「痛ッ!!」
どうやら目的地に到着したのだろう、一瞬の浮遊感の後に、お尻に衝撃を感じた小野田小町。慌てて立ち上がろうとした時には、運んでくれた山羊がアイマスクを咥えて持っていってしまった。山羊臭い。
「ここは.....森林ステージ?」
少しだけ風に揺れる、自身の艶やかなロングの黒髪。無理矢理運ばれたせいで乱れたそれを、手櫛で整え状況判断を急ぐ。
「ぐっ・・・痛たたた。」
もう一人同じように運ばれたのは土屋大地。地面を「隆起」させるなど、大地と関係がある個性を操るが、直接的な戦闘能力が高いとは思わない。そんな彼と二人、この森林ステージで----。
「これは、まずいかも・・・。」
その大和撫子と形容される美貌、しかし今は眉をひそめ難しい顔になってしまっている。当たり前だ、二人で運ばれた以上試験内容はツーマンセル。未だ状況が飲み込めていない、地味目の同級生もそうだが、戦闘系じゃないのは自分も右に同じ。しかしこの状況こそが、まるで狙ったかのようで。
「戦闘能力の弱い二人をわざと固めて・・・・土屋君、周囲警戒!!」
「!とやかく言われなくてもわかってますよ!」
本当は指摘されるまで全くわかっていなかったのだが、一つ言われれば三つは反論しないと気に入らない、腐れレスバ野郎は未だ健在のようだった。最近は静かにしていたものの・・・。
「!あれは!?」
しかし文句は言うがやることはやるらしい。鳥が落としたのだろうか、何か紙のようなものがヒラヒラと舞い落ちてくる。少し離れたところに落ちたそれを、素直に拾いに行くのは流石に二人共躊躇い、土屋が地面を動かすことで手元へと運んでくる。
「実技試験問題用紙・・・内容は・・・」
「『動物を一体拘束し、ステージ中どこかに設けられたゴール地点まで、かの生き物を運び出しせば終了となる』っておいおい・・・マジかよ!!」
そこは海難ステージ。己の身体を鉱物へと変化させる個性持つ、大柄な金髪モヒカンヘッド、八賀根鉱哉がその文面を見て悲鳴をあげた。何せ前線タンクが真骨頂である彼の個性、『鉱化』することでそれを可能とする以上、このステージとの相性は----
「最悪だっつーの!!」
「『鉱化』してしまったら、当然だけど泳げないからね・・・。」
思案に耽るのは、本試験において相棒を務めることになった、大江ノ山外道丸。少しつり目がちなその瞳がチャームポイントな、芸能人モデル顔負けの美青年である。二人は今にも沈んでしまいそうな船の上で、状況整理とお互いの能力確認に忙しい。
「大江ノ山!てめぇの個性は!?」
「酒瓶は一つだけなら確保してきた。ただ消耗を考えるなら、ここぞという時に使わないと厳しいと思う。」
『酒は百薬の長』。その身を異形の鬼へと変えるその個性。一度発動すれば、自動回復付きで身体能力も向上するという優れ物だが、如何せん酔っぱらっている状況でしか発動できないという欠点を持つ。下手に海に落ちて酔いが冷めてしまったら、それこそただの無個性へと成り下がる。
「個性が生かせねぇ上にフルで使えねぇ状況・・・。」
「生徒同士の組み合わせも偶然じゃないね。恐らくこの状況をどう乗り切るかが、この実技試験の鍵!」
個性さえ発動しなければ、単なるイケメンに過ぎない外道丸はともかく、金髪モヒカンヘッドという武闘派過ぎる外見とは裏腹に、的確な状況判断が可能な鉱哉。それを特に意外に思わないくらいには、素面の美青年との間に信頼関係は築けているらしい。
「おわ!」
「っつ、なんだ!?」
二人が立つ沈みかけた難破船。その足場代わりにしていた崩れかけのそれに、今し方大きな衝撃が走った。それは立て続けに、しかし一定のリズムを保って、鉱哉と外道丸、二人の足元を崩しにかかってくる。
「糞が!!なんだってんだ!?」
「そんなまさか!あれを!?」
外道丸が目を見張り、続いて鉱哉が、その光景に驚愕の意を示すことになった。
「動物達が協力して襲ってくる!?」
「あっちょっと、それダメだって!!」
紫の髪に紳士然とした立ち振る舞い。その様はまるで中世の騎士のよう。
市街地ステージ。そこで竹刀を操り、襲い掛かってくる猿の集団を捌いているのは、雄英高校のジャージに身を包んだ大空大和だ。
「この者たちはどうやら、僕たちが手に持つ道具を狙ってきてる!野開さん、道具を出し過ぎたらダメだ!」
「そそそ、そんなこと言ったって!?」
丁度おへその辺りだろうか。まるでカンガルーのポケットのようになっている、それそのものが個性となった、青髪狸顔の、野開未来が悲鳴を上げている。
「くっそ!!」
顔をしかめて竹で作られた非殺傷の刀身にて、猿たちを捌きながら、なんとか形勢を整える。その立ち振る舞いは上品にして、美しさすら漂うもの。しかし教師陣には品評会じゃないんだからと、指摘されることも多いその剣舞。動物相手では、些か分が悪いようにも見えてしまう。
「こここ、こんな時こそ使えるサポートアイテムが!あれでもなくてこれでもなくて!!」
「だから普段からポケットの中は、整理しておけと怒られているだろうに!!」
同じものは一つだけ。しかし種類が違えばいくらでもそのポケットに入れられる、ポーター向けのそんな個性----『スーパーポケット』を有する未来は、日頃の物臭な性格が原因してか、その個性を全く活かせてはいないようだった。
「この状況では、僕がなんとか打開する他無いようだが・・・。」
それは大和の脳裏によぎる、無個性の武神との戦い。その最中に竹刀を奪われ、無抵抗なまま沈められた、一瞬の出来事。
『武器がなければ何もできない。それじゃあはっきり言って、二流にもなれないよ? 』
己の個性が竹刀----特定の道具へと依存するものだということは、それが発現した時からわかっていたことだった。しかしそれでもなんとかと思い、訓練を重ねて雄英へと入学することができた。そこで真っ向からぶつかってしまった、今まで避けてきた課題。
「くっそ!!おのれ!!」
なんとか竹刀を奪われないようにと戦うせいで、その剣戟が縮こまってしまっていることに気づかない美麗なる騎士。道具依存の二人は、果たしてどうこの期末考査を乗り越えていくのだろうか。
「くっ、まただめです!ごめんなさい!」
「連携を取る動物がこんなに厄介だなんて!」
山岳ステージ。そう呼ばれる岩壁にて苦戦を強いられているのは、十礎聖と武藤遊次の二人だった。金髪碧眼----ヒーローになるよりも、まるで修道院にて神に処女を捧げたような、そんな神々しい雰囲気すら漂う彼女と、トレードマークのカチューシャに、自毛だというアッシュのセミロング、影の薄い残念男の娘のコンビである。
「っ、『識別眼』!」
聖はその決まれば確殺という、チート個性----彼女が持つには些か邪悪過ぎるその個性『魔眼』を駆使して動物達、このステージに多くいる山羊を捕らえるために奮闘していた。
「あ、ダメです、また視界から外れて!?」
彼女が使える魔眼、その内切り札とされる洗脳眼は、識別眼という相手を見切る力が発動してからでないと起動できない。それ故に、同じ相手に焦点を合わせ続けなければならないのだが、そこは岩壁こそ我が家とでも言うべきか。双角類の脚力は、刹那にて聖の視界からその姿を消し去ってしまう。元々人間の視野と言うのは、横の変化に強く、同時に縦の変化に弱いようにできている。動物達のその動きに、彼女は振り回されっぱなしになってしまった。
「【召喚】」
己の絵に描いたものを具現化させる遊次。とても自由度が高いその個性も、制限されたこの状況では、活かすことができない。何せ壁に寄りかかることがギリギリなのだ、それに対応できる生き物でないとそもそも意味がない。
「メェエエエエ!!」
尾白猿夫戦でも召喚した放電する山羊。それこそ山羊なんだから、充分だろうと思い出してみたものの・・・。
「ダメです、武藤君!!」
「あぁぁあぁぁあみんな逃げてしまった・・・。」
まるで明らな格上相手なら戦わなくても構わないと言われているかのように、岩肌いる山羊達は逃げ出してしまっていたのだ。試験の合格判定は、動物を一匹連れていくことである。自分達だけたどり着いたって意味がないのだ。
「つまりこの岩壁を・・・・。」
「歩いて移動して、彼らを探すしかないようですね・・・。」
決して武闘派とは言えない二人の溜息は、山岳地帯に流れる風に溶けて、どこかへと消えていくのであった。
「とまぁ、他のガキ共は動物相手にあれこれやってんだがなぁ!!」
それは聞きなれた副担任の声。ただのファンだったころには感じなかった恐怖とプレッシャーが、正面に立っているだけなのに襲ってくるのがわかる。
「人一倍悪ガキだったおめぇ等はちげぇ。動物相手なら、そこそこのこたぁやれんだろうよ。」
そのどこか認めてくれている言葉に、嬉しく思わない訳ではない。訳ではないのだが、これは如何せん不公平過ぎないかと、氷川寅子と漆原亜衣磁は冷や汗を流す。
「レディースの頭と、愚連隊の切り込み隊長だったか?中学までの経験だけでそこそこやられたんじゃあ、試験の意味がねーからな!!」
「だからって、随分雄英は豪華ったいね。実技試験の対戦相手に、『№2』が動いてくれるばい。」
銀髪を風に揺らしながら、博多弁混じりに嫌味を返す、『博多弁天』リーダーしろつめ寅子。それに答えるのは、隣にいる刈り上げた金髪の男。高校生にして髭面の偉丈夫、愚連隊で切り込み隊長をしていたという漆原亜衣磁だ。
「いや、雄英だからこその、間違いかもしれんな。」
その年齢の割にどこか悟ったような雰囲気は、多くの鉄火場を潜り抜けてきた証なのだろう。しかし恐らく、今から迎える修羅場が人生最大のものになることを、彼は理解していた。
「まぁ、俺を気絶させてゴールまで運べとは言わねーよ。二人でゴールまで行けりゃあ充分だ。加えて----」
見ればその全身に巻きつけられた赤い重り。一体一つどれくらいの重さになるのだろうか。まるで何事なく立っているように見える勝己のそれも、もしかしたら少しでも影響があれば嬉しく思う。というより、なければハンデにもならない。
「俺は右手しか使わねぇ。『個性』も含めてだ。そこまでされてまだ尻込みするか?『博多弁天』に、『関東愚連隊』のガキどもはよぉ?」
発奮する意味も込めてであろうその一言を、真っ向から叩き込んでくる現役ヒーロー。チームの名前まで貶めてくる副担任のその発言に、応えられない方が不幸になると思ったから。
「上等ったい!吠え面かくなよ『№2』!!」
ヒーローコスチュームに関するカリキュラムが、二年生以降に変わったため、本試験もジャージで受けているこの世代。寅子はその銀髪を、自らの両手で噴出する冷気で揺らしながら、その身に氷の爪と鎧を作っていく。そして吐き出す冷気は、己の頭に、虎を模した兜を生み出す。
「キャラクターではなく素で傲慢なのは、如何なものかと思うぞ?かっちゃん先生!」
しっかり真っ正面から嘲り返す、無精髭の偉丈夫は、その両手を地面と水平になるよう真横に掲げた。するとどうだろう。土のグラウンドからそれぞれの手に向けて、渦を巻くように舞い上がる、黒い砂埃。集められた砂鉄と言われるそれは、亜衣磁の手の中で、一対の黒い双剣へと姿を変えた。
「そいじゃあ見せてもらおうか?雛鳥の羽ばたきって奴をよ!!!」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」
雄叫びで応え、『№2』へと挑みかかる白虎と偉丈夫。二人の実技試験が、ある意味最悪の形で幕を開けたのだった。
「私たちの相手が、試験官だっていうのも納得できないんだけど?」
「フヒヒヒヒヒ、些か平等性にかけるでござるよwwwwww」
一方、こちら遮蔽物のほとんどない平原のエリアで試験官と対峙するのは、毒吐き忍者の久野一子と、ウザい喋り方をする岸影智だ。『毒』と『影』、そして不意打ちを得意とするこの二人に、この遮蔽物の無さは些か苦しいものがある。勿論、それがわかっていての組み合わせなのであるが----
「それに加えて、試験官であるあなたと直接戦うとか、いくらなんでも不利すぎるわよ。」
これが担任であるリザーリィなら、いやらしくまるめ込まれたであろうし、逆に副担任である爆心地なら、問答無用で爆撃されたであろう----しかしどこか気の弱そうなこの口田という試験官なら、何か少しでもハンデがもらえるのではないかと、二人はダメもとでも行動に移していた。綺麗事だけではやっていけない----そのことを、赤髪の忍びと黒人のハーフは知っていたから。
どこか慌てたような身振り手振りで答える『万物への通訳者』。その腕の動きは肯定ではなく、否定のそれ。どうやら気の弱そうなのは、その雰囲気だけらしい。
「・・・もう何よ何よ、どいつもこいつも・・・」
「久野殿wwwwwwいかんでござるぞwwww」
甲司へと主張が通らなかったことに対して、また毒でも吐こうとしたのか、投げやりになられても困ると思ったのだろう、影智がやんわりと(あくまで彼なりに)一子を注意する。それを受けて手振りで大丈夫と返礼、続けてくノ一は言葉を返す。
「この前のこともムカつくし、ウジウジしてる試験官も嫌だけど、試験は試験だから。そこはちゃんとやるわよ。」
一番になりたい訳じゃないけど、でも補修とかタルいし。そう付け加えた、アホ毛で八重歯な彼女の様子を見て、影を操る騎士はようやく安心できたようだった。そんな二人の様子から、甲司は構える。勝己と同じ、重りまみれにされた身体を酷使して。そして語りかけることから始める、自身の真骨頂。
『虫たちよ。』
「散ッ!!!」
個性発動に合わせて、各々走り出す受精卵の二人。雛鳥となれるのか、それとも未だ受精卵として夏を過ごすかは、彼等の頑張り次第なのだから。
pixivにて連載中のものを再掲載しております。
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次話→口田君「ば、爆豪君が雄英で・・・って僕が期末テストの試験官!?」 その4
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