爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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轟「爆豪から林間学校のお誘い…」八百万「怪しさしかないですわねぇ」 その6

 

 

 

 「レーザーブレスったい!!」

 

 九州地方独特の方言と共に放射されたのは、白色光のレーザーブレス。女だてらに修羅の国、福岡でレディースをしていたその橙髪の遠距離担当――――伊木山吟子が放った一撃だった。

 

 「風玉・連弾!!」

 

 空を舞う鳶色の翼、散切り頭のロングの黒髪。そのオッドアイの眼光の持ち主――――嵐島飛天が放った風の弾丸は、その白き閃光を追うかのように、対峙していた襲撃者へと牙を向ける。

 

 「やったったい!?」

 

 そして相も変わらず前線で囮要因を買って出ていた銀髪の近接担当――――『博多弁天』リーダー氷川寅子だ。天性の避け感を誇る彼女であるが、その脇腹は既に自身の血で赤く染まっている。神野を知る古強者の攻撃すら避け切る彼女でさえ、躱せない何かを繰り出されたらしい。

 

 「その台詞はフラグだよ…。」

 

 一見青狸に見える少女。狸耳を生やし、二つに分けた三つ編みを背中に垂らしている――――野開未来はフィクションの定番とも言える台詞と流れに、その隈のある顔で冷や汗をかいている。物語の中なら、先程の台詞が出た段階で相手が怪我をしている可能性はほぼない。

 

 「クハハハハハハ!!効カン効カン!!」

 

 やはりというかなんというか、煙が切れた先にいた脳髄が丸見えのヴィランは、全く元気な様子でその姿を再び現した。

 

 

 ハイエンド≪柔≫ 個性: 衝撃吸収・衝撃反転・衝撃耐性・剣精製・酸放出・熱線腕放出・超反射神経・筋肉増幅・多腕形成・超再生

 

 

 「くそったれったい!!」

 

 再び姿を現した脳髄が無い改造人間―――――――人型の脳無へと踊りかかる、シルクロードの髪を持つ銀髪銀眼の近接担当。先程怪我を負ったことを気にしてか、『有翼の風使い』もその羽を二刀の刃と化して、追随するように前へと飛び出した。

 

 『フン!!』

 

 「「!」」

 

 一つの拳撃に十の連撃。個性:多腕形成により増やされた拳が、本来想定していたのと違う角度で吟子や飛天に襲い掛かる。それはまるで嵐の日の濁流のような。拳の群れはまるで流動物であるかのように二人へと接敵する。

 

 「なんのったい!」

 

 しかしそこは天性の避け感だけを武器に雄英へと入学した寅子と、神童と謳われた飛天である。『白虎』の鎧や双羽剣を盾になんとか躱す。だが距離を取った二人の手には、砕かれた氷の鎧と折れてしまった鳶色の剣しか残らなかった。

 

 「ソコ!!」

 

 前線担当の二人が引き付け切れなかった結果、次弾を装填していた後衛二人へと、ヴィランはその牙を向ける。右腕から放たれる熱線は吟子を、そして左手から噴出した酸は未来へと、それぞれがスナイパーの如き精密さをもって放たれた。

 

 「!レーザーブレスったい!!」

 

 喉が焼ききれる勢いで放ち返した白き閃光。それでなんとか相殺。未来はなんとか役に立とうと、スーパーポケットから出したセメントガンを盾に、強酸の水流を防いでいた。

 

 「これはもう使えないけどね…。」

 

 一つの攻撃を防ぐのに一つ武器を失うか、次弾を装填できないほど振り絞るか。

 四人がかりでここまでの差。事態の重さに、絶望の足音が聞こえた吟子と未来。相手と距離を取り、俯瞰的に戦場を眺める遠距離担当とポーターの2人だからこそ、その事実が重く突き刺さった。しかしだからと言ってしまってもいいのだろうか――――――

 

 「諦めない!」

 

 「だからどうしたとぉ!!」

 

 夢を追う『風使い』と、目標を定めた『しろつめ寅子』は止まらない。

 

 「ダカラコソ面白イゾ雄英生!!」

 

 接敵してくる高校生相手にその個性を顕現する、ハイエンドと呼ばれている個体。個性:筋肉増強により肥大化した腕が、個性:多腕形成により増加し、その一本一本の拳から剣が生えている。個性:剣精製の合わせ技だ。

 

 「まるで千手観音ったいね!」

 

 「拝む気にはなれないがな!!」

 

 言葉共に踏み込む高校生2人。夜空に生える銀髪の手には、手数を優先してか二刀の西洋氷剣。対し散切り頭のオッドアイが持つのは、やはり使い慣れた羽双剣。

 

 「「だああああああああああ!!!」」

 

 そして踏み込みと共に舞い上がる土煙。それを境に降り注ぐ濁流が如き剣閃。一つ一つは個性:超反射神経によりコントロールされている――――――的確に急所へと襲ってくる大量のそれは、まるで戦場そのものと戦っているかのようだった。

 

 「羽根手裏剣!!風玉!」

 

 「目潰しアイスブレス!!」

 

 上段から襲ってくる剣閃を飛び道具で逸らして躱す。次に襲ってくる斬撃は避けずお互い双剣にて受けて、その隙に足を狙った攻撃は跳ねて躱していく。少し大振りな動きがあれば立ち替わり入れ替わり、少しでも敵の攻撃を逸らすための布石を打ち続けた。『神童』と『リーダー』、誰が相手でも憶さず向かっていくのは、己の憧れに一歩でも近づきたいから。未だ羽ばたくには怪しい翼だが、懸命に空へと飛ぶために藻搔いている。

 

 「それはあんたらもそうじゃなかと!?吟子!野開!!」

 

 足が止まり呑まれてしまった2人へと、発破をかける修羅の国のレディース総長。相手が自分より強いことなど当たり前だとばかりに、その歩みは止まらなかった。いや、止まって来なかったから。

 

 「っ、リーダー…。」

 

 そんな彼女の姿に、ゲーセンで闘い死を覚悟した時のことが吟子の頭をよぎる。ほとんど何もできずに、結局見ているだけだった自分達のことを――――――

 

 「やってやるったい!!」

 

 怒髪天が如く逆立つ橙色の髪、そして吊り上がる両の眼。それは個性発動の予兆。博多弁天遠距離担当『ジト目のお吟』。その口から、雷の閃光が迸る。

 

 「ライトニングブレスったい!!」

 

 発破をかけたリーダーはしたり顔でヴィランからは距離を取っており、飛天もそれに合わせて距離を置く。その空いたスペースを射貫いていく稲光。紫電のそれは、『死へと誘う千手観音』へと一寸の狂いもなく吸い込まれていく。

 

 「雷撃カァ!面白イ!!」

 

 紫電をその身に受けて、尚口元だけの笑顔を浮かべ続けるハイエンド。それは脳無という存在が持つ種族的特性ではなく、きっと彼個人のアイデンティティなのであろう。つまらん援護などいらんとばかりに、他の場所で発生しているヴィラン側の意識誘導個性はこの場所だけ対象外となっていた。

 

 「ケホッ、再生されてるったいね…。」

 

 自身が放った全力の雷撃。それを真っ向から受けたにも関わらず、一見多椀の化け物の身体はピンピンしているようにも見える。しかしその身体から舞い上げる煙は、雷のダメージによるものだけではない。身体が個性により再生される際に噴き上がる、再生煙と呼ばれるものであった。再生持ちのクラスメイト――――――大江ノ山外道丸や土屋大地の姿を見ているため、吟子達はそのように断言できた。

 

 「怪我ヲシナイトイウ身体モナカナカ面白イモノヨ!種ハソレダケデハナイガナ。」

 

 個性:超再生と個性:衝撃吸収、そして衝撃耐性。攻めのバリエーションだけではなく、彼は守りも鉄壁。攻防を柔軟に熟せることから彼の通称は――――――

 

 「我コソガハイエンド≪柔≫ナルゾ!血湧キ肉躍ル闘イヲ望ム!!」

 

 「勝手にやってろったい!」

 

 「友達が少ないのか?」

 

 勝手にやってきて勝手に暴れて、好きに暴れ回る犯罪者に対し啖呵を切る寅子と、『風を操る癖に空気が読めない』発言をぶっこんだ飛天。それぞれアイデンティティ丸出しの発言と共に、二人は生物学的に格上の相手へと飛びかかった。

 

 「甘イワ!!」

 

 再び襲い来る剣閃を伴う拳撃。首を傾け身体をねじり、強引に羽ばたいて躱す『虎』と『風』。それでも明らかな限界は訪れる。先程寅子の脇腹から、血が滴っていたように。

 

 「くっ!!」

 

 躱しきれず来るであろう斬撃を前に、歯を食いしばるレディース総長。その間隙の刹那、潜り込むのは青い影。それはまるで野狸が山を駆けるかの如く――――――

 

 「私は狸じゃない、アライグマだぁー!!!!」

 

 「!我ガ無数ノ剣戟ヲ受ケ止メルカ!」

 

 自称アライグマな青髪の少女、野開未来の両手にはめられたのは赤いガントレット。それは『壊れた英雄』がかつて、その師と共に拳を繰りだすために嵌めたサポートアイテム。本来は攻撃時の衝撃を緩和する為のそれを―――。

 

 「守るために使うんだ!サポートアイテム・フルガントレット!」

 

 「猪口才ナァァァ!!」

 

 「嵐島!!」

 

 「あぁ!!」

 

 攻撃の拍子が崩れた瞬間を狙い、二刀の剣閃を一気に叩き込む寅子と飛天。やはり回復され、なんならこちらの武器は個性:衝撃反転の影響で破壊される。だが、

 

 「壊されたらすぐ作り直せばいいっと!!」

 

 「夏の羽毛は薄くて壊れやすいな…。」

 

 再びその両手に武器を生み出し後ろには一歩も下がらない。もし避けられない致命の一撃があれば、未来がフルガントレットで盾代わりになる。そしてこの瞬間も、吟子がライトニングブレスを撃つタイミングを模索している。

 

 「ダメージは回復しても痺れは残るったいね!?」

 

 雷撃を受けた直後に鈍っていたヴィランの動きを、雛鳥達は見逃さなかった。衝撃への備えは万全でも、守り特化ではない以上どこかに弱点は残る。

 

 「面白イゾ雛鳥共!!ソノママ存分ニ闘イヲ楽シマセテクレ!!」

 

 「だからそういうのは!!」

 

 「他所でやってくれったい!!」 

 

 言葉共に再び交わる最高傑作と雛鳥達。互いに全力を尽くし動く様子は、戦場でこそ煌めく命の輝き。その光を失うのは果たしてどちらが先なのか。飲み込むだけの夜の帳は、決して教えてはくれなかった。

 

 

 

 「座り込んでる場合じゃないんだよ!!!」

 

 そう声をあげ怒鳴るのは、どちらかといえば温厚と称される黒髪の少年、出水洸汰であった。

 

 「林間学校中に煙が上がってる!爆発音だってそこら中でしてる!!ただ黙って座ってちゃダメだ!!」

 

 勿論これは癇癪を起こして一人で喚き散らしているのではない。突飛な事態に叫びたいのは本音だが、過去の経験と今日まで学んできた雄英での日々が、彼になんとか理性を維持させていた。そう、それは頭によぎる己の英雄と話を聞いてくれた偉大な先達。かの二人なら、絶対こんなところで挫けないことを知っているからだ。

 

 「戦えって言ってる訳じゃない!やれることをしにいくって言ってるんだ!!立てよ!!」

 

 言葉共に震えて動かなくなっていたクラスメイトの胸倉を掴み上げる。強引に立たされた相手は、それでも尚座り込もうと藻搔いてくる。

 

 「いい加減にしろよ!土屋大地!!」

 

 「……っ、離して下さいよ!!」

 

 強引に捕まれた腕を振り払おうとする、地味目の茶色い少年。しかし一端語り始めれば朝まで持論を展開するような男であることを、洸汰はこの半年近い付き合いで存分にわかっている。そのせいで孤立し、未だ不貞腐れていることも。

 

 「なぁ!!どういう状況かわかってんのかよ!!」

 

 硬質の髪を振り乱し言葉はつい荒くなっていく。攪乱型の脳無の影響はここにも来ている。怒鳴っていなければ吞まれてしまいそうなのを、なんとか歯を食いしばって耐えているのだ。きっと闘っている他のクラスメイトも。

 

 「だからって僕らでそのヴィランを倒しに行くの!?そんなの無謀過ぎる!!」

 

 「誰もそこまでは言ってない!!せめてこの個性発動の邪魔をするだけだ!!」

 

 「それが無謀だって言ってるんだ!!!」

 

 最後にはその両の手で大地は洸汰のことを突き飛ばし距離を取った。意識は以前誘導されつつある。なんとか抗うためにも、お互い言葉は荒くなっていく。

 

 「脳無が何か覚えてないんですか?授業でもやりましたよね?十種類前後の複合個性、それに含まれる再生能力!僕や大江ノ山君みたいな特定条件下での中途半端に発動するものとは訳が違うんですよ!それ相手にたかが学生が!」

 

 「ただの学生じゃない!雄英生だ!」

 

 「だからなんですか!?思い上がりです!」

 

 その髪色と同色の瞳で互いのことを睨み合う。英雄幻想を無謀と宣うか。それともそれでこそヒーローだと立ち上がるのか。

 

 「無謀なことしてかえって先生達の足を引っ張るだけでは?それこそ昔林間学校に参加して、デクに庇われたんでしょ?同じように迷惑かけるだけですよ。」

 

 唾でも吐き出すかのごとく、嘲笑と共に洸汰のことを嘲ったクラス一番の皮肉屋。その瞳が暗く見えるのは、きっと夜が統べる闇のせいだけではないのであろう。

 

 「分は弁えてる。」

 

 夜の帳の中で、己の中に光がある少年は真っ向から答える。助けられるだけだった自分。自損してでも誰かを守り通してくれた『新たな象徴』の姿を覚えているから。

 

 「全体に見えるように攪乱する個性を使ってるけれど、それに突出してるように見えるんだ。一点でとどまっているのはそのせいだ。」

 

 闘いながら発動できるものならそうするでしょ?そう言葉を続けたもう羽ばたいている雛鳥。ただの英雄思考ではなく、一応の目算があることに驚く未だ受精卵ですらない少年。

 

 「でもそんなの先生に任しておけば…。」

 

 「先生達だって身体は一個しかないよ、オールマイトじゃないんだから。」

 

 それは伝説的な英雄となった人物の名前。一人で全てを救った偉丈夫。しかしもう彼おらず、今は皆で全てを守る時代となったから。

 

 「君は怖いんだよね?土屋君。」

 

 「!!別にそんなこと!!」

 

 そこには対等だと思える相手へと向ける敵愾心もなければ、意見が違う相手への対抗心もなかった。洸汰が大地へと向ける感情はもう一つだけ。

 

 「僕も君のことを守るよ。そのために少しでもできることを頑張る。ただ蹲るんじゃなくて、個性を使って上手く隠れていて欲しい。」

 

 助けを求める顔をしていた――――――そんな誰かへと向けた慈悲心。

 そしてそれは同時に、雄英生である土屋大地が己のことをそっち側だと気づかされた致命的なきっかけとなる。

 

 「じゃあ行くね!頑張ってくる!」

 

 走り出したクラスメイトにかける言葉は見つからない。どうしていいのかも分からない。ただ言われた通り、個性を使って作った土塊の中に身を隠して、彼は朝まで震えていることになったのだった。

そこに少しでも悔しさがあったかどうかは、やはり彼にしかわからないのであった。

 

 

 武藤遊次が膝を着いたのは丁度その時だった。サイドポニーにしていたアッシュの髪は、ゴムひもが切れたのか乱暴されたかの如くぼさぼざになっている。その身体は限界以上に酷使したのか、息は異常な程上がっており瞳孔が開ききっていた。もうダメだとは口にしない辺り、彼もまた雄英生なのであろう。

 

 「ダカラッツッテドウニモデキル訳ガネーケドナ!!」

 

 まるでプロのボディービルダーのような肉体。その身体から生える八本の腕。その腕にはそれぞれ刀や斧に果ては槌、遂には弓までもが生えそろっている。ここまで来たら勿論のこと頭蓋骨はなく脳髄が丸見えであった。残忍な口調は本人のアイデンティティ。

 

 ハイエンド≪殴≫ 個性:刃精製・斧精製・槍精製・槌精製・弓精製・剣精製・超反射神経・筋肉増幅・多腕形成・超再生

 

 「マルデ犯サレタ女ノヨウダナ…。ソソリマスナァ…。」

 

 彼の性別を知らずに舌なめずりをする、横幅が大きくまるで力士が如き体型の脳無。出てくる言葉には、今までの改造人間では確認されなかった三大欲求の一つである、ある意味下卑た部分を隠そうともしていなかった。

 

 ハイエンド≪攻≫ 個性:衝撃反転・刃精製・毒放出・帯電・帯炎・超反射神経・剛牙・筋肉増幅・多腕形成・超再生

 

 顎を持たれて顔を挙げられた遊次。その顔の前には、その身の欲求と下半身の怒張を隠そうともしない卑劣感。そのよだれをその端正な顔に受けて、ようやく男の娘は言葉を発した。

 

 「漆原君…。大空君…。」

 

 磁力を操る髭面の偉丈夫と、竹刀を操る美麗なる騎士―――真っ向からこの二体のハイエンドと戦った二人は、生きているか死んでいるかもわからない状況で、血の海の中で微動だにしない。折れた竹刀が、無念を示すかのごとく転がっていた。

 

 「学生ニシテハナカナカダッタナ…。」

 

 全身に炎を纏う神官風の男。勿論彼も脳髄が丸見え。しかしその火力は隋一のもの。それこそかつてのヴィラン連合『蒼炎』荼毘を彷彿させるかのような。その猛る豪炎は遊次が【召喚】した異形の動物達を焼き尽くしたのだった。まるで、敵わない。

 

 ハイエンド≪炎≫ 個性:蓄炎・放炎・帯炎・炎精製・炎収束・炎吸収・炎指向性・炎耐性・炎回復・超再生

 

 不快感を漂うと匂いと粘液の感触。それをその身に浴びながら、仲間の心配をした遊次に、大したものだと称賛を送りたい≪炎≫であった。しかしそれがなされることない。欲望に目が眩んだ同種二人を前に彼は言葉を謹んだ――――――下手に関わって敵意をぶつけられても面倒であったからだ。所詮遊次とは敵同士、味方の興を削いでまで言う気にはなれなかった。

 

 「ヤりたきゃヤりなよ…。」

 

 だからこそ次に聞こえたその言葉に、顎を掴んでいた同種二人すら言葉を失った。

 

 「まぁなんていうかボクには穴なんかないわけだけど…。それで気持ち良くなれるならなればいい。敗者が勝者に従うのは、勝った者の特権だからね…。」

 

 「ジャア思ウ通リニシテヤルヨ!」

 

 「潔ヨイジャネーカ!!」

 

 言葉ともに遊次の衣服を破き、地面へと組み敷くハイエンド二体。彼の下半身を確認した二人がそれもまた良しと口にしたのを≪炎≫は耳にした。だからこそ、止める。

 

 「待テ!」

 

 「ナンダ?邪魔スル気カ!?」

 

 言葉ともにその身に溢れる個性を顕現し、多腕に生まれた多くの刃を神官の脳無へと向けてくる≪殴≫。隣にいる≪攻≫も雷と炎をその身に纏い始めた。

 

 「時間稼ギダ。ソノ身ヲ犯サセ教師陣ガ来ルマデ時ヲ稼グ腹積モリダロウ。」

 

 その言葉に驚き遊次の方を振り向く二体の変質者共。策が露見した遊次は怯むことなく二人の方を睨み返し、言葉を繰る。

 

 「なんか揉めてるようだけど、ようはヤるかヤらないかの二つでしょ?ヤらないの?それとも童貞だからヘタレちゃった?まさかEDとか?それならヤれないね。すごんでるのは下半身だけなんてお笑い種だよ。」

 

 安い挑発。しかし娑婆の空気に舞い上がり、闘いに酔ってしまった改造人間二人は、理性でもって歯止めをかけるなど到底不可能であった。≪炎≫へと向けていた己の武器と剛腕を、そのまま裸体の男の娘へと向ける。

 

 「ナラ突ッ込メル穴カラ作ッテヤルヨ!!」

 

 「ハァ、ハァ…イイ声デ鳴ケヨ!!」

 

 「今度コソ待テ!!」

 

 「ナンダモウ鬱陶シイ!!」

 

 再び静止をかけてくる、一人冷静沈着な神官服の改造人間。灼熱の個性を身に宿すのに、その性格は個性によらないものであったらしい。彼は性欲に支配される同僚に一つだけ溜息を吐いて話し始めた。

 

 「興奮していると≪導≫の通信すら耳に入らないのか?来るぞ。」

 

 言葉共にその場から離れるハイエンド≪炎≫。飛来する赤き光源が、彼がそれまで立っていたであろう場所を焼き尽くす。それは改造人間のものとは違う、炎。

 

 「ヒーローが。」

 

 その言葉と頭に直接響く声に、ようやく事態を飲み込んだ≪殴≫と≪攻≫。二人も合わせて睨みつけた先には、悠然と歩く二人の男。

 

 「ハイエンドクラスが何体かってとこか?想定より温いじゃねーか。ったくよ。」

 

 爆発した金髪に、夜の帳すら焼き尽くすような赫眼。その瞳に射貫かれて、動くことすらできずに沈黙させられた犯罪者達が、一体何人過去にいたのであろうか。ヒーロービルボード『№2』にして、雄英高校1-A副担任――――――

 

 「大爆殺神ダイナマイト…。」

 

 「てめえその名前は二度と言うなって言ってんだろうが!!」

 

 如何に天才マンでも、ネーミングセンスにはどうやら恵まれなかったらしい。過去に付けた小二発言を堂々といじられ憤慨していた。

 

 「当時はドヤ顔がすごかったからな…。てっきり未練でもあるのかと思ってな。」

 

 「こいつら片づけ後はてめえをしばき殺す。」

 

 勿論ヒーロー界の核弾頭を天然発言でイラつかせる男などそうはいない。半身に火焔を宿しもう半身には氷河を纏う。その姿は皆で全てを守ろうとする、象徴無き時代の皇帝。ヒーロービルボード№1――――――

 

 「てめえこそあれだけ嫌いだった親父の名前なんざ、よく継いだもんだぜエンデヴァー。」

 

 「意趣返しのつもりか?いやらしい質問だな、爆心地。」

 

 新たな時代の二つの柱が、旧時代の改造人間と対峙する。狩る側と狩られる側。今宵は果たしてどちらがどちらとなるのか。夜の帳の中に、ようやく一筋の灯りが差したような気がした。




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