「さぁ、それじゃあ行くわよ。どこからでもかかってきなさい。」
「分かった。それなら……!」
そうさせてもらう…!その言葉と同時に先代に攻撃を仕掛ける。
安直な右ストレートは彼女に当たるはずもなく、彼女は身を翻してこちらに発勁を放ってきた。
その手を左手で掴み、勢いを殺す。
「なっーーー……」
そしてそのまま彼女の服まで掴み、足をかけて一本…!
とはいかず、先代の足に俺のかけ技がかかる前に振り払われ、距離を取られる。
「やるわね…まさかあんな方法を使ってくるなんて」
「あれぐらいしか勝算もなかったからな、だがまぁ…」
防がれた……となると彼女はこの技を警戒した立ち回りになるだろう。
そうなれば俺にもう勝ち目はほとんどない。
「どうした?次はそっちからかかってきたらどうだ。」
見え透いた挑発を彼女にかける。まぁこの程度の挑発にのってくれるほど、彼女も甘くはないのだが。
「そうね、ちょっと本気を出すわ」
そう言って、彼女はぴょんぴょんとその場でジャンプした。
そして……
俺の目の前には拳があった。
「フガッ……?!!」
顔面にモロに受ける。……痛みは何故か後から来た。
そしてその痛みとはまるで鉄板で殴られたかのようだった。
衝撃をまともに受けて、俺のからだは体制を整えることが出来ずにいる。
これは不味い……軽い脳震盪も起こっているだろう。
意識が朦朧として、焦点すらあっていないのだから。俺は確実に一本取られたということになる。
「大丈夫か?」
やってしまった…と言わんばかりに先代がこちらに駆け寄ってくる。
彼女がほんの少し本気を出してこの威力なのだ。
全力でやられたらきっと今頃死んでたんだろうな…と、グラグラと揺れる視界の中でそう思った。
「さっきはすまなかった!つい、やってしまった!!」
意識が完全に目覚めてきたくらいに先代にそう謝られた。
「そう気にしないでくれ。俺だって変に挑発したのが悪いんだから」
まぁ……ある程度は自業自得だろう。
と言ってもあそこまで強いとは思わなかったのだが…ここの世界は
何かと外とは違うらしいな。
食事様式も、集落のことも…なにより人外的存在がいるということ。
しかし、妖怪やあやかしなんて呼ばれるそいつらも化け物みたいな風貌をしているわけではない。
俺と同じ…それどこらかあの時出会ったはずのあやかしは少女の姿だった。
少女の姿で俺を喰らったのだ。
でも、先代の力というのもそれ以上のものなのだろう。
これから教わるのはその力の引き出し方法、いわゆる…退魔の術だ。
「神馬、あなたの中にある霊脈を引き出すわ。背中を向けて」
「こうか?…冷…!?」
ピタリと背中に先代の手が乗っていた。急に付けるものだからなんか変な声もでるし…
しかし、先代は冷静な声で
「集中しなさい。一歩間違えれば自身の身を危険に及ぼすわよ」
と咎められた。
「…………、……。」
俺も再度気を引き締める。
ハッキリな話、霊脈が何なのか、そんなことは分からない。
だから俺に素質があるのかどうかも分からないのだ。
無ければないで他の戦術を考えるのだが。
そんなことを延々と考えている内に先代の手が俺の背中から離された。
「一応は出来たわ。と言っても一部だけだけど…どう?どこか変化はある?」
そう言われて身体を見渡すのだが、それといった変化は感じない。
「……特には感じないな。感じないとまずいのか?」
「いいえ、個人差もあるからあまり強くは言えないわ。まぁ……道場に戻る頃には変化がでてくると思うから。帰りましょうか」
「え?ここでの修行は終わりなのか?」
「修行というか、ここに来た理由はあなたの霊脈を開けるためだから、普段は道場とかでしか鍛錬はやらないわよ。…さぁ!あんた達も!道場まで走って帰るわよ!!」
そう言う彼女の声に、弟子たちも気合いの入った声で返事をする。
「それじゃあ頑張ってついてきなさい。行くわよ」
そう言って先代は先頭を走り始めた。
それに続いて、俺達も後を追う。
それからまた数時間、俺たちは山道を走るのだった……。
集落まで戻ってきた。どういう訳か、息がきれていない。
休憩をとった訳でもなく、ずっと走り続けて来ていたはずなのにも関わらず…俺のからだは全く疲れを感じていなかったのだ。
「お、戻ってきたわね。おかえり、どこか変化はあったかしら?」
道場まで着くと、先代が出迎えてれていた。
「ただいま。…今は疲れを感じないようになってる。」
「そう、それなら良かったわ。中におにぎりがあるから食べてきなさい。」
先代は特にそれ以上の反応を見せることも無く、そう言ってまた道場の前に立った。
「有難くいただくよ。」
俺もそう言って、台所まで向かって握り飯を食べることにした。
疲れていた身体に塩はとても合った…とだけ言っておこう。
『おまえ、ほんとに早いな!』
戻ってきたトアに真っ先にそう言われた。
「まぁ、調子が良かったからな。コンディションが良いとこんな感じだ」
なんて言ってみる。
後半は疲れを感じないなんて言う不思議なことも起こった調子が良いなんてレベルじゃないのだけども…
「よし、それじゃあ今日の修行はここまでよ。みんなお疲れ様、ご飯は用意してあるから着替えてから来なさい。」
そう言われて俺は弟子たちと一緒に着替えに向かう。
そこでも色々と会話をし、いかに先代が凄いか、ということについて聞かされた。
『空を飛んで妖怪を撃退した』 『死神と死闘を繰り広げ、退けた』
『異変をわずか30分足らずで解決させた』『彼女が現役の時、妖怪が問題を起こすことは目に見えて減った』
等など…どこか嘘っぱちのようにも聞こえるその話が、本当のことだと信じられるのだから、彼女の実力は凄まじい。
そして夕食を食べ終え、俺は自身の家に帰ろうと支度をしていると…
そこに先代がやって来てこう言った。
「少し夜風を浴びながら話しをしないか?君の力についてだ。」
俺は
「分かった。」
と答え、彼女について行くのだった。
はい。次回に続く!