爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その3

「あいつらまだ帰ってとらんばい?」

 博多から来た三人娘は雄英入学後、それぞれがそれぞれのアパートを借りて生活している。しかし大体食事時となれば、寅子の家に集まって食事を共にすることがほとんどなのだが、今日は子分二人が両方共顔を出さない。別に二十四時間常に一緒にいるわけではないので、構いはしないのだが------

 「既読すら付かないってのも珍しいったい。」

 無料の通信用アプリのトーク画面、なんだかんだ既読ぐらいはつくのだが今日はそれもない。放課後といえば大体ゲーセンで時間を潰しているのだが・・・。

 「そんなに格ゲーが盛り上がってるったい?」

 まさか格ゲー(リアル・死闘)だったりするなんて、三人分のカレーをかき混ぜる寅子は夢にも思わないのだった。

 

 

 

 

 

 

 芦戸と書かれた表札。なんてことない一般的なご実家だった。鋭児郎にとっては何度か遊びに来たという程度ではあるが、ここ最近は暇があれば様子を見にくるようにしている。

 『三奈!!聞いてくれ!今日はなんと、ビルボードチャート十位になったんだ!!』

 親御さん達への挨拶もそこそこ、鋭児郎は目的の部屋の前で声を上げる。正確には、部屋から出てこれなくなってしまった三奈へと声を上げている。

 『チャート発表の会場で思わず泣いちゃってよ!!轟達には笑われちまってさ!』

 発表の場所で出会った懐かしい面々。神野の傷跡が残るメンバーも多い中で、皆お互いの生還を祝い、同時にもう帰ってこない誰かのために涙を流していた。

 『それでも爆豪は変わらず漢だぜ!!グダグダ泣いてねーで俺についてこいだってよ!俺もそんくらい・・・』

 『鋭児郎。』

 会見の様子を楽しげに語る、明らかにどこか無理している鋭児郎の言葉を三奈が遮った。個性も使っていないのに、一瞬で硬直してしまう誰よりも硬い男。遮ったはいいが、二の句が継げない溶かす女------訪れた沈黙が痛々しかったことなんて、今までなかったのに。

 『ごめん、まだ無理。』

 結局恋人が呟いたのは、ドア越しからくる拒絶の言葉だった。曖昧にまた来るからと呟き、空元気さえ萎んでしまった烈怒頼雄斗。ヴィラン相手に見せるその鋭く尖った歯で笑う仕草は、とてもじゃないが鳴りを潜めていて。

 『しばらく、来ないでもらえませんか?』

 『なん・・・て?』

 玄関で見送られる別れの挨拶。こうなってからは当たり障りのない会話が主だった、ご両親とのそれ。しかし今回は、明確な拒絶の意思を持って、はっきりと鋭児郎へと突き付けられた。

 『三奈に症状が出るのは、神野の件については勿論なんですが・・・それだけじゃなくて・・・』

 『まさか、ヒーローに関してもダメってことっすか?』

 頷き一つ。その眼から感じる申し訳なさ。

 『ただの職場の同僚ではない、鋭児郎さんならもしかしてと思い何度か呼びかけて頂いたのですが・・・やはりヒーローである以上、あなたでも辛い状況で。』

 『そう・・・ですか。』

 逆立った赤い髪。彼女がお揃いだと言ってくれた二本の角のような前髪が、寂し気に揺れる。

 『本当に、申し訳ないのですが。』

 『・・・いえいえ!一日でも速い回復を祈っています。』

 頭を下げようとするご両親を思いとどまらせて、鋭児郎は帰路へつく。こうなる前なら、先を見通し冗談を言い合うくらいの関係にはなれていたそんな人たち。それがもう、元に戻らないんだということを悟った。

 雨が降っていたんだと思う。その帰り道で。

 『約束したんだけどな。』

 十位以内にチャートインできたなら。どこか遠い昔のように思える、そんな儚いだけになってしまった約束。その時浮かべてくれた彼女の嬉しそうな表情。そんな無駄な格好付けなんてせずに、その場で告げたらもっと喜んでくれたのではないか。わかっていたのに。わかっていたはずだったに。

 『冷てぇなぁ、ちくしょう。』

 何も起きずに待ってくれているだなんてそんなもの、都合のいい幻想でしかなかったのに。

 芦戸三奈はこの後、一般的な社会人としての生活を送れるようになるまでに、数年の月日を必要とすることになる。結果として、彼女は雄英の同窓会に参加できるところまで回復できたのだが、その左手薬指に嵌められた指輪は、鋭児郎からのものではなかったとだけ追記しておく。春風のように、優しい人らしい。

 

 「何やってんだかな、俺も。」

 ファットガム事務所から独立した後、拠点はそのまま関西を中心に活動。戦闘系のヒーローとしての活躍の場が減ってきた昨今は、要人のボディーガードとして仕事をすることも多い。時間を見つけては、関東まで足を運ぶ。かつての級友と会うこということで、三奈は許可を得ているらしい。そんなこと、いつまでもさせていてはいけないのに。

 「本当に冷てぇなぁ、ちくしょう。」

 なんとなく雄英の近くで会うのが癖になったのは、どちらが言い出したのだったか。

 未だ彼女のことを名字で呼べない自分は、漢には程遠い存在なんだと------もう夜の帳が降りた街並みで、赤い鬼は独り言ちるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

逃がした子供のために、犯罪者の足止め。たかだか学生にしか過ぎない自分達では、明らかな越権行為。ここが地元福岡ならともかく、圧倒的なまでに関東。無事に帰れたとしても、処罰は免れえないだろう。しかし目の前の子供一人見捨ててヒーローになれたところで、自分たちはあの人の子分だなんて二度と名乗れなくなるだろう。そんな生き方糞っ喰らえだ。今後の人生をそう割り切れるくらいには、吟子と茉莉は腹を括っていた。そう、今後の人生があるならば。

 「喰らうったい!!」

 言葉と共に息を吸い、炎のブレスとして吐き出す『博多弁天』ジト目のお吟。その七色のブレスの中で選ばれたのは、燃え広がる赤のそれ。見れば彼女の腹部からは血が滲み、ブレスを吐き出す顎にはそれを吐いた後が残っている。

 「行くばい!!」

 炎のブレスの影に隠れてヴィランに接敵したのは『博多弁天』花咲マリー。蔓でできた髪を振り乱し、犯罪者の大槌に絡みつかせようとする。両肩に咲いていた大輪のラフレシアは既に散り消え、背中の食虫植物は根本から引きちぎられている。髪の毛の蔓も無理がたたったのか、頭部からの出血をその手で拭うのに忙しそうだ。

 炎のブレス、それに隠れるように蔓の鞭が乱舞で襲ってくる。それを前に、ハンマーを生む異能を有してその手に獲物を握るヴィランは、

 「無駄だと言っている。」

 古いコミックならまるで100トンとでも書かれているのではないか------人間大の大きさを誇る鉄槌を、両手で縦に回転させた。巨大ハンマーの大車輪が生み出す風圧。炎のブレスは搔き消され、回転に巻き込まれた蔓は軒並み引きちぎられる。

 「うるさいったい!!」

 博多弁と共に吟子が繰り出す白のブレス。躱すことが不可能な熱線------男子の憧れ、ビームがヴィランに向けて放たれる。それをハンマーヘッドで受けて、そのまま突進してくる歴戦のデストロイヤー。個性の幅は明らかにこちらに分があるのに、出力の差は如何ともし難いようだ。

 「手元がお留守ったい!!」

 その力士体系に見合わず、素早くヴィランの懐に飛び込む茉莉。中近距離で動き回る姿はオールラウンダーの面目躍如といったところか。

 「近づいて何ができるというのだ!?」

 近距離戦闘で使っていた食虫植物は見ての通り、完全に潰されている。敢えて間合いに入った茉莉に対し、ヴィランはその鉄槌をぶつけようと振りかぶる。

 「『キメラプラント』竹林!!!」

 「!?」

 言葉と共に子分その2の腹部---学生服を突き破り飛び出してくる、竹。竹。竹竹竹。その先端はまるで槍衾のように尖っており、ハンマーを振りかぶった偉丈夫へと襲い掛かる。

 「おまけばい!!」

 そこに飛び込んでくる後方支援の白い閃光。威力はともかく速さは随一のビームブレス。相手が明らかな格上であるためだろう、確実に殺しにいっている『博多弁天』子分コンビ。

 「無駄だと言ったはずだ。」

 その慣れたコンビの呼吸を軽く上回ってくる、歴戦の鉄槌使い。竹林が届く前に、自分の胸元に生成するハンマーヘッド。頭だけ生み出したそれは、伸びこんで来る竹槍群を受け止める盾となる。そしてそのまま振り抜かれる剛腕。何か個性による強化でも受けているのではないかと疑う程の腕力で、躊躇い容赦なく振りぬかれる巨大ハンマー。それは白のブレスを、まるで障子紙でも突き破るがごとく、何もできないまま霧散させる。

 「茉莉!!」

 防ぐ手段を失ったまま、ハンマーが直撃する親友に向けて吟子は声を上げる。まるでトラックにでも撥ねられたのではないか思うほど、花咲マリーは宙へとカチ上げられた。

 「人の心配をしている場合か?」

 「!?」

 一瞬で詰められた距離。足の裏からハンマーを生成する反動で、一気に加速する移動術。全身から大小大きさ問わずハンマーを生成するその個性。その能力を余すことなく使う相手に、未だ受精卵の吟子の力では歯が立たない。

 「ぐほぉお!!」

 移動した反動を一切無駄なく腰の回転へと使い、横薙ぎで吹っ飛ばされる橙色頭の女子高生。そのオレンジの髪には己の血だろうか、新たな出血で真っ赤に染まり初めている。見ればカチ上げられた植物の使い手も、地面に落ちてきたところだった。鉄槌の直撃を受ける際庇ったその腕は、曲がってはならない方向にへし折れている。

 「こんなものか。」

 その身はまさに五体満足。土煙すら付けることができない圧倒的実力差。これが雛鳥以下の学生と、ヒーローと対局とはいえ、現場で生き抜いてきた戦士の違いだった。

 「それでもまだ意識があるか。」

 身体は付いて来ないなりに、精神面ではまだまだ折れるつもりはないらしい。うめき声を上げながら、なんとか起き上がろうともがく修羅の国のレディース達。植物共に生きる彼女は、その蔓をギブス代わりに巻き付けて。裂けた口から息吹を吹き出す彼女は、首から上さえ動けばいいと割り切って。

 「『博多弁天』の喧嘩に!」

 「諦めの二文字は無いったい!」

 全身が痛すぎて、もう何がなんだかわからなくなってきた。だからだろうか、啖呵に応じるハンマーを前に、結局二人共全く動けなかった。

 「槌振り・地均し」

 大上段から振り下ろされる巨大ハンマー。その剛腕から伝えられる衝撃は、大地を伝わり周囲を一気に薙ぎ払う。

 「「がああああああああ!!!」」

 「志は立派だが、文字通り十年早いな。」

 再び跳ね飛ばさたように吹っ飛ぶ九州のレディース達。チームの誇り、個人意地。いろんなものを乗せて挑み足掻いてみたものの、膝をついていたのは彼女達の方だった。しかし-----

 「子供は逃がされたか。」

 その瑠璃色の瞳が周囲を見渡して見るものの、目的であった少年は周囲に見当たらない。なるほど、ヒーローの卵はその中身が潰れる覚悟で、殿の役目を果たし切ったらしい。

 「ぷっ!!」

 唐突にヴィラン顔に付着した、ドロッとした液体。見ればそれは比較的近くで倒れている、茉莉の口から出た物だった。

 「女子高生の唾液ったい、ご褒美も良いところばい!」

 嘲笑うジト目の女子高生。例え身体がどれだけ跪いても心は屈服しない。その証明を受けた犯罪者は―――

 「まぁ、子供ではなく女子高生二人を売りさばくことに変わるだけか。」

 あくまで淡々と己の目的を口にするのだった。悔し気に睨む博多弁天の二人。やり遂げたとはいえ、自分の身体はとっくにズタボロ。目線だけで相手を殺せないかと、橙色と翡翠色の瞳に殺意を乗せるのが精一杯だった。だからだろうか、近寄ってくる圧倒的強者の目線が逸れたことに、もっとも驚いたのもこの二人だったのだ。

 「新手か。ヒーローはいないのに、卵共は元気なことだ。」

 槌使いの目線の先を見れば、風に揺れる銀色。夜空に映えるそれは、まさにシルクロードの輝き。しかし同色の瞳に宿る憤怒は、星座と化した英雄たちのそれを軽く凌駕するほどのものだった。

 「うちの子分どもを・・・よくもやってくれたばいね!!」

 「「リーダー!!」」

 地べたに転がる大切な無二の仲間達。こんな自分なんかのために、関東くんだりまでついてきてくれた大事な子分達。それをここまでやられて黙っていられるほど、『博多弁天』の白虎は腐っていない。

 「『博多弁天』しろつめ寅子!!」

 「連れていく相手が増えたか・・・。」

 怒れる虎を相手に、大槌を構える歴戦の猛者は揺るがない。しかしその瑠璃色の瞳は、油断なく銀色の輝きを見据えている。

 寅子の両手から白い靄が溢れる。単なる霧にも見えるそれは冷気の放出。溢れるそれは、己の両手に肉食獣を思わせる氷の爪を形作り、その身に同じく鎧を作っていく。同じく口から吐き出される白いそれは、自身の頭に虎を模した兜を生み出していく。

 

 

1-A出席番号18番 氷川 寅子

個性:白虎 虎を模した氷の鎧を作れる。

 

 

 個性の発露。完成したそれを身にまとい、猫科動物を思わせる俊敏性で、鉄槌の使い手へと肉薄する。博多弁天の喧嘩は、まだまだこれからなのだから。




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その4
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=12813870
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