カナタとサメハダー(?)
この世は産まれながらにして不平等であると、
テレビで見るポケモントレーナー達のように、眩しく輝くような未来なんて、限られた人々にしか訪れないのだ。
「ぼ、ボクも仲間に入れてよ」
「えー、ダメダメ。だってお前ポケモン持ってないだろ?」
「カナタん家はビンボーだもんな。ポケモン買って貰えないなんてかわいそー」
「も、モンスターボールはあるもん!」
「でも空っぽだろ? おれたちの『ポケモンサッカー』やるんならポケモン持ってなきゃ」
「ドンマイ。ま、ポケモン買って貰えたら仲間に入れてやってもいいぜ」
「「「アハハハハ!」」」
母子家庭で収入は少なく、近所の幼馴染み達のようにポケモンを買って貰ったり捕まえて貰ったりして貰えず、同世代で唯一ポケモンを持っていなかった僕はいつも仲間外れだった。
ボールは買って貰えていたのだから親にポケモンを捕まえて貰えば良いと言う人も居るかもしれないが、貧乏な家にポケモン一匹養うような余裕は無く、また母はトレーナーでは無いためポケモンを捕まえる為のポケモンなんて持っていなかった。
世間では成人してすらいない子供のトレーナーも活躍していると言うのに、僕はその入り口にさえ立たせて貰えない。現実は、本来ならばまだ夢を見ていられる筈の子供に、夢を見させることを許さなかった。
「テッセンさーん、こっちは点検終わりましたよー」
「おお、流石に早いな。倍は時間がかかると思ってたが」
毎年多くのチャレンジャーが挑戦しに訪れるキンセツジムの中。チャレンジャーの進行を阻む仕掛けの点検を終えた僕は、雇い主である彼に報告しに歩み寄った。
「4年と半年以上こればっかりやってたらそりゃ早くもなりますよ」
「わっはっはっは! そりゃそうだ!」
「ちょ、テッセンさん痛いですってば」
そう言って大笑いしながらバンバンと僕の背中を叩いてくる、やたらと陽気なお爺さん『テッセン』。まるで威厳を感じられない彼だが、これでも此処『キンセツシティ』が誇るキンセツジムのジムリーダーだ。
ホウエン地方において電気タイプを使わせれば右に出るものは居ないと言われる程の使い手であり、電気をこよなく愛する彼はポケモンだけでなく精密機械にも精通している。若い頃はデボンコーポレーションの社長と共にエンジニアとして働いていた事があるとか無いとか。
「しっかしそうかぁ……お前さんがここで働き始めてからもうそんなに経ったか。カナタ、お前さんもあと少しで成人か」
「そうですね。あと一週間と二日で。とは言っても旅立つようなお金もポケモンも無いですから、この街に残るつもりですけど」
「………お前さんは、それで良いのか? もしトレーナーを志望するなら、ミシロタウンまで行けばオダマキ博士からポケモンを貰える」
「別に、僕に不満なんて無いですよ。この街は好きですし、テッセンさんから機械について沢山の事を教わった。誰もがポケモントレーナーを目指す必要なんて無い」
「ふむ………お前さんがそう言うなら良いが。おっと、話していたら時間がなくなっちまうな。次はいつものコレ、頼むぜ」
テッセンから渡されたのはサンプル採取用の棒状の機械と、『ボロのつりざお』に『バケツ』。
ここホウエン地方は海や温泉などの観光業によって発展してきた土地であり、色濃く残された美しい自然が売りだ。
しかし近年、外の地方から持ち込まれた『外来種ポケモン』が既存の生態系に影響を及ぼすとして問題となっており、各町のジムリーダーもこの問題にいち早く対処すべく、連携して行動を起こしていた。
今渡された三つのものは、外来種が入り込んだ、又は繁殖していないかを確かめる為の検査に使用する道具だ。検査には数が多く、更に繁殖能力の高い『コイキング』が選ばれ、各地点にて1日に100匹を対象に調査が行われる。今のところキンセツシティ周辺では外来種のコイキングは現れていないが、ムロタウン周辺で外来種とみられる個体が数匹確認されたという報告もあり、キンセツも気を抜いてはいられない。
「それじゃあ、行ってきますね」
「オウ! 間違ってもサメハダーだけは釣んないように気を付けろよ。わっはっはっは!」
「ボロのつりざおじゃサメハダーなんて釣れないですよ……」
いい加減なつくりの『ボロのつりざお』でも釣れるようなポケモンなんて、この辺りじゃ『コイキング』ぐらいのものだ。他の場所なら『トサキント』や『メノクラゲ』、『ヒンバス』なんて釣れるらしいが。
ジムを出た僕は街を出て、今日も多くの釣り人が訪れている海岸を訪れた。此処は河口も近く、上流からの栄養豊富な水が流れている事もあって沢山のポケモンが集まってきている。多くのサンプルを必要とする調査するにはもってこいの場所だ。
他の人々の邪魔にならない位置を確保すると、すぐにボロのつりざおを使って釣りを始めた。随分といい加減な様子に見えるかもしれないが、これだけ適当でも釣れてくれるのがコイキングの良いところだ。
十数秒ほど糸を垂らしていた所で、指先にピクリと震えを感じた。ボロのつりざおがしなり、ぐいぐいと力強く引っ張られ、僕は勢いよく釣りざおを引っ張ってポケモンを釣り上げた。
「まずは一匹目!」
宝石のように真っ赤なウロコをぴかぴかと光らせ、コイキングが宙に舞う。元気よく身体をくねらせ続けるソイツをキャッチした僕は、口から針を外して素早く棒状の機械をコイキングの身体にあてがった。
ピピッ!
音と共にコイキングの個体データがキンセツジムのパソコンに送られ、コイキングの身体の表面には検査済みの◎のマークがつけられる。正直この作業を毎日100回も繰り返すのは大変だったが、ポケモンの身体を傷付けないで検査を行うにはこれが一番良い方法。自分はポケモンと暮らすことは出来ないけれど、一人のポケモン好きとしてテッセンさんのこうした意向には共感している。
「コッコッコッコッ……」
「いきなりごめんね。検査協力ありがとう」
「コッコッコッコッコッ……」
検査が終わったコイキングはすぐに元いた場所へと逃がされる。この辺りの釣り人達の間でも、コイキングは釣ったらすぐ逃がすのが暗黙のルールのようで、手持ちのポケモンとして飼っているもの以外はすぐに逃がしていた。
随分と昔、カントー地方でコイキングを食べようとした人が居たそうだが、コイキングの身は殆ど骨ばかりで肉が無く、ロクに食えたものでは無かったらしい。そうした事も、やけにコイキングが優しくされる理由になっているのかもしれない。
それから暫く僕はコイキングを釣り続けた。日も暮れてきて、検査したコイキングは80を超えた。そして、あともう少しの辛抱だと再び釣糸を垂らし、食い付くのを舞っていたのだがどうも食い付きが悪い。今まで十数秒もあれば食い付いていたのに、一分を超えてもまだ食い付かない。
「どうしたんだ、突然……?」
その時、ピクリと竿が動いた。が、しかし、その動きは今までのような生物的な反応は見せず、ゆっくりと沖へと流されている。
「参ったな、海草にでも引っ掛かったかな」
そう思い、つりざおを引っ張って針に引っ掛かったものを手繰り寄せた。相手はコイキング達のように暴れたりしていないのに、手にかかる重さはコイキング達よりもずっと重い。
重さに負けないように全身で力一杯踏ん張り、岸まで近付いてきたと感じた瞬間、一気につりざおを持ち上げた!
「よい、しょっ! …………えぁっ!?」
そして釣り糸の先にぶら下がっていたものを見た瞬間、僕は恐怖と驚きのあまり変な声をあげてひっくり返ってしまった。
青い身体。
大きな口。
丸っこい身体つき。
見る者を威圧する背ビレ。
「さ、サメハダーだ」
テッセンさんの冗談が思い出される。まさか冗談ではなく本当に釣ってしまうなんて。
サメハダーはホウエンの海で最も恐れられているポケモンだ。最高時速120キロで泳ぎまわり、獲物と見れば何でも襲う。キバニアから進化する彼等はコイキングから進化するギャラドスと比べても個体数で圧倒し、場合によっては群れで襲ってくる事すらありたちが悪い。
勿論サメハダーが出現する海は遊泳禁止区域となっており、そんな所で泳いでいたり波乗りをしているトレーナーは余程の凄腕か、只の馬鹿だ。地上でもその凶暴さは健在であり、『飛行タイプ』を持っているギャラドスは兎も角彼等はジェットのような推進機構を利用して空を飛ぶ。最早B級ホラーもかくやといった様相だ。
とはいえ、活動がある程度制限される地上には、彼等は積極的に上がろうとして来ないのは幸いだが。
「ど、どどどうしよう。サメハダーなんて扱った事無いよ」
ただ不思議な事に、そのサメハダーはやけに傷付いてぐったりとしており、更に何故か小さな手足が生えていた。顔付きも普通のサメハダーと比べると若干穏やか?に見えなくも無い。
「サメハダーの外来種?なのかな?」
「………フ、フカァ」
困惑する僕の目の前で、サメハダー(?)は口から塩水を吐き出しながら弱々しく鳴いたのだった。
ヒロインって要る?
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カガリ
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ヒガナ
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ルチア
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ダ イ ゴ さ ん
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(いら)ないです