水流が乱れ飛び、七色のブレスが吹き荒れる。そこは平原ステージ。地を駆け襲い来るのは『草食動物の横綱』------サイ。単体でもその突進力は、人類からすれば抗いようがないほどのもの。ただでさえ脅威でしかないものが、何故か見事な連携をもって襲い掛かってくる。
「どこかで誰か指示を出しているのか・・・。」
硬い髪質の黒髪が特徴である高校生、出水洸汰は不思議に思っていた。彼は元1-Aの生徒達と交流があった。あまり話したことはなかったが、かのふれあいヒーローとも面識はあった。だから不思議に思う。彼の能力はその声が届く範囲が限界のはず。しかし動物達の動きは、まるで誰かが見ていて的確に指示を出しているかのようだ。
「その違和感に、この試験突破の鍵があるはず!!」
そんな中突っ込んでくるサイの大群。『水流』で落とすには、些か厳しい数にその距離。すると彼はまるで己の副担任の如く、両手を地面に向けて掲げて、その個性を発動させた。
「『水流ターボ』!!」
中・遠距離になりがちな自分の能力を補うため、洸汰が某副担任を参考にし身につけた移動術。両の手から放たれる水流を推力にして、空へと浮かびあげるその姿は、『№2』のその技術を彷彿とさせる。
そのまま水飛沫をまき散らしながら、上手に動物達と距離を取る洸汰。そこへ------
「『ライトニングブレス』ったい!!」
オレンジの髪を逆立て、その裂けた口から、七色のブレスを操る伊木山吟子が、雷撃をその口から放射した。電撃の威力は少し麻痺する程度に調整。それでも水にまみれた彼等の身体は、電気をよく通したかもんどりうっている。
「後は連携を躱して、ゴールまで運べばいいったい!!」
それこそサイの体重が何キロあるか知らないが、そこは根性でなんとか頑張るしかないだろう。そう思い、動物達の次なる動きを確認しようとする『水』と『ブレス』。動物達の猛進をここまで躱せて来たのは、二人が積んできた訓練の賜物に他ならない。そう思い身構えた二人があることに気づく。
「連携を、」
「してこなくなったったい。」
見れば先程までは複雑な動きで攻めたててきた彼等が、今度は至って単純な動きでしか向かってこない。それこそその身の能力に任せた、些か直線的過ぎるもの。最初は雷撃のダメージかとも思ったが、それがきつかった子達はそのまま気絶している。つまり、
「さっきの雷撃で、指示が出せなくなったってことたいね!!」
電気に反応して上手くいかなくなるもの。それが指し示すものは、『個性』という超常現象ではなく------
「アニマが直接通信機で、動物達に指示を出していたのか!!」
見れば何体かのサイは、先ほどの雷撃の後に耳から煙が出ている。つまり何体か指揮官としての個体を決めておいて、そこに指示を出し、その個体から鳴き声で周囲を操る。なるほどどうして、味な真似をしてくれるようだ。
「伊木山さん!!」
「わかってるったい!!」
通信ができない以上、動物達に細かな指示はもう出せない。それこそ彼等が本能的な恐怖を感じれば、その恐怖を制御することは人間なんかより到底難しい。そこを突くために『博多弁天』遠距離担当は大きく息を吸う。
「『レーザーブレス』ったい!!」
威力が弱くも連打ができる、最速を誇る七色の白。その閃光は直撃を狙わず、彼等の足元を吹き飛ばすに留めた。しかしそこは動物の知能である。いきなり足元が崩れて恐怖を覚え、サイ達は一団総崩れ。その身に当たれば大したことはなくても、指揮官無き戦場ではそれに気づけない。
「これでなんとかなるったい!!」
気絶した仲間を置いていった彼等を見て、歓声を上げたジト目の吟子。後はゴールまで、このサイを運ぶだけである。
「指揮系統を狙うのは常套手段。尾白さんが来た時、僕らもやられた方法だけどね。」
かつてのほろ苦い経験を思い出し、洸汰は苦笑するも、今はやり遂げた充実感でいっぱいらしい。そこでふと思う、この後のこと。
「サイって、重さどれくらい?」
「ゴールまで、後何キロばい?」
サイの重さが実は、平均でも二トン以上。ゴールまでの距離は、おおよそ二キロもあるところでのお話であった。
「ゴールの近くまで引き寄せてから気絶させれば、100点だったのにな。」
洸汰と吟子が映るモニターを眺めながら、そう呟くのは黒髪のポニーテールである取蔭切奈だ。見れば画面の中の二人は、吟子のホワイトブレスで道を凍らせて、洸汰の水流でサイを押し流す作戦らしい。
「まぁ二キロは遠いけど、やってやれないことはないことはないかな?実質もう合格だろうね。」
そうして切奈は、見事課題を乗り越えた中・遠距離担当の二人から目線を切り、他の生徒達へと意識を移した。
「さぁて、他からも何かしらクリア者が出てくるかなって思うんだけど・・・。」
「うおおおおおおおおお!!!???!」
絶叫をあげて空を舞う金髪のモヒカンヘッド。クラス一番のタンク性能を誇る八賀根鉱哉は、この海難ステージで盛大に海へと放り投げられていた。勿論、最初足場にしていた沈みかけの船から、彼を投げたのは他でもない------本試験における相棒となった、大江ノ山外道丸である。
「悪い子はいねぇぇぇぇええええええかぁ!?」
彼の芸能人顔負けの美貌は形を潜めて、個性発動の影響でコミカルな鬼へとその姿を変貌させている。一度発動すれば、二メートル近い身長とクラス一番の剛腕である、鉱哉を投げ飛ばすほどの筋力を得るその個性『酒は百薬の長』の真骨頂だ。
「んんんんん!!!???!『鉱化』発動!!」
中空で発動させる、鉱哉の個性。幾度もなく己を助けてくれた、そしてこれからも共に歩いていくべきその力。それは宿主の身体を、任意の鉱物へと変える力を有する。選ばれたのは、化学変化に強い光輝くゴールド。黄金の巨漢となった鉱哉は、そのまま悠々自適に泳いでいたイルカの群れへと直撃した。
「金の体は鉄と違って錆びねぇからな!!」
群れを成していた彼らの中で、とりあえず一匹に抱きつき動きを封じる。金属の身体に捕まれ、もがき苦しむ海中哺乳類。彼らも息が続かないのか海面に顔を出そうとするも、それは鉱哉の重さに遮られて沈んでいってしまう。無論------
(「俺だってそれは同じだがな・・・。」)
先に気を失ってしまえば鉱哉とて無事では済まず、試験も不合格になってしまう。しかし賭けに出なければ結果は得られない。そういうことを口酸っぱく言われて来たのだ。そして偉大なる先達から校訓として受け継いで来た。何せここは泣く子も黙る・・・
(「雄英高校だっつーの!!」)
抵抗を失ったイルカに一言だけ謝罪をし、自身の鉱化を解いて全力で浮上する鉱哉。想定より沈み過ぎたようで、視界が暗くなり始める。募る危機感がより脳内の酸素を消耗する。飛びそうになる意識------その時その身体が、下から一気に持ち上げられて海上へと押し出される。少し飲んだ海水を吐き出しながら、混乱する頭を落ち着かせてみると----
「引き上げくれんのが遅えぜ?大江ノ山。」
「問題ねぇぇぇぇえええええぜ!!!ガッハッハッハ!!!!」
個性発動により性格まで変わった外道丸が、イルカと鉱哉を下から押し上げたのであった。
「お前の個性が解けるまでは、悪いが俺とイルカの二人を抱えてなんとか泳いでくれ。」
「悪い子はいねぇぇぇぇええええええがぁ!?」
「わかってる、俺も少し落ち着きゃ自力で泳ぐからよ。そしたらゴールまでは一直線だぜ。」
こうして『鉱』と『酒』の試験は、無事に幕を降ろすことになったのだった。
氷爪が砕け、黒き砂塵が散らされる。後に降り注ぐのは圧倒的な暴力と爆炎だった。
「くそったい!!!」
漆原亜衣磁と氷川寅子が対峙する、ある意味最強の動物。彼の看板は『№2』。下手な動物よりもよっぽど破壊力を伴う化物であった。金髪が揺れて、爛々とその赫眼が煌めいてくる。それが哄笑を上げながら、真っ正面から殴りかかってくるのだ。もうどうにかなってしまいそうである。
「くらい死ね!!!」
利き腕を使わない------そんなハンデをもらっているとはいえ、飛び込んでくるのはヒーロー界の人間核弾頭その人である。襲い来る圧倒的火力は、余波だけでクレーターができるレベル。寅子が作る白虎の鎧など、まるで紙の鎧が如く容易く砕かれていく。
「まだまだ!!」
しかしそこは圧倒的避け勘を誇る『博多弁天』近接担当。紙一重で全身火傷まみれになりながらも、一撃で墜とされるような致命傷だけは避け続けていく。命の危機に反応し、限界を超えて光輝く寅子の才能。その一芸は彼女の個性の脆弱を補って余りあるほどのものだった。加えて----
「フン!!」
関東愚連隊切り込み隊長、亜衣磁の力。黒き砂塵----砂鉄を巻き上げるその力で、襲い来る副担任の視界を潰して、なんとか致命の一撃を逸らすことに成功している。
中学時代までの実戦経験、そして個性によらない部分での才能。そういった部分で難局を乗り切ってきた二人は、今回もその手法にて勝己の魔の手から逃げ回ろうとしていた。しかしその力を、
「そうじゃ、」
我らが副担任は否定する。
「ねーだろ!!」
舞い上がった砂塵ごと拭き散らす、最強格の爆撃。その影響を受け吹き飛ばされたのは、寅子もそうで、受け身も取れずに叩きつけられてしまった。
技ではなく通常の個性発動でこれだけの威力なのだ、試験ように手加減されていることはわかるが、ここまでの力は反則が過ぎる。
「個性を伸ばすために雄英入ってんだろーが!!!中学時代までの延長だけじゃ、いずれ立ちいかなくなるってんだよ!!」
相手が相手なだけで、亜衣磁や寅子も決して弱い訳では無いのだ。しかしその器用さや経験から、指示が出された程度の動物相手では、軽く突破できてしまうことが予想されていた。それなら学んだことを生かす試験の意味がない。それ故、勝己が担当するという異常な状況になってしまったのであった。
「ちぃ!!!」
倒れた寅子をフォローするために、前へと出る亜衣磁。その両手に握られた黒き黒刀は、使い慣れた故に砂鉄で即生成される。それを、
「そういうところだって言ってんだろーが!!!」
真っ向から爆撃で破壊されてしまう。
踏鞴を踏みつつも、なんとか姿勢だけは維持する髭面の偉丈夫。続いて飛んでくるソバットにそこからの回し蹴り。それは重く鋭いものであるのだが、なんとか受けて堪える。しかし見上げてみれば、火花を纏い襲い来る爆撃の拳底。今もらえば確実に終わるであろうそれを前に、なんとか堪えようと歯を食いしばる。
「危ないったい!!」
「ッ!!すまん!!!」
あわや直撃せんとした瞬間、復帰した寅子が横から飛び込むことで、何とか爆炎の魔の手を躱すことができた二人。不格好に着地した後、素早く姿勢を整えて距離を置く。全身火だるまになることで、なんとかちょっとずつではあるがゴールへと近づいてきてはいる。しかしそれも、
「甘え!!」
「っ、ぐはぁ!!」
「うごっふ!!!」
回り込まれれば結局距離を戻される。
「何が足りないったい?」
「・・・?比較するなら、あらゆるものだろう・・・。」
当然といえば当然のこと。かの№2へと届きうるものなど、たかだか高校一年生には全くないであろうことは容易に考えられる。倒れふした自分達の所へ、悠然と歩いてくる破壊の暴君。その気配を感じながら、寅子は答えを返す。
「そもそもこれはテストったい。最初っから先生を倒せるだなんて想定していないはずばい。」
「・・・その心は?」
「つまりテストとしての基準さえクリアできれば、ゴールへの道は譲ってくれるんじゃないかってことばい。」
それは酷く生徒側としては曖昧で甘え考え方であった。しかし現実、今の教師陣が生徒側であった時、格担任が判断を下せばわざと道を譲り、試験を合格したものが過去いたのも事実であった。寅子や亜衣磁はそのことは知らなくても、ハンデがあるとはいえ現役ヒーローに挑まされている現状に、違和感を得ていたのは確かであった。
「なら今この瞬間、」
「課題を見つけてクリアするしかないということか!!」
再び襲い来る、爆撃に圧倒的な暴力。それを躱して時に躱せず火傷の後を増やしながら、銀髪の近接担当と髭面の偉丈夫は、己の課題へと向き合っていくのであった。
襲い来る蛾の大群、視野ごと潰しにくるそれを相手に、なんとか毒液をまき散らし対処していく。変な煙を巻き上げながら落下していくそれを尻目に、一子は彼我の距離を確認しそのまま接近戦へと移行する。
「岸君!!!」
「任されたでござる!!!www」
アホ毛が目立つ八重歯の赤髪------久野一子がその小柄な身体を制御し、苦無を手に飛びかかるのに対し、彼女の影と同化していた影智がその身体を顕現し、回り込むように口田甲司へと突っ込む。己の影で作ったであろう、円錐形の剣と鎧を身につけて。
「あ、あま、甘いよ!」
言い方は酷く慌てているのに、その悠然とした構えに隙はなく、個性も使わずに------一子は苦無を持つその手首を捕まれて、そのまま影智へと投げ飛ばされた。個性によらずとも、体術だけでもトップクラス。その岩石のような大柄な身体に嘘はない。
「勝てなさ過ぎて大草原www」
「わかってるわよ!」
見れば再びその個性が発動したであろう、カナブンの大群だろうかが二人へ向けて飛び込んでくる。
「あぁもう、鬱陶しいたらありゃしない!!」
特別一子は虫を見てキャーキャー騒ぐタイプではないにしても(だからと言って別に好きでもない)、一度に大量に襲って来られて気分の良いものではない。個性によって発動した毒の散布で、なんとか虫どもを地に落としていく。見れば影智は虫が怖いとのことで、一子の影の中に隠れてしまっている。一回死んでほしいと思う。割とマジで。
「どうしたもんかなぁ・・・。」
中距離からの毒の散布は虫に防がれる。だからといって、近距離ではそもそも歯が立たない。岩石のような体躯から、あまり足が早いとは思えないが、虫を使えばこちらの動きを制限することは可能だろう。自分と影智の二人。奇襲が得意な自分達による正面戦闘。明らかに長所を殺しにきた現状に、焦りを浮かべて毒が零れる。
「あぁーもう鬱陶しい!役に立たたい黒人もだし、無駄にハードルが高い試験にもうんざりだわ!!」
「な、なかなかに口が悪いね・・・。」
その口から洩れた毒に対し、思わず反応したのは『万物への通訳者』。言葉を操る彼からしたら、毒忍者の発言は見過ごせないものだったらしい。
「・・・どいつもこいつもうっさいわね!」
「う、うるさくなんかないよ!」
身振り手振りを加えながら。しかしそれこそ大切なことは、必ずその言葉で伝えてきた男が、不器用ながら言葉を繰る。
「み、みんな心を伝えるために話すんだ。勇気を出してもらうために、頑張って欲しいために、そして励ましたりするために。」
三白眼の、あの当時まだまだ雛鳥だった彼女の姿が、甲司の脳裏をよぎる。そういえばあの日も、期末試験だったなぁと思い出しながら。
「闇雲に、自分の八つ当たりをするためのものじゃない。言葉を、そんな風に使わないで欲しいんだ。」
『万物への通訳者』が繰るそんな言葉に、一瞬だけ気まずげにする赤髪のくノ一。しかし我の強さは彼女も一級品、その悪い意味での雄英らしさをフルで発揮しながら、一子はその眼光に力を込める。
「その辺の反省は、試験が終わってから考えるんだから!」
「!『虫たちよ!!』」
再び苦無片手に飛び込んでくる彼女を前に、甲司は蠅達を集めて迎撃の準備を整えるのであった。
という訳でストックが切れました!!次回の更新はそのうちです!!そのうちったらそのうちったらそのうちだい!!!うはははははは!!
ごめんなさい、今後ともよろしくお願いいたします!!