藤丸立香は魔法が使えない   作:椎名@大体pixivにいる

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完全に覚え間違いをしていたというか、未だに正解をわかってないのですが、霊体化したサーヴァントって契約したマスターから見えるものなのでしょうか…?
極稀に霊感が強い人間なら霊体化したサーヴァントのことも見えたりするそうですが、それなら零感だとたとえパスを繋いでいてもサーヴァントが霊体化するとマスター本人にも見えなくなってしまう…?
その辺りあやふやなまま書き切ってしまい、書き終えてから以上の違和感に気付きました。つまり手遅れです\(^o^)/

というわけで、当作品のぐだ男は自分のサーヴァントなら霊体化状態でも見えるという設定にしておいてください…にわかでごめんね。



藤丸立香は嗤わない

 

「ペアになって」──教師の悪意なきこの言葉に、一体どれだけの生徒が心に傷を負っただろうか。

 わかる人にはわかる死刑宣告を受けた立香は、おそるおそると周囲を見渡した。そうすれば、同じハッフルパフ生である生徒達は軒並み立香から目をそらした。──目をそらされた!! これは立香にとって非常にショックなことだった。今でこそ人類最後のマスター……否、『元』人類最後のカルデアマスターとして重宝される立場の立香だが、本来は平和ボケ国家日本でのんべんだらりと学生をしていた青年である。程々に友達を作って程々に学校に馴染んで程々に学業・部活と精を出して──平凡そのものであった彼は所謂“ボッチ”の状態を知らない。クラスメイトからの総無視(スカン)とか初体験なのである。

 

 ────プッ。ふと、向かいから悪意のこもった失笑が聞こえた。蛇の寮章に、シンボルカラーはグリーン。額を晒した大人ぶったオールバックをポマードで撫で付けて、同じ色の睫毛の奥には薄いグレーが嫌な笑みを作っている。マルフォイ(クソガキ)に思いっきり嘲笑われている。

 それはもう癪に障った。立香からすれば誰も彼もが自分よりうんと年下の子供だ。いくらマンドリカルドからコミュ力カンストマスターとおそれられる立香とて、看過できるものとできないものがある。

 

 

「あの!」

 

「わっ!?」

 

 

 隣のハッフルパフの少年へと体ごと向き直って腹から声を上げる。立香のやる気を補佐するように、フォウがフォウフォウと合いの手を入れた。ついでに、見えないことをいいことにうろちょろしてはフリットウィック先生の前で百面相していたマーリンも、それいけとばかり杖を振っていた。マーリンは後でしばく。

 金髪に茶色い瞳のあどけない少年は、立香の眼差しを受け止めるとなんだか意外なもの見るように目を丸くした。

 

 

「自分はリツカ・フジマルっていいます。君の名前を聞いてもいいかな?」

 

「……アーニー。アーニー・マクミラン」

 

「よし、アーニーな」

 

 

 すかさず握手催促のポーズを取る。先手必勝だ。こうすれば、奥手な日本人はともかく、大抵が応えてくれると立香は学んでいる。狙い通り、おそるおそると柔らかな手が立香の手を握り返す。──ヒュウ。物珍しい小人先生のところに浮気していたマーリンが、立香の側へと戻って音のない口笛を吹いた。やっぱり後でフォウくんと一緒にしばこう。

 

 

「オレ、魔法初心者なんだ。だから、一緒に学ばせてもらえると嬉しい」

 

「……君は、マグル出身なの?」

 

「マグル?」

 

「親が魔法族でない人のこと。僕は両親ともに魔法使いだから、純血なんだ。マクミラン家は聖28一族にも数えられてるんだから」

 

「聖……えーと……?」

 

「聖28一族がわからないの? あ、そっか……君、ジャパニーズだから…………よくホグワーツを選んだね……?」

 

 

 目の前の少年に憐れまれてしまった気がする。だがしかし哀しいかな、立香はこの手の反応には慣れている。なんたって、魔法初心者であれば魔術師若葉マークでもあるのだから。もしかすればカルデアでの先輩マスターとなったかもしれないカドック・ゼムルプスから当たり前の顔で「視力強化しろ」と言われてこちらも当たり前の顔で「ナニソレ」と返した件は記憶に新しい。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥だ。知らないことに対する恥じらいと躊躇は漂白された大地に置いてきた。

 

 

「……君さ、そんなだと苦労すると思うよ」

 

「うん。だから、アーニーや皆にも助けてほしい。自分一人じゃどうにもできないことが、これから先もたくさんあると思うから。……ひとまずは今、ペアになってもらえると助かるんだけど」

 

「……リチュ、……フジマルってかなり変わってるね。でも、僕、君のそういうところきらいじゃないな」

 

「はは、ありがと。呼びにくければリッカでいいよ。よろしく、アーニー」

 

 

 ぐっと少年の手を握り締める。さすがだなあ、藤丸くん。そんなマーリンのゆるっとした声が脳の中に残った。

 さて、一限目の呪文学を持ち前のコミュ力と人柄で切り抜けた立香だが、問題はその後に控えていた。教室を出てすぐの廊下に、憎たらしいおでこが立香を待ち構えるようにして立っていたのだ。すっかり立香をストレス発散の嫌がらせ対象にターゲティングしているドラコ・マルフォイ少年だ。

 

 

「おお、極東のイエローモンキーが出てきたぞ。人間のお友達ができたようでなによりだよ。そいつらには、君のサル語が通じるのかい?」

 

 

 ウキキッなんて猿の真似をして、後ろにくっつけた腰巾着二人や取り巻きのスリザリン生たちと共に軽蔑的に笑うマルフォイ。対する立香はそれはそれは冷静でいた為、実のところ滑稽に見えるのは猿真似をしているマルフォイ少年のほうだったりする。

 

 

「なんとか言ってみろよ、ジャップ。無名で無能のイエロージャップ! フジマルなんて名前、聞いたこともないと思ったら……お前、日本人の上に穢れた────」

 

「なにを言おうとしてるの、マルフォイ!」

 

 

 ふと、少女の声が冷たくマルフォイの言葉を切った。カナリアイエローのローブ──ハッフルパフの同級生だった。名前はわからない。金髪に三つ編みの少女と赤毛をお揃いの三つ編みにした少女、そして黒髪の少年が立香とマルフォイの間に立つ。

 

 

「それ以上一言でもリッカに余計な口をきけば、そちらとこちらの監督生、それからスプラウト先生にこの事をご報告するわ。だって、差別はいけないことだもの」

 

「……フン。頭の足りないお仲間がたくさんいてよかったねえ、イエロー? 間抜けな黄色同士、穴蔵でよろしくやればいいさ」

 

 

 相対人数の問題か、それとも自然と増えていたギャラリーの視線が気になったのか、分が悪いと認めたらしいマルフォイはなんとも情けない捨て台詞を残して腰巾着と共に次の授業へと向かった。一方の立香は、マルフォイに絡まれたことよりも同級生に庇われたらしい事実に困惑していた。あれ、オレ、嫌われてたんじゃ……? 思わず意味もなくマーリンを見つめてみれば、マーリンは満足げにニッコリしていた。どうしよう、オレのサーヴァントが今日も胡散臭い。

 

 

「大丈夫だった? リッカ。ごめんなさい、助けるのが遅くなって。スリザリンってほんと……悪い人たちではないらしいんだけど。まあ、ここから悪くなる人もいるわね」

 

「そう……なんだ……えっと、ありがとう。ごめん、名前がまだ、」

 

「わたしはハンナ。ハンナ・アボット。こっちはスーザンよ。それから彼がジャスティン」

 

「よろしくね、リッカ」

 

 

 代わる代わると握手を交わす。今朝や先程の授業とは打って変わって好意的な態度に、立香はまだ青い目をパチパチさせている。肩のフォウも一緒にパチパチしている。それを読んで、立香の隣にいたアーニー含め少年少女達は罰が悪そうに互いの顔を見合った。

 

 

「その……君、ほら、日本人だろう?」

 

「日本人はシャイな人が多いって聞くから」

 

「話し掛けたら妖精みたいに逃げちゃうって」

 

「恥ずかしいことがあると『ハラキリセップク!』だろう?」

 

「だから、どうしていいかわからなくて……」

 

 

 ──つまりは、嫌われていたのではなく、気遣いが故の腫れ物扱いだったわけだ。そこに、妖精の呪文学での微笑ましいやり取りを聞いて、認識を改めたのだろう。決してこの子供は繊細な小動物などではないと。

 

 

「これまでのこと、ごめんなさい。かわりに、みんなで守るわ。あなたのこと。さっきみたいに──人種がちがうってだけで差別する人はいるから」

 

「なに人だろうとどんな肌の色をしていようと僕らはホグワーツの仲間で、そしてハッフルパフの同志なんだ。ハッフルパフに選ばれる条件を知ってる? 勤勉で、献身的で、慈悲深くて──誠実! その通りにありたいと、僕は思う」

 

 

 ジャスティンが照れ臭そうに鼻を掻きながら宣言した。トトッと立香の首に巻き付いたフォウが甲高く鳴いた。──キャスパリーグの身を置く環境としても良さそうだ。マーリンは立香にも届かぬ声でそっと呟いた。

 

 

「ねえ、それ、その子! ずっと気になってたのよ! あなたのネコ? 触ってもいい?」

 

「きゃあ! とってもふわふわだわ! かわいいーっ」

 

「フォフォ、フォフゥーン?」

 

『ッあ! くうーっ、見たかい、藤丸くん!? あの憎たらしい顔! アイツ、私に向かって勝ち誇った顔を! ただかわいいというだけで! もふもふ具合なら私だって負けてないのに!』

 

『かわいいは正義だから……』

 

 

 立香以外に聞こえないことをいいことに、念話の無駄遣いをして喚き散らすマーリンをフォウと共にシラっと見る。オス……らしきフォウがマシュのマシュマロに包まれていたって非難されないのは、ひとえにフォウがかわいいからである。かわいいは全ての免罪符となるのだ。

 

 

「ねえ、フォウに散歩が必要なときはわたしのことも誘ってね。一緒に行くから。さあ、次は我らが寮監スプラウト先生の薬草学よ。ハッフルパフ生として遅刻はできないわ。行こう、リッカ!」

 

「フォーウ!」

 

 

 赤毛の女の子──スーザンに手を取られて走る。左右にはアーニーとジャスティンの男の子二人がついている。少し遅れてハンナがハッフルパフの仲間達を追う。

 自然と、笑っていた。心から。理不尽に燃やされ漂白されてしまった場所に置いてきたものが、ここにはあった。

 

 藤丸立香は、ホグワーツ一年生としての生活を歩み始めた。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 薬草学の授業はグリフィンドールとの合同だった。ちなみに呪文学はスリザリンとだ。先程の件でクラスメイトと打ち解けられた立香は、当然ハッフルパフの面々の中で作業をしようとして────

 

「リツカ、君はこいつを抑える役割をしてくれるかい? そのあいだにハリーが土を容れ替えるから。な、ハリー!」

 

「うん、やってみるよ。ロンはちゃんと子守唄を聴かせておいてよ。そのカエルのゲップみたいなやつじゃなくてね」

 

「トレバーよりは美声だろ!」

 

 

 ………………あれれー?? 何故だろうか、立香を囲んでいるローブのカラーは臙脂だし、寮章はグリフォンである。右の男の子の名前はハリー・ポッターだし、左の男の子の名前はロン・ウィーズリーだ。グリフィンドールのお騒がせ問題児二人に、立香はがっちりと捕らえられていた。ちなみに仲良くなった筈のハッフルパフの一年生達は、机を二つほど離した場所に固まって座っていた。逃げられた。

 

 

「聞いたよ、リツカ。さっそくマルフォイのやつに絡まれたんだって?」

 

「あいつ、嫌なやつだよね。僕のことも傷持ちだって散々バカにしたんだ」

 

「リツカもハリーも目立つからなあ。こいつは長い因縁になるぞ」

 

「ゲーッ。ゲロでも吐きそう」

 

「ゲーゲートローチいらずだ」

 

 

 植物よりも悪口に花を咲かせている少年達に代わって、立香は黙々と根を引っこ抜いている。無駄話に夢中になって本来の仕事を忘れる辺りが実に子供らしい。二人が気が付いた頃には、植木鉢の中のナントカカントカいう謎の植物は湯心地を堪能するおじさんのような顔で満足げに花を咲かせていた。周りの班に花まで咲かせている鉢はなかったので、なんとなく花の魔術師の影響がありそうだと立香はぼんやり考えた。

 

 

「まあ、あの子も根は悪い子ではなさそうだし」

 

「どうしてそう思うんだい?」

 

「んー……勘」

 

「勘か! それは大事だ」

 

 

 立香は思い出していた。まだ、誰にも褒めてもらえてないと泣いて殺された少女のことを。──殺された、筈だった。彼女は。立香とマシュの目の前で、無惨に。エーテルすらも融かす灼熱のエネルギーに焼かれて、涙も声も枯らして。

 どことなく、マルフォイ少年は彼女に似ている気がする。そんなふうに思う。根拠はないけれど────とどのつまり、『勘』である。

 

 

「リツカはきっとグリフィンドールに来るんだと思ってたのに──今わかったよ。確かに君はハッフルパフだ」

 

 

 ロンが肩をすくめて笑った。ロンの鼻にソバカスに紛れるようにして土がついているものだから、そんなロンを見てハリーも笑った。二現目の薬草学は、寮違いの友人を交えてなんとものんびりした時間となった。

 

 昼食休憩を取って、魔法史やら天文学やらを終えた午後最後の授業は変身学だった。レムレムレイシフト初日に出会った厳格そうな老魔女──ミネルバ・マクゴナガルが教壇に立つ。印象に違わず凛と授業への姿勢と注意を生徒達に聞かせている。ちなみに、この授業ではどこの寮とも合流することなく教室内はカナリアイエローのローブで埋まっていた。

 

 

「それでは、杖を持って──呪文はこうです」

 

 

 マクゴナガル女史が洒脱した腕使いで杖を振る。机上のマッチ棒が針へと変わる。華麗なお手本に教室中が沸く。

 

 ──さて。ひよっこなれどカルデア所属のマスターとなった立香は、今や一介の魔術師である。ペーペーであろうと。若葉マークだろうと。ひよこもひよこ、まだお尻に殻がついているようなものだろうと──魔術師だ。つまりは魔力を持っている。詳しいところはよくわからないけど、魔術回路……なるものもあるらしい。

 だがしかし、だからといって────

 

 

「リッカ、上手くいかないね。あ、安心しなよ。成功したのはアーニーだけだから。みんな仲間さ」

 

 

 凡人の立香が魔術ですらなく『魔法』が使えるなんてことは、天地がひっくり返ろうが神が墜落しようが有り得ないのである。なんなら魔術の段階から怪しい。

 あなたも家族です────じゃなかった、お前も仲間だとばかりに肩を叩いてくるジャスティンへと愛想笑いを返して、青い目がジットリと大きいほうの白毛玉を睨む。

 

 

『マーリン』

 

『私は考えたんだ、マスター』

 

『うん』

 

『霊体化は確かに便利だ。諜報してよし、護衛してよし、ストーカーしてよし、夢いっぱいの透明人間!──だけど、ここで問題がひとつ』

 

『すでに問題だらけだよ、ロクデナシ』

 

『霊体化していると、サーヴァントは無力になる』

 

『…………』

 

『つまり、魔術も使えない』

 

『…………』

 

『まあそこは、頼れる君のマーリンお兄さんだからね、無理を押せば幻術くらいなら掛けられるかもしれないけど……とても疲れる。ほんっとーーーーに疲れる。だってエーテル体で魔力を絞り出すとか、正気の沙汰じゃない。叶うならもっと楽な手段を取りたい』

 

『…………』

 

『と、いう訳なんだ、マスター。決して君のことを無視していたわけじゃあないのさ。それとも霊体化を解いてしまおうか。うん、なんだかそれもアリな気がしてきたぞう』

 

『────この! 役!! 立た!! ず!!!』

 

 

 立香の渾身の念話が炸裂した。何かを感じ取ったらしいフォウが「マーリン……シスベシ……フォウゥゥゥ……!」と唸った。

 なおマーリンはわかっていたようにケラケラと笑っている。立香の疲労感などお構いなしだ。

 勿論、立香とて本気でマーリンへと怒りをぶつけているわけではない。この、どこか懐かしいドクターの辛口を思わせる体当たりなコミュニケーションこそが、立香とマーリンが築いてきた絆だった。

 

 

『……わかった、他の方法を考えるよ』

 

『この授業も呪文学同様、素振りの練習だけならよかったのにねえ。まさか初日から実践とは。中々にスパルタなご婦人と見た。美人に似合わず──いや、ここは美人に似合って、かな?』

 

『……マーリン、まさか……マクゴナガルさんのご年齢も守備範囲内だったなんて…………夢魔ってやつは…………』

 

『藤丸くん? その誤解はいくら私でも笑えないのだけど? 藤丸くん??』

 

 

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