爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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透ちゃん「嘘ー!?爆豪君が雄英の先生!?」 その5

「黙って聞いてりゃあグダグダグダグダめんどくせぇ。」

 透がぶちまける嫉妬も恨みも、積み重ねた単純明快な思いも、全てをその一言で叩き切る。その個性通りの発言は確かに今に始まったことではない。しかし、でも、けれど。

 「んだこらてめぇら、まさか今こいつに同情してんのか?」

 爆豪が生徒達を睥睨すれば、図星だった何人かは慌てて目を逸らしてしまう。確かに目の前のヴィランがやったことは到底許されることではない。しかしその原動力となった思いは、決して大きな野望ではなく、誰だって望んで手に入れたいと思うようなものでしかないのだ。それこそ誰もが、ある意味持ってて当たり前と評されてもいいような。そんな当然で普通のことが手に入れることができない環境に、同情する声が上がるのは当然と言えた。しかし、

 「寝ぼけてんじゃねーよ。」

 ビルボード№2はその同情を許さない。

 「街一つだ。」

 目を逸らし俯いた何人かが顔を上げた。

 「この糞が裏切ったせいでなくなったもんだ。それも少なく見積もっての話だ。」

 当時の神野戦線、タルタロスでの襲撃で起きたのは未曾有の人災だった。そう、家屋が潰れて火炎が吹き荒れ、下敷きになった人を助ける声や、もう返ってこない家族に縋り続ける子供の泣き声。未だに爆豪は、いや爆豪でさえもあの惨劇は夢に見ることがあるくらい。それこそPTSDとなり、ヒーローを続けられなくなった同僚だって何人もいるくらいだ。

 「震度7の地震と、富士山の噴火でも同時に来たのかと思うくらいのもんだった。何が悪いかってよう、それが何より人間の手で起こされたことが最悪だって言ってんだ。」

 自然現象なら、仕方ないと割り切れない訳じゃない。乗り越えて生きていこうとするのも、また人間だ。それこそ立ち直って生きている人だっている。しかしそれが、犯罪者によって起こされたものだとしたら---残された人間の憤り。計り知れないほどに心に残った大きな傷。未だあの事件が残したものは、人々の生活を脅かし続けている。

 「やられた人間についたもんをよ、それをどうにかすんのがヒーローじゃねぇのか?!てめぇ可愛さに好き放題やった、そんな加害者側のあれこれをどうにかすんのは俺等の仕事じゃねーんだよ!」

 強化プラスチック越しに、正確な位置がどこかも分からないその瞳を見据えて、いや、その奥にある折れてしまった心を見据えて、爆豪勝己は咆哮を上げる。

 「てめえの不幸を諦めずになぁ、それでもって足掻く奴だっていたんだよ!!当たり前にあるものがなくなっちまったって、らしくいようとした奴らだっているんだよ!!」

 最初から個性がなかった幼馴染。戦いの結果、個性を失ったクラスメイト。

 「1人だけ不幸に浸って、間違えた結果なすりつけてんじゃねーよ!!!!」

 元A組の誰もが透のことで心を痛めていた。事前に気づいてあげられたら。止めてあげられることができたのではないか。そんな思いを引きずっていることを爆豪は知っている。隣を歩いてくれている恋人だって、あの日のことは口にしたがらない。仲の良かった元1-A。仲が良いと思っていたからこその痛み。しかしただのクラスメイトでしかなかった金髪赫眼の青年は、だからこそはっきりと告げられる。

 「間違えたのはてめぇだ。間違った責任を取りきるまで、臭い飯でも食って、いいように遊ばれ死にやがれ。」

 

 

 「なんかすごい一日だったね。」

 日帰りでの社会科見学。太陽が沈むのも遅い季節とはいえ、時刻はすっかり夕方。紅に染まり夜の帳を待つだけになったその世界は、今日という一日を塗りつぶしてくれるような気さえしてしまう。

そういえばあまり話したことがない孤城姫子が、そう声をかけてきたのは、小町が夕焼けを見て、ぼんやりとそんなことを考えていた時だった。

 「孤城さん・・・。」

 「姫子でいいよ。」

 気軽に声をかけて、ファーストネームで構わないと告げる気安さ。土屋や飛天と一緒にいることが多いとはいえ、分け隔てなく誰とでも接することができるその天真爛漫さは、小町にはできない類のものだ。どこか眩しく見える夕陽と合わさって、彼女の金髪はやけに綺麗に見えた。

 「なんかさ、なんかだよね。」

 「そうだね、なんか、だったよね。」

 血の色にも、しかし明るい炎の色にも見えなくもない夕焼け空の下を、他の生徒達と共に学校へと戻る姫子と小町。壮絶な一日と、異常とも言える出会いの感想を述べるには、なかなか具体的な言葉は出てこない。だからといって、抽象的な何かに例えることも違うような気がして。お互いの口から出たのは、曖昧なまでのそれでしかなかった。

 「ただなんだろう、人間なんだよね。あの人たちも。」

 「うん、そうだね。人間、なんだよね。」

 姫子の言葉に肯定で返す小町。脳裏に思い返すのは、ヴィランとして生きることを選んだ、そんな人間達。あくまでそう、人間達だ。自分達とは違う生き方を選んだ、そういう人達。

 「・・・他に、選べなかったのかな?」

 「わからない。少なくとも、でも、あそこにはいるのが当然だってことは、したんじゃないかな?」

 2人は、少なくともここにいる生徒達は神野戦線を直接見た訳ではない。テレビを通じた遠くのできごと。神野だけではない。他の事件にしたって、面白おかしくネットの書き込みを見たり書いたりすることはあっても、当事者ではなかったのだ。ましてや、その家族や関係者ですらないのだ。それが直接加害者に触れてみて---

 「あぁなっちゃう前に、守りたいな。」

 「え?」

 夕陽をその金髪に映えさせながら、姫子は前向いて歩いていく。

 「それこそあの人たちだって、誰かを助ける側として生きることだってできたんだから。なら間違っちゃう前に、私は守りたい。」

 「守る、っか・・・。」

 実際に声を聴いて、叫びを受け止めて、自分の中で消化して。そう考えた時に、己の道として活かす狐耳の同級生。目指す目標が違うだろうから、同じ答えが出ないのは当然だと思うし、それは間違ってない。でも、どうせこれからもうしばらく同じ学び舎で、学ぶのならば---。

 「そうだね、守ってみるのもありなのかな?」

 玉の輿を狙うのだって、その後でも構わないんだし。口には出さず、内心で呟いたそれは確かに自分の目標だけれど。最短距離を走るのが正解だと考えるのは、少し違う気がしてしまったから。

 「じゃあ小町も放課後自主トレしようよ!」

 「別にいいけど名前・・・そうね、考えとこっかな?」

 それこそ目の前にいる天然素材の女の子へ、自主トレついでにお化粧を教えてあげるのも楽しいかもしれないし---そんなことを考える大和撫子の白い肌にも、焼けるような夕陽の赤が映えることに、終ぞ本人は気づくこともなく帰路につくのだった。

 

 

 野暮用があるからと、残りの引率業務を全て担任に押し付けた爆豪は、未だ葉隠透がいる面会室にいた。俯いているのだろうか。肩が下がったように見える葉隠の様子からは、特にこれといった感情は読み取れない。恐らく爆豪が残っていることへの興味ももはやないかもしれない。

 「気に留めねぇ、関係ないだのほざきよった癖に、雄英高校ってのは喚きちらしちまうほどのトラウマみぇだな?」

 潜入のプロとしてヒーロー側としても仕事をし、ヴィラン側として雄英高校に潜入していた葉隠だ。大袈裟なリアクションは全て演技だったとしても、本来なら冷静さを求められる職務。それに携わった者があそこまで取り乱した。

 「わかっててやってるのなら、本当にどっちがヴィランかわからないよ。」

 伺い知ることができない彼女の表情はわからないものの、どうやら嫌みの一つや二つは言いたいらしい。そんならしくもある反応を見て、爆豪はニヤリと笑みを浮かべ、ようやく本題を切り出すことにする。

 「うちの事務所には潜入要員がいなくてな。」

 「は?」

 「響香が索敵、俺が戦闘やんのは変わりないが、それだけだと商売の幅が狭くて敵わねぇ。」

 「何の話?」

 「つまりだ!」

 透の正面にあるパイプ椅子に大仰に座り直し言葉を続ける爆豪。話の展開が突然過ぎて、透は全く付いていけてない。その赫い瞳が見据えるのは、姿なき空虚な潜入者。その何も映らない空間に、彼は熱さを注ぐために言葉を繰る。

 「出所したらうちに来い。」

 「はぁ!?」

 突然の話に思わず立ち上がってしまう透。それもそのはずだ、生徒を引率して久しぶりに顔を出した同級生が、いきなり牢獄でスカウトを始めたのだ。誰かこのシチュエーションに解説を加えてくれないと、頭が追いつかない。

 「最初は勿論最低賃金だ。住むところはとりあえず事務所で寝とけ。弁当ぐらいは響香の手料理を付けてやる。」

 「むしろまだ付き合ってることに驚きだよ!?いやそうじゃなくて!」

 こんな状態でヒーローが続けられる訳がない。そう言葉を続けようとした透を目線で制し、歩く元A組の型破りは言葉を続ける。

 「出所したらてめぇはもう犯罪者でもなんでもねぇ。ヒーロー免許は捕まったからって剝奪されるよなシステムも、今はまだ構築されてねぇしな。」

 「そんなの、でも、神野の被害者の人が許す訳がないし、爆豪君の事務所の評判だって・・・。」

 それこそ爆豪がさっき生徒の前で言ったのだ。被害者の心のケアを考えた時に、加害者の相手をしている暇なんかありはしないと。それこそ、免許があるからと言って、前科者のヒーローなど社会が認めてくれる訳がないのだ。しかし、

 「評判なんか今更くそっくらえだ。事件解決数や結果で黙らせちまえば、後は勝手についてくんだよ!」

 俺の事務所だぞ?そう言葉を締めた彼は存外自分のことはよく分かっているらしい。・・・直すつもりがないのは問題なのだが。

 「それこそ償って生きるったって、単なる無職になるならそれこそ社会のゴミだろうが!?№2が監督の上で更生に尽力してますって言えば、面子もたつに決まってんだろう!!」

 「面子って・・・。ヤクザじゃないんだから。」

 もはや屁理屈の域に達し始めた爆豪の話を前に、透は悟る。これ、言い出したら話聞かない奴だ。

 「ともかくてめぇの雇用主はこれから俺だ!!わかったな!?」

 「あぁ、もうっ、わかりましたよ!社長様。」

 ついつい呆れ声でそう答えてしまった葉隠の表情を、爆豪が気づくことはきっとない。思わず笑みを浮かべてしまったことなんて、この暴君には気づかれたくないなと、葉隠透は己の個性に感謝するのだった。

 

 

 

 

 

 

 「本当にヒーローって身内に甘いよね。」

 重苦しい、もはや慣れてしまった腐った空気の中で、葉隠透は独り言ちる。最後には雇用主だからと、つまんねえ嘘つくんじゃねーぞと釘を刺しながら帰っていった、元クラスメイトの姿を思い出しながら。

 「トラウマを刺激して揺さぶりをかけて、最後に飴を与えて懐柔したつもりなのかな。本当に甘いよね、爆豪君。」

 実態こそあれ、その心と同様に姿を捉えることができないインビジブルガールは、己の生き方をもう定めていた。惜しいとは思う。その甘さに身を委ねてしまいたい、そう迷ったとしても。

 「そもそも最初っから私は嘘なんてついてないんだよ、それこそ捕まった後だけど。」

 自分の顔を知ること。姿をこの目に取り戻すこと。その約束はまだ生きている。

 「内通者が1人だけだったかどうかなんて、聞かれてないから答えてないだけなんだから。」

 冷たくそう嗤う彼女の笑顔が日の目を見るのは、果たしていつになるのだろうか。それはきっと、誰にもわからない。

 

 案内された面会室。今日の来訪者は想定内、それこそ未だに月に一度は顔を見に来てくれる、元クラスメイトにして元恋人。

 「もう、本当に来てくれなくて大丈夫なんだよ、尾白君。」

 A組きってのいぶし銀、今や無個性となった近接格闘術の雄。尾白猿夫がそこに居た。

 

 

 

 

 

Next story is 尾白「爆豪が・・・雄英の先生ねぇ・・・。」,coming soon.Please wait.

 

 

 

 

 




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→尾白「爆豪が・・・雄英の先生ねぇ・・・。」 その1
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12080755
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