藤丸立香は魔法が使えない   作:椎名@大体pixivにいる

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「ッ走れ、ハーマイオニー!!」

 

 

 ハーマイオニーの手首を取って、立香はマスターとして培った判断力から地面を弾くようにして駆けた。フォウが立香を追う。さらにその後ろを棍棒を滅茶苦茶に振り回しながらトロールが追ってくる。レポート用の資料で見た通り、知能はかなり低そうだ。

 なんだってこんなところにトロールが。マシュの話では、トロールが現れるのは女子トイレの筈なのに! それとも、トリガーの条件は場所ではなく人物(ハーマイオニー)にあったのだろうか。

 

 

「ひっ──キャアアアッ」

 

 

 頭上スレスレを掠めた凶器にハーマイオニーがパニックを起こした。彼女の爪先が立香の踵を蹴ってしまい、二人は重なるようにして倒れた。咄嗟に受け身を取って、少女を抱き留めたまま少年は手を銃でも打つように組み換える。

 

 

「──ガンドッ!!」

 

 

 あくまでもカルデア戦闘服礼装による効果だが、藤丸立香が唯一使える魔術が炸裂する。一時、トロールが不自然な体勢で停止する。

 

 

「な、なに……」

 

『マーリンッ!』

 

 

 サーヴァントであるというのにマスターの危機に微笑んで立つだけの魔術師へと、怒りの念話を飛ばす。すると、当のマーリンは承知したとばかりに頷くと、マスターへとウィンクを飛ばし返した。────ハァ!?

 

 

「そろそろ真面目に──」

 

『ほら、来た来た』

 

 

 千里眼を有する魔術師の言葉の通り、来た。────ハリーとロンが。

 

 

「「ハーマイオニー!!」」

 

 

 ロンがトロールの腰へと掴み掛かる。さりげなく己の鼻を摘まんでいる。ハリーが杖を振り回してトロールの鼻穴へとその先をジャストフィットさせる。めちゃくちゃ痛そうだ。あと、物凄く不潔そうだ。

 思わずとトロールが取り落とした棍棒をロンが浮遊魔法(ウィンガーディアム・レビオーサ)でトロールの頭へとヒットさせて──事態はマシュの語った通りに終息した。

 

 

「無事かい、ハーマイオニー!?」

 

「なんだってコイツ、こんなところに……」

 

「ああ、ハリー、ロン……わたし……」

 

「リツカ、君までどうして?」

 

 

 腰の抜けたハーマイオニーを抱えながら立香がやいのやいのと少年二人にもみくちゃにされている間に、ようやっと教師の何人かが駆け付けてきた。先頭を走っていたマクゴナガルがキリリと目を釣り上げて、子供達の前へと立つ。

 

 

「これは、一体全体、どういうことなんです」

 

「待ってください、マクゴナガル先生。ハーマイオニーはトロールのことを知らなかったんだ」

 

「リツカもそうだよね」

 

「これは事故です!」

 

「それでは、トロール侵入にあたって各自寮にて待機するよう指示されたことを知っているあなたたち二人は、何故ここにいるのですか」

 

「それは……」

 

 

 活発でまだまだ幼い声が沈んでいく。懸命に正当性を訴えるも、結局老魔女の迫力にやりくるめられてしまうグリフィンドールの少年二人に、そっと立香が隣立つ。

 

 

「えーと、まず自分が迷子になっちゃったんです。で、それをハーマイオニーが探しに来てくれて。そのハーマイオニーを二人が助けに来たというか……なので、一連の原因に当たるのは自分ですね」

 

「「リツカ!」」

 

「……ハッフルパフのフジマル、ですね。あなたの“病気”については校長より伺っています。ハロウィーンのこの日に起きられたようでなによりです。最もハロウィーンらしい夜を過ごせたようですから」

 

 

 なんとも耳に痛い嫌味だったが、苦言をこぼす老魔女の厳しい顔付きには心配の色が隠れて見えた。それを読み取ってしまえば、お人好しの藤丸立香が彼女に悪感情など持てるはずもない。続いて脚を庇いながらやってきたスネイプは、立香とハリーの厄介者が揃い踏みしている現状に心から苦々しそうだったが。

 倒れ伏すトロールの両足を持ってクィレルがヒィヒィと引き摺っていく。それを見送って、子供達はマクゴナガルからの無慈悲な沙汰を神妙な顔付きをして待った。が、立香の証言もあり、此度の件は偶然と不幸が重なった結果の事故として寛容に処理される運びとなった。グリフィンドールもハッフルパフも寮点は無事だ。

 念の為、ハーマイオニーと立香に医務室へ向かうことを命じたマクゴナガルは、ナイトの如くハーマイオニーの側を離れようとしないロンとハリーに向かって去り際にぼやいた。

 

 

「友人想いも結構ですが、なりふり構わず飛び出す時は教師に一言言うように」

 

「「…………」」

 

 

 それは、つまり。勇気ある子供達のやらかしそのものには肯定的ということで。

 パチパチとロンのスカイブルーとハリーのエメラルドが見合う。そこにハーマイオニーのブラウンも交えて、三者はほんのり頬を紅潮させる。人種特有の白い肌はわかりやすく子供達の興奮を伝えている。一歩引いた場所で、三人組を立香とフォウとそして傍観者のマーリンが微笑ましく見守る。

 

 

「マクゴナガル、勝手することに関しては実は寛容だよな。後できっちり叱るけど」

 

「わたし、あの人がわたし達の先生でよかったって思うわ」

 

「同感」

 

 

 どうやら、ほんの数分前までは確かに阻むものがあったハーマイオニーと彼等の壁は、予定調和のトラブルによりすっかり溶けてなくなったらしい。ようやっと、マシュが待ち望み立香が願っていた主役トリオの姿になった。

 

 

「行こうぜ、ハーマイオニー。怪我してないなら、寮でハロウィンパーティーの続きをしよう。フレッドとジョージが夕食をこっそり持ち込んでるんだ。パーシーの石頭に没収される前にかき込まないと」

 

「君、夕飯食べてないだろう? 今日のパンプキンパイは絶品だよ!」

 

「え、ええ……ありがとう、ハリー、ロン。……リツカ、あの、」

 

「じゃあ自分はここで。思わぬ大冒険でオレも腹が減ってるんだ。あと、シャワーも浴びたいし」

 

「そうだ、リツカ、その格好はなんだい? 君、禁じられた森でランニングでもしてきたの?」

 

「……近いな」

 

「近いんだ……」

 

 

 ロンの軽口に軽口で答えて、お揃いの汚れ具合のフォウが肩へと戻ってきたのを確認した立香はそのまま三人へと手を振る。もうハーマイオニーは大丈夫だ、と胸を撫で下ろす。立香がいなくとも、己の意志で彼等と仲良くできるだろう。この先、ずっと。──そう、物語はえがかれているのだから。

 

 さて。無事にハッフルパフ寮へと帰還した立香のあんまりな有り様にまず悲鳴を上げたのはハンナ・アボットだ。次に、誰にやられたと息巻いて杖を取り出したのはジャスティンで、寮監を呼ばねばとダッシュを決め込もうとしたのはアーニー、スーザンはいざとなれば魔法法執行部部長の叔母の権力だって借りてやると素朴な瞳に闘志を燃やしていた。

 どやどやと仲間の敵討ちに立ち上がる後輩達をセドリックが懸命に宥める。しかしそのセドリックも、常ならば整ったかんばせに浮かぶ柔和な微笑みを引き締めて、立香を談話室へと縫い止めていた。

 

 

「大丈夫、本当に大丈夫だから。別に誰かにやられたとかじゃないから」

 

「リッカは身体が弱いし(「身体が弱いってなに!? そんな設定知らないけど!?」と思わず立香は叫んでいた。十一歳の肉体ながらに、彼の服の下の腹が実は六つに割れてるだとか彼等は知らないのだ)そのくせ遠慮するんだもの。あなたの大丈夫は信じられないわ」

 

「リッカ、君は僕たちの仲間なんだよ。そりゃあ、グリフィンドールのようになにがなんでも喧嘩だ成敗だなんて強気には出られないけど、理不尽を許すのはもっといけないことなんだ」

 

「そうよ、リッカ。仲間が虐げられて泣き寝入りするのを黙って見てるだけなんて、そんな卑怯ものはハッフルパフにはいないわ」

 

「な、正直に話せよ、リッカ」

 

「だから、あの、ホントにちがうんだって……誰にもなにもされてないよ……強いて言うならピーブズだよ……」

 

 

 過保護に詰め入る少年少女へと恥を忍んで白状すれば、途端に空気は間抜けっぽく弛緩した。誰もが「なーんだ、ピーブズか。それなら仕方ない」といった顔だ。ピーブズの悪さっぷりは、おっとり穏やかな人間が多いハッフルパフ寮にも例外なく届いているらしい。

 まさかピーブズの名前ひとつでこれ程の混乱にも収拾がつくとは。有り難いけど有り難くない。

 ともあれ、警戒網が緩んだ今がチャンスだとばかりに立香は寮生達の間を縫ってシャワー室へと飛び込んだ。フォウも一緒にわっしわっしと丸洗いし黒髪と白毛に艶を取り戻すと、これまた過保護な尋問隊に捕まる前にと自室へ避難する。ちゃっかりカリカリベーコンやらパイやらを咥えて着いてきたフォウに分け前を譲っていただく。

 ああ、まったく、ひどい目に遭った。そう、ベーコンを噛って愚痴る立香から諸々の経緯を聞いたマシュは堪えきれず笑った。それに対して「マシュが楽しんでくれたなら、今日一日の苦労も悪いものではなかったかな」と手の平返しする立香も大概だった。

 

 

「先輩に怪我がなくてなによりです」

 

「ガンドが二次世界にもきちんと通用するって判ったしね」

 

「ん。やっとトリオも成立したし、一応これでも第一歩ってことになるのかな」

 

「はいっ、とても大きな一歩です! お疲れ様でした、先輩」

 

 

 ホログラム越しとはいえ心から信頼するカルデアメンバーに囲まれ、ようやく立香は意図的に息をついた。ベッドの上、行儀悪く食料を並べて立香とカルデアだけの報告会という名の細やかなハロウィンパーティーが始まる。どこぞの増えるエリザベートがいないだけで、なんて平和なハロウィンなのだろうとパンプキンパイを平らげながら沁々する。ここに至るまでが既にトンチキのオンパレードではあったが。嫌な沁々リターンだ。

 

 

「──んあ、そうだ。グリフィンドールのトリオ成立ってことは、オレ、ハーマイオニーとあまり二人っきりにはならないほうがいいかな?」

 

 

 ふと、思い付きを口にする。ぽろっと立香の口端からタルト生地がこぼれる。それに、原作の知識を持つマシュが不思議そうに小首を傾げる。立香がこぼした屑に鼻を寄せていたフォウもマシュを真似て首を傾げている。なんという可愛いの二乗。

 

 

「だってさ、ハーマイオニーってヒロインだろ? てことは、最終的に主人公のハリーとくっつくだろ?」

 

「……ええと、」

 

「そう考えると、シナリオに首を突っ込むにしてもオレはロンと一緒にいるくらいが丁度いいのかな、て」

 

 

 立香に他意はなかった。ごくありふれた物語のプロットに男女の三角関係が組み込まれたとして、そこから最もチープな展開を彼なりに先取ってみたにすぎない。だがしかし、それにマシュは困り果ててしまった。

 だって、違うのだ。立香のそれは、かなり筋違いの心配だったりするのだ。

 

 

「あのう、先輩……先輩はハリー・ポッターシリーズの映画はご覧になられているのですよね。ちなみに、何作までですか?」

 

「えっ、うーん……よく覚えてないけど……でっかい蛇とか出てきた、気がする。で、ハリーが剣で戦うやつ」

 

「それはおそらく第二作目の『秘密の部屋』のラストですね。ということは……」

 

 

 マシュは悩んだ。善良なる読書家のマシュは苦悩した。何故なら、これを伝えることはそれ即ち────ネタバレなのだ!!

 ネタバレは悪! 人類悪にも匹敵する絶対悪! ミステリーものでもしも犯人を先にぶちまけるふてぇ輩がいたならば、問答無用で引っ叩いて記憶を飛ばしても許される。そう古より決まっている。作家サーヴァントだってイイ笑顔でゴーサインを出す。ちなみにマシュはかつてロマニに悪気なくネタバレをかまされて情緒の育っていない凍てつく表情のままに本の表紙でぽこすか彼の顔面を叩いたことがある。微笑ましい(熱心な読書家足るマシュにとっては笑い事でない)思い出の1ページである。

 さて、あの絶望を親愛なる先輩に己が与えるのか────生真面目で委員長気質かつ天然のマシュは頭を抱えた。実のところ、マシュとは反対に読書への情熱が欠片もない立香はネタバレオッケー・ザ・ライト勢なのだが、そんな人間がいるとすら思わないマシュは身を切られる思いで告げた。

 

 

「先輩……わたしはこれから、先輩に残酷なことを告げます」

 

「え、なになになに。どしたのマシュ、これそんな深刻な話だった?」

 

「はい、とてつもなく深刻です。ハーマイオニー・グレンジャーは……ハーマイオニー・グレンジャーは………………ハリー・ポッターと結ばれる運命にはありませんッ──!!」

 

「ナ、ナンダッテー!?」

 

「ハーマイオニーさんと結ばれるのはロンさんのほうなのです、ハリーさんはロンさんの妹のジニーさんと結婚するのです!」

 

「お、おお、そうなんだ……ごめん、ジニーさんが誰かオレまだよくわかんないけど……」

 

「ああ、言ってしまいました……! 必要とはいえ、わたしはなんて罪深いことを……先輩、マシュは悪いこです……ッ」

 

 

 ぐぅぅと拳を握って唸るマシュの尋常でない様子に、とりあえずノリには乗ってみたもののうちの後輩大丈夫かな、やっぱりストレス溜まってるのかな、とひっそり心配になる立香であった。

 

 

「当然、この展開にはファンの間でも賛否が分かれていまして──」

 

「マシュー、そろそろ脱線から戻っておいでー。私達はボーイミーツガールのデバガメする為にモニターしてるわけじゃないからねー」

 

 

 インドア派とアウトドア派の温度差ぐだぐだ空間からどうにか軌道修正を図ったのは、背伸びをしてまでマシュの肩に手を置いたダヴィンチだ。彼女とその隣に佇むホームズの眼差しは非常に生ぬるかった。可哀想に、マシュの頬は大人たちのゆるーくぬるーい視線を受けて真っ赤だ。だがしかし、常ならば後輩のフォローにすかさず回る立香はこのとき脱線に脱線を重ね、ある魔術師について考えていた。

 ──でも、マーリンのやつはそのデバガメがしたくてここにいるんじゃないかなあ。そういうところあるぞ、あのロクデナシ。ボーイミーツガールだいすきじゃないか、あのロクデナシ。

 そして連鎖的に、彼と交わした昼食後の会話を思い出す。現代を見通す彼の眼に、未来は映らないけれど────

 

 

「ホームズ」

 

「私としては、彼の著書の純然たるファンであるキリエライト君の味方を──うん? お呼びかな、マスター」

 

「あのさ、“未来が視えるからこそ視ない選択肢もある”──そう、マーリンが言ってたんだけど……これ、どういうことかわかる?」

 

 

 ふと、シオンも交えてネタバレが如何に害悪であるかについて結局盛り上がっていたダヴィンチ含むカルデアガールズも会話を止めていた。立香からマーリンの名前が出たからだ。マーリンの不可解な態度と行動については、未だカルデアの観察対象かつ調査課題の一つだった。

 質問に至るまでの経緯を冷静に立香から聞き出したホームズは、片眉を跳ねさせた後、涼しげに結論付けた。

 

 

「マーリンの言葉の真意はこうだろう────まず前提として、未来は不確定であるからこそ無限に枝分かれし可能性を生んでいく。これ等の非科学的、そして魔術的原理について、ミスター藤丸はある程度までエルメロイⅡ世の基礎講座を履修し終えているかな?──よろしい。では続けよう。この本来あやふやであるべき未来を、定められた者がこれが(・・・)未来(・・)だと理解した(・・・・・・)時、その他の可能性(えだ)が観測者によって剪定されてしまう事がある。つまり、未来視こそが事象(テクスチャ)を固定するウィークポイントと成り得る。第七特異点でのギルガメッシュ王の例を覚えているかな? 結果的に彼が視た(・・)ウルクの滅びは変わらなかった。過程はどうあれ、だ。そうだね、ミス・キリエライト」

 

「はい、ミスター・ホームズ。王が視た“滅び”の部分は強固に固定され、その歴史が揺らぐことはありませんでした」

 

 

 ギルガメッシュが『視た』ウルク崩壊と、ソロモンが『視た』人理焼却──第六特異点にてアトラス院のトライヘルメスからそれ等をカンニングしていたホームズはまだしも、ニュータイプのダヴィンチやシオン、ゴルドルフ新所長などはあくまでも記録として知るだけなので、マスターたる立香と共に第七特異点をその手その脚で駆け抜けたマシュが、ホームズの確認にはっきりと肯定を返す。

 

 

「えーと、つまり、未来があるからそれが視えるんじゃなくて、それを視たから未来が決定される──箱を開くまで生きてるのか死んでるのかわからない、シュレディンガーの猫とかそういうこと?」

 

「ん、待ちたまえ、藤丸君。藤丸君が今ニュアンスとして使用しようとしているシュレディンガー氏の論説は明確には皮肉であり、シュレディンガー氏が否定するコペンハーゲン解釈に基づいて生まれた誤用であるからして、此度の一例として挙げるには適さな──」

 

「ホームズ。そういうめんどくさいのは中断(カット)

 

「──と、すまない。シュレディンガーの猫とやらの誤用問題については、今においてはそれこそ蛇足だった。概ね、その解釈で構わないとも。だから義手の方で私の髪をもぎ取ろうとするのは止めたまえ、ダヴィンチ。それはアホ毛ではない。──話を戻そう。今回の例でいえば、原作という確定された未来、完全に示された終わりがある為に、まず、藤丸君が何をしようとも歴史の最終的な筋書きは変わらないはずだ。絶対に、最終回に向かって動く(・・・・・・・・・・)。──だからこそ、君の介入関係なくズレた箇所こそが特異点となる」

 

「…………」

 

 

 ホームズの断言によって、立香が懸念していた“藤丸立香の介入によるシナリオ進行妨害”の可能性はこうして呆気なく否定された。そうすると、次に浮かび上がるのはかの魔術師の目的だ。結局のところ問題はここに帰結するのだ。

 

 

「──マーリンは、オレになにをさせたいんだろう」

 

 

 半魔である彼の思考は、半分が人でありながら大幅に人外へと寄っている。それを立香はよく知っているし、あらゆる意味で彼と腐れ縁だったロマニ・アーキマンなんかは、文字通り彼を“ヒトデナシ”と呼んだ。求める結果の為の手段に、彼は魔術師らしく或いは人外らしく人道を含まないところがある。彼の弟子であった王が事ある毎に苦言するように──マーリンという夢魔は、信用には適さない。

 けれど──────悪じゃない。それだけは、胸を張って言える。そしてそれだけで、立香はマーリンを信じられるのだ。

 

 

「先輩……」

 

「──ンンーっ、よし! 目下の懸案事項であります『マーリンなに企んでるのよ問題』は今日も保留! てかよくわかんないから引き続き様子見続行! 結局ハーマイオニーはトロールに襲われたし、それをきっかけに三人は仲良くなれた訳だしさ、ホームズの推理通り今のところシナリオに特異点は見られないんだろ? だったら、もう少しだけ──オレ、ここにいたいんだ。彼等のことを、そばで見守らせてほしい」

 

 

 どことなく、不安の滲む懇願だった。この世界にいたいと望む立香のそれは、本来の世界に対する裏切りではないか──そう、思い詰め翳りそうになるマリンブルーへとアメジストが力強く頷く。

 

 

「マスターの方針に、わたしは従います」

 

 

 立香のベストサーヴァントであることを憚らないマシュが率先と後押しするものだから、立香とマシュが納得しているならばと他の面々も明るく了承した。否、一人は立場上渋顔を目一杯保とうとしていたが、そんなものは簡単に見抜かれてムニエルとダヴィンチからからかい倒されていた。今日もみんなのゴルドルフおじさんはめんどくさい癒し系であった。

 

 

「今回の報告会はここまでにしましょう。お疲れ様でした、先輩。ほんとうに、怪我がなくてよかった……どうか今夜はゆっくり休まれてください。それでは、おやすみなさい」

 

「うん。マシュもちゃんと休んでね。そっちとこっちでは時間の流れが違うけど──オレの連絡を待って徹夜とか、しちゃダメだからね。……おやすみ」

 

 

 はにかむ少女を最後に通信は途絶える。なにも映さなくなった端末を枕元に転がして、すっかり寝惚け眼のネコなんだかリスなんだか不思議な小動物を布団の中へと招き入れて目を閉じる。──────気配が、ある。

 花の香り。呪文を好まない、涼やかでほんのちょっと嘘っぽい声。額に触れる、剣だって杖だって握ってしまえるやさしい指。

 

 今日も今日とて、立香とカルデアを翻弄する夢魔の魔術師はやわらかに囁く。

 

 

「おやすみ、マイロード。────今宵も、よい夢を」

 

 

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