「超酸素カプセル…。」
「百特性!!」と大きく書かれたその救命カプセル。趣がある、そう思える程の大森林に展開されたその威容。その文明の利器の数々と、この国有林の組み合わせは、もはや違和感を通り越して、伝説上の古代文明を彷彿とさせるほどのものであった。
まるでどこか異世界に迷い込んだかのごとく、アッシュ髪の高校生は友人を引きずり進んでいく。
そんな異文明の先で彼を迎えてくれたのは、『神』の名を通り名に冠するサイドキック――――――長い黒髪をアップにした、轟百であった。
「よくご無事でしたわね!」
生きていればセーフという考え方なのだろう。ほとんど虫の息となっている2人を、超酸素カプセルへとぶち込んでいく古代文明の女神。見た目の美しさとは裏腹に、その慣れた手つきはどちらかというと肝っ玉お母さんを想像させた。
「なんとか、生きてます。」
「本当に、よく頑張りましたわ!」
「あっ、はい、ありがとうございます。」
ようやく、助かった…。その実感は正直まだ湧いてはいない。それはそうだ、肝試し中の急襲に崩れ落ちるクラスメイト。そして、砕かれる馴染みの召喚獣達――――――そして最後、貞操を汚されそうになって、
「ッツ!!」
そのまま膝をついて、尻餅をついてしまった。今更ながら、どういう状況でどういう事態だったのか。己の行動を改めて自覚した。やれるもんならやってみろなんて、吠えてはみたけれど、落ち着いてみたら、如何に危険な状況だったのか。組み敷いてきた相手の腕が、押さえ込んできたそれが、遊次の頭の中をフラッシュバックして――――――
「大丈夫ですのよ。」
「あっ…。」
「大丈夫。」
震えて知らず己を抱きしめた、強姦されかけた美少年――――――彼のジェンダーが果たしてどちらなのかは、クラスメイトの誰もが触れないようにしている部分であるのだが、「男性に組み敷かれる」という状況に、耐えられるようにはできていない。
「うっ…。ぐ、えぐ。」
その心の傷を癒すかのように、まるでその魂を癒すかのように。鬼謀の女神は、その艶やかな黒髪が汚れるのも厭わず、その心と体が傷ついた雛鳥を抱きしめた。
「ぐぅ、んぐ…怖っ…かった…」
その個性故に、露出が多くなってしまったそのコスチューム。しかし抱きしめられた遊次の身にあふれたのは、決して劣情ではなかった。ただただ暖かたい、まるで母親に抱きしめられた時のような。
「泣いても、いいですからね。」
まだみんな闘っててとか二人の容態がとか、いろんなことで我慢していた男の娘の涙腺は、その言葉で完全決壊したのであった。
「すみませんでした。」
「い、いえいえ、傷ついた心を癒すのもヒーローの勤めですわ。」
ようやく落ち着いた遊次に声をかけた百は、彼の性別が男性だということに、抱きしめてから気づいたせいで内心動揺していた。
「焦凍さん以外の男性に思いっきり抱きついてしまいましたわ…。」
いやだって誰がどう見ても、こんな影が薄い美少女が抱きしめてみたら案外筋肉質でとか、そんな展開をどう予想しろと言うのか。高校生はまだ子供、そう誰とは無しに言い訳してみても。
「あの、」
「あっ!はい!」
初心な天然美少女だった彼女も、人妻になっていろいろ考えることが多くなったらしい。轟家の夜の生活が心配になるくらいの動揺っぷりではあるのだが、今はまだ戦場ということで、意識をそれようにすぐ切り替えていく。
「ボクはこの後どう動けばいいですか?」
緊急事態における指示は身近にいるヒーローに従うこと。いの一番に飛び出す、どこぞの前衛担当共とは違い、遊撃要員である彼はその当たりの常識を踏まえて生きている。
「ヒーローとしては少し物足りない所かもしれませんけど…。」
「えと…。」
「いえお気になさらずに。そうですわね…。」
見渡す国有林。敵の気配はほぼない。現状襲撃してきたハイエンドに対し、恐らくヒーローの方が少ないこの現状。ならば―――
「人手が多いに越したことはありませんわね。」
そんな言葉共に取り出したのは、朝が忙しいサラリーマンが愛飲している、ゼリー状の栄養補給剤だ。鉄分ナトリウムと書かれたそれをまとめて三つ、一気に吸い上げて、個性発動のための養分とする。
「ご、豪快…。」
あまりの吸い込みっぷりに啞然となる男の娘。そんなことは今更気にならないとばかりに、『創造神』はその個性を発動、肩から飛び出したピアスを遊次へと手渡した。
「これをつけていれば、ヴィランの洗脳電波は大方防げますわ。」
「あっ、はい。」
「私も前線に出ますので、ここの守護をお願い致します。」
「えっ!ちょっと!?」
先ほど起こったことがことだけに、一人にされる心細さから、雛鳥はプロへと声をかける。庇護される側の、当然な反応。彼が雄英でなければ、何も問題無いその姿。
「敵の気配は現状ありませんわ。使える個性は不思議なことに覚えてませんけど、闘い方は爆豪さんより聞いてらっしゃるはず。」
そう、彼は雄英生だから。
「ここを襲ってくることがあるなら、まず回復源であるカプセルが標的でしょう。ならあなたはそれを利用し囮にして、逃げなさい。物は壊されても構いませんから。三人で逃げるだけの準備だけはしておいで下さいね。」
百は決して甘やかさない。いずれ自分達の後を継いでくれる、未来のある若者を。それこそそのお陰で、自分はここまで来れたのだから。…影が薄すぎて、遊次の個性のことは完全に忘れてしまったのは置いといて。
「…は、はい。」
震える手足をこらえて、しかしなんとか顔だけは上げ切った、美しい顔をした美少年。それは最後の意地なのかもしれないが、その覚悟を決めた表情を見た百は、これなら任せられると笑顔で頷く。
「愚直な出力上げも勿論大事ですが、最後は個性に対する発想力が物を言います。影が薄いあなたこそ、他の生徒のそういった部分を参考にするのもいいと思いますわよ。」
「発想力…。」
必殺技や小手先の技術に拘り、出力アップを疎かにしていた他の生徒。そんな中で、このアッシュ色の男の娘だけは、その逆なのではないかと指摘する大いなる先達。
「わかりました、この状況ですから。むしろいろいろ試してみます。」
「頼みましたわよ。雛鳥君。」
その言葉を残し、まるで平坦な道でも走っているのではないかと見間違うほどの速さで、山道を駆け抜けていく一流のサイドキック。最後に教えてくれた言葉を反芻し、己の武器である自作のカードをもう一度眺めてみる。
「そうだよね、一体しか【召喚】できないのだって、訓練したらなんとかなるかもしれない。」
それこそ全身から多くのアイテムを創造したクリエティのように、自分だってできるかもしれない。いや、できるようにならなきゃダメだ――――――。後にワンマンアーミーとなり、クラス一の特記戦力となる武藤遊次。遠い未来には、麗しの人妻から「とんでもない子を育ててしまいましたわ」と言われることになるのだが、それはまだまだ先のお話。
「≪炎≫達ガヤラレタダト!?」
亀型の身体を動かしながら、≪雷≫の名を与えられた改造人間は思わず呻いてしまう。己の目の前にいる、もはや黒焦げになってしまった雛鳥を眺めながら。
「くそっ…が…。」
「貴様モマダ動クノカ…。」
完全に沈黙させること計六回。それを何度繰り返しても、最後には焦げた先から銅化して起き上がってくる、考えられない不屈の闘志。再び立ち上がったその眼光は、現役ヒーローでさえ出しえない凄味が既にあった。
「一体ドンナ授業ヲ受ケレバコウナルンダロウナ!!」
個性:雷精製で生まれた電気を、個性:放電により加算し個性:雷収束により掌握。最後は個性:雷指向性により余すことなく解き放つ。
「モウ何度目カ分ランガ…。『降御雷』!!」
指向性を持たされ放たれた紫電が、止まることなく亜光速で鉱哉の身体へと突き刺さっていく。酸化され焼き尽くされた端から再び『鉱化』。ようやく飛ぶことを覚えたその翼は、膝をつくことを許さない。
「ッドコマデ!!」
「王水に突っ込まれた時より怖さはねーんだよ!!」
既に炭化寸前の身体で歯を食いしばる。昼間の荒行が無ければ、確かに耐えられなかった。出力を上げる大事さを身をもって痛感した、金髪モヒカンヘッドの前線タンク。
「文字通り、痛みで勉強してんのもしんどいがな!!」
銅化した身体へと、瞬きよりも速く襲い掛かる雷の千本ノック。全身で受け止めることが前提のそれは、確実にその赤銅色の身体を蝕んでいく。
「構やしねえよ!!」
心意気は言葉通り、だからどうしたと亀型ヴィランに突貫。ヘッドバットをかました金髪の重戦車。ただ立っているだけでは時間稼ぎにもならない。ならば精一杯――――――
「動けなくなっても時間稼ぎしてやらぁ!!」
「猪口才ナァアアア!!!」
再び解き放たれる七筋の雷光。『降御雷』と名付けられたそれは、名前に違わぬ超威力。抗う力は気合と根性、そして顔も見たことがない親からもらったこの個性。
「俺を捨てた分はチャラにしてやるよ!!『ブロンズスカラック』!」
上段から振り下ろすチョッピングライト。銅の拳は再び、人造人間の頭を骨ごと砕いていく。されど――――――
「個性:超再生ヲ貫ケル程デハ無イワ!!」
「そうだな、拳打で挑むのはおすすめできない。」
「「!?」」
戦場に現れる、もう一つの気配。見上げた先、国有林に連なる一つの樹木。その天辺に苦も無く立っている、灼熱と氷河を身に宿す男。象徴無き時代の皇帝、現ビルボード№1、
「エンデヴァー!!」
「クッ!!」
言葉共に、判断早く放たれたのは五筋の閃光。仲間からあった連絡で、目の前の男が何人か潰してきているのはわかっている。消耗しているはずだと、姿を見せた瞬間を狙った連撃。奇しくもそれは、人質を取って場を切り抜けようとしていた≪殴≫や≪攻≫とは対局の動きであった。
結局の所、
「結果は変われねえ。いや、変えさせねえ。」
その半身から噴出した炎。木から飛び降りつつ溢れさせた灼熱は、正面から突き刺さった雷撃を迎え撃つ。噴流熾炎と呼ばれる、赫灼熱拳の一つだ。その炎の波は、亜光速の雷撃すら打ち払う。
「雷撃っていうのは、超高温の前ではその活動を止められちまう。詳しいことは忘れたが、確か百と上鳴から聞いた覚えがある。」
単純な威力ではなく、そもそもの相性だと言い切る『氷炎の支配者』。その相性は本来、雷の電熱を軽く上回るということが前提なのだが、どこか世間知らずな男は、何のことはないと言い切ってしまう。
「よく頑張った。後は倒れてる子達を頼む。」
「お、おう。」
動けば殺される――――――そのレベルのプレッシャーを遠慮なく周囲へとまき散らし、亀型のヴィランへと悠然と歩を進めていく二代目エンデヴァー。 対峙させられた相手は、言葉を発することすら叶わない。
「まぁ、これも一つの授業にもなるか。見取り稽古とか尾白なら言うのかもな。死なない実戦は、早い方がいいし。」
そのオッドアイの眼光とは対照的に、肩を軽く回しながら、まるで散歩にでも行くぐらいの気楽さで、彼は言葉を発した。
「しっかりと、俺を、見ていてくれ。」
正直、何してるのかもわかんねぇ――――――
見取り稽古と銘打たれたそれを前に、鉱哉は個性の発動とは関係なく硬直していた。炎と氷のダンスパーティー。その邪魔にならないよう、倒れている三人を回収して物陰まで来たのだが、よく見ておけと言われた内容が理解不能なのだ。
「ただヒーローが、ヴィランをボコボコにしてるだけの動画と変わらねぇぜこりゃあ…。」
オリンピックのメダリストを見て、いきなり技を盗めと言われてできる人間が、果たして何人いるのだろうか。それくらいレベルの差がある、そんな見取り稽古。解説が無いスポーツ中継など、楽しむためのもので学ぶ対象では決してない。
「おっ、そうか。流石に難しいか。」
「コノ俺ヲ教材扱イカ…。クソ…。」
仮にも人造人間最強を謳われる彼等がハイエンド。それが学校の教材扱いレベルなど、果たしてどんな話だというのか。教材にされた本人に至っては、たまったものではないだろう。
「これは俺にも言えることだが…。相手が発動型である以上、攻撃の興りを感じとってくれ。」
「!」
「例えばこんな風にな。」
今まさに発動しようとしたそれ。舐めるなと放たれた連撃は、防御すらされることなく躱されてしまう。視認してからは、絶対に避けようがない亜光速の雷が。
「どれだけ技が速くても、癖さえ見切っちまえば避けるのは簡単だ。それこそこいつみたいに、単調なパターンの奴にはな。」
人を殴る時には誰もが腕を引く。それくらい単純な話ではあるのだが、多種多様な個性発動のタイミングを、果たしてどこまで見切ることが可能なのか。
「お前みたいに頑丈なタイプの奴は、どうにもそれを後回しにする。プロレスじゃねぇんだ、いちいち相手の必殺技なんか受けてたら、あっという間に真っ黒焦げだ。」
「興りってか、癖みたいなもんか…。」
「もっと細かく言えば、それさえ完璧に見切っちまえば、どこ狙ってるかも完全に把握できる。例えば今なら…。」
降り注ぐ、本来なら教材の範疇に収まらない紫電の煌めき。
「俺の位置、そして半歩右だ。」
「…グ、正解ダヨ№1。」
大きく左に飛ぶことで回避される、七筋の閃光。もはや炎で防ぐことすらしなくなった、その戦闘能力。癖を見抜くぐらいは鉱哉も日頃からやっているが、それはあくまで何度も組み手をする相手だからできることである。初見の戦闘で、ここまで的確にできるものなのか。
「まっ、その辺りは知識と経験だな。爆豪辺りが得意だぞこういうの。よく真似して覚えるといい。」
「お、おう。」
癖を一つ見抜くだけで、まるで未来予知のような技術を披露とした『氷炎の支配者』。思わず唸ることしかできず、しかし解釈してみたら、納得と閃きがそこにはあった。
「学生の成長ってのは早いもんだ。さて――――――」
そのまま、氷河を宿すその掌をヴィランへと向ける。
冷気が、風に舞った。
「投降しろ。何百回やったってお前に俺は倒せねぇ。攻撃すら当たらないなら、もうどうしようもねぇぞ。」
そのまま大地と空間を凍てつかせていく、ヒーロー側の決戦存在。心を折り、もう先が無い事を示し、それこそお前は俺の掌の上だということを明らかにした。その上で問う、まだやるのかと。
「フフフ、ハハハハ!!」
「な!?」
「気でも狂ったか。」
まさしく哄笑。急に咆哮のごとく響き渡った、敗者側が上げた高笑い。その壊れた姿に、変わらず冷気を、そしてその眼光をより鋭くした氷炎の狩人。少し離れた場所で見ていた鉱哉は、その身が強張ってしまうのを感じていた。
「コレガ狂ワズニハイラレルカ!!太陽ト自由ヲ求メタ最後ノ悪足掻キヲ、コウモ簡単ニ砕カレテ!」
この夜に、今晩にかけていた。繋がれた鎖、生きているとはとても言えない毎日。時間が経つのはあまりにも遅く、何をしているかわからないような日々。
「手慰ミカラ逃ゲテミレバコノ結果ヨ!!≪導≫ヨ!!貴様モソチラ側カ!!」
「…≪導≫?」
「なるほど、そいつがリーダーか。」
その狂気じみた発言から、存在に気づいたエンデヴァーは、通信機の類だろう、己のサイドキックに司令塔の存在を告げていく。
「洗脳電波、そして司令官だ。負傷した生徒達を回収したら、俺もすぐ向かう。」
「ハーッハハハハハハハハ!!」
再び上げられるイかれた笑い声。芯まで響くその嗤い声が蔑んでいるのは、果たして世界か。はたまた自分自身なのか。本人ですら、きっともうわからない。
「追イ詰メラレタラ返事スラナイカ。本当ニ馬鹿馬鹿シイモノダナ。」
一通り己の境遇を嘲った悲しき人造人間。その目に再び、戦意が戻る。
「どう生きるかなんて人それぞれだろうが…。」
その滾る姿を憎らし気に睨み、その半身をより凍てつかせていく、個性婚の忌子。光を選び今幸せに生きる自分の言葉では、目の前の犯罪者を止めることはできないのか。戦場を去った、旧友の姿が頭をよぎる。
「お前なら、もう少し上手く言えたのか?」
「死ガ行キツク先ナラバ!セメテ闘ッテ死ンデクレヨウ!!」
「馬鹿野郎が!!」
空間に響き渡る、火花爆ぜる音。その亀型の改造人間が、命を燃やして解き放つそれは、まるでダイヤモンドダストのように、周囲の空間へと広がり全てを粉塵へと変えていく。
「塵ヘト帰レ…。」
その技の反動だろう――――――個性:超再生や個性:雷回復では追いつかず、己の身体すらひび割れて崩壊しかかっている。されど止まらない、止まりはしない。止めて生き抜くつもりなど、とっくにありはしないから。
「『タケミカヅチ』!!」
一体集中型の雷撃ではない、広範囲殲滅型の大技。戦場にて最後に輝く、命の輝き。光の次に速いその絶技は、見てからでは防げない自爆技と化して、№1へと襲い掛かる。
その発動の興りを前に、彼は一瞬だけ目を閉じて。
「皚凍冷拳。」
突き出したその掌を、強く閉じた。
「なんだこりゃ。」
傷が深く麻痺して痛みを感じなくなると同時に、洗脳電波の影響が濃くなっていった。それでもなんとか気合で眺めていたが、その影響が消し飛ぶ程の衝撃だった。
一瞬にして生み出された銀世界。その中央で、まるで氷の彫像のごとく立ち尽くす、一体の改造人間。亀型の身体が隅々まで、まるで最初からただの氷塊だったのでは?と疑ってしまう程の完成度。それが先程まで生きて喋っていたなどど、とても想像ができないほどに。
「アストロアーツフリーズ。」
それがこの、森の一角ごと改造人間を凍てつかせた技の名前。それに気づき、そしてあまりの寒さに鉱哉の身体が凍え始める。
「気温は氷点下を軽く下回る。あの規模の電流を止めなきゃいけなかったんだ、寒さは勘弁してくれ。」
言葉と共に、使わなかった炎熱を生み出す『氷炎の支配者』。緩やかに発現する炎が、周りの温度を少しずつ元に戻していく。
「いきなり温度を上げると暴発するからな。」
「氷でそんな、電流なんか止めれんのかよ。」
凍えながら、しかし優等生である金髪モヒカンヘッドは、現状の説明を請うた。それに対し、なんでもないかのように答える、ヒーロー界の頂き。オッドアイと、金色のそれが交差する。
「ただしくは電子の動きを止める、だな。よく勘違いされてるが、俺の個性は氷よりももっと低い温度を操れる。ちょっとずつ冷やしといて、相手の興りを見て一気にぶっ放したんだ。」
目の前の空間、そこに生み出された南極地帯。ただの国有林だったはずの全てが、氷塊と化して細胞ごと壊死してしまっていた。それが、たった一人の人間の手によってもたらされたものだということに、鉱哉は戦慄した。目の前に居るのは、並み居るヒーロー達を統べる、象徴無き時代の皇帝。
「そこまで来るのに、どれだけ。」
「ガキの頃から。まぁ、いろいろあったしな。」
いろいろの部分は、№1について調べればすぐわかってしまう、彼自身のご家庭の事情。それに思い当たった、金眼の少年。不躾だが、自身もどこか思い当たるからこそ、聞かずにはいられなかった。
「そこまでいけば、手に入るのか?」
「…何がだ?」
「守れる強さだ!」
きっとその強さは、単純にステゴロ的なものではないのだろう―――鉱哉の様子にそう悟った焦凍は、倒れている生徒を抱え上げながら、己の答えを述べていく。
「詳しいことはわかんねぇが、少なくとも力は手に入る。」
「力?戦闘力ってことか?」
「権力だ。」
戦って得られるものは少ない。少なくとも、このヒーロー副業時代に、殲滅能力だけで生きていけるヒーローはほとんどいない。それこそ、暴君が副担任になった経緯がそれだった。
「こっちは余計なお節介をしているだけなのにな。気がついたらいろんな肩書きが乗っかってくる。嫌になるとは言わねえが、そのお陰で楽できたこともそこそこあった。拳だけで、」
小町や外道丸をその肩に抱えながら、器用にその両拳を少しの間だけ眺めて。
「守れるもんは多くねぇ。」
その答えを聞いて、一瞬だけ俯いた現役高校生。その肩に背負う副委員長を、落とさないように抱え直しながら、今がどれだけ貴重な時間なのかを思い直して、言葉を投げかける。
「その、金は?」
「…は?」
「給料ってのは、どんだけもらえるもんなんだ?」
随分と生臭い話だった。しかし顔を見てみれば真剣な表情、酸素カプセルまで負傷者を運ぶ足も思わず止まってしまった。その黄金の瞳を見て、歪んだ色が無い事を確認した焦凍は、軽く年収だけ答えてみた。
「マ、マジかよ…。」
「まぁ噓をつく理由も無いしな。」
あまりの金額に、寒さとは別の理由で震えが起こってしまう現役高校生。諸事情によりお金の面がシビアな彼も、あまりの現実に妄想が止まらなくなる。もし自分がそうなれれば――――――。
「金額を知って、でも歪まない、か。」
どうやらその欲にくらむようなことはないのだろう、若いのにしっかりしている。もしや余程の目標でもあるのかと、その部分であまり苦労したことがないお坊ちゃんだった青年は、そこで考えるのを止めて、あることに気づいた。
「洗脳電波はどうなっている?」
「!そういや…。」
さっきまで五月蠅いほど響き渡っていた、意識を取られてしまうやかましい洗脳個性の無差別爆撃が、今は鳴りを潜めてしまっている。エンデヴァーは防止用ピアスをしていて気づかなかったが、鉱哉もあまりのショッキングな内容があったせいで気にも止めていなかった。無論、年収的な意味で。
「やってくれたのか?百」
再び通信機を取り出し、己のサイドキックへと声をかける『氷炎の支配者』。その返事をしてくれる相手は、感嘆交じりにこう答えた。
『私だけではないですわ。流石、彼等の教え子ですわね。』
筆が乗っちまう
止まらねぇ