爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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砂藤「爆豪が雄英の先生かぁ・・・。」 その2

「とりあえず捕まえていいか?」

 「なんでだよ!!!」

 ヒーロー・シュガーマンこと砂籐は、目の前で荒れ狂う金髪赫眼の青年--爆豪勝己に声をかけた。身長こそそう大きくないが、派手な個性にいくつになっても変わらない口の悪さ。そしてこじらせ過ぎた向上心は学生時代とそう変わらないらしい。

 「学生一人丸焦げにして吹っ飛ばしておいて、何事もなく帰られても困る。」

 砂籐はその筋骨隆々とした体躯で腕を組み溜息と共に答えた。勿論砂籐本人も爆豪がヴィラン化したと思った訳ではない(顔面は著しくヴィラン化しているがそれは昔からだ)。何か考えがあってのことだろうが、シュガーマンも一応パトロール中のヒーローだ。爆豪達を捨て置くにはやり口が派手過ぎる。

 「この子は何やったんだ?万引きでもしたのか?」

 そんな砂籐の問いに、ヒーロースーツを纏った先生一年生は舌打ち交じりに答えを発した。

 「教育的指導だ。」

 「......教鞭を取っているのは聞いたけど、この子は生徒なのか?」

 砂糖が振り返り見れば、丸焦げになっていた生徒の体は傷やその服まで回復され始めている。回復の規模は少しずつではあるが、傷口や損傷箇所が発光し元に戻しているようだ。この子の個性らしい。

 「俺が面倒見てるクラスの糞問題児の一人だ。傷に関しては見た通りだ。ほっときゃ治る。」

 「ふーむ、なるほどな。」

 思い出してみれば学生時代、合理的な判断という名目で随分無理をさせられたものだ。さすが雄英と何度舌を巻いたかわからないほど。その雄英でトップに君臨していた男が今教師なのだ。問題児には厳しくもなるだろう。

 「まぁその教師本人が当時はなかなかの問題児だったがな。」

 「うっさいわ!指導し殺すぞ!!!!」

 夜中に喧嘩はするわ仮免は落ちるわ体育祭で敵を作りまるくわとやりたい放題。そんな男が今や教師。世の中分からないもんだと砂糖は軽く笑う。

 「まぁそう怒るな。それで?できれば教育の一環は学校内で済まして欲しいんだが。」

 「わーっとるわ。糞。」

 苛立ちが抑えきれない爆心地。個性通りの性格である彼も、ここまでイライラするのははっきり言って珍しいくらいだ。少し困ったようにも見えるその様子を見て、砂籐は余計なお節介というヒーローの職務を遂行することにする。

 「何かあったのか?爆心地。」

 名前ではなくヒーロー名で呼んだのは個人ではなく職務であることを強調するため。個人的な興味や同情で声をかけたのではないことを示すため。そんな砂籐の気持ちが届かないほど、ビルボード№2は子供のままでもなければ意地っ張りでもなかったらしい。

 「......脱走したんだよ。そいつ含めて三人。」

 「は?」

 「授業を面倒くさくて逃げ出したんだよ。これで何度目かわからねぇ。」

 元1-Aの天才マンの表情に刻まれた苦悶の色は、思った以上に深かったらしい。

 

 

 

 

 

 

 個性分岐点。多くの強力な個性が混ざり合い、それまでの社会機構すら揺るがしかねない程の変化。その新世代が、まさに今高校に入学した子供達だという。

 「複合持ちは当たり前。工夫どころか普通に使うだけでもかなりの威力......。」

 「現実大人や教師達とは比べものにならないような状況だ。そうなると十代後半のガキなんざ決まって」

 「天狗になる。まともに個性伸ばしや座学は受けず、授業もサボりがちになるってことか......」

 苦虫を嚙み潰したような顔で頷く爆豪。余りといえば余りの母校の惨状に砂籐も言葉を失った。

それもそうだ。雄英と言えば最高峰のヒーロー養成校。入学するまでも必死だったし、入学してからもまた然りだ。それこそ自分のクラスには、自分の個性で身体を破壊してでもあきらめなかった男や、家庭の問題に振り回されながらもトップに立ち続けた男が居たのだ。サボる暇なんかなかった。それはB組だって変わらなかった。学年全体でそれぞれが押し上げ合っていたのだ。目の前にいる彼だって、そういった中心の一人だったはずだ。現状への歯がゆさとショックは砂籐よりも大きかっただろう。

 「いてててっ......」

 先程爆豪に蹴散らされた生徒が目を覚ましたのだろう、半ば放心していた砂籐の足元から痛みを訴える声がする。

 「おっと、大丈夫か?」

 「フン」

 事情が事情とはいえ教員が鼻で笑うのはどうなのか。そんな疑問は一先ず置いておいて、砂籐は生徒を抱え起こす。

 「えとっ、あなたは?」

 くりくりっとした大きな瞳。焦げ茶色の髪と同じ色をしたそれを、不思議そうに瞬きながら少年は問いかける。外見的特徴から個性は判別できない。少し見ただけではどちらかと言えば地味目な少年だった。

 「俺はシュガーマン。パトロール中のヒーローで、たまたま君がそこの爆発教師に吹っ飛ばされてきたところに遭遇したんだよ。」

 「・・・。シュガーマン?あの、ビルボードは?」

 「・・・56位かな。」

 地味目な印象の割に言いにくいことをずばっと聞いてくる。砂籐は彼の印象を修正しようとし、

 「なんだ」

 そんな少年の独り言でさらに彼の印象を下方修正することになった。

 「あっ、先生!」

 一応は吹っ飛ばされた彼を助けたはずだが、知らないとはいえ砂籐のことは完全に眼中にないらしい---そんな最近の高校生な彼は自分のことは棚に上げて爆豪にはしっかり詰め寄る。

 「いくらなんでも免許もない一般人の僕らに対して、個性を使ってまで追いつめるのは如何なものかと。」

 まるで鬼の首でも取ったかのような言い分に本物の鬼みたいな男も黙ってはいない。

 「俺から逃げてる最中にも街中で個性使ってただろうが。その段階でヴィランとして捕まえてもいいんだぞコラ!?」

 泣く子も黙る眼光。しかし下手に回復能力もあるせいか。無駄に高いディスカッション能力を駆使する少年は爆豪相手でもその舌鋒は緩めない。

 「できるんですか?でしたらどうぞ。赴任してすぐ生徒をヴィランとして逮捕したなんてなったら先生の経歴にどんな傷がつくんでしょうね。ビルボード一位を目指している爆心地さんはますます遠ざかっちゃいますねー。」

 二代目エンデヴァーさんの方が人気ですしね。その関係性を知っていて最後に煽れるだけ煽って------

 

  ------乾いた音。破裂音が周囲に響く。

 

 少年が見れば爆豪の両手に火花が散っている。幾重にも重なり咆哮を上げるそれは、幾人ものヴィランにトドメをさしてきた彼の代名詞。バチバチと唸る様はまさにその顕現の産声。少年の個性は回復もできるが決して痛みそのものを無効化できる訳ではない。来るべき衝撃に備えきつく目をつぶる。これでこの鬱陶しい教師を学校から追い出せる。そんな短絡的で甘い考えで内心ほくそ笑みながら。

 「てめぇを血ダルマにして、それを土産に先生なんざやめてやるよ!!喰らい死」

 「待った待った待ったぁ!!!!」

 街中に響く爆撃音。まるでダイナマイトで高層建築物でも破壊したのかと言われるような轟音。

 それに対し結局身を竦ませることしか出来なかったものの、痛みや熱が来ないことに少年は恐る恐る目を開けた。そこには少年を庇うヒーローの姿があった。

 「どけ!!糞筋肉!このガキぶっ殺す!」

 「落ち着け爆豪、何も殴ればいいって訳ではないだろう!」

 どうやらこの筋肉質な男性ヒーローが少年をかばったらしい。しかしどういったタネがあるのか。爆撃の煙はあるもののシュガーマンの身体からは火傷も大きな怪我も見られない。ここまでのことになっておいても、不思議に思うだけでどうせ大したものではないと決めつけて、尚も言い争う爆豪と砂籐の間に少年は割って入る。

 「あの、すいません。どいてもらえませんか?」

 「は?」

 思わず呆然とする砂籐。爆豪でさえ言葉を失う。

 「今僕が先生と喋っているんです。もしかしたらお知り合いなのかもしれませんが、たかが56位程度の方が割って入らないでください。邪魔なんです。」

 慇懃無礼。まさに、そんな言葉を体現した様子に砂籐は全く動けなかった。そんな中、

 「ハーーーーーハッハッハ!!!」

 言葉を失っていた爆豪が突然笑い出した。今度は何だ?怒りのあまり遂におかしくなったかと訝しむ砂籐。何やらおかしな方向に話が変わりそうだと嫌な予感がする少年。

 「たかだか56位ってか?てめぇもひでぇ言われようだな?糞筋肉!んでよう」

 覗き込むように少年の顔に近づく爆豪。意識の隙間に入り込んだのか。あまりにも一瞬で少年は動けない。

 「お前はその56位に勝てんのか?」

 「・・・勝てる訳がないでしょう?一応プロでしょ?ビルボードが低くて尊敬する価値がないだけで大人なんで」

 「今日逃げた三人でだ!!!」

 言葉を遮って言い放った爆豪相手に有精卵以下の子供は返事に詰まる。その瞳に、明らかに思い上がりの色を灯しながら。

 「後の二人は向こうの電柱に括り付けて晒してある。てめぇが回収して雄英の第一グラウンドに行け。そこでてめぇらが糞筋肉に勝てるなら俺はもうお前らに干渉しねぇ。」

 「爆豪、俺の都合は」

 「報酬は後で交渉だ。」

 どうやら砂籐に拒否権はないらしい。見れば男の子も随分とやる気になっている。

 「いいでしょう。この僕土屋大地、そして孤城姫子と嵐島飛天がお相手します。」

 「おいおいいくらなんでも!」

 慌てて呼びかける砂籐に、それこそ爆豪はかつてと同じように耳を貸す気が無いようだ。

 「俺がやるといえばやる。そんで、てめらなら勝てる。それだけだ。」

 そしてかつてとは違い誰かを信じることができていた。その赫い瞳に頼られて嫌と言えるほど、砂籐も決して日和ってはいないのだ。

 「あーーーもう、仕方ない。やるとしますか。」

 「最初からそういえ糞筋肉。」

 問題児仲間を拾いに走る少年の背中を見ながら、男は二人、雄英へとその足を向けた。

 「そういや爆豪、報酬は?」

 別にないならないで構わないのだが砂籐としてはなぁなぁで済ますのも面白くない。寄りたいところもある。話のタネになるならそれも一興だと、かつてのクラスメイトを揺さぶってみる。

 「・・・・・の作る飯だ。」

 「な、なんだって?」

 思わず聞き逃すほど小さな声で呟いた彼の一言。らしくなく呟くような音量に思わず耳を寄せると今度は彼らしい音量で。

 「耳郎の作る飯だ!!!!!」

 「っ・・・耳郎の作る飯?」

 耳郎響香と言えばそれこそ元1-Aの歌姫だ。サバサバした物言いが特徴のロッキンガール。実は可愛いものが好きだというのは担任まで含めた元クラスメイト全員が知っているのだが、料理の印象は特にない。そんな考え込む砂籐に今カレは、今度は彼らしくなく少し照れ臭そうに呟く。

 「俺に食わすのに練習しやがった。彼氏に料理で負けるなんかロックじゃないだとよ。」

 「ほぉーーーーーーーーー」

 思わず楽しそうに声を上げた砂籐に火花が熱と爆音に成長して襲い掛かる。それをこの後のウォーミングアップ代わりに個性を使って防ぎながら、砂籐は言葉で爆豪へと言葉で返事をする。

 「彼氏のためにうまくなった耳郎の料理か!それは楽しみだ!」

 「しっかり報酬払わせんだ!てめぇ本気でやれよ!」

 恐らく耳郎本人には事後承諾で、それこそ結局耳郎が折れる所まで想像できた砂籐は大きな声で笑うのだった。




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→「砂藤「爆豪が雄英の先生かぁ・・・。」 その3 
https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11523966

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