「マッタ!?」
「コァッ!」
身体の大きなマタドガスと、身体の小さなココドラ。『ギガインパクト』により勢いもついている中、技を使用せずにまともに攻撃を受けたココドラが耐えられるはずが無いと、そう思っていた。
しかし結果は予想を裏切り、ココドラはびくともせずにマタドガスの『ギガインパクト』を受けて、更に押し返してしまった。
「す、凄い……」
「フカァ……」
「ココココ!」
未進化のポケモンとは思えない程のタフネスと、磨き抜かれた勇気。
錆びだらけのその身体をギシギシと軋ませながら着地し、マグマ団達を睨み付けるココドラに思わず見とれてしまう。
「くそっ! もう一度、『ギガインパクト』!」
「ドガァァス」
「させないよ! ハリテヤマ『ねこだまし』、チャーレム『ねんりき』!」
「フォッファッ!」
「チャコォォ」
予想外の相手に大技を受け止められた事で、焦りを見せていたマタドガス。見るからに動きの悪くなったマタドガスにトウキの二体のポケモンの攻撃を避けることは出来ず、『ねこだまし』で怯んだ隙にこうかばつぐんの『ねんりき』を受け、洞窟の地面に叩き付けられてしまった。
「こ、コータス『こうそくスピン』」
「ユンゲラー、『サイコカッター』!」
「プテラ、『ストーンエッジ』!」
後方ではダイゴさんのメガプテラとマグマ団のポケモン軍団の対決に決着がつこうとしていた。凄まじい破壊音と共に吹き飛ぶポケモン達。技同士の競合いすら起こらず、圧倒的な暴力にマグマ団のポケモン達は次々に倒れていく。徐々に数を減らしていたマグマ団のポケモンだったが、メガプテラのストーンエッジによって遂に全滅した。
ジムリーダーにも匹敵するポケモンバトルの腕を持ち、考古学的な知識にも精通しており、その上メガシンカまで使いこなす。そんなダイゴさんがいったい何者なのかは未だにわからなかったが、味方として居てくれるならこれ以上に頼もしい事は無い。
「さて、大人しくお縄について貰おうかな」
「ぐぅ……強い……!」
「みんな、逃げるぞ!」
バトルに勝利した僕たちだったが、彼等を捕縛しようとした瞬間、モンスターボールから現れたドガース達に煙幕を撒かれて周りの景色が見えなくなってしまう。
「うっ、げほっげほっ」
「ゲホッ、くぅ……ひどいニオイだ」
「プテラ、風を起こして煙を払ってくれ!」
「ギャァァス!」
ダイゴさんのメガプテラが煙を流してくれたが、その時には既に彼等の姿は無く、逃げられてしまっていた。
幸いにも、捕らえられていたポケモン達やサメまる達は無事。マグマ団達を追いかけるよりも死にかけのポケモン達を助けることを優先し、僕とトウキさんは捕らえられていたポケモン達の縄をほどいて『げんきのかけら』を与えていく。高価な『げんきのかけら』は旅立ちの前にテッセンさんから貰った分しか無かったが、命と引き換えには出来ない。持っていた分を全て使いきり、ポケモン達に元気を取り戻させた。
元気になったポケモン達は、自分達を傷付けてきたマグマ団と同じ人間の僕らを睨み付けるとすぐに逃げていく。感謝なんてされないのはわかっていたが、ああもストレートに憎悪をぶつけられると悲しい気持ちになる。
『ま、マグカルゴ……』
ボロボロになったマグカルゴを、涙を流しながら抱き締めたあのマグマ団を思い出す。
間違いなくポケモンを心から愛していた彼等が、何故ポケモンを傷付けたのか。彼等の目的とは、結果的にポケモン達に何をもたらすのだろうか。今回の彼等の行為は間違いなく悪人のそれであったが、彼等一人一人は根っからの悪人と言う訳では無いのではないのだろうか。
「よし、これで捕まえられてたポケモンは全部逃がしたかな。あとはダイゴの方のボスゴドラだけど……」
「あれ、様子がおかしいな」
ポケモン達を逃がし終えた僕らはダイゴさんと野生のボスゴドラの方を振り向くが、依然としてボスゴドラは力無く倒れ付したまま。ひび割れた外殻の中に『すごいキズぐすり』を吹き掛けながら、大きな声で呼び掛けるダイゴさんの声にもまるで反応していない。
目を閉じたボスゴドラの顔の前では、あの錆び付いたココドラがまるで「目を覚ませ」と言っているように頭をコツコツとぶつけている。
「ダイゴさん! ボスゴドラは……」
「うーん……かなり不味い状態だ。怒りの余りに身体の限界を越えて暴れ続けてしまったらしい。体力を消耗し過ぎたせいで身体を治す力さえ残っていないみたいだ」
「そんな、それじゃあ」
「このままだと、このボスゴドラは死ぬ」
気を失い、弱々しく呼吸するボスゴドラを前に彼の眉間には深いシワが刻まれる。視線を感じ足元を見ると、ココドラが「もう助からないのか」と言いたげに目に涙を浮かべて此方を見つめていた。
「フカ、フカ」
「ココォ……」
「フカシャ、シャシャッ!」
「コォ……」
「絶対に助かるから大丈夫だと」言うように、短い腕をブンブン振り回しながらサメまるが彼を元気付けようとするが、ココドラはぐったりと項垂れてしまう。
此方の様子に気が付いたのか、ダイゴさんも元気無く項垂れているココドラを見下ろす。
「錆びだらけ………このココドラがキミの話していたココドラだね?」
「はい……」
「ふむ。この子も少し気になるから見せて貰うよ」
そう言うとダイゴさんはその場にしゃがみこんで、錆びだらけのココドラの背中を手で触り始めた。ココドラもいきなり身体を触られた事で一瞬だけダイゴさんを見るが、抵抗する気力も無いのか大人しくしている。ダイゴさんは頭、背中と順に触っていき、外殻のフチを触った所で固まった。
「オイ……キミ、無理矢理進化を止めていたな?」
「……コッ」
「え? 進化を、止めてた?」
攻めるような彼の言葉にココドラはばつが悪そうにそっぽを向く。ダイゴさんはココドラから手を放して立ち上がると、未だに動かないボスゴドラを見る。
「本来ならば剥がれ落ちている筈の古い殻が何層にも積もって残ってる。それが新しい殻と癒着して、進化の妨げになっているんだ。年齢的にはこのボスゴドラと同じぐらいだと思うよ」
「野生でそれって、かなりの歳なんじゃ」
「ああ、確実にボクや君よりも年上だろうね。しかし……この様子だとどうやらこのボスゴドラと兄弟?なのかな」
「兄弟………だからこんなに心配してたのか。もしかして、ココドラの方がお兄さんなのかな」
ボスゴドラは一匹につきおよそ山一つ分を縄張りにするポケモンだ。一つの縄張りに複数体のボスゴドラが居れば、他のポケモンが逃げていったりボスゴドラ同士での争いが起こる可能性がある。
いくら兄弟だと言えど本能からの争いが起きてしまう事を予想し、そうした周囲への影響を考えてこのココドラは進化をしないと言う道を選んだのだろう。本来ならばココドラは古くなった殻を岩などに擦り付けて落とすのだが、それをせずに進化を無理矢理抑え込むなんて並みの神経じゃない。
「強い子だな。でもこのまま放置しておくとボスゴドラだけじゃなく、ココドラの命も危ない。しかしココドラはともかく、ボスゴドラだとポケモンセンターまで運ぶのも難しいしどうしたのもか」
「一度ボールで捕まえてからポケモンセンターに連れていくと言うのは、出来ないんですか?」
「うーん、既に捕まえてあるポケモンなら大丈夫なんだけど、野生のポケモンだとボールに入れる事で負担がかかってしまう場合があるからね。『ひんし』のポケモンにボールが反応しないのはそれが理由なんだ」
「そうだった……なんでこんな初歩的な事を忘れてたんだろう」
全ての種類のモンスターボールには、『既に誰かにゲットされているポケモン』または『ひんしになった野生のポケモン』に反応しないという機能がつけられている。前者は単純に、モンスターボールが反応した所で既にゲットされているポケモンには必ず弾かれるからという理由なのだが、後者は違う。
人間によってモンスターボールに捕まえられる。この行為に対して、殆どのポケモン達はトレーナーの力量を図るという目的で激しく抵抗する。ポケモンが認めなければボールは弾かれ、壊れて使えなくなってしまう。
逆に、ポケモンがトレーナーを認めればボールの中に収まってくれるのだが、この際にもポケモンは体力を消耗する。モンスターボールの中という慣れない環境に適応させる為、ポケモンに対して様々な処理が加えられるのだ。ゴージャスボールやヒールボールなら、ある程度その負担は小さくなるらしいが、そんな高級ボールなんて僕は持っていない。ダイゴさんやトウキさんも今は持ち合わせが無いらしく、どうするべきか頭を悩ませていた。
「どうにか固い外殻を貫いて注射できる器具があれば……」
「直接体内に薬を?」
「いや、げんきのかけらを砕いてから水に溶かして、それをポケモンの体内に流し込むっていう治療法があってね。身体を治す体力が無くてもげんきのかけらが勝手に身体を修復してくれるから、コイツが出来ればひとまず持ち直す事は出来ると思うんだけど、機材が無いな……」
「ボスゴドラの外殻を貫く注射針なんて……」
「ポケモンセンターに行けばあるんだが、持ち運びが出来るかと言うと難しくてね」
それじゃあ、どうしようも無いじゃないか。
そんな言葉が口をついて飛び出しそうになった瞬間、脳内に電流が走った。
「………作れるかな?」
「何だって?」
「ちょっと待ってて下さい。有り合わせの物でちょっと作れないか、確認してみます」
リュックを開き、中にあるものを確認する。旅に出る時、テッセンさんがキンセツジムで使っていた工具と、彼がジムチャレンジ時代に使っていた物をいくつか譲ってくれていたのだ。彼がジムチャレンジをしていた頃は本来『なみのり』や『いわくだき』を使う筈のルートを自作の乗り物や機械で突破し、悪い意味でリーグ運営から目をつけられていたとか。
もちろん貰った道具は旅先で使えるぐらいの大きさの物だけだが、どの道具もテッセンさんが自作した一般に出回らない特殊なものばかりで便利だ。正規品と規格が合わなくて使い物にならなくなる、なんて事もしばしばだが……
「これなら………材料は手元にある分で足りるから、うん、出来ます!」
「本当かい!? どれぐらい時間がかかる?」
「ええと、3時間くらいは……」
「ならその間はなんとか持ちこたえさせよう」
ダイゴさんがボスゴドラの看病へと戻り、トウキさんは来て貰えるかは不明だがジョーイさんを呼びに洞窟の外へと駆けていく。僕も早速リュックから道具と材料を出して並べ、作業に取り掛かり始めたのだった。
それから数時間後。
結局、ジョーイさんは重傷のポケモンが多かった事からポケモンセンターを離れる事が出来ず、ボスゴドラの元まで来ることは出来なかった。しかしトウキさんは治療に必要な生理食塩水と注射器をポケモンセンターから貰ってきて。ダイゴさんの看病のかいあって、ボスゴドラは瀕死の状態でありながらこの長時間を耐えてくれていた。
「………出来た!」
「待ってたよ! じゃあ早速……」
リュックの中に他の金属材料と共に入っていた細い金属棒、それを少しずつ削り出した。本来ならば大掛かりな機械を必要とするそれを、その場の道具だけで時間をかけて加工して、そうして出来たのは極細のドリル刃。
「これ、折れたりしない……?」
「大丈夫だと思います、多分」
テッセンさんは『でんきタイプ』使いだけあって、機械のような身体を持つポケモンの世話もよくしている。コイルのような鋼の身体を持つポケモンの治療を自分でする時、使っていたのは僕がいまこの針を作るのに使った金属と同じものだ。細くてもボスゴドラの外殻に穴を開ける事ぐらいならば可能なはず。
まずドリル刃をドリルの先端に装着し、ダイゴさんが指示した場所に慎重に穴を開けた。血管に到達したのか少し血が滲み出て来るが、それをタオルで拭き取りながら、今度はドリルを抜いてその穴に注射器を刺す。そして、あらかじめダイゴさんとトウキさんで作ってくれていた『げんきのかけら』を溶かした生理食塩水をボスゴドラへと流し込んだ。
「これで、大丈夫なんですか?」
「おそらくはね。すぐには効かないが、40分もすれば元気を取り戻すはずさ」
「ふぃ~、安心したぜ。そんじゃ、俺は借りてきたモン返してくるよ」
最後にボスゴドラに開けた穴に詰め物をして、トウキさんはポケモンセンターから借りてきた道具を返しに一足先にムロの町へと戻っていった。
ボスゴドラの横で、ココドラは心配そうにボスゴドラを眺めていたが、僕たちによる応急処置が済んだのを確認すると此方へと歩み寄ってきた。
「ココ」
「さて、あとは君のサビを落とさなきゃな」
「ココ」
ココドラは少し考え込む仕草を見せた後、静かに頭を横に振った。
「『嫌だ』って? でも、そのままだと命に関わるんだよ。何回も助けられたんだ。僕は君を死なせたくない」
「カナタ君の言う通りだぞココドラ君。死んでしまったら元も子もないんだ」
「ココ………」
僕とダイゴさんがそう言うと、ココドラは困ったように眼を細め、眠るボスゴドラの横に座り込んでしまった。
「ココドラ……」
「思ったよりも、彼の中では複雑な問題のようだね。彼を生かそうとする事は、僕らの勝手な善意の押し付けかもしれない。彼の選択を待つことにしようか」
黙りこくってしまったココドラ。
僕とダイゴさんは、ボスゴドラが目覚めるまでの間洞窟の中で待ち続けた。
ボスゴドラが目覚めたのは、それから一時間と少し経った後だった。
・ダイゴとプテラ
プテラはORASの二回目以降のチャンピオン戦からダイゴの手持ちに入るポケモンです。バトルハウスでも引き続き『メタグロス』と並んで使用されていた事から、ダイゴの中でも特にお気に入りかつ切り札的なポケモンの一体なのではないかと予想しました。
前回ダイゴがプテラをメガシンカさせたのは、ゲームで主人公と初めて共闘した際に繰り出されたのは『メタング』だった事から、メタグロスへと進化するまでは本気のダイゴの切り札として『メガプテラ』を使用していたのではないかと言う妄想から生まれた設定です。
・現在の味方側の手持ち
サメまる(フカマル) Lv.23
りゅうのいぶき・アイアンヘッド・すなじごく・げきりん
トウキのハリテヤマ Lv.40
ねこだまし・つっぱり・きつけ・はっけい
トウキのチャーレム Lv.40
ねんりき・とびひざげり・みきり・かみなりパンチ
ダイゴのメガプテラ Lv.77
ストーンエッジ・じしん・ほのおのキバ・かみなりのキバ
ヒロインって要る?
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カガリ
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ヒガナ
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ルチア
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ダ イ ゴ さ ん
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(いら)ないです