鳶色の翼が空を翔ける。その手に集まる風が渦巻く。糞っ、と呟くチンピラ------鋼野 刃は忌々しげにヒーローとその雛鳥を見ていた。簡単な仕事だったはずなのだ。捨てアドから突然送られてきたメールの内容。ヒーローのパトロールが手薄になる時間と場所。何度かカツアゲなど試してみて、そのメールの内容に間違いがないことは確信していた。だから今日も適当にかっぱらって、抵抗するなら脅して奪って終わりのはずだった。それが今では二対一で追い詰められているのだ。全くやっていられない。今も発射した自身の刃が風に散らされたところだ。見誤った引き際に苛立ちながら、彼は無謀な抵抗を続けていた。
渦巻く風がその手に集められて、その形を掌大の弾丸へと変えてく。それを連弾で放ちながら飛天はチンピラへと距離を詰める。纏う風を飛行への後押しへと変え一気に加速しながら。
「喰らえ!!」
「ちぃ!」
風使い御用達の必殺技。かまいたち。形の見えない真空の刃をすれ違いざま、至近距離で叩き込みながら飛天は再び距離を取る。
「(風の一撃はやはり軽いか。)」
前回のシュガーマン戦や日頃の授業でも実感したことだが、飛天の風を使った攻撃はいずれも一撃の威力が軽いものだった。それこそ実戦を経験したプロや荒れ狂うヴィランが相手では、連弾・風玉やかまいたちは牽制にしかならずメインウェポンとしては些か不十分だった。
「なめんな!!」
言葉とともに打ち出され飛来する生体刃。飛天はそれを嵐のような暴風で散らし、それでも向かってくるものに対してはかまいたちや風玉で落としていく。一撃の威力は確かに足りないが、その射程と命中精度はもはや一級品と言えるだけのレベルだった。
「鬱陶しい!!!」
それはこちらのセリフだと思いながら、飛天は翼で顔を覆うように一度大きく閉じ、力いっぱい広げ直した。バサァという音が聞こえそうな程の躍動感。その翼から放たれた無数の羽が、硬質の刃と化してヴィランを襲う。
「甘い!」
さすがに派手な予備動作と開いたお互いの距離。二つの要因がヴィランに避ける余裕を許すが、
「そっちがな。」
その言葉とともに飛天が腕を一振りすれば、羽手裏剣は逃げる男に向かって進路を変える。
「ホーミングだと!?」
羽がめった刺しになりながらも男は驚愕に声をあげる。自動追尾してくる羽を操る個性。その能力にとある汚れた英雄の姿を重ねながら。
「てめぇホークスのフォロワーかよ!!」
「疑似的なもんだ。及ばないさ。」
事実ホークスの剛翼は羽一枚一枚を操り、敵を切り裂くだけでなく人や荷物を運ぶことだって可能にしていた。飛天のはそれはあくまで気流---風を操り羽手裏剣の軌道を変えただけだ。かの英雄程の応用力は残念ながら見込めない。
それでも持てる武器で戦うしかないのだと羽ばたく飛天。事実今の羽手裏剣もチンピラを戦闘不能にすることができず、近距離かまいたちも彼の動きを止めることができなかった。(木刀で殴られたぐらいの威力はあったはずだが)
それなら直接切り裂けばいいと、長めの羽をその片翼から取り出し片手で剣のように構える。もう片方の手で風玉を放ちながら牽制も忘れない。そのまま一気に加速。すれ違いざま羽の刃を叩きつけようとする。その瞬間、
「なめんじゃねって言ってんだよ!!!」
「!」
掌から刃を生やし射出する個性。勝手にそう認識していたデクと飛天。その思い違いを嘲笑うかのように、鋼野刃はその全身から生体刃を繰り出した。
「っ、しまっ」
「おせえ!!!」
両腕にばかり注意がいっていたことからかわし切れず、ヴィランの全身全弾による一斉射撃が飛天を直撃した。持ち主の血色に染まる鳶色の翼と艶のある黒髪。もう一本羽の剣を取り出し、双剣スタイルで追撃を防ぎながら大きく下がる飛天。その動きは明らかに精彩を欠いている。
「飛天君!」
そんな飛天に声をかけるのは引退したはずの次代の象徴だった。腰を落とし構える姿はまるで力を溜めているかのように見えた。
「もう少しだけ時間を稼いで欲しい。」
緑の閃光がその指先に集中し始めていることに飛天は気づく。
「そしたら必ず、僕が決めるから。」
「わかった!」
羽ばたく度に痛みが走るその身体に鞭を打ち、飛天は時間稼ぎへと飛び立った。もはや血風にも見えるそれを纏いながら、雛鳥はヒーローへの階段を翔け上がっていく。
「何狙ってるのかしらねぇがさせねぇよ!!」
発射台が増えたことから、生体刃を飛天だけではなくデクにまで向け始める鋼野。なるべく自身に飛んでくる刃は躱すことで防ぎ、デクへのそれを最優先で落としていく飛天。
「負けない!」
「ざっっけんじゃねー!!」
時に近づき時に遠ざかり、動きとポジションが単調にならないように飛び回り続けながら飛天はその時を待つ。後ろに輝く緑色の輝きを信じながら。
目の前で懸命に羽ばたく雛鳥と、抵抗するヴィランの姿を視界に捉えながら緑谷出久は己の中に呼びかける。 もう答えてはくれない先代たちの姿を思い描きながら。かつてのように”さらに向こうへ”と意識しながら。譲られて得た己の個性。共に歩くようになって本当にいろいろあった。
『頑張れって感じでなんか好きだ私』
名前の意味を変えてくれた人が居た。
『梅雨ちゃんと呼んで』
新しく出会えた仲間が居た。
『お友達ごっこしたいならよそへ行け。ここは…ヒーロー科だぞ 』
ってくれる人が居た。
出会えた人、守ってきた人、救えなかった人。ヒーローを引退しほとんど使うことがなくなったこの力は、それでも今まで歩いてきた軌跡を証明してくれる---まさにそんな代弁者で。駆け巡るそんな全ての思い出に万感の思いと感謝を込めて。ヒーローとしての職務を緑谷出久は遂行する。ワンフォーオールを人差し指に集めて、もうたどり着けないはずの20%へとその力を強引に押し上げていく。
「飛天君、避けて!」
声をかければより高く空へと羽ばたいていく母校の後輩。そこに浮かぶのは確かな笑み。ヒーローデクの指先に灯る緑の閃光が意味するそれは、始めて緑谷が得た飛び道具。
「くそったれえええええええええええ!!!!」
やけくそ気味に放たれる生体刃。それこそ次代の象徴が使うその技は、ヴィランになるような男だって知っているから。
輝く中指を親指に引っ掛ける。力を溜めるそれは、はじかれる瞬間を今か今かと待ち望んでいた。
「デラウェアスマッシュ!!」
降り注ぐ生体刃とその先にいるヴィランをデクは確かに射線上に捉えて、その中指に溜まった力を解放した。
「Plus Ultra エアフォース!!!!」
飛天が繰り出すものとは比べものにならないくらい特大の衝撃波。余波だけで周囲の建物が悲鳴を上げるレベルのそれは、生体刃を丸ごと吹き飛ばして一気にチンピラヴィランに肉薄する。
「ああああああああああああああああああああ!!!」
悲鳴を上げて吹っ飛んでいく鋼野刃の姿をしっかり目に焼き付けた二人は、そういういえば言ってなかったあの言葉を口にすることにした。
「「もう大丈夫、僕が来た!」」
満たされた心と達成感、他では味わえない充実感に浸りながら、飛天とデクはとても楽しそうに笑い合ったのだった。
pixivにて連載中のものを再掲載しております。
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次話→デク「か、かっちゃんが雄英の先生!?」ドン引キ その4
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