爆豪、母校へ帰る   作:秋編

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壊れた英雄
デク「か、かっちゃんが雄英の先生!?」ドン引キ その1


 神野に到着した緑谷が最初に目にしたのは、血だまりに沈む元クラスメイトの三人だった。

 

 内通者や解放軍によるタルタロス襲撃。その大騒動によって、デクを始めとした多くのヒーローがかの刑務所へと結集することになった。結果、後に本命であることが分かったヴィラン連合への対応が完全に後手に回ることになる。タルタロスまでの距離や移動時手段の厳しさから、たまたま神野近くでパトロールしていたテイルマン、シュガーマン、グレープジュース。この三人が死柄木弔と会敵。その報を受け、デクはタルタロスを他のヒーロー達へと任せ、ワンフォーオールを全開にして現場へと急行することになった。

 

 神野に響く高らかな哄笑。復興したはずの街並みはもはや見る影もなし。

伝搬する崩壊に巻き込まれ砕け散ったその中で、黒衣白髪のカリスマは幽鬼のように佇みながら、その壊れた笑みを浮かべ続けている。彼と対峙したのだろう。その場に広がる血だまりの中には見慣れた三つの影があった。

 全っっ部かっけぇ男になるためなんだよなぁ!!---スケベな癖に、仲間のためにも絶対に諦めなかった姿が蘇る。

 俺、辞退します---本人は地味なことを気にしていたが、謙虚で真面目な姿はいつだってみんなに慕われていた。

 ガトーショコラ食えよ---下位互換だなんて相談されたけど、気は優しくて力持ちを地で行く姿に、実は頼りにさせてもらってた。

 血が引くという感覚をリアルで味わい、緑谷はわき上げる怒りをそのまま咆哮へと変える。

 「死柄木いぃぃいいい゛!!!!!」

 「そうそれそれ、その顔が見たかった。」

 憤怒と憎悪を宿し絶叫する緑谷と、それを見て何とも楽しそうに嗤うヴィラン連合の長。止めようがないほど大きく溢れ出す衝動。暗く重たいそれに支配された緑谷は、仇討ちのために暴れようと飛び出していく。

 そんな笑顔を忘れた英雄を止めたのは、

 「ま、待つんだデク!!」

 A組きってのいぶし銀。立ち上がるのさえ困難なはずの尾白猿夫だった。自慢の尻尾は影も形もなく、その根元から大量に血を流しながらも、緑がトレードマークの元クラスメイトにその本懐を伝えんと声を張る。

 「わ、笑ってくれよ!そうじゃっ、ないだろ!!」

 声を出すのも辛いはずなのに、テイルマンは個性を失ってもヒーローであり続けた。例えどれだけ惨めでも、例えどれだけ敵わなくても。そんな生き方だけは見失わないその姿が、その光が。緑谷をヒーローへと戻していく。

 「・・・っ痛・・・いつもの奴を言ってくれよ、頼むよ。俺たちの・・・・ワンフォーオールはそうじゃなきゃダメだろ!!」

胸に刺さるその言葉。引退した最後の戦いでさえ、ヒーローであることを貫きやり遂げた先達。

その最後の場所で、自分も見ていたあの場所で。笑顔で戦えなかったら嘘だから。

 「・・・ありがとう、テイルマン。助けにきたのに助けられちゃった。」 

 さすがだな。緑谷はそう呟いた。どうなろうとも光り続けたいぶし銀。その鈍い輝きは、確かにデクを蘇らせた。そんな闇の底から戻ってきたヒーローの様子を見て、自らの行動の結果に満足したのか、尾白はそのこわばった表情を崩し気を失った。

 「もう大丈夫、僕が来た。」

 「・・・そういうのは間に合った奴が言うもんじゃなねーのかヒーロー?」

 笑うデクに心底つまらなそうな弔。相反する二人。光と影が睨み合う。伝搬する崩壊、その個性を放たれる前にと、デクは一気に死柄木へと駆けていく。

 第二次神野戦線。その始まりであった。

 

 

 

 「か、かっちゃんが雄英の先生?」

 軽くというかかなりドン引きしながら言い放つ緑谷に、思わずシュガーマンこと砂籐力道は苦笑いを浮かべていた。かっちゃんこと爆豪と緑谷と言えば幼い頃からの付き合い、それも一時期はかなり緑谷がいじめられていたと聞いている。そんな相手がヒーロー科とは言え学校法人の先生だ。思うところが山どころかエベレストクラスでも足りないことになっているのが目に見えてわかる。

 「まぁ、そう言うなよ。俺も少し手伝わされたけど、そんな悪い感じはしなかったぞ?」

 「外部のヒーローを手伝わせてる段階で正直あまりいい印象無いよ......」

 確かにな。緑谷のもっともな指摘に砂籐は笑いながらそう答えた。シュガーマンが営業するケーキ屋は平日のためか閑古鳥が鳴いている。旧友からの注文通り商品を箱詰めした砂籐は、唯一の客へとそれを手渡した。

 「ただまぁ、生徒の方は俺たちの世代とは違った意味でやんちゃだったからなぁ。あれぐらいインパクトの強い先生も必要なんだろう。」

 「まぁ、確かにインパクトは強いけど......」

 猫の手も借りたいぐらい忙しいのかな?でも借りた手は猫どころがニトロが湧き出る爆発三太郎さんなんだけど。そんな些かどころかかなり失礼なことを考えつつ、緑谷のいつもの癖が始まっていく。

 「そもそもかっちゃんが人に物を教えるっていうのは想像できないんだよなけど前から理路整然とした考え方や的確な指摘はクラスメイトからも評判だったし周りのこともみみっちいからちゃんと見てるところあるしでも自分から先生をやるようなタイプではないから何か事情があるのかつまり事務所の方で何かあるって考えるのが」

 「おーい緑谷帰ってこーい。」

 ブツブツという効果音がこれほど似合う独り言も他にそうはないだろう。昔からの癖とはいえ店先でやられては敵わない(どうせ客は来ないが)砂籐は、彼を現実に連れ戻すために声をかける。

 「まぁ爆豪の話は置いといてこれから営業なんだろ?しっかり頑張れよ、保険屋さん。」

 「おっとそうだった。ケーキありがとう、砂籐君。」

 そう言いながらまたねと店を出ていく元クラスメイトを眺め、砂籐は独り言ちる。

 「どちらかと言えば地味で暗いイメージだったんだが、それが今じゃ保険の営業やってんだから世の中わからないもんだなぁ。」

 それはまだ高校一年生の頃。まだ桜の舞う季節。おっかなびっくり、初めましての教室に入ってきた彼の姿を懐かしそうに砂籐は思う。

 「どう生きるかだよな、本当に。」

 古傷に効く薬を飲みに店の奥へと引っ込みながら、砂籐力道は呟くのだった。

 

 

 ヒーローを対象とした保険制度。それが普及し始めたのはかの第二次神野戦線が終わってからのことだった。普及のきっかけ自体はネットなどの口コミからだったが、やがてその制度を始めた一人が次代の象徴だったデクだとわかってからは爆発的に広まることになる。制度の内容としては車の保険などとそう多くは変わらない。ヒーロー活動という枠内限定で、物損及び対人での事故に対してそれ相応の金額を保証するといった物だ。

 「いつもありがとうございます。それではまた何かありましたら伺いますので。」

 「こちらこそいつもありがとう。」

 頭を下げる緑谷に応じるのはマウントレディだ。彼女の事務所は基本的に、その貢献度に対して活動中での物損行為が上回ってしまうことが多い。それこそ巨大化などという歩くだけで周囲を瓦礫に変えてしまう個性なのだ。ヒーロー応援保険との相性はばっちりなのである。

 「いえいえいつもご贔屓頂いておりますから。」

 営業スマイルももはや慣れたもの。ヒーロー時代に浮かべていた笑顔とは別種のそれは、一度慣れれるとなかなか剝がれにくいものらしい。

 そんなかつての次代の象徴を一瞬だけ痛ましげに見ながら、マウントレディは手慣れた営業マンにもう一度だけ交渉を持ち掛けてみる。

 「ねえねえこの前の事故の件なんだけど、やっぱり6:4じゃないと無理?7:3とかになってくれたりはしないかなぁ?」

 「いやぁ、正直難しいと思いますよ。現場近くの防犯カメラにがっつり写ってますし......あの位置で踏み込んで必殺技を使わなくても、普通にトドメはさせたと思いますから。」

 「いや、あのね、実際戦ってみたらわかるんだけどあのヴィラン硬くってさ!通常攻撃じゃ時間もかかって被害がより甚大になったと思うしその当たりを加味していただけると」

 「マウントレディさんほどのベテランならその当たりはむしろもっと上手くやれたかと。むしろ見学してる人たちへのウケ狙いのために、派手な必殺技を使った感じがどうしても強いです。今回ばかりは、ちょっと......」

 さすがに現場上がりのヒーローオタクは強い。その気になればマウントレディの必殺技や通常攻撃のパターンでさえ把握しているのだ。推しでもないのにそこまで勉強されると度が過ぎていて把握される方はもはや恐怖である。

 「やっぱりダメよね。わかりました、今後とも、次はもっと気を付けますー。」

 下手をすると新たな攻撃方法のパターンについて講義が始まりかねない。そんな空気を感じ取ったマウントレディは、早々に白旗を上げるのだった。

 

 

 

 「今日も疲れたなぁ。」

 気が付いたら太陽は今日の業務を終え帰宅したらしい。君もちょっとぐらい残業してってくれよと、暗くなった空を恨めしそうに眺めて緑谷は独り呟く。星空に照らされる帰り道だ。タイムカードを切った後の帰宅途中。慣れた手つきで緑谷はネクタイを緩めた。刈り上げた両サイドの髪---ツーブロックと言っただろうか。癖の強いワカメ髪は美容師さんにすいてもらいワックスで整えている(それでもワカメはワカメなのだが)。未だにオシャレのことはわからないが、仕事上爽やかでないといけないのだ。ヒーロースーツで素顔を隠していた頃と同じような訳にはいかない。

 向いてないってことはないんだけどな。一人になるとふとよぎるそんな言葉。免許は返納こそしていないものの、引退を宣言しこの仕事を立ち上げてから常に疑問を抱える日々だった。別に仕事が楽しくないわけではない。ヒーローに携わることができるのだ。ヒーローオタクである自分には持って来いじゃないか。母だって喜んでくれている。もう怪我することもないって。それこそ付き合っているお茶子さんだって。そうやって自分を納得させる日々。自宅までの近道として通る裏道ではいつもそんなことばかり考えている。そういえばここは雄英の近くだったなと考えながら。

 全身に圧し掛かる持て余す程の虚脱感。それから抜け出すために今夜も少し飲んでから帰ろうと、緑谷が行き先を悩み始めたそんな時------

 背筋が凍るような感覚。向けられた殺気。

 露骨なまでのそれを受け振り向く。そこには両掌からから日本刀を生やし、襲い掛かってくる男性の姿があった。

 「っ!!」

 右の刀をカバンで払い、胴を狙ってくる左の刀は大きく後ろに飛びのくことで回避する。

 「何ですかいきなり!?」

 「なぁにぃ、ちょっとした強盗って奴よ。金置いてけ。」

 見れば緑谷には一生縁がないような派手な髪色に、数えるのも面倒なほどのピアスの数。ヴィランというほどでもないチンピラ崩れ。物腰からそう判断し緑谷は相手に声をかける。

 「パトロール中のヒーローがすぐにでも来ますよ。止めて下さい!」

 「パトロールねぇ、来てくれるといいけどなぁ!」

 そう言って笑うチンピラの様子を緑谷は訝しげに見る。この地域に事務所を構えるヒーローだっているのだ。夜勤パトロールがそのうち、そう考えた時にあることに気づいた。

 「!!そうか、ここは事務所間の境目で、丁度今の時間はパトロールの時間外!」

 「詳しいねお兄ちゃん、そういうことで、諦めな!」

 ヒーローとはいえ事務所によって縄張りも決まっていればパトロールの時間も決まっている。趣味と実益も兼ねて緑谷はその情報を把握していたためすぐにそのことに思い当った。しかし、

 「なぜ君がそれを知っているんだ!?」

 「さぁなんででしょう?そんなことより......」

 そうやって身を屈めるチンピラ崩れ。力を溜める予備動作。

 「いいから金だけ置いてけよ!!!!」

 言葉と共に一気に緑谷へと飛び出してくる。同時に降り注ぐ二本の刀。緑谷はそれを時にカバンでいなし、時に回避しながらやり過ごす。

 「兄ちゃんなかなかやるな、俺も喧嘩自慢だけど......さては元プロかぁ!?」

 「さて、どっちだろうねぇ!!」

 そう言いながら隙を見て蹴りを放つ。個性が読めない相手のそれを受けるの避けたかったらしい、今度はチンピラが距離を開けるために後ろへ飛ぶことになった。

 「(それで、どうしたもんかなぁ)」

 神野戦線での決戦、死柄木を倒すことには成功したものの緑谷自身も大きな深手を負うことになった。その結果、ワンフォーオールの最大出力は8%が限界。『黒鞭』などの先代たちの力も使えない上に、発動時間も限られることになった。

 「(医者からは死んでてもおかしくないって言われた傷なんだから、文句なんて言ってらんないんだけどね。)」

 それこそ化粧で誤魔化しているが首筋にだって大きな傷が残っているのだ。丈夫に生んでくれた母には感謝が尽きない。しかし、今必要な個性は残念なことに戻ってこない。

 「ここまでされて何にもしねぇんだ、兄ちゃん怪我かなんかで”元”になった口だな?」

 いやらしい笑みを浮かべるヴィランもどき。彼の個性を完全に把握する暇もない緑谷は、なんとか打開策を考えようと思考を巡らせる。

 「(急激な緩急を付ける形で8%を発動させる。一撃さえ入れられれば向こうも無事ではないはずだ。その隙に助けを呼んで......)」

 行き当たりばったり感が拭えない方針を決めている間に、再び飛び掛かってくるチンピラ崩れ。迎え撃とうと構える緑谷。まだ若いであろう、そんな声がかかったのはその時だった。

 「あんたら!何してんだ!!」

 鳶色の翼に長い黒髪。現役の雄英高校1-A、嵐島飛天がそこに居た。




pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→デク「か、かっちゃんが雄英の先生!?」ドン引キ その2
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