爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その6

見上げてみればプロヒーロー。しかもそこらの有象無象ではなくて、ネットやCMでもしょっちゅう取り上げられるビルボード上位ランカー。都合のいい夢でも見ているのか、寅子は現状が理解することができずにいた。

 「三途の川向こうは、随分良い夢を見せてくれるばいね・・・。」

 「それで終われば単純なんだがな・・・動けるなら後ろの子達の所まで下がっててくれ。」

 幻かと思った赤い鬼は日本語を喋った。どうやら寅子にとって都合のいい夢でもあの世が見せる幻でもないらしい。指示に従い子分二人のところまで下がろうとする女子高生は、一度だけ振り返ってヒーローの姿を垣間見る。鬼のような姿は鳴りを潜めて、今は硬質化したような人間の姿に戻った『不壊』のそれ。今はまだひよこでしかない彼女は、空を羽ばたく先達の背を眩し気に見て、仲間の元へと戻っていくのだった。

 

 リーダー良かった!本当に生きてて!

 後ろから聞こえてくる間に合った証。所々目に見える血の跡がなければ尚良かったが、命があっただけでもめっけもの。それこそこのクラスが相手なら、そこらのプロでさえ命はなかったであろうそれほどの事態。

 「っシ!!」

 必殺形態-----安無嶺過武瑠を解除し、通常の硬化状態に戻った鋭児郎に、迷い容赦なく鉄槌を打ち込んでくる悪の精鋭。その一撃を、両腕をクロスさせることで受け止める鋭児郎。周囲へと再び響き渡る轟音。およそ人体へと向かって放たれたとは思えない甲高い衝突音。今度は大槌も砕ける訳ではなく、その姿を維持している。

 「糞!!」

 必殺ではなく通常状態ならあるいはと、叩き込んだ大上段からの一撃。それを受け止められ、距離を取る偉丈夫。させるかとばかりに距離を詰めようとするヒーローに、小型の槌を一度に六本その腕から生成。そのまま腕を一振り発射させて、追い足を止めようとする。が------

 「牽制してるつもりならめでてぇな!」

 相手は頑強さなら間違いなく上位に食い込む『不壊』。飛来する鉄槌を諸共せず、№10はヴィランへと突っ込む。

 「烈怒頑斗裂屠 !!」

 「ッ!おのれ!!」

 そのままの勢い全てを乗せて放たれる、誰よりも硬い右拳。大槌の柄で受けるものの、余りの衝撃に腕に痺れが走る。

 「まだまだいくぜ!!」

 空いている左拳、更には学生時代はメインで使わなかった足技まで含めたコンビネーションで、鉄槌の担い手を追い込む剛健ヒーロー。その絶対硬度を誇る連打を前に、手が出ず受けに回るしかない古強者。

 「なんの!!!」

 しかしそこは彼も強者に名を連ねた男。襲い来る連撃の僅かなズレをついて、大槌を振るう。それが誘いであることも気づけずに。

 「烈怒交吽咤!! 」

 振り切られた破砕の一撃を受けず躱して、もっとも体重が乗る瞬間を見逃さず、烈怒はカウンターをぶち込んだ。

 「くほぉわ!!!」

 腹部に突き刺さった右拳。今までとは違い、今度は己が狩られる側と化してしまった悲しきヴィラン。それを象徴するかのように、彼はそのまま尻餅をつき見下ろされてしまう。その眼光こそまだ折れてはいないまでも、実力差は明白だった。

 「なぜ関西中心で活躍する男が・・・こんな所に!!」

 「ちょいとプライベートでな?連れの女が泣きべそかいた子供を保護したんだよ。状況聞いて、まだ近くにいた俺に連絡くれたんだ。」

 鋭児郎のその言葉に反応する博多弁天子分組。自分達が守り通した子供が無事で、しかも助けまで呼んでくれたことに思わず涙がこぼれた。

 「そういう訳だ。さぁーて、」

 未来ある若者が身を挺してヒーローが何たるかを示してくれた。個人的にはいろいろあるものの、その先達として、彼はその身を硬化し職務を全うせんと前を向く。

 「先越されちまったんだ、後は任せろ。」

 「舐めるなよ『不壊』!!」

 言葉と共に、臀部からハンマーを生成。その反動を活かして一気に加速。立ち上がるだけでなく、その勢いのままハンマーを叩きつける。

 「効かねえなぁ!!」

 「なんの!!」

 硬い男を叩いて反動で跳ねた鉄槌の勢いそのままに、その身を回転させる大槌使い。体から直接生やした鉄槌で、今度は逆サイドへと打撃を加える。そのまま二つ三つと叩き込んでいく暴虐の嵐。二度もカウンターは取らせんぞとばかりに、叩きつけた反動を活かして攻め立てていく。

 「一体いつまで硬化していられるかな!?」

 狙いは鋭児郎のスタミナ切れ。個性が特殊能力ではなく身体機能の一部である以上、必ず隙ができると信じての猛連撃。それこそ-----

 「最大硬化は長時間使えないだろうしな!!」

 己の必殺技を真っ向から防いだ安無嶺過武瑠。恐らく切り札であるそれは、そう何度も使える代物ではないはずだ。使われたところで距離を置けばいい。そう割り切って、歴戦の強者は『不壊』へと闘いを挑む。

 「槌振り・連なり撃ち」

 手で持つだけでなく、大中小様々な鉄槌を全身に生やし、至る所から剛健ヒーローを攻め立てる、ハンマーの多重演奏。そのオーケストラが奏で続ける破砕音は、甲高くも不気味な不協和音を周囲へとまき散らしていく。幾重にも積み重なるそれが、ヒーローの命へと届くことを信じて。

 「こんな所で終わるつもりはないのだからな!!」

 アウトローへと堕ちた偉丈夫は、これまでの人生でそうしていたように、その槌に全てをかけていく。

 

 

 「なんちゅー闘いたい・・・。」

 最初にそう呟いたのは、植物の個性で折れた骨を固定する茉莉だった。その翡翠色の髪は自身の血に汚れ、もはや見る影もなくなっている。しかし、そこは勿論レディースで鳴らした『博多弁天』だ。血の汚れなどかえって血化粧だとでも笑うタイプだ、片時も気にはしていない。

 「何やってるかくらいはわかるばい・・・。」

 少し容態が落ち着いたのか、遠距離担当の吟子が茉莉の呟きに応えた。その内容は些か心許ないものだったが、実力差を考えたらそんなものだろう。乱舞するかの如く躍動する大中小、まさしく十人十色な鉄槌が剛健ヒーローを襲い続けていた。烈怒が受けに回って、守りを固めているのがわかる。

 「でもあのままじゃ・・・。」

 「そうたい、いずれ硬化も解けちまうったい。」

 オールラウンダーと遠距離担当、それも学生の二人から見ても、その異常な連撃を個性で受け続けることは簡単ではないと予想できた。それこそ身体機能の一部である個性。正面から受け続ければ負担も大きくなるのは自明の理だ。息を吸わずに、走り続ける人間はいないのだから。

 「いや、そうでもないばい。」

 「「リーダー?」」

 異を唱えたのはリーダー兼任近接担当の寅子だった。全身に残る痛々しい傷は、二人の子分と個性を駆使して応急処置を済ませている。その白虎の眼光が捉える鋭児郎の動き。それはただ、個性を盾に殴られている訳ではなかった。

 「全部、受け流しとーと。」

 

 

 『頭を使え、馬鹿の一つ覚えか。』

 鋭児郎がその顔を見上げれば、出会って一年以上にはなるであろう、見慣れた担任の顔があった。

 『相澤先生・・・。』

 『簡単に拘束されて投げられてお終い・・・いつものパターンだな。一年の頃からだぞ。』

 個性を使った組手をする授業内容。相手は道具を生み出す個性を持つ同級生、八百万百。一対一なら、近接で殴れば簡単だと突っ込んだのが運の尽き。彼女が創り出した投網に全身を巻かれて、先程救出されたところだ。

 『何か考えたのか?思考停止ほど非合理なことはないぞ。』

 『いや、まぁ、とりあえず、必殺を鍛えることは考えてんですけど・・・。』

 それこそ彼の必殺技なら、拘束されようが何しようが耐え抜くことができる。学生にしては幾度も乗り越えてきた死線が、『肩』の個性を持つヴィランが、それを認めてくれていた。

 『それだけじゃ合理的じゃない。必殺が生きる土俵に連れ込むのも、戦いの一つだ。』

 ただ闇雲に鍛えればいいわけじゃないってことまで、ちゃんと説明しといて欲しいもんだ。そこまでしっかりかつての英雄に聴こえるようにボヤいたのは、恐らくわざとなのだろう。

 『し、しかし、彼のような個性なら下手な小技を使うよりも・・・』

 『別に必殺を鍛えるなとは言っていません。ただ誰もがあなたのように、めちゃくちゃできる訳じゃないんです。』

 ちょっと申し訳なさそうに言い訳をする、元平和の象徴をいなしてぶった切る我らがイレイザーヘッドの舌鋒は、今日も実に合理的なようだった。

 『そもそも必殺を鍛えるったってそれだけでなら限界がある。』

 そのまま鋭児郎に説明を続ける、人間が人間として戦うために努力し続けてきた先達。

 『発動時間の限界、発動回数の限界・・・必殺を鍛え威力が上がれば上がるほど、どちらも維持するのが難しくなる。』

 『なら、拘束されたり動きを封じられたら、安無嶺過武瑠じゃ意味がないってことですか。』

 『まぁそういうことだ。あの技は誰よりも強い盾にこそなるが、捕まれて投げられた盾に意味はない。』

 歩ける盾なら大丈夫という訳でもないからな。そう言葉を締めくくった相澤相手に、鋭児郎はその視線を下げてしまう。ようやく手に入れたおもちゃが、なんだかとってもつまらないものだとわかった子供のような。

 『それで切島、お前何時間硬化してられる?』

 しかし叩くだけ叩いて終わりではないのが、そこでへしょげているダメな教師との違いだった。

 『えと、まぁ、2.・3時間なら・・・。』

 『なら今後はもっと長くできるようにしろ。意識がある時絶えず発動できるようになったなら、今後は寝てても使えるようにしろ。そして、』

 そこでイレイザーヘッドは言葉を切り、真っ直ぐに鋭児郎の瞳を見た。答えが見つからない若者に、道を示すかのように。

 『体に衝撃が残り続けないように、受け流すことを覚えろ。そうすれば硬化の持続時間は長くなる。その方が真っ向勝負で受け続けるより合理的だ。それこそ、拘束系の技や個性も受けにくくなる。』

 『なるほど!・・・じゃあ早速、教えてください!相澤先生!!』

 言葉での説明と共に捕縛布を構えていた、自身の担任相手に、鋭児郎は吠えた。

 『まずはこの捕縛布の動き、力のかかり方を覚えろ!!』

 それはまだ無邪気に夢を追い続けるだけで良かった、青春の1ページ。

 『お願いしゃっす!!!!!』

 しかしこの1ページが、彼を『不壊』とまで呼ばれるほどのヒーローになるための、大切な1ページとなったのだった。

 

 

 「糞!!」

 何十何百打ち込んだか分からない槌の連撃。それを受けるどころか力を逃がされ、流し躱され続けたヴィランの瞳に浮かぶのは、明らかな焦燥だった。自分が打ち込み続けた剛健ヒーローは、個性が解除されるどころか息一つ乱れていない。

 「№10は、もっと個性を使ってゴリ押ししてくるタイプだと思っていたが!!」

 「個性に頼ってんのは間違いないがな。」

 答える赤髪の青年。そのギザギザの歯が見えるように、笑みを浮かべるその表情は、あの日とは違う一人前のヒーローのもの。かつてのひよこは、今はもう立派に空を翔けているのだ。

 「そもそも受け流すのだって生身の体じゃ限界がある。金槌を受け流せる生き物なんかいねーからな。だがら個性は絶えず発動してる。それを活かすための、受けの技術だ!」

 今も尾白猿夫の道場に通うのは、その技術をより鍛えていくため。個性と技術の二段構え。だからこそ彼は、『不壊』と呼ばれるところまで来たのだから。

 ヴィランが動揺からそのまま槌の動きを狂わせて、それを見逃さず、あの日は見慣れなかった蹴りを、烈怒頼雄斗は彼の身体にブチかます。拳がそうであるのなら、その足もまさしく絶対硬度。

 「ぐほぉお!!」

 再び尻餅をつく大槌の使い手。その眼光は未だ折れぬものの、打開策の見つからない現状は、彼の心を蝕んでいく。

 「神妙にお縄につけって奴だ!!諦めろ!!」

 そう突きつける剛健ヒーロー・烈怒頼雄斗の姿は、まさにまごうことなき、№10に相応しいそれなのであったのだった。




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
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次話→切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その7
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