渾身の一撃。白虎の咆哮。裂帛の気合いと共に放たれた、今まで磨いてきた必殺の一撃。
それは寸分違わず大槌の使い手、その喉へと吸い込まれていったはずだった。そのはずだったのだ。もはや瀕死と言っても過言ではない、幼馴染にして子分たちの、文字通り命を燃やすかのような陽動。それは確実にかの犯罪者を蔓で縛り、雷にて動きを止めたはずだった。それも含めて---
「躱したぞ、『博多弁天』!」
見れば麻痺させられた身体を、本当に僅か逸らすことで、氷爪を正面から受けることを避けていた。そして少しずれた爪先を、ギリギリ間に合ったハンマー生成で弾く。それでも生み出された鉄槌が、血濡れで現れ地面に落ちるところを見ると、決してそれはベストなタイミングではなかったことが伺える。
「っつ!!」
この一瞬に賭けた、最後の一撃。
それを詰め切れなかった銀髪の女子高生は、未だ空中にありながら、頭の中にレッドアラートが響いたのを感じて身を捩る。直撃は避けた。掠めたにしては深く、当たったにしては浅い一撃。しかし、
「ぐっ、ああ、がっぐ!!」
そんな普段なら決して膝を着くような彼女では無いのに、地面に転がり声にならない悲鳴を上げる。
一撃の重さの違い。片や急所に叩き込んでもトドメをさせず、片や当たったとも言い難い一撃で致命傷となる。もらった瞬間全てが終わる、最初からわかっていた古強者との絶対的な実力差。
「氷で鎧を作りブレスを吐く個性・・・一昔前なら持て囃されたそれも、今の時代には荷が勝ちすぎているな。」
「ぐぅ・・・うるさいったい!!」
血に染まり砕けたその身体を転がしながら、距離を取る。
「武器を生み出すと考えたところで凡庸性があるわけでもない、そのブレスの効果範囲では支援にも向かない。」
「黙ればい!!!!」
なんとか子分たちを背に立ち上がり、雛鳥としての矜持を姿勢で示す。その姿勢を真っ向から否定する、戦闘者としての先達の言葉。
「貴様の個性が貧弱でなければ先程で俺が負けていた。個性の能力で言えば、『博多弁天』で最も足を引っ張っているのは貴様だ。」
「ッ!」
わかってはいたことだった。あらゆる植物を操り前・中・後陣全てに顔を出せる茉莉に、七色のブレスを操る吟子。まさに個性分岐点世代の面目躍如であるこの二人。同じ博多弁天の二人でさえそれくらいの個性は有している。
「雄英の中でも劣等生ではないのか?個性のレベルだけなら、そこらの子供の方か優秀だぞ。」
「うるさいったい!!!」
届くと思わなかった高校。幼馴染を巻き込んでやってきた関東。入った後は厳しくもバラ色の未来が待っていると思っていた。しかし蓋を開けてみれば、誰も彼も世代が違えば歴史に名前が残るような個性持ちばかりだった。氷の鎧を作る、ただそれだけの個性。誰が指摘するわけでもないけれど、自分が所謂落ちこぼれだというのは嫌でも認識させられていた。先の一撃だって、鉱哉なら、姫子なら飛天なら。そんな思いがない訳ではない。授業中だったなら不貞腐れていじけて終わりだった。しかし、今は-----
「それでもあたいしかおらんったい!!」
些か精彩を欠きながらも、それでも前へと飛び出す雄英高校一年生。今度こそもうなんの策も当てもない特攻。善意の一般人が気づいて援軍を呼んでくれるその時までは。例えこの後、生きて帰れなかったとしても。
「気持ちだけではどうにもならんぞ!!」
逆袈裟気味に振り切られる巨大鉄槌。神話におけるミョルニルかと見間違う程の一撃を、寅子は驚異的な集中力と天性の避け感でなんとか躱す。返す刀というより返す大槌で更に一撃。バックステップとサイドステップを繰り返し寸での所で見切る。そこから独楽のように回転し放たれる、横薙ぎの鉄槌。伏せては躱して跳ねては躱して。
「もはや万全ではないだろうに!!」
「ぐうう、くそったい!!」
痛みが身体を襲った刹那に僅かに鈍った白虎の動き。再び掠める破砕の一撃。掠めただけのそれは氷の鎧を砕き、皮を削ぎ、肉をえぐり骨すら潰す。しかし寅子は逃げ出さない。次に来る一撃を歯を食いしばって身を捩り、血風をまき散らしながら躱していく。
「リーダー・・・。」
「・・・リーダー。」
その様子をいつ気を失ってもおかしくない子分二人が眺めている。また一つ鉄槌が掠めたであろうしろつめ寅子の体。折れた骨は、氷の鎧で固定することで誤魔化している。彼女本人の血で、あの綺麗な銀髪はもはや見る影も無い。されど-----
「その目は未だ光を失わんか・・・。」
掠めるたびに骨は砕け、言葉でその可能性を否定されても、その驚異的な避け感が陰ることはない。そして何より、ヴィランを睨むその瞳に弱さは見つからない。まさに手負いの獣。追い詰められた今、リーダーの集中力は極限にまで達していた。
「雛鳥・・・。いや、その瞳はもはや本職のそれだな。」
そう呟いた古強者は、一度大きく下がった。寅子を挟んで博多弁天子分の二人と、その身が一直線になるように。
「誰かを守るヒーローは、殺さなければ立ち止まらない。故に強く、だからこそ脆い。」
「何・・・ばい?」
呟かれる言葉に疑問符を浮かべる寅子。個性は否定されど、その能力と才能を認められたことに、今はまだ気づけないらしい。圧倒的強者、それも敵にまで認められたということを。
「行くぞ。」
短い言葉で繰り出される、必殺の予兆。認められたからこそ繰り出されるそれは、確実に息の根を止めるために放たれる、確殺の一撃。
「槌振り・独楽撃ち。」
身体を軸に大槌を振り回し横回転。回転の規模を支えるのは自身の剛力だけではなく、その脚部から生み出され続ける鉄槌。そう、鉄槌を生み出す反動をその回転の威力に乗せて、大槌の一撃を必殺のそれへと昇華している。
「ははは、冗談にして欲しいたいね・・・。」
幾重にも加速され土煙すら巻き上がるそれは、もはや竜巻と言われる災害と同種のレベル。しかもその核は風ではなく、当たればミンチにされるだろう巨大な鉄槌。喰らったところなど、想像もしたくなかった。
「・・・くそったればい。」
いくら修羅の国でレディース総長を張っていたとしても、まさか大自然相手に喧嘩をしたことなどある訳がない。普通に撫でられるだけで、その氷の鎧は砕かれ骨を潰されてきたのだ。目の前に出現した戦槌の大竜巻をどうにかする方法など、寅子の辞書に載っている訳がなかった。しかし背後を確認してみれば、悶え苦しむ子分達。今まで支え合ってきた、本当に大切な友達。自分がトドメを刺せなかったからこそ、そこで悶え苦しんでいる友達。関東くんだりまで、巻き込んで連れてきてしまった友人達。
「避けるか?避けてもいいぞ。後ろがどうなってもいいならな。」
そして脳裏に蘇る憧れの、初恋の人の姿。動画サイトに上がっている第二次神野戦線での雄姿。仲間を分裂させ襲い来るヴィラン。逃げ遅れた市民病院を背に、守りながら戦った爆心地の姿。
そんないろいろな思いが氷川寅子の頭を交差して、彼女は前を向くことを決断する。
「上等ったい!!!やれるもんならやってみろばい!!!」
「その意気や良し!!!」
「リーダー!!!」
「っつ、リーダー!!!」
明らかに一介の女子高生がどうにかできる訳がない、圧倒的強者の必殺相手に挑もうとする、そんなリーダーに対し声をかける吟子と茉莉。逃げて欲しい。自分達のことなんて無視しても構わないから、頼むから逃げて欲しい。そんな縋るような叫びを受けた寅子は、もう一度だけ振り向いて、
「お前ら、ありがとな。」
その言葉だけ残し前へ走った。
「リーダー!!!!」
口が大きく裂けている。口裂け女だと言われていじめられていたそんな子供の頃。男子にマスクを奪われていじめられていた自分のために、飛び込んできたのがリーダーだった。
『クヨクヨしたら舐められるばい!舐められてしまったらバカにされるだけったい!』
自分だって男子に囲まれてボコボコにされていたのに、吟子に立ち上がるように促し、手を引いてくれたあの日。
「リーダー!!!!」
植物女、デブで気持ち悪い。そう言われていた自分の手を取って、すごい個性だ羨ましいと言ってくれた。泣いてばかりいた自分に、厳しくも優しい言葉をくれた。
『バカにされたらいじめられるだけったい!母ちゃんに心配かけないためにも、涙はこらえて頑張るばい!』
己の個性に誰よりも劣等感があった癖に、泣いてばかりいた茉莉の手を引いてくれたあの日。
いつだってしろつめ寅子は、博多弁天のリーダーは、どれだけ失敗したって、どれだけ情けないところがあったって、吟子と茉莉にとってのヒーローだから。
死地に飛び込むその背に向けて、子分二人が叫び続ける。掠れて血を吹き出し声なんて出ないはずだけど、頼むから逃げてくれと吠え続ける。
「名を、聞いておこうか。」
飛びかかる刹那、ヴィランでありながらどこか武人気質な、そんな偉丈夫が問いかけてくる。瞠目する寅子。博多弁天と名乗りかけて、思いとどまるのは一瞬。せめて最後くらい、本当にせめて最後くらい、あの人の生徒だということを名乗ったっていいじゃないかと思ったから。
「雄英高校1-A出席番号18番!!リザーリィと、爆心地の教え子!氷川寅子ったい!!!」
大槌の使い手が覚えておくぞと言った時には、血みどろの身体をごり押して、彼へと飛びかかる不屈の白虎。そして彼女に降り注ぐ、竜巻の域へと到達した大鉄槌。
「「リィダアアアアアアアア!!!!」」
子分二人の絶叫。それをかき消すかのように周囲へと響き渡る、まるで玉突き事故でも起きたかのような衝突音。鉄が砕けちる甲高くもありどこか鈍くもある衝突音は、人間一人潰したにしてはどこかおかしな響きを伴っていた。当たり前だ、何せ砕け散ったのは、古強者が振り回す鉄槌の方なのだから。
「よく頑張ったな女子高生。」
衝突の瞬間飛び込み、自分の身体を抑えてくれたその存在。死を覚悟したが、決して塞がなかったその目を上に向けてみれば、赤髮の鬼がそこにいた。
「ビルボード№10・・・『不壊』の、」
紹介の走りは、必殺を止められ悔し気な表情のヴィランが担ってくれた。そして続きは、ギザギザの歯を見えるように大きく強く笑いながら、本人が受け持つ。
「剛健ヒーロー『烈怒頼雄斗』、推参!!!」
pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その6
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