爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その7

「やはり真っ向勝負で、ビルボード上位ランカーを相手にするのは難しいか・・・。」

 二度尻餅を付かされ、致命的なまでに力の差を突き付けられた大槌の使い手。視線が下がったその瑠璃色の瞳に、暗い影が落ちる。事実その戦力差は如何ともし難いもの。必殺は砕かれ、連撃は防がれスタミナすら削れなかった。一対一ならこのまま諦めるしかなかったであろう。そう、一対一なら。

 「そう思うならここらで終わりだ。さっさと警察に連れてくから・・・。」

 「なら些かヴィランらしいことをさせてもらおう!」

 言葉ともに臀部よりハンマーを生成。その生成よる反動を活かして加速し、烈怒頼雄斗を回り込むように何度もそのスピードを速めていく。狙いは、

 「後ろの三人か!?」

 「守るものが多くて大変だな?ヒーロー!!」

 言葉ともに、いつ意識を失ってもおかしくない三人目掛けて鉄槌を振り下ろす、生粋のアウトロー。しかし『不壊』の№10も黙って見ている訳ではない。強引に間へと飛び込みなんとかその身を盾にすることができた。が---

 「・・・ヒットアンドアウウェイ、戦法自体変えてきたな・・・。」

 見れば先程まで真っ向から打ち合っていた偉丈夫は、一打打ち込む度に距離を取るスタイルにその動きを変えていた。それも必ず、打ち込む場所は後ろの三人。

 「ヴィラン相手に、今更卑怯だとは言わせんぞ!!」

 「あぁ、そうだろうな!」

 答えを返し打ち込んでくるそれを、強引に割って入るため受け流ず真っ向から受け止めてしまう剛健ヒーロー。それでも長い時間は持つが、負担は重くなる。それに-----

 「時間をかけれないのは俺の方か・・・。」

 見れば後ろの三人、未だ羽ばたくことが叶わないひよっこ達。その深刻なダメージは速やかに救急搬送が必要なレベルのはず。意識を失わず、対峙する犯罪者を睨みつけているのは、もはや意思の力というより他は無い。

 「あんたら、しっかりしろったい!!」

 銀眼の、血塗れの女の子が発破をかける。恐らく自身ですら、息も絶え絶えなはずなのに。

 「ヒュー、ヒュー」

 呼吸が曖昧だが、口を開けて相手を探るように睨みつける、橙色の瞳。少しでも隙があれば、個性を使う気なのかもしれない。

 「吟子無理ったい、身体がもたないったい!」

 大きな身体に植物を巻き付け、ギブス代わりにしている女子高生が、前述の仲間に声をかける。お互い支え合う、未来ある若者。自らも多くの大人に救けてもらった男は、その誰よりも硬い身体を奮い立たせて、鉄槌のデストロイヤーをその眼光で睨みつける。

 「守るものが多いから、ヒーローは負けねぇんだよ!!」

 「なら証明してみせろ!!」

 言葉ともに再び振り下ろされる破壊の一撃。絶えず回り込みながら打ち込まれるそれは、確実に『不壊』の体力を削り奪っていく。そんな中思い浮かぶ、当然の疑問。一人や二人ぐらい居てもいいはずのヒーローが未だに顔すら出さないこの現状。加えて---

 「裏路地ったって、この物音で、誰も見に来ないとかおかしいだろう!?」

 剛健ヒーローのその身体を打ち付ける大鉄槌。何度も真っ向からぶつかるその轟音は、いくら何でも目立つもののはずであるのだが、誰か一人でも見に来る通行人や見物人がいないのはおかしな話だ。

 「集団的犯行!?どちらにしろ・・・。」

 「考え事はここを乗り切ってからにしてもらおうか!!」

 距離を取り、猛烈な勢いで飛び込んでくる古強者。その勢いを余すことなく、その鉄槌に乗せて打ち込んでくる。カウンターが取りずらいそれは、あくまでかの偉丈夫の技量によるものだ。実力差はあれど、他所事に気を取られて完封できる相手ではない。脳裏によぎる、先程まで食事をしていた元サイドキックの姿。

 「ちっくしょうが!!」

 同時に二人で作った必殺技の存在まで思い出し、されど気合い一発!もう戻らない幻影を咆哮一つでかき消して、鋭児郎は再び、その眼光を犯罪者へと向けるのだった。

 

 

 時間を本当に少しだけ遡る------

 「付いてきて!」

 かつての同級生へと電話し、現役生のピンチを伝えた後、元ピンキーこと三奈は被害者である少年の手を取り大通りまで歩いてきた。後はこの子を然るべき機関に預けて、一般人である自分はお役御免だ。そうすることで、単なる善意の範囲でしかないもの、それを終わらせるはずであったのだが---。

 見渡して気づく、ヒーローの少なさに。

 「まさか、パトロールの範囲時間外?」

 ヒーロー飽和時代は形を変え時を経て、今やヒーロー副業時代と呼ばれるようになってしまった。ヴィランの減少から弱小事務所は閉鎖が相次ぎ、サイドキックは大量失職。それによる、市民へと目を向けてくれるパトロールの時間も減少。時間帯によれば、その範囲時間外となるスポットが生まれることになってしまった。

 「よりにもよって、こんな時に!?」

 その間の悪さを、単なる偶然と感じるか必然と読むかの違いは、流石に現役を離れた三奈には判断が難しいところであった。しかし、今結果としてパトロール中のヒーローがいないのだ。なら次善の策を検討するしかない。

 「お、お姉ちゃん・・・。」

 「んーん、大丈夫だよ!」

 要救の前ではまず笑顔。ともかく不安にさせてはいけないのだ。見上げてくる幼き瞳に零れるような笑顔を返し、明るさの代名詞と呼ばれた彼女は、次善の策として警察へと連絡を取る。しかし---

 「一番近くのヒーローでもそんなに時間がかかるんですか!?」

 『現場まで警察官ならすぐに到着できますが・・・。ご存知の通り烈怒頼雄斗の援護となるど、我々では足手まといかと・・・。』

 勿論要救助者の回収だけなら彼等だけでも十分である。しかし、それだけなら最初からこの子を救急搬送でもしてしまえば良かっただけの話だ。どちらにしろ大通りまでは出た方が良かったものの、今の『不壊』では決定打にかけることを、元相棒は誰よりも知っていた。他ならぬ、自分がそこに居れたなら。

 「免許自体返納した訳じゃないから、戦えない訳じゃ、ないんだけど・・・。」

 元々青味が強い肌の色とは言え、明らかに顔色が悪くなる。それこそ個人的理由により、あまり激しい運動はできない状態だ。それこそ脳裏に浮かぶ過去の幻影が、積み上げられた遺体の数々が、元ヒーローの身体と心を縛り付ける。

 「お姉ちゃん、大丈夫?」

 自分だってさっきまでボロボロ泣いていた癖に、それこそ何度も転んだ膝小僧は擦り傷まみれでズタズタなのに、隣にいる誰かを心配できるこの子は、きっと優しい大人になることだろう。そんな風に、育って欲しいと思うから。

 「お待たせしました!」

 見れば先程の通報を受けた警察官がぞろぞろと顔を出してきた。未だヴィラン受け取り係という蔑称も、事実、個性が使えず歯がゆい思いをしているのは変わらないけども、誰かを守りたいというその瞳の炎は、きっと昔から変わらないものであるはずだから。

 「・・・この子を、お願いします。」

 「ありがとうございます!烈怒頼雄斗の応援も、このまま我々ができる範囲でさせていただきます!」

 ぶっちゃけ手足は震えっぱなしだ。吐き気だって止まらないし、なんなら頭だって痛くなってきた。フラッシュバックでメンタルだってぐちゃぐちゃだ。正直もう今からだって帰って寝てしまいたい。けれど、でも。

 「烈怒頼雄斗の応援は、」

 あの時部屋の前で自分を待っていた彼の声が、ちゃんとこの耳に残っているから。

 「私が行きます!!」

 

 

 時間を稼ぎ、焦りから生じたミスを突く。一見よくあることかもしれないが、格上を突き崩すためには有効な一手だった。今回もその例に漏れず、確実にヒーローの動きは制限され始めている。

 「くっそ!!」

 一定の距離。こちらが詰めようとすれば、後ろの三人を狙うであろうことはわかりきっていた。そうならないために、そうさせないために。幾度なく行ってきた『硬化』をその身に宿して、烈怒頼雄斗は決して壊れない『不壊』となる。だが------

 「今必要なのは、その一手じゃねーんだよ!!」

 「相棒がいないと随分手札が少ないな!!」

 対峙している敵にまで言われたら元も子もないのだが、それこそ鋭児郎がわかっていて放置した結果だった。遠距離担当がいない、捕縛要員、索敵要員も右に同じ。全てはいずれ、もし万が一でも帰ってきてはくれないかなんて、そんな酷く漢らしくないカッコ悪い理由で。

 袈裟懸け気味に振り下ろされる鉄槌を、再びその腕で受けとめ、腕とハンマーという世にも奇妙な鍔迫り合い。そのとても近い距離で睨み合う、永遠の宿敵同士。交わす言葉に、お互い慈悲は一切存在していない。

 「ピンキーが抜けて何年経つのが知らないが、相棒を補充しなかったのは傲慢だったな!」

 「余計な心配をどうもありがとよ!!」

 言葉と共に膝蹴りを放ち距離を取らせる。仕事だけでも戻れないかと言えないのは、せめて三奈が好きでいてくれた自分のままで居たかったから。漢に憧れて真っ直ぐ走る、あの子が見てくれた自分で居たかったから。だからそれを------

 「どうこう言われる筋合いはないんだよ!」

 「だが一人の英雄だけでは辛いぞ?」

 「!?」

 再び回り込んでくる凶悪犯。いい加減打開策が見えず、応援が滞る現状に、焦りが顔を出し始める№10。だからだろうか。そこに飛び込んできた声に、そこに飛び込んできたその姿に、誰よりも驚いたのは、他でもない切島鋭児郎本人だったのだから。

 「『アシッドプール』!!」

 まず空から降り注ぐのは、粘性を伴った強酸。それは地面を溶かすことはできず、人の体はしっかり焼く類のもの。それが水溜りと化して、古強者の直線的な移動を遮り逃げ道を潰す。

 「おのれ!!」

 「なんで、お前、身体は!?」

 見れば警官隊も駆けつけてくれたのか、部外者が立ち入れ無いようテープで区画を作っている。それでも三奈が来てくれたことで呆然としているのか、頭が回っていない烈怒頼雄斗。その呆けた№10の代わりに、震える『善意の一般人』は仕事を遂行していく。

 「良く頑張ったね!!女の子達名前は!?」

 「え・・・。」

 「なんで、名前なんて・・・」

 「警官隊が来たから、後追いでも個性使用の許可を出さないと、君たち捕まっちゃうからね!誰か一人でも構わないから、話せる子は名前を教えて!」

 そのヘアセットで作った自分のものとは違う、本物の角が揺れている様子を見ながら、鋭児郎はようやく現実へと戻ってくる。

 「烈怒頼雄斗!速やかに許可をお願いします!」

 「お、おう!」

 聞き取ってくれた名前に個性使用の許可を承認。これでこの子達は、個性無断使用の軽犯罪者から勇気ある若者たちにクラスチェンジできた。それを確認して三奈は、自分しかできず、自分がここ来た一番の理由を行動を持って示す。

 「させん!!」

 烈怒頼雄斗とピンキー。二人揃えばどうなるか、それはヴィランの世界でも名が知れた必殺技。それを止めようと酸の海を渡ろうとする古強者。そこへ------

 「セメントガン掃射!ッてぇ!!!」

 警官隊のセメントガンが火を吹いた。圧倒的な個性の運用ができる古強者相手では、せいぜい時間を稼ぐのが精一杯であるのだが、今はその時間が何より欲しいのだ。

 「ピ、ピンキー・・・」

 「烈怒頼雄斗!!」

 誰よりも明るくて、みんなのムードメーカーだった。

 誰よりも側に居て欲しくて、ただ一生懸命に走り抜けた。

 誰よりもわかってくれていて、いつだって声をかけてくれた。

 誰よりも君との未来を守りたかったから、二人で一緒に考え抜いた。

 「烈怒頼雄斗・安無嶺過武瑠。」

 それは一人で届く絶対硬度。誰よりも硬い異形な鬼の形。その無骨な姿に、三奈の影が重なる。

 「ピンキー・アシッドマン。」

 安無嶺過武瑠を真似て作った。そうやって笑いあったことは、ちゃんと覚えているから。重なったその手が、鋭児郎の腕をなぞる。唯一安無嶺過武瑠を溶かせる粘液で、その無骨な身体を整える。

 「本当に、私がいないとダメなんだから。」

 無骨な身体は流線型の鎧のごとく溶けて磨かれて、その両腕にはまるで、一対の翼のようなガントレットブレード。

 「ありがとう。三奈。」

 知らず大好きだよと呟いたのは、聞こえてなければいいな。

 

切島鋭児郎 個性『硬化』

身体がガッチガチに硬化する。最強の盾にも、そして------

 

 「安無嶺過武瑠・七五十猛怒!!」

 

------最強の、矛にもなる。

 

 「おのれぇぇぇぇええええ!!!」

 その変貌を目にした古強者が、騎士の鎧と刃を手にした鬼へと飛びかかる。大局は決したにもかかわらず、いや決したからこそか。自棄になりその大鉄槌を振り回してくる。

 「武礼怒交吽咤 !!」

 拳ではなく、そのガントレットから放射状に伸びるその刃で。大槌のハンマーヘッドへとその刃を叩きつける、『不壊』と呼ばれる№10。本来なら刃が負けて、割れるか刃毀れしてしまうのだが------

 「なん・・・だと!?」

 真正面から叩きつけるられたそれは、犯罪者にとって代名詞である大鉄槌を、技術ではなく刃の硬さのみで切り裂いていく。あまりに非現実すぎるその光景。鉄を真っ二つにできる刃物など、ファンタジーの世界でしかお目にはかかれない。それをこの、現実の世界で。

 「バカなあああああああ!!!」

 「トドメだ!悔い改めやがれ!!」

 剛健ヒーローは失意の犯罪者から一旦距離を取り、身体を加速させる。全身全霊の体重移動。それを余すことなくその刃に乗せて。世界で最も大切な人が授けてくれた、その世界で一番鋭い刃に思いを託して。

 「武礼怒頑斗裂屠!!」

 逆袈裟気味に振りぬかれたその刃が一閃。叫び声すらあげることができず、大槌の使い手は、血を吹き出しながら崩れ落ちた。ギガントマキアすら切り裂いた、絶対硬度の斬撃。まさに№10の、面目躍如であったのだった。

 

 

 

 血だまりの中、倒れたヴィランは救急隊が運んでいき、同じく死線を潜り抜けた女子高生達も運ばれようとしていた。全身ズタボロ。意識があるのが不思議なのは、くぐった修羅場の御蔭なのかもしれない。そんな決してありがたいような、けど社会的にはあまり自慢できないことに思いを馳せていると、赤い影が差した。

 「こぉらガキども!!」

 「いたっ!」

 「おっ・・・痛っ~~」

 「あたたたた、死ぬったい」

 言葉がかかるやいなや、顔を確認する前になんと全員、世界で一番硬いデコピンが直撃した。死ぬ。

 「まだ免許も持ってないガキがしゃしゃり出たら、それこそ一発で捕まってもおかしくない話なんだよ。」

 「でもったい、あそこで引くぐらいなら、それこそ死んだ方がマシばい!!」

 「だから覚えとけ。」

 デコピンの後も反抗し、言い募ろうとするのはやはりリーダーである氷川寅子。銀髪は見る影もないがその負けん気だけは健在だ。そんな彼女に、いや彼女達に、ようやく注意する側になった元雛鳥は言葉を述べる。

 「決して一人にはしねぇ。今回は遅れちまったが、俺は、俺たちは必ず守りに来る。ヒーロー科とは言え、まだお前等は守られる対象ってことを、絶対に忘れないでくれよ。」

 そのギザギザの歯が特徴的で、爽やかかつ朗らかな笑顔。筋骨隆々とした身体も、好みの女性が見ればドツボにはまるであろう仕上り。そしてピンチの時に駆けつけてくれた、そんなシチュエーション。

 「あ、まぁなら、次からそうするったい・・・。」

 「ははははっ、まぁプロになるまで次なんかねぇ方がいいがな!」

 「落ちたったいね・・・。」

 「わかりやすいばい。」

 博多弁天リーダーのリピート再生トップの動画が、爆心地から№10の物に変わったようだが、それはまた別の物語で語ることになるのだろう。

 

 「三奈!!」

 声をかけてくる元相棒。犬みたいに駆け寄ってくるその姿に、懐かしさと僅かな愛しさを湧き上がる。

 「切島、今日はお疲れ様でした。」

 ペコリと頭を下げて、顔を見ないようにする。当たり前だ。所詮今日限りで、今だけのお手伝いだ。あくまで善意の一般人。それが今の私で、これからの私だ。

 「どうだった、久しぶりの現場は?」

 しかし敢えて気づかないようにしてくる、最愛だった人。戻ってきて欲しいって言いたいんだろうなって、それが透けて見えてしまうくらい、付き合いが長いから。

 「ごめん、やっぱり震えが止まらないんだ。」

 それ以上を言わせないために、事実だけをはっきり伝えた。残念だなあとは思う。戻りたい気持ちがない訳ではない。でもそれでも、この身体はもう以前のように彼を支援し続けることはできないから。

 「そ、そうか。でもまぁもっと症状もよくなるかもしんねーし、」

 「それにね、私、」

 ちゃんと言い切らないといけない。大好きだった、憧れだったヒーローは、こんな所で止まったままじゃ困るから。ちゃんと、前に進んでもらうためにも。

 「妊娠してるんだ。」

 「そっ、か。そうか・・・。だから、今日も、ノンアルで・・・。」

 「だから、ごめんね。」

 三奈が辞めた後も、サイドキックを採用せずに仕事を回していたのは彼女も知っていた。もう無理だってわかっては居ても、中途半端に二人で会っていたから、希望を持たしてしまっていたのもわかっていた。彼女の貼り付けた笑顔には、きっと気づいていただろうけど、お互い踏み込まずになぁなぁになってしまっていたのは、他でもなく三奈本人にも責任があると思っていたから。

 ごめんね大好きだった人。今日ちゃんと、決着つけるから。

 「鋭児郎と居た時間は本当に楽しかった。メンタルはその個性と程遠い癖に、頑張る姿や、それでも手を引いて前を歩いてくれるところは、可愛いと思ったし本当にかっこよかった。」

 切島は目を逸らすだけではなく、身体ごと後ろを向いて視線を逸らした。けれど敢えて指摘はしない。だって、たぶん見られたくはないだろうから。

 「でもごめんなさい。私が歩けなくなった時、手を引くんじゃなくて、隣に寄り添ってくれたのは、この子のお父さんなんだ。」

 豪快に、ともかく前へと進む鋭児郎ではない。居心地良く側に居てくれた、ヒーローを辞めた上でも隣に居てくれた、そんな彼を好きになってしまったから。

 「だからごめんね鋭児郎。私は、前へ進むから。」

 「今、三奈は今、」

 振り向いた姿勢はそのままに、そこまで黙っていた鋭児郎が言葉を投げた。ただ声の震えから、全部わかっていたけれど。せめて彼の最後の強がりぐらいは、ちゃんと拾ってあげられる女で居たかったから。

 「幸せなのか?」

 ・・・黒目と角、そして生まれながらに紫がかった肌の色が特徴的な自分。この歳まで、その外見を特別気にすることなく過ごせた。それはたくさんの人達から愛された証だなって今では思う。切島だって、そんな愛をくれた一人だった。そして私は今、最愛の旦那と、その愛の結晶をこの身に宿せてる。だから------

 鋭児郎はこの時振り向いた方が幸せだったかもしれない。しかし同時に振り向いていれば、大きく傷ついていたであろう。それはそうだ、なぜならこの時三奈は彼の質問に答えつつ、

 「はい、幸せです!!」

 一度は失ってしまった、あの花が咲き誇るような、そんな笑顔を見せていたのだから。




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→切島「爆豪が雄英高校の先生だってよ!漢だな!!」芦戸「それ言いたいだけでしょ!!」 その8 
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=13450276
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