サクラ大戦2外伝~ゆめまぼろしのごとくなり2~   作:ヤットキ 夕一

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 ──その頃、大帝国劇場。

 

 

 食堂付近では焦った顔をした娘がキョロキョロと誰かを捜していた。

 つい先ほど、そこに設置された内線の電話が鳴り──誰も出るものがおらず、誰かが来る気配もなかっために、やむを得ず彼女──駒墨 柊が出たのだ。

 もちろん、しゃべることができない彼女は電話に電話を使うことができないし、普段なら絶対に出ない。

 

 だが──彼女の霊感にその電話は引っかかったのだ。

 

 電話は花やしき支部からで、電話の相手は夢組副支部長で柊の上司にあたる予知・過去認知班頭のアンティーラ=ナァムだった。

 彼女は電話に出たが何もしゃべらない相手に、自分の部下であることに気がついてこう言った。

 

「柊ですね? いいですか? 誰かに今から言うことを伝えなさい。一刻も早く!」

 

 そう指示をされて柊は人を捜していたのだ。 

 しかしあいにく、厨房にも食堂にも人はいない。

 食堂を出た柊はロビーに出た。そこには──

 

「あら、あなたは確か……柊さん、でしたっけ?」

 

 柊に声をかけたのは花組の真宮寺さくらだった。

 柊はあわてた様子でうなずくと、さくらの袖を掴み、懸命に何度も引っ張って主張する。

 

「え? あの、えっと? いったい……」

 

 戸惑うさくらだったが、すぐに思い出す。

 

「ああ、そうでした。言葉が話せないんでしたっけ」

 

 さくらの言葉に何度もうなずく柊。

 そして──二人は顔を見合わせて目を(しばたた)かせる。

 何かを伝えたい柊の意図を汲もうとしたさくらだったが、柊には伝える手段がない。

 それに気がつかず二人して無言で見つめ合っていたが──ようやく気がついた柊があわてて付近にあった紙を手にする。

 

「なにを……」

 

 戸惑うさくらの前で、柊は携帯していた矢立──筆と墨壷を組み合わせた携帯用筆記具──を取り出して、その紙に筆を走らせた。

 

「わぁ……柊さん、達筆です……ね?」

 

 さくらの目の色が変わる。柊が書いた紙には、非常に見事な字で『隊長ニ危機 即座ニ探索ヲ求ム』と書かれていたからだ。

 

「隊長!? お、大神さんが!?」

「──ッ!?」

 

 さくらの反応に柊が戸惑った。あわてて彼女の手を掴んで首を横に振るが……青ざめてさえいるさくらに、柊の行動に気を使うほどの精神的余力は残されていなかった。

 

「大神さんはこの時間、本部内を見回り中のはず……任せてください」

 

 柊が掴んだ手をさくらは両手で包むように握り返してそう言い──それを離してサッと走り去った。

 そのさくらの背に思わず手を伸ばしたが──もちろん制止の言葉を発せない柊に彼女を呼び止める手段はなかった。

 

 ──その後、大道具部屋で大神を発見したさくらだったが、足をくじいたというサキに触れる大神を見て嫉妬を爆発させ、怒ってその場を走り去った。その後に自室を訪れた大神が懸命に、そして誠実にドア越しに事情を説明したので誤解は解けたのだが……その頃にはすっかり柊から伝えられたことを忘れていた。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 こうして、せっかくティーラに降りた梅里の危機の天啓は、誰かに伝えられることなく空振りに終わり──梅里達の危機は続いた。

 

 二人の下へと戻ってきた梅里は鬼王から目を離すことなく、まだ油断無く構えたまま、先ほど狙われて間一髪だったかずらに声をかけた。

 

「大丈夫? かずら」

「だ、大丈夫です。あの、梅里さん……すみませんでした」

「気にしないでいいよ。ただ、やっぱり手出しはしないで。次も助けられる保証はないからね」

 

 そう返して梅里は意識を鬼王へと集中させる。

 

(あらためて思うけど……強い)

 

 その実力は明らかに梅里以上である。

 だが、それだけでは説明できないことがある。だがそんな疑問も──梅里の中ではほぼ解決していた。

 

「そんな仮面を付けている理由にも繋がるし」

 

 そして同時に悟ってもいた。今の自分では勝てる相手ではないと。

 

「だからって、あきらめるわけには……いかない」

 

 後ろの二人を意識する。

 現時点では梅里が最優先の標的で、梅里を助けようとしない限りは二人が襲われることはないだろう。

 しかし、梅里を殺した後はどうか。

 前の叉丹──山崎 真之介のときには鬼王は目の前の華撃団と一戦を交えることなく去ったが、あのときは花組もおり、戦えば鬼王自身も無事の保証はなかった。だから去った可能性がある。

 かずらとかすみでは、鬼王に手傷を負わせるどころかまともな抵抗さえできないだろう。敵からすれば二人を生かしておく利点は無いし、殺さない理由もない。

 

「そうなると、負けるわけにはいかないな」

 

 梅里はある技を使うことを決意する。

 その変わった雰囲気に、かずらはイヤな予感──いや、イヤな空気を思い出した。

 あれは──前の戦いで巨大降魔を倒すために満月陣・望月を使う前の空気にとても似ている。

 

「あの……梅里さん、まさか望月(もちづき)を使うんですか?」

 

 たまらず訊いたかずらの言葉にかすみが顔色を変えて梅里を見た。

 あの後、梅里が心肺停止に陥ったのは華撃団の他の組でもよく知っている話だ。

 

「違うよ。それに、そもそも満月陣・望月は使えば死ぬような自爆技じゃないんだけどね」

 

 困り顔をする梅里。さすがに頬を掻くほどの余裕はない。

 

「あのときは夢組全員とか、無茶な人数から集めたからああなっただけで、例えばかずらとかすみさんから霊力をもらっても望月は可能だし、負担もそれほどじゃない」

 

 それを聞いてホッとするかすみとかずら。

 

「でも、たとえ望月を使ったとしても……おそらく動きは読まれる。基本的には満月陣と変わらないからね」

 

 おそらく、とは言ったが、まず間違いなく通じないという自信はあった。

 

「それなら、いったい何を?」

 

 尋ねるかずらに梅里は一度ためらい──口を開く。

 

「かずら、それにかすみさん……今から起こること、できれば二人には見て欲しくありません。目を閉じていてはもらえませんか?」

 

 かずらにというよりは、その丁寧な口調はかすみに対するものだった。

 

「戦いから目をそらせ、ということですか?」

「はい。本当にすみませんが……」

 

 かすみからの確認に、梅里はうなずく。

 

「あんな危険を前にして、そこから目を外すのはかなりのリスクになるのですが……」

「見苦しいものをお見せすることになります。どうか、お願いします」

 

 梅里の言葉に首を横に振る。

 

「武相隊長、あなたが戦うのは私たちを守るという目的もありますよね?」

 

 かすみに訊かれ、梅里はうなずく。

 

「守られる私たちが、私たちのために戦う人を、あなたをどうして見苦しいと思うでしょうか」

「けど……」

 

 なおも躊躇う梅里に対し、かすみはそっとその背中に触れる。

 

「命を預ける人の戦いを見るのは、いけませんか?」

「……これから使うのは、うちの流派の禁忌の技です」

「禁忌!?」

 

 ただならぬ言葉に、さっきまで梅里とかすみのやりとりに「むー」と不機嫌そうな顔していたかずらが思わず声を上げる。

 

「それでもよろしければ……」

 

 梅里が刀の峰に左手を添えるように構えた体勢を、さらに腰を低くする。

 

「……見ていてください」

 

 そして──梅里の雰囲気が変わった。

 

「──えッ?」

 

 かずらが思わず戸惑って声を上げ、それをかすみが怪訝そうに見る。

 梅里の霊力が明らかに普段と違う。それを感じ取ったかずら。そしてそれとは違い、かすみにはそこまでの霊力はないので違いがわからなかったのだ。

 

「どうしたんですか、かずらさん。いったい何が?」

「そんな……梅里さんの霊力が。あれじゃ、まるで……」

 

 普段なら優しさを感じさせ、そして力強く闇を払う銀色の光を放つはずの彼が纏う霊力が──漆黒に染まっていた。

 それはまるで──黒之巣死天王を思い起こさせる妖力のようである。

 

「だから、梅里さんはさっき……」

 

 ここに至って察する。梅里が自分の戦う姿を見せたくなかったという意味を。

 そのただならぬ気配に、かすみもあらためて梅里を見て──息をのむ。

 

「──光をもって闇を祓う、それが武相流の本質」

 

 鬼王を見つめていた目を一度閉じ、そして──開いた目で睨みつける。

 その目には明らかな殺気で溢れていた。

 憎しみを抱いたその雰囲気に、かずらは思わず身を震えさせる。

 

「う、……うめ、さとさん……怖い」

 

 目を逸らしかけるかずらを、かすみがギュッと抱きしめる。

 そして優しくも厳しく言う。

 

「落ち着いて、かずらさん。あの人は……梅里主任はあなたを守るためにああしているのよ。彼のためにもそこから目を背けないで」

 

 かすみに抱きしめられ、何度も「うん」「うん」と頷くが、体の震えは止まらない。

 そしてついに、梅里は球状の暗き闇のフィールドをその身に纏い、その姿が見えづらくなる。

 

「闇を討つため、より深き闇──深淵を以て滅する。武相流禁忌(きんき)新月殺(しんげつさつ)

 

 梅里の様子に鬼王が戸惑い、そして警戒して刀を構える。

 その時、月を雲が隠して夜の闇が深くなり──梅里の姿がかき消えた。

 

「──ッ!?」

 

 鬼王が明らかに戸惑う。

 彼が左右に視線を素早く巡らせているその間に──背後に突然現れた梅里の刀が、鬼王へと突き刺さった。

 

「「なッ!?」」

 

 離れた場所で見ていたかずらやかすみにも、その動きはさっぱり見えていなかった。

 あえて言うのなら、梅里が鬼王の背後へと瞬間移動したように見えた。

 そしてそれが正解である。

 殺意に集中した梅里は、影から影へと渡って背後をとり、手にした刀でついに鬼王を捉えたのである。

 梅里が殺意のみの目で、眼前の鬼王の背中を冷たく睥睨(へいげい)し──妖力じみた(くら)き霊力を、刀を通じて送り込んで深淵の闇を具現化して引きずり込む。それが新月殺であり──梅里はそれを実行しようとした。

 

 

 まさに、そのときである。

 

 

 突然、かずらが立ち上がり──

 

鶯歌(おうか)さん!?」

 

 ──叫ぶように驚きの声をあげたのだ。

 先ほどまで震えていた彼女を抱きしめていたかすみが驚いて彼女を見上げる。

 次の瞬間──

 

 

 轟音と共に、まるで闇を切り裂くに一筋の光が(はし)

 

 

 ──梅里を貫いた。

 

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 ──その少し前のこと。

 

 梅里と鬼王の戦いを離れた場所で見守る影が二つ並んでいた。

 その片方は虚ろな目でその戦いの様子をじっと見つめている。

 

「……命を預ける人の戦いを見るのは、いけませんか?」

 

 遠く離れているはずの言葉がよく聞こえることには疑問を抱かず、彼女の心にはその言葉が広がり──胸を打つ。

 

(また、あの人は……見境無く……)

 

 胸を焦がす心の中の黒い炎はそれを燃料にさらに火勢を強める。

 その傍らにいる小娘の存在も、小癪で癇にさわる。

 

(そのふくれっ面……自分のものだとでも言うつもり?)

 

 違う、と心が悲鳴をあげる。

 だがその叫びは今の彼女の心の中を渦巻く嵐の中ではあまりにか細く──かき消えてしまう。

 代わりに、あの人の心に触れたのは私が最初だ、という怒号が内心で吹き荒れる。

 にも関わらず、なぜ自分は蔑ろにされるのか。

 自分のことは粗雑に放っておき、彼女たちを宝物のように守るのか。

 

(許せない……絶対に……)

 

「そうねぇ。許せないわよね? だから、他の人に渡してしまうくらいなら、いっそ……」

 

 虚ろな目が、彼をジッと捉え──傍らに立つ黒髪の女にささやかれるがままに弓を構え、矢をつがえる。

 そして──狙いを付けていた。

 

「アイツを一番理解してるのは……私。幸せにできるのは……私」

 

 口は何事かをぶつぶつと言っている。

 彼女が普通ではないのは明らかだったが、その存在に気づいている者はいなかった。

 

「私は……彼以外考えられない。でも……アイツは……」

 

 心に染み渡った嫉妬という猛毒は、彼への憎しみへと変化し、それを彼に向けられた鋭い(やじり)が体現していた。

 

「あの人を……私だけのものに……梅里を……永遠に、私だけの……」

 

 つぶやきながら、まるで人形のように動くその体は、弓を引き絞り──虚ろな目は狙いを彼の心臓へと定める。

 そして──矢に込められた霊力が一条の雷となって、今まさに放たれようと──

 

 

「──ダメエエエェェェェェェッ!!」

 

 

「──ッ!?」

 

 矢が放たれようとするまさにその瞬間、彼女の心に響きわたった声で我に返った。

 直前に見えたのは、彼の前に手を広げて立ちはだかるポニーテールの守護霊の姿。

 だが、しかし──矢はすでに放たれていた。

 天駆ける稲妻は狙いを違えることなく、彼のことを貫き──

 

「ガハッ……」

 

 射抜かれて血を吐くその姿が、その目にハッキリと捉えられた。

 

「あ、ああ……ッ!?」

 

 正気に戻った彼女に非情な現実を突きつける。

 ゆっくりと──鬼王に突き立てた刀を握る手から力が抜け──体が傾いていく。

 そのまま、地面にドサッと音を立てて転がり、鬼王に刺したはずの刀も地面に落ちる。

 

 

「「……え?」」

 

 

 再び戸惑いの声をあげるかずらとかすみ。

 その目の前で、鬼王の背後をとって刀を突き立て、まさに勝利を掴もうとしていた梅里が──崩れ落ちた。

 梅里が手放さなかった刀は彼が倒れた拍子に抜けて、その反動で手からもこぼれ落ち、地面に転がる。

 梅里が地に伏す一方で、ガクリと膝を付く鬼王。

 その後ろの梅里から流れる血が、路面を赤く濡らしていく。

 そして、その体はピクリとも動くことなく──

 

 

「梅里さぁぁぁんッ!!」

 

 

 かずらの悲鳴が夜空に響きわたった。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 目の前で起きた一瞬での逆転に、かずらもかすみもなにが起きたのかさっぱりわからなかった。

 ただ一つハッキリしているのは、鬼王がトドメを刺されることなく地面に片膝をついており、一方で倒す直前だったはずの梅里は力なく地面に横たわり、奇妙に手足が痙攣している以外に動く様子はないということだ。

 やがて立ち上がった鬼王の姿に二人はハッとさせられる。

 そして鬼王は手にした刀を梅里へと向け──

 

「──させません!!」

 

 両手を広げてその行く手を阻み、気丈に鬼王を睨んだのは──かすみだった。

 

「かすみさん!?」

 

 梅里の下へと駆け寄っていたかずらが、背後に立つかすみに驚いて声をかける。

 

「あなたは一刻も早く、武相隊長を連れて行きなさい!!」

「でも、かすみさんは──」

 

 戦う武器など持っていない。しかしそれはかずらも同様だ。バイオリンを持っているが、彼女が霊力を込めた演奏で衝撃波を出すなりするには、演奏の間の無防備を防ぐため、距離を取るか敵を足止めしてもらう必要がある。だが、彼我の距離にそれほどの間はなく、もちろんかすみに足止めができるわけがなかった。

 しかしだからこそ、である。

 先ほど、邪魔をしようとしたかずらを、鬼王は梅里を放置してまで襲いかかった。

 その優先順位を考えれば、彼を助けるには一か八か、鬼王の邪魔をして意識をこちらに向けるしかない。

 そしてその間に、もう一人が梅里を連れて去るしか、彼を助ける方法はない。

 

「私が囮に……」

 

 しかし、そんなかすみの決意をよそに、刀を構えた鬼王は、一瞬で彼女を無視してその横を通り過ぎ、かずらの目の前へと至り──二人にかまわず無言で刀を振り上げ、切っ先を地面に横たわる梅里へと向ける。

 鬼王が突き立てんと梅里へ降ろした切っ先を──横から飛来した鎌が弾いた。

 

「──ッ!!」

 

 必殺の一撃を邪魔され、身を翻す鬼王。

 そこへ──

 

「させん!!」

 

 弾かれた鎌が引っ込むや、文字通り火を噴く分銅が襲い掛かる。それをどうにか避ける鬼王。

 直後に来た人影が振り下ろした大鎌を避け──その切っ先が地面に深く突き刺さった。

 

「紅葉さんッ!!」

 

 かずらが快哉の声を出す。

 やってきたのは鎖鎌という特徴的な武器を得物にしている、夢組除霊班頭の秋嶋 紅葉だった。

 

「われはいったい、何をするつもりか! 絶対に……絶対に絶対に絶対に、許しはせんけぇなッ!!」

 

 倒れた梅里を見たのか、すでに事情はわかっているらしく、怒り狂うような紅葉は真っ赤に染まった髪を振り乱し、吼え、鎖鎌の分銅を飛ばす。

 それを弾く鬼王。

 だが火が灯り、気流を操るその分銅は、弾かれても弾かれても何度も何度もしつこく、まるで獲物を狙い続ける蛇のように襲いかかり続け、自身もまた大鎌を手に斬り掛かる。

 その姿を唖然と見るかすみとかずら。

 まさか助けがくるとは思っていなかったこともあって、紅葉の登場に驚いていた。

 

「なにしよるんか! (はよ)うチーフを連れて行きんさい!!」

 

 動かない二人に対して、苛立たしげに言った紅葉の言葉で二人は我に返る。

 その間も、紅葉自身も気流操作で動き、距離を詰めて手にした大鎌を叩きつけるように振るう。

 その猛攻をどうにか防ぎ続ける鬼王であったが、明らかに防戦一方になっていた。

 怒りに燃える紅葉の猛攻もあるが、梅里に刀を突き立てられるという深手を負わされたのもその原因の一つだった。

 さらには別の一団が駆けつけたのを確認すると、鬼王は紅葉から距離をとる。

 

「逃がさん!」

 

 そう言いながら距離を詰める紅葉だったが──鬼王は不利を悟ったのか、まるでかき消えるようにあっさり戦場から消え去った。

 

「──くそッ!!」

 

 悔しげに地団駄を踏む紅葉。

 そして──

 

「急いで花やしき支部に回してください!!」

 

 やってきた増援の人から通信機を借りて緊急通信を入れているのはかすみだった。

 さらに彼女は自分の着物が血で汚れるのも厭わず、梅里の止血や応急処置をしていく。

 

「あ、あの……」

 

 かずらは戸惑うばかりで混乱してしまい、それら応急手当の知識があってもさっぱり思い出せなくなっていた。

 やがてかすみの連絡で風組が動き、できる限り最大限の速さで梅里は花やしき支部へと搬送され──深夜とはいえ、待ち受けていた大関ヨモギによって緊急オペが開始された。

 

◆  ◇  ◆  ◇  ◆

 

 その襲撃現場近くの建物で、人知れずガタガタと震える人影があった。

 自分の手と、反対の手で握りしめた梓弓──『神弓・光帯』を、信じられないと言わんばかりの目で見つめ──

 

「う、そよ……こんな、の……ありえない……もの……」

 

 その現実を否定するように首はゆっくりと、何度も横に振られる。

 

「なん、で……私が、アイツを……そんなの、ぜったいに…………」

 

 認められない気持ちとは裏腹に、彼女の意識がハッキリした瞬間に放たれた雷の一矢『天鏑矢』は、間違いなく彼を貫いた。

 

「こんな……こんなの…………わたしが……うめ、さと……信じ、られ……」

 

 なぜこんなところに自分がいるのか、どうしてその手に弓と矢があるのか、さっぱりわからない彼女だったが、それだけはハッキリと覚えていた。

 

 

 ──彼を射抜いたのは私だ、と

 

 

 彼女の名前は──白繍 せり。

 夢組調査班頭である。

 




【よもやま話】
 後々の伏線になるかもしれない…なったらいいな、という予定の、柊のシーン。
 実は帝劇内で会うのを最初はカンナ&すみれで考えていたのですが……よく考えたらこの時期、二人とも帝劇にいませんでした。(苦笑)
 それで居るメンバーを吟味した結果、さくらにしたのですが、これが奇跡を起こす。
 とりあえずでロビーに決めて書き、きちんと攻略本で調べたら、なんとこのシーンに該当する「サクラ大戦2」の2話自由行動ではロビーにさくらがいることが発覚。そしてその後のサキの誘惑イベントに繋がってさくらがすっかり忘れるというのにまで繋がりました。これは偶然で、逆に利用させてもらいました。
 ……そして、そこまで見越して大神を誘惑するサキ(水弧)。有能すぎる。
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