口田君「ば、爆豪君が雄英で・・・って僕が期末テストの試験官!?」 その1
「口田君ーーーー!!おーーい!!」
毎日の業務である餌遣り。筋骨隆々とした、森林を統べる剛腕---ゴリラ達に向けて彼等の食料を配っている最中だった。第二次神野戦線が終結してから、副業として務め始めて幾ばか経つが、このように自分の知り合いが訪ねてきてくれることも、なかなかに増えてきた。声に反応して顔を上げてみれば、見知った顔と-----結婚式以来だろうか、その隣を歩く見慣れない顔。そこに立っている彼が、自分の知っている人と違うことに、少しだけ感傷に浸って---ふれあいヒーロー・アニマは、『善意の一般人』でしかない彼女へと、慌てて手を振り返すのであった。
逢魔ヵ時動物園。このヒーロー副業時代に、ふれあいヒーロー・アニマこと、口田甲司が選んだのは、己の個性を最大限に活かせるこの職業だった。『個性:生き物ボイス』。動物どころか、虫類とすら会話が可能となるその力。意思疎通を図る相手を選ばないそれは、まさしく『万物への通訳者』、そう呼ばれるに恥じない代物だった。ヒーローの仕事自代が減少し、副業をメインの収入源として働いているにしても、彼と組みたいからと動物園まで直訴しにくるヒーローがいるくらいである。
「今はなかなか、それほど時間も取れないけどね・・・『霊長類達よ、列を成して食事を取るのです!!』」
一度彼が声をかければ、世にも珍しいゴリラの行列という珍百景が見れることになる。・・・あまりにも現実感がなさ過ぎて、実際に某番組から取材に来たこともある。言ってしまえば、当園の人気アトラクションの一つでもある。なんか行列のどこからか、「自分不器用ですから!!」なんて声が聞こえてきた気がしたが、きっと気のせいだろう。
そんなしっかり動物の飼育員になってしまった甲司も、頼まれて現場に出ることもある。それがそう、元1-Aのクラスメイトから依頼があった時だ。
「甲田さん、事務所までお電話が来てます!」
言葉を操る個性のなのに、基本返事は身振り手振り。他の従業員の声に対しても、手ぶりで応じて返事をしていく。決して話せない訳ではない。高校時代ほど臆病なつもりはないが、もはや癖のようなものなのだ、特別治さなければならないとも思ってはいない。そんな甲司が電話に出て、開口一番声が出た。いやまぁ出来ない訳ではないので失礼な話ではあるのだが、それくらい驚いたということだ。
「ば、爆豪君が雄英で・・・って僕が期末テストの試験官!?」
二重の意味で驚き声をあげる、アニマの珍しい様子は、ゴリラの行列なみに珍百景していたそうだった。
「口田君、連絡取れた?」
黒髪をポニーテールにしている、少し癖毛の女性------現1-A担任の取蔭切奈が、自分のクラスの副担任へと声をかけた。見れば今の今まで電話をしていた相手は、不機嫌そうに切奈のことを睨んでいる。
「元クラスメイトなんだ、顔見て話に行くのが筋だと思ったんだがな!!」
「そうはいかないよ?ついでに事務仕事を押しつけようとしてるのが見え見え。それこそ、まずは電話して反応を見るのが筋ってもんだよ!」
金髪赫眼、『№2』として現場の最前線に立ち続けたその鋭き眼光。まさに鬼が裸足で逃げ出すほどのものであるのだが、いい加減仕事仲間として気安くはなってきたのだろう、どこ吹く風だと切奈は意に介さない。まぁ、もともと学生時代からの知人ではあるので、今更睨まれたぐらいで怯むようなことは更々ないのだが。
「先手必勝、逃がさないっと♪」
学生時代からやらしいことで評判の、どこか爬虫類を思わせるその笑顔。鋭くもあり愛嬌もあるそれを浮かべながら、事務書類を副担任の机の上へと押しつける。ちょうど肘を立てたぐらいになるだろうか。それくらいの大きさになった書類の山を前に、より眉間の皺がひどくなった、ヴィラン顔のヒーローランキングV3。そんな表情を浮かべていては、次回も対抗馬すら見つからないであろう。V4が彼のものになる未来は、決して遠くはない。
「ったく・・・噂には聞いてたが、教職ってのがこんなに事務仕事が多いとはな・・・。」
「言うて公務員である以上、役所仕事の一種だからね・・・。何をするにも、書類が無いと始まらないってこと。」
こういったところは、ヒーロー科であろうと普通の高校であろうと万国共通、教員が頭を悩ませる
事項の一つだった。何せ授業の準備よりも時間を取られるのだ、皆書類作成がやりたくて教員になっている訳ではない。フラストレーションと仕事の山と、果たしてどちらか大きいのか。
「それも、授業の準備のためにも書類が増えるしな・・・。」
「そりゃああんたが発案した企画だからね・・・例年と違うことをしようと思ったら、必然的に書くもんも増えるよ。」
『№2』であろうとも、事務所の社長であろうとも、箱に入って職員になってしまった以上はルールには従わないといけない。それこそ、ヒーローであるなら尚更だった。それこそ若い頃のように、時勢に甘えて、勢いでぶち当たっていけばなんとかなるようなことはほとんどない。
「それこそあの頃はあの頃で、先生たちがフォローしてくれてただけだしね。」
「ったく、恥ずかしい話だがな。」
二人がそれぞれ脳裏に描く、それぞれの担任。片やA組に対抗意識を燃やしていた、血を操る偉丈夫。そして片や今はもう、その目から光を失った超絶ラショナリスト。思えば二人共、いや他の先生だって、授業をしていない時はいつだって、パソコンと睨めっこで忙しなく過ごしていたものだった。
「まっ、偉くなりゃあ別かもしんねーけどな。」
「そういう毒を吐くもんじゃありません。」
勝己の視線の先には、年月経て尚妖艶さを失わない------むしろより色気が深まったであろう18禁ヒーローミッドナイトこと、当高校の女校長の姿がある。・・・どこか情事の後のように崩れた髪型に、整い過ぎず崩れ過ぎずを維持した豊満な肉体。うなじに光る汗でさえ、男が誘われる武器となる。そんな男性の目に毒でしかない姿からは、そうそうに目線を切り、切奈の方へと頭を回す。
「校長相手に欲情してたことは、耳郎さんには黙っておいてしんぜよう♪」
「あぁ!?ざけんなてめぇ、誰があんなババアに欲情すんだ!!アホか!!」
しかしこの手の話題に男が勝てることなど、世界が変わり時空が変化してもありえることはない。圧倒的不利な戦場から撤退する為に、歴戦のヒーローは話題を変えることにする。
「んで聞いてんだろう?ガキ共の様子はどうだ?!」
「んー、まぁ、概ねみんなテストに向かって集中してるみたい。今は休み時間だけど、テスト勉強のために何かしら勉強はしているみたいね。」
下手な話題をやらかした勝己に対して、あえて乗ることで、こちらが優位であることを示すやらしいやらしいリザーリィ。なんだかんだ、自然と優位に振舞える立ち回りできるのは、現役時代『曲者』と呼ばれた面目躍如であった。彼女はその個性を使い、今は身体から離れた左耳を元にして、己のクラスの様子を盗み聞く。
「まぁ、ちょっと一子がやっちゃってるかなぁ・・・。」
「あ゛ぁーん??あの毒忍者か。あいつはほっとけ。」
その発言に、思わず驚いた表情の切奈。仮にも教師が生徒を見切る発言をしたのもそうだが、それをあの副担任がしたのも驚きだった。何せ彼は、あの問題児だった孤城姫子や嵐島飛天、土屋大地の相手でさえきちんと向き合ったのである。それこそ切奈では手に負えないと思っていた、あの三人をだ。
ポニーテールが揺れる担任のその表情を見て、何を考えているのか察したらしい------眼光鋭き金髪の暴君は、その心を説く。
「学生って立場にかまけて、糞どうでもいいことばっかりのたまいやがる。あれは一生かけても、治るもんじぇねーよ。」
「本当にさぁ、もうやんなっちゃうよね!!」
期末のテストの前、それこそどこか緊張感が漂い始めているクラスの中で、相も変わらず騒いでいるのは、出席番号9番久野一子だ。
「『№2』だの強面だのとか言われたってさ、結局かっちゃんとか言われてんの。本当に笑える!」
みんなもそう思うよね?と、続いて周りに対して同意を求める、発言にまで個性が滲み出ている赤髮紅眼の少女だ。ついでに職員室では、そういうところだぞと、担任からしっかり溜息を吐かれている。
しかし、本人がいないところではなんのその。その八重歯と、小学校高学年ぐらいの身長しかないのも手伝ってか、見た目だけは愛くるしいと言われる彼女のその発言は、とどまる所を知りもしない。
「大体、№2ってなんか半端だよね?それならいっそ№1のエンデヴァー様が来て欲しかった!もう本当にあのイケメンで授業されたら、私めちゃ勉強頑張れる!本当に爆発男の凶悪顔とか、なんかもう見てらんなし!」
その本人に聞かれていたなら、確実に爆殺案件な内容であっても、本人に聞かれなければなんでもいい。わざわざチくる奴なんて居ないでしょ?というスタンスだった。その根強そうなアホ毛を揺らしがら、彼女は会話が盛り上がっていると思っている、野開未来と十礎聖相手に言葉の毒をブチまけ続ける。
「・・・行くぞ。」
「うす。」
「・・・すね。」
まだ周りが騒がしくしているならともかく、試験前で勉強しているものも多い休み時間だ。本人は気づいていないが、一子の声は存外響いている。空気の悪さ、またそういった行為そのものが肌に合わないであろう-----福岡のレディース出身、氷川寅子に伊木山吟子、花上茉莉の三人が席を立ち、そのまま教室を出ていく。
「何あれ、なんか感じ悪いよね!!」
クラスの誰よりも感じが悪い、赤髪の少女が言葉を続ける。それこそ野開未来の、もうその辺にしといた方がという言葉も、十礎聖の困った表情も、一子はまるで気にしていないようだった。
「どこの田舎から出てきたかなんて知らないけれど、レディースって言うの?硬派なヤンキーなんて絶滅危惧種じゃん、社会のゴミ。ヒーローじゃなくて補導される側じゃん!」
言っていることは確かにごもっとも。だがしかし、本人の前では言えず、こうやって騒ぎ立てているのはいかがなものか。それこそ件の三人は、クラスメイトへの実害はほとんどない。
「ま、まぁ確かにそうかもしれないけど・・・。」
「でしょう!?なんかもう本当にクラスの感じ悪くなるわぁ!!」
青髪狸耳、そして狸顔の少女である野開未来。彼女が発した言葉も、『けど』という逆説以降を触れるつもりは一切ないらしい。必ずしも個性と性格が結びつくとは限らないとは言え、『毒』というそれを言葉にまで含めて広げるのは、正直勘弁して欲しいところだ。
「私、少し御手洗に行ってきますね!」
明らかに場の空気に耐えられるなかったのだろう、金髪碧眼、まるで聖女と見紛うべき生徒。十礎聖が、その一子の隣から席を立った。言葉の毒忍者、その広範囲爆撃を止めることができず、神に謝罪をしているのか、十字を切っているのが目に取れる。
「本当あの子いい子ちゃんでムカつくよね。」
「え?」
それこそウェービーな金髪が教室の外へ出た辺りで、一子の口撃がまた火を吹いた。
「誰にでも優しく聖女みたいとか、かえって怖くない?ただの八方美人だよね。なんかもう、裏の顔とかありそうだし、怖いもの見たさで逆に興味が湧いちゃうわぁー!!」
「・・・ははは。」
入学式で会話したというたったそれだけのことで、一子と一緒に居ることが多くなってしまった未来に聖。しかし学校で一番親しくしているのは変わらないはずなのに、結局本人さえ居なければこの有様である。あんまりと言えばあんまりな状況に、未来は言葉を返せない。
「夏休みになったら彼氏と海行くから、それだけが楽しみだわ!!」
「・・・良かったね。」
明らかに顔だけで選んだ、アクセサリー感覚の彼氏について毒を吐き続けたのは、チャイムが鳴り担当教員が来るまで続いたという。
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