「さて、みんなどんな感じかな?」
それは雄英高校に備え付けられている、多目的VTRルーム。実技試験においては、特に何ができる訳でもない自分が、全体を監視し外側から彼等に向けて採点を付ける。そう、第二次神野戦線において深手を負った後遺症から、個性による分裂数が大幅に少なった------取蔭切奈は、そんな己に対して少しだけ溜息を吐いた。しかし凹みっぱなしではいられない。そんな自分でもできることをと思い、ここに立っているのだ。それこそ当時のことを引きずり答えが出し切れてないヒーローだって、たくさんいる。それこそ、
「誰よりも優しい、あんたもだよね。口田君。」
そう呟いた後、その表情を凛としたものに戻す1-A担任教師。モニターを眺め、目に入れても痛くない大切な生徒達を確認する・・・ごめんそれは無理、大分痛そうだわあいつら。
「あえてそれぞれの能力や、個性が生きにくい状況を作らせてもらったっと。」
近接主体、水に弱い鉱哉と外道丸には海難ステージを。指揮能力に特化した小町や大地は、森林ステージにてゴリラと対峙を。どうしても特定の道具に依存しやすい大和や未来には、それを奪える器用な猿達を市街地ステージで------いやらしい組み合わせと課題追及の仕方は、完全にこの担任が仕組んだものである。
「まぁ、毎年ならその生徒の相手を教師が務めて、子供は脱出するだけで良かった訳だけどね・・・。」
そこは今年入ってきた、金髪赫眼の副担任が黙っていなかった。戦闘向けでない教師や、神野での怪我が原因で、自身の個性を最大限に使えない者が多い中で、あの個性分岐点世代の子供達を相手にできるのかと。
答えは、否だった。
「それこそ元1-Aのメンバーみたいに、どいつもこいつも、ある意味伝説級みたいになってりゃ話は別なんだけどね・・・。」
それこそ寅子と亜衣磁や、一子と影智のように教師陣と直接戦っている生徒達は別としても、それ以外の子達は、甲司の指示を受ける動物達が全て相手を担っているのだ。いくらなんでも、あの気弱なふれあいヒーローはチートが過ぎる。切奈は知らないが、あの爆発三太郎をしてもっとも戦いたくないと言わしめた相手だ。思わず舌を巻く程のものである。
しかし、決して隙が無い訳ではない。
「そもそもこれは期末試験だからね・・・。」
試験である以上、どれだけ応用が必要であったとしても、あくまで習ったことの延長線上である。つまり、日頃授業で基礎さえ鍛えあげていれば、乗り越えられるようにはなっているのだ。学科に関しては、まぁ、流石にやり過ぎではないかと思うのだが。
「流石に難関大学の二次試験レベルはどうかと思うんだけどなー。そこは校長も譲らないし、って、おっとぉ?」
モニタールームに響く、アラーム音。それは緊急事態ではなく、クリア者が出た際に響き渡るよう設定されていた、おめでとうございますの祝砲だった。どの子達だと見てみれば、画面の中で、九尾の狐と天翔ける翼が踊っていた。
「んー、流石にこの二人か。」
周りより明らかに努力し始めるのが早かった、元問題児の二人。最近では誰よりも遅くまで自主練に励み、担任である切奈に帰宅を促される始末だ。泥塗れになってグラウンドに転がり、それでも誰よりも、昨日の自分に負けないようにと、更に向こうへと走り続けるこの二人。他の生徒より確実に穴も少なく、ぶつける動物達の選択にも悩んだものだ。
「結局いろんな動物達の複合部隊、その集団に襲わせた訳だけど・・・どうにかしちゃったわね。」
その成長する様子に感慨を覚え、しかし着々と己の手から離れていっているその姿に、なんだか不思議なもどかしさを感じてしまうリザーリィ。その感情に名前を付けるのは、まだまだきっと、こんなところじゃないはずだから。
「さぁてとぉ?クリアできた二人はアニマの馬達に回収してもらうとして、他の子達はっと。」
そもそも試験としても、ゴールラインに動物を運べばクリアというだけであって、クリアしたから合格という訳でもない。その部分の採点は、実際に対峙した動物達への聞き取り調査を甲司が、モニター越しに採点をするのが切奈という役割分担である。
「しかしこの子達は、まぁ・・・ダメかもしんないね・・・。」
溜息と共に、担任の教師から落胆の言葉を引き出したのは、果たしてどのツーマンセルなのであろうか。
赤き龍が、舞う。
「ダメやね。どいつもこいつも秒で逃げよるわ。」
それ程高い高度ではないものの、暗闇の中を疾駆する、紫の鬣に羊の角を有する彼。六郎木 碌朗。本来ならその身を三種の姿へと変化させる、ダウナー系の美少年だ。今彼が選んだのは、髪と角という己の特徴を有した赤龍。今はまだ2m程の大きさであるが、ここ、洞窟ステージの中を舞うには充分な迫力である。
「・・・まぁしゃーないけどな。生きて連れ帰るとか難易度高いわ。殺すならまだしも・・・。」
まるでどこか他人事のように話す、琥珀色の瞳を有する無感動症の少年。その自他共に認める彼が相手にしているのは、薄暗き洞窟の中で飛び回る、どっちつかずの代名詞------蝙蝠達であった。
「しゃ、しゃーないって訳にはいかないよ!!やっぱり、補修は大変だよ!!」
そう声をあげたのは、この試験における碌朗の相棒である、塩田弾道だ。個性の無かった時代、スポーツという文化がまだ生き残っていた頃ならば、一見彼は野球少年と勘違いされたであろうその見た目。しかし、それに反し産まれ持ったものは、些か凶悪が過ぎる物。
「・・・そやな。ただ塩田の『個性』が直撃したら、あいつら秒で死んでまうで?」
「くっ・・・まぁでも、そうなんだけど・・・。」
個性、『弾幕』。その両腕に一門ずつのガトリング砲。そして胸部に二門のバルカン。果てはその肩にそれぞれミサイルポッドが一門ずつときている。動物を捕らえる装備では決してない。むしろ戦争の方が向いているといったレベルである。
「ヒーローは一応非殺傷やからな・・・それも織り込んで、殺さずにゴール地点まで連れて来いって話なんやろけど・・・。」
姿を変えて暴れ回ることができる碌朗は、それこそ対人戦においては無類の強さを発揮する。それこそ尾白猿夫戦でさえ、彼は最前線に居ながら、最後まで意識を失わなずにすんだ一人だった。
そして塩田弾道は逆に、対集団戦においては無敵である。何せ一人軍隊、ワンマンアーミーとでも言うべきその個性から、大抵の相手なら一瞬で殲滅できる。
「い、威力の面もそうですけど、その、場所の悪さもあります・・・。」
「・・・せやな。俺らが本気で暴れたら、洞窟そのものが崩れかねんわ。」
そこまで狙ってのこのフィールドなんやろけどな。そう呟いて続ける碌朗に、クラス委員長を務めているはずの弾道は、何も言うことができない。
そう、この二人の組み合わせとしての難点は、その個性だけではなかった。ダウナー系で無気力な悪魔の化身に、生真面目だが気弱なガンナー。受け身になりやすく主体的な行動が取れない二人は、相手をどう追い込むか、その方針を決めることすら出来ていない。その強個性でなんとなく乗り切ってしまっていた部分------それがこの作られた特定条件下で、ものの見事に足を引っ張り始めている。
「なんかもう、面倒いわ・・・。」
暗き闇の中、その制空権を数で制する有翼の哺乳類。そんな彼等を捕らえるために、状況を動かすことができるのか。超音波の嘶きが、ただただ虚しく、洞窟の壁を軋ませるのであった。
もし動物達が理性を持ったなら。その剛腕を、その身にまとう爪牙を、それこそ集団戦術を用いて使いこなせる日が来るとしたら。果たして人類は今まで通り、この地に覇を唱え続けることができるのであろうか。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああったい!!」
「Party now!!いえあいえあいえあああああああああああああああああああああ!!」
とりあえずこの川ステージでは、人類はしっかり追い込まれている。
「来るったい来るったい来るったい!!」
見渡す限りの川から、陸にあがり襲い掛かってくる、無数のそれ。身体能力なら陸最強、そして獰猛さでは他の追随を許さないと呼ばれる------カバである。
「キュンDeath!!」
「やってる場合じゃないと!!!」
その一面カバだらけの状況から、叫びながら逃げ回り続けているのは、骨川煙煉と花上茉莉である。自身の身体を煙へと変え、なんなら燃やされても復活できる、骸骨のような異形型である煙煉。そして、体内にいくつもの植物を飼いならし、それを自在に操る個性----『キメラプラント』を有する花上茉莉である。
「視界を煙で潰す丸??」
「さっきそれやって余計怒り出したったい!!」
それにかの畜生は煙で視界を潰された所で、結局のところ臭いでこちらの位置は補足してくる。単なるびっくり箱では時間稼ぎにすらならず、茉莉の『キメラプラント』も馬力の差で負けてしまい、危うく生徒側が引きずられてしまう始末である。
『煙』と『植物』。攪乱や遊撃に重宝される二人であるが、逆に真っ向からの殴り合いになってしまうとこうも脆いのだ。更に相手は真っ向勝負上等の『河原の重戦車』。明らかに仕組まれたこの状況に、茉莉も煙煉も悲鳴をあげながら逃げ回りっぱなしだ。
「雄英の鬼ぃぃぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」
「いぇあイッツアPartyNow!!!」
このままじゃ人生までパーティーになるったい。そう思いながらも、全く打開策が浮かばない『博多弁天』花咲マリーなのであった。
「一応期末試験ってことだかんなてめーらよう!!」
教師というよりチンピラヤクザ。眼光の鋭さだけでも、この世界では五本の指には入るであろう、金髪赫眼の『№2』。個性は複合なのではなく、まして異形型とは程遠い------『爆発』という、掌からしか発動しないそれ。以前なら派手でヒーロー向けだねと言われたそれも、今や個性分岐点世代の前では知れたもの。確実にそこの優劣だけなら、決して彼はもう天才ではないはず。ない、はずなのだが------。
「はぁ、はぁ・・・。糞ったい・・・。」
砕かれた氷の鎧。何度打ち付けても砕かれる虎の氷爪。時には爆撃で、そして時にはその拳打で。気がつけばヴィラン相手にも膝をつこうとしなかった彼女が、膝どころか頭を踏まれ動きを止められている。
「ぐぅ、がぁ、あが・・・。」
悶え声を上げ続ける、双剣の切り込み隊長。トレードマークの黒刀は既に爆炎にて散らされ、拳にて挑めば格の違いを示され、副担任に顔を捕まれ持ち上げられている。その握力に抵抗するよう動き回っていたが、まるで身動きが取れないほどのレベル。あまりの激痛に、既に意識が怪しい所まで来てしまっていた。
「授業で学んだ内容活かしゃあ活路って奴も見えてくんじゃねーのか!?あぁぁ?!現役高校生よぉお!?ぉお!?」
一応彼はヒーローである。本人も忘れているかもしれないが、至って普通・・・ではないにしろヒーローである。女子高生の顔面を踏んづけ、未来ある若者の顔面にアイアンクロウをかましていても、非常に残念なことに至って現役なのである。ついでに闇落ちもしていなかったりする。むしろもう、していた方がいろんなことがスムーズだったかもしれないくらいのレベルではあるのだが。
「糞ったい・・・。」
亜衣磁を助け出すために、何より自分も脱出するために、再び冷気を纏い始めるしろつめ寅子。
前述の通り副担任もそうだが、ヴィランから時代遅れの個性と言われた彼女。だが頼れるものは、結局これしかないから。しかし、
「ぬるい!!!」
「ごはっ!!!?!?」
抑えるどころか、体重を乗せて踏み込んできた爆心地。泣く子は黙らせ、ヴィランを潰して回った男は、対峙した以上は己の生徒にも手加減はしない。寅子の意識が明滅する。中学時代から今日までの喧嘩全部含めても、ここまではなかったと言い切れる、絶対的な相手。まさかここまでの差があるとはと、対峙して初めて思い知らされる。
「『磁界』!!!」
足元の寅子へと僅かに逸れた、『№2』の意識。その隙とも言えぬ瞬間に、失いかけた意識を繋ぎ止めて、髭面の切り込み隊長は己の個性を発揮する。大地から舞い上げる、漆黒の砂埃。しかし今度は、それ自体が刀を形成するのではなく、竜巻のように舞い上がり、勝己の眼前にて爆散する。
「ちっ、んだこらぁああああ!!!!!」
その副担任の奇声を聞きながら、なんとか拘束から離れて距離を置く寅子に亜衣磁。身体へのダメージは、到底試験を続けられるレベルのものではないのだが。
「何か手を考えろ!」
走りながら砂鉄を巻き上げているのだろう、舞い上がる黒き奔流はまるでオーラのようだった。
「そもそも気絶させて倒す必要なんかない!二人でゴールに入ってしまえば、俺たちの勝ちだ!!」
「わかってるったい!お前も考えるばい!!」
距離を置けば爆速ターボで追いついてくる、殴り合いでも歯が立たない。中距離はそもそも相手の独壇場。そしてフィールドはとっても見やすいグラウンド。この条件下で、相手の予想を上回る方法なんて------
「うわっと!?」
考えているところに飛んでくる、もはや見慣れた爆炎。直撃こそなんとか躱しているものの、それでも全身火傷だらけ、殺された方がマシだという有様だ。
「糞ったれったい!!!」
彼女達の試験は、まだまだ終わりの目途すら見えては来ないようだった。
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次話→口田君「ば、爆豪君が雄英で・・・って僕が期末テストの試験官!?」 その5
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