耳郎「爆豪が雄英の先生!?」
「何考えてんのよ!?」
それはイヤホンジャックこと、本名耳郎響香が午前のパトロールを終えて事務所に帰社したときのことだった。街はひったくり一つも起きず、自慢の索敵や音響攻撃を行うことなく平和だなあと吞気に帰ってきた折、デスクに置かれた「戻り次第社長室へ」なんて書いた走り書きが目に入った。せっかく平和だったのになぁと、うちの事務所が一番平和じゃないのかもしれないなあと、学生時代から変わらない黒のボブカットを靡かせながら彼女は社長室へと入った。要件を聞いた彼女が開口一番、仮にも社長相手に怒鳴ったのだ。内容が全く平和じゃなかったのは推して測るべきである。
「うっせえんだよ、ギャーギャー喚くんじゃねー」
学生時代から変わらぬ爆発した金髪。どちらかというと、事件を起こす側ではないかと勘違いされるほど鋭い眼光。爆心地事務所の社長にしてエースヒーローである爆豪勝己は、唯一の相方の怒鳴り声にそのヴィラン顔を歪ませた。
「これが喚かずにいられないって!」
実は柔らかい髪質であることや、特別なプライベートの時間にはその眼光が柔らかくなる。それをとても個人的な関係から知っている耳郎だが、こと仕事に関してはそういった感情は完全に切り替えている。お互いプロだ。もうかつての先生達にも有精卵と言わせるつもりはない。
「事務所の経営や現場のやり取りだってあるのよ?そもそもそのヴィラン顔で子供の高校生の世話なんかできるわけ?」
「やかましいわ。耳!」
言葉とともに顔面へと向かってきた爆炎を耳郎は軽くかわす。いらいらすると所かまわず爆発させるのはあの頃と変わらない。そういうところだよと思いながらも、仕事の話である以上イヤホンジャックも引き下がる訳にはいかない。
「あんたのことだから、うちがあげた問題点ぐらいはもうなんとかしてるんだろうけどさ。何で断らなかったのよ。特別あんたじゃなきゃダメな理由なんかあったの?」
「......一応利害は一致してんだよ。」
言いづらそうに、ただでさえデフォになっている眉間の皺をより濃くしながら金髪の青年は話し出す。
「このままの事務所の経営だと、俺の事務所が潰れる。」
「......やっぱり、だいぶ厳しいんだ?」
「オールフォーワンを潰してから、ヴィランの犯罪件数はかなり落ちてきやがった。それ事態はめでてぇ話だが、戦闘系一本でやっているうちの収入が減るのは当然っちゃあ当然だ。」
次代の象徴、オールマイトの後継者と言われた元クラスメイトが、かの巨悪を打ち破って久しい。一時期混沌としたものの、そういった事態も徐々に収まりを見せはじめ最近では何事もなくパトロールを終えることも増えた。
「しかも一旦事件が起きたら、あんたやうちの個性じゃあ損害費用もバカにならないからね。」
街に被害を出さないようにヴィランを沈黙させる。しかし爆発と音による衝撃がメインの2人だ。いくら爆豪が器用天才マンでも、耳郎がサポートアイテムを駆使しても想定外の損害は発生する。積み重ねれば無視できないほどに。
「仕事が多いときは無視できるレベルだったが、こんだけ暇だと赤字になっちまうんだよ、めんどくせぇ」
「.....事務所を休業だとイメージが悪くなるけど、.雄英の先生就任のための休業ならイメージも悪くならないってこと?」
「癪だがな」
吐き捨てるように言い切った爆豪の表情には疲労による隈が見えていた。恐らく受けるかどうか一人で悩み続けていたのだろう。ソファーに体重をかけて天井を見上げる姿には年相応の哀愁が漂って見えた。夢が破れた訳ではない。しかし理想の遠さに嘆くのはビルボード№2であっても変わらないらしい。
「それで先生しながら今後どうしてくか考えてくってことか......」
「まぁそういうこった、今はともかく時間が欲しい。」
休業中のお前の仕事先だ、顎をしゃくった先を見れば長机に置いてある書類が一つ。きちんとサイドキックの今後についても考えていてくれたらしい。個人的には嬉しく思いつつプロとしては当然なので顔には出さない。......仕草には出ているので爆豪にはまるわかりだが。しかしその可愛いしぐさも、文章に目を通すうちに怒りのそれへと変わっていく。
「待ってよ爆豪これ、配属先チャージズマのところじゃない!!」
「アホ面の所で索敵要員やってた奴が産休で休みに入るらしい。どこで聞きつけてきたか知らねえが、てめぇを貸して欲しいって向こうから言ってきやがった。」
「......それであんたokしたの?」
「探す手間が省けたしな。向こうから言い出した話だ、レンタル料はしっかりふんだくってやる。」
凶悪に笑う社長の表情を見ながら、しかし耳郎の怒りは収まらない。それこそ彼女が上鳴のことをヒーロー名でしか呼ばなくなったこと。割り切っているとはいえ、全て知ったうえで彼の存在を爆豪から進められる苛立ちを、耳郎はヒーローではなく個人として爆豪を睨みつけようとする。有精卵ではないけれど私まだまだひよっこだなと思いながら。
それだけ隙を見せれば爆心地には十分で------。
一瞬で詰められる距離、視界一杯に広がる彼の顔、それが近づくのでさえ見ていることしかできなくて。顎に添えられた指の感触は、やっぱりいつも優しくて。
「レンタルすんのはイヤホンジャックだけだ。耳郎響香まで貸してやる覚えはねぇぞ?」
「......わかった。」
顔は真っ赤で手玉に取られながら、恋愛はまだまだ有精卵かも、と。
耳郎はロックではないけれど、とても可愛い笑顔を浮かべた。
「個性特異点ねぇ......」
雄英から送られてきた資料を眺めながら爆豪は呟く。自身も仮免追試で体験した、子供達の個性の強さを。
「複合持ちは当たり前。現状の教師陣じゃあ手に負えないレベルで能力があがり初めているってか。」
それこそ当時は幼稚園児の教員でさえ手を焼いていたのだ。高校生ともなれば身体もできてくるし、個性の扱いも様になってくる。雄英が求めたのは、№2の看板と生徒を抑え続けれるだけのバトルセンス。
「利害一致とはいえ、声をかけてきたのはてめぇ達の方だ。しっかりふんだくってやるぜ。」
本質的には当時と変わらない雄英高校の狂犬が、再び母校へと帰ることになったのだった。
pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→「砂藤「爆豪が雄英の先生かぁ・・・。」 その1
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11487747