢れているこの人波には、梅里もさすがに閉口せざるをえなかった。

 

「梅里くん、元日の参拝もここだったんですか?」

「あ……」

 

 振り返り、見上げるようにしてのぞき込んできたかすみの反応に、梅里は自分の迂闊さを後悔した。

 困り、苦笑し、頬を掻く。

 そこまでしてしまってはもはや言い訳もきかない。梅里は素直に頷いた。

 

「ええ。実は……」

「それならそうと言ってくれれば……別の場所でもよかったんですよ?」

「でも、かすみさんはここが良かったんでしょう? 気にしないでください」

「……気にします。だって、せっかくの初詣なのに……他の人と同じだなんて…………」

 

 特別感がない、とかすみは不満に思う。

 そんな別の誰かと同じという扱いは──釈然としないし、我慢がならない。

 まして、初日の元日でさえない。二番煎じでは彼の印象に残らないではないか。

 すると、その彼──梅里が、人の気も知らずに笑顔を浮かべて言った。

 

「そんなことないですよ。今日のこの三日という日が、かすみさんが僕のことを思ってくれている証じゃないですか」

 

 元日の午後や二日に初詣に誘うこともできたのに、彼女がそれをしなかったのは元日の早朝から働く自分を気遣ってのことだと、梅里は思っている。

 事実、その通りであり──指摘されたかすみは少し驚きながらも、頬を赤く染めた。

 

「それは、そうですけど……」

 

 そう言って気恥ずかしげに目をそらす彼女を、梅里は相変わらずの笑顔で見つめていた。

 その「全部わかってますよ」感あふれる態度は、理解されているという点ではうれしいことだが、見透かされているという感じでは面白くはない。

 だからかすみは──少し意地悪をした。

 

「ところで梅里くん……元日は、誰と来たんですか?」

「……新年会に参加した、夢組幹部のみんなとですけど」

 

 こともなげに答える梅里。

 だが──

 

(答える前に、ちょっと間がありましたよね)

 

 そこにかすみは気がついてた。

 それはすなわち、迷いがあったということであり、素直に言うか誤魔化すかを迷ったことが推測される。

 そして梅里の答えは──玉虫色のハッキリしないものだった。

 例えばそれが、夢組幹部でも男メンバーだったら、彼は──「宗次と釿さん、それにロバート達と行きましたけど……」といった具合に、個人名まで出しているはずである。

 つまりは個人名を隠したわけで、それは後ろめたい気持ちがあるからこそだ。

 だとすれば──

 

(あの四人、ですね)

 

 かすみはピンときた。

 もしも夢組幹部の女性メンバーでも他の人たち──紅葉やヨモギ、舞、封印結界班副頭の女性(かすみは彼女の名前を憶えていなかった)──だったとしたら、それはそれで梅里はやはり個人名を出しているように思える。

 

(やっぱり、梅里くんにとってあの四人は意識している相手……)

 

 そう思いながら、かすみは自分が持っている彼の住居の鍵を意識する。

 これを渡されているということは、彼からのなによりの信頼を得ている証である。

 それに、渡された後のことも思いだし──肉体関係があることを考えても、他の四人よりも先んじているという自覚と自信はある。

 だがそれでも、常に梅里の近くにいて、明らかに想いを寄せているあの四人のことを考えると──それが梅里が意識しているのなら、なおさら──気が気ではなくなる。

 かすみは不満げに梅里をジッと見つめた。

 やはり、わずかにたじろぐような様子が見受けられる。

 

「具体的には、誰と誰ですか?」

「そ、それは…………」

 

 ふと目を逸らしてしまい、嘘をつけないところには好感が持てるのだが──

 ──すると、泳いでいた梅里の目が、ふと止まる。

 神宮の敷地の一角を、彼はジッと見つめていた。

 

「梅里くん? どうかしましたか?」

「いえ、あの場所……なにか気になると言いますか…………」

「……そう言って、誤魔化そうとしていませんか?」

 

 疑わしげにかすみが言うと、梅里は慌てて首を横に振る。

 

「い、いえ……そういうわけじゃなくて。あの場所に妙な結界……そう、人除けの結界が敷かれているみたいなんです」

 

 そう言って梅里が指し示した場所は──確かに、奇妙に人がいない。

 かすみも梅里に指摘されるまでは別に変とは思わなかったが、この人だかりなのに、その先には人がいないのだから、そのことに気がつけばかなりの違和感がある。

 

「どういうことでしょうか……」

「わかりません。こんな混雑している境内で人除けを行うなんて不自然です。それに人が無駄に滞留しているので、神宮側の行っていることとも思えなくて……」

 

 それが混雑解消に一役かっているのならまだわかるが、逆に余計に混雑させているくらいなのだ。

 そこを見る彼の目は──食堂主任でも、かすみの恋人である彼でもなく──帝国華撃団夢組隊長のそれであった。

 

「かすみさん、ちょっと見てくるのでここで待っててもらえませんか?」

 

 すでに参拝は済ませた後の、神宮の外へと向かう帰り道である。

 目的は果たしているし、それで梅里の気が晴れるのなら……と思ったかすみは──妙な胸騒ぎがしていた。

 もし仮に──かすみが梅里を止めて、それで彼が行かなかったら……と考えると、なぜか目の前が真っ暗になるほどの不安感を感じるのである。

 

(なにかしら、この感覚……)

 

 突然、襲われたその奇妙な感じに戸惑うかすみ。

 

 

 ──彼女自身知らないことだが、梅里との距離が縮まったことで、もともと人より強かった彼女の霊感は、彼の強い霊力の影響を受けて鋭敏になっていたのである。

 今回はそれが作用したのだが、その感覚に慣れず、また理解していない彼女には漠然とした不安という形でしか表現できなかった。

 

 

 だからこそ、その不安を解消させるためにも、かすみは梅里を行かせるべきだと思った。

 

「ええ、わかりました──」

 

 かすみはうなずいて彼の行動に賛同し──その腕を抱くようにギュッと掴む。

 それに戸惑い、梅里が驚いた顔でかすみの顔を見た。

 

「──ですから、私も行きます」

「そんな、危険かもしれないんですよ?」

「私だって華撃団の一員です。それくらいの覚悟はできていますから……」

 

 真剣な顔で答えたかすみだったが──先ほどからの彼女には上手く説明できない──勘のようなものが、彼女自身に告げていた。

 

(ここで彼を一人で行かせたら……一生後悔する)

 

 なぜかそんな思いが突然浮かび上がり、頭から消えない。

 確かに、鬼王からの襲撃の際にはかすみは梅里の足枷になってしまったという自覚はある。

 だが、それでも──彼と一緒に行かなくてはいけない、その強い思いだけはあった。

 かすみが腕を強く握ったのを感じた梅里も覚悟を決めたようで──

 

「じゃあ、お願いします」

 

 と言って、梅里自身が指示した人払いされている場所へと踏み込んだ。

 

 

────3────

 

 ──結果的には、かすみの予感は的中した。

 

 その先に待っていたのは、黒鬼会幹部の生き残りである“人形師”。

 本名を幸徳井(こうとくい) 耀山(ようざん)という彼は、元は陰陽寮に所属していた優れた陰陽師であり──彼は、かつてその許嫁であった夢組副隊長にして、見るものを従わせる『覇王の魔眼』を持つ塙詰しのぶを、その手に入れようとしていたのである。

 梅里への思いから、耀山を拒絶するしのぶ。

 それに対し耀山は、敵意を露わにし──梅里が抵抗することもできずに、その胸にクナイを叩き込まれるのであった。

 そんな危機的状況に、しのぶは魔眼を発動させて耀山を追い払い──続けて梅里を軽度に支配して出血を止め、応急処置を行う。

 その間に、本部に連絡して緊急搬送を依頼しようとしたかすみだったが──

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

「──え? 翔鯨丸を、ですか?」

 

 彼女に返ってきたのは、緊急出動の要請だった。

 聞けば、帝都近郊──王子にて、極めて強力な妖力反応が確認され、現在は帝都に戻ってきていた花組達が、順次向かっているらしい。

 かすみに与えられた任務は、翔鯨丸で仙台に向かい、真宮寺さくらの里帰りに付き合っている花組隊長の大神一郎とさくら本人を迎えに行って欲しいということであった。

 

「で、でも……」

 

 視線が泳ぎ、思わず梅里を見てしまうかすみ。

 そこには夢組のしのぶに支えられて横たわっている、苦しげな彼の姿があった。

 それを放って──他の人に任せて向かうのは、まさに我が身が切り裂かれるような思いであり、風組としての指令に、「了解しました」の一言がどうしても出ない。

 

 

「かすみさん……行ってください」

 

 

 その声は、ハッキリと聞こえた。

 思わずそちらの方を見ると、苦しげながらも自分を真っ直ぐに見つめる──梅里の目と目が合った。

 ゆっくりと──しかし力強く、彼は頷く。

 

「う、梅里くん!! でも、私は……」

「だいじょ、ぶ……僕は、死にませんよ」

 

 そう言って彼は──無理に笑顔を作る。

 

「ですから…………今できる最善を、お願いします」

 

 その痛々しさに、かすみは思わず駆け寄っていた。

 

「今できる最善って──私にとっての最善は、梅里くんを無事に送り届けることです!」

「違いますよ、かすみさん…………仕方ないことだけど……僕らは、帝国華撃団員ですから、優先すべきは……帝都の未来、帝都市民の……命です」

 

 必死なかすみに、弱々しく苦笑する梅里。

 

「僕らが帝都市民を守らないで、誰が守るんですか。そのためにも……花組の、大神隊長を一刻も早く、帝都に戻さないと……」

 

 それができるのは、翔鯨丸の操舵をできるかすみの力が必要だ、と梅里は彼女に言い聞かせた。

 

「僕を、信じてくださいよ。絶対に……死にませんから」

 

 そう言って、微笑み頷く彼の姿は、深手を負って決して強さを感じられるようなものではなかった。

 かすみの冷静な頭は仙台に向かえと言い、熱い胸はここに残れと叫ぶ。

 その葛藤に彼女は(さいな)まれ──それでも彼の強い意志を感じたかすみは、彼を信じようと決める。

 

「はい……わかりました。梅里くん。私は翔鯨丸で仙台に向かいますが──」

 

 かすみの言葉を聞いて、安心したのか、ふっと優しい笑みを浮かべる梅里。

 その唇に、かすみは自分の唇を重ねる。

 弱くなっていた彼の呼吸を妨げないように、そっと触れるだけのキス。

 それでも、愛する者を心配し──その心を断腸の思いでここに置いていく彼女の、精一杯の抵抗だった。

 

(こんなにも愛してやまない人が苦しんでいるというのに、それに付き添うこともできないなんて──)

 

 任務に縛られる己の身が悔しくて仕方がない。

 その気持ちに整理をつけるために、彼に口づけし──かすみは「しのぶさん、後はお願いします」と彼を彼直下の部下であるしのぶに託して、翔鯨丸のある花やしき支部へと向かうのであった。

 

 その花やしき支部で翔鯨丸へと乗り込むかすみ。

 艦橋では、隣にいる由里が、事情を知って心配そうな顔を浮かべ──

 

「武相隊長、大丈夫なの?」

 

 ──と訊いきて、さらに気を使ってまでくれた。

 

「もしあれなら、かすみがいなくても……」

「ええ、大丈夫よ。私があの人を信じないで、どうするのよ」

 

 そう言ってくれた由里に対してかすみは自分に言い聞かせるように言い、大神達を迎えに飛び立つのであった。

 




【よもやま話】
 本当はこの次と一緒にする予定だったのですが、あまりに長くなったので第5話と最終話の部分で分割しました。
 それで第5話前半と一緒にしてもいいように思えたのですが、あれはあれで長い上に話や時間軸的には繋がりが弱く、明らかに一度切れるので、こうして独立させました。

 アップ日を第5話前半と同様に現実に合わせて1月3日にしようかとも思ったのですが、今年のうちに終わらせようということで、大晦日に実施。
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