「お嬢様、彼が戻ってきましたわ」
「そう。入りなさい」
部屋の中からそんな声が聞こえた。
「失礼します。」と言ってドアに手をかける咲夜に吸血鬼は
「入ってくるのは男の方だけで構わないわ」
と一言付け足した。
咲夜はそれを聞き、少し固まって俺の方を見た。
俺は黙って頷き、ドアを開き中へと入った。
「久しぶりね、よく帰ってきたと言うべきかしら……気分はどう?」
「…最悪だよ」
「そう?その割には結構満足そうにみえるのだけど」
「……何を…」
それはここに戻って来れたからだろう…と言い返してやろうと思ったが
続けて吸血鬼は
「人を殺して明日を生き抜く……それがこれまでの貴方。
その生き方が無くならなかったことに安堵してるんじゃなくて?」
「ふざけたことを…!俺は好き好んで……」
「人を殺していた訳ではないとでも?それなら貴方はここに手ぶらで帰ってきたでしょうね。それを好みとか……そういう言葉で片付けるのはどうなのかしら?」
「…………。」
「生きるために仕方なく……なんて言ってるけど、その時点で貴方は破綻してるのよ。……人間としての貴方はね。」
「……クッ…何が言いたいんだ…」
「そうね……今はやっぱりいいわ。その時になるまではまだ……そのままでいさせてあげるわ。」
吸血鬼は席から立ち上がり、こちらの方へと歩みを寄せる。
一歩…一歩とゆっくりと歩く姿に隙はなかった。
この場では彼女が一番つよい。
人である以上この事実だけはどれだけの奇跡が起きようとも覆ることはないのだ。
「それじゃあ、貴方の連れてきた人間を頂くわ」
パチンッーーと吸血鬼が指を鳴らすと、テーブルに俺が運んだであろう男が倒れていた。
首を落とされていて、既に分からなかったが…多分あの男で間違いないだろう。
「へぇ……まぁ体つきは普通かしらね…肉もついてて美味しそうよ?」
そう言って彼女は、男の首筋に牙を刺した。
吸血鬼の食事なんてものを見ることになるとは誰が思ったのだろうか。
血を吸われていく男の体はみるみるうちにしぼんでいき、気がつけば骨と皮だけに成り果てていた。
「……まぁ…これくらいかしらね」
食事を終えた彼女が最初に発した言葉がそれであった。
人を食すことになんら抵抗のないというのはその言葉だけで理解できるものだったのだ。
彼女がこちらの方に視線を向ける。
不味い……なにか…くる……?!
しかし、向けられたその目があまりに魅力的で、俺は動こうとも出来なかった。
「…折角だし…あなたのも……」
間合いを詰められ、そう耳元で囁かれた時…
俺の首筋から赤色の液体が飛散した。
「……グッ……?!」
思わずそんな声がでてしまう……。
だが、思っていたよりも胸に痛みを感じない…血は流れている筈なのに……?
俺はそれがわからなくて、吸血鬼を見た。
彼女は俺の血を舌で舐めながら、こちらを見ていた。
そして少し動きが止まった…かと思うと
「……また指示は出すわ。部屋に戻りなさい。……あぁそれと…胸の傷手当だけしておいて」
と。…その言葉に俺は従い、部屋を後にするのだった。
「今住神馬…」
まさか本当に連れてくるとは思っていなかった。
さすがに私の能力を偶然とは言え潜り抜けた男だ、侮ってはいられない。
でも、既に手は打った……彼が今後どれほど力を付けて私に挑もうとしても、最後の一手…私の命まではとれないように。
そんな呪いを彼に植え付けてある。
そして…彼が人間を用意してくれるのなら、私や咲夜の手を煩わせることも少しは減るだろう……。
「咲夜。」
「お呼びでしょうか、お嬢様。」
「彼にここでの生き方を教えてあげなさい。彼を歓迎するわ」
「本当ですか……?かしこまりました。それでは失礼します」
咲夜は嬉しそうに部屋から出て行った。
余程彼のことを好いているらしい……。
まぁ…その理由もわからなくはない……。
あの二人の運命はいつ見ても、結果が変わっていくのだ…。
「フフッ…、楽しませて頂戴よ?二人とも」
紅い悪魔はそう言って、静かに笑うのだった。
よし!チュートリアル終了!!
神馬は遂に生き延びることに成功したぞ!
次回に続く!