嵐島飛天は悩んでいた。それは主に最近の友人二人の件についてだ。孤城姫子と土屋大地。高校に入学してから仲良くなった飛天を含んだこの三人。そのうち姫子と土屋の仲が最近よろしくないのだ。勿論飛天としたら仲良くしたいのだが、この前のシュガーマンの一件から二人が上手くいっていない。勿論その当たりは「残念なイケメン」、「風使いのくせに空気が読めないマン」、終いには「周囲の雰囲気からも飛んでる君」とクラスメイトに言われる飛天クオリティである。二人がなんでケンカしているのは全くわかっていないのだ。てっきりシュガーマンからもらったケーキを食べたことを怒っているのかと謝ったのだが、僕はそもそも和菓子派ですっ!!と余計怒られてしまった。
勿論直接理由は聞いたのだ。聞かないとわからないからだ。しかし聞いてもわからなかったのだ。なのでこうやって悩んでいる。姫子が言うには、
「往生際が悪い!」と土屋の対して怒っている。対し土屋が言うには、
「約束は守っているんだから、それ以上やろうとする孤城さんが理解できない!」と姫子に対して怒っている。
今日だって自主訓練に励もうと居残りする姫子に対して、今更いい子ちゃんぶってなんなんですかと土屋が煽った格好である。それにキレた姫子が狐火で土屋の顔面を燃やしたのだ。勿論しっかり片目だけで観察していた取陰先生からは られ、いつも通りグダグダ言い出した土屋は爆豪先生に吹っ飛ばされていた。追記するなら何もしてないのに飛天も怒られ、やっぱり何もしてないのに一緒に爆破されたりしている。解せぬ。
勿論飛天だって何も考えてない訳ではない。姫子がシュガーマンの話を聞いて頑張ろうというなら応援するし、今日だって自主練に付き合ったのだ。土屋だって姫子が頑張ろうと言うなら応援してあげたらいいだけだ。自主練に付き合えとまで姫子は強要していない。姫子も姫子だ。ちゃんと土屋は約束を守ってサボらずに授業を受けている。それに対し小便漏らしてた奴は意識が低いわね!!と煽るのだ。結果として土屋が地面を隆起させて転ばしていた。その後喧嘩して結局飛天まで爆豪先生に吹っ飛ばされるのだ。やっぱり解せぬ。
そう、全てはシュガーマンの話を聞いてからだ。その後姫子はクラスの誰よりも真面目に訓練し始めた。何か指針を見つけたような、そんな感じ。その先を見つめる瞳は自分だって羨ましく思うのだ。あの場にいなかった土屋からしたら友人がいきなり遠くに行ってしまったと感じてもおかしくはない。しかし、それを言うなら自分だって姫子と一緒にあの筋骨隆々としたヒーローの話を聞いたのだ。それでも土屋とは今まで通りだし、できるだけサボろうとする土屋は自分を誘ってくる。つまり姫子を通し見えているものが飛天を通しては見えていないということだ。自分だってあの場に居たのに。その差はなんなのか。薄ぼんやりとしかわからない。自分でも気づかない内にどうやら友人のことでなく自分のことで悩んでいたらしい。なるほど気づけて良かった。
そんなことを思いながら、姫子の自主練に付き合った帰り道。雄英近くの裏通りで、飛天は相対するチンピラとサラリーマンを目撃することになる。
「あんたら!何してんだ!!」
緑谷は焦った。声がする方をみれば、高校生ぐらいの男の子がこちらに駆けてくる。制服を見ればわかるが雄英高校の生徒らしい。まずい。それこそデクは今時間制限付きの8%ワンフォーオールが限界なのだ。心配して来てくれるのはありがたいが、個性もわかりきってはいない相手から庇いながら戦闘ができるとは到底思えない。見れば翼が生えている。空を飛べるなら、よし。
「君、名前は!?」
「っ、何を!?」
「いいから早く!!」
刃物を生やすチンピラ崩れから目を離さないようにしながら緑谷は叫ぶ。飛天は突然のことに面食らいながらも、とりあえず自分の名前と所属を告げることにした。
「嵐島飛天、雄英生だ。」
「プロヒーロー”デク”の名において!!」
名乗らされたと思ったら突然出てきたのは最も新しい伝説の名前。いくら「周囲の雰囲気からも飛んでる君」とは言え驚きのあまり言葉を失う。
「雄英高校、嵐島飛天の個性使用を許可する!」
「「!」」
突然の来訪者に対し個性使用の緊急許可。驚きつつもヴィランもどきはデクへと切りかかり、めんどくさいことになる前にと斬撃の数を増やしていく。銀の軌跡を描く粗暴な刃は、デクの身体を掠め血しぶきが宙を舞う。
「っ、デク!加勢する!!」
「違う逃げてくれ!!」
個性使用の許可が出たのならと、翼を広げ前に出ようとする飛天。そんな果敢な母校の後輩に対し、デクは気持ちだけをもらい本来の目的を告げる。
「翼があるなら飛べるんだろう!助けを呼んでくれ!!」
「!」
戦力外。しかし当たり前の決断。それはそうだろう、誰がどう見たって実戦の経験が一度もない子供なのだ。雄英生だからといって、訓練をしていたって関係ない。現場を知るプロからしたら守る対象でしかないのだ。許可を出したのだって、その翼で安全圏まで逃げて欲しかったからだ。あわよくば応援をと。ともかく現場から遠ざけたい。
その思いが通じたのだろう、悔し気な表情を浮かべながらも風を補助にして飛び立とうとする飛天。日頃しているように、呼吸するかのように羽ばたく。
が、
「させねぁ!!」
デクに向かって切りかかるチンピラ崩れがその左の切っ先を飛天に向けた。何事かと訝しむ飛天。それに対し察したデクはチンピラに対し足を振り上げるも間に合わない。
「喰らえ!!!」
掌から出た刃の部分がそのまま飛天に向かって発射された。刃を掌から生やす個性ではなく刃を掌から発射する個性。掌から刃が出ている状態はあくまで発射準備中ということらしい。その経験から能力を予想できたデクとは違い刃が飛んできて始めてわかった飛天。なんとかかわせたものの、その刃は彼の頬を掠めていた。流れ出る赤い血。始めて向けられた本気の殺気。訓練とは違う現場の空気に慄いてしまい、飛天は飛び立てず地面へとその身を戻してしまう。
「こいつは笑えるぜ!!」
刃物を文字通り操るチンピラヴィラン。その嘲笑だけが現場に響く。
「片やぶっ壊れて使えねぇ終わった英雄!」
悔し気に歯を食いしばる緑谷。
「片やビビって動けねぇチェリーボーイ!!」
何の反応もできない飛天。
「それでも潰せば俺の名前もいい感じになるんじゃね?!バイブスいと上がりけりってなぁ!!」
言葉とともにマシンガンのように飛来する生体刃。かわし切れず被弾する二人は徐々に傷が増えていく。致命傷こそ避けているもののこのままでは。
「フルカウル!8%!!」
虎の子のワンフォーオール。例えじり貧だとわかっていても。せめて少年一人逃がすためにはと、ヒーローがその終わりに見せる命の輝き。例え家に帰れなくても、その本懐のためにデクはもう迷わない。
「急に動きがっ…!!」
「僕が時間を稼ぐ!!せめて逃げてくれ!!」
未だに萎縮しているのか、動きの悪い飛天に対し呼びかけ続けるデク。守るために死ねるなら、それも本望なのかなと思いながら。心の中で、帰れないことを恋人と母親に謝りながら。
「飛天君、早く!!!飛天君!!」
刃が掠める度に動きが止まる。デクの声を耳にして辛うじてまたなんとか動き出す。痛みと驚きに身を竦めつつ、飛天はデクの姿にかつての憧れを見た。光り輝くヒーローの姿が迷える卵にひびを入れ、彼は思い出していく。自分が立つ意味を、自分が歩いてきたこれまでを。自分が目指してきて自分が目指したいものを。
翼を有する個性。その保持者が最初に憧れるヒーローはいつだって決まっていた。それはオールマイトでもなくエンデヴァーでもなく、最速を誇った九州の雄。
「うわぁ、すっごい!!!」
幼い日の飛天もその憧れを目指すのに時間はかからなかった。天翔ける翼。羽を刃に戦う姿。九州という決して狭くない範囲を守るその姿に、出身こそ違うものの焦がれてそうなりたいと願った。テレビやPCを見て歓声を上げて。体や個性を鍛えて戦術を真似して。飛天本人にも神童と言われるだけの才能はあった。家だけは決して裕福ではなかったけれど、尚のことヒーローになって楽をさせてやれたらなんて、漠然とそんな未来を描けるくらいには。身体の弱い父と支える母。将来は自分が支えるんだって、そんな夢を楽しみにしながら。
ヒーロー・ホークス。突然の失踪------そんなニュースがテレビで踊ったのはいつだっただろうか。加えて週刊誌でリークされるヴィラン連合との会合の写真。ネットの掲示板ではアンチによる心無い言葉が踊り続ける。
『裏切り者。』
『前々からそうだと思ってた。』
『ホークスファン死亡www』
憧れにヒビが入る。そして夢が壊れるのに、時間はかからなかった。
「父さん!!」
明け方だったと思う。母の悲鳴で目を覚めたのは覚えている。救急車のサイレンがやけに生々しく耳に残った。元々身体が弱かった。ホークスの件があって落ち込んでいた時に、それでも頑張れと励ましたくれた父。ホークスのせいで、翼持ちは裏切るぞと学校でいじめられた時も、笑顔で迎えてくれたそんな父。
泣き崩れた母に抱きしめられながら、飛天は泣かなかったことを覚えている。
第二次神野戦線が勃発しホークスの名前が死亡者欄に載せられたのは、それからしばらく経ってからのことだった。
もはや習慣として続けていただけの自主トレと勉強だけで雄英には合格できた。腐っても神童に間違いはなかった。母は喜んでくれたけど、もう飛天は何を目指していいかもわからなかった。加えてサボり癖が常習化したクラスメイトだ。自主トレすらやらなくなった。シュガーマンにぶっ飛ばされるまで、大切な思い出すらもう忘れていた。
「鬱陶しい、さっさと死ねえ!!!」
「飛天君!!」
木霊するヴィランの声。それに抵抗するヒーローの輝き。あぁそうだ、自分は昔。
「喰らえよ!!」
「ここは一歩も通さない!!!」
自分は昔。そんなヒーローに憧れて。
「大丈夫、絶対に、僕が守るから!」
自分だって、そんなヒーローに。
吹き上げる暴風。自身に飛んできた生体刃が風により散らされてデクは驚く。ヴィランを気にしつつ後ろを振り向けば、そこにいるのは殻を破った雛鳥。
「はっ、ははは。」
思わず見てみれば笑いがこみ上げるほど精悍な表情。震えていたチェリーボーイはもうどこにも居なくって。後ろに下がるのではなくただ前に。
「加勢するぞ。ヒーローデク!!」
目指す先を失い卵の破り方を知らなかった、そんな少年は目覚める。
嵐島飛天:オリジン
pixivにて連載中のものを再掲載しております。
何卒宜しくお願い致します。
次話→デク「か、かっちゃんが雄英の先生!?」ドン引キ その3
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