それ以来、を読んでから、この作品を読む事を推奨します。
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私の世界は狭かった。
学校と神社。その二つの箱しか知らない私は、つまらない日常の住人だった。
神社では、親の邪魔をしないように隅で参拝客が来ないかを見ている。
学校も、友達が少ない私は席に座って本を読んでいる。
何もない。つまらない。
そんな私にも好きな物はある。
歌だ。
歌を歌う事だけは好きだった。
歌っている時だけ、梅雨空の様な世界に一瞬で色がつく。
幼い私にとって、歌は魔法だった。
ある日、男の子が神社にやってきた。私と同じくらいの年の男の子。
どうやら近所に引っ越してきたらしい。
どうせ参拝客は少ない。私は暇つぶしに彼と話すことにした。
年が近い事もあり、彼とはすぐに仲良くなった。
彼は毎日神社にやって来ては、階段に座りお話しをする。内容なんて決まっていない。今日あった事、面白かったテレビ番組。
気付けば彼の事を待っていた。彼が来るのを楽しみにしていた。
そんな何でもない日常が、私にとっては大事な物だった。
ある日の事だった。
「今日は巫女服なんだね」
「そろそろ着させても良いだろうってお父さんたちが。似合う?」
「うん、とても似合ってるよ」
この神社の巫女服は少し変わった色をしている。
巫女服のイメージは大体が紅白色だろう。縁起が良いからだろうが、この神社の巫女服は白に青色の装飾がされている。
珍しさから何か言われるかもと、少し怖かった私は安堵した。
「本当?良かった。白に青って珍しいでしょ?何か言われるんじゃないかなと思ってたけど、君は言わないんだね」
「ああ、俺は色が分からないんだ」
そう言って、彼はぎこちなく笑った。
彼には、世界が本当にモノクロに見えているらしい。
彼に同情は覚えなかった。
興味が無い訳じゃない。ただ疑問に思ったのだ。
”世界が白黒でつまらなくないのだろうか”と。
「つまらなくないかだって?」
「うん。なんでも色が付いていた方が綺麗でしょ?」
「...そんな事無いよ。確かに俺には皆の感動が分からない。綺麗な夕焼けも、雨上がりの虹も全部モノクロだ。だけど、そんな意地悪な空でも表情がある」
「空に表情?」
「怒ってる空、泣いている空、憂鬱な空、着飾った空。空はいろんな顔を持っているんだ」
彼は楽しそうに空の事を語っていた。
彼が空を見る事は、私にとっての歌を歌う事と同じなのだろう。
空の表情を見ることで、自分で作った色をつけている。
歌を歌う事で、世界に色彩を足している。
彼と私は同じなのだ。
「君は夢を持ってる?」
「夢?」
「そう、夢。君の夢は何?私は歌手になりたいんだー。歌うのが好きだから!」
私の夢は仮の物だ。それしか知らないから。
私にとって、歌は世界に色を付ける為の絵の具だ。
だから、君にとっての絵の具はきっと...。
「俺の夢は...空を、見たいんだ。世界中のいろんな空を」
その顔を見たとき、思ってしまった。
彼は、空の表情を通してでしか世界を見れないのだと。
色を知らないから絵の具も用意できない。
そんな彼の夢は、残酷なほどに真っ直ぐな物だった。
「すごい夢だね!君になら出来るよ!」
私は笑顔でそう言った。
私の梅雨は、まだ明けない。
一年が経った。
その日、私ははじめての冒険をした。
君に手を引かれて路地を抜け、坂を越えて、虹さえも通りぬけて。
梅雨の時期、傘をさしながら二人で歩く。
私の世界はほんの少し広がった。
その場所に辿りついた時、雲の間から光が射した。
「見てよ!」
言われるがまま目線を上げると、そこには
雨上がりの虹がかかる空。地上に降り注いだ光は、乱反射し虹色に見える。
「この空はまだ誰も見つけていない。二人占めだ!」
この時の君の笑顔はとても
結局、二人とも叱られた。だけど、両親の話は一切私には入ってこなかった。
説教の間、私は全く違う事を考えていた。
この思いは何だろうか。まるで宝物の様な、手に入らなかった物の様な、見つける事の出来なかった物の様な。
その感情を、私は知らなかった。
だけどこの瞬間、
「いつか言っていた君の夢、私の夢にするよ」
私の梅雨は、やっと明けたのだ。
・・・・・・・・・・・・・。
だから、そんなに暗い顔をしないで。
私は君に夢を貰った。大切な宝石を貰った。
君が歩みを止めてしまうと、私も止まってしまうんだ。
だから。
『その
今はもう、君の背中を押すことしかできないけれど。
いつか連れて行ってよ。
世界中の空の元に。私の知らない空の元に。
いつまでも待っているから。
opal:オパール
見る角度によって輝きの色が違う、虹色の宝石。
本当に救われたのは果たして―――。