爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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ようやく轟百編完結です。
必殺技の名前当たらなかったな←


轟「爆豪から林間学校のお誘い…」八百万「怪しさしかないですわねぇ」 その10

 あれはそうでしたわね……お義父様のこともようやく落ち着いて、事務所が軌道に乗り始めた時期でしたわ。流石に私も生娘ではありませんでしたから、もうそろそろそういったお話をいただけるのではと思っておりました。……えぇ、実のところは、お友達の皆さんから「まだなの!?」と仰っていただいて気づいたのですけども。

 

 いつもの社長室でしたわね。正座で座った畳の感覚を、今でもはっきり覚えています。最初は何か業務連絡かと思いましたわ。だってそうでしょう?お互いサイドキックからの書類を読んだ後でしたから。同じタイミングで、なんとなく目が合って……お茶をお互い一杯いただいた後でした。

 

 お庭のししおどしが、一回だけ鳴りましたわね。

 

 ふふっ、指輪も無いような、随分と無骨な感じでしたわね。普通の貴婦人では落第ですわよきっと。でもそうですわね……。その言葉に、本当に響いたものがありましたから。私も軽く頷くだけで、お答えしてしまいまいたわ。過ごしてきた年月が、言葉を必要としませんでしたのね。

 

 これからかもずっと、積み上げていきたいですわね。旦那様。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒幕が元クラスメイトだと仮定して今回罠を張った。開催場所だけあえて情報を漏らして、生徒を狙わせた。保険として轟と八百万を呼んだことは勿論伏せてあった。結果は案の定だ。ビルボード上位ランカーとそのサイドキックを前に、相手の重要戦力であろうハイエンドは無力化された。

 

 「後はさっき口封じした奴に!情報を吐かし殺す!!」

 

 『爆速ターボ』を繰り返して、一気に敵勢力への位置へと加速する。明け方の空を疾駆する金色の孤狼は、獲物にどう牙を突き立てるかを思考した。

 

 「舐めた真似してくれてんだ!!胃袋丸ごと出す勢いで吐かす!!」

 

 目的地、500メートル前。突如副担任の視界が、紫電の閃光で潰されたのはその時だった。

 

 「クソがっ!!!」

 

 その閃光がスタングレネードの類でないことは、彼の長い経験が物語っていた。ましてや、明け方の空を照らしたその雷光には、彼も見覚えがあったから。

 

 「てめぇ何してやがる!?」

 

 辺り一帯が黒焦げになった現場で、大地に寝転がる唯一の躯。そしてその隣に佇む、どこか軽そうな金髪メッシュの青年。

 

 「アホ面!?!」

 

 上鳴 電気――――――B組の合宿講師として呼ばれていた、古き友人がそこに居た。

 

 

 

 「いやむしろ俺の方が聞きてえよこんなの!!」

 

 空からかっとんできて、犬歯を剝き出しにしている旧友に対して、歴戦の『雷帝』は怯えながらも答えを返した。何せ大した理由もなく周囲を爆撃するところがある男である。昔からそうだったが、機嫌が悪い時は絡まれたくない。

 

 「何しやがったてめぇ!!」

 

 「俺の質問に答えてくれよ!!」

 

 しかしそんなことはお構いないしという風に、両掌からは既に火花が上がり始めているヒーロービルボード『№2』。その赫き眼光が、金色のそれを真っ向から捉える。

 

 「最重要参考人を感電死させた理由を言えや!!」

 

 「いや、参考人ってこれ脳無だろ!?しかもハイエンドじゃねーか!お前らのクラスの方で、すっげえ戦闘音が聞こえたから様子を見にここまで来たんだ!そしたらこいつが飛び込んできたんだよ!!」

 

 爆撃を一端取り止めて彼の姿を見てみたら、確かに皮膚が裂けコスチュームも破損している。どうやら結構な激戦があったらしい。

 

 「子供達の指導教官ぐらいなら大丈夫だけど、俺はもうほとんど実戦には出てないんだぜ?あのクラスの相手を生かして捕らえるのは無理だわ。」

 

 じゃないとこっちが殺されちまうよ――――――。

 

 そう言葉を締めくくったかつての『雷帝』。継戦能力や近接能力、そういった部分に目をつぶった上で言うのなら、瞬間最高時の破壊力は間違いなく最強クラスだった男。

 

 「証拠を抹消しにきたように見えなくもないがな…。」

 

 「なんの疑いだよ!俺がこいつらと組んで暴れたってか?!」

 

 真っ向から疑ってみるものの、今度はその人懐っこそうな瞳を釣り上げて、雷の申し子は飲み友達だった男へと詰め寄った。自身の潔白を証明するために。

 

 「今でこそ経営もあって副業がメインだけどな!それこそ俺だってあの神野の経験者だぞ!!脳無と暴れて口封じなんてやってる程頭病気じゃねえんだよ!!」

 

 「……。」

 

 先程とはまるで一見入れ替わったかのような様子。電気の様子に何かおかしな点が無いか、探るように見る勝己。普段の暴君振りが噓のように、思慮深さをその目に宿して、『雷帝』の姿をその目に捉えている。

 

 「ち…。」

 

 しかし、現状何か証拠がある訳ではない。ハイエンドの命を奪うのは自分達だって先程まで行っていたのだ。生け捕りが如何に難しい相手だったかなど、他でもなくこの身が一番わかっている。

 

 「証拠不十分だ、行っていいぞ。」

 

 「ったく、怖えって本当に。違法捜査だぞもはや!」

 

 「ふん!」

 

 ヴィランすら泣かすことで有名な男である。その身にかかれば同業であろうとなんであろうと、口を割らせる為には手段を選ばないことは業界内の通説である。それこそ、内通者と同棲していたからと、『無個性の武神』に爆撃をかました姿は電気もよく覚えている。

 

 「しかしこいつ、一人で逃げてきたのか?」

 

 自身の雷撃により黒焦げになったハイエンドを眺めて、アホ面と呼ばれる金髪は言葉を繰る。

 

 「大方、戦況悪しで敵前逃亡ってとこだろうよ。」

 

 「仲間を見捨てたってことか?」

 

 電気の瞳に軽蔑の色が宿る。友や仲間の闘いそのために力を振り絞った男だ。どんな理由であれ、仲間を捨てて逃げた目の前の屍に対してプラスのイメージは持ちえない。

 

 「その他の連中と通信してる様子はほぼなかった。最初っから、囮にしててめぇだけ逃げるつもりだったんだろーよ。」

 

 多面的に動き回る戦闘。その中で、明らかに全体への伝達が不足している面が多々見られた。勝己は知らないが、戦闘中に気づいたハイエンドも多くいたのだ。指揮官型である仲間が、自分達だけを置いて逃げてしまったということを。

 

 「証拠も残さずか。逃げられることも想定してなきゃできねぇがな。」

 

 「な、なんだよ!だから違うって!」

 

 最後にもう一度電気を当て擦り、それでも望んだ反応を得られないことで、ようやく溜息を一つ。長い夜が終わったことを、赫眼の暴君本人がようやく知覚できた。

 

 「まぁ、ガキどもにはいい訓練だったわ。」

 

 「お、お前訓練って!」

 

 「当たり前だろーがアホ面。」

 

 その丸焦げになった死体を担ぎ上げ、A組達が待つ現場へと戻っていく。

 

 「出所不明のハイエンドは訓練のデモンストレーション。あくまで肝試しの一環だ。」

 

 「いや流石に無理があるだろ!?」

 

 思わずその肩に手を乗せて、強引に振り返らせるメッシュのある金髪の『雷帝』。それに抗うことはなく、素直に後ろを向く赫眼の『№2』。

 

 視線が交差する一瞬。

 

 「騒ぎになった方が良かったか?」

 

 旭を背景に一陣だけ風が吹き、国有林を揺らした。

 

 「いや、丸め込めるなら…無駄に騒ぐ方がよくない、よな。」

 

 「生徒側の死者はゼロ。朝までには八百万が治しきるだろうよ。」

 

 「八百万…ってことは轟も来てるのか。」

 

 確認するかのように呟く電気に、朝日が照り返る金髪を揺らしながら、勝己は『雷帝』へと持ち場へ戻るように通達した。何事もなかった―――――――ただその一言を、伝えてもらうために。

 

 

 

 「「「「いや流石に無理があるでしょ!?!!!?」」」」

 

 朝日も登り切った朝食の席。無事な生徒で作り上げた味噌汁と白米。その配膳の席で伝えられた、所謂デモンストレーションだったという話に、流石の生徒達も総ツッコミであった。

 

 「合理的虚偽にも限度があるったいよ…。」

 

 「そーだそーだ!」

 

 特徴があるジト目をよりそれらしくしながら、橙色髪の吟子がそう呟き、お狐様たる姫子がその狐耳を揺らして声を上げた。

 

 「雑に誤魔化されんのも正直怠いんだけど…。」

 

 「そうでござるよwwwww」

 

 あまり目立った怪我がない一子がボヤき、影から出てきている影智もその意見に賛同する。それもそうである。今回のことは、いくらなんでも学校の中の一行事では収まらない。

 

 「秒殺された俺たちは何とも言えないところだが…。」

 

 「それでも感じた殺気は、まごうことなく本気だった。」

 

 巻きあげた砂鉄を一瞬で吹き散らされ、地面に沈めるられた髭面の偉丈夫と、竹刀を砕かれつつも奮戦した美麗なる騎士。亜衣磁と大和は、対峙した相手が『デモンストレーション』じゃなかったと肌で感じていた。

 

 「これがデモンストレーションだけんお前等納得しろ言われとっとー…」

 

 そこで言葉を切り、この場の誰よりもその眼光が鋭くなった、旭の下でなお輝く銀髪――――――

 

 「子分二人がケガさせられて、はいそうですかと納得できる訳がなかと!」

 

 気炎の変わりに口から冷気が漏れつつ、博多弁天のリーダーは咆哮を上げた。そう、友達のために一人で古強者へと挑んだ雛鳥は、決して許さないとばかりに副担任へと答えを求める。半端な返答なら、その喉笛を嚙み切らんばかりの勢いだ。

 

 「気がついたら倒れてて、起きたら全部終わってた私が言うのもなんなんですけど…。」

 

 艶やかな黒髪、雷撃を受けたにも関わらず天使のわっかまでしっかり復帰した、智謀の撫子――――――小野田小町が言葉を繰る。

 

 「偶発的に巻き込まれたのを隠し立てするんなら…はっきり言って不祥事の隠蔽です。それとも本当に訓練のメニューだと言うのなら、無事だったのは結果論でしかありません。」

 

 探るような黒い瞳は揺れる金髪と赫眼をしっかりと捉えている。クラスへの説明を勝己が行ったとは言え、明確な責任者は切奈のはずだ。そう、今回のトラブルも『№2』が引き金を引いたのだと、生徒達はそう解釈していた。勿論、ハイエンドと対峙し無抵抗のまま墜とされたこの大和撫子も。

 

 「そうなんだよ。ショックでまだ動けない子だっているんだ。普段なら、一番騒ぐであろう彼が。」

 

 その彼へと、最後に隠れていろと伝えた洸汰が声をあげる。個性により土の中に隠れた後、回収に訪れた教師陣が発見したのは、恐怖のあまり全身の体液を垂れ流しにした男子高校生の姿であった。

 

 彼の意識は戻ったものの、まだ簡易救護室のベットからは動けない。

 

 「っち。変に知恵ついちまったせいか。めんどくせぇ。」

 

 「ちょっ…。」

 

 「そんな言い方は!!」

 

 余りの言い方に、気が弱いとされていた委員長と、怒らないことで有名な副委員長が声をあげた。

 

 「黙れ。」

 

 昨日ハイエンドから感じたもの、いやそれ以上の殺気が吹き荒れる。それだけで雛鳥達は動けなくなり、外から様子を見ていた教師陣達はすぐ動けるように身構えた。

 

 しかし次の一言で、全員が何も言えなくなった。

 

 「公安案件だ。今日のことは、あくまで訓練の一環だ。それ以上でもそれ以下でもねぇ。」

 

 「っつ!」

 

 息を飲んだのは誰だったのか。『公安』というキーワードが持つ言葉の重みがどれほどのものなのかは、座学で習ったことがある人間なら誰でもわかっていることであった。

 

 「アンタッチャブル…。」

 

 「そういうことだ。無事卒業してヒーローになりたいんなら、喚くんじゃねぇ。」

 

 「…。」

 

 かの米国におけるCIA。ヒーロー協会の裁定者にして、影の仕事を担う者達。もっぱら都市伝説ではないかと疑われるものもあるのだが、それが『№2』の口から出たということで、全員の表情が引き締まった。

 

 「まぁ、実戦訓練までできて良かったじゃねえか?全員無事だった。それこそ結果論だが、それが一番合理的だってやつよ。」

 

 「…。」

 

 押し黙った生徒達。なんとか目的を遂げて、肩の力が抜けかけた時に、智謀の大和撫子は再び声をあげた。

 

 「じゃあ合理的になんですけど、今日はもうデモンストレーションにしません?」

 

 「んだと?」

 

 「訓練続きで肝試しやってませんし。それこそ鞭ばっかりじゃあ、私達のお口チャックも緩くなっちゃいますよ?」

 

 見れば全員しっかりこちらを見て頷いていた。随分キラキラとした瞳だった。昨日していた訓練中の時の表情と比べてやりたいぐらいだ。しかも、一丁前に交渉までしてきたのである。

 

 しかし、全員五体満足で生き抜いたのは彼らが得た『結果』なのだから。

 

 「だあもうわかったわ!今日の最終日は自由行動!好きに遊んで休み殺せ!!」

 

 生徒全員が上げた歓声は、真夏の国有林を太陽の陽射し以上に染め上げるのであった。

 

 

 

 

 「公安案件なんて噓でしょ?副担任。」

 

 生徒達が騒いでいる姿を、のんびり眺めていたところに『曲者』の耳と口が浮いてくる。

 

 「だからどうした?」

 

 「言ったはずだよ。辞表置いてけって。」

 

 真夏の太陽の下。昨今は水も飲ませないような時代ではなく、どちらかいうならがぶ飲みさせるように世の中変わった後だ。それは教師も変わらないのだろう、ペットボトルから経口飲料を一口飲み干した。

 

 要件を簡潔に述べてくる、宙に浮く口へと返事をする。

 

 「生徒は全員五体満足だ。死んだ人間なんざ一人も居ねぇ。」

 

 「あんなのたまたま運が良かっただけでしょ。結果論で言い切るにしては強引に過ぎる。」

 

 生徒を守る立場の先生は、ただ無謀なだけだった冒険を許容するつもりは一切ない。いくらヒーロー科の教師という立場でもだ。

  

 真昼の太陽の暑さに、赫眼が細められたのは一瞬だった。

 

 「でもそれがヒーローだろうがよ。」

 

 「なんだって?」

 

 「余計なお節介が生業なんだよ俺たちは。それを押しつけて人から金もらってんだよ。ずっとな。」

 

 ここではないどこかを見つめる孤高の金狼。果たしてその目が捉えていたのは、助けられなかった人か。それとも助けられた誰かなのか。

 

 「なぜこうなったかはさて置いて、だ。こんなやっかいなシノギをやる以上は、全員一度はしっかり血の味を覚えといた方がいいんだよ。」

 

 「そんな強引な!」

 

 「ビルボードトップランカー。」

 

 その言葉に、ポニーテールの曲者は言葉を飲んだ。今ここに無い瞳は、きっと悔し気に空でも見上げているのだろう。

 

 「結局学生時代に無茶した奴ばっかりだ。神野の時期なりと重なったところはあったがな、学生時代温い思いしかしなかった奴は、結局そこまでだった。」

 

 「それは誰のことを言ってんのさ?あんたも大概やらしぃじゃない。」

 

 「フン!気使って欲しいんならそういうのは丸顔にでも頼み殺すんだな。」

 

 金髪を揺らしタオルで汗を拭った、自身も今は副業中の暴君。偉そうにできるのも、過去の錦となる日が近づいてきているのはわかっていたから。

 

 「なら次の種を巻く。環境に慣れるために、雑草ぐらいてめぇで抵抗つけろ。」

 

 「雑草がハイエンドクラスとは驚きだわ。」

 

 再び犬歯を剝き出しにする爬虫類顔の女教師。それに対して『№2』はもう一度鼻で笑い、入道雲の空の下で、そのまま乾いた笑みを浮かべるのだった。

 

 「心配すんな、もうあんな雑草は生えねえよ。」

 

 「え?」

 

 「もう大丈夫だってことだ。」

 

 「…どこまで信じていいんだか。」

 

 安全面での心配がほとんどだったが、それこそ生徒達はしっかり経験を糧としてくれた。それこそ同じことがもう起こらないというのなら、これ以上追求したところで、金髪の暴君相手では疲れるだけだろう。

 

 「それに…。」

 

 「あっ?なんだよ。」

 

 「べーつに。こっちの話だよ。」

 

 もし何かあっても、きっと目の前にいる暴れん坊は、また今日のように守ってくれるだろうから。仕方ないかと溜息一つ。でも態度に出すと調子に乗るのでそこは自重して。

 

 子供達が遊んで盛り上がっている声が、青空の下、遠くの方まで響き渡っているのであった。

 

 

 

 「んでお前は特に何もねーんだな?」

 

 「あぁ、問題無いだろ。」

 

 灼熱と氷河を纏う、象徴無き次代の皇帝――――――轟焦凍が顔を出したのは、切奈の口と耳が生徒達の方へと飛んで行った後のことであった。てっきりあれこれ聞いてくるのかと思っていたが…。

 

 「?お前が対処しているならまぁ、大概のことはなんとかなるからな。」

 

 「ハッ!驚きの評価であくびが出るわ!」

 

 なんでもかんでも飛び込んでくるどこぞの幼馴染とは違い、任せることや距離感は読める男である。それこそ巻き込まれた側であるはずなのに、深掘りしない辺りは流石である。

 

 「まっ、既婚者の余裕って奴だな。」

 

 「結構なことだな若年寄共め!」

 

 しらっと惚気るモデル顔負けのイケメンも、この暑さから汗が滴っている。だが何というか、その姿すら様になっているのだから、個性以上にチートなのは間違いない。比較対象になる勝己が、黙ってたらどころか「無表情ならイケメン」と言われるレベルだから尚更である。

 

 「いちいち勘に触る奴だわ!!」

 

 「そういうお前こそどうなんだ?」

 

 あぁ゛と金髪を揺らしながら振り返ってみれば、プライベートでも先に行った男が静かにこちらを見ていた。ツクツクボウシの音が、やけに響いている。

 

 「付き合いだして長いだろ。いい加減腹もくくれ、爆心地。」

 

 「それこそ出久並みに余計なお世話だわ。パワハラで訴えんぞ№1!」

 

 「どうせきっかけがどうとか言って逃げてんだろ?」

 

 「誰が逃げとるだとてめぇ!!」

 

 この暑さでがなるなよと言葉を挟んで、『氷炎の支配者』は氷を顕現。どうやら暑さ対策のつもりらしい。己の背丈程の氷柱で、暖ではなく冷を取っている。

 

 「平和な世の中だって油断してたらダメなことは、切島達見てたらわかんだろ?安心させてやるのは男の努めなんじゃないのか?」

 

 「…。」

 

 「ヒーローの務めでもあるだろうな。」

 

 わーっとるわと吐き捨てて逃げていく、金髪赫眼の暴君。彼は知らないが、実はまだ自身につけっぱなしのイヤリング型通信機に、言うだけ言ったぞと呟やいた焦凍。ありがとうございますと聞こえた声に、溜息一つで軽くお返事。

 

 「あいつも尻に敷かれるだろうな。」

 

 湿度を孕んだ夏風が、その言葉を本人に届けることは、終ぞなかったのであった。

 

 

 

 

 「雰囲気変わったな…。」

 

 真夏の太陽の下では、光の加減だろうか、その特徴的なアッシュの髪色は普通の茶髪に見えてしまっている――――――そんな遊次に声をかけたのは、A組きっての前線タンクである八賀根鉱也だ。

 

 「よく見つけられたね…。」

 

 返事が自虐ネタなのが涙を誘う、なかなかなダメな感じの男の娘。影の薄さが合間って、もはや認識阻害クラスまできている遊次である。ほっとくと一日クラスメイトに声をかけられないなんて日常茶飯事だ。しかしなんというか、考え事をしたい時など便利である。それこそ今とか。

 

 「いや、なんっつーかよ。面構えが変わったというかよ…。」

 

 「何それ?わかんないよ。」

 

 ふふふと笑みを浮かべながら、ツインテールを揺らして答える遊次。鈴の音が転がるような笑顔は、完全に性別を超越し見るものに癒しを与えていた。

 

 そんな彼に、筋骨隆々としたモヒカンヘッドは、言葉を繰る。

 

 「俺よ、孤児なんだわ。」

 

 「…。」

 

 「親の顔なんざ見たことねぇし、なんなら今でも施設暮らしだ。学費は奨学金で賄ってる。」

 

 突然の告白。重たいはずの内容。それこそ他のクラスメイトなら、たじろいでしまうであろう内容だった。それを受けて、遊次は――――――

 

 「そうなんだ。」

 

 ツインテールにされたアッシュの髪が、一瞬だけ夏風に揺れた。

 

 「あぁ…なんだろうな…なんとなく今のお前なら、そうやって受け止めてくれんだろうなって思ったからよ。言っちまったわ。」

 

 「まぁ僕も昨日いろいろあったからね。なんというか、うん。」

 

 感じた恐怖を、涙と叫びと共に受け止めてもらえたのが昨日。誰かに受け止めてもらえると言うのは、いつだって嬉しいことで。きっとそれは素晴らしいことで。だからきっと、僕は。

 

 「なんか、そういうヒーローになりたいからさ。」

 

 「フン、抽象的だな。」

 

 「いいでしょ別に。そこはまだ高校生だし。」

 

 「そうだな。それもそうだ。」

 

 蝉の声がやけに響いている。風鈴でもあれば、もう少し風流な気分にもなったのだろうか。木陰の丸太になんとなく座り込んだ2人。一口だけ水を飲んだ遊次と、飲み干した鉱哉。モヒカンヘッドの次の言葉は、随分と具体的だった。

 

 「俺は№1になる。」

 

 「それはまたどうして…?」

 

 「俺ん家けっこう老朽化しててな。育ててもらった恩返しぐらいしてぇんだよ。№1に聞いたらビビるくらいの給料もらってたしよ。それぐらはやってのけねえと。」

 

 真っ直ぐな瞳。金色のそれが、蒼穹を見上げる。

 

 「青臭いね。」

 

 「別にいいだろ。まだ高校生だ。」

 

 「フフ、それもそうだよね。」

 

 最後二人で笑い合って、緑の匂いを思いっきり吸い込んで。やっぱりもう一度、大きく笑いあったのであった。

 

 

 

 

 「絶対余計なお節介だったぞ。」

 

 別れ際、今度飯食いにこいと言っていた旧友の姿を思い出す。耳郎に作らせると吠えていたが、勝手なことをしてと、後で怒られるまでがセットなのだろう。そんな姿を想像しながら、甚兵衛に身を包み、和室である社長室で言葉を発する『氷炎の支配者』。

 

 「あれくらいは必要ですわよ?いつまでも居ると思っちゃいけませんわよ恋人は。」

 

 「まぁそれはそうなんだがな…。」

 

 言いたいことはあるが、恐らく言ったら手痛いしっぺ返しをくらうことは、結婚生活でよくわかっている。ウ冠の下に女と書いて安心。やはりいつの世も、かかあが強い方が家は落ち着く。

 

 「それよりもその、旦那様、報告がありまして。」

 

 「ん?どうした?仕事の話か?」

 

 見れば頬を赤らめた、自分の人生で最も大切な人。その潤んだ瞳、そしてそのお腹に添えられた手が示す意味。いくら天然とは言え、彼も人の子だからこそ気づく。

 

 「おい、まさか…。」

 

 自然と浮かぶ笑顔。湧き上げる感情に名前をつけるならそれは一つしかないだろう。そう、まさしく『歓喜』。

 

 「授かりましたよ、私たちの、赤ちゃん!」

 

 全てを乗り越えてきた男は幸せになった。めでたしめでたしのその先に。しかし物語が終わっても彼の人生は続いていた。それこそ今後もきっといろいろなことが起こるだろう。それこそまた涙することもあるかもしれない。しかしきっと乗り越えていける。家族と仲間と、本当に幸せな瞬間がこれまであったから。

 

 それこそ今度からは、守る側だけじゃなく『父』として。

 

 轟焦凍は、これからも生きていく。

 

 「よくやったあああああああ!百おおおおお!焦凍おおおおおおおおお!」

 

 なんて声が母屋から聞こえてきたらしいが、それはまた別のお話。

 

 

 

 

 『やっぱり動いたね。』

 

 夏休みの夜。誰もいないはずの学校。セキュリティーが万全だからと、雄英の回線からやり取りしている内緒話。金色の雄が、己の幼馴染とやり取りする時に、専ら使われている非常用回線。

 

 「予想通りっちゃあ予想通りだったがな。」

 

 『証拠が潰れたのがキツかったね。』

 

 フンっと鼻で笑う赫眼の狩人。満足な結果を得られなかったことに、眉間の皺が深くなる。しかし実のところ、もっとやれたと思う半面、これで済んだという思いが同居していたのもまた事実であった。

 

 「ガキどもはよく頑張った。」

 

 『本当だよ。ハイエンドクラス相手に、生徒だけで時間稼ぎとかね。良く保ったもんだよ、高校生が。』

 

 「俺が教えてんだぞ?当然だわ。」

 

 ハイハイと笑う、緑がパーソナルカラーの幼馴染。決して生徒のことは直接褒めないであろうことは、他でもない彼が一番わかっている。

 

 『それでも今回のことで大部絞れたよね。君を困らせて喜ぶ愉快犯。』

 

 「あぁ、腸煮えくり返りそうだわ!ったく!」

 

 『lineの通りか…。僕の方でもちょっと探り入れてみるね。』

 

 絞れた犯人像。問題はいよいよ規模が大きくなってきた星の行動。愉快犯にしては、ハイエンドクラスを動かせる規模に権力。なかなかどうして――――――

 

 「下手すりゃ俺のことはきっかけに過ぎないかもな。」

 

 『そうだね、何かもっと大きなことを狙っているような…。』

 

 事がどんどん大きくなることに対する焦り。それを感じ思索にふける二人の青年。今やヒーロー会の重鎮になった彼ら。指示を出されて戦いに出ていた頃とは違う、また別種の疲労感。

 

 だからこそ気づかなかったのだ、『壊れた英雄』の背後に潜む、一人の影に。

 

 『あああぁぁーーーーーーーーーーー!!!やっぱりまたこそこそやっとる!!』

 

 

 

 

 「ちちち違うんだよ。ちょっと保険のことでまたいろいろと営業をね!」

 

 「噓つかんといて?!爆豪君保険入らへんやん!二人でこそこそして何しとんの!いい加減にして!」

 

 慌てて消した画面。その行動が余計怪しさを爆発させたことに気づかないのか。出久は慌て過ぎて全くそれどころではないようだった。敏腕保険社員も、実の恋人相手にはこんなものである。

 

 「きりきり吐いてや!許さへんよ私も!!」

 

 丸顔と言われたその顔を真っ赤にして怒っている、麗日お茶子がそこにいた。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

    Next story is お茶子「なんや婚約者が幼馴染とこそこそ連絡してんのやけど」,coming soon.Please wait.

 

 

 

 

 

 

 

 

 




というわけで失礼いたしました。
ここまで読んで頂いてありがとうございました。ようやく轟百編完結です!いや長かった。死ぬてwww
はい、すみませんでした。長すぎて二回転職したわ作者。もう泣いちゃうって。

サブタイトルは、轟君は幸せになろうの会でした。次はどうですかね。こっからはコンパクト目指してくんで短くまとめていく予定です。
もう誰も勝手にオリジンさせない(白目)

という訳でここまで読んでいただいた皆様に無限の感謝を!
今後ともよろしくお願いいたします!!ありゃっした!!
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