個性因子。個性という異能を有する人類が、各々身に宿している個性の核となるもの。それは己に作用し能力を発現するものもあれば、相手に作用することでその力を発揮するものも多くある。この場合は、至って後者であろう。
「敵の位置はわかりやすいんだけどね!」
意識を引っ張られるので、嫌でも発信源はまるわかりである。護衛がいるかはわからないが、これだけ強力な個性をぶっ放しているのだから、いくらハイエンドでも他に能力は無いと考えられる。
「せめて、僕にもうちょっと攻撃力があれば良かったんだけど!」
息が上がりつつも、出水洸汰は夜の森林を疾駆していく。偶発的に起こる閃光がたまに夜空を照らしているのだが、夜空全てを明るくするには到底足りはしない。その夜空と同色の黒髪は、とっくに汗で濡れており、特徴的な三白眼は、疲労が溜まってきたのか血走っている。
『だからなんですか!?思い上がりです!』
戦場で、足場も悪い森林地帯。そこでの動きは、普段の何倍にも雛鳥の足を疲れさせた。もしもう一人居てくれたら、そう思わずには居られない程に。
「まぁ、しっかり振られちゃったんだけどね!」
息も絶え絶えに、彼から言われた言葉と、震える姿を思い出して、自身の心を 咤していく水流使い。未来は知らないが、今日はまず間違いなく助けられる側だった――――――そんな彼へと、心配だけを残していく。
「朝まで隠れててくれたらいいんだけど…。」
そして急激に強くなってきた、意識と思考、そして五感全てを引っ張られるこの感覚。
「くっ!!キツい、けど!もうそこだね!」
この国有林の中でも一際大きな樹木。その天辺に立ちながら、まるでバレーかダンスでも踊るように舞う、一人の改造人間――――――
ハイエンド≪乱≫ 個性:視線誘導・聴覚誘導・思考誘導・嗅覚誘導・皮膚感覚誘導・直感誘導・筋肉増幅・超反射神経・衝撃吸収・超再生
「アラココマデ来レタノ?スゴイワネ。」
バレーダンサーのコスチュームのような身体は、どこか女性的な印象を与えるのだが、しっかり脳髄は丸出しになっている。そのどこに目があるかもわからない姿に向けて、言葉より先に、洸汰は水流をぶっ放した。
「効カナイワヨ。」
個性:衝撃吸収、個性:超再生や超反射神経という防御に適した個性は有しているが、それすら発動させず、まともに受けても傷すらない。
「ここまで距離があるなら、しょうがないね!」
洗脳にやられすぎないために、切り傷を付けている洸汰であるのだが、これ以上近づけばより強く傷つけないと、意識を個性により刈り取られてしまう。だから――――――
「いっつ!!」
木の枝を使って大きく傷口をえぐった。相当深いのか、噴出した血はとどまることなく流れ出ている。そのまま改造人間を見上げて、両掌を大地へと向けた。
「『水流ターボ』!!」
副担任の、爆速ターボの再現技。爆撃ではなく水流の推進力で、強引ではあるが空へと舞い上がる、飛び方の覚束ない雛鳥。血飛沫と共に舞い上がるその姿は、思春期のあがく心の様のようだった。
「文字通り、疾風怒濤だよ!」
「コンナコトマデシテ上ガッテ来ルナンテ、雄英ハ異常者ノ集マリカシラ。」
返事の変わりに水流一発。この森の誰よりも高いところで今、雛鳥の無謀な羽ばたきが、最上位の改造人間へと挑みかかった。
「攪乱担当ナダケデハ無イノヨ?」
バレーダンサーのように身体を回転させ、その勢いで蹴りを繰りだす女性型ハイエンド。個性:筋肉増強によるそれは、弾丸と見紛うほどの速度と威力を伴って、洸汰が放った水流を蹴り崩していく。
「食らったら死ねる!」
水流で空を駆け、決して蹴りの射程圏内には入らないようにしている洸汰。もらえば終わる。その緊張感が、三白眼の雛鳥の、その集中力を爆発的に引き上げた。
「『水撃乱打』!」
垂れ流すのではなく、凝縮された水の塊を、真っ向から乱発する洸汰の十八番。対するは流れるようなターンと共に繰り出される、武というよりはまるで舞いであるかのような、見るものを引き付ける剛脚。
「コレクライデハネ?」
「だとしても!」
咆哮と共に水流ターボ。一気に接敵。
≪乱≫は『水撃乱舞』を防ぐために放った蹴りの反動で、超反射神経でも間に合わない。
「『零距離水砲』!!」
懐に飛び込んで解き放つ、洸汰が放てるもっとも威力の大きい水撃の一つ。個性による恩恵で来るとはわかっていても、眼前でぶっ放されたそれを避けることはできず、≪乱≫と洸汰はそのまま地上へと落下していった。
「ソレダケデハ倒セマセンワヨ!」
食らったダメージは、あっという間に再生してしまった最高スペックの改造人間。どれだけ自身が誇る最高の技をぶつけても、たかだか学生ごときの力はその能力を貫くには及ばなかった。しかし、
「目的は、そうじゃない!」
「!?」
「わざわざあんな目立つ木の上で個性を使ってたんだ!お前の個性は、周囲を見渡せる高所でないと発動が難しいんだろ?!」
広範囲の認識を支配する個性――――――いくら脳無でも、それが簡単なことでないことは座学で学んだ通りである。個性は魔法では無く、いつだって身体能力なのだから。
「このまま時間さえ稼げればいい!!『水撃乱…」
「半分ダケ正解ダワ。」
気づけば眼の間に迫る剛脚。
「っとおおおおお!!」
スウェーで躱したところに、更に返す刀のごとく放たれる確殺の一撃。喉から変な声を出しながら、水流まで使ってなんとか距離を取る。距離を―――
「近イケド大丈夫?」
「何で!?」
離れたはずなのに、回転蹴りの範囲内から全く抜け出せていない三白眼の高校生。どこぞの近接担当が見たら、危なっかしくてしょうがない回避を選択して、なんとかノーダメージでやり過ごす。
「!そうか認識阻害!」
「頭ノ良イ子供ハ嫌イダワ。」
自傷した痛みでやり過ごしたのだが、それは距離があるからまだ対抗できた話。目の前でこうも接近戦を繰り広げる所まできたのなら、よりその個性の影響は強く出る。だからこそ、意識的に離れたつもりでも、無意識に引っ張られ間合いを脱することができない。
「ソノ個性デ、近接戦闘ハ得意カナ?」
再び繰り出されるマシンガンのような蹴り。小さく細かく水塊を放つことで、なんとか防いではみるものの、やはり本職達には遠く及ばない。故に、
「ぐっほ!!!」
「悪イワネ、有精卵。」
その回し蹴りがハイキックとなって、洸汰の頭を弾き飛ばした。蹴られる直前進行方向に身体を飛ばして威力を殺し、受ける瞬間に腕でガードまでした。その結果、
「肩カラ腕ニカケテ、マズハ一本ネ。」
「ぐっ、あっが…。」
砕かれた腕を抱えて、呻き声を上げてしまう一人の雛鳥。個性の発動ができるのは、その両腕のみ。腕を折られた段階で、二本しかない発射台を一つ失ってしまうことになる。個性特異点世代、その中において、極めて平凡すぎるそれ。
「目的ガ私ノ妨害ダトシタラ、コノ人選ハ余リニモオ粗末。」
「はあ、はあ、」
荒い息。折られた腕が起因するそれ。呼吸だけではなく脂汗が噴き出て、挙句頭痛まで引き起こし始めた。あぁ、でもだから、どうしたと。
「だあああああ!!!」
折れてはいない片腕を振り上げて、無理矢理射線をハイエンドへと向ける、今はまだ飛び方すら怪しい一人の雛鳥。己が目指した翼は、骨の一本ぐらいで諦める人ではなかったから。
「『水砲』!!」
自身の最大威力。両腕にて解き放つそれを、強引に片腕で再現。限界を越えた一撃を、その腕一本で再現する。
かき集めた空気中の水蒸気。その手に集り解き放たれたそれは、闇夜を切り裂く一陣の流星。己の存在の魂と誇りをかけた一撃を、最高クラスの脳無へと撃ち込んだ。
「これで、少しは…。」
「夏場ノ水浴ビハ気持チイイワ。」
「!!」
まるで、効果が見られなかった。
そのまま哄笑を浮かべると共に、脳無は蹴撃を繰り出した。それは嵐の如く勢いをもって、空間ごと圧殺するかの如く解き放たれる。一つ一つは点や線での一撃なのに、手数の多さがまるで津波を思わせた。それほどの相手。圧倒的格上。
「くっそ!!」
再び距離を取る?距離感は狂わされているのに?
水撃を連打して盾代わり?片腕一本で?
いっそ接近して殴り合う?どう考えたって無理では?
もうそんなことより視線も感情も目の前のハイエンドに持っていかれて――――――
「あがぁ!?!」
「錯乱シカケテイル癖ニ、攻撃ヲ防グノハ訓練ノ賜物ネ。」
自然と身体は動いた、その結果を助かったのは命で、失ったのは動く方の腕であった。
「個性ノ発動スラ困難。チェックメイトネ、現役生。」
「ぐ、うご、がは。」
明滅する視界、人生で過去一番の大けが。あまりのダメージに、呼吸すら限界を迎えた洸汰。脳裏には駆け巡る走馬灯、ここが命を掛けた分水嶺――――――
だからこそ、一瞬だけチラついた『僕のヒーロー』。
「緑谷さんは、こんな状態で闘ってたんだ。」
無理矢理起こす身体。酷過ぎる両腕の痛みに、遂に耳鳴りまで始まった緊急事態。止まらない脂汗。しかし折れず抗うのは意思の力、己の全てをそこに懸ける。だって、
「僕だって、懸けてもらったんだよ!!」
「気迫ダケジャ死ヌワヨ。」
死んでいった人が、みんな気持ちで負けているなんてそんなことはない。誰だって生きたくて、誰だってその後の未来が見たかった。届かなかったのは、思いを貫くための実力だった。
「くっそおおおおおおお」
眼前へと飛び込んでくる、カンフーキック。確実に頭を蹴り潰す為に繰りだされたそれを、睨みながら吠えるしかできない出水洸汰。
クリエティは、まだ来ない。
「!?!ナンダコレハ!?」
蹴り抜こうとしたそれを妨げた水の塊。両腕は潰したのに?いつから浮いていた?援軍どこから?
見れば無数に浮き始める同種の水塊。見れば周囲にぶちまけられた水が、靄となって再び集まりその形を成している。己の身体に滴るだけのようなレベルのものでも。
クリエティは、まだ着ていない。
だからそう、ハイエンド≪乱≫の周りに浮かび上がったその力は、他ならない彼の個性なのだろうから。
その解釈は難しい。何せ異世界生活のように、ステータスプレートなるものが存在し、事細かに説明してくれる訳がないのだから。産婆も産婦人科も両親も、そして本人すらも、己の個性のメカニズムをわかっていないケースが多くあるのだ。
「両手に、固執してたんだ。」
それは両親の後ろ姿。ウォーターホースと名乗った、両手から水流を放ち闘った自分の両親。その姿に拘ってしまったがために、無意識に選択肢を狭めていた。「憧れがパンチャーだったから、なかなかキックという発想が持てなかった」と語った、己の英雄のように。
そんなところまで真似しなくていいのにと、きっとくせ毛の彼は笑うだろうけど。
「くぅううらあああえええええええ!!!」
「コンナ出力、有リ得ナイ!!」
周囲へと浮かぶ無数の水塊。まるで宇宙空間に浮かぶ星達と見間違う程の量のそれ。それがこの後どのように動くのか、予想できないヴィランではないだろうから。
水の塊が鋭利な針の姿へと、その身を変えた瞬間、時は動いた。
「『水針・水瀑殺』!!」
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」
無数に襲い掛かり、砕いてもその破片すら再び襲い掛かってくる、刺突の無間地獄。個性:超反射神経で躱せる訳も無く、個性:衝撃吸収を貫いてきて、個性:超再生では追いつかないほどの乱撃。
「今度こそ、どうだ。」
心身ともに洸汰は限界。その三白眼を細めて、砂ぼこりの先にいる相手を睨んでいる。決して、立ってくれるなと願いながら。頭から流れた血が、片目に入って視界が遮られた、その時だった。
「ちくしょう…。」
傷だらけながらも、砂埃の中から悠然と歩いて現れた、最強種の改造人間。片足を引きずり、だらんと下がった腕からわかるように、決して無傷ではないその風貌も、時間が経てば元に戻ることはわかりきっているから。
「流石ニ次ガアレバキツカッタワ。終ワリカシラ?」
もう一発は、決して撃てない。
もうねぇよと心の中で一つ呟いて、せめて朽ちるその瞬間まではと、鬼の形相で相手を睨む、飛び方を覚えたばかりの雛鳥。
だからこそ、
「良く頑張りましたわ!!」
間に合ったのだった。
クリエティ特性と書かれた、一体全体どうやって運んでいるかわからないほどの大きな杭。それを振り上げて、創生の女神が空から降ってくる。
「アァ、ココマデカ。」
少し寂し気に響いた未来無き改造人間の、そんな一言。
「パイルバンカーですわ!!」
頭に突き刺さった後、瞬間二撃された巨大な杭。そのまま一気に身体ごとかち割ったそれは、辞世の言葉ごと、一人の改造人間を消し去ったのであった。
「私だけではないですわ。流石、彼等の教え子ですわね。」
単独で個性のメカニズムを見抜き、あわやあと一歩の処までハイエンド脳無を追い詰めた雛鳥に対し、今まで辛口だった百からの言葉は、最大級の賛辞であった。それはそうだろう。止めこそ自身が刺したものの、それまでの過程は全て洸汰本人がやってのけたのだから。
「本当にお疲れ様でしたわね。」
旧友を慕いながら、寮に遊びに来ていた頃を思い出す。いつも出久の後を付いて歩いていた、卵から出たばかりの、アヒルの子のようだったあの頃の彼。その頃の笑顔を、百は一瞬だけ思い出して。
「人を育てる楽しさ…。爆豪さんがなんだかんだ教師を辞めないのも、なんだか納得できますわね。」
疲れ切って気絶してしまった、その精悍な顔立ち。今はまだ雛鳥かもしれないが、成したことはもう、一端のヒーローと言えるであろう大戦果。
「後は先生達に任せて、ゆっくり休んでくださいませ。」
旦那への通信を切ったクリエティは、そのまま洸汰を抱え上げて、二人の戦場を後にしたのであった。
「あいつらなんで誰もフォローに来ないのよ!?」
多面的に現場を捉えるために、耳と眼を空へと飛ばし戦場を把握するリザーリィは、余りの対応の遅さに辟易していた。当然であるが、彼女は戦場にて傷つき現場を引退した女性である。そんな彼女とひよっこになったかも怪しい面々で、ハイエンドの相手をさせられ続けているのだ。どうせ大方――――――
「取蔭ならなんとかするでしょとか言ってんでしょーけどね!!」
再び叫びながら跳躍。先程まで立って居た場所に熱線が飛んできたのを尻目に、今度は己の口を分離、生徒達へと指示を出すスピーカーとしての役割を担わせる。
「骨川!!ハイエンドの遠距離担当からは離れないで!!煙を使って視界を潰し続ければ、同士討ちが気にならなくても精度は落ちるから!!」
「OK BOSS!しくよろ任せてよいちょ丸~♪『スモーキング パーティー』!!」
言葉に答えるために、上半身どころか全身を一気に煙へと変化させた、1-Aの攪乱担当であるパリピ骸骨。相手となる≪砲≫と呼ばれたハイエンドは、先程から嫌がる素振りを見せている。それは決して煙だけではなく、その口調も含めてめんどくさいからであろう。
原因はともかくとして、遠距離攻撃の精度は落ちた。次に空を駆ける口元が吠えるのは、前線で奮闘する我らが悪魔王。
「六郎木!渡り合えるからって一人でもたせないで!上手く下がりつつ、花上とのコンビネーションを意識して!!」
「それはそれでめんどくさいんやけどなぁ…。」
個性 : king of Devils。その身を聖書の悪魔王へと変えた紫髪の少年が、至ってどうでも良さそうに返事をした。その四肢の両腕は、勿論がっつりとハイエンド≪獣≫の身体を抑えつけている。しかし相手も黙ってはいない。紫髪の獅子頭へと降りかかる、キメラの三つ首。そこには勿論三種の顎。それを――――――
「やらせないっちゃ!!」
「GAAAAA!?」
博多弁天遊撃担当。体内に植物を飼っている彼女の能力。ありったけの蔓を三つ首に巻き尽きて、多頭の長所をより多くの手数で潰していく。
「そのまま全身締め上げやるっと!」
力負けしないように綱引きの体制になりながら、どんどん蔓を増やしていく重量級女子。限界まで振り絞り出し切るのは、合宿中泣きたくなるぐらいやったから。
「感覚は覚えてるばい!プルスウルトラアアアア!!」
「GOAAAAAAAAA!?」
「サセン!!」
仲間の様子を見て、やはり理知的な判断を下すのは、盾の役割を冠した守りのヴィラン。駆け寄ろうとするその姿を、切奈は決して見逃しはしない。元B組の『曲者』は、オペレーションをこなしていく。
「岸!」
「一体いつから闘っていると錯覚していた?wwwww」
影より出でて影を纏いし高校生――――――聞こえはいいが、ビビッているのがへっぴり腰で丸わかりである。錯覚してしまいたいのは彼本人であろう。
衝突する生体兵器の身体と影の盾。個性:衝撃反転で倍加されたエネルギーは、勇気を出した有精卵の盾を一撃で霧散、本来の影へと戻っていった。守るだけではないぞとばかりに、人造人間は個性:多腕形成を発動させる。
「孤城!久野!」
「いっくよー!!」
「訓練の後に実戦とか、合理的過ぎて頭がおかしくなるわ!!」
発動された個性を前に、影智はその身を影へと落とし込み、多腕の乱撃を回避。どうせ逃げるだろうと指示を出された2人が、目標を見失ったハイエンドへと必殺を叩き込む。
「『狐火:陽炎』!!」
「『神経毒』!!」
「…っ、毒使イカ!!」
全身に巻きつくトグロの炎。陽炎と名付けた青白いそれには、全く反応しなかったハイエンドが、毒液にたじろいたのを、元1-Bの『曲者』は見逃さない。
「毒の耐性はないわ!岸をタンクに孤城は攪乱、久野がとどめよ!任せたわ!」
「某は天に立つwwwww」
「わかったよー!!」
「責任重大なんだけど!もう!!」
再び影から飛び出したビビりがへっぴり腰で突撃し、1-Aの元気印が狐火を乱打しながら四つ足でジグザグに駆けていく。毒液を溜めるために離れた赤毛のくノ一は、アホ毛を揺らして必殺を打ち込むタイミングを図っている。
クラスメイト共通の思い。そう、動きやすいのだ。
「せっちゃん先生の指示、初めてされたけど、本当正確でなんだろう、こう…。」
「無理がないでござるwwwww」
「小野田さんとは違ってね…。」
取蔭切奈という人間に対して、A組はそもそも舐めているところから始まったのだ。それはそうだろう、難関校だと言われて入ってみれば、覚えてもいないような戦争で怪我したかつてのヒーロー。偉大な功績はあれど、具体的に何を成して何ができるかわからない教師。そんな相手に頭を下げるような鼻っ柱の低い奴は、そもそも雄英なんかを受験しない。
腕っぷしで抑えられない担任――――――爆豪が来るまでクラスの雰囲気が弛緩していた、その原因の一つだった。その印象を、
「この最悪の事態でひっくり返すことになるとはね!」
生徒の位置関係を分単位で細かに指示。天を舞う耳も口も忙しそうに、鳥もかくやというスピードで動き周り、指示を出し尽くしていく。
「さあさぁ、カーテンコールといきましょうか!!」
個性を溜めていた一人の生徒で、フィニッシュへと持っていくために、『曲者』と言われたかつての女傑は、汗に濡れて肩にかかるポニーテールを右手で払った。
「!?」
煙に巻かれて位置を見失った、≪砲≫と呼ばれた改造人間は気づく。距離が近すぎるということに。
「GOAAAAAAAAA!!」
全身を蔓まみれにされた、≪獣≫に堕ちたヴィランは気づく。頼れる自軍の認識阻害が切れていることに。
「ヤラレタ!!」
理知的に物事を見渡せる、≪盾≫となった神官服のハイエンドは気づく。自軍のオペレーションが切れている、その意味を。
「はい、終了~♪」
その口癖が響き渡る。自分達が荒らしたせいで、更地となった国有林のど真ん中――――――三人が作るトライアングルの中心に飛び込んできた、スポーツマンかと見間違うほど爽やかな一人の生徒。
「ぜ、『全力全弾射撃:フルバーニア』!!」
両肩のミサイルポッド、両腕のガトリング。そして胸部のガトリングの弾丸。それらを全部まとめて、全力以上の力でぶっ放す。A組が誇る中遠距離最凶の必殺技。守りの個性を貫いて余りあるそれは、攻撃に特化した二体に致命的なダメージを与えていた。
「クッソ!」
ただ一人守ることに特化した男。悪態を吐きながらも、現状を理解してしまった彼は、誰かに対しての恨み言を吠えながら、なんとか無事な身体を引っ張り、土煙の中から顔を出す。
守りに特化した身体を武器に、ゴリ押しでも逃げ切れると踏んで。
――――――身体を集めたきった女が、その背後に立った
その考えが、間違いだと証明するかのように――――――――
「『個性:トカゲのしっぽ切り』。」
「アガッ…グゥア……何ヲ……。」
「利き手だけは未だに結構小さく分裂できるのよ?口から胃の中に入っていくぐらいにはね。」
細分化した利き手を、相手の身体の内部へと放りこみ、内臓の中で元の姿に戻す。そして、
「胃と心臓って案外近いもんよ?言ったでしょ?」
盾と呼ばれた男が崩れ落ちた。苦しそうに悶えたのは、本当に一瞬のことだった。
「はい、終了~♪ってね。」
「グフフフフフ、マサカ…コレホドトハナ。」
「時代は進歩してんだよ。残念ながらな。」
まるで流星でも降ってきたのかと、そう勘違いされるレベルのクレーターの数々。それらは全て、戦場へと駆けつけた、金髪赫眼の副担任の仕業だった。
「こんなに、強かったの…?」
呆然とその現場を眺めて尻もちをついているのは、サポートアイテムのほとんどを砕かれた、野開未来であった。
「試験の時とは、比べ物にならんばい…。」
肩で息をし、血にまみれたわき腹を抑えるのは、博多弁天近接担当である氷川寅子であった。子分である橙頭の伊木山吟子は、その後ろで頷く事で返事をしていた。声は出ない。もう発声ができないレベルで、彼女は死力を尽くしきった。
「トイレは近くになかったか?」
安心したのか、はたまた空気を読む機能を生ゴミにでも出したのか、嵐島飛天が周囲を見渡している。ボロボロの両翼は、副担任が来るまで如何にギリギリだったのかを物語っていた。
来てしまったら一瞬。その右腕でつるし上げられたヴィラン――――――生徒達が攻撃一つ当てるのさえ難しかった相手を、ヒーロー爆心地は一瞬で駆逐してしまった。
「言え。誰の企みだ?」
数々の犯罪者を震え上がせ、泣く子すら黙らせた、その鬼の眼光が≪柔≫と呼ばれた男を射貫く。拒絶を許さない視線。普段生徒達へと向けているそれが、如何に生ぬるいものであったかを、この場にいる生徒達は否が応でも自覚することになったのであった。
「答えたら生かして牢獄だ。襲撃は訓練だったって誤魔化してやるよ。」
「ククククッ、交渉サレテイルヨウニハ思エンナ!!」
そら恐喝だからな―――――――――そう呟きながら、左手に産声を上げる火花。それは死への協奏曲を奏でながら、爆炎へとその身を成長させていく。食らえば全てを必壊させる、この世界でもっとも大きな脅しの一つ。
唾を飲み込む生徒達。「周囲の空気から飛んでる君」でさえ、その光景から視線を離すことができない。そんな時だった。その重苦しい雰囲気をぶち壊す哄笑が、つるし上げられているヴィランから響いたのは。
「ハーハッハハハハハハハ!!」
「なんだてめぇ、イかれたか?」
「フフ、ナァニ。敗者デアル以上勝者ニ従ウノハ事ノ通リ。脅シナド無クテモ、我ハ口ヲ開クワ!」
その余りに気前のいい返事。罠かと勘ぐる赫眼。金髪を揺らして周りを見れば、長時間この男と闘っていた生徒達が目に映る。誰もが信じろと、その眼で訴えていた。
ハイエンドの中では珍しい生粋の武人肌。生徒たちの中でも、感じ入るものが多かったようだ。
「一応、信じてやる。話せ。」
「全力デブツカッタラ何デモワカルモノヨ?タダマァ知ッテイルコトハ少ナクテナ、首謀者ノコトマデハワカラン!!」
「…どんなことでもいい。言え。」
肝心な情報がないことで噴き出す苛立ちは、後に首謀者へと向ける。そのためにも、今は冷静にたどり着くまでのヒントを求める。
口を開こうとしたその瞬間だった。≪柔≫の頭が弾けたのは。
「な!?」
「先生!!??!?」
「違う!俺じゃねぇ!!」
生徒から上がる困惑の声。情報を吐こうとした相手すら爆殺すると思われていることに、若干の苛立ちを覚えながらも、まずは身を守るために周囲を見渡す。
「敵影はねぇ!遠距離なら!?」
「それなら私たちだって気づくっと!!」
「攻撃されたようには見えなかった!」
なら可能性としては、
「遠距離からの起爆式か!!」
言うが早いかと、一気に駆け出し無線機へと連絡する『№2』。こちらの動きを把握するなら、長距離から監視できる望遠鏡や盗聴器。
「国有林の真ん中だ、木が邪魔で前者の可能性は低い!」
もし後者、またはそれに不随する個性ならば――――――
「『おら!八百万!』」
「『轟ですわ!』」
無線機へとがなり立てて、他人の嫁兼サイドキックを呼び出す元1-Aの暴君。相手の訂正は大事なことかもしれないが、今は優先度の関係で無視。秒で話を進めるために罵声を上げる。
「『やかましいわボケ!そんなことよりだ!遠隔で捕虜を爆破された!』」
「『なんですの!?』」
「『周囲にテレパシーや電波を発した機器や個性が無いか調べろ!できんだろクリエティ!!』」
「『もうやってますわ!』」
個性を駆使しそれよりのサポートアイテムを創造。一瞬が分ける状況、情報を取られまいとする敵の行動、ここで逃せばまずいことになる。
「『わかりましたわ!爆豪さんの位置から18度の方向に1キロ!!』」
「『何で俺の位置がわかんだよ!!』」
「『認識阻害避けのイヤリング!発信機にもなってますわ!』」
便利なこった!最後にそう叫びながら、一方的に通信を切った爆心地。そのまま地面に掌を向けて、見様見真似の生徒に比べれば、加速が段違いの本家『爆速ターボ』で一気に風となる。
「こそこそこそ嗅ぎまわってくれた例だ、全部吐かし殺してやる!!」
夕闇の中を駆け抜ける『№2』。間もなく夜が明ける中、その輝く金髪がたどり着くのは果たして希望なのか、それとも新たな絶望か。物語は、間もなく幕を閉じる――――――。
めっちゃ駆け足ですみませんでした。いやこれまともにヤったら何話使っても終わらなくね?ってなったんですよ。爆豪の戦闘被るしなとか……。えぇ、完全に構成ミスです。生徒達だけでハイエンド倒す展開も考えたんですが、いや流石にまだ無理だわってなりました。寅子や吟子、飛天と未来じゃ攻撃力が乏しいので、なんぼよけ続けても超再生されてじり貧なんですよ結局。ん?某水流使いさん?クリエティ追いつくはずが勝手に倒しちゃいましたキャラが勝手に動くって怖いなああああああああああああ←
という訳でまさかの巻き展開。轟編も終盤です。
次の方はもっとサクッと終わる予定です!
ここまで読んで頂き誠にありがとうございました!
オリジナルの執筆も始めようと思っていますが、こちらの更新も頑張りますので()、今後ともよろしくお願いいたします!!感想を!!!!感想をくれえええええええ!
ご愛顧いただき、ありがとうございました!!!