「お前ら騒ぎ過ぎんじゃねーぞ!!ガキじゃねーんだから!!」
そんな言葉が怒号として響くのは、1-Aが今年度の林間学校へと出発する、バスの中でのことだった。夏休み前半とはいえ、このイベントのために買い出しを共にした生徒も多い。顔を合わす機会事態はあったであろうが、クラス全員が集合するのはまた別の話である。どうしても皆気分が高揚してしまう。
「お前ら硬派な男にはどんな女がウケると思う?あくまで…そう!!あくまで友達の話ったい!」
「そうっすねリーダー、あくまで友達のことったいね!」
「甘酸っぱ過ぎて笑えてくるったい…。」
博多弁の女子三人は、近接担当の友達(笑)の恋愛相談に盛り上がり、彼女の微笑ましい空気に子分二人が癒されている。身内の恋バナはやっぱり楽しいようだ。
「何で何回やっても小町ちゃんが大富豪になっちゃうの!?」
「たまたまよ。たーまーたーま。」
「引きが弱い時でもなんだろう、ハメ殺されちゃってんだよなぁ…。」
「そもそも何で2が一番強いんだ?そこはキングでいいんじゃないのか?」
今となっては仲良し四人組、座席の前後でトランプゲームに興じているのは、元問題児二人に美しき知略家とその元肉壁担当だ。どうやらその知略家の本領を前に、他三人はきりきり舞いにさせられているようだった。…若干一名だけ、思考が空の彼方へと飛び立ってしまっているようであるが。
「てかさ、私この前の件で虫トラウマなんだけど…やっぱり林間学校って虫多いよね?帰りたい。
」
「いやまぁわかるけど…というかそもそも虫が得意な女子高生いないし…。」
「い、命には違いないですから!必要以上に邪険にしないで、みんなで楽しみましょうよ!!」
期末試験で蛾まみれにされた毒忍者がその思い出を吐露すれば、青狸の少女が一般的な見解で同意する。そんな現代っ子な意見に負けないように、金髪碧眼の副委員長がなんとか場を盛り立てようとしている。
「み、皆さん!先生が仰られたように、なるべく、なるべく静かにバス内を過ごして下さい!。」
「…どうでもええけど、みんな聞いてへんみたいやで。」
「……。」
相変わらずクラスメイトへの影響力が皆無な委員長と、無気力な悪魔が近くで座り、以前はやたら元気だったレスバ野郎はクラスで暗い影を落としている。居心地がいいらしく、影に潜めるクラスメイトも彼の影の中にいるようだ。
「個性発動のためのお酒はおやつに入るかな?どう思う?」
「そもそもおやつの規定すらないから、過分に気にする必要すらないと思うが…。武藤君、どう思う?」
「…。」
「武藤君?」
酒を飲むことで個性を発揮するジャニーズ顔のイケメンが、己の性とおやつについて悩めば、竹刀を繰る美麗なる騎士が、その美しき所作で答えを返す。しかし彼が同意を得ようと声をかけたもう一人の、何というかレスポンスが良くない。『竹刀使い』の個性を有する大空大和が、反応が無いクラス随一の男の娘――――武藤遊次へともう一度声をかける。そこで漸く自分が呼ばれていることに気づいたのだろう。カチューシャを付けたアッシュの髪が一度びくりと揺れてから、漸く大和の方へと振り返った。
「あっ、ごめんなんだっけ?」
「いや…些か心ここに非ずといった様子に見えたので…。」
そこで群青の髪色をした少年は、先程まで遊次が見ていた先を覗きみてしまう。勿論出歯亀根性だとかそういうことではない。彼はそのマイノリティから、以前クラスメイトから心無い悪口を言われたことがある。その辺りのことでまた何かあったのではないかと、彼は友人として心配したのだ。その目線の先に居たのは――――
「八賀根君?」
2m近い筋骨隆々とした体に鋼の個性、今時モヒカンヘッドという奇抜な外見もあいまった、1-Aが誇る前線タンク。周囲の座席にはパリピ骸骨の骨川煙煉や、髭面の偉丈夫こと漆原亜衣磁が居たのだが、遊次の視線は鉱哉へと向いていたのがわかる。勿論鉱哉が何かしたとは思っていない。彼のパーソナリティは口こそ悪いものの、悪戯に他者を傷つけるようなタイプでないことを、大和はこの高校生活の付き合いで知っていた。期末試験で鉱哉とコンビを組んだ、そこに座っている大江ノ山外道丸も以下同文である。
「彼が、何か?」
困惑の色を宿す、竹刀を操る美麗なる騎士。酒さえ飲まなければイケメンな外道丸も、不安気な表情で遊次のことを見ている。
「んーん、何かあった訳じゃないんだよ。ただちょっとこの前みんなで買い出しに行って、僕だけはぐれたことがあったじゃない?その時八賀根君、一緒に居てくれたからなんだか気になっちゃって。」
その時、彼の影の薄さから一緒に来たことすら失念していた大和と外道丸である。遊次を探そうともしなかった彼等からしたら、それはなかなか申し訳ない話になってしまう。…それこそ今日のバスの中でさえ、そういえば居たっけ?となることが何度もあったのであるが。
「あっ、別に二人が僕のこと忘れてたの責めてる訳じゃないよ!!忘れられるのいつものことだし!!いつものことだし。いつものことだし…。」
自分で言いながら自分を傷つけていくカチューシャ男子。それをなんとか励まそうと、しかしちょくちょくやらかしてしまうため、遊次のメンタルを回復するための効果的な一言を伝えられない『竹刀』と『酒』。結局遊次のメンタルが回復した頃には、「ハイ、しゅーりょー!!」っと担任から到着を告げられてしまい、ゆっくりバス旅を堪能する暇もなかったのであった。
「何やってんだあいつら…。」
1-A随一のモヒカンヘッド・八賀根鉱哉は、項垂れる遊次とそれをなんとか励まそうする大和や外道丸を眺めていた。どうせ大方、自分の影が薄いことを気にして臥せっているのだろう。正直鉱哉からすればあのレベルはもはや新手の個性である。悩むのではなく活かすことを考えた方がいいのではないかと考えてしまうレベルでだ。
「武藤か・・・気になるのか?」
思索にふけっていた時に声をかけてきたのは、刈り上げた金髪に髭面の偉丈夫、漆原亜衣磁である。鉱哉とは違った意味で高校生離れした外見は、年齢不詳とクラスメイトから陰で呼ばれる原因となっていた。無論本人は欠片も気にはしていないのだが。
「テン上げ旅行でよいちょ丸~!!」
そんな渋すぎる二人の近くに座っているのは骸骨の姿をした異形型、自身を煙へと変える個性を持つ骨川煙煉だ。彼は一緒にいる二人とは正に対照的な話し方――――――所謂パリピという奴である。ノリと勢いで生きていくことが信条らしい。
彼らの集まる時は大体この三人という、なぜこうなったという組み合わせなのであるが、これでも結構仲が良かったりするのだ。世の中不思議なものである。
「気になるって程じゃねーけどよ…。まぁこの前ちょっと買い出ししてる時に会ってな。」
「なるほどな。話す機会もあれば、自然と意識を取られることもあるだろう。」
突然捕まれた腕、反射的に抱き上げた身体。そのどちらも到底同じ男子には思えず、本人の外見的な嗜好も相まって、それはより顕著なものとなる。しかしだからといって、鉱哉が追いかけたい一番星はもう決まってしまっている。だから余計な勘ぐりをしてこない、亜衣磁の存在は鉱哉にとってありがたいものであった。
「まぁ同じクラスであるうちは、適当に相手してりゃあそれでいいわな。」
「オケ丸水産草生える!」
そして一見場違いにも見える煙煉のパリピぶりは、見ているだけで明るくなるというか、細かいことを考えているのが馬鹿らしくなるので、やはり一緒に居て楽なのだと鉱哉は思う。
そんな二人にも、家のことは言えていないのだけれど。いずれは話ができたらとは思う。それくらいには、信用しているのだから。
「来ましたわね…。」
「あぁ。」
学生時代から大きく変化がないユニフォーム。露出が多いとされるそれを身に纏い、今や『創造神』とまで言われている轟百は、目の前に到着した「雄英高校1-A御一行」と書かれたバスを確認し呟いた。それに答えるのは、お互いを人生の相棒と定めた轟焦凍。氷河と灼熱を同時に宿すその個性は、今やビルボード№1の代名詞とまでなっている。
「おらぁ!!ちゃっちゃかバス降りろや!!」
そこへ爆撃と共に咆哮を上げて現れる、副担任兼ビルボード№2。クールな印象がある焦凍と比べると、どうしても粗暴なイメージを与えてしまう金髪赫眼の雄。しかし生徒を煽り、担任である取蔭切奈と共に生徒を指導する姿は、どうにもこうにもヒーローのそれではなく一端の教師のようにも見えてくる。
そんなどこか変わりつつある級友の姿に、思わず笑みが漏れる轟夫妻。しかし生徒達の様子を見て、その表情を引き締めた。
「少し物足りないですわね…。」
「いやまぁ、こんなもんじゃなかったか…?」
百がそう判断したのは、何もどこか遠足気分な生徒達の様子を見たからではない。身体付きやその所作に立ち回り。集中力が落ちた時だからこそ見える動きが、現場に携わるものからしたら少し物足りないのだ。旦那の方が若干甘いのは単純な話、突撃する中心とサポートする側の違いである。つまり、彼はそんな細かいところまで現状見てはいない。
「ってエンデヴァーじゃん!!」
「サイドキックのクリエティまで!!」
バスから降ろされてから、その存在に気づいたらしい生徒達が声をあげる。何せ林間学校への道中にビルボード№1とそのサイドキックに出会えたのだ。これが偶然だと思うようなことはなく、今回の関係者ということが期待値抜きで読み取れる。否が応でもテンションは上がってしまうだろう。
「フン!」
そんな生徒達の様子を前に、不貞腐れたかのように鼻で笑う『№2』。彼と焦凍は実力伯仲であるのだが、『新たな象徴』無き後の№1争いに、勝己が後塵を拝しているその理由――――つまるところこういった人気面の差である。それを自分の生徒の態度からも露骨に読みとらされてしまい、みみっちくも不機嫌になる金髪の暴君。しかし呼んだのは自分なのだ。ならさっさとやることをやるべきである。
「今回の林間学校で護衛件指導をしていただく、エンデヴァーとクリエティだよ!はい、みんな挨拶!」
生徒達へと向けて担任である取蔭切奈がそう声を張る。それに合わせて、十人十色な生徒達がお願いしますと声を返す。一年が始まった時は声すら出ていなかったことなど、轟夫妻は知る由もないであろう。
そんな中気づけたのは一体果たして何人いるのか。黒髪でロングヘアーの生徒が警戒するように目線を走らせている。焦凍と百は彼女の目敏さに気がつき、満足気に頷いていた。
「リザーリィから紹介してもらったエンデヴァーだ。短い間だがよろしく頼む。」
「同じくクリエティですわ。私達も皆さんと同じでかつては林間学校参加し、当時の仲間達と切磋琢磨させて頂きました。皆さんにとって有意義な時間になるよう、精一杯させて頂きますわ!」
それこそ学生時代の面影を残す焦凍の挨拶と、そのぶっきらぼうな一面をフォローするかのように美辞麗句を並べる百。どうやらエンデヴァーを名乗るヒーロー達は、体外的な受け答えはあまり得意ではないのかもしれない。勿論某副担任は、得意ではないどころの騒ぎではなくてサイドキックが泣いているのだが。
「ここは見ての通り周囲が森に囲まれている。本来なら国有地で立ち入り禁止なんだが、林間学校をするってことで特別許可をもらった。」
そう、学生達がバスから降ろされたのは周囲に森しか見えない崖の上。周囲に見える森はジャングル程ではないものの、密林と言っても差し支えないレベルで覆い茂っている。そんな状況を説明する№1のことを、赤毛でアホ毛がある生徒が惚けた表情で見とれている。どうやらイケメンが好きらしい。
「皆さんにはまず、ここから歩いて三時間ほどのキャンプ場を目指してもらいますわ。二時の方向を直進して行けば着きますから、夕飯までには辿り着きますわよね?」
そんな生徒のことを微笑ましく思いながら説明を引き継ぐ『創造神』。ちなみに彼女にはクラス中の男子の目線が突き刺さっている。発育の暴力は、どの世代に対しても会心の一撃となるようだった。そんな男子達に向けて、目線で牽制を入れる最強の旦那様。独占欲が強いのは果たして誰に似たのだろう。
「ねぇ、なんか寒くない?」
金髪狐耳の生徒が声をあげる。
「足元に霜が降りているでござるwwww」
独特な喋り方の生徒が声をあげる。
「!まずい!みんな逃げて!!」
先程から何か考え事をしていた黒髪の生徒が気づいて叫んだ。
その瞬間、じわりじわりと冷気を放出していた焦凍が本気で冷気を放出する。穿天氷壁等のような、氷を直接生み出す技とは一線を画すそれ。生徒達は今そう、崖側に立っているのだ。
「『膨冷熱波』。」
呟くその言葉と共に、その半身から炎を噴き出す『氷炎の支配者』。急激な温度変化を巻き起こすそれは、かつてのプロヒーローでさえ本気を出さねば止められなかった威力を発揮する。
「「「「「ああああああああああ!!!!!」」」」」
事前に気づいて飛び出すことに成功したものの、その爆風に吹き飛ばされていく現1-Aの生徒達。放たれた技の角度が違えば地形すら変える技なのだ、流石に対人ということで手加減したものの、一クラス丸ごと森へ吹っ飛ばすには充分過ぎるほどのものであった。
「改めてよろしくね。轟に八百万。」
古友の名字を以前のもので呼んでしまうのは古馴染みだからだろか。自分の可愛い生徒達が吹っ飛ばされたのに、微塵も心配せずに挨拶を始める担任の先生。下手な軍隊の教習所よりも、雄英は危険な学校なのかもしれない。
「フン。まぁよろしく頼むわ。」
そんな危険な学校の危険度を、率先して引き上げている金髪赫眼の副担任。自分が呼んでおいてこの態度。それが親しき間柄から来ているということは決してないことぐらい、この場にいる全員がわかっていた。
「生徒達の方が態度良かったぞお前。」
「何とかいうか…相変わらずですわね、爆豪さん。」
しかし半冷半熱の彼からすれば、目の前で睨んでくる相手は四川麻婆のためなら家まで来る男である。勝手に友人の一人ぐらいに認識しているし、隣にいる嫁も育ちの良さでは№1――――つまり、勝手に険悪になっているのは勝己一人だったりする。……実力以上にそんな二人だからこそ、今回護衛を頼めたのだ。勿論、暴君の副担任は死んでも口に出す気は無いが。
「じゃあまぁ私らは先キャンプ地移動しよっか。」
そんな裏事情は一切知らずに、担任である切奈はその黒髪のポニーテールを揺らして、元1-A達へと声を掛ける。クラスは違えど共に切磋琢磨した同学年だ、当時から今も含めて疎外感などは全くない。
「おい。」
「?どうしたましたの?」
「打ち合わせ通り配備し殺したんだろうな?」
すごい日本語ですわね――――『創造神』と呼ばれる彼女はそう呟きながら言葉を続ける。生徒達への最初の障壁になることを、はっきり自覚した上で。その理知的な黒い瞳が、暴君の赫眼を真っ直ぐに捉えた。
「ぬかりはありませんわ。私達の時も時間がかかりましたけど……あの子達、下手をすれば今日中には辿り着きませんわよ。」
この位置からでもはっきりと見えるほどの巨大な何か。それが目的地であるキャンプ場までの間に数十体程起立し始めた。無論創造したのは作れぬ物無しである最強のサイドキック。彼女が割り振った最初の試練に、学生達は果たして応えられるのか。
「お手並み拝見、させて頂きますわね。」
本年度の林間学校は、こうして幕を開けたのであった。
始めて二人で出かけたことは覚えている。勿論卒業してから、きちんと二人が恋人になってからの話だ。ただそれまででも二人で出掛けることは割とあったから、特に新鮮味があるわけじゃなかったが、それでも何故か緊張感だけはあったように思う。
だからかな?ただでさえ人目を惹く容姿をしている彼女が、待ち合わせ場所でナンパされている姿を見た時、無性に腹が立ってしまったのは。それこそ頑張ってお洒落をしてた百の姿を、誰かに取られるのは嫌だと思ったから。
少し睨んで声をかけていた男を散らせる。わかってるただの焼き餅だ。そのまま行くぞと手を掴んで歩き出した。そういえば付き合う前を含んでも、こうして手を繋いだのは始めてだとそこで俺は気づいて。
振り返れば大好きな人。服装ぐらいは褒めろよと上鳴から言われていたけれど、お世辞ではなくて自然と口に出していた、綺麗だと。その時の赤くなって恥ずかしそうで、でも幸せそうな百の表情は今でも忘れられないから。俺はこれからもお前の手を離さない。よろしく頼む、付いてきてくれよ。
少しでも甘くしようとしているんですが、難しいですね。轟百できてます?感想などで教えて頂ければ幸いです…